新本郑氏周易
『新本鄭氏周易』は全部で三巻、本朝(清)の恵棟が編纂したものである。恵棟は字を定宇といい、江蘇長洲県の人。これに先立ち、宋代の王応麟が後漢の…
易経易学典籍
術数への応用を目指すなら、まず六十四卦の卦爻辞と《説卦伝》の取象に親しむ。義理を目指すなら《繋辞伝》から入るのがよい。
提要
《新本鄭氏周易》三卷,國朝恵棟編。棟字定宇,長洲人。初王應麟輯鄭元易注一卷,其後人附刻玉海之末,雖殘章斷句,尚頗見漢學之崖畧。於經籍頗為有功,然皆不著所出之書,又次序先後間與經文不應,亦有遺漏未載者。
『新本鄭氏周易』は全部で三巻、本朝(清)の恵棟が編纂したものである。恵棟は字を定宇といい、江蘇長洲県の人。これに先立ち、宋代の王応麟が後漢の鄭玄(書中では避諱して「鄭元」と作る)の散佚した『周易注』を一巻に輯め、その後人がこの一巻を『玉海』の巻末に附刻した。その輯本は残欠の篇章・断裂した句子しか残っていなかったが、それでもなお漢代経学の大体の輪郭をかなり見せるもので、古代経籍の整理に大きな功労があった。ただしそれにもいくつかの欠点があった。輯めた条目がいっさいどの書から採ったかを注記していないこと、条目の前後の配列が『周易』経文の次序と合わないことがあること、さらに鄭玄の旧注のうち収録されずに漏れたものがあったことである。
棟因其舊本重為補正,凡應麟書所已載者,一一考求原本,注其出自某書。明其信而有徵,極為詳。核其次序先後,亦悉從經文,釐定復搜採群籍。上經補二十八條,下經補十六條,繋辭傳補十四條,說卦傳補二十二條,序卦傳補七條,雜卦傳補五條。移應麟所附易贊一篇於卷端,刪去所引諸經正義論互卦者八條,而別據元周禮臣太師注作十二月爻辰圖,據元月令注作爻辰所值二十八宿圖附於卷末。以駁朱震漢上易傳之誤。雖因人成事,而考核精宻實勝原書。應麟固鄭氏之功臣,棟之是編,亦可謂王氏之功臣矣。
恵棟は王応麟の旧輯本に基づいて改めて補充・訂正を加えた。王氏の書にすでに収録された条目については、彼は一つ一つ原初の出典を追跡し、その条がどの書から採られたかを注記して、信頼できて根拠があることを人に示し、きわめて詳細を尽くした。条目の前後の次序も、すべて『周易』経文の順序に従って改めて釐定した。そのうえ広く各種の古籍を渉猟して増補を加え、上経に二十八条、下経に十六条、『繋辞伝』に十四条、『説卦伝』に二十二条、『序卦伝』に七条、『雑卦伝』に五条を補入した。彼はまた、王応麟が書の後に附した『鄭氏周易賛』を全書の巻首に移し、王本が引く各経『正義』のうち「互卦」を論じた八条を删去し、別に鄭玄の『周礼・春官・太師』注に依拠して『十二月爻辰図』を作り、鄭玄の『礼記・月令』注に依拠して『爻辰所値二十八宿図』を作り、あわせて巻末に附して、宋人朱震の『漢上易伝』の爻辰の問題における誤りを駁正するのに用いた。この書は前人次第の既成の成果に接続して成ったものとはいえ、考訂の精密さは確かに原本に勝る。王応麟は固より鄭玄の功臣だが、恵棟のこの編もまた、王応麟の功臣ということができよう。
鄭氏周易賛
易之為名也,一言而函三義。簡易一也、變易二也、不易三也。故繋辭云:乾坤其易之縕耶。又曰:易之門戶耶。又曰:夫乾確然示人易矣。夫坤隤然示人簡矣,易則易知,簡則易從。此言其易簡之法則也。又曰:其為道也。屢遷,變動不居,周流六虛,上下無常,剛柔相易,不可為。典要唯變所適,此言從一作順時變易,出入移動者也。又曰:天尊地卑,乾坤定矣。卑髙以陳貴賤位矣,動靜有常剛柔斷矣。此言張設佈列,不易者也。據茲三義,而說易之道廣矣,大矣。
「易」という名称は、一字のうちに三層の意義を含んでいる。一は「簡易」、二は「変易」、三は「不易」である。それで『繋辞伝』は「乾坤はほぼ『易』の蔵する根本であろう」と言い、また「乾坤はほぼ『易』の門戸であろう」と言い、また「乾は剛健堅定で、平易という一面を人に示し、坤は柔順緩徐で、簡約という一面を人に示す。平易だからこそ知られやすく、簡約だからこそ遵行されやすい」と言う——この数句が講ずるのはまさに「簡易」という一層の法則である。『繋辞伝』はまた「『易』は一つの道理として、たびたび遷移するものである。変動して一処に留まらず、六爻の虚位のあいだを周流し、あるいは上りあるいは下り定まるところなく、剛爻と柔爻とが互いに入れ替わり、固定の準則として立てることはできず、ただ変化に随ってゆく」と言う——この数句が講ずるのは、時勢に順って変易し出入移動するという一層である(「従時変易」は一本に「順時変易」と作る)。『繋辞伝』はまた「天は上にあり地は下にあり、乾坤の位分はこれで定まる。低きも高きもいったん陳列すれば、貴賤の位次は分かれる。動と静とには各々常の規則があり、剛と柔とは判然として分かれる」と言う——この数句が講ずるのは、天地万物が張設布列して各々その位に安んじて移り易えないという一層である。この三層の意義をもって『周易』を講説すれば、「易」の道理は広博弘大となるのである。
巻上
乾(けん)
九二,見龍在田,利見大人。 二於三才為地道,地上即田,故稱田也集解。九二利見九五之大人正義。 九三,君子終日乾乾,夕惕若厲,無咎。 三於三才為人道,有乾徳而在人道,君子之象集解。惕,懼也釋文。 九五,飛龍在天,利見大人。 五於三才為天道,天者清明無形,而龍在焉。飛之象集解。
乾卦の九二の爻辞、「龍がすでに田野に現れた。大人を見るに利あり。」鄭玄の注:六爻は天・地・人の「三才」に配され、第二爻は「地道」に属する。地の上面が田であるから、爻辞は「田」と称する(『周易集解』に見える)。ここに「大人を見るに利あり」と言うのは、九二が君位に居る九五の大人を見るに利あることを指す(『周易正義』に見える)。九三の爻辞、「君子は終日勤勉して懈らず、夜に至ってもなお警戒戒惧し、危境に処るも過失に至らない。」鄭玄の注:第三爻は「三才」のうち「人道」に属し、乾の剛健の徳を具えて人の位に処る、まさに君子の象徴である(『周易集解』に見える)。「惕」の字は畏懼と訓ずる(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞、「龍が飛騰して天上にあり。大人を見るに利あり。」鄭玄の注:第五爻は「三才」のうち「天道」に属する。天は清明にして形体なく、龍はその中に活動する。これが「飛」の取象である(『周易集解』に見える)。
上九亢龍有悔 堯之末年,四凶在朝,是以有悔。未大凶也正義。 用九,見群龍無首,吉。 六爻皆體乾一作龍,群龍之象也。舜既受道道一作禪,禹與稷、契咎繇之屬,並在於朝後漢郎顗傳注,班固傳注。 萬物資始乃統天。 資,取也。統,本也釋文。 大人造也造,徂早反。 造,為也釋文。
上九の爻辞「亢龍有悔」(龍があまりに高く飛んで悔恨を生ずる)、鄭玄の注:これは唐堯が位に在った末年に、共工・驩兠・三苗・鯀という「四凶」がなお朝中に蟠踞していたようなものだから「有悔」と言う。ただし悔があるだけで、大凶に至るほどではない(『周易正義』に見える)。用九の爻辞、「一群の龍が首を居らないのを見る。吉。」鄭玄の注:乾卦の六爻はみな乾を以て体とする(「体乾」は一本に「体龍」と作る)、まさに群龍が並び現れる象である。これは虞舜が堯の禅譲を受けた後(「受道」は一本に「受禅」と作る)、大禹と后稷・契・皐陶という一連の賢臣が同時に朝にあり、人人みな賢であって自らその首に居る者がないようなものである(『後漢書・郎顗伝』注、『後漢書・班固伝』注に見える)。『彖伝』の「万物资始乃統天」に、鄭玄の注:「資」は取と訓じ、「統」は本と訓ずる(『経典釈文』に見える)。『文言』の「大人造也」、、「造」の字の読みは徂早反、鄭玄の注:「造」は作為と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
文言傳附。 君子體仁,足以長人。 體,生也文選二十四。 不成名釋文。 當隠之時,以從世俗。不自殊異,無所成名也集解。 確乎其不可拔。 確,堅髙之貌。拔,移也釋文。 閒邪以存其誠□通晁氏云。 君子進徳,修業及時,故無咎同上。 聖人作。 作,起也釋文。 亢龍有悔,窮志災也同上。 利貞者,情性也漢上易,晁氏同。 乾始而以美利,利天下晁氏云。
以下は『文言伝』の諸条の鄭注を附録する。「君子体仁、足以長人」に、鄭玄の注:「体」は生養と訓ずる(『文選』李善注巻二十四に見える)。「不成名」の一句は、鄭本はこのように作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:隠退すべき時に処すれば、世俗に順って行い、意を用いて自ら人と異なることを標榜せず、それゆえ名声を成すことがない(『周易集解』に見える)。「確乎其不可抜」に、鄭玄の注:「確」は堅実にして高峻なる貌、「抜」は移動と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「閑邪以存其誠」の一句は、晁説之の引く鄭本は此処に一字残缺して辨え難い(元は「□通」と作る)。「君子進徳修業」に、鄭玄の注:君子は徳行を増進し功業を修治するにいずれも時に及んで機を失わず、それゆえ過失がない(同上)。「聖人作」に、鄭玄の注:「作」は興起と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「亢龍有悔」に、鄭玄の注:その志を窮極すれば災禍を招く(同上)。「利貞者、情性也」、鄭本はこのように作る(朱震『漢上易伝』に見え、晁説之の記すところも同じ)。「乾始而以美利、利天下」、鄭本もまたこのように作る(晁説之の記すところに拠る)。
坤(こん)
履霜堅氷至。 履,讀為禮釋文。 馴致其道。 馴,從也釋文。 六二,直方。 直也,方也,地之性。此爻得中氣,而在地上,自然之性,廣生萬物,故生動直而且方禮記深衣正義。 龍戰于野。 聖人喻龍,君子喻蛇儀禮注 蛇龍君子之類。 必有餘殃。 殃,禍惡也釋文。
坤卦の初六「履霜堅氷至」に、鄭玄の注:「履」の字は「礼」と読む(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「馴致其道」に、鄭玄の注:「馴」は順従と訓ずる(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「直方」に、鄭玄の注:正直・方正はもとより大地の本性である。この一爻は下卦の中に居って中和の気を得、また地面の上に処り、その自然の本性に順って広く万物を生育するから、それの生発する動向は正直にして方正である(『礼記・深衣』正義に見える)。上六の「龍戦于野」に、鄭玄の注:龍を以て聖人に譬え、蛇を以て君子に譬える(『儀礼』鄭注に「蛇・龍は君子の類」との説がある)。『文言』の「必有餘殃」に、鄭玄の注:「殃」は禍害悪事と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
為其慊於陽也釋文謂鄭作謙,訛,故稱龍焉。 慊,讀如群,公溓之溓。古書篆作立,心與水相近,讀者失之,故作慊。溓,雜也。陰謂此上六也。陽謂今消息用事,乾也。上六為蛇,得乾氣,雜似龍詩,采薇,正義。
『文言』の「為其嫌于無陽也」に、鄭本は「為其慊于陽也」と作り(『経典釈文』は鄭本が「謙」と作ると言うが、それは伝写の誤りである)、下に「故に龍と称す」と接続する。鄭玄の注:「慊」の字は鄭国の大夫群公「溓」の「溓」と読むべきである。古書の篆体では「立心」旁と「水」旁の形が相近く、写し取る人が弁別できず、したがって誤って「慊」と写した。「溓」は混じり合うの義である。ここに言う「陰」は坤卦の上六爻を指し、言う「陽」は消息卦に拠るその時用事している乾卦を指す。上六はもと取象を蛇とするが、乾の陽気を混じえたため、龍のようになった。それゆえ爻辞は「龍戦于野」と称する(『詩経・小雅・采薇』正義に見える)。
屯(ちゅん)
天造草昧,宜建侯,而不寧。 造,成也。草,草創。昧,昧爽也文選注三十六。而,讀曰能。能,猶安也釋文。 君子以經論。 謂論,撰書禮樂,施政事釋文,正義曰劉表、鄭玄 以綸為論字。 六二,乗馬般如。 馬,牝牡曰乗釋文。 匪冦昏冓。 冓,猶會也釋文。 君子機不如舍。 機,弩牙也釋文。 以從禽也從,於用反,釋文。
屯卦の『彖伝』「天造草昧、宜建侯而不寧」に、鄭玄の注:「造」は成就と訓じ、「草」は草創初起、「昧」は天が明けようとして未だ明けない昧爽の時分(『文選』李善注巻三十六に見える)。句中の「而」は「能」と読み、「能」はここで「安」と同義で、諸侯を分封建立するに宜しく自ら安逸を求めてはならないと言うのである(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「君子以経綸」に、鄭本は「綸」を「論」と作り、鄭玄の注:いわゆる「論」とは、礼楽の典章を撰定し政事を施行することを指す(『経典釈文』に見える。孔穎達『正義』は劉表・鄭玄ともに「綸」の字を「論」の字に作ると言う)。六二の爻辞「乗馬般如」に、鄭玄の注:牝馬と牡馬とが一対に配されるのを「乗」と言う(『経典釈文』に見える)。「匪寇婚媾」に、鄭本は「媾」を「冓」と作り、注:「冓」は会合と同義(『経典釈文』に見える)。六三の「君子几不如舍」に、鄭本は「几」を「機」と作り、注:「機」は弩の上で箭を発する牙機(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「以従禽也」の「従」の字は、読みを于用反とし、追逐の義である(『経典釈文』に見える)。
蒙(もう)
蒙,亨。匪我求童蒙,童蒙求我。初筮告,再三瀆,瀆則不告。 蒙者,濛濛,物初生形,是其未開著之名也。人幼稚曰童,未冠之稱。亨者,陽也。瀆,褻也。筮,問也。於體震而得中,嘉會禮通,陽自動其中。徳施地道之上,萬物應之而萌牙生。教授之師,取象焉。修道蓺於其室,而童蒙者求為之弟子,非已乎求之也。弟子初問,則告之以事。義不思其三隅,相況以反,解而筮者,此勤師而功寡,學者之災也。瀆筮則不復告,欲令思而得之,亦所以利義而乾事也公羊疏釋文。
蒙卦の卦辞:「蒙は亨通す。我が蒙昧の童子を求めるに非ず、蒙昧の童子が我を求めるのである。初めて占問すれば告げ、再三繰り返して問えばそれは涜すなわち冒涜で、涜せばもはや告げない。」鄭玄の注:いわゆる「蒙」とは蒙蒙昧昧の貌で、万物が形体を生じたばかりで未だ舒展顕露しない時の名称を指す。人の幼き時を「童」と言う、これはまだ冠礼を行っていない称呼である。卦辞が「亨」と言うのは、陽気に就いて言ったものである。「涜」は軽慢にして褻狎、「筮」は問卜して教えを請うことである。卦体に就いて言えば、蒙卦は下体が震で九二が中に居り位を得て、まさに「嘉会して礼通ず」の義に合し、陽気がその中で自ら鼓動し、徳沢が大地の上に施布され、万物が感応して萌芽生長する。学問を教授する師とは、この卦象の上から譬えを取ったものである。師は自らの居室の中で道芸を修治し、蒙昧の童子が来りて彼の弟子となることを請うのであって、師が自ら学生を求めるのではない。弟子が初めて発問すれば、師は道理を彼に告げる。もし弟子が一隅を挙げて三隅を思い、反復比類推求することを肯んぜず、ただ一味に繰り返して問うだけならば、それは師が労苦して収穫が微少となり、求学者自身の災害である。それゆえ涜して反復して問い来ればもはや告げないのは、彼をして自ら思索して得るところあらしめようとするのであって、これもまた「義を守るに利あり、其の事を成す能し」の道理に合するのである(『春秋公羊伝』疏、『経典釈文』に見える)。
初六,用說桎梏。 木在足曰桎,在手曰梏周禮大司冦疏。 九二,苞蒙。 苞,當作彪。彪,文也釋文。 順以巽也。 巽,當作遜釋文。 上九繋蒙釋文。
初六の爻辞「用説桎梏」は、これを以て足枷手枷を解脱することを言う。鄭玄の注:木製の刑具を足に加えるを「桎」と言い、手に加えるを「梏」と言う(『周礼・秋官・大司寇』疏に見える)。九二の爻辞は、鄭本は「苞蒙」と作り、注:「苞」は「彪」と作るべく、「彪」は文采の義(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「順以巽也」に、鄭玄の注:「巽」は「遜」と作るべく、謙遜の義を取る(『経典釈文』に見える)。上九の爻辞は、鄭本は「繋蒙」と作る(『経典釈文』に見える)。
需(じゅ)
需,讀為秀。陽氣秀而不直上者,畏上,坎也釋文。 光亨貞吉釋文云鄭揔為一句。 位音蒞乎天位釋文。 君子以飲食宴樂。 宴,享宴也釋文。 九二,需于沙釋文。 沙,接水者詩鳧鷖,正義引作沙。 致戎至釋文。
需卦の卦名に、鄭玄の注:「需」は「秀」と読み、陽気はすでに秀発したが、直ちに上に向かって冲らないのは、上卦の坎険を畏れるからであると言うのである(『経典釈文』に見える)。卦辞の「光亨貞吉」四字は、鄭本は連ねて一句として読む(『経典釈文』は鄭玄が総て一句に作すと言う)。『彖伝』の「位乎天位」の頭の「位」の字は、鄭本は「莅」と読み、臨御の義である(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「君子以飲食宴楽」に、鄭玄の注:「宴」は享を設け宴請する義(『経典釈文』に見える)。九二の爻辞は、鄭本は「需于沙」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「沙」は水に接する水辺の沙地(『詩経・大雅・鳧鷖』正義の引く鄭本は正しく「沙」の字に作る)。『象伝』の「致寇至」は、鄭本は「致戎至」と作る(『経典釈文』に見える)。
訟(しょう)
