Libo

虎鈐經

宋 · 許洞

作盤ガイド: 暦注(黄暦), 万年暦

天道は運行變化して、萬物をしてあるいは消退しあるいは生長せしむ。必ず大地の承載の力と相合して、萬物は始めて眞に生成を得。天は尊貴にして地は卑…

綜合類典籍

通読するより工具書として引くほうが実用的である。他の門類で分からない暦法術語に出会ったら、たいていここで出所をたどれる。

天功第一

天道變化,消長萬匯,契地之力,乃有成爾。天貴而地賤,天動而地靜,貴者運機而賤者效力。上有其動,而下行其地矣。是以知天之施地匪專也,知地之應天有常也。生機動則應之以生,氣機動則應之以氣。機正則泰,機亂則否。萬物列形而否泰交著,見之於地焉,豈止地之為乎?蓋天道內而地道外者也。

天道は運行變化して、萬物をしてあるいは消退しあるいは生長せしむ。必ず大地の承載の力と相合して、萬物は始めて眞に生成を得。天は尊貴にして地は卑下、天は運動して地は靜止す。尊貴の方は樞機を掌握し、卑下の方は實力を出す。上に發動あれば、下は大地の上にそれを落實す。これより知るべし、上天の大地に施加するは一途に専守せず、大地の上天に回應するは恒常の規律あり。生長の樞機一動すれば、大地は生長を以て回應し、氣化の樞機一動すれば、大地は氣候を以て回應す。樞機端正なればすなわち「泰」にして上下交通し、樞機紊亂すればすなわち「否」にして上下阻隔す。萬物各々形態を呈し、通と塞とが交替して顯現するは、皆大地上に表われ、豈にただ大地自ら造成するのみならんや。其實は天道が內に主導し、地道が外に承受するのみなり。

王者,天也;將,地也。將者,天也;士卒,地也。我,天也;敵,地也。由此觀其所動,故負勝可知矣。王之於將也,閫外之寄,擇賢授柄,舉無所疑。將必內應其正,外務其順。應以正則師律嚴,務以順則臣節貞。舉而禦敵,詎有輿尸之患乎?君恃智以自用,倨禮而傲下,授柄匪人,任人不信,將不正應,內包猶豫之惑,外喪馭眾之威矣。舉而禦敵,寧免失律之凶乎?師之成敗見之於將焉,豈將之為乎?

君王は天に譬え、主將は地に譬う。主將は全軍に對してまた天にして、士卒は地なり。我方は天にして、敵方は地なり。この層層の對應關係より雙方の動靜を觀察すれば、勝負は預め知るべし。君王の主將に對するは、國門以外の軍事全權を托付し、賢能の人を選んで兵權を授與し、一たび任命すれば則ち猜疑せず。主將は則ち必ず內心に君王の端正に回應し、外には行事の理に順うを務むべし。端正を以て相回應すれば、軍中の紀律嚴明なり。理に順って事を辦すれば、人臣の節操堅貞なり。かかる軍隊を帶びて敵人を抵禦すれば、何處にかまた《周易・師卦》の謂う所の「輿尸」——大敗の後車を以て尸體を載せて歸る——の禍患あらんや。反って、君主が聰明を自恃みて獨斷專行し、禮數を輕慢して臣下を傲視し、兵權を合適ならざる人に授與し、人を用いてまた彼を信任せざれば、主將もまた端正の心を以て相回應すること能わず、內心は猶豫不決の迷惑を裹み、外にはまた部衆を統御する威信を喪失せん。かかる軍隊を帶びて敵人を抵禦すれば、何ぞ「失律」——軍紀敗壞の招致する凶險——を免れんや。一支の軍隊の成敗は主將の身に表わる。豈に單に主將一人の造成するのみならんや。

將之為任也,智敵萬人,茍無萬人之用,與愚者同矣;勇冠三軍,茍無三軍之用,與懦者同矣。善為將者正而能變,剛而能恤,仁而能斷,勇而能詳,以策馭吏士,未有不振拔勛業,以戡禍亂者也。反是,則吏士外無攻,內多離散之勢。勇怯見之吏士焉,豈吏士之為乎?

主將この職任は、智謀たとえ萬人に匹敵するに足るも、假如萬人の效用を發揮し出さざれば、愚昧の人と同じ。勇武たとえ三軍に冠絕するも、假如三軍の效用を發揮し出さざれば、怯懦の人と同じ。善く主將を爲す人は、端正にして能く權變に通じ、剛強にして能く下情を體恤し、仁厚にして能く機に當って斷を立て、勇猛にして能く思慮周詳なり。謀略を以て軍吏士卒を駕馭すれば、かかる人は功業を建立し禍亂を平定せざるなし。これと相反せば、軍吏士卒は外に攻取の力なく、內に多く離心渙散の勢あり。將士の勇敢あるいは怯懦は軍吏士卒の身に表わる。豈に單に軍吏士卒の造成するのみならんや。

我之於敵也,夫功拔戰勝,使敵不敢抗衡者,豈敵怯乎?由我威令整,進退肅,賞罰明也。覆兵殺將,弱國削地者,豈敵強威乎?由我不嚴師律故也。夫如是,亦自上而及下,自內而迨外,其猶天地之用乎。故天必藉地力,然後運四氣,正生殺也;貴必藉賤力,然後能立元功而建王業也。

更に我方と敵方の關係を説くに、能く敵城を攻拔し臨陣して勝を取り、敵人をして我と抗衡するを敢てせしめざるは、豈に敵人の天生怯懦ならんや。我方の威令整肅・進退嚴明・賞罰公開するが故なり。反って、全軍覆沒し主將殺され、國勢削弱して土地割かるるは、豈に敵人の特別強大にして威勢あらんや。我方の能く軍紀を嚴明にせざるの緣故なり。この如くにして、仍ほ上より下へ・內より外へ作用するは、これ正に天地の相輔相成する道理に同じからずや。ゆえに上天は必ず大地の力に憑藉し、然る後乃ち四時の氣を運行し、萬物の生長と肅殺とを端正し得べし。尊貴の者も必ず卑下の者の效力に憑藉し、然る後乃ち首功を建立し王業を成就し得べし。

地利第二

地之形,險易殊也;地之氣,寒熱異也。用形與氣,在知逆順焉。昧此道者,不能得地利必矣。善用地者則不然,險而易之,易而險之也。夫居險用險必內潰,居易用易必內蹶。當有形之用,逆之者善矣。何謂險而易之?曰:簡以夷其政,要以節其動,用以緩其約,不以疏慢為失也。何謂易而險之?曰:進止戒嚴,內外無怠,用其謹慎,不以暴急為務也。如是者,乃險易之用也。

大地の形勢は、險峻と平易の分別あり。大地の氣候は、寒冷と炎熱の差異あり。地形と地氣とを運用するに、關鍵は何が逆・何が順かを懂得するに在り。この道理を明白にせざる人は、必ず地利を得ず。善く地を用うる人は然らず。險地に處してかえって平易の法を用い、平地に處してかえって險峻の法を用う。何となれば、身が險地に在ってなお一味に急迫の法を用いれば、內部必ず潰散し、身が平地に在ってなお一味に松緩の法を用いれば、內部必ず顛仆すればなり。有形の地勢に對付するは、「逆」の用法を採るが高明なり。何をか「險にしてこれを易くす」と謂う。すなわち政令簡明にして平和を求め、要領を抓住して行動を節制し、處置從容にして約束を放寬するも、決してこれに因って疏忽怠慢と爲り差錯を出すことなし。何をか「易にしてこれを險にす」と謂う。すなわち行進と駐止と皆戒備森嚴にして、內外懈るを敢てせず、一切の做法皆謹慎を力めて求むるも、また急躁暴烈を以て正事と爲さず。この兩條を做到すれば、すなわち險地と易地各々の正確の用法なり。

以方位觀之,則寒熱之氣異也。當有氣之用,順之者善矣。南方之氣熱,北方之氣寒也。其氣異則水土之性必相戾,逆諸人而使之飲其地脈,食其土毛,蒙其風氣,瘴癘之疾、凍澀之戾加焉。以我之不便,犯順方之人,不有患乎?天不能以氣順人,君能以人順氣,可也。

方位より看れば、各地の寒熱の氣も亦た相同じからず。無形の地氣に對付するは、「順」の用法を採るが高明なり。南方の氣は炎熱、北方の氣は寒冷なり。氣候同じからざれば、水土の性質必ず互相抵觸す。若しこの點に違背し、硬して士卒をして異地の水を喝し、異地の土壤の生ずる穀物草木を食い、異地の風土を承受せしめば、瘴氣疫病と凍傷僵痹の病害とが隨って身に加わらん。我方の適應せざる條件を以て、もとより當地の水土に適應する人を進犯せんとすれば、能く禍患を出さざらんや。上天は氣候をして人に遷就せしめず、君主は卻って人をして氣候に適應せしめ得。これ乃ち可行の辦法なり。

是故利不可以專一。北人之馬,南人之航也,各有便焉。反是,不可措手足矣。行師者不能擇而用之,斯亦更北南之所便也。冀其成功,遠矣。是知地之所利者,可兼而有乎。善用兵者,擇利而從之,善矣。