辯財曰訟釋文。 有孚咥。 咥,覺悔貌釋文。 九二,歸而逋其邑人三百戶,無眚。 小國之下大夫采地方一,成其定稅三百家,故三百戶也雜記正義。不易之田,歲種之,一易之田,休一歲乃種,再易之田,休二歲乃種。言至薄也。茍自藏隠不敢與五相敵,則無災眚正義。眚,過也釋文。 患至惙也惙,陟劣反。 惙,憂也釋文。 渝安貞吉。 渝,然也釋文。 上九,或錫之鞶帶。 鞶帶,佩鞶之帶周禮巾車疏。 終朝三拕之拕,徒可反,釋文。
訟卦の卦名に、鄭玄の注:財貨を争弁して相訴えるを「訟」と言う(『経典釈文』に見える)。卦辞の「有孚窒」は、鄭本は「有孚咥」と作り、注:「咥」は醒悟悔恨の神情(『経典釈文』に見える)。九二の爻辞:「訟に敗れて帰りて逃避し、彼の封邑は三百戸の人家しかなく、それゆえ災患を受けない。」鄭玄の注:小国の下大夫は、采地は方圆十里の一「成」之地で、その定額の賦税は三百家から出る。それゆえ「三百戸」と言う(『礼記・雑記』正義に見える)。古代の田地は三等に分かれた。不易の田は毎年種を播くことができ、一易の田は休耕一年してから種を播き、再易の田は休耕二年してから種を播く。ここに「三百戸」と言うのは、まさに采地の菲薄なること極まりなきを形容するのである。九二はすでに力が弱いから、自ら収斂隠蔵し、九五と争強対抗することを敢えてせねば、災患を招来しない(『周易正義』に見える)。「眚」は過失災患と訓ずる(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「患至惙也」に、「惙」の音は陟劣反。鄭玄の注:「惙」は憂愁と訓ずる(『経典釈文』に見える)。九四の「渝安貞吉」に、鄭玄の注:「渝」はここで「然」と訓じ、即ち安然の義(『経典釈文』に見える)。上九の爻辞「或錫之鞶帯」は、或いは大帯を賞賜されることを言う。鄭玄の注:「鞶帯」とは鞶嚢を佩繋する大帯である(『周礼・春官・巾車』疏に見える)。「終朝三拕之」の「拕」の字は、読みを徒可反とする(『経典釈文』に見える)。
師(し)
軍二千五百人為師。多以軍為名,次以師為名,少以旅為名。師者舉中之言王氏。 丈人吉。 丈之言,長能御眾,有正人之徳,以法度為人之,長吉而無咎。謂天子諸侯主軍者春官天府疏,釋文。 初六,否臧凶否,方有反。釋文。 九二,王三賜命釋文。 承天寵也。 寵,光耀也釋文。
師卦の卦名に、鄭玄の注:兵二千五百人を編して一「師」とする。人数の多いは「軍」の名を以てし、次の等級は「師」の名を以てし、少ないは「旅」の名を以てす。この卦は名を「師」と取るが、中間の一等を挙げて説を立てたのである(王応麟輯本に見える)。卦辞の「丈人吉」に、鄭玄の注:「丈」は長者の意で、衆人を統御することができ、他人を匡正する德行を具え、法度を以て衆人の表率とするから、吉にして過失がない。ここに言う「丈人」は、天子・諸侯のうち軍事を主持する者を指す(『周礼・春官・天府』疏、『経典釈文』に見える)。初六の爻辞「否臧凶」の「否」の字は、読みを方有反とする(『経典釈文』に見える)。九二の爻辞は、鄭本は「王三賜命」と作る(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「承天寵也」に、鄭玄の注:「寵」は光耀栄顕と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
比(ひ)
初六,有孚盈缶。 爻辰在未上,值東井。井之水,人所汲用缶。缶,汲器也詩宛丘,正義,釋文。 九五,王用三驅釋文,失前禽。 王因天下顯,習兵於搜狩焉。驅禽而射之,三則已,法一作發軍禮也。失前禽者,謂禽在前來者,不逆而射之,傍去又不射。唯背走者,順而射之,不中則一作亦巳,是皆所以失之,用兵之法亦如之。降者不殺,奔者不禁,背者不殺。加以仁恩,養威之道秋官士師 疏,左傳桓四年,正義。
比卦の初六の爻辞「有孚盈缶」は、誠信が充満して瓦缶に水を盛るが如きを言う。鄭玄の注:この一爻は「爻辰」の法に拠って地支の「未」位に配され、未位の上は正に二十八宿のうちの東井宿に当たる。井の水は人が瓦缶を以て汲み上げるもので、「缶」はすなわち水を汲む器皿である(『詩経・陳風・宛丘』正義、『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「王用三駆」(鄭本はこのように作る、『経典釈文』に見える)、下に「失前禽」と接続する。鄭玄の注:君王は天下がすでに安定昌明であるので、田猟を借りて兵事を演習する。禽獣を駆り立ててこれを射るに、駆ること三次に至れば止める。これは軍礼の定法である(「法」は一本に「発」と作る)。いわゆる「失前禽」とは、迎面して自らに向かって走り来る禽獣は迎え撃たず、傍から逃走するも射ず、ただ背を向けて自らを外れて走るもののみ方向に順って射、射中らなければそれで罷む(「則」は一本に「亦」と作る)。これらはみな意を用いて彼らをして逃れさせるのである。用兵の法度もまたこの如し:投降するは殺さず、奔逃するは追截せず、背向して退走するは殺さず。このように仁愛恩恵を施加するは、まさに威信を蓄養する方法である(『周礼・秋官・士師』疏、『左伝』桓公四年正義に見える)。
小畜(しょうちく)
小畜許六反,釋文 畜,養也釋文。 九三,輿說輻。 輻,伏莬釋文。謂輿下縛木,與軸相連,鉤心之木是也王氏。
小畜卦、卦名の「畜」の字の読みは許六反(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「畜」は畜養と訓ずる(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「輿説輻」は、車身が輻を脱落したと言う。鄭玄の注:「輻」はすなわち「伏兎」(『経典釈文』に見える)、車厢の底に縛り付ける一つの木件を指し、それは車軸と相連なり、まさに車心を鉤留するあの木である(王応麟輯本に見える)。
履(り)
履,虎尾不噬,人亨。 噬,齧也音誓,文選十。 視履考詳。 履道之終,考正詳備晁氏。
履卦の卦辞は、鄭本は「履虎尾、不噬人、亨」と読み、虎の尾を踏んでも虎が人を噛まず、それゆえ亨通すると言う。鄭玄の注:「噬」は咬啮で、読みは「誓」と同じ(『文選』李善注巻十に見える)。上九の爻辞「視履考詳」に、鄭玄の注:これは履道が終点に至った時、回头して自ら一路の行履を審視し、それが端正で周詳完備かを考覈することである(晁説之の記すところに拠る)。
泰(たい)
通也釋文。 后以財成,天地之道。輔相天地之宜,以左右民 財,節也。輔相左右,助也以者,取其順陰陽之節,為出內之政。春崇寛仁,夏以長養,秋教收斂,冬勅蓋藏,皆可以成物助民也集解。 初九,拔茅音苖茹,以其彚征彚音謂。 彚,類也。茹,牽引也。茅喻君有絜白之徳,臣下引其類而仕之劉向傳注。 九二,苞荒。 荒,讀為康,虛也釋文。 六五,帝乙、歸妹,以祉元吉。 五爻辰在卯春,為陽中,萬物以生。生育者,嫁娶之貴。仲春之月,嫁娶男女之禮。福祿大吉周禮媒氏疏。 上六,城復于隍。 隍,壑也詩韓奕正義。
泰卦の卦名に、鄭玄の注:「泰」はすなわち通達(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「后以財成天地之道、輔相天地之宜、以左右民」に、鄭玄の注:「財」は節制と訓じ、「輔相」も「左右」もいずれも輔助の義。いわゆる「以」とは、陰陽の節候に順応して出入の政を施行することを取る意である:春は寛和仁厚を尚び、夏はその生長養育を助け、秋は民に収斂を教え、冬は収蔵を督令する。これらはみな万物を成就し百姓を輔助することができる(『周易集解』に見える)。初九の爻辞「抜茅茹、以其彙征」に、「茅」の音は苗、「彙」の音は謂。鄭玄の注:「彙」は同類、「茹」は牽引。茅草を以て君主が洁白の徳を懐くに譬え、臣下はそこで自己の同類を牽引してともに出でて職に就く(『漢書・劉向伝』注に見える)。九二の爻辞「苞荒」に、鄭玄の注:「荒」は「康」と読み、空虚の義(『経典釈文』に見える)。六五の爻辞「帝乙帰妹、以祉元吉」に、鄭玄の注:第五爻は爻辰の法に拠って地支の「卯」位に配され、卯は春季に当たり、まさに陽気の中点で、万物はここより生発する。生育の事を主るは嫁娶を貴しとし、仲春二月はまさに男女の嫁娶行礼の月である。それゆえ福禄を得て大吉である(『周礼・地官・媒氏』疏に見える)。上六の爻辞「城復于隍」に、鄭玄の注:「隍」は城牆の下の溝壑である(『詩経・大雅・韓奕』正義に見える)。
否(ひ)
九四,疇離祉釋文。 九五,休否。 休,美也文選二十五。 其亡其亡,繋于苞桑。 苞,植也。否,世之人不知聖人有命,咸曰其將亡矣。其將亡矣,而聖乃自繋於植桑,不亡也文選五十二。猶紂囚文王於羑里之獄,四臣獻珍異之物而終免於難。繋于苞桑之謂集解。
否卦の九四の爻辞は、鄭本は「疇離祉」と作る(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「休否」に、鄭玄の注:「休」は美善と訓ずる(『文選』李善注巻二十五に見える)。九五の「其亡其亡、繋于苞桑」に、鄭玄の注:「苞」は深植の義。否閉の世に当たって、世人は聖人に自ら天命あるを明白せず、皆彼はほどなく亡びよう、ほどなく亡びようと言う。しかるに聖人は自らを深植の桑根の上に繋結し、それゆえ亡びない(『文選』李善注巻五十二に見える)。これは商紂が周文王を羑里の牢獄に囚え、太頗・閎夭ら四人の臣子が珍奇の宝物を進献し、文王が終に禍難を免れたが如きである。いわゆる「繋于苞桑」はまさにこの類の事を指す(『周易集解』に見える)。
同人(どうじん)
同人于野,亨。 乾為天,離為火,卦體有巽。巽為風,天在上,火炎上而從之,是其性同於天也。火得風然,後炎上益熾,是猶人君在上,施政教使天下之人和同而事之。以是為人和同者,君之所為也。故謂之同人。風行無所不徧,徧則會通之徳大行,故曰同人于野亨集解。 六二,同人于宗。 天子諸侯后夫人,無子不出儀禮士昏,禮疏,詩河廣,正義。 九三,伏戎于莽。 莽,叢木也釋文。
同人卦の卦辞「同人于野、亨」に、鄭玄の注:上卦の乾は天、下卦の離は火、卦中の互体にまた巽あり、巽は風である。天は上方にあり、火の性は炎上してこれに随って上行する。火の性質が天と相同じるが見え、火は風を得れば、火焰の上騰はいっそう熾烈となる。これは君主が上位に居り、政治教化を施行し、天下の人をして和同一致して彼に事奉せしめるが如し。衆人を和同せしめること能くするは、まさに君主の作為である。それゆえこの卦を「同人」と言う。風の至るところ、周遍せざるなく、周遍すれば会合貫通の徳沢が大いに流行する。それゆえ「同人于野、亨」と言う(『周易集解』に見える)。六二の爻辞「同人于宗」に、鄭玄の注:天子・諸侯の后および夫人は、たとえ子なくとも出弃を加えない(『儀礼・士昏礼』疏、『詩経・衛風・河広』正義に見える)。九三の爻辞「伏戎于莽」に、鄭玄の注:「莽」は叢生の草木(『経典釈文』に見える)。
九四,乗其庸釋文
九四の爻辞は、鄭本は「乗其庸」と作り、通行本の「乗其墉」(城牆に登る)と用字を異にする(『経典釈文』に見える)。
大有(たいゆう)
大有元亨。 六五,體離,處乾之上,猶大臣有聖明之徳,代君為政,處其位有其事,而理之也。元亨者,又能長群臣以善使,嘉會禮通,若周公攝政,朝諸侯於明堂是也集解。 明,辯遰也。 遰,讀如明。星晢晢釋文。
大有卦の卦辞「元亨」に、鄭玄の注:六五のこの一爻は離を以て体とし、下卦の乾の上に居る。これは大臣が聖明の徳を具え、君主に代わって政事を執掌するが如し。すでにその位置に処りその職事を担えば、それを治めて妥当ならしめる。いわゆる「元亨」は、彼がまた善道を以て群臣を統領し善く任使すること、まさに「嘉会而礼通」の義に合し、周公が政を摂して明堂で諸侯を朝会せしめた如きである(『周易集解』に見える)。『象伝』の「明辨晳也」は、鄭本は「明、辯遰也」と作る。鄭玄の注:「遰」は『詩経』の「明星晢晢」の「晢」の如く読み、光明分明の義を取る(『経典釈文』に見える)。
嗛(けん、謙)
嗛亨,君子有終。 艮為山,坤為地。山體髙,今在地下,其於人道,髙能下下,嗛之象。亨者,嘉會之禮,以嗛為主。嗛者,自貶損以下人,唯艮之堅固,坤之厚順,乃能終之。故君子之人,有終也集解。 君子以捊多益寡。 捊,取也釋文。 卑以自牧也。 牧,養也釋文,文選注十六。 六四,撝嗛。 撝,讀為宣釋文。
謙卦は鄭本では卦名を「嗛」と作る。卦辞「嗛亨、君子有終」に、鄭玄の注:下卦の艮は山、上卦の坤は地。山の形体はもとより高峻であるのに、今は大地の下に処っている。人事の道に就いて言えば、これは地位の高い者が能く卑下の者の下に屈することで、まさに「謙」の象である。いわゆる「亨」は、嘉美会合の礼が謙譲を主とするからである。「謙」とは自らを貶損して人の下に居ること。艮の堅定と坤の厚順とを具えてこそ、謙を最後まで守り通すことができる。それゆえ君子たる者は「有終」と言う(『周易集解』に見える)。『象伝』の「君子以捊多益寡」に、鄭玄の注:「捊」は取と訓ずる(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「卑以自牧也」に、鄭玄の注:「牧」は畜養と訓ずる(『経典釈文』、『文選』李善注巻十六に見える)。六四の爻辞「撝嗛」に、鄭玄の注:「撝」は「宣」と読み、宣布布散の義(『経典釈文』に見える)。
豫(よ)
豫,利建侯行師。 坤,順也。震,動也。順其性而動者,莫不得其所。故謂之豫。豫,喜佚說樂之貌也。震又為雷,諸侯之象。坤又為眾,師役之象。故利建侯行師矣集解。 四時不忒。 忒,差也釋文。
豫卦の卦辞「利建侯行師」に、鄭玄の注:下卦の坤は順、上卦の震は動。事物の本性に順って行動すれば、一つとしてその所を得ないものはない。それゆえこの卦を「豫」と言う。「豫」は歓喜安適・悦楽の貌。震はまた取象を雷とし、諸侯の象。坤はまた取象を衆とし、師旅を興し衆を役する象。それゆえ諸侯を分封するに利あり、兵を出して征伐するに利ありと言う(『周易集解』に見える)。『彖伝』の「四時不忒」に、鄭玄の注:「忒」は差錯と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
象曰:雷出地,奮豫。先王以作樂崇徳。殷薦之上帝以配祖考。 奮動也。雷動於地上,萬物乃豫也。以者取其喜佚,動搖猶人至,樂則手欲鼓之,足欲舞之也。崇,充也。殷,盛也。薦,進也。上帝,天帝也。王者功成作樂,以文得之者,作鑰舞。以武得之者,作萬舞。各充其徳而為制。祀天地以配祖考者,使與天同饗其功也。故孝經云:郊祀后稷以配天。宗祀文王於明堂,以配上帝是也集解。
『象伝』は言う:「雷出でて地を奮い、豫。先王以て楽を作り徳を崇め、殷に之を上帝に薦じ、以て祖考に配す。」鄭玄の注:「奮」は振動。雷が地上で鼓動すれば、万物はそこで歓悦する。これが「豫」である。いわゆる「以」は、あの歓喜安適で動揺して已まない趣を取る——ちょうど人が快楽の極に至れば、手は鼓を撃ちたくなり足は舞い起きたくなるが如し。「崇」は充実と訓じ、「殷」は盛大と訓じ、「薦」は進献と訓じ、「上帝」はすなわち天帝。帝王は功業が告成すれば楽章を制作する。文徳を以て天下を取った者は「籥舞」を作り、武功を以て天下を取った者は「万舞」を作り、各々自己の徳業を充実させてその楽制を定める。天地を祭祀して祖先を以て配享せしめるは、祖先をして上天とともにこの功業を享受せしめようとするのである。それゆえ『孝経』は言う:南郊で天を祭るに后稷を以て配享し、明堂で宗祀するに文王を以て上帝に配す——まさにこの事を指す(『周易集解』に見える)。
六二,砎於石砎,古八切。謂磨砎也,釋文。 六三,盱豫。 盱,誇也釋文。 九四,由豫,大有得。勿疑朋,盍簮。 由,用也。簮,速也釋文。 上六,冥豫。 冥,讀為鳴釋文。
六二の爻辞「介于石」は、鄭本は「砎于石」と作り、「砎」は古八切と読む。鄭玄の注:「砎」は磨礪の意(『経典釈文』に見える)。六三の爻辞「盱豫」に、鄭玄の注:「盱」は誇張自大(『経典釈文』に見える)。九四の爻辞「由豫、大有得、勿疑、朋盍簪」に、鄭玄の注:「由」は用と訓じ、「簪」は迅速と訓ずる(『経典釈文』に見える)。上六の爻辞「冥豫」に、鄭玄の注:「冥」は「鳴」と読む(『経典釈文』に見える)。
随(ずい)
隨元亨利貞。無咎。 震,動也。兌,說也。內動之以徳,外說之以言。則天下之民咸慕其行,而隨從之。故謂之隨也。既見隨從,能長之以善,通其嘉禮,和之以義,乾之以正,則功成而有福。若無此四徳,則有凶咎焉。焦貢曰,漢髙帝與項籍其明征也集解,左傳襄九年,正義。 君子以嚮晦入宴息。 晦宴也,猶人君既夕之,後入於宴,寢而止息正義。
随卦の卦辞「元亨利貞、无咎」に、鄭玄の注:下卦の震は動、上卦の兌は悦。内にあっては徳行を以て人を感動せしめ、外にあっては言辞を以て人を喜悦せしめれば、天下の百姓はみな彼の作為を仰慕して彼に随う。それゆえこの卦を「随」と言う。すでに随う人あらば、能く善道を以てその成長を助け(元)、嘉美の礼を通達せしめ(亨)、合宜を以て調和し(利)、正道を以て成就し(貞)なければならない。こうすれば功業が告成して福沢を享くる。もし元・亨・利・貞の四徳を欠けば、凶険と過咎を招来する。焦贛は言う:漢高祖と項羽の成敗は、この一点の明証である(『周易集解』、『左伝』襄公九年正義に見える)。『象伝』の「君子以向晦入宴息」に、鄭玄の注:「晦」はここで宴息の時を指し、君主が日暮れの後に内寝に入り安息休止するが如し(『周易正義』に見える)。
出門交有功。 震為大塗,又為日門。當春分,陰陽之所交也。是臣出君門,與四方賢人交,有成功之象也。昔舜慎徽五典,五典克從,內於百揆,百揆時序,賓於四門,四門穆穆,是其義也集解。
初九の『象伝』「出門交有功」に、鄭玄の注:震は取象を大道とし、また取象を日出の門とする。震は春分の時に当たり、まさに陰陽交会の処である。これはすなわち臣子が君門を出でて、四方の賢人と交接して能く功業を成就する象である。昔、虞舜は慎みて五種の倫常の教を敷布し、五教はみな遵行を得た。彼に百官を総領させれば、百官の政事は井然として序あり。彼に四門で賓を迎えさせれば、四門の賓客は粛穆恭敬せざるなし——言うところはまさにこの道理である(『周易集解』に見える)。
蠱(こ)
先甲三日,後甲三日。 甲者,造作新令之日。先之三日而用辛也。欲取改過自新之義。後之三日而用丁也。取其丁寧之義正義。
蠱卦の卦辞「先甲三日、後甲三日」に、鄭玄の注:「甲」は新たな法令を頒布する日である。甲日の前の第三日は正に「辛」日に当たり、「辛」と「新」との同音を取り、過ちを改め自ら新たになる義を含む。甲日の後の第三日は正に「丁」日に当たり、「丁」と「叮嚀」との同音を取り、反復告誡の義を含む(『周易正義』に見える)。
臨(りん)
至于八月,有凶。 臨,大也。陽氣自此浸而長大,陽浸長矣而有四徳,齊功於乾盛之極也。人之情盛則奢淫,奢淫將亡,故戒以凶也。臨卦斗建丑,而用事殷之正月也。當文王之時,紂為無道,故於是卦為殷家著興衰之戒以見。周改殷正之數,雲臨。自周二月用事,訖其七月至八月而遯卦受之此,終而復始,王命然矣集解。
臨卦の卦辞「至于八月有凶」に、鄭玄の注:「臨」は大の意。陽気はここから漸々滋長壮大し、陽はすでに浸長してしかも元亨利貞の四徳を具備し、功用は乾卦と斉しいほか、盛んなること極点に至る。人の常情は、盛極すれば奢侈淫佚に流れ、奢淫が下ればまさに敗亡せんとする。それゆえ卦辞は「凶」を以て告誡する。臨卦は北斗の斗柄が「丑」を指す月に用事するが、それはまさに殷代の暦法の正月である。周文王の時に当たり、商紂は暴虐無道であったから、すなわちこの卦の上に殷王朝のために興衰の警戒を標出し、その義を顕明ならしめた。周朝に至って正朔の数を改めれば、この卦は自ずから周暦二月から用事を起こし、七月を経歴し、八月に至って遯卦が接替する。この如く終わればまた始まる——帝王が命を受ける運はもとよりこのようである(『周易集解』に見える)。
観(かん)
觀,盥而不薦。 坤為地,為眾。巽為木,為風。九五,天子之爻。於體有艮,艮為鬼門,又為宮闕。地上有木而為鬼門宮闕者,天子宗廟之象也集解。諸侯貢士於天子,卿大夫貢士於其君,必以禮賓之。唯主人盥而獻賓,賓盥而酢。主人設薦俎則弟子也王氏。 初六,童觀。 童,稚也釋文。
観卦の卦辞「盥而不薦」に、鄭玄の注:下卦の坤は地であり衆であり、上卦の巽は木であり風である。九五は天子の爻。卦中の互体に艮あり、艮は鬼門でありまた宮闕である。地の上に樹木が生えまた鬼門宮闕の所在たるは、まさに天子の宗廟の象(『周易集解』に見える)。諸侯が天子に士人を薦挙し、卿大夫が自らの国君に士人を薦挙するには、いずれも必ず賓客の礼を以て相待す。ただ主人が盥手して酒を賓に献じ、賓が盥手して主人に回敬するのみが、主賓が親行の事である。陳設して羞俎豆を薦ずるに至っては、弟子輩のなすところである(王応麟輯本に見える)。初六の爻辞「童観」に、鄭玄の注:「童」は幼稚(『経典釈文』に見える)。
噬嗑(ぜいこう)
先王以明罰勅法。 勅,猶理也釋文。 九四,噬乾胏。 胏,簀釋文。 上九,何校滅耳,凶。 離為槁木,坎為耳木。在耳上何校,滅耳之象也集解。 聰不明也。 目不明,耳不聰釋文。
噬嗑卦の『象伝』「先王以明罰勅法」に、鄭玄の注:「勅」は治理と同義(『経典釈文』に見える)。九四の爻辞「噬乾胏」に、鄭玄の注:「胏」は骨に連なる乾肉(鄭本はこの字を「簀」と訓作する、『経典釈文』に見える)。上九の爻辞「何校滅耳、凶」は、肩に大枷を扛ぎ、枷が耳をも遮没すると言う。鄭玄の注:離は取象を枯木とし、坎は取象を耳とする。木が耳の上に圧するは、まさに重枷を肩に負い両耳を遮没する象(『周易集解』に見える)。『象伝』の「聡不明也」に、鄭玄の注:目が見えないを「不明」と言い、耳が聞こえないを「不聡」と言う(『経典釈文』に見える)。
賁(ひ)
賁亨小。利有攸往。 賁,文飾也。離為日,天文也。艮為石,地文也。天文在下,地文在上,天地二文相飾,成賁者也一雲天地之文交,相而成賁。賁,然也。猶人君以剛柔仁義之道,飾成其徳也。剛柔雜仁義合,然後嘉會禮通,故亨也。卦 於體坎艮,艮止於上,坎險止於下,夾震在中,故不利大行,小有所之則可矣詩白駒,正義,集解。 賁,變也。文飾之貌釋文。
賁卦の卦辞は、鄭本は「賁、亨小、利有攸往」と読む。鄭玄の注:「賁」は文飾。下卦の離は日で天の文采に属し、上卦の艮は石で地の文采に属す。天文が下にあり地文が上にあり、天地二種の文采が互いに修飾して賁と成る(一説に天地之文が交錯相済して賁と成る)。「賁」は文采焕然たる貌で、君主が剛柔仁義の道を以て自己の徳行を修飾し成就するが如し。剛柔が相雑じり仁義が相合して、然る後に嘉美会合の礼が通行する。それゆえ「亨」と言う。この卦の互体に坎あり艮あり、艮は上に止まり坎は下に険阻し、中間にまた震を挟む。それゆえ大いに作為するに利せず、ただ小さく往くはまだ可なり(『詩経・小雅・白駒』正義、『周易集解』に見える)。鄭玄はまた注す:「賁」は変化、文飾の貌(『経典釈文』に見える)。
無敢折獄。 折,斷也釋文。 初九,賁其趾,舍輿而徒釋文。 趾,足同上。 義不乗也晁氏。 六四,賁如燔如燔,音煩。釋文。 六四,巽爻也。有應於初九,欲自飾以適,初既進退未定,故燔如也檀弓正義。 白馬翰如翰,寒案反釋文。 謂九三位在辰,得巽氣,為白馬。翰,猶乾也。見六四,適初未定,欲乾而有之檀弓,正義。
『象伝』の「无敢折獄」に、鄭玄の注:「折」は断決と訓ずる(『経典釈文』に見える)。初九の爻辞は、鄭本は「賁其趾、舍輿而徒」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「趾」はすなわち足(同上)。『象伝』の「義不乗也」は、鄭本このよう(晁説之の記すところに拠る)。六四の爻辞「賁如燔如」、「燔」の音は煩(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:六四は巽爻で、初九と相応の義あり。自ら文飾を加えて初九に就かんと欲するが、初九は此刻進退未定。それゆえ「燔如」なるあの焦灼の貌を顕す(『礼記・檀弓』正義に見える)。「白馬翰如」の「翰」は寒案反と読む(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:九三のこの一爻は爻辰に拠り「辰」位に配され、巽気を得、それゆえ取象を白馬とする。「翰」は「乾」と同義で、求取の意。九三は六四が初九に就かんとしながら未だ定まらざるを見て、便ち先んじて彼女を求め得て自らの有と為さんと欲する(『礼記・檀弓』正義に見える)。
剥(はく)
不利有攸往,小人長也。 陰氣侵陽,上至於五,萬物霝落,故謂之剝也。五陰一陽,小人極盛,君子不可有所之,故不利有攸往也集解。 蔑,貞凶。 蔑,輕慢釋文。 剝床以辨。 足上稱辨,謂近膝之下。屈則相近,信則相逺。故謂之辨。辨,分也集解。 切,近災也。 切,急也釋文。 小人剝廬。 小人傲很,當剝徹廬舍而去天官遺人疏。
剥卦の『彖伝』「不利有攸往、小人長也」に、鄭玄の注:陰気が陽気を侵奪し、上に向かって一直に第五爻にまで逼り、万物が零落凋残する。それゆえこの卦を「剥」と言う。五つの陰爻にただ一つの陽爻が残るは、小人の勢力が盛極の時で、君子は行動する所あってはならない。それゆえ「不利有攸往」と言う(『周易集解』に見える)。「蔑貞凶」に、鄭玄の注:「蔑」は軽慢(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「剥床以辨」に、鄭玄の注:脚以上の部位を「辨」と称し、膝蓋の下方に近い処を指す。腿が一たび屈すれば上下両段は靠攏し、腿が一たび伸びれば上下両段は分かれる。それゆえこれを「辨」と称す。「辨」はすなわち分界(『周易集解』に見える)。『象伝』の「切近災也」に、鄭玄の注:「切」は急迫と訓ずる(『経典釈文』に見える)。上九の爻辞「小人剥廬」に、鄭玄の注:小人は驕傲狠戾で、到頭来自らの住む廬舍さえも拆毀して去る(『周礼・地官・遺人』疏に見える)。
復(ふく)
復,亨。 復,反也。還也。陰氣侵陽,陽失其位,至此始還反,起於初,故謂之復。陽,君象。君失國而還反,道徳更興也春秋正義。 七日來復。 建戌之月,以陽氣既盡,建亥之月,純陰用事,至建子之月,陽氣始生,隔此純陰一卦。卦主六,日七分,舉其成數言之,而云七日來復正義序。
復卦の卦辞「復、亨」に、鄭玄の注:「復」は返回・帰還。陰気が陽気を侵奪し、陽は自己の位置を失い、この一卦に至って始めて返回し、初爻から重新に興起する。それゆえ「復」と言う。陽は君主の象で、これは君主が国を失った後また返国を得て、道徳が重新に振興するが如し(『春秋』正義に見える)。卦辞の「七日来復」に、鄭玄の注:斗柄が戌を指す九月、陽気はすでに耗尽する。斗柄が亥を指す十月、純陰の坤卦が当令用事する。斗柄が子を指す十一月に至って、陽気はやっと重新に生出する——中間には坤という純陰の卦一つを隔てるのみ。卦気の法に拠れば、一卦は六日七分を主る。ここではその整数を挙げて言うから、「七日来復」と称す(『周易正義』序に見える)。
商旅不行。 資貨而行,曰商。旅,客也釋文。 無祗悔。 祗,病也釋文。 六三,顰復釋文。 六四,中行獨復。 爻處五陰之中,度中而行,四獨應初漢上易傳。 中以自考也。 考,成也釋文。 有烖眚釋文。 異自內生,曰眚。自外曰祥。害物曰災釋文。
『象伝』の「商旅不行」に、鄭玄の注:貨本を帯びて外出して経営するを「商」と言い、「旅」は行客(『経典釈文』に見える)。初九の「无祗悔」に、鄭玄の注:「祗」は病患と訓ずる(『経典釈文』に見える)。六三の爻辞は、鄭本は「顰復」と作る(『経典釈文』に見える)。六四の爻辞「中行独復」に、鄭玄の注:この一爻は五つの陰爻の正中に処り、能く中道を揣度して行う。六爻のうちただこれのみが初九と相応する。それゆえ「独復」と言う(朱震『漢上易伝』に見える)。『象伝』の「中以自考也」に、鄭玄の注:「考」は成就と訓ずる(『経典釈文』に見える)。上六の「有災眚」は、鄭本は「有烖眚」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:怪異が内部から生ずるを「眚」と言い、外部から来るを「祥」と言い、凡そ万物を傷害するを「災」と言う(『経典釈文』に見える)。
无妄(むぼう)
妄,猶望。謂無所希望也釋文。 無妄之往,何之矣。 妄之言,望人所望。宜正行,必有所望,行而無所望,是失其正,何可往也後漢書李通傳注。 天命不右。 右,助也釋文。 不菑畬。 一歲曰菑,二歲曰新田。三歲曰畬王氏。
无妄卦の卦名に、鄭玄の注:「妄」は「望」と相通じ、「无妄」とは心中に希求期待を存せざるを言う(『経典釈文』に見える)。上九の『象伝』「无妄之往、何之矣」に、鄭玄の注:「妄」はすなわち「望」で、人の心中に指望する所を指す。人はもとより正道を走りて行うべく、行事には常に指望する所あるが、もし行事して一も指望がなければ、それはその正道を失うもので、なおどこへ往くことができよう(『後漢書・李通伝』注に見える)。『象伝』の「天命不右」に、鄭玄の注:「右」は佑助と訓ずる(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「不菑畬」に、鄭玄の注:開墾第一年の田を「菑」と言い、第二年を「新田」と言い、第三年をやっと「畬」と言う(王応麟輯本に見える)。
大畜(たいちく)
不家食,吉。 自九三至上九,有頤象。居外,是不家食。吉而養賢表記正義。 輝光日新絶句,其徳連下句剛上而尚賢釋文。 良馬逐逐。 逐逐,兩馬走也釋文。 日閒輿衛日,人實反。 日,習車徒釋文。
大畜卦の卦辞「不家食、吉」に、鄭玄の注:九三から上九に至るまで、卦形は頤卦の象あり。賢者が外卦に居るは、まさに自己の家で飯を食して閑食せざるの意で、それゆえ吉。国家が能く賢人を供養すると言うのである(『礼記・表記』正義に見える)。『彖伝』の「輝光日新」四字は、鄭本はここで句を断ち、「其徳」の二字は下句に連ねて「其徳剛上而尚賢」と読む(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「良馬逐」は、鄭本は「良馬逐逐」と作る。鄭玄の注:「逐逐」は両馬が並び馳する貌(『経典釈文』に見える)。「日閑輿衛」の「日」の字は人実反と読み、鄭玄の注:「日」は日日車馬徒衆を演習すること(『経典釈文』に見える)。
六四,童牛之梏,元吉晁氏謂梏。鄭作角,非也。 巽為木,於體震。震為牛之足,足在艮體之中,艮為手,持木以就足,是施梏大司冦疏。 六五,豶豕之牙。 牙,讀為□釋文。 上九,何天之衢。 艮為手,手上肩也。乾為首,首肩之間,荷物處。乾為天,艮為徑路,天衢象也後漢崔駰傳注。 道大行也。 人君在上位,負荷天之大道文選十一。
六四の爻辞「童牛之梏、元吉」(晁説之はこの「梏」の字を鄭本は「角」と作ると言うが、その説は不確)。鄭玄の注:巽は木、卦中の互体にまた震あり、震は取象を牛の脚とする。牛脚が艮体の中に処り、艮は取象を手とする。手を以て木具を持ちて牛脚を套住するに往く、これがすなわち牛に木梏を加えること(『周礼・秋官・大司寇』疏に見える)。六五の爻辞「豮豕之牙」に、鄭玄の注:「牙」は別の一字と読むべく、鄭本が此処で改めた字はすでに残缺(『経典釈文』に見える)。上九の爻辞「何天之衢」に、鄭玄の注:艮は手、手の上端は肩に連なり、乾は首、頭と肩のあいだはまさに東西を負荷する処。乾はまた天、艮はまた小路。合わせれば「天衢」の象(『後漢書・崔駰伝』注に見える)。『象伝』の「道大行也」に、鄭玄の注:君主は上位に居り、上天の大道を肩に負う(『文選』李善注巻十一に見える)。
頤(い)
頤,貞吉。觀頤自求口實。 頤,口車輔之名也。震動於下,艮止於上,口車動而上,因輔嚼物以養人,故謂之頤。頤,養也。能行養則其乾事,故吉矣。二五離爻,皆得中。離為目,觀象也。觀頤,觀其養賢與不肖也。頤中有物,曰口實。自二至五有二坤,坤載養物,而人所食之物皆存焉。觀其求可食之物,則貪廉之情可別也集解。 觀我朵頤。 朵,動也釋文。 大有慶也。 君以得人為慶漢上易傳。
頤卦の卦辞「貞吉、観頤、自求口実」に、鄭玄の注:「頤」は牙床と頬輔の名称。下卦の震は下にあって鼓動し、上卦の艮は上にあって静止する。牙床は上に向かって活動し、頬輔に靠って食物を咀嚼して人身を養う。それゆえ「頤」と言う。「頤」はすなわち養育。養育の道を行うこと能くすればその事を成就することができる。それゆえ吉。第二爻と第五爻は互体に拠りいずれも離爻に属し、またいずれも中に居る。離は取象を目とし、まさに「観」の象。いわゆる「観頤」とは、彼の養う所が果たして賢人か不肖の人かを看ることである。牙床の中に物を含むを「口実」と言う。第二爻から第五爻に至るまで二つの坤を含み、坤は能く万物を載せ養育し、人の食する所はみなその中に存す。一人の人がいかに食すべき物を求取するかを看れば、彼の心性の貪か廉かは分辨し得る(『周易集解』に見える)。初九の爻辞「観我朵頤」に、鄭玄の注:「朵」は動と訓ずる(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「大有慶也」に、鄭玄の注:君主は賢人を得るを以て可慶の事とする(朱震『漢上易伝』に見える)。
大過(たいか)
陽爻過也漢上易傳。 九二,枯楊生荑,老夫得其女妻。 枯音姑,謂無姑。山榆羊朱反,荑音夷木更生,謂山榆之實釋文。以丈夫年過娶二十之女,老婦年過嫁三十之男,皆得其子詩桃夭,正義。
大過卦の卦名に、鄭玄の注:陽爻の過多の義を取る(朱震『漢上易伝』に見える)。九二の爻辞「枯楊生荑、老夫得其女妻」に、鄭玄の注:「枯」は「姑」と読み、「无姑」という木を指し、すなわち山楡(「楡」は羊朱反と読む)。「荑」の音は夷、樹木が重新に萌生する義で、ここでは山楡の果実を指す(『経典釈文』に見える)。鄭玄はまた注す:年齢の偏り大きい男子に二十歳の女子を娶らせ、年齢の偏り大きい婦人を三十歳の男子に嫁がせれば、いずれもなお子嗣を生育することができる(『詩経・周南・桃夭』正義に見える)。
習坎(しゅうかん)
六三檢且枕。 木在手曰檢。在首曰枕釋文。 六四,尊酒簋貳,用缶,內約自牗。 六四,上承九五,又□體在震。上爻辰在丑,丑上值斗,可以斟之象。斗上有建星,建星之形似簋,貳副也。建星上有弁星,弁星之形又如缶。天子大臣以王命出,會諸侯,主國尊於簋,副設玄酒而用缶也詩宛丘,正義,禮器正義。 九五,祗既平。 祗,當為坻。小丘也釋文。
習坎卦の六三の爻辞は、鄭本は「検且枕」と作る。鄭玄の注:木製の刑具を手に加えるを「検」と言い、頭頸に加えるを「枕」と言う(『経典釈文』に見える)。六四の爻辞は、鄭本は「尊酒簋貳、用缶、内約自牖」と読む。鄭玄の注:六四は上に九五を承け、卦中の互体はまた震に落ちる(此処原文に一字残缺)。上爻は爻辰に拠り「丑」位に配され、丑の上は正に北斗に当たり、酒を斟る可きの象。北斗の上に建星あり、建星の形状は簋に象り、「貳」は副貳配設の意。建星の上にまた弁星あり、弁星の形状はまた缶に象る。天子の大臣は王命を奉じて出使し、諸侯と会盟するに、東道の国は酒尊と簋を陳設し、別に玄酒一份を副設して瓦缶を以て盛る(『詩経・陳風・宛丘』正義、『礼記・礼器』正義に見える)。九五の爻辞「祗既平」に、鄭玄の注:「祗」は「坻」と作るべく、水の中の小丘(『経典釈文』に見える)。