ゆえに地利は一端に偏執すべからず。北方人は馬を用うるに擅み、南方人は船を用うるに擅み、各々便利あり。若し顛倒せば、則ち手足に措く所なし。兵を帶ぶる人若し地に因りて相應の辦法を選擇し能わざれば、則ち南方と北方各々の長處を對調して用うるに等しく、これを指望して成功せんとすれば、則ち差ること太だ遠し。これより知るべし、地形の提供する種種の便利は、兼收して並び用うる可きなり。善く兵を用うる人は、自己に有利の條件を選擇してそれに順應す。これ乃ち高明なり。

人用第三

今之世取人也,每務其多學而舍其偏技,非良術也。兵家所利,隨其長短而用之也。是以善撫恤者勿頻鬥,慮其勞疲而無勇也;善保守者勿使進攻,慮其遲緩而不猛也;多方者勿使與於決事,慮其猶豫也;多勇者勿與謀敵,慮其過輕也。

當今の世の人才を選用するに、總じて博學多能の人を看重して、ただ一技の長ある人を舍棄す。これは好辦法に非ず。兵家の看重する所は、各人の長處短處に依照して分別して任用を加うるに在り。ゆえに、善く部下を撫恤する人は彼をして連續して苦戰せしむるなかれ。怕るるは彼の體恤が頭を過ぎ、士卒勞累疲憊して勇氣を提起せざるなり。善く據守する人は彼を派して進攻せしむるなかれ。怕るるは彼の持重遲緩にして勇猛足らざるなり。辦法多すぎる人は彼をして大事の決斷に參與せしむるなかれ。怕るるは彼の反覆權衡・猶豫不決なり。勇氣人に過ぐる人は彼と同じく敵情を謀劃するなかれ。怕るるは彼の輕率に失するなり。

精悍者使鬥;果敢者使攻也;沉毅而性執者,使其據阻險;見小而貪財者,不可使守儲蓄;智而善斷者,可擇其言;輕健者使誘敵;剛愎者使當鋒;利口喋喋者使行問;善鼠竊狗偷者使盜號探敵;惡言多罵者使之揚毀訾詈;奇材異識者使預談論;深識大度者使安眾;崛強多力者使斬闢榛莽;善隨地形結構者使度樹營柵;怯懦者使輦運器用;老弱者使備炊汲;諳山川、擇高下水泉之利者,使察地形;妖言詐辭、善張皇鬼神之心、推引天命者,使揚聲惑眾以動敵心;善擇地勢平易險阻,知往來細大之蹊路者,使通糧儲;奇辭偉辯、能架虛矜大者,使奮振威德;耳目聰明、探察敵人情者,使伺候奸偽;敏才健筆者,使主箋檄。

精明強悍の人は派して搏殺せしめ、果斷勇敢の人は派して進攻せしめ、沈著剛毅にして性情執著の人は、彼を派して險要を據守せしめ、眼光短淺にしてまた財を貪る人は、彼をして軍需儲備を看管せしむる可からず。智謀ありてまた善く決斷する人は、彼の建議を採納すべし。輕捷矯健の人は派して敵を誘い、剛愎固執の人は派して前鋒に擋らせ、口齒伶俐にして說き止まざる人は派して出使して問對せしめ、善く雞を偸み狗を摸す人は派して敵軍の口令を竊取し敵情を刺探せしめ、口を出して人を傷り罵るを好む人は派して陣前に叫罵詆毀せしめ、才識奇特の人は彼をして議事に參與せしめ、見識深遠・氣度寬宏の人は彼をして部衆を安撫せしめ、倔强にして力大なる人は派して叢林荒草を砍伐開闢せしめ、善く地形に依りて營を立つる人は派して勘量し營寨柵欄を樹立せしめ、膽小怯懦の人は派して車輛を以て器械物資を搬運せしめ、年老體弱の人は派して火を燒き水を汲ませ、山川に熟悉し高低水泉の利を挑選するを會する人は、彼を派して地形を勘察せしめ、妖言詭辭を編造し鬼神の説を渲染し天命に附會するを善くする人は、彼を派して聲勢を張揚し人心を蠱惑して以て敵軍の軍心を動搖せしめ、善く地勢の平險を分辨し大小道路の往來を熟知する人は、彼を派して糧道を打通せしめ、言辭奇特・能言善辯・能く虛張聲勢して誇大其詞する人は、彼を派して我軍の威德を張揚せしめ、耳目聰敏にして敵方の內情を探察し得る人は、彼を派して敵方の奸細と僞裝とを偵伺せしめ、才思敏捷にして下筆快捷の人は、彼をして書信檄文を主管せしめよ。

明七曜休咎者,為曆數之士;善占風雲吉凶者,為候氣之士;曉六壬遁甲者,為選日時之士;諳蓍龜者,為卜筮之士。是四人者,雖推驗體測陰陽,各不可使相亂,貴其專一也。醫藥之人,二十人已上,以兵數增之。獸醫亦如醫人之數。大將軍權通材者,與之參議可否。故我大眾之內有善有惡,無棄人焉。人無所棄,斯不怨則動有功矣。

日月と五星(合わせて「七曜」と稱す)の吉凶に通曉する人は、歷數を推算する術士に充て、善く風雲の吉凶を占測する人は、氣を望む術士に充て、「六壬」「遁甲」のこの兩種の術數を懂得する人は、日期時辰を選擇する術士に充て、蓍草と龜甲の占法に熟悉する人は、卜筮の術士に充てよ。この四類の人は同じく推演驗證し陰陽を體察するも、各人の職分は互相混雜すべからず、各々一門に専らなるを貴ぶとす。軍中の醫藥人員は、二十人以上を配備し、部隊人數の多少に按じて相應に增加す。獸醫の員額もまた醫生に比照す。主將の軍中の通達多能にして事に隨って權變し得べき人才に對しては、彼らと同じく各項擧措の可行與否を商議すべし。ゆえに我方大軍の內、人に優劣あるも、抛棄すべきは一箇もなし。人人皆用處あれば、則ち怨恨を心に生ぜず、一旦行動すれば便能に實效を收むべし。

三才應變第四

《易》曰:見機而作,不俟終日。故用兵之術,知變為大。軍雖氣銳時勝〈一作遇天時〉,而行列散潰,旌旗紊亂,金鼓不節,擊之可也。或曰:彼得天時,詎可破乎?許洞曰:天之所祐,正也。怙天時而戾軍政,與天違也。天人相違,不凶何俟?故兵利以順應順也。順而逆應之,必凶之兆也。

《周易・繫辭下》に曰く、「機を見て作し、終日を俟たず」と——苗头を察覺すれば立刻行動し、一天の過ぐるを等つ要なし。ゆえに用兵の關鍵は、應變を懂得するを以て最も要緊とす。敵軍雖士氣銳盛にしてまた天時を占むるも(此の句は一本に「天時に遇う」と作る)、ただ行列散亂し旌旗紊亂し金を鳴らし鼓を撃つも節度に合わざれば、便ち出撃すべし。人ありて問う、對方が天時を占めたれば、豈に還って彼を打敗ることを得んや、と。許洞答えて曰く、上天の保佑する所は「正」なり。天時を倚仗して軍政を敗壞せば、すなわち天意に違背す。天意と人事と相違背せば、凶險に遭わずして何を等たんや。ゆえに用兵の利は、順を以て順に應ずるに在り。本來順應すべきを偏に相反の做法を用いて對待すれば、則ち凶險の先兆なり。

或曰:軍乘天時,跨有地利,將吏驕怠,謀劃不精,軍陣散亂,如之何?洞曰:可擊也。彼獲天地之利,如何擊之?曰:人者,天地之心也,茍心不正,雖有其表,將焉用乎?或曰:軍違天時、逆地利,大將深謀沉毅,部伍清肅,進退有節,如之何?許洞曰:未可擊也。曰:不獲天地之利,奚謂未可乎?曰:正則可以率天地之用,草寇可為王矣。

人ありて問う、敵軍すでに天時を占め、また兼ねて地利あり、ただ將吏驕傲懈怠し、謀劃精ならず、軍陣散亂す。如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、攻撃すべし、と。また問う、彼らすでに天地の利を得たれば、何ぞ攻撃し得るや、と。答えて曰く、人は天地の心なり。若し人心正しからざれば、たとえ外表上に天時地利を占め盡すも、また何の用あらんや、と。反ってまた問う、敵軍天時に違背し、また地利を占めず、しかも主將深謀遠慮・沈著剛毅にして、部伍清整肅然・進退節度あれば、如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、なお攻撃すべからず、と。また問う、彼ら天地の利を得ず、何を以て攻撃すべからずと説くや、と。答えて曰く、ただ立身端正なれば、便能に天地の力を駕馭して己の用と爲し、草莽起兵の人ですら王業を成就し得。いはんやかかる整肅の師をや、と。

或曰:彼如是也,我之動將之如何?許洞曰:先以人,次以地,次以天,然後攻之,必克敵也。曰:先後如之何?曰:利為主。何謂主?曰:動為客,靜為主。觀敵之動何如,乃應之〈夫書言動者,不必戰陣時,敵人先動為客也。但密構敵人所為之事謂之動,則我以機應之必勝焉〉。先勝而後舉,神明之道也。

人ありて問う、敵人すでにこの種の情形なれば、我方は如何に行動すべきや、と。許洞答えて曰く、まず「人」の上より着手し、その次は「地」、更にその次は「天」、然る後再び進攻せば、必ず敵人に勝利し得べし、と。また問う、この先後の次序は如何に講じるや、と。答えて曰く、有利與否を以て主導と爲す、と。何をか「主」と謂う、と。答えて曰く、先に動く一方は客、靜かに守る一方は主なり。敵人の如何に動くかを看て、然る後それに隨って應對す(原注:書中の謂う所の「動」は、必ずしも兩軍對陣の時敵人先動して初めて客と算作するに非ず。ただ暗中に計を設けて敵人を誘使して擧動あらしめば、すなわち「動」と謂い、我方相機に應對すれば必ず勝を取る)、と。先に必勝の勢を造成して然る後乃ち兵を出す。これすなわち神妙高明の用兵の道なり。

三才隨用第五

天著吉凶,以陰陽辯也;地布險易,以山川章也;人包勇怯,以戰陣見也。茍〈一作有〉欲陰陽之順,險易之利,勇怯之用,在於閑暇可得而擇也。當彼我相逢,各出不意,忽然交合,曷能擇所利而用哉?