上六,繋用徽纆,寘于叢棘,三歲不得,凶。 繋,拘也。爻辰在已,已為蛇,蛇之蟠屈,似徽纆也。三五?體,艮又與震同體。艮為門闕,於木為多節。震之所為,有叢拘之類。門闕之內,有叢木,多節之木,是天子外朝,左右九棘之象也。外朝者,所以詢事之處也。左嘉石平罷民焉。右肺石達窮民焉。罷民,邪惡之民也。上六乗陽有邪惡之罪,故縛以一作約徽纆,寘于叢棘。而使一作後公卿以下議之,其害人者,置之圜土而施職事焉,以明刑恥之。能復者,上罪三年而赦,中罪二年而赦,下罪一年而赦。不得者,不自思以得正道終不自改,而出諸圜土者殺。故曰凶公羊疏。
上六の爻辞:「繩索を以て捆縛し、叢棘の中に安置し、三年も釈放を得ず、凶。」鄭玄の注:「繋」は拘執。この一爻は爻辰に拠り「巳」位に配され、巳は蛇に属す。蛇の盤繞屈曲の貌は、まさに人を捆る繩索に象る。第三爻から第五爻まで互体を成して艮となり、艮はまた震と同体。艮は取象を門闕とし、草木の上に取象して多節の木とする。震の生成する象には叢聚拘束の類あり。門闕の内に叢木・多節の木が生えるは、まさに天子の外朝の左右に各々九棵の棘樹を植える象である。外朝は君臣が政事を諮詢する処である。左辺に嘉石を設け、游惰不端の「罷民」を教化するのに用い、右辺に肺石を設け、窮苦無告の人に申訴を得せしめる。「罷民」とは邪僻にして悪を作る人である。上六は陰柔を以て陽爻の上に凌駕し、邪悪の罪を犯したから、繩索を以て捆縛し(「縛」は一本に「約」と作る)、叢棘の中に安置し、さらに公卿以下の官員に交して評議せしめる(「而使」は一本に「而后」と作る)。そのうち人を害するは、圜土の獄城に送り込んで労役を罰服せしめ、併せて明刑を施して彼に恥を知らしめる。悔改むる能くするは、罪重きは三年に釈放し、罪中等は二年に釈放し、罪軽きは一年に釈放する。終始自省して正を得るを肯んぜず、終に過ちを改めずして圜土から逐出されれば、すなわち処死する。それゆえ爻辞は「凶」と言う(『春秋公羊伝』疏に見える)。
離(り)
明兩作離。大人以繼明照于四方。 作,起也釋文。明兩者,取君明上下,以明徳相承,其於天下之事無不見也文選注二十一。 初九,履錯然錯,七各反。釋文。 六二,黃離元吉。 離,南方之卦。離為火,土托位焉,土色黃,火之子。喻子有明徳,能附麗於其父之道。文王之一作大子發﹑旦一無此字是也。慎成其業,則吉矣文選注二十,御覽一百四十六。
離卦の『象伝』「明両作、離。大人以継明照于四方」に、鄭玄の注:「作」は興起と訓ずる。いわゆる「明両」とは、君主の上下両代がともに聖明で、光明の徳を以て前後相承ける義を取る。それゆえ天下の事に見えざるなし(『文選』李善注巻二十一に見える)。初九の爻辞「履錯然」に、「錯」は七各反と読む(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「黄離元吉」に、鄭玄の注:離は南方の卦、離はまた火であり、土は自己の位を火に寄托する。土の色は黄、土はまた火の生む子。これは児子が光明の徳を具え、能く父親の正道に依附することを比喻する。周文王の児子(「文王之子」は一本に「文王大子」と作る)姫発・姫旦(一本に「旦」の字なし)がこのようである。彼らは慎みて父親の事業を成就したから、吉を獲た(『文選』李善注巻二十、『太平御覧』巻一百四十六に見える)。
九三,不擊缶而歌釋文。 艮,爻也。位近丑,丑上值弁星,弁星似缶。詩云,坎其擊缶。則樂器亦有缶詩宛丘,正義。 則大耋之差釋文云鄭無凶字。 年踰一作餘七十也詩車鄰正義禮記射義正義爾雅疏。
九三の爻辞は、鄭本は「不撃缶而歌」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:九三は艮爻で、その爻辰の位は「丑」に近く、丑の上は正に弁星に当たり、弁星の形状は缶に象る。『詩経』は「坎坎として瓦缶を敲く」と言う。缶もまた一種の楽器と算するが見える(『詩経・陳風・宛丘』正義に見える)。「則大耋之嗟」は、鄭本は「則大耋之差」と作り、その下に「凶」の字なし(『経典釈文』はこのように言う)。鄭玄の注:「大耋」は年が七十を過ぐるを指す(「踰」は一本に「余」と作る。『詩経・秦風・車鄰』正義、『礼記・射義』正義、『爾雅』疏に見える)。
九四,突如其來如,焚如,死如,棄如。 震為長子,爻失正又□體兌。兌為附。決子居明法之家,而無正,何以自斷其君父,不忍也。突如,震之失正不知其所。如又為巽,巽為進退,不知所從。不孝之罪,五刑莫大焉。得用議貴之辟刑之,若如。所犯之罪,焚如,殺其親之刑,死如。殺人之刑,棄如。流宥之刑秋官掌戮疏。 麗王公也釋文。
九四の爻辞:「突然として来り、焚燒せられ、処死せられ、棄逐せられる。」鄭玄の注:震は取象を長子とする。この一爻はその正位を失い、卦中の互体にまた兌あり(此処原文に一字残缺)、兌は取象を附麗決断とする。子たるの身が明法を執掌する家に処りて自身正しからず、どうして自ら以て君父の罪を裁断せんや。それは心に忍びざるである。いわゆる「突如」は、震がその正を失いて安身する所を知らざる。この爻はまた互いに巽を出し、巽は進退不定を主る。それゆえ従う所なし。不孝の罪は、五刑のうちこれより重きなく、ただ「議貴」の法を援用して彼のために量刑するのみ。彼の犯す所の罪に拠れば:「焚如」は至親を殺害する者の受ける刑、「死如」は人を殺す者の受ける刑、「棄如」は流放宽宥の刑(『周礼・秋官・掌戮』疏に見える)。上九の『象伝』は、鄭本は「麗王公也」と作る(『経典釈文』に見える)。
巻中
咸(かん)
咸亨利貞。取女吉。 咸,感也。艮為山,兌為澤。山氣下,澤氣上,二氣通而相應,以生萬物,故曰咸也。其於人也,嘉會禮通,和順於義,乾事能正。三十之男有此三徳,以下二十之女,正而相親,說娶之,則吉也集解。 二氣感應以相與。 與,猶親也釋文。 初六,咸其拇。 足大指也釋文。 六二咸其腓。 膊,腸也膊,市臠反。釋文。 九五,咸其脢。 脢,背脊肉也釋文,正義。 媵口說也。 媵,送也釋文。咸道極薄,徒送口舌,言語相感而已。不復有志於其間正義。
咸卦の卦辞「亨、利貞、取女吉」に、鄭玄の注:「咸」は感応。下卦の艮は山、上卦の兌は沢。山気は下降し沢気は上昇し、二種の気が相通じて彼此感応し、それにより万物を生成する。それゆえ「咸」と言う。人事に就いて言えば、これは嘉美会合して礼が通じ、和順にして義に合い、事を成して能く正を守る。三十歳の男子がこの三種の徳行を具備し、二十歳の女子の下に屈することを肯んじ、正道を以て彼此親近し、歓喜して彼女を娶り入れれば、吉を得る(『周易集解』に見える)。『彖伝』の「二気感応以相与」に、鄭玄の注:「与」は親近と同義(『経典釈文』に見える)。初六の爻辞「咸其拇」に、鄭玄の注:「拇」は足の大指(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「咸其腓」に、鄭玄の注:「腓」はすなわち小腿肚(鄭本は「膊」と作り、市脔反と読み、腸と訓ずる。『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「咸其脢」に、鄭玄の注:「脢」は脊背の上の肉(『経典釈文』、『周易正義』に見える)。上六の『象伝』「滕口説也」は、鄭本は「媵口説也」と作る。鄭玄の注:「媵」は伝送と訓ずる(『経典釈文』に見える)。また注す:感応の道はここに至ってすでに極めて浅薄となり、口舌を以て伝え言語を以て相感ずるに頼るのみで、彼此にもはや真心実意はない(『周易正義』に見える)。
恒(こう)
恆亨無咎,利貞。 恆,久也。巽為風,震為雷。雷風相須而養物,猶長女承長男。夫婦同心而成家,久長之道也。夫婦以嘉會禮通,故無咎。其能和順乾事,所行而善矣集解。 初六,浚恆釋文。 九三,不恆其徳,咸承之羞釋文。 爻得正,□體為乾,乾有剛健之徳。體在巽,巽為進退,不恆其徳之象。又?體兌,兌為毀折,是將有羞辱也緇衣,正義。
恒卦の卦辞「亨、无咎、利貞」に、鄭玄の注:「恒」は長久。上卦の巽は風、下卦の震は雷。雷と風とが互相に依待して万物を滋養するは、長女が長男に承事するが如し。夫妻が同心して一つの家を成就するは、まさに長久の道である。夫妻が嘉美会合を以て礼を通行せしめるから、過失がない。彼らはまた和順に相待し家業を成就すること能くし、行う所は美善ならざるなし(『周易集解』に見える)。初六の爻辞は、鄭本は「浚恒」と作る(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞は、鄭本は「不恒其徳、咸承之羞」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:この一爻は陽位に居って正を得、互体を成して乾となり、乾は剛健の徳あり。しかしそれ自身は巽体に処り、巽は進退不定を主る。まさに德行が常を守る能わざるの象。この爻はまた互いに兌を出し、兌は毀折。まさに羞辱を受けんとするが見える(『礼記・緇衣』正義に見える)。
六五,恆其徳貞。婦人吉,夫子凶。 以陰爻而處尊位,是天子之女。又?體兌,兌為和說至尊,主家之女以和說,乾家事,問正於人,故為吉也。應在九二,又男子之象。體在巽,巽為進退,是無所定而婦言是從,故云夫子凶也緇衣注,正義。 上六,振恆。 振,搖落也釋文。
六五の爻辞「恒其徳、貞。婦人吉、夫子凶」に、鄭玄の注:陰爻を以て尊位に居るは、これは天子の女。この爻はまた互いに兌を出し、兌は和悦を主る。身分極めて尊く家事を主持する女子が、和悦の態度を以て家務を操辦し、事に遇ってはまた人にどうすれば正当と算するかを請教する。それゆえ吉を得る。それと相応するは九二、それは男子の象。九二は巽体に処り、巽は進退不定を主る。彼が毫も主見なく一味に婦人の言に聴従するが見える。それゆえ「夫子凶」と言う(『礼記・緇衣』鄭注及び正義に見える)。上六の爻辞「振恒」に、鄭玄の注:「振」は揺動墜落(『経典釈文』に見える)。
遯(とん)
遯亨,小利貞。 遯,逃去之名也。艮為門闕,乾有健徳。?體有巽,巽為進退,君子出門,行有進退,逃去之象。二五得位而有應,是用正道,得禮見召聘始仕他國,當尚嗛。嗛,小其和順之道。居小官,乾小事,其進以漸,則逺妬忌之害。昔陳敬仲奔齊辭卿是也集解。 有疾憊也。 憊,困也釋文。 小人否備鄙反。 否,塞也釋文。
遯卦の卦辞「亨、小利貞」に、鄭玄の注:「遯」は逃避退去の名称。下卦の艮は門闕、上卦の乾は剛健の徳あり。卦中の互体に巽あり、巽は進退を主る。君子が家門を出でて、行動のあいだに進むも退くもあるは、まさに逃避退去の象。九二と六五は各々その位を得て彼此相応するは、正道を以て行事し、礼に合するを以て征召聘請を受け、始めて別国に出仕することを言う。この時は謙退を崇尚すべし——いわゆる謙退とは、自己の和順にして人を待つ道を低く放つこと。小官を担任し小事を弁理し、一歩一歩ゆっくり上進すれば、傍人の嫉妬陥害から遠く離れることができる。昔、陳敬仲が斉国に逃奔して卿位を辞謝したは、まさにこのような事である(『周易集解』に見える)。九三の『象伝』「有疾憊也」に、鄭玄の注:「憊」は困頓と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「小人否」の「否」の字は備鄙反と読み、鄭玄の注:「否」は閉塞と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
大壮(たいそう)
壯,氣力浸強之名釋文。 九三,累其角釋文。 六五,喪羊于易音亦。 謂佼易也釋文。 不祥也釋文。 祥,善也同上。
大壮卦の卦名に、鄭玄の注:「壮」は気力が漸々強盛なるの名称(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞は、鄭本は「累其角」と作る(『経典釈文』に見える)。六五の爻辞「喪羊于易」に、「易」の音は亦。鄭玄の注:この「易」は「佼易」を言い、平坦にして交接の場地を指す(『経典釈文』に見える)。上六の『象伝』は、鄭本は「不祥也」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「祥」は善と訓ずる(同上)。
晋(しん)
晉,康侯用錫馬蕃。 庶,康尊也,廣也釋文。蕃發袁反庶止奢反,謂蕃遮禽也同上。 晝日三接音□。 接,勝也王氏。 象曰:明出地上,晉君子以自照明徳。 地雖生萬物,日出於上,其功乃著,故君子法之。而以明自照其徳集解。 初六,晉如摧如。 摧,讀如南山崔崔之崔釋文。 六二,晉如愁如愁子小反。 愁,變色貌釋文。 九四,晉如鼫鼠。 詩云:鼫鼠鼫鼠,無食我黍。謂大鼠也正義。 六五矢得勿恤釋文。
晋卦の卦辞「康侯用錫馬蕃庶」に、鄭玄の注:「康」は尊崇、また広大と訓ず(『経典釈文』に見える)。「蕃」は発袁反と読み、「庶」は止奢反と読む。藩籬を以て禽獣を遮攔することを言う(同上)。「昼日三接」の「接」の字の注音は、原書は此処に一字を欠く。鄭玄の注:「接」は勝と訓ずる(王応麟輯本に見える)。『象伝』の言う「明出地上、晋。君子以自昭明徳」(鄭本は「昭」を「照」と作る)に、鄭玄の注:大地は万物を生育する能くすと雖も、必ず太陽が地上より升り出づるを待って、その功效は初めて顕著となる。それゆえ君子はこの象に效法し、自身の光明を以て自己の德行を照察する(『周易集解』に見える)。初六の爻辞「晋如摧如」に、鄭玄の注:「摧」は『詩経』の「南山崔崔」の「崔」の如く読む(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「晋如愁如」に、「愁」は子小反と読み、鄭玄の注:「愁」は臉色が改変する貌(『経典釈文』に見える)。九四の爻辞「晋如鼫鼠」に、鄭玄の注:『詩経』は「鼫鼠よ鼫鼠よ、我が黍子を食らうな」と言う、大鼠を指す(『周易正義』に見える)。六五の爻辞は、鄭本は「矢得勿恤」と作る(『経典釈文』に見える)。
明夷(めいい)
明夷,利艱貞。 夷,傷也。日出地上,其明乃光。至其入地,明則傷矣,故謂之明夷。日之明傷,猶聖人君子有明徳,而遭亂世,抑在下位,則宜自艱無乾事政,以避小人之害集解。 以蒙大難。 蒙,猶遭也釋文。 文王似之釋文。 箕子似之釋文。
明夷卦の卦辞「利艱貞」に、鄭玄の注:「夷」は損傷。太陽が地面より升り出づれば、その光明は初めて照耀する。落ちて地下に入るに及んで、光明は損なわれる。それゆえこの卦を「明夷」と言う。太陽の光明が損なわるるは、聖人君子が光明の徳を懐きながら乱世に遭逢し、下位に抑圧せらるるが如し。この時は自ら艱難に処り、政事を操持せず、以て小人の加害を躲避すべし(『周易集解』に見える)。『彖伝』の「以蒙大難」に、鄭玄の注:「蒙」は遭遇と同義(『経典釈文』に見える)。『彖伝』の「文王以之」「箕子以之」の二句は、鄭本はいずれも「似之」と作る(『経典釈文』に見える)。
六二,明夷睇於左股釋文。 旁視為睇。六二辰在酉,酉在一作是西方,又下體離,離為目。九三體在震。震,東方。九三又在辰,辰得巽氣為股。此謂六二有明徳,欲承九三,故云睇於左股內則正義。 用拯馬。 拯,承也釋文。
六二の爻辞は、鄭本は「明夷睇于左股」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:斜めに目を以て看るを「睇」と言う。六二は爻辰に拠り「酉」位に配され、酉は西方(「在」は一本に「是」と作る)。下卦はまた離、離は取象を目とする。九三は互体の震の中に処り、震は東方に属す。九三は爻辰に拠りまた「辰」位に配され、辰は巽気を得て取象を大腿とする。これは六二が光明の徳を懐き、上に九三を承けんと欲することを言う。それゆえ「斜めに左の大腿を看る」と言う(『礼記・内則』正義に見える)。「用拯馬壮」の「拯」の字に、鄭玄の注:「拯」は承挙と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
家人(かじん)
閒有家。 閒,習也釋文。 六二,無攸遂,在中饋。 二為陰爻,得正於內,五陽爻也。得正於外,猶婦人自修正於內,丈夫修正於外。無攸遂,言婦人無敢自遂也。爻體離又□體坎,火位在下,水在上,餁之象也。饋酒食也,故云在中饋也後漢書楊震傳注,王符傳注。 家人嗃嗃。 嗃嗃,苦熱之意釋文。 婦子嘻嘻。 嘻嘻,驕佚喜笑之意釋文。 王假有家。 假,登也釋文。
家人卦の初九の爻辞「閑有家」に、鄭玄の注:「閑」は習と訓ずる(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「无攸遂、在中饋」に、鄭玄の注:第二爻は陰爻で内卦に於て正位を得、第五爻は陽爻で外卦に於て正位を得る。婦人が家内にて自身の正道を修持し、丈夫が家外にて自身の正道を修持するが如し。「无攸遂」とは、婦人が自ら主張し独断専行することを敢えてせざるを言う。この爻の本体は離に属し、互体にまた坎あり(原文此処に一缺字あり):火が下にあり水が上にあるは、まさに烹煮飲食の象。「饋」はすなわち酒食を備弁すること。それゆえ彼女の本分は家中の飲食を操持するに在りと言う(『後漢書・楊震伝』注、『後漢書・王符伝』注に見える)。九三の爻辞「家人嗃嗃」に、鄭玄の注:「嗃嗃」は酷烈にして耐え難きの意(『経典釈文』に見える)。「婦子嘻嘻」に、鄭玄の注:「嘻嘻」は驕縦放逸にして嬉笑に節なきの貌(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「王假有家」に、鄭玄の注:「假」は升登と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