上天は吉凶を顯示し、陰陽の變化に靠って分辨す。大地は險易を布列し、山川の形貌に靠って彰顯す。人は勇敢と怯懦とを包藏し、戰陣の上に到りて初めて看出すを得。若し陰陽に順應し、險易の利を取得し、勇怯各々の用處を發揮せんと欲せば(「茍」の字は一本に「有」と作る)、ただ從容閑暇の時に在りてのみ條件ありて挑選安排し得べし。敵我相逢うに及び、彼此皆意料に出でず、突然遭遇して交手すれば、何處にか還って好條件を挑んで更に使用するを容れんや。

或曰:兩師不期逼於險地,天地震晦,雨雪交積,山川不辯,當此之際,何以禦之?許洞曰:大將止眾堅陣,嚴肅號令,雖敵來攻,勿與交戰。俟天變少罷,觀弱強之勢,而後進退之。曰:我既安矣,彼自驚撓,則如之何?曰:以積兵乘之。

人ありて問う、兩軍不期して遇い、また險惡の地に逼られ、雷震風急・天昏地暗、雨雪交加堆積して、山川皆辨認し清らかならず。かかる時、何を以て抵禦せんや、と。許洞答えて曰く、主將は當に部衆を約束し陣形を堅守し、號令を嚴肅にし、たとえ敵人來攻するも、彼と交戰するなかれ、と。天候變化の稍く平息するを等ち、雙方強弱の勢を看清み、然る後再び進あるいは退を決定す、と。また問う、我方すでに安穩なれど、敵人卻って自ら驚慌騷亂す。あれは如何にすべきや、と。答えて曰く、蓄養待發・銳氣を養足したる兵力を以て勢に乘じて彼を攻撃せよ、と。

又曰:倉卒之際,大將以何術即能堅行陣、嚴號令,使士卒不自驚亂?許洞曰:善用兵者,有動必備。預擇輕勇者二十四人,八方各三騎,相去一里,晝以旗,夜以鼓〈過山川委曲,叢林茂密,晝亦鳴鼓,恐不見旗〉。第一騎見賊晝舉旗,第二騎亦如之,第三騎馳告。夜用鼓,如晝法〈恐敵聞鼓聲急馳告〉。

また問う、倉促の間、主將は何の辦法を以て能く马上に行陣を穩住し號令を嚴明にし、士卒をして自相驚亂せざらしめんや、と。許洞答えて曰く、善く兵を用うる人は、一行動あれば必ず先に準備あり。預め輕捷勇敢の士卒二十四人を挑選し、八箇の方向に各々三名の騎手を派し、彼此一里を相距り、白日は旗號を以て傳遞し、夜間は鼓聲を以て傳遞す(原注:山川曲折・叢林茂密の地方を經過する時は、白日もまた鼓を撃つ。怕るるは旗を見得ざるなり)。第一騎が敵人を發見すれば、白日すなわち旗を擧げ、第二騎照樣に旗を擧げ、第三騎は飛馬回報す。夜裏は改めて鼓を用い、辦法は白日と同じ(原注:敵人に鼓聲を聽かるるを怕れ、則ち直接飛馬急報す)、と。若し煙霧彌漫堵塞し風雷震動して人を驚かし、旗見えず鼓もまた聽えざれば、急いで飛馬回報せよ。これを「八卦探騎」と謂う——八箇の方位に按じて布置したる偵察騎兵なり。これに因りて敵人に遇上するも事先に備あり。一旦天候地勢に變故發生せば、輕裝部隊を帶びて敵人を突撃し、大陣は輕擧妄動すべからず(原注:凡そ大軍の出動は、常に別に輕騎數千人を分出して部隊を編成し游動兵力に充つ。統領の將領は驍勇の人を挑選するを要す)、先に敵人の動靜を觀察して然る後兵を擧ぐ。ゆえに我軍は能く始終整肅を保持す。以上皆天時變化に順應する做法なり。

煙霧蓊塞,風雷震驚,旗之不見,鼓之不聞,亟馳告。斯謂八卦探騎者也。是以值賊而能備焉。茍天地有變,則引輕兵突之。大陣不可妄動〈凡大兵出,常以輕騎數千人別分部隊為遊兵,其將擇驍勇〉,觀彼動靜而後舉焉,故我常用其整也。此皆隨天之變也。

もし煙霧が瀰漫して堵塞し、風雷が震動して人を驚かし、旗は見えず鼓も聞えざれば、急いで飛馬回報せよ。これを「八卦探騎」と謂う——八つの方位に按じて布置した偵察騎兵なり。これにより敵に遇うても事先に備えあり。一旦天候地勢に變故が生ずれば、軽装部隊を率いて敵を突撃し、大陣は軽擧妄動すべからず——先に敵の動靜を觀察して然る後兵を擧ぐ。故に我が軍は始終整肅を保ち得。以上皆天時の變化に順應する法なり。

或曰:與敵卒然相遇,或平原廣澤,或山谷深峭,或坡嶝穹隆,或坳汙沮洳,或草木蒙密,俱是危地,當其用之如何?許洞曰:回渠迂澗,可以沖車突馳也;深峽隘口,可以少擊眾也;長林豐草,可以為伏也;原野漫衍,可以騎兵相屬也;草木隱障,可以步士接戰;長郊往來,可進可退,可以長戟當敵;逾水跨遠,高下相乘,不可得親近,可以長弩當敵;崖壁相隱,狹徑斗回,可以劍盾當敵;葦蕭蘆荻,枝葉朦朧,可以戈梃當敵。此皆隨地之性也。

人ありて問う、敵人と突然相遇し、あるいは平原大澤に在り、あるいは深峻の山谷に在り、あるいは高低起伏の坡崗に在り、あるいは低窪積水の泥濘地に在り、あるいは草木叢密の處に在り、これら皆危險地形なり。如何に兵力を使用すべきや、と。許洞答えて曰く、迂回の溝渠澗道には、衝車突馳して衝擊すべし。深峽隘口には、少を以て衆を擊つべし。茂林豐草には、伏兵を設置すべし。原野遼闊平衍には、騎兵を以て一片に連ねて馳突すべし。草木遮蔽の處には、步卒を以て接戰すべし。長郊曠野に往來自如・可進可退には、長戟を以て敵を迎うべし。水面を隔てて遠く相望・高低相臨して靠近する能わざるには、長弩を以て敵を迎うべし。崖壁互相遮蔽し小路狹窄曲折には、劍と盾とを以て敵を迎うべし。蘆葦荻草叢生し枝葉朦朧には、戈と木棍とを以て敵を迎うべし。以上皆地形性質に順應する做法なり。

或曰:寨柵之間,三軍已憩,寇敵乘間沖突攻擊,當此之時如之何?許洞曰:使勇者據其前,怯者匿其後。忽遽之時,怯者強驅而前進焉,必挫鋒折銳,不若隱之也。曰:當此之時,何暇別勇怯之用乎?曰:不然。善用兵者,防亂於未亂,備急於未急。結營既定,預擇強勇者衛外,怯弱者附之,所以慮晦夜之急也。此皆隨人之性也。如是,順天、地、人預備之道者也。故易之卦以豫者預也,取預備之象為難之用也。故曰:重門擊柝,以待暴客,蓋取諸豫。用兵者可不審於此乎?

人ありて問う、營寨柵欄の內、三軍すでに休息し、敵寇空隙に乘じて衝入して攻打す。この時如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、勇敢の人をして前面に守らしめ、怯懦の人を後面に藏せしめよ、と。倉慌の際、若し硬して怯懦の人を前面に驅趕せば、必ず全軍の鋒銳を挫傷す。彼らを隱蔽するに如かず、と。また問う、あの種の時候に到れば、何處にか還って誰が勇・誰が怯を分辨し、再び用途を分派する工夫あらんや、と。答えて曰く、然らず。善く兵を用うる人は、未だ亂れざるに亂を防ぎ、未だ危急ならざるに急を備う。營寨一たび扎定すれば、預め強壯勇敢の人を挑選して外圍を守衛せしめ、怯弱の人をして裏面に依附せしむ。爲す所は正に夜間の突發變故を防備するなり。以上皆人の性情に順應する做法なり。こうすれば、すなわち天・地・人の三者に順って預め準備する道理なり。ゆえに《周易》の「豫」卦、豫はすなわち預の意思、取る所は正に預め防備し以て患難に應付する卦象なり。《周易・繫辭下》に曰く、「門を重ね柝を擊ちて、以て暴客を待つは、蓋し豫に取る」と——層層の門戶を設置し梆を敲きて夜を巡り、以て強暴の來客を防備す。この制度は正に豫卦に取法す。兵を用うる人は、能くこの上に仔細に體察せざらんや。

辯將第六

國家行師授律,生殺之柄,大將所主。將者,國之腹心,三軍之司命也。可不慎於選乎?茍欲命將,預以精誠辯其可否者有四:一曰貌,二曰言語,三曰舉動,四曰行事。其一曰貌。凡眉上雙骨橫起而隆巘者,語言而不純者,目反仰視者,方坐內多虛驚者,行而瞠乎必照後者,目睛多白而有赤焰、瞻視不端者,此六者人有其一,斯人常蘊不臣之心,不可使之也。

國家が兵を出して作戰し軍法を頒授するに、生殺の大權は主將に掌握せらる。主將は國家の腹心にして、全軍性命の主宰なり。選任するに何ぞ慎重ならざらんや。若し主將を任命せんとせば、當に預め精細誠篤の眼光を以て彼の職に稱するや否やを分辨すべし。辦法に四條あり。第一は相貌を看、第二は言語を聽、第三は擧動を察、第四は行事を考す。第一條は相貌を看る。凡そ眉毛の上方に兩條の骨橫起して高峰の如く聳える人、說話吞吐含混にして純正ならざる人、眼睛が上翻して天を看る人、端坐する時心中に常に端なく驚悸する人、走路に眼を瞪らして必ず回頭して背後を察看する人、眼白多くして赤色の火氣を帶び目光斜視して正ならざる人——この六種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、この種の人は心中に常に臣服せんと肯ぜざるの念頭を藏す。任用すべからず。

豐下銳上,神氣安詳者,重德而善安眾人也;目黑多白少,點睛深而神氣與形相副者,機度沉厚,不可以詐動人也;目睛熒朗,五嶽相照,燕頷虎頤者,心機疾速、勇而有斷人也;龜背虎臆點睛深而朗徹者,為事沉毅而有謀,不可以名利誘人也;眉目瞻視詳諦而神骨聳峭者,雄壯有智慮人也。是五者人有其一,可使之也。至若神氣重濁,骨相不正,頭薄而淺,頸大腹細,目睛昏瞢,點睛近上,視顧不正,此皆志氣淺劣、智識庸鄙人也。

下巴豐滿にして頭頂收斂し、神氣安詳なる人は、德行厚重にして善く衆人を安撫する人なり。眼珠黑多白少にして、瞳仁深邃にして神采と形貌と相稱する人は、心機沈穩厚重にして、詐術に打動せられざる人なり。眼睛明亮にして光あり、額・頦・鼻と兩顴のこの「五岳」が互相映照し、燕子の如き下頷・老虎の如き腮頰を長ずる人は、心思敏捷にして勇敢にして決斷ある人なり。背は龜の如く隆れ胸は虎の如く闊く、瞳仁深邃にして清澈透亮の人は、事を辦するに沈著剛毅にして謀略あり、名利に引誘せられざる人なり。眉眼顧盼審慎周詳にして神骨挺拔峻峭の人は、雄壯にして智謀ある人なり。この五種の相貌、一人ただその中の一樣を占めれば、便ち任用すべし。神氣重濁・骨相不正に至っては、頭頂薄く淺く、脖子粗く腹部細く、兩眼昏暗にして神なく、瞳仁偏りて上方に靠り、顧盼の時目光正ならざるは——皆志氣淺薄低劣・見識庸俗鄙陋の人なり。

其二曰言語。人有言肆而目駭視者,心懷異圖也;言枝蔓而不徑者,心有隱也;矜大人善唯恐不至者,黨人也;言錯綜而無所歸者,心躁競也;方言而他視者,心不誠也;言卑而色下者,心有所屈也;方言頻四顧者,其辭妄也;言人之短而視不定者,誣罔人也;言多以私事為憂者,顧妻子之人也;言大而理不精者,其學虛也;色悅而徐徐順人意者,佞媚人也;矜己善而斥人不善者,崛強人也;言欲發而卻縮者,含蓄人也;言無公私必及利者,貪人也;色卑而言多諂者,志下劣人也;事曲而言直,氣悖而言順,鄙而言大,事不詳而強能,理矯而強正,此皆奸詐人也。是十有六者人有其一,不可使也。

第二條は言語を聽く。說話放肆にして眼神驚懼亂瞟する人は、心裏別に圖謀あり。說話枝蔓纏繞して直説せんと肯ぜざる人は、心裏隱瞞する所有り。一味に別人の好處を誇大して誇るに足らざるを唯恐る人は、黨を結び私を營る人なり。話說くこと錯雜にして歸着なき人は、心思浮躁好勝なり。正に話を說いて眼睛卻って別處を看向る人は、心裏誠ならず。言語卑下・臉色もまた低順の人は、心裏委屈する所有り。正に話を說いてまた頻頻に四下を張望する人は、說く所皆妄語なり。別人の短處を議論して眼神游移不定の人は、人を誣陷する人なり。言談の中に總じて私家の事を以て憂と爲す人は、妻兒を牽挂する人なり。口氣很大にして道理精ならざる人は、學問は空なり。滿臉笑意を帶び、慢慢として別人の心意に順って話を說く人は、諂媚討好の人なり。自己の長處を誇耀して別人の不好を指斥する人は、倔强自負の人なり。話嘴邊に到ってまた縮回去る人は、心思含蓄の人なり。話說くこと公事私事を論ぜず總じて利益に牽扯する人は、財を貪る人なり。神色卑屈にして言語多く阿諛の人は、志向低劣の人なり。事情もとより理虧なるを偏に自己在理と說き、語氣悖逆なるを偏に自己恭順と說き、見識鄙陋なるを偏に大話を說き、事情未だ弄清楚せざるを偏に能を逞ばし、道理立たざるを偏に硬して自己端正と說く——これら皆奸詐の人なり。以上十六種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、則ち任用すべからず。

言大而意精至者,有識度人也;言希而出必中者,志節人也;言動而必及國家者,忠孝人也;言奮而不迂者,壯直人也;辭寡而意懇者,公正人也;言多及軍吏之私者,善拊恤人也;言及陣敵喜動色者,好勇人也;言及細微而能剖析是非者,有智人也;言迂闊而卒近於理者,識深見遠人也;言少而事詳者,大度人也;語氣和而神色相稱者,善納眾人也;言徐徐而事備者,性緩而有德人也;言速而事當,性急而不暴,有識人也。是十三者人有其一,皆可使之也。

話說くこと宏大にして意思精到の人は、見識あり度量ある人なり。話甚だ少なくして卻って一たび口を開けばすなわち要害に說中する人は、志節ある人なり。一たび口を開けば必ず國家大事に關涉する人は、忠孝の人なり。言語奮發にして迂腐ならざる人は、剛健正直の人なり。言辭簡省にして心意懇切の人は、公正の人なり。話裏多く軍吏の私下の疾苦を談ずる人は、善く部下を撫恤する人なり。臨陣對敵に說到れば喜色を形に表す人は、勇を好む人なり。細微の事に談到るも能く是非を剖析する人は、智慧ある人なり。話聽き迂遠なるも、最後に卻って總じて情理の上に落到する人は、識見深遠の人なり。話少なくして事を辦するに周詳の人は、氣度宏大の人なり。語氣平和にして神色之と相稱する人は、善く衆人を容納する人なり。話說くこと慢條斯理にして事情辦得周備の人は、性情舒緩にして德ある人なり。話說くこと快くして事を辦するに得當、性情急躁なるも粗暴ならざる人は、見識ある人なり。以上十三種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆任用すべし。

其三曰舉動。行有狼顧者,行與坐忽如驚恐者,非時言語而手足紛拿者,方食而不覺棄匙箸者,方坐而首偏口目輒斜動者,行而唯恐有人逐者,欲坐而頻四顧如有所駭者,方言勃氣上騰神色自得者,待下多卑恭而不實者,觀事覺已如不知而目它視者,是十者有其一,此皆心不誠實,多蓄異圖人也,不可使之也。行欲如大輅,足動而身不搖也;坐欲如山嶽,形神俱定也;臥欲如覆舟,神氣安詳也。此皆智度深沉、大節崇德人也。是三者人有其一,可使之也。

第三條は擧動を察す。走路狼の如く頻頻に回頭する人、行き坐りて忽然驚を受けたるが如き人、時宜に合わず口を開いて話を說き手脚還って亂抓亂動する人、正に飯を喫して不知不覺匙筷を丟掉する人、端坐して頭就ち偏斜し嘴と眼と動輒歪斜亂動する人、走路の時總じて人ありて後面に追趕するを怕る人、將に坐せんとして頻頻に四顧して驚を受けたるが如き人、正に話を說いて怒氣勃然として上衝し神色また自鳴得意の人、下屬に對待するに過分に謙卑恭順にして實在ならざる人、事情看るに明明すでに明白なるを卻って知らずと裝い眼睛別處を看向る人——以上十種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆心地誠實ならず多く異圖を藏する人なり。任用すべからず。走路は大車の行進の如く、脚は動いて身は搖晃せざるべし。坐は山岳の如く、形體と精神と皆安定すべし。睡臥は翻扣せる船の如く安穩にして、神氣安詳なるべし。これら皆智慮深沉・節操崇高にして德を以て重と爲す人なり。以上三種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、便ち任用すべし。