睽(けい)
睽音圭,釋文 睽,小事吉。 睽,乖也。火欲上,澤欲下。猶人同居而志異也。故謂之睽。二五相應,君陰臣陽,君而應臣,故小事吉集解。 六三,其牛觢。 牛角皆踴,曰觢釋文。 後說之壺釋文。
睽卦の卦名、「睽」の音は圭(『経典釈文』に見える)。卦辞「小事吉」に、鄭玄の注:「睽」は乖違背離。上卦の離火は上に升らんとし、下卦の兌沢は下に流れんとする。人が同住一処にして志向各々異なるが如し。それゆえこの卦を「睽」と言う。六五と九二とが相応し、君位は陰爻、臣位は陽爻。君主を以て俯就して臣下に応和するから、小事の上に於てのみ吉を得る(『周易集解』に見える)。六三の爻辞「其牛掣」は、鄭本は「其牛觢」と作る。鄭玄の注:両只の牛角がともに上に翘るを「觢」と言う(『経典釈文』に見える)。上九の爻辞「後説之弧」は、鄭本は「後説之壺」と作る(『経典釈文』に見える)。
蹇(けん)
往得中也。 中,和也釋文。 初六,宜待時也釋文。 六四,往蹇來連連如字。 連,遲久之意釋文。
蹇卦の『彖伝』「往得中也」に、鄭玄の注:「中」は和と訓ずる(『経典釈文』に見える)。初六の『象伝』は、鄭本は「宜待時也」と作る(『経典釈文』に見える)。六四の爻辞「往蹇来連」に、「連」は本字に依って読み、鄭玄の注:「連」は遅緩にして長く拖り延びるの意(『経典釈文』に見える)。
解(かい)
天地解而雷雨作。雷雨作而百果草木皆甲宅。 木實曰果,解讀如人倦之解。解謂坼嘑嘑火亞反,皮曰甲,根曰宅。宅居也文選蜀都賦注。
解卦の『彖伝』「天地解而雷雨作、雷雨作而百果草木皆甲坼」(鄭本は「坼」を「宅」と作る)に、鄭玄の注:樹上に結ぶ実を「果」と言う。「解」は人が疲倦松懈するの「解」の如く読む。いわゆる「解」とは、種子の外殻が開裂することを指す(「坼」は「嘑」と作り、火亜反と読む)。外の硬殻を「甲」と言い、底下の根を「宅」と言う。「宅」はすなわち安居(『文選・蜀都賦』李善注に見える)。
損(そん)
艮為山,兌為澤。□體坤,坤為地,山在地上,澤在地下,澤以自損,增山之髙也。猶諸侯損其國之富,以貢獻於天子,故謂之損矣集解。 二簋可用亨。 四以簋進黍稷於神也。初與二直,其四與五承上,故用二簋,四巽爻也,巽為木。五離爻也,離為日。日體圜木器而圜簋象也。 君子以懲忿懫欲考工記旊人疏,少牢饋食禮疏,詩權輿正義。 徵,猶清也。懫,止也釋文。
損卦の卦名に、鄭玄の注:上卦の艮は山、下卦の兌は沢。互体を成して坤となり、坤は地。山は地の上にあり、沢は地の下にあり、沢は自らを減損して山を增高する。諸侯が自ら国中の財富を減損して天子に向かって進貢するが如し。それゆえこの卦を「損」と言う(『周易集解』に見える)。卦辞「二簋可用享」に、鄭玄の注:第四爻は簋を用いて黍稷を盛り神に進献する。初爻と二爻とが正に相當し、四爻と五爻とは上に尊位を承く。それゆえ両只の簋を用いる。第四爻は巽爻、巽は木。第五爻は離爻、離は日、日体は円。円形の木器はまさに簋の取象。『象伝』の「君子以懲忿窒欲」は、鄭本は「君子以征忿懫欲」と作る(『考工記・旊人』疏、『儀礼・少牢饋食礼』疏、『詩経・秦風・権輿』正義に見える)。鄭玄の注:「征」は澄清と同義、「懫」は止と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
或益之十朋之龜。 案爾雅云:十朋之龜者,一曰神龜、二曰靈龜、三曰攝龜、四曰寶龜、五曰文龜、六曰筮龜、七曰山龜、八曰澤龜、九曰水龜、十曰火龜禮器正義,正義。
六五の爻辞「或益之十朋之亀」に、鄭玄の注:『爾雅』の説く所を考えれば、「十朋之亀」とは十種の亀を指す:一は神亀、二は霊亀、三は摂亀、四は宝亀、五は文亀、六は筮亀、七は山亀、八は沢亀、九は水亀、十は火亀(『礼記・礼器』正義、『周易正義』に見える)。
益(えき)
益,利有攸往,利涉大川。 陰陽之義,陽稱為君,陰稱為臣。今震一陽二陰,臣多於君矣。而四體巽之不應初,是天子損其所有,以下諸侯也。人君之道,以益下為徳,故謂之益也。震為雷,巽為風。雷動風行,二者相成。猶人君出教令,臣奉行之,故利有攸往,利涉大川也集解。
益卦の卦辞「利有攸往、利渉大川」に、鄭玄の注:陰陽の義例に拠れば、陽は君と称し、陰は臣と称す。今、下卦の震は一つの陽爻・二つの陰爻で、臣が君より多い。しかるに六四は巽体に処り、初九と相応せず。これは天子が自己の有する所を減損して、以て己を屈げ諸侯に下交することを表示する。君主たるの道理は、在下の者を增益するを以て徳とする。それゆえこの卦を「益」と言う。下卦の震は雷、上卦の巽は風。雷が一たび鼓動すれば風は随って行き、両者は相輔相成す。君主が教令を頒下して臣下が奉行するが如し。それゆえ「利有攸往、利渉大川」と言う(『周易集解』に見える)。
夬(かい)
夬,揚于王庭。 夬,決也。陽氣浸長至於五,五尊位也,而陰先之。是猶聖人積徳說天下,以漸消去小人,至於受命為天子,故謂之夬。揚,越也。五□體乾,乾為君,又居尊位,王庭之象也。陰爻越其上,小人乗君子,罪惡上聞於聖人之朝,故曰夬,揚于王庭也集解。 九二,惕號音號釋文莫夜莫如字同上。 莫,無也。無夜,非一夜釋文。 九三壯於頯。 頯,夾面也釋文。 其行趀趄趀,七私反。趄,七餘反。釋文。 九五,莧陸。 莧陸,一名商陸釋文,正義。
夬卦の卦辞「揚于王庭」に、鄭玄の注:「夬」は決断して清除すること。陽気は漸々滋長し、一直に第五爻にまで長する。第五爻は尊位であるが、上六のこの陰爻がなおその前に凌駕する。これは聖人が德行を積累し天下を悦服せしめ、逐歩に小人を剷除し、天命を受けて天子となるに至るまでを譬える。それゆえこの卦を「夬」と言う。「揚」は超越と訓ずる。第五爻は互体を成して乾となり、乾は君でありまた尊位に居る。まさに王庭の象。陰爻がその上に越居するは、小人が君子に凌駕し、罪悪が上に聖人の朝廷に達する。それゆえ「夬、揚于王庭」と言う(『周易集解』に見える)。九二の爻辞「惕号」に、「号」は号呼の音に依って読む(『経典釈文』に見える)。「莫夜」の「莫」は本字に依って読む(同上)。鄭玄の注:「莫」は无と訓ずる。「无夜」と言うは、専ら或る一つの夜を指すに非ざるを表明する(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「壮于頄」は、鄭本は「壮于頯」と作る。鄭玄の注:「頯」は面頬両旁の顴骨を指す(『経典釈文』に見える)。「其行次且」は、鄭本は「其行趀趄」と作り、「趀」は七私反と読み、「趄」は七余反と読む(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「莧陸」に、鄭玄の注:「莧陸」はまた商陸と言い、一種の草である(『経典釈文』、『周易正義』に見える)。
遘(こう)
遘釋文 遘,女壯,勿用取女。 遘,遇也。一陰承五陽,一女當五男,茍相遇耳,非禮之正,故謂之遘。女壯如是,壯健似淫,故不可娶。婦人以婉娩為其徳也集解。 后以施命詰四方詰,起一反。 詰,止也釋文。 以杞包瓜包百交反。 杞,栁也釋文。
姤卦は鄭本では卦名を「遘」と作る(『経典釈文』に見える)。卦辞「女壮、勿用取女」に、鄭玄の注:「遘」は相遇。一つの陰爻が五つの陽爻を承けるは、一つの女子が五人の男子に対するに等しく、ただ苟且に相遇うのみで、礼に合する正当の結合に非ず。それゆえこの卦を「遘」と言う。女子がこの地步にまで強壮ならば、壮健にして淫佚に近し。それゆえ彼女を娶る可からず。婦人は柔婉和順を以て徳とすべし(『周易集解』に見える)。『象伝』の「后以施命誥四方」は、鄭本は「誥」を「詰」と作り、「詰」は起一反と読む。鄭玄の注:「詰」は禁止と訓ずる(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「以杞包瓜」に、「包」は百交反と読み、鄭玄の注:「杞」は柳樹(『経典釈文』に見える)。
萃(すい)
萃,王假有廟釋文,利見大人亨。利貞,用大牲吉。利有攸往。 萃,聚也。坤為順,兌為說,臣下以順道,承事其君說,徳居上待之。上下相應,有事而和通,故曰萃。亨也案釋文亨字疑衍。假,至也。□有艮巽,巽為木,艮為闕,木在闕上,宮室之象也。四本震爻,震為長子,五本坎爻,坎為隠伏,居尊而隠伏,鬼神之象。長子入闕升堂,祭祖禰之禮也,故曰王假有廟。二本離爻也,離為目,居正應五,故利見大人矣。大牲,牛也。言大人有嘉會,時可乾事,必殺牛而盟。既盟則可以往,故曰利往集解。
萃卦の卦辞:「王假有廟(鄭本はこの如し、『経典釈文』に見える)、利見大人、亨、利貞、用大牲吉、利有攸往。」鄭玄の注:「萃」は聚集。下卦の坤は順、上卦の兌は悦。臣下は順従の道を以て君主に承事し、君主は能く人を悦ばす徳を以て上位に居り相待す。上下が彼此相応し、事に遇って能く和洽通達す。それゆえ「萃」と言う(「亨」の字に至っては、『経典釈文』は衍文を疑う)。「假」は至と訓ずる。卦中の互体に艮あり巽あり:巽は木、艮は門闕、木が門闕の上にあるは、まさに宮室の象。第四爻はもと震爻、震は長子。第五爻はもと坎爻、坎は隠伏。尊位に居りてしかも隠伏顕れざるは、まさに鬼神の象。長子が門闕に入り堂室に登るは、それは祖父と父親を祭祀する礼儀。それゆえ「王假有廟」と言う。第二爻はもと離爻、離は目、正位に居りて上に第五爻に応ず。それゆえ「利見大人」と言う。「大牲」とはすなわち牛:大人に嘉美の会盟あり、時機は正に事を成す可く、必ず牛を殺し歃血して盟と為す。盟約がすでに定まれば行動する所有り可し。それゆえ「利有攸往」と言う(『周易集解』に見える)。
君子以除戎器。 除,去也釋文。 一握為笑。 握,當讀為夫三為屋之屋釋文。 孚乃利用禴。 禴,夏祭名釋文。 齎諮涕洟釋文。 齎諮,嗟嘆之辭也。自目曰涕,自鼻曰洟釋文。
『象伝』の「君子以除戎器」に、鄭玄の注:「除」は去除修治と訓ずる(『経典釈文』に見える)。初六の爻辞「一握為笑」に、鄭玄の注:「握」は井田の制の「三夫為屋」の「屋」と読むべし(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「孚乃利用禴」に、鄭玄の注:「禴」は夏季祭祀の名称(『経典釈文』に見える)。上六の爻辞は、鄭本は「賚咨涕洟」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「賚咨」は嗟歎の声辞。目から流れ下るを「涕」と言い、鼻から流れ下るを「洟」と言う(『経典釈文』に見える)。
升(しょう)
升釋文 升,上也。坤地巽木,木生地中,日長而上。猶聖人在諸侯之中,明徳日益髙大也,故謂之升。升進益之象也集解。 六四,王用亨于岐山亨,許兩反。 亨,獻也釋文。
升卦は、鄭本は卦名を「升」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「升」は上進。上卦の坤は地、下卦の巽は木。樹木は地の中に生え、日一日と上に向かって長ず高し。これは聖人が諸侯の列に処り、光明の德行が日一日とさらに崇高広大となるが如し。それゆえこの卦を「升」と言う。上進增益の象を取る(『周易集解』に見える)。六四の爻辞「王用亨于岐山」に、「亨」は許両反と読み、鄭玄の注:「亨」は進献と訓じ、すなわち祭献の義(『経典釈文』に見える)。
困(こん)
困亨。 坎為月,□體離,離為日,兌為暗,昧日所入也。今上弇日月之明,猶君子處亂伐,為小人所不容,故謂之困也。君子雖困,居儉能說,是以通而無咎也集解。 九二,困于酒食,朱韍方來,利用亨祀。 二據初辰在未,未為土,此二為大夫有地之象。未上值天廚,酒食象。困于酒食者,采地薄不足已用也。二與日為體,離為鎮霍,爻四為諸侯有明徳,受命當王者。離為火,火色赤。四爻辰在午時,離氣赤為朱是也。文王將王,天子制用朱韍士冠禮疏。朱深於赤王氏。 九五,劓刖。 劓刖,當為倪□釋文。
困卦の卦辞「亨」に、鄭玄の注:下卦の坎は月、互体を成して離となり、離は日。上卦の兌は幽暗を主り、日光の沈没する処である。今、上卦が日月の光明を掩蔽するは、君子が乱世に身を処し小人の容する所とならざるが如し。それゆえこの卦を「困」と言う。君子は困頓すると雖も、能く倹約に自守して心中怡悦するから、それゆえ依然として通達して過失がない(『周易集解』に見える)。九二の爻辞「困于酒食、朱紱方来、利用亨祀」(鄭本は「紱」を「韍」と作る)に、鄭玄の注:九二は初六の上に拠り、爻辰に拠り「未」位に配され、未は土に属す。これは第二爻が取象を采地ある大夫とすること。未位の上は正に天厨星に当たり、酒食の象。いわゆる「困于酒食」は、采地があまりに薄く、酒食が自己の使用に足らざるを言う。第二爻は日と同体で、離は取象を南方の鎮山霍山とする。第四爻は取象を光明の徳を懐き天命を承受して王となるべき諸侯とする。離は火、火の色は赤。第四爻は爻辰に拠り「午」位に配され、離の気色は赤くして「朱」と成る。周文王がまさに王と称さんとする時、天子の制は正に朱色の蔽膝を用いた(『儀礼・士冠礼』疏に見える)。朱色は赤色より深し(王応麟輯本に見える)。九五の爻辞「劓刖」に、鄭玄の注:「劓刖」は「倪」某と作るべく、鄭本の改めた所の字はすでに残缺(『経典釈文』に見える)。
井(せい)
坎水也。巽木,桔槔也。?體離兌,離外堅中虛,瓶也。兊為暗澤,泉口也。言桔槔引瓶,下入泉口,汲水而出,井之象也。井以汲人,水無空竭,猶君子以政教養天下,惠澤無窮也集解。井法也釋文。 汔至亦未繘井 繘,綆也釋文。 羸其瓶。 羸,讀曰虆釋文。
井卦の卦名に、鄭玄の注:上卦の坎は水、下卦の巽は木、汲水の桔槔を指す。互体に離あり兌あり:離は外が堅実で中間が空虚、瓶罐の象。兌は幽暗の水沢、泉眼の象。これは桔槔を以て瓶罐を提げ、下に泉口へ探入し、水を汲み上げることを言う、まさに井の取象。井は人に汲取を供し、水源は枯竭せず、君子が政治教化を以て天下を養育し、恩恵が沢被して窮まりなきが如し(『周易集解』に見える)。鄭玄はまた注す:井は取法すべき准則(『経典釈文』に見える)。卦辞「汔至亦未繘井」に、鄭玄の注:「繘」は汲水の繩索(『経典釈文』に見える)。「羸其瓶」に、鄭玄の注:「羸」は「虆」と読み、纏繞繋掛の義(『経典釈文』に見える)。
九二,井谷射鮒,甕釋文敝漏。 九二坎爻也。坎為水,上直巽。九三艮爻也,艮為山,山下有井,必因谷水所生魚。無大魚,但多鮒魚耳,言微小也。夫感動天地,此魚之至大,射鮒井谷,此魚之至小,故以相況文選呉都賦注。甕,停水器也釋文。 井渫不食。 謂已浚渫也,猶臣修正其身,以事君也文選登樓賦注。
九二の爻辞「井谷射鮒、瓮敝漏」(「瓮」の字は鄭本この如し、『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:九二は坎爻、坎は水、上面は正に巽に当たる。九三は艮爻、艮は山。山下に井あり、井の中は必ず山谷の水に因りて魚を生ず。この種の地方は大魚を養う能わず、ただ鮒魚を多くするのみ、これはそれの微小なるを形容する。天地を感動する能くするは、それは魚中の最大。井谷の裡で鮒魚を射取するは、それは魚中の最小。それゆえ持ち来たって両相に比照する(『文選・呉都賦』李善注に見える)。「瓮」は水を貯える器皿(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「井渫不食」に、鄭玄の注:「渫」は井がすでに淘洗し清潔なりしを言い、臣子が自身を修治端正して君主に事奉するが如し(『文選・登楼賦』李善注に見える)。
革(かく)
革,改也。水火相息而更用事,猶王者受命,改正朔,易服色,故謂之革集解,釋文。
革卦の卦名に、鄭玄の注:「革」は変改。水と火とが互いに熄滅し交代して当令用事するは、帝王が天命を承受し、暦法正朔を更改し車馬服色を変換するが如し。それゆえこの卦を「革」と言う(『周易集解』、『経典釈文』に見える)。
鼎(てい)
鼎,象也。卦有木火之用,□體乾兌,乾為金,兌為澤。澤鍾金而含水,爨以木火,鼎亨孰物之象。鼎亨孰以養人,猶聖君興仁義之道以教天下也,故謂之鼎矣集解。 君子以正位凝命。 凝,成也釋文。
鼎卦の卦名に、鄭玄の注:「鼎」は取象して名を立てた。この卦は下に巽で木、上に離で火、木火の烹煮の用あり。互体を成して乾となり兌となり、乾は金、兌は沢——沢の中に金属を聚積しまた水を含み、さらに木柴と火を以て焼煮するは、まさに鼎が食物を烹熟する象。鼎は食物を烹熟して人を養い、聖明の君主が仁義の道を興起して天下を教化するが如し。それゆえこの卦を「鼎」と言う(『周易集解』に見える)。『象伝』の「君子以正位凝命」に、鄭玄の注:「凝」は成就と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
初六,鼎顛趾,利出。否,得妾以其子,無咎。 顛,踣也。趾,足也。無事曰趾,陳設曰足。爻體巽為股,初爻在股之下,足象也。足所以承正,鼎也。初陰爻而柔,與乾同體,以否正承乾。乾為君以喻君,夫人事君若失正禮,踣其為足之道,情無怨則當以和,義出之然。如否者,嫁於天子,雖失禮無出道,廢逺之而巳。若其無子,不廢逺之,后尊如故。其犯六,出則廢之逺之。子廢,坤為順,又為子,母牛今在后妃之旁側,妾之例也。有順徳,子必賢,賢而立以為世子,又何咎也士昏禮疏,內則正義,御覽一百四十五。