其四曰行事。有人行事先己後人者,好私人也;事繁多而用事不當者,無智人也;作事不急於用者,無益人也;作事有首無尾者,偽人也;先急而後慢者,卒眾庸人也;事不求詳而輒為者,粗疏人也;巧妙而無裨急用者,浮艷人也;所措舍魯鈍而不適用者,愚人也;利害章章而不能析之者,無識人也;臨事而懼者,懦弱人也;進退不決者,無斷人也;記一而忘二者,神昧人也;事虛而構架廣大,以善為惡、以惡為善者,奸人也;善候人之顏色,隨所欲而言者,佞人也。是十四者人有其一,不可使之也。

第四條は行事を考す。事を辦するに先ず自己を顧り後に別人を顧る人は、偏私の人なり。事情千頭萬緖にして處置失當の人は、智謀なき人なり。爲す所皆眼下の急用に非ざる人は、事に補なき人なり。事を做すに頭あり尾なき人は、虛僞の人なり。起初急切にして後來懈怠する人は、終に平庸の輩なり。事情弄清を求めずして動手する人は、粗疏の人なり。做り精巧なるも急需に補なき人は、浮華の人なり。一取一舍皆笨拙にして實用に切らざる人は、愚蠢の人なり。利害明擺するも分折し清らかならざる人は、見識なき人なり。事に遇えば就ち害怕する人は、懦弱の人なり。進退主意を拿定せざる人は、決斷なき人なり。一件を記えば就ち另一件を忘るる人は、心神昏昧の人なり。事情もとより虛妄に屬するを卻って極大に鋪排し、好きを壞しと說き壞しを好しと說く人は、奸邪の人なり。善く別人の臉色を察看し人家の心意に順って話を說く人は、諂佞の人なり。以上十四種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、則ち任用すべからず。

有事簡而用當者,有喜怒之事不露於色者,臨大事而神氣自若者,此謂神有餘人也。有微而不棄,大而不煩者;凶事不懼,美事不喜者;事有眾惑而獨斷之者;事有眾危而獨安之者;事有難動而獨動之者;事有難安而能安之者,此謂志有餘人也。是十者人有其一,皆可使之也。是以知貌也者,神之聚也;言語也者,神之發也;舉動也者,神之用也;行事也者,神之本也。察其神,則盡其為人之道也大矣。況國之命將,可不審於此乎?

事を辦するに簡明にして處置得當の人、可喜可怒の事に遇上して色に形わざる人、大事に面臨して神氣自若の人、これを「神有餘」の人と謂う。事情細微なるも輕易に舍棄せず、事情重大なるも煩擾を覺えざる人。凶險の事に遇うて畏懼せず、順遂の事に遇うて輕喜せざる人。衆人皆迷惑するも彼は獨り決斷し得る人。衆人皆危險と覺ゆるも彼は獨り局面を安定し得る人。事情別人推動せざるも彼は推動し得る人。局面別人安定せざるも彼は安定し得る人——これを「志有餘」の人と謂う。以上十種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆任用すべし。これより知るべし、相貌は精神の凝聚、言語は精神の發露、擧動は精神の運用、行事は精神の根本なり。能く一人の精神を考察すれば、人を識るの道理もまた相當に透徹に窮究せり。いはんや國家の主將を任命するに、何ぞこの上に仔細に審察せざらんや。

論將第七

《萬機論》曰:雖有百萬之師,恃吞敵在將者,恃將也。夫舉國之利器以授之,茍非其人,是輕天下。將何以為?謂小大者各有四焉。八者皆無,何足以謂之將乎?其大者:一曰天將,二曰地將,三曰人將,四曰神將;其小者:一曰威將,二曰強將,三曰猛將,四曰良將。

三國魏人蔣濟《萬機論》に曰く、たとえ百萬の大軍あるも、敵人を吞滅し得るを指望する關鍵は仍ほ主將に在り。ゆえに倚仗する所は主將なりと説く、と。全國最も鋒利の武器を一人に交う。若し托する所其人に非ざれば、則ち天下を輕視するなり。主將を爲すは何に憑るや。説くべし、大きな方面に四種あり、小さな方面にもまた四種あり。この八樣一樣も具備せざれば、何ぞ主將と稱するに配せんや。大なる四種は、一を天將と謂い、二を地將と謂い、三を人將と謂い、四を神將と謂う。小なる四種は、一を威將と謂い、二を強將と謂い、三を猛將と謂い、四を良將と謂う。

凡興師舉眾列營結陣,視旌旗之動,審金鼓之聲,揆日度時,以決吉凶;隨五行運轉,應神位出人,以變用兵,敵人不測其所來,以神用兵,我師不知其所為;動有度,靜有方,勝負在乎先見,持天地鬼神之心以安士眾:此之謂天將者也。

凡そ兵を興し衆を動かし營を立て陣を布くに、能く旌旗の飄動の方向を看、金鼓聲音の節奏を辨し、日辰時刻を推算し、據って吉凶を判定し、五行の運轉に順い神煞方位の出沒に配合して人馬を調遣し、變化を以て兵を用いて敵人をして彼の何處より來るかを料到せしめず、神妙を以て兵を用いて自己の部隊ですら彼の何を爲さんとするかを摸透せず、一動に法度あり一靜に方略あり、勝負全て事先に看清むに靠り、能く天地鬼神の心を秉持して以て士衆を安定す——これを天將と謂う。

所至之境,詳察地理〈一作利〉,山澤遠近、廣狹險易、林藪之厚薄、溪澗之深淺,若視諸掌;戰陣之時,前後無阻,左右無滯,步騎使其往來,戈戟葉其所用,指揮進退皆順其情,人馬無逼塞之困,攻守獲儲蓄之利,振野得水草之饒,使人馬無饑渴之色,陷死地而能生,攻亡地而能存,逆地而順用之,順地而逆用之,不擇險易皆能安而後動,動而決勝者:此之謂地將者也。

凡そ到る所の處、皆能く地理を詳細に勘察す(「理」は一本に「利」と作る)。山嶺水澤の遠近・地面の寬窄險易・林木草莽の疏密・溪流澗水の深淺、皆自己の手掌を看るが如く清楚なり。臨陣作戰の時、前後に阻礙なく、左右に滯塞なく、步兵騎兵往來自如にして、戈戟等の長兵器皆用うるに合宜し、指揮進退皆實情に順應し、人馬擠迫壅塞の苦を受けず、攻守皆儲備充足の利を占め得、曠野に駐紮するも水草豐饒の地を取得し得、人と馬とをして饑渴の色を見せず。死地に陷入るも能く生を求め、絕地に攻入るも能く保全し、不利の地形に遇うて能く反って勢に順って利用し、有利の地形に遇うても能く反って奇を出して制勝し、險要なるも平易なるも論ぜず先ず安定して然る後行動し、一動すれば便能に決勝す——これを地將と謂う。

又若廉於財,節於色,疏於酒,持身以禮〈一作公〉,奉上以忠,憂樂與士卒同,獲敵之貨賂而不蓄,得敵之婦女而不留,納謀而能容,疑而能斷,勇而不陵物,仁而不喪法,匿〈一作原〉其小罪,決其大過;犯令者不諱其親,有功者不忌其仇,老者扶之,弱者撫〈一作恤〉之,懼〈一作驚〉者寧之,憂者樂之,訟者決之,濫者詳之,賊者平之,強者抑之,懦者隱之,勇者使之,橫者殺之,服者原之,失者扶之,亡者逐之,來者爵之,暴者挫之,智者暱〈一作眙〉之,讒者遠之;得我城不攻,得地不專;敵淺以待變,敵詭以順會,逆勢則觀,順勢則攻,此之謂人將者也。

更にあの種の財物に廉潔・女色に節制・飲酒に疏遠にして、禮法を以て自身を約束し(「禮」は一本に「公」と作る)、忠誠を以て君上に事え、士卒と同憂同樂し、敵方の財貨賄賂を繳獲して私藏せず、敵方の婦女を俘得して留下せず、能く謀議を採納して人を容るるの量あり、疑難に遇うて能く決斷し、勇敢なるも他人を欺凌せず、仁厚なるも法度を廢棄せず、部下の小過を寬掩し(「匿」は一本に「原」と作る、皆寬宥の意思)、彼らの大錯を嚴處し、令に違う人はたとえ自己の親屬なるも回護せず、功ある人はたとえ自己の仇家なるも忌恨せず、年老のは彼を扶助し、體弱のは彼を撫恤し(「撫」は一本に「恤」と作る)、驚懼の(「懼」は一本に「驚」と作る)は彼を安定し、憂愁のは彼を開解し、爭訟あるは彼の爲に判斷し、行事過分のは彼の爲に查明し、亂を作すは彼を平定し、強橫のは彼を壓制し、怯懦のは彼を隱蔽し、勇敢のは彼を派して上陣せしめ、蠻橫のは彼を處死し、歸服のは彼を寬赦し、過失あるは彼を扶持し、逃亡のは彼を追捕し、來歸のは彼に爵位を授け、凶暴のは彼を挫折し、明智のは彼を親近し(「昵」は一本に「眙」と作る)、讒言を進むるは彼を疏遠し、城池を收回して更に窮めて攻掠せず、土地を取得して私有に據らず、敵人根基淺薄なればその內部の變を生ずるを等待し、敵人詭詐なればその勢に順って之と周旋し、形勢不利なれば兵を按じて觀望し、形勢有利なれば兵を發して進攻す——これを人將と謂う。

又若以天為表,以地為裡,以人為用,舉三將而兼之,此之謂神將者也。行師之時,無失天時,無失地利,無失其人,無有勇怯,聞敵而即行,心無疑慮;犯令者罪無大小,必繩以刑,敵聞之即畏〈一作降〉,當之即破,此之謂強將者也。

更にあの種の天を以て外表と爲し地を以て內裏と爲し人を以て運用と爲し、上面の三種の將才を一身に兼ねる、これを神將と謂う。行軍の時、天時を失わず、地利を失わず、人和を失わず、部下勇敢怯懦を論ぜず一律に驅使して動かし得、敵情を聽くや立刻出動し、心裏疑慮なし。軍令を違犯する人は罪過の大小を論ぜず、必ず法を以て之を繩し、敵人一たび彼を聽説すれば就ち畏懼し(「畏」は一本に「降」と作る)、一たび交鋒すれば就ち擊破せらる——これを強將と謂う。

師無多少,敵無強弱,三軍順令,若臂使指;往復萬變,出其敵不意,舉動如神,匹馬單劍,摧鋒先人,使敵人失措懼而遠盾,此之謂猛將者也。夫能以威為表,以猛為裡,以強居中,兼三將而有之,此之謂良將者也。

自己の部隊多少を論ぜず、對面の敵人強弱を論ぜず、三軍皆號令に順從し、手臂の手指を指揮するが如く靈便なり。往來變化萬端、敵人の意料に出で、擧動神明の如し。單人匹馬・一柄の長劍を以て最も前面に衝りて敵軍の鋒銳を摧折し、敵人をして手足に措く所なく畏懼して遠く退避せしむ——これを猛將と謂う。能く威嚴を以て外表と爲し勇猛を以て內裏と爲し剛強を以て中に居りて主持し、威・猛・強の三者を兼備する、これを良將と謂う。

國之任將也,得天將,可以當違天之敵;得地將,可以當逆地之敵;得人將,可以當悖人之敵;得神將,可以當天下之敵,舉無遺算矣。威將可附天將〈上能順天,下壯威武,所宜附也〉,強將可附地將〈上明地利,下知進退,所宜附也〉,猛將可附人將〈上明人心利害,下以精敢禦敵,所宜附也〉,良將可保四方。曰:雖有敏捷之用,然皆不可以獨用焉。如是者,將之體也。

國家の將領を任用するに、天將を得れば、天時に違背する敵人に對付し得べし。地將を得れば、地利に背離する敵人に對付し得べし。人將を得れば、人心に悖逆する敵人に對付し得べし。神將を得れば、天下いかなる敵人にも對付し得、用兵便ち失算の處なし。威將は天將に配屬すべし(原注:上は能く天時に順應し、下は能く威武を壯盛にす。ゆえに配屬に適宜なり)、強將は地將に配屬すべし(原注:上は能く地利を明察し、下は能く進退を懂得す。ゆえに配屬に適宜なり)、猛將は人將に配屬すべし(原注:上は能く人心利害を明白にし、下は能く精銳果敢を以て敵人を抵禦す。ゆえに配屬に適宜なり)、良將は則ち四方を保守し得べし。説くべし、これら幾種の人は各々敏捷可用の處あるも、皆單獨の任用に宜しからず。この如く配搭して、初めて將を爲るの整體の格局なり。

出將第八

王者既審定大臣之可否以將之,於是居正殿召之,曰:“今某地不臣,願煩將軍應之,社稷安危,亦在將軍。”乃使大史氏擇吉日,授之斧鉞。王入大廟,西面而立,王操鉞持其首,授之柄,曰:“從是以上至天者,將軍制之。”復操其柄,授之以刃,曰:“從是以下至地者,將軍制之。”

君王すでにある大臣の主將を擔當し得るか否かを審定し、於是乎正殿に彼を召見して曰く、「如今某地朝廷に服せず、將軍に前去應付するの煩勞を煩わす。國家社稷の安危は、亦た將軍の身に繫る」と。隨いて太史官に命じて吉日を挑選せしめ、斧鉞を彼に授與す。君王は太廟に進入し、西に面向いて站立し、鉞の上端を握住して、鉞柄を主將に交えて曰く、「ここより上は天に至るまで、皆將軍の裁斷に由る」と。また反って鉞柄を握住し、刃ある一端を主將に交えて曰く、「ここより下は地に至るまで、皆將軍の裁斷に由る」と。

將既受命,拜而報曰:“臣聞國不可以從外理,軍不可以從中禦,二心不可以共濟,疑心不可以應敵。臣既受命,專斧鉞之威,臣不敢生還。”乃辭而行,鑿凶門而出。是以將之行也,不問妻子,示其忠於國;君之命將,不敢輕其禮,示其崇於用。將之於外也,君命有所不受,唯逐便利國家是務。其於己也潔,其於人也至。

主將任命を接受したる後、禮を行いて答復して曰く、「臣聞く、國政は外面より治理する能わず、軍事は朝廷中樞より遙控する能わず。心に二意を懷けば難關を共渡する能わず、心に疑慮を存すれば敵人を應付する能わず。臣すでに命を受け、獨り斧鉞生殺の威を專らにすれば、更に生きて歸るを敢てせず」と。於是乎辭別して啓程し、凶事を象徵する北向の門を鑿開して出征す。ゆえに主將の出發する時、妻子兒女を過問せざるは、彼の國家に對する忠誠を表示す。君主の主將を任命するに禮數を簡慢にせんと敢てせざるは、彼のこの任用に對する尊崇を表示す。主將外に在り、君主の命令はあるいは接受せざるを得るあり、ただ國家に利あるを追求するを以て要務と爲す。彼の自己に對するは潔身自好を要求し、別人に對するは則ち心力を盡くす。

是故將拒諫則英雄散,策不從則謀者去;善惡等則賢愚混,賞罰亂則綱紀散;多喜則不威,多怒則人心離,多言則機洩,多好則智惑;寬則眾懈,暴則眾怨;將專權則下歸咎,將自善則下無功,將納讒則正人離,將好賂則士卒盜,將內顧則士卒淫。

これに因りて、主將が進諫を拒絕すれば、英雄豪傑散去す。計策採納せられざれば、謀を出す人離開す。好壞を一樣に對待すれば、賢能と愚劣と混淆す。賞罰混亂すれば、綱紀渙散す。喜悅多すぎれば威嚴なく、憤怒多すぎれば人心離散し、話多く說けば機密外泄し、嗜好多すぎれば心智惑わさる。一味に衆人を寬縱すれば就ち懈怠し、一味に衆人を暴虐すれば就ち怨恨す。主將權柄を獨攬すれば、部下は過錯を皆彼に推す。主將ただ自己の表現を顧れば、部下は立つべき功なし。主將讒言を聽信すれば、正直の人去る。主將賄賂を貪圖すれば、士卒は偸搶に往く。主將家室を顧念すれば、士卒は淫亂放縱す。

貶聲揮色,所以自潔;避嫌遠疑,所以自持;沉機遠慮,所以不失;委時順變,所以逮功;恕物篤行,所以歸愛;暱善斥讒,所以來遠;先度後作,所以應卒;先信後言,所以伏下;信賞必罰,所以正人;明今鑒古,所以照眾;卑色貴人,所以保終;去私循公,所以存國。其神欲正,其形欲端,動欲如風〈取其順健也〉,止欲如山,鬥欲如雷電,機欲如鬼神,思欲如照影,令欲如雪霜〈取其必殺也〉。茍有此者,可以當國之大命矣。

聲色を收斂するは、以て自身の清白を保持するに用い、嫌疑を避開するは、以て自我の把持するに用い、機謀を深藏し遠く籌劃するは、以て差錯を出さざるに用い、時に因りて宜を制し變化に順應するは、以て功效を取得するに用い、寬を以て物に待し篤實に力行するは、以て衆人の愛戴を收攏するに用い、良善に親近し讒佞を斥退するは、以て遠方の人を招徠するに用い、先に謀劃し後に動手するは、以て倉促の變に應付するに用い、先に信を取り後に發言するは、以て部下を服從せしむるに用い、賞あれば必ず兌現し罰あれば必ず執行するは、以て人心を端正するに用い、當今を明察し古事を借鑑するは、以て衆情を燭照するに用い、態度謙下にして他人を尊重するは、以て善終を保全するに用い、私心を去掉し公道を遵循するは、以て國家を保存するに用う。主將の精神は端正なるを要し、形貌は端莊なるを要し、行動は風の如く迅捷(原注:その順暢剛健の意思を取る)、駐止は山の如く穩固、搏鬥は雷電の如く迅猛、機謀は鬼神の如く測られず、思慮は影を照らすが如く明察、號令は霜雪の如く嚴酷(原注:その必ず肅殺するの意思を取る)なるを要す。これらを具備する人は、便ち國家の重大使命を擔當し得べし。