初六の爻辞は、鄭本は「鼎顛趾、利出否、得妾以其子、无咎」と読む。鄭玄の注:「顛」は傾倒仆倒、「趾」は脚——閑置して用いざる時は「趾」と称し、陳設備用する時は「足」と称す。この爻は巽体に処り、巽は取象を大腿とし、初爻は大腿の下にあり、まさに脚の象。脚は鼎身を端正に承托するのに用いる。初六は陰爻にして柔弱で、乾と同体、もとより正道を以て乾に承事すべし。乾は君、以て国君と丈夫を比喻する。婦人が丈夫に事奉して正礼を失えば、自己の鼎足たるの本分を傾覆したに等しい。しかるに情分の上にもし怨恨なくんば、和順を以て相待し、道義の上より彼女を出弃すべし。いわゆる「出否」とは、彼女の嫁する所がもし天子ならば、たとえ礼を失すとも出弃の法なく、ただ廃置して疏远するのみ。もし彼女が子を生まなければ、廃黜疏远せず、后位の尊は従前の如し。ただ「七出」の条目に触犯したるのみ、彼女を出弃し廃置疏远する。生む所の子が廃せらるるに至っては、坤は順にしてまた子たるに因る。母牛が今、后妃の身旁に処るは、正に妾媵の体例に合す。妾にもし順徳あらば、生む所の子は必ず賢能、賢能にして彼を世子と立てば、また何の過失あらん(『儀礼・士昏礼』疏、『礼記・内則』正義、『太平御覧』巻一百四十五に見える)。
我仇有疾。 怨耦曰仇釋文。 雉膏不食。 雉膏,食之美者釋文。 九四,鼎折足,覆公餗,其刑剭音屋,釋文。 糝,謂之餗。震為竹,竹萌日筍,筍者,餗之為菜也。餗,美饌,是一作具八珍之食。鼎三足,三公象。若三公傾覆王之美道,屋中刑之天官醢人疏,秋官司烜氏疏,詩韓奕正義。 六五,金鉉。 金鉉,喻明道能舉君之官職也文選西征賦注,唐律義疏。
九二の爻辞「我仇有疾」に、鄭玄の注:怨を結んだ配偶を「仇」と言う(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「雉膏不食」に、鄭玄の注:「雉膏」は食物中の美味(『経典釈文』に見える)。九四の爻辞「鼎折足、覆公餗、其形渥」は、鄭本は「其刑剭」と作り、「剭」の音は屋(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:米屑を用いて調和した肉羹を「餗」と言う。震は取象を竹とし、竹の初めて生ずる芽を笋と言い、笋はすなわち「餗」の裡に配する菜。「餗」は美味の食饌で、(「是」は一本に「具」と作る)八珍のような佳肴。鼎は三只の脚あり、まさに三公の象。もし三公が君王の美好なる治道を傾覆せば、屋内に於て彼に刑を行う(『周礼・天官・醢人』疏、『周礼・秋官・司烜氏』疏、『詩経・大雅・韓奕』正義に見える)。六五の爻辞「金鉉」に、鄭玄の注:「金鉉」は能く治道を昭明し、君主の需とする官員を挙薦する賢臣を比喻する(『文選・西征賦』李善注、『唐律疏議』に見える)。
震(しん)
震亨。震為雷,雷動物之氣也。雷之發聲,猶人君出政教以動國中之人也,故謂之震。人君有善聲,教則嘉會之禮通矣集解詩召南正義。 震來虩虩 恐懼貌釋文。 笑言啞啞。 樂也釋文。
震卦の卦辞「亨」に、鄭玄の注:震は取象を雷とし、雷は万物を鼓動する気。雷の声が一たび発すれば、君主が政令教化を頒下して全国の人を鼓動するが如し。それゆえこの卦を「震」と言う。君主に美好の声誉と教化とあれば、嘉美会合の礼は通行す(『周易集解』、『詩経・召南』正義に見える)。卦辞「震来虩虩」に、鄭玄の注:「虩虩」は恐懼の貌(『経典釈文』に見える)。「笑言啞啞」に、鄭玄の注:「啞啞」は歓楽の声(『経典釈文』に見える)。
震驚百里,不喪匕鬯。 驚之言,驚戒也。雷發聲聞於百里,古者諸侯之象。諸侯之出教令,能驚戒其國疆之內詩召南正義,則守其宗廟社稷。為之祭主,不亡其匕與鬯也。人君於祭之禮,尚一作匕牲體薦鬯而已,其餘不親為也一雲其餘不足觀也。特牲饋食禮疏。升牢於俎,君匕之,臣載之。鬯秬酒芬芳條鬯因名焉集解。
卦辞「震惊百里、不喪匕鬯」に、鄭玄の注:「惊」は警戒の意。雷の声が一たび発すれば百里の外まで伝わることを得、これは正に古の諸侯の封域の象。諸侯が教令を頒下すれば、自己疆域の内の人を警戒すること能くすれば(『詩経・召南』正義に見える)、宗廟社稷を守り得て、祭祀の主に充当し、手中の匕と鬯を失わず。君主の祭礼の上に於ては、ただ(「尚」は一本に「匕」と作る)親手に匕を以て牲体を取り、鬯酒を進献するのみで、其余の事は自ら為さず(一本に「其余不足観也」と作る。『儀礼・特牲饋食礼』疏に見える)。牲体を俎の上に升放する時、国君は匕を以て牲を取り、臣子はそれを安頓する。「鬯」は黒黍を以て釀した酒で、気味は芬芳にして条暢、これに因りて名を得た(『周易集解』に見える)。
億喪貝億於力反。 十萬曰億釋文。 六三,震蘇蘇。 蘇蘇,不安也釋文。 上六,震索索,視矍矍。 索索,猶縮。縮,足不正也。矍矍,目不正釋文。
六二の爻辞「億喪貝」に、「億」は于力反と読み、鄭玄の注:十万を「億」と言う(『経典釈文』に見える)。六三の爻辞「震蘇蘇」に、鄭玄の注:「蘇蘇」は心神安らかならざる貌(『経典釈文』に見える)。上六の爻辞「震索索、視矍矍」に、鄭玄の注:「索索」は「縮縮」の如く、歩脚の端正ならざる貌。「矍矍」は眼神の游移して定まらざる貌(『経典釈文』に見える)。
艮(ごん)
艮其背。 艮為山,山立峙各於其所,無相順之時,猶君在上,臣在下,恩敬不相與通,故謂之艮也集解。艮之言很也釋文。 九三,艮其限列其夤釋文。 限,要也釋文。
艮卦の卦辞「艮其背」に、鄭玄の注:艮は取象を山とし、衆山は各々自己の位置に矗立し、従来彼此順従する時なし。君主が上に在り臣子が下に在り、恩情と敬意とが隔絶して相通ぜざるが如し。それゆえこの卦を「艮」と言う(『周易集解』に見える)。鄭玄はまた注す:「艮」は狠戾抵触の意(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞は、鄭本は「艮其限、列其夤」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「限」はすなわち腰(『経典釈文』に見える)。
漸(ぜん)
初六,鴻漸于干。 干,謂大水之旁。故停水處者詩伐檀,正義,斯干正義,釋文,夫征不復,婦孕不育。 九三,上與九五□體為離,離為大腹,孕之象也。又□體為坎,坎為丈夫,坎為水,水流而去,是夫征不復也。夫既不復,則婦人之道顛覆,故孕而不育郊特牲,正義。孕,猶娠也釋文。
漸卦の初六の爻辞「鴻漸于乾」に、鄭玄の注:「乾」は大水の岸辺を指し、すなわち旧日に積水が停留したことのある処(『詩経・魏風・伐檀』正義、『詩経・小雅・斯干』正義、『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「夫征不復、婦孕不育」に、鄭玄の注:九三は上に九五と互体を成して離となり、離は取象を大腹とし、まさに懐孕の象。また互体を成して坎となり、坎は取象を成年男子とし、坎は同時にまた水、水は流れ去って回头せず。それゆえ「丈夫は遠行して帰らず」と言う。丈夫はすでに帰らず、婦人の道は顛覆錯乱する。それゆえ胎を懐くと雖も養い成す能わず(『礼記・郊特牲』正義に見える)。「孕」は身に胎を懐くと同義(『経典釈文』に見える)。
帰妹(きまい)
六三,歸妹以須。 須,有才智之稱。天文有須女,屈原之妹名女須詩桑扈正義。 女承筐無實。 宗廟之禮,主婦奉筐米王氏。士昏禮云婦入三月而後祭行詩葛屨正義。
帰妹卦の六三の爻辞「帰妹以須」に、鄭玄の注:「須」は才智ある者への称呼。天上の星宿に「須女」あり、屈原の姉は名を「女須」と言い、いずれもこの意を取る(『詩経・小雅・桑扈』正義に見える)。上六の爻辞「女承筐无実」に、鄭玄の注:宗廟祭祀の礼は、主婦が米を盛った筐を捧ぐによる(王応麟輯本に見える)。『儀礼・士昏礼』は新婦が門に入って三箇月の後に始めて祭祀に参与すると言う。それゆえこの時、彼女はまだ筐を奉じて祭を助ける実事はない(『詩経・魏風・葛屨』正義に見える)。
豊(ほう)
豐之言倎,充滿意也釋文。 日中則昃,月盈則食。 言皆有休巳,無常盛也公羊疏。 初九,遇其妃主。 嘉耦曰妃釋文。 雖旬無咎。 初修禮,上朝四,四以匹敵,恩厚待之,雖留十日不為咎。正以十日者,朝聘之禮。止於主國以為限,聘禮畢歸。大禮曰旬,而稍旬之外為稍,久留非常詩有客正義。
豊卦の卦名に、鄭玄の注:「豊」の意は「倎」で、充実盈満の義を取る(『経典釈文』に見える)。『彖伝』の「日中則昃、月盈則食」に、鄭玄の注:これは日月にいずれも停歇虧損の時あり、永遠に盛満して衰えざるはなしと言う(『春秋公羊伝』疏に見える)。初九の爻辞「遇其配主」は、鄭本は「遇其妃主」と作る。鄭玄の注:相匹配する美好なる伴侶を「妃」と言う(『経典釈文』に見える)。「雖旬无咎」に、鄭玄の注:初九は礼節を修飭し、上って九四を朝見する。九四は対等の礼・深厚の情意を以て彼を款待し、彼を留めて十天を満たすとも過失と算せず。十天と定めた所以は、朝聘の礼が賓客の主国に留まるをこれを以て限と規定するがゆえで、聘礼を弁じ了ればすなわち帰るべし。盛大の礼は十日を期とし、十日を超出すれば「稍」に属し、久しく留まり続ければ常規に合せず(『詩経・周頌・有客』正義に見える)。
六二,豐其菩。 菩,小席釋文。 九三,豐其韋一作芾。 韋,祭祀之蔽膝釋文。 日中見昧釋文。 折其右肱。 三艮爻。艮為手,□體為巽,巽又為進退,手而便於進退,右肱也。猶大臣用事於君,君能誅之,故無咎儀禮,覲禮疏。 闃其無人。 闃,無人貌釋文。 天際祥也釋文。 際當為瘵,瘵,病也釋文。 自戕也。 戕,傷也釋文。
六二の爻辞「豊其蔀」は、鄭本は「豊其菩」と作る。鄭玄の注:「菩」は小席子(『経典釈文』に見える)。九三の爻辞「豊其沛」は、鄭本は「豊其韋」と作る(一本は「芾」と作る)。鄭玄の注:「韋」は祭祀の時に繋する蔽膝(『経典釈文』に見える)。「日中見沫」は、鄭本は「日中見昧」と作る(『経典釈文』に見える)。「折其右肱」に、鄭玄の注:九三は艮爻、艮は取象を手とする。互体を成して巽となり、巽はまた進退を主る。手にして進退屈伸に便たるは、まさに右臂。これは大臣が君主の手下に於て権を当て事を用いるに、君主が能く彼を誅除することを譬える。それゆえ過失なしと言う(『儀礼・覲礼』疏に見える)。上六の爻辞「闃其无人」に、鄭玄の注:「闃」は空寂にして人無きの貌(『経典釈文』に見える)。「天際翔也」は、鄭本は「天際祥也」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「際」は「瘵」と作るべく、「瘵」は疾病(『経典釈文』に見える)。『象伝』の「自戕也」に、鄭玄の注:「戕」は傷害と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
旅(りょ)
初六,旅瑣瑣,斯其所取災。 瑣瑣,猶小小也。爻□體艮,艮小石。小小之象。三為聘客,初與二其介也。介當以篤實之人,為之而用,小人瑣瑣然,客主人為言不能辭,曰非禮,不能對,曰非禮。每者不能以禮行之,則其所以得罪儀禮聘禮疏。
旅卦の初六の爻辞「旅瑣瑣、斯其所取災」に、鄭玄の注:「瑣瑣」は細小卑瑣と言うが如し。この爻は互体を成して艮となり、艮は取象を小石とし、まさに細小の象。第三爻は出聘の賓客で、初爻と第二爻は彼の副介。副介に充当するは篤厚誠実の人を選ぶべし。もし瑣碎卑鄙の小人を用いれば、賓主のあいだで往来して話を伝えるに、辞謝すべきを辞謝せず「非礼」の一句を言うのみ、応答すべきを応答せずまた「非礼」の一句を言うのみで、事事いずれも礼に依って行う能わず。これが彼の罪咎を招来する所以の縁由(『儀礼・聘礼』疏に見える)。
兌(だ)
離澤兌 離,猶並也釋文。 九四,商兌。 商,隠度也釋文。
兌卦の『象伝』「麗沢、兌」は、鄭本は「離沢兌」と作る。鄭玄の注:「離」は并連と同義で、二つの水沢が相連なるを指す(『経典釈文』に見える)。九四の爻辞「商兌」に、鄭玄の注:「商」は暗中に揣度すること(『経典釈文』に見える)。
渙(かん)
渙,汗其大號。 號,令也文選三。
渙卦の九五の爻辞「渙汗其大号」に、鄭玄の注:「号」はすなわち号令。君王の頒下する大号令は汗水の出でて収め戻す能わざるが如し(『文選』李善注巻三に見える)。
節(せつ)
節以制度,不傷財,不害民 空府藏則傷財力,役繁則害民。二者奢泰之所致後漢書王符傳注。
節卦の『彖伝』「節以制度、不傷財、不害民」に、鄭玄の注:府庫の積蔵が掏空せられれば、すなわち財を傷つける。労役の征発が過重となれば、すなわち民を害する。この二種の弊病は、いずれも奢侈過度の招く所(『後漢書・王符伝』注に見える)。
中孚(ちゅうふ)
中孚,豚魚吉。 三辰在亥,亥為豕。爻失正,故變而從小,名言豚耳。四辰在丑,丑為鱉蟹,鱉蟹魚之微者。爻得正,故變而從大,名言魚耳。□體□一作三兌,兌為澤,四上值天淵。二五皆坎爻,坎為水,二浸澤,則豚利五,亦以水灌淵,則魚利。豚魚以喻小民也。而為明君賢臣,恩意所供養,故吉詩無羊正義。 乗木舟,虛也。 舟,謂集板,如今目空,木大為之,曰虛詩谷風正義。
中孚卦の卦辞「豚魚吉」に、鄭玄の注:第三爻は爻辰に拠り「亥」位に配され、亥は猪に属す。この爻はその正位を失うから、変じて小き者に従って名を立て、「豚」と称す。第四爻は爻辰に拠り「丑」位に配され、丑は鼈蟹に属し、鼈蟹は水族の中の細小。この爻はその正位を得るから、変じて大き者に従って名を立て、「魚」と称す。卦中の互体(原文此処に一缺字あり、一本は「三」と作る)に兌あり、兌は沢、第四爻の上は正に天淵星に当たる。第二爻と第五爻はいずれも坎爻、坎は水:第二爻は水を以て沢薮を浸潤し、小猪は便ちその利を得。第五爻もまた水を以て深淵に灌注し、魚は便ちその利を得る。豚と魚は以て小民を比喻するのに用い、彼らは明君賢臣の恩意の供養を受ける。それゆえ吉を得る(『詩経・小雅・無羊』正義に見える)。『彖伝』の「乗木舟虚也」に、鄭玄の注:「舟」は木板を拼合して成るもので、今見る所の中空の物に象る。大木を以て鑿空して作るをこそ「虚」と言う(『詩経・邶風・谷風』正義に見える)。
小過(しょうか)
小過亨,利貞。 中孚為陽,貞於十一月,子小過為陰,貞於六月。未法於乾坤王氏, 不宜上。 上如字謂君也釋文。 密雲不雨已尚也釋文。 尚,庶幾也釋文。
小過卦の卦辞「亨、利貞」に、鄭玄の注:中孚は陽に属し、その卦気は十一月の子月に正定す。小過は陰に属し、その卦気は六月の未月に正定す——これは乾が左行し坤が右行する体例を取法したもの(王応麟輯本に見える)。卦辞「不宜上」に、「上」は本字に依って読み、鄭玄の注:この「上」は君主を指す(『経典釈文』に見える)。六五の『象伝』は、鄭本は「密雲不雨、已尚也」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:「尚」は庶几・差不多と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
既済(きさい)
既,已也,盡也。濟,度也釋文。 六二,婦喪其茀。 茀,車蔽也釋文。 憊也。 劣弱也釋文。 繻有衣袽繻,音須,釋文。 九五,東鄰殺牛,不如西鄰之禴祭。 □體為坎,又□體為離。離為日,坎為月,日出東方,東鄰象。月出西方,西鄰象坊記正義。禴,夏祭之名王氏。
既済卦の卦名に、鄭玄の注:「既」は已経、また尽と訓ず。「済」は渡過(『経典釈文』に見える)。六二の爻辞「婦喪其茀」に、鄭玄の注:「茀」は車上の遮蔽(『経典釈文』に見える)。九三の『象伝』は、鄭本は「憊也」と作る。鄭玄の注:低劣衰弱の義(『経典釈文』に見える)。六四の爻辞「繻有衣袽」に、「繻」の音は須(『経典釈文』に見える)。九五の爻辞「東鄰殺牛、不如西鄰之禴祭」に、鄭玄の注:この卦は互体を成して坎となり、また互体を成して離となる。離は日、坎は月、太陽は東方より出で、是れ「東鄰」の象。月亮は西方より出で、是れ「西鄰」の象(『礼記・坊記』正義に見える)。「禴」は夏季祭祀の名称(王応麟輯本に見える)。
未済(びさい)
小狐汔濟。 汔,幾也釋文。
未済卦の卦辞「小狐汔済」に、鄭玄の注:「汔」は幾乎・将に近しと訓じ、小狐がまさに河を渡り去らんとすることを言う(『経典釈文』に見える)。
巻下
繋辞上伝
天尊地卑,乾坤定矣。卑髙已陳,貴賤位矣。 君臣尊卑之貴賤,如山澤之有髙卑也樂記正義。 動靜有常,剛柔斷矣。 雷,風也。陽動陰靜,剛柔之斷也同上,穀梁疏,公羊疏。 方以類聚,物以群分。 謂水火也同上。 在天成象。 日月星辰也同上。 在地成形。 謂草木鳥獸也同上,御覽三十九。 八卦相蕩釋文。 乾以易知易,音亦。釋文。 三極之道也。 三極,三才也釋文。 君子居則觀其象,而翫其辭釋文。
『繋辞上伝』の「天尊地卑、乾坤定矣。卑高以陳、貴賤位矣」(鄭本は「以陳」を「已陳」と作る)に、鄭玄の注:君臣尊卑のあいだの貴賤の分際は、山と沢とに高さ低さあるが如し(『礼記・楽記』正義に見える)。「動静有常、剛柔断矣」に、鄭玄の注:ここに言うは雷と風:陽は動を主り陰は静を主り、剛と柔との判分はこれに由りて定まる(同上、また『春秋穀梁伝』疏、『春秋公羊伝』疏に見える)。「方以類聚、物以群分」に、鄭玄の注:言う所は水と火(同上)。「在天成象」に、鄭玄の注:日月星辰を指す(同上)。「在地成形」に、鄭玄の注:草木鳥獣を指す(同上、また『太平御覧』巻三十九に見える)。「八卦相蕩」は、鄭本はこのように作る(『経典釈文』に見える)。「乾以易知」の「易」の字の音は亦(『経典釈文』に見える)。「三極之道也」に、鄭玄の注:「三極」はすなわち天・地・人の「三才」(『経典釈文』に見える)。「君子居則観其象而玩其辞」は、鄭本は「玩」を「翫」と作る(『経典釈文』に見える)。
震無咎者,存乎悔。 震,懼也釋文。 易與天地準。 準,中也,平也釋文。 原始及終釋文。 精氣為物,游魂為變,是故知鬼神之情狀,與天地相似,故不違。 精氣,謂七八也。游魂,謂九六也。七八木火之數,九六金水之數。木火用事,而物生,故曰精氣為物。金水用事而物變,故曰游魂為變。精氣謂之神,游魂謂之鬼。木火生物,金水終物。二物變化,其情與天地相似,故無所差違之也集解,樂記正義。
「震无咎者、存乎悔」に、鄭玄の注:「震」は恐懼と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「易与天地准」に、鄭玄の注:「准」は中正、また斉平と訓ず(『経典釈文』に見える)。「原始反終」は、鄭本は「原始及終」と作る(『経典釈文』に見える)。「精気為物、游魂為変、是故知鬼神之情状、与天地相似、故不違」に、鄭玄の注:「精気」は筮数の中の七と八を指し、「游魂」は九と六を指す。七・八は木と火の数、九・六は金と水の数。木火が当令用事すれば万物は就ち生長す、それゆえ「精気為物」と言う。金水が当令用事すれば万物は就ち衰変す、それゆえ「游魂為変」と言う。精気という一面を「神」と称し、游魂という一面を「鬼」と称す。木火は万物を生成し、金水は万物を終結す。この両者の変化、その情状は天地の運行に相似て、それゆえ毫も違わず(『周易集解』、『礼記・楽記』正義に見える)。
而道濟天下。 道,當作導釋文。 範圍天地之化。 範,法也釋文。 故君子之道尟矣。 尟,少也釋文。 臧諸用。 臧,善也釋文。 言天下之至嘖而不可惡也惡,烏落反。釋文。 言天下之至嘖而不可亂也。 嘖當為動釋文。 樞機之發,榮辱之主也。 樞,戶樞也。機,弩牙也。戶樞之發或明或闇,弩牙之發或中或否。以喻君子之言,或榮或辱一云,以譬言語之發有榮有辱。禮記曲禮正義,左傳襄二十五年正義。
「而道済天下」に、鄭玄の注:「道」は「導」と作るべく、引導の義(『経典釈文』に見える)。「範囲天地之化」に、鄭玄の注:「範」は法度模型と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「故君子之道鮮矣」は、鄭本は「鮮」を「尟」と作る。鄭玄の注:「尟」は少と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「蔵諸用」は、鄭本は「臧諸用」と作る。鄭玄の注:「臧」は善と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「言天下之至賾而不可悪也」は、鄭本は「賾」を「嘖」と作り、「悪」は烏落反と読む(『経典釈文』に見える)。「言天下之至賾而不可乱也」一句に、鄭玄の注:此処の「嘖」は「動」と作るべし(『経典釈文』に見える)。「枢機之発、栄辱之主也」に、鄭玄の注:「枢」は門軸、「機」は弩上の牙機。門軸が一たび転ずれば屋裡は或いは明るく或いは暗く、弩牙が一たび発すれば箭は或いは中たり或いは中たらず、用いて君子の出言が或いは栄耀を招き或いは耻辱を招くを譬える(一本に「以譬言語之発有栄有辱」と作る。『礼記・曲礼』正義、『左伝』襄公二十五年正義に見える)。
慎斯術也。 術道釋文 有功而不置, 置,當為徳一作志,釋文。 君不密則失臣,臣不密則失身,幾事不密則害成。 幾,微也。密,靜也。言不慎於微,而以動作,則禍變必成公羊疏。 野容誨淫。 飾其容而見於外,曰野。言妖野容儀,教誨淫泆釋文,後漢崔駰傳注。
「慎斯術也」に、鄭玄の注:「術」はすなわち道路方法(『経典釈文』に見える)。「有功而不徳」は、鄭本は「有功而不置」と作る。鄭玄の注:「置」は「徳」と作るべし(一本は「志」と作る。『経典釈文』に見える)。「君不密則失臣、臣不密則失身、幾事不密則害成」に、鄭玄の注:「幾」は隠微、「密」は静默にして宣べざること。これは人が隠微の際に若し謹慎せずして貿然と動作せば、禍乱変故必ず醸成するを言う(『春秋公羊伝』疏に見える)。「冶容誨淫」は、鄭本は「野容誨淫」と作る。鄭玄の注:容貌を修飾して外に炫露せしむるを、「野」と言う。これは妖冶放蕩の儀容は、人に淫佚を教うるに等しきを言う(『経典釈文』、『後漢書・崔駰伝』注に見える)。
大衍之數五十。其用四十有九。 天地之數五十有五。以五行氣通,凡五行減五,大衍又減一,故四十九也正義。衍,演也。揲,取也釋文。天一生水於北,地二生火於南,天三生木於東,地四生金於西,天五生土於中。陽無耦,陰無配,未得相成。地六成水於北,與天一併。天七成火於南,與地二並。地八成木於東,與天三並。天九成金於西,與地四並。地十成土於中,與天五並。大衍之數五十有五,五行各氣並,氣並而減五,惟有五十。以五十之數不可以為七八九六卜筮之占以用之,更減其一,故四十有九也月令正義。
「大衍之数五十、其用四十有九」に、鄭玄の注:天地の数はもと五十五。五行の気が両々相通ずるがゆえに、凡そ五行は五を減ぜられ、「大衍」はまた再び一を減ず、それゆえ実用の数は四十九(『周易正義』に見える)。「衍」は推演と訓じ、「揲」は分取と訓ず(『経典釈文』に見える)。鄭玄はまた注す:天一は北方に在りて水を生じ、地二は南方に在りて火を生じ、天三は東方に在りて木を生じ、地四は西方に在りて金を生じ、天五は中央に在りて土を生ず。この時陽は配偶なく、陰は対応なく、未だ各自成形する能わず。そこで地六は北方に在りて水を成し、天一と相并し、天七は南方に在りて火を成し、地二と相并し、地八は東方に在りて木を成し、天三と相并し、天九は西方に在りて金を成し、地四と相并し、地十は中央に在りて土を成し、天五と相并す。天地の数は共に五十五、五行は各々気数を以て相并し、相并したる後五を減ずれば、すなわち五十のみ残る。而るに五十という数は七・八・九・六これら卜筮の占を推し出すに足らず、それゆえ再び一を減じて四十九と為す(『礼記・月令』正義に見える)。
天數五,地數五,五位相得,而各有合。 天地之氣各有五。五行之次,一曰水,天數也。二曰火,地數也。三曰木,天數也。四曰金,地數也。五曰土,天數也。此五者陰無匹,陽無耦,故又合之。地六為天一匹也。天七為地二耦也。地八為天三匹也。天九為地四耦也。地十為天五匹也。二五陰陽各有合,然後氣相得,施化行也春秋正義。
「天数五、地数五、五位相得而各有合」に、鄭玄の注:天と地の気は各々五つあり。五行の次序は:一は水にして天数に属し、二は火にして地数に属し、三は木にして天数に属し、四は金にして地数に属し、五は土にして天数に属す。この五者の中、陰は未だ配匹なく陽は未だ対偶なし、それゆえ再びこれらに各々一数を配する:地六は天一と相配し、天七は地二と相偶し、地八は天三と相配し、天九は地四と相偶し、地十は天五と相配す。天と地この二つの五、陰陽各々合する所有り、しかる後に気数彼此契合して、生化施行を得て推行す(『春秋』正義に見える)。
以制器者尚其象。 此者,存於器象可得而用。一切器物及造立皆是春官太卜疏。 聖人之所以極深而研機也。 機,當作幾。幾,微也釋文。 蓍之徳圓而神。 蓍形圓而可以立變化之數,故謂之神也少牢饋食禮疏。 神武而不殺者夫殺,所戒反。釋文。 易有太極。 極中之道,淳和未分之氣也文選十九。 兩儀生四象。 布六於北方以象水。布八於東方以象木。布九於西方以象金。布七於南方以象火王氏。
「以制器者尚其象」に、鄭玄の注:この類の人の重んずる所は、器物の形象が以て実用に取るべきに在り。一切の器具用物および営造建置は、皆この類に属す(『周礼・春官・太卜』疏に見える)。「聖人之所以極深而研幾也」は、鄭本は「幾」を「機」と作る。鄭玄の注:「機」は「幾」と作るべく、「幾」は隠微(『経典釈文』に見える)。「蓍之徳円而神」に、鄭玄の注:蓍草の形体は円く、また能くこれに拠りて変化の数を推立す、それゆえこれを「神」と称す(『儀礼・少牢饋食礼』疏に見える)。「神武而不殺者夫」の「殺」の字は所戒反と読む(『経典釈文』に見える)。「易有太極」に、鄭玄の注:「太極」は極中の道にして、淳厚和洽にして未だ分化せざる元気(『文選』李善注巻十九に見える)。「両儀生四象」に、鄭玄の注:「六」を北方に布きて以て水に象り、「八」を東方に布きて以て木に象り、「九」を西方に布きて以て金に象り、「七」を南方に布きて以て火に象る(王応麟輯本に見える)。
定天下之吉凶,成天下之亹亹者,莫善乎蓍龜。 凡天下之善惡及沒沒之眾事,皆成定之。言其廣大無不包也公羊疏。 河出圖,洛出書,聖人則之。 春秋緯云:河以通乾,出天苞。洛以流坤,吐地符。河龍圖發,洛龜書成。河圖有九篇,洛書有六篇也集解。 有以尚賢也釋文。
「定天下之吉凶、成天下之亹亹者、莫善乎蓍亀」に、鄭玄の注:凡そ天下の善悪およびあの黙黙無聞なる種々の事は、蓍と亀は皆人に替わりて裁定し得て、見ゆるその包羅の広大、容れざる所なし(『春秋公羊伝』疏に見える)。「河出図、洛出書、聖人則之」に、鄭玄の注:『春秋緯』に曰く:黄河は上って乾に通じ、上天の符命を吐出す。洛水は下流して坤に通じ、大地の符信を吐出す。黄河に竜あり図を負いて出で、洛水に亀あり書を載せて成る。河図は共に九篇、洛書は共に六篇(『周易集解』に見える)。「有以尚賢也」は、鄭本はこのように作る(『経典釈文』に見える)。
繋辞下伝
古者包犧氏之王天下也。 包,取也一作聚。鳥獸全具,曰犧釋文。 黃帝、堯、舜垂衣裳。 始去羽毛公羊疏。金天氏、髙陽、髙辛、遵黃帝之道無所改作春官大司樂疏。 蓋取諸乾坤。 乾為天其色玄,坤為地其色黃王制正義。
『繋辞下伝』「古者包犠氏之王天下也」に、鄭玄の注:「包」は取と訓ず(一本は「聚」と作る)。鳥獣の躯体が完整無損なるを「犠」と言う(『経典釈文』に見える)。「黄帝・堯・舜垂衣裳」に、鄭玄の注:これは人々が初めて羽毛獣皮を脱ぎて布帛衣裳を改着すること(『春秋公羊伝』疏に見える)。少昊金天氏・顓頊高陽氏・帝喾高辛氏は、皆黄帝の道に遵循して更に更改を加えず(『周礼・春官・大司楽』疏に見える)。「盖取諸乾坤」に、鄭玄の注:乾は天、天の色は玄。坤は地、地の色は黄——上衣は玄色、下裳は黄色、正に此に取る(『礼記・王制』正義に見える)。
重門擊,以待虣客釋文。 豫,坤下震上,九四體震。又□體有艮,艮為門。震日所出,亦為門,重門象。艮又為手,巽爻也。應在四,皆木也。手持二木也。手持二木,以相敲,是為擊。擊為守備驚戒也。四又?體為坎,坎為盜。五離爻,為甲冑戈兵。盜甲冑持戈兵,是虣客也。又以其卦為豫,有守備則不可自佚天官宮正疏。
「重門撃柝、以待暴客」は、鄭本は「重門撃、以待虣客」と作る(『経典釈文』に見える)。鄭玄の注:豫卦は下に坤で上に震、九四は震体に処る。卦中の互体にまた艮あり、艮は取象を門とし、震は太陽の升出する所にして、また取象を門とす。両門相重なるは、正に「重門」の象。艮はまた取象を手とし、それに応ずる巽爻は第四位にあり、艮と巽は皆木に属す。手を以て二本の木を持ちて互相撃する、これすなわち「撃柝」、撃柝は守備警戒の為。第四爻はまた互体を成して坎となり、坎は取象を盗賊とし、第五爻は離爻にして取象を盔甲兵器とす。盗賊が甲を披き兵を執れば、それすなわち「暴客」。またこの一卦の名は「豫」、而して豫に安逸の義あれば、それゆえ守備あれば自ら安逸を図るべからずと言う(『周礼・天官・宮正』疏に見える)。
後世聖人易之以棺槨,蓋取諸大過。 大過者,巽下兌上之卦。初六在巽,體巽為木,上六位在巳,已當巽位,巽又為木,二木在外以夾四陽。四陽□體為二乾。乾為君,為父,二木夾君父一作是,棺槨之象檀弓正義。 上古結繩而治。 結繩為約,事大,大結其繩。事小,小結其繩正義。 後世聖人易之以書契。 書之於木,刻其側為契。各持其一,後以相考合書正義。
「後世聖人易之以棺槨、盖取諸大過」に、鄭玄の注:大過は下に巽で上に兌の卦。初六は巽体に処り、巽は木。上六は爻辰の位に拠り「巳」に在り、巳は正に巽の方位に当たり、巽はまた木。この二つの木爻は外に在り、中間の四つの陽爻を中に挟む。四つの陽爻は互体を成して二つの乾となり、乾は君・父たり。両木に君父を挟む(「父」は一本に「是」と作る)は、正に棺と槨の象(『礼記・檀弓』正義に見える)。「上古結繩而治」に、鄭玄の注:繩結を打ちて以て約信と為す:事大なればすなわち大結を打ち、事小なればすなわち小結を打つ(『周易正義』に見える)。「後世聖人易之以書契」に、鄭玄の注:事を木片に書き、木片の側辺に歯痕を刻して以て憑証と為し、双方各々半を執り、後日持ち来たって相互に対照す(『周易正義』に見える)。
陽一君而二民,君子之道也。陰二君而一民,小人之道也。 一君二民,謂黃帝,堯,舜。謂地方萬里,為方千里者百。中國之民居七千里,七七四十九,方千里者四十九。四裔之民居千里者五十一。是中國四裔二民共事一君。二君一民,謂三代之末。以地方五千里一君,有五千里之土,五五二十五,更足以一君。二十五始滿千里之方,五十乃當堯,舜一民之地,故云二君一民王制正義。
「陽卦一君而二民、君子之道也。陰卦二君而一民、小人之道也」に、鄭玄の注:いわゆる「一君二民」とは、黄帝・堯・舜の世を指す:あの時疆土は方円万里、折算して方千里の区塊共に百個。中原の民は七千里見方を占め、七乗七は四十九、すなわち方千里なる者四十九塊、四方辺裔の民は方千里なる者五十一塊を占む。これすなわち中原と四裔と両部分の民が共同して一位の君主に事奉する。いわゆる「二君一民」とは、夏商周三代の末世を指す:あの時一位の君主はただ方五千里の地のみ有し、五乗五は二十五塊、須らく更に另一位の君主の二十五塊を加え、始めて五十塊の方千里の地を満たし、堯・舜の時「一民」の占むる所の地域に相当す。それゆえ「二君一民」と言う(『礼記・王制』正義に見える)。
君子知微知章。 知微,謂幽昧。知章,謂明顯也文選西征賦注。 男女覯精。 覯,合也。男女以陰陽合其精氣詩草蟲正義。 因貳以濟民行。 貳當為弍釋文。 損徳之修也。 修,治也釋文。 困徳之辨也。 辨,別也。遭困之時,君子固窮,小人窮則濫徳,於是別也集解。 益長裕而不設。 設,大也。周禮考工曰:中其莖設其後考工桃氏疏。
「君子知微知彰」は、鄭本は「彰」を「章」と作る。鄭玄の注:「知微」は能く幽隐不明の事を察知し、「知章」は能く明らかに顕著已成の事を弁別す(『文選・西征賦』李善注に見える)。「男女構精」は、鄭本は「男女覯精」と作る。鄭玄の注:「覯」は交合と訓じ、男女は陰陽二気を以てその精気を交合す(『詩経・召南・草虫』正義に見える)。「因貳以済民行」に、鄭玄の注:「貳」は「弍」と作るべし(『経典釈文』に見える)。「損、徳之修也」に、鄭玄の注:「修」は整治と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「困、徳之辨也」に、鄭玄の注:「辨」は分別と訓ず。困厄に遭逢する時、君子は能く窮困に安守し、小人は一たび窮すれば放肆妄為す、徳行の高下はここに於て分別出づ(『周易集解』に見える)。「益、長裕而不設」に、鄭玄の注:「設」は大と訓ず。『周礼・考工記』の言う「中其茎、設其後」は、正にこの「設」の字の用法(『考工記・桃氏』疏に見える)。
若夫雜物算徳。 算,數也釋文。 則居可知矣居,音基。辭也。 知者觀其彖辭。 彖辭,爻辭也釋文。 當文王與紂之事耶。 據此言以易文王所作,斷可知矣左傳昭二年正義。 成天下之亹亹者。 亹亹,沒沒也釋文。 人謀鬼謀。 鬼謀,謂謀卜筮於廟門是也士冠禮疏。 愛惡相攻惡,烏落反。釋文。
「若夫雑物撰徳」は、鄭本は「撰」を「算」と作る。鄭玄の注:「算」は計数と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「則居可知矣」、その中の「居」の音は基、句中の語辞。「知者観其彖辞」に、鄭玄の注:ここに言う所の「彖辞」とは、爻辞を指す(『経典釈文』に見える)。「当文王与紂之事耶」に、鄭玄の注:この句に拠れば、『周易』は文王の作、断じて知るべし(『左伝』昭公二年正義に見える)。「成天下之亹亹者」に、鄭玄の注:「亹亹」はすなわち「没没」、黙々勤勉して已まざるを指す(『経典釈文』に見える)。「人謀鬼謀」に、鄭玄の注:いわゆる「鬼謀」とは、廟門の処に在りて卜筮に謀るを指す(『儀礼・士冠礼』疏に見える)。「愛悪相攻」の「悪」の字は烏落反と読む(『経典釈文』に見える)。
説卦伝
昔者,聖人之作易也。 謂伏犧,文王也尚書孔序正義。 參天兩地而倚數。 天地之數,備於十,乃三之以天,兩之以地,而倚托大演之數五十也。必三之以天,兩之以地者,天三覆,地二載,必極於數,庶幾得吉凶之審也正義。 發揮於剛柔 揮,揚也釋文。 窮理盡性以至於命。 言窮其義理,盡其人之情性,以至於命,吉凶所定文選注六十。 兼三才而兩之,故易六畫而成卦。 三才,天,地,人之道。六畫,畫六爻士冠禮疏。 雷風相薄。 薄,入也釋文。
『説卦伝』「昔者聖人之作《易》也」に、鄭玄の注:ここに言う「聖人」は伏羲と周文王を指す(『尚書』孔安国序正義に見える)。「参天両地而倚数」に、鄭玄の注:天地の数は十を以て足りとす。そこで三を用いて天数に乗じ、二を用いて地数に乗じ、拠りて大衍の数五十を推立す。必ず三を以て天に配し二を以て地に配する所以は、天に三重の覆いあり地に二重の載せあるがゆえ。須らく数を極処に推し、始めて吉凶の確切の数を求め得るの有望あらん(『周易正義』に見える)。「発揮于剛柔」に、鄭玄の注:「揮」は発揚と訓ずる(『経典釈文』に見える)。「窮理尽性以至于命」に、鄭玄の注:これは事物の義理を窮究し、人の情性を窮尽し、天命に通达するに至るまでを言い、吉凶はこれに由りて定まる(『文選』李善注巻六十に見える)。「兼三才而両之、故《易》六画而成卦」に、鄭玄の注:「三才」は天・地・人三者の道、「六画」はすなわち六爻を画出すること(『儀礼・士冠礼』疏に見える)。「雷風相薄」に、鄭玄の注:「薄」は入と訓ずる(『経典釈文』に見える)。
萬物出乎震,震東方也。齊乎巽,巽東南也。齊也,者言萬物之絜齊也。離也者,明也。萬物皆相見,南方之卦也。聖人南面而聴天下,嚮明而治,蓋取諸此也。坤也者,地也。萬物皆致養焉,故曰致役乎坤。兌,正秋也。萬物之所說也,故曰說。言乎兌,戰於乾,乾西北之卦也。言陰陽相薄也。坎者水也,正北方之卦也。勞卦也。萬物之所歸也,故曰勞乎。坎艮,東北之卦也。萬物之所成終而所成始也,故曰成。言乎艮。