軍令第九

大將既受命,總專征之柄,犒師於野,畢而下令焉,不從令者必殺之。夫聞鼓不進,聞金不止,旗舉不起,旗低不伏,此謂悖軍。如是者斬之。呼名不應,召之〈一作引〉不到,往復愆期,動乖師律,此謂慢軍。如是者斬之。夜傳刁斗,怠而不振,更籌乖度,聲號不明,此謂懈軍。如是者斬之。多出怒言,怨其不賞,主將所用,崛強難治,此謂橫軍。如是者斬之。

主將すでに命を受け、總攬して征伐を專主する大權を握れば、就ち野外に於て三軍を犒賞し、禮畢りたる後軍令を頒下し、軍令に服從せざるは一律に處死す。鼓聲を聽いて前進せず、金を鳴らすを聽いて停止せず、旗子擧げられて站起せず、旗子放低られて伏下せず、これを「悖軍」と謂い、犯る者處斬す。點名に答應せず、召唤(「召」は一本に「引」と作る)に到らず、往返期限を延誤し、行動軍紀に違背す、これを「慢軍」と謂い、犯る者處斬す。夜裏刁斗を傳遞するに——軍中白日飯を做り夜裏敲擊して更を巡る銅器——卻って懈怠振作せず、更次籌碼錯亂して度を失し、口令號音含糊にして清らかならず、これを「懈軍」と謂い、犯る者處斬す。屢々憤怒の言を出し、賞賜を得ざるを抱怨し、主將差遣する所有れば就ち倔强にして管束し難し、これを「橫軍」と謂い、犯る者處斬す。

揚聲笑語,若無其上,禁約不止,此謂輕軍。如是者斬之。所學器械,弓弩絕弦,箭無羽鏇,劍戟澀鈍,旗纛雕敝,此謂欺軍。如是者斬之。妖言詭辭,撰造鬼神,托憑夢寐,以流言邪說恐惑吏士,此謂妖軍。如是者斬之。奸舌利嘴,鬥是攢非,攢怨吏士,令其不協,此謂謗軍。如是者斬之。所到之地,陵侮其民,逼其婦女,此謂奸軍。如是者斬之。竊人財貨,以為己利;奪人首級,以為己功,此謂盜軍。如是者斬之。

高聲に談笑し、目中に上司なく、禁止約束するも停止せざるは、これを「輕軍」と謂い、犯る者處斬す。領用する所の器械、弓弩は弦斷れ、箭上に翎羽と箭鏃となく、劍戟滯澀鈍口、旗幟大纛殘破不堪なるは、これを「欺軍」と謂い、犯る者處斬す。妖言詭辭を散布し、鬼神の事を編造し、夢中の見る所に假托し、流言邪説を以て軍吏士卒を恐嚇迷惑するは、これを「妖軍」と謂い、犯る者處斬す。奸巧の舌頭・鋒利の嘴、是非を搬弄し、軍吏士卒の怨氣を聚集して彼らを彼此不和ならしむるは、これを「謗軍」と謂い、犯る者處斬す。到る所の處當地の百姓を欺凌侮辱し、民間の婦女を逼迫するは、これを「奸軍」と謂い、犯る者處斬す。他人の財貨を竊偸して己有に據り、他人の斬獲したる首級を搶奪して自己の戰功を冒充するは、これを「盜軍」と謂い、犯る者處斬す。

將軍聚謀,逼帳屬垣,竊聽其事,此謂探軍。如是者斬之。或聞所謀及軍中號令,揚聲於外,使敵聞知,此謂背軍。如是者斬之。使用之時,結舌不應,低眉俯首而有難色,此謂狠〈一作恨〉軍。如是者斬之。出越行伍,爭先亂後,言語喧嘩,不馴禁令,此謂亂軍。如是者斬之。托傷詭病,以避艱難,扶傷舁死,因而遁遠,此謂詐軍。如是者斬之。

將軍衆を聚めて事を議する時、帳幕に緊挨し牆根に貼して機密を偸聽するは、これを「探軍」と謂い、犯る者處斬す。人ありて議する所の謀あるいは軍中號令を聽到して、就ち外面に張揚して敵方をして得知せしむるは、これを「背軍」と謂い、犯る者處斬す。差遣任用の時候に到りて、口を閉じて應えず、眉を低め首を俯せ面に難色あるは、これを「狠軍」と謂い(「狠」は一本に「恨」と作る)、犯る者處斬す。擅自に本隊行列を越出し、先を爭り後を奪りて後隊を擾亂し、言語喧譁にして禁令に服從せざるは、これを「亂軍」と謂い、犯る者處斬す。負傷に假托し病を詐稱して以て艱險を躲避し、傷員を攙扶し死者を抬運する機會に借着して勢に乘じて遠く逃るるは、これを「詐軍」と謂い、犯る者處斬す。

主掌財帛給賞之際,阿私所親,使吏士結怨,此謂黨軍。如是者斬之。觀寇不審,探寇不詳,到而言不到,不到而言到,多言而少,少言而多,此謂誤軍。如是者斬之。營壘之間,既非犒設,無故飲酒,此謂狂軍。如是者斬之。

財物布帛を主管し賞賜を發放するの時、親近の人を偏袒して、軍吏士卒を彼此結怨せしむるは、これを「黨軍」と謂い、犯る者處斬す。敵情を觀察して審慎ならず、敵情を偵探して周詳ならず、敵人すでに到るも到らずと報じ、到らずもすでに到れりと報じ、人多きを人少なしと報じ、人少なきを人多しと報ずるは、これを「誤軍」と謂い、犯る者處斬す。營壘の內に在りて、犒賞設宴の場合に非ず、故なく聚飮するは、これを「狂軍」と謂い、犯る者處斬す。

此令既立,吏士有犯之者,當斬斷之時,大將以問,諸將曰罪當斬,遂令吏士扶於外斬之。斬斷之後,使傳令告諸吏士曰:“某人犯某罪,適與諸將議當斬。已處斷訖,公等宜觀此以自戒。”是大將以禮行罰,使士卒無冤死,眾有畏心矣。故軍法者,將之大柄也,可不重乎!是以呂蒙涕泣而斬鄉人,穰苴立表而誅莊賈。此皆先尊法令,後收功名者也。

この套の軍令一たび確立すれば、軍吏士卒觸犯する有れば、行刑處斬する要する時候に到り、主將當衆發問し、諸將答えて罪に依り斬すべしと曰い、於是乎軍吏士卒に命じて彼を營外に押到して斬首せしむ。行刑の後、人を派して令を傳え全體軍吏士卒に通告して曰く、「某人某項の罪條に觸犯し、剛纔すでに諸將と議定して處斬すべし。現に處決完畢せり。諸位は當にこの件事を看着して自我警戒すべし」と。これすなわち主將の禮に依りて罰を行い、士卒をして冤を含みて死せざらしめ、衆人心中自然に畏懼を生出すなり。ゆえに軍法は主將の最大の權柄なり。何ぞ鄭重に對待せざらんや。これに因りて三國呉將呂蒙は眼淚を流しても犯軍令の同鄉を斬掉し、春秋齊將司馬穰苴は木を立てて表と爲し時刻を約定し、就ち遲到の監軍莊賈を正法せり。これら皆先に法令を尊崇し、然る後乃ち功名を收取する人なり。

船戰第十

夫水戰之時,擂一通鼓,吏士皆嚴肅。再擂一通鼓,士伍皆就船,整待〈一作治〉櫓棹;戰士各〈一作為〉持兵器就船,各一〈一作為〉當其所。幢幡鼓角,各〈一作為〉隨所戰船。鼓三通,大小船以次發,左不得右,右不得左,前後不得擅越。違令斬之。

水戰の時、第一通の鼓を擂れば、軍吏士卒一律に肅靜戒備す。再び第二通の鼓を擂れば、士兵隊伍全部船に登り、櫓と槳とを整備し(「整待」は一本に「整治」と作る)、戰士各々兵器を携帶して船に登り、人人各々その位に就く(此の處は一本に「各々當たる所と爲る」と作る)。旗幟幢幡と鼓角とも、また各々所屬の戰船に隨って分配す(一本に「戰う所の船に隨うと爲る」と作る)。鼓三通を擂滿すれば、大船小船依次に出發し、左に在るは右邊に竄るを得ず、右に在るは左邊に竄るを得ず、前後もまた擅自に越次するを得ず。號令に違犯するは處斬す。

步戰第十一

夫步戰之法,擂鼓一通,步騎皆裝。再通,上馬,步皆屯。三通,以次出之。隨幡住〈一作生〉者,結屯住〈一作往〉幡後,聞鼓音整陣,斥候者視之地形廣狹,從四角面立表,制戰陣之宜,諸部曲各〈一作為〉安部陣。兵曹舉曰:不如令者斬之。

步戰の辦法は、第一通の鼓を擂れば、步兵騎兵一律に披掛裝束す。第二通の鼓に、騎兵は馬に上り、步兵各々集結して屯を成す。第三通の鼓に、依次に出發す。旗幡に跟隨して駐紮する(「住」は一本に「生」と作る)は、就ち旗幡の後面に屯隊を結成し(「住」は一本に「往」と作る)、鼓聲を聽到すれば就ち陣形を整頓し、偵察を擔任する斥候は地形の寬窄を察看し、四角の方向より標杆を豎立し、戰陣の布置を規劃し、各部曲分別に本部の陣位を安頓す(「各」は一本に「爲」と作る)。兵曹官は高聲に宣布す、號令に照らして行事せざるは處斬す、と。