『説卦伝』原文:万物は震より出づ、震は東方の卦。巽に至りて整斉す、巽は東南の卦。いわゆる「斉」とは、万物が此に至りて潔斉に長ずを言う。離とはすなわち明。万物は此に至りて皆彼此顕現す、それは南方の卦——聖人は南面して天下を聴治し、光明の方向に向かいて治理を施行す、概ねこれに取法せん。坤とはすなわち地。万物は皆ここに於て養育を得、それゆえ「致役乎坤」と言う。兌は正に秋季に当たる。万物は此に至りて皆欣悦す、それゆえ「説言乎兌」と言う。「戦乎乾」、乾は西北の卦、陰と陽とが此に於て相迫るを説く。坎とはすなわち水、正北方の卦にして、また労倦の卦、万物は此に至りて皆帰蔵す、それゆえ「労乎坎」と言う。艮は東北の卦、万物は此に至りて既にその終結を成就し、またその発端を開啓す、それゆえ「成言乎艮」と言う。
萬物出於震,雷發聲以生之也。齊於巽,相見於離,風搖動以齊之也。絜,猶新也。萬物皆相見,日照之使光大。萬物皆致養焉,地氣含養使有秀實也。萬物之所說,草木皆老,猶以澤氣說,成之戰,言陰陽相薄。西北陰也,而乾以純陽臨之,猶君臣對合也。坎勞卦也,水性勞而不倦,萬物之所歸也。萬物自春出生於地,冬氣閉藏,還皆入地,萬物之所成終而所成。始言萬物陰氣終陽氣始,皆艮之用事也漢上易九卷,周易折中。
鄭玄の注:万物が震より出づるは、雷が声響を発してそれらを催生する。巽に至りて整斉し、離に至りて相見るは、風の揺動がそれらを長じて斉らしむ。「絜」は「新」と同義。万物が皆彼此顕現すと言うは、太陽がそれらを照耀してそれらを光大せしむ。万物が皆養育を得と言うは、地気が涵含養護してそれらを抽穂結実せしむ。万物が此に至りて欣悦すと言うは、草木が皆老成して、仍り沢気に頼りてそれらを暢悦成就せしむ。「戦」に説き至るは、陰と陽とが互相逼迫するを講ず:西北はもと陰位に属し、而して乾は純陽の体を以てその上に臨む、たとえば君と臣とが両相対合するが如し。坎は労倦の卦、水の性質は労作して疲倦を知らず、万物は皆ここに帰蔵す。万物は春に自り地中より生じ出で、冬に至りて陽気閉蔵し、また皆地裏に帰る。万物が此に於て「終を成し始を成す」と言うは、陰気が此に至りて終結し陽気が此より始まるを講じ、これは皆艮が当令用事するの作用(朱震『漢上易伝』巻九、『周易折中』に見える)。
神也者,眇萬物而為言者也。 共成萬物,物不可得而分,故合謂之神漢上易。 莫盛乎艮盛音成。 盛,裹也釋文。 故水火相逮釋文。 兌為羊。 其畜好剛滷夏官羊人序官疏。 兌為口 上開似口漢上易。 乾為天。 天清明無形漢上易。 為瘠馬。 凡骨為陽,肉為陰同上。 為龍。 龍,讀為尨。取日出時色雜也漢上易。
「神也者、妙万物而為言者也」は、鄭本は「妙」を「眇」と作る。鄭玄の注:八卦は共同して万物を成就し、而して万物は浑然一体にして一々分割帰属する能わず、それゆえ合わせてこれを「神」と称す(朱震『漢上易伝』に見える)。「莫盛乎艮」、「盛」の音は成。鄭玄の注:「盛」は包裹(『経典釈文』に見える)。「水火相逮」は、鄭本は「故水火相逮」と作る(『経典釈文』に見える)。「兌為羊」に、鄭玄の注:この種の牲畜は性情が剛強粗野を喜好す(『周礼・夏官・羊人』序官疏に見える)。「兌為口」に、鄭玄の注:兌の上爻は断開し、形状は張開した口に象る(朱震『漢上易伝』に見える)。「乾為天」に、鄭玄の注:天は清朗明浄にして形体なし(朱震『漢上易伝』に見える)。「為瘠馬」に、鄭玄の注:凡そ骨は陽に属し肉は陰に属し、乾は純陽、それゆえ骨多く肉少なき瘦馬を取る(同上)。「為龍」に、鄭玄の注:「龍」は「尨」と読み、太陽の初めて出づる時の色彩駁雑の義を取る(朱震『漢上易伝』に見える)。
為専専,市戀反。釋文。 為大塗。 國中三道,曰塗。震上值房心,塗而大者,取房有三塗焉漢上易。 為萑葦。 竹類漢上易。 為反生。 生而反出也漢上易。 為繩直為墨晁氏云。 其於人也為宣髮。 宣髮,取四月靡草死。髮在人體,猶靡草在地考工車人疏。 為黃顙釋文。 為矯輮釋文。 為月。 臣象也文選月賦注。 為電。 取火明也。久明似日,暫明似電也集解。
「為専」、「専」は市恋反と読む(『経典釈文』に見える)。「為大涂」に、鄭玄の注:都城の中の三条の大道を「涂」と言う。震は星次の上に於て正に房宿と心宿とに当たる。道路と言いしかも大道と言う所以は、房宿の中に三条の通道あるの義を取る(朱震『漢上易伝』に見える)。「為萑葦」に、鄭玄の注:萑葦は竹の類の植物(朱震『漢上易伝』に見える)。「為反生」に、鄭玄の注:これは種子が発芽する時、反って外壳を頂いて上に向かい生じ出づるを言う(朱震『漢上易伝』に見える)。「為縄直」「為墨」は、鄭本はこの如し(晁説之の記に拠る)。「其於人也為宣髪」に、鄭玄の注:いわゆる「宣髪」とは、四月裏に靡草が枯死する象を取る。頭髪が人身に生ずるは、正に靡草が地上に生ずるが如し(『考工記・車人』疏に見える)。「為黄顙」「為矯輮」は、鄭本はこの如し(『経典釈文』に見える)。「為月」に、鄭玄の注:月は臣子の象(『文選・月賦』李善注に見える)。「為電」に、鄭玄の注:火の光明の義を取る——長久の光明は太陽に象り、短暫の光明は閃電に象る(『周易集解』に見える)。
為乾卦。 乾當為乾董遇本作乾。陽在外能乾正也釋文。 為鱉,為蟹,為蠃,為蚌,為龜。 皆骨在外考工梓人疏。 為科上藁。 科上者,陰在內為疾漢上易。 為徑路。 田間之道,曰徑路。艮為之者,取山間鹿兔之蹊初學記二十四。 為小指晁氏云。 為黚喙之屬。 謂虎豹之屬。貪冐之類。取其為山獸漢上易,釋文。 為陽今本羊。 此陽謂為養。無家女行賃炊爨,今時有之,賤於妾也漢上易,晁氏同。
「為乾卦」に、鄭玄の注:この「乾」は乾湿の「干」と読むべし(董遇本は正に「干」と作る)。陽爻が外に居りて能く物を乾燥端正せしむるがゆえ(『経典釈文』に見える)。「為鱉、為蟹、為蠃、為蚌、為亀」に、鄭玄の注:これらは皆骨甲が身外に長ずる者(『考工記・梓人』疏に見える)。「為科上槁」は、鄭本は「為科上藁」と作る。鄭玄の注:いわゆる「科上」とは、陰爻が内に在りて病を受く(朱震『漢上易伝』に見える)。「為径路」に、鄭玄の注:田間の小道を「径路」と言う。艮がこの象を取る所以は、山間の鹿兎が往来する小径の義を取る(『初学記』巻二十四に見える)。「為小指」は、鄭本はこの如し(晁説之の記に拠る)。「為黔喙之属」は、鄭本は「為黚喙之属」と作る。鄭玄の注:虎豹の類を指し、貪婪侵奪の獣類、それらが同じく山中の獣なるを取る(朱震『漢上易伝』、『経典釈文』に見える)。「為羊」は、鄭本は「為陽」と作る(今本は「羊」と作る)。鄭玄の注:この「陽」は「養」と解すべく、家室なき女子が出外して雇われて炊爨の事を為すを指す。今もなおこの種の人あり、地位は妾よりも尚低し(朱震『漢上易伝』に見える、晁説之の記も同じ)。
序卦伝
物生必蒙,故受之以蒙。蒙者,蒙也,物之穉也。 蒙幼小之貌。齊人謂萌為蒙也集解。 物穉不可不養也。 言孩稚不養,則不長也集解。 飲食必有訟,故受之以訟。 訟,猶爭一作諍也。言飲食之會,恆多爭也集解。 履然後安,故受之以泰晁氏云。 有大有,不可以盈晁氏云。 有大而能嗛,必豫,故受之以豫。 言同既大而有嗛徳,則於政事恬。豫,雷出地,奮豫。豫,行出而喜樂之意集解。
『序卦伝』「物生必蒙、故受之以蒙。蒙者蒙也、物之稚也」に、鄭玄の注:「蒙」は幼小の様子。斉地の人は草木の初生の芽を「蒙」と言う(『周易集解』に見える)。「物稚不可不養也」に、鄭玄の注:これは孩童幼稚にして、養育を加えざれば長大せずを言う(『周易集解』に見える)。「飲食必有訟、故受之以訟」に、鄭玄の注:「訟」は争執と同義(「争」は一本に「諍」と作る)。これは飲食聚会の場は、従来争執多しを言う(『周易集解』に見える)。「履而泰然後安、故受之以泰」は、鄭本は「履然後安、故受之以泰」と作る(晁説之の記に拠る)。「有大者不可以盈」は、鄭本は「有大有、不可以盈」と作る(晁説之の記に拠る)。「有大而能謙必豫、故受之以豫」に、鄭玄の注:これは既に盛大にしてまた能く謙退の徳有れば、政事を処理するに従容安適なるを言う。豫卦は雷が地中より奮然として出づる象、「豫」は行動を外に施して心中喜楽なるの意味を含む(『周易集解』に見える)。
豫必有隨。 喜樂而出,人則隨從。孟子曰:吾君不遊,吾何以休。吾君不豫,吾何以助。此之謂也正義。 可觀而後有所合。 易乾鑿度曰:陽起於子,陰起於午。天數大分,以陽出離,以陰入坎。坎為中男,離為中女。太乙之行,出從中男,入從中女。因陰陽男女之偶為終始也王氏。
「豫必有随」に、鄭玄の注:君上が心中喜楽して出行すれば、百姓は就ち彼に跟随す。『孟子』の引く所の夏諺に「我らの君王は出游せず、我らは何処より休息を得ん。我らの君王は巡豫せず、我らは何処より接済を得ん」と言うは、正にこの道理を説く(『周易正義』に見える)。「可観而後有所合」に、鄭玄の注:『易緯乾鑿度』に曰く:陽気は子位より起こり、陰気は午位より起こる。天数の大分划に就きて言えば、陽気を以て離より自り出で、陰気を以て坎より自り入る。坎は中男、離は中女。太一の神の運行は、出発する時は中男に依従し、帰入する時は中女に依従す——これは陰陽男女の配偶関係に憑りて終始を定む(王応麟輯本に見える)。
致飾然後亨,則盡矣亨,許兩反。釋文。 有無妄物,然後可畜項安世周易玩辭,晁氏同。 故受之以大過。 以養賢者,宜過於厚正義。 夫婦之道,不可以不久也。 言夫婦當有終身之義,夫婦之道謂咸恆也集解。 物不可以終久於其所,故受之以遯晁氏云。 主器者莫若長子。 謂父退居田里,不能備祭宗廟,長子當親視,滌濯鼎俎是也曲禮正義。
「致飾然後亨則尽矣」、その中の「亨」は許両反と読む(『経典釈文』に見える)。「有无妄然後可畜」は、鄭本は「有无妄物、然後可畜」と作る(項安世『周易玩辞』に見える、晁説之の記も同じ)。「故受之以大過」に、鄭玄の注:賢人を供養するに理当格外に従厚なるべきがゆえに、「過」という名目あり(『周易正義』に見える)。「夫婦之道、不可以不久也」に、鄭玄の注:これは夫婦のあいだに応に相守終身の道義あるべきを言う。いわゆる「夫婦之道」とは、咸卦と恒卦とを指す(『周易集解』に見える)。「物不可以久居其所、故受之以遁」は、鄭本は「物不可以終久于其所、故受之以遯」と作る(晁説之の記に拠る)。「主器者莫若長子」に、鄭玄の注:これは父親年老いて郷里に退居し、能く親ら完備して宗廟祭祀を主持する能わざれば、応に長子に由りて親ら照看し、鼎俎などの祭器を洗滌すべきを言う(『礼記・曲礼』正義に見える)。
雑卦伝
屯見而不失其居見,如字,釋文。 損益衰盛之始也釋文引見。會通今釋文無之。 兌說而巽伏也晁氏云。 蠱則飾也釋文。 大過顛也。 自此以下,卦音不協,似錯亂失正,弗敢改耳晁氏云。 小人道消也晁氏云。
『雑卦伝』「屯見而不失其居」、その中の「見」は本字に依りて読む(『経典釈文』に見える)。「損益、盛衰之始也」は、鄭本は「損益衰盛之始也」と作る(『経典釈文』はかつてこの条を引きたり、『会通』に見える。而して今伝わる『経典釈文』の裡には已にこの条なし)。「兌見而巽伏也」は、鄭本は「兌説而巽伏也」と作る(晁説之の記に拠る)。「蠱則飭也」は、鄭本は「蠱則飾也」と作る(『経典釈文』に見える)。「大過顛也」に、鄭玄の注:この句より下、各卦名の読音は更に協韵せず、伝写錯乱してその本来の次第を失せるに似たり。但し敢えて擅りに改動せず(晁説之の記に拠る)。「小人道憂也」は、鄭本は「小人道消也」と作る(晁説之の記に拠る)。
鄭氏周易爻辰図
周易乾鑿度曰:乾,陽也。坤,陰也。並如而交錯行。乾貞於十一月子,左行陽時六鄭注云:貞,正也。初爻以此為正,次爻左右者,各從次數之。坤貞於六月未,右行陰時六乾坤陰陽之主,陰退一辰,故貞於未。以順成其歲。歲終從於屯蒙歲終則從其次,屯,蒙,需,訟是也。又云陰卦與陽卦同位者,退一辰以未為貞。其爻右行,間時而治六辰陰陽同位,陰退一辰,左右交錯相避。
『易緯乾鑿度』に曰く:乾は陽に属し、坤は陰に属し、二者は并行して彼此交錯運転す。乾は十一月の子位を以て「貞」と為し、左に順行して六つの陽辰を経歴す(鄭玄の注に曰く:「貞」は正定、初爻はこれを以て正位と為し、其余の各爻は或いは左或いは右、皆次序に依りて推数する)。坤は六月の未位を以て「貞」と為し、右に逆行して六つの陰辰を経歴す(乾坤は陰陽の主宰、陰は一辰を退譲し、それゆえ坤は未位に貞定し、これに依りて順次に一整年を成就す)。一年終了すれば、就ち続きて屯卦・蒙卦に排到す(一年終了すれば便ち依次相承り、屯・蒙・需・訟は即ちこの如し)。『乾鑿度』また曰く:陰卦と陽卦とが同じく一位に処るは、陰は一辰を退きて未を以て「貞」と為す。その爻は右に向かいて運行し、一辰を隔てて主治し、共に六辰を歴る(陰陽同位の時、陰は一辰を退き、左右交錯して彼此回避す)。
棟案乾鑿度之說,與十二律相生圖合。鄭於周禮太師注云:黃鍾初九也,下生林鍾之初六,林鍾又上生太蔟之九二,太蔟又下生南呂之六二,南呂又上生姑洗之九三,姑洗又下生應鍾之六三,應鍾又上生蕤賓之九四,蕤賓又上生大呂之六四,大呂又下生夷則之九五,夷則又上生夾鐘之六五,夾鐘又下生無射之上九,無射又上生中呂之上六。
恵棟の按:『乾鑿度』のこの説は、十二律相生の図式と正に吻合す。鄭玄は『周礼・春官・太師』注の中に曰く:黄鐘はすなわち乾の初九、それは下って林鐘を生じ、林鐘は坤の初六。林鐘はまた上って太蔟を生じ、太蔟は乾の九二。太蔟はまた下って南呂を生じ、南呂は坤の六二。南呂はまた上って姑洗を生じ、姑洗は乾の九三。姑洗はまた下って応鐘を生じ、応鐘は坤の六三。応鐘はまた上って蕤賓を生じ、蕤賓は乾の九四。蕤賓はまた上って大呂を生じ、大呂は坤の六四。大呂はまた下って夷則を生じ、夷則は乾の九五。夷則はまた上って夾鐘を生じ、夾鐘は坤の六五。夾鐘はまた下って無射を生じ、無射は乾の上九。無射はまた上って中呂を生じ、中呂は坤の上六。
韋昭注周語云:十一月黃鍾,乾初九也。十二月大呂,坤六四也。正月太蔟,乾九二也。二月夾鐘,坤六五也。三月姑洗,乾九三也。四月中呂,坤上六也。五月蕤賓,乾九四也。六月林鍾,坤初六也。七月夷則,乾九五也。八月南呂,坤六二也。九月無射,乾上九也。十月應鍾,坤六三也。鄭氏注易,陸績注太玄皆同前說,是以何妥。文言注,以初九當十一月,九二當正月,九三當三月,九四當五月,九五當七月,上九當九月也。宋,朱震作十二律圖,六二在已,六三在卯,六五在亥,上六在酉。是坤貞於未,而左行誤甚,作圖以正之。
韋昭の注する『国語・周語』に曰く:十一月は黄鐘に配し、乾の初九。十二月は大呂に配し、坤の六四。正月は太蔟に配し、乾の九二。二月は夾鐘に配し、坤の六五。三月は姑洗に配し、乾の九三。四月は中呂に配し、坤の上六。五月は蕤賓に配し、乾の九四。六月は林鐘に配し、坤の初六。七月は夷則に配し、乾の九五。八月は南呂に配し、坤の六二。九月は無射に配し、乾の上九。十月は応鐘に配し、坤の六三。鄭玄の注『易』、陸績の注『太玄』は、皆前面のこの説と相同じ。これに因りて何妥が『文言』注を作る時も、また初九を十一月に配し、九二を正月に配し、九三を三月に配し、九四を五月に配し、九五を七月に配し、上九を九月に配せり。宋人朱震の作る『十二律図』は、却って六二を巳に置き、六三を卯に置き、六五を亥に置き、上六を酉に置き、これは坤が未に貞すと雖も反向して左順行するに等しく、錯ること甚だ酷し。それゆえ我は別にこの図を作りて以てこれを訂正す。
右圖,朱子發云:子,寅,辰,午,申,戌,陽也,乾之六位。未,已,卯,丑,亥,酉此亦誤當云未,酉,亥,丑,卯,已,所謂右行陰時六也,陰也,坤之六位。位之升降,不違其時,故曰大明終始,六位時成。
上面のこの図、朱震(字は子発)が言う:子・寅・辰・午・申・戌は陽に属し、乾の六つの爻位。未・巳・卯・丑・亥・酉は陰に属し、坤の六つの爻位(ここに彼もまた説き誤れり、応に未・酉・亥・丑・卯・巳と作るべく、これに依りて初めていわゆる「右に向かいて逆行して六つの陰辰を経歴す」に合す)。爻位の上升下降は皆それが当たる所の時令に違わず、それゆえ『彖伝』に「大明終始、六位時成」と言う。
棟案康成注。月令云,正月宿,直尾箕。八月宿,直昴畢。六月宿,直鬼又云,六月宿,直東井。九月宿,直奎。十月宿,直營室。又云,卯宿,直房心二月。申宿,直參伐七月。又注季冬,雲此月之中,日厯虛危。參同契曰,青龍處房六兮,春花震東卯。白虎在昴七兮,秋芒兌西酉。朱雀在張二兮,離南午。又云,含元虛危,播精於子,皆與圖合。若以日所厯言之,則右行而周二十八舍明堂。月令所謂孟春之月,日在營室是也,與此不同。
恵棟の按:鄭康成の注『礼記・月令』に曰く、正月の宿は正に尾宿・箕宿に当たる。八月の宿は正に昴宿・畢宿に当たる。六月の宿は正に鬼宿に当たる、また曰く六月の宿は正に東井に当たる。九月の宿は正に奎宿に当たる。十月の宿は正に営室に当たる。彼はまた曰く卯位の宿は正に房宿・心宿に当たる、すなわち二月。申位の宿は正に参宿・伐星に当たる、すなわち七月。季冬に注する時また曰く、この月の中、太陽は虚宿・危宿を経歴す。『周易参同契』に曰く:青龍は房宿の六に処り、春花は震位の東方卯地に開く。白虎は昴宿の七に在り、秋気は兌位の西方酉地に於て粛殺す。朱雀は張宿の二に在り、離位の南方午地に属す。また曰く:元気は虚・危二宿に涵蔵し、精気を子位に播散す。これらは皆本図と相合す。倘若し太陽の実際の行する所に拠りて言えば、すなわち右に向かいて運行して二十八宿を周歴するは、すなわち『明堂月令』のいわゆる「孟春之月、日在営室」の種の算法で、この図の爻辰の法と並び相同じず。