若欲結陣,對敵營先立表,乃引兵就表而臨,皆無喧嘩,明聽鼓、看旗幡,麾前則前,麾後則後,左則左麾,右則右麾。不應令而擅前後左右者,斬。伍中有不進者,伍長殺之。伍長不進,什長殺之。什長不進,督兵者殺之。

若し陣を結ばんとせば、就ち敵營に對する方向に先ず標杆を立好し、然る後兵を領して標杆の處に到り陣を列して相對し、一律に喧譁を許さず、專心に鼓聲を聽き旗幡を看、旗が前に向いて揮れば前進し、後に向いて揮れば後退し、左に向いて揮れば左に往き、右に向いて揮れば右に往く。號令を聽かずして擅自に前後左右に移動するは、斬。一伍の中に前進せんと肯ぜざる有れば、伍長彼を殺す。伍長前進せざれば、什長彼を殺す。什長前進せざれば、督戰の軍官彼を殺す。

督戰之法,將則拔刃在後,察違令不進者即斬之。一步受敵,餘步不進敵者,斬。臨陣兵器弓弩不可離陣,離陣,伍長、什長不舉發者,與同罪。無將軍令而妄行陣間者,斬。臨戰陣,騎兵皆在軍兩頭,前陣叉騎次之,遊騎在後。若步、騎與賊對陣,臨時見地勢便,欲使騎獨進討賊者,聞三鼓音,馳騎從兩翼進戰,視麾所指;聞三金音,即還。此謂獨進戰之時也。步、騎大戰,進退自如法焉。

督戰の辦法は、將領刀を拔いて隊伍の後面に壓し、違令して前ならざるを察看到すれば立即斬殺す。一部分の步卒すでに敵と交鋒するも、その餘の步卒前に上りて敵を迎えざるは、斬。臨陣の時兵器弓弩は本陣を帶離するを得ず、人ありて擅自に陣を離るるも伍長・什長檢擧せざれば、彼と同罪とす。將軍の命令なくして陣中に亂走するは、斬。臨陣作戰の時、騎兵皆全軍の兩端に配置し、前陣交叉游動の「叉騎」は之に次ぎ、游騎は最後に列す。若し步兵騎兵敵と對陣し、臨時地勢便利を看到し、騎兵をして單獨に出擊し敵を討たしめんと欲せば、就ち三通の鼓聲を聽到したる後、馬を縱りて兩翼より戰鬥に投入し、旗の指す方向を看て行動し、三通の鳴金聲を聽到すれば、立即撤回す。これすなわち騎兵の單獨に出戰する時機なり。步兵騎兵合力して大戰する時、進退は仍ほ上述の法度に依照す。

兵機統論第十二

臣聞兵者,陰也。陰之德,以虛為用而應於體也。月者,太陰之精氣也。朔望不常,何也?蓋由以虛為變也。兵者既為陰類,則其機宜常虛含變以法月也。能以虛含變應敵,動必利矣。

臣聞く、戰事は「陰」に屬す。陰の德性は、虛靈を以て運用と爲して形體の上に落實す。月亮は太陰の精氣にして、その朔望盈虧は固定せず。これは何を爲すや。就中それが「虛」を以て變化と爲すればなり。用兵すでに陰の一類に屬すれば、則ち用兵の樞機もまた當に常に虛靈を保ち變化を含蘊し、以て月亮を效法すべし。能く虛靈含變を以て敵人に應付すれば、一動すれば必ず利あり。

觀乎天文之風雲星辰有吉凶者,天將也。得其吉象不可恃之,恃之者凶;得其凶象不可懼之,懼之者銳。茍不知天象之吉凶者,是虛其機而應天者也。觀乎地理山川險易,有生死存亡之途者,地之利於人也。善用兵者,於地也無生死存亡,觀彼我之勢,察去就之情何如爾,然後乃順其事而用之也。茍不知地理之險易者,是虛其機以應地者也。

天文中の風雲星辰の顯示する吉凶を觀察するは、あれは天に屬する將才の擅長する所の事なり。吉象を得るもそれを倚仗すべからず、それを倚仗すればかえって凶を招く。凶象を得るも必ずしもそれを畏懼する要なし、それを畏懼すればただ敵人の氣焰を更に盛んならしむるのみ。假如天象の吉凶を死に認め去らざれば、これすなわち自己の樞機をして虛靈を保持せしめて以て天時に應對するなり。地理山川の險要と平易とを觀察するに、その中生路死路・存亡分途あり。これは大地の人に與うる利害なり。善く兵を用うる人は、地形に對して何處が必ず生・何處が必ず死と認定せず、而是れ敵我雙方の態勢を看、該く舍つべき該く取るべきの實情如何を察明し、然る後實際の情況に順って運用を往く。假如地形の險易を死に認め去らざれば、これすなわち自己の樞機をして虛靈を保持せしめて以て地利に應對するなり。

觀乎人事強弱利害有勝敗之勢者,事皆繫於人也。茍以變合於事,強弱利害有勝敗之勢者,事皆繫於人也。茍以變合於事,事合於時,時合於理者,無強弱,無利害,則敗勢可以為勝,勝勢可以為敗也。茍不知人事之勝敗者,是虛其機以應人者也。

人事上の強弱利害を觀察して勝敗の勢を形成するは、これら皆人に取決す。若し能く變化を以て事情に配合せんに——強弱利害の勝敗の勢を形成する所以は、事情皆人に取決す。若し能く變化を以て事情に配合し、事情をして時機に合せしめ、時機をして情理に合せしめば、則ち強弱もはや定局に非ず、利害ももはや定局に非ず、敗勢は勝勢に轉成し得、勝勢もまた敗勢に轉成し得べし。假如人事上の一時の勝敗を死に認め去らざれば、これすなわち自己の樞機をして虛靈を保持せしめて以て人事に應對するなり。

是故善戰者雜於凶而難可釋,雜於吉而難可壯。吉凶交雜而能不惑於用者,此可以上不畏天矣。雜於險而事利,雜於易而事難。險易交雜而能常處其變者,此可以下不畏地矣。雜於〈一作其〉利而敵見其害,雜於害而我敗〈一作馭〉其利。利害雜交而不能屈於敵者,此可以中不畏人也。知此三者而用兵,其盡三才之變乎。自古兵法及臣所著之書,其間申明利害者,蓋以直指其形貌者爾。以臣所謂能審一時之機者,其在天也,無吉凶;其在地也,無險易;其在人也,無利害。

ゆえに善く作戰する人は、凶象の中に身處すも肯んじて就此懈罷兵せず、吉象の中に身處すもまた此に因りて妄りに自ら壯大せず。吉凶交錯するも能くそれに迷惑せられず照舊兵を用うる自如なるは、これを以て上に天を畏懼せざるを得。險地に處して事情辦り順利、平地に處して事情かえって艱難、險易交錯するも能く常に變化の中に安處するは、これを以て下に地を畏懼せざるを得。有利なる局面と見ゆるも敵人はその中の害處のみを看到し(「雜于」は一本に「雜其」と作る)、有害なる局面と見ゆるも我方は卻ってその中より利を駕馭し出すを得(「敗」は一本に「馭」と作る、すなわち駕馭)、利害交錯するも肯んじて敵人に屈服せざるは、これを以て中に居りて人を畏懼せざるを得。この三條を懂得して兵を用いれば、大概天・地・人の三才の變化を窮盡せり。自古より來の兵法および臣の寫したるこの部の書、その中の利害を申説する處は、不過直接にそれらの表面形貌を指點するのみ。臣の説く所の能く一時の機宜を審察する人に照らせば、天に在りて吉凶なく、地に在りて險易なく、人に在りてもまた利害なし。

軍謀第十三

用兵之道,先正其禮,次淵其謀,次擇其人。然後詳天地之利害,審人心之去就,行賞罰之公,慎喜怒之理,擇進退之地,張攻伐之權,明成敗之圖,度主客之用。能愛人之生者,可使人舍生而赴死;能親人之身者,可使人捐身而犯難。是故先親於人,俾人然後親之;先勝於敵,就敵然後勝之。

用兵の道理は、首先要ず禮法を端正し、其次に謀略を深沉ならしめ、再次に合適の人を選擇す。然る後天時地利の利害を詳審し、人心の向背を考察し、公平の賞罰を施行し、喜怒の分寸を慎重に把握し、進退の地形を選擇し、攻伐の權變を展開し、成敗の謀劃を明察し、主客兩方の用法を權衡す。能く別人の生命を愛惜する人は、始めて人をして生を舍て死に赴かしめ得べし。能く別人の身體を體恤する人は、始めて人をして身を舍て難に犯さしめ得べし。ゆえに先ず別人に親近して、別人然る後乃ち汝に親近せん。先ず籌算の上に敵人に勝てば、然る後接戰して始めて眞に敵人に戰勝す。

故用兵必以糧儲為本,謀略為器,強勇為用,鋒刃為備,祿位為誘,斬殺為威;強弱相援,勇怯相間,前後相趨,左右相赴,遠近相取,利鈍相蔽,步騎相承,長短相用〈長兵短兵之用也〉。敵欲堅陣,我則突其不意;敵欲直沖,我則備其所從。攻必先攻其所寡,擊必先擊其所動。薄者可突,長者可截,亂者可惑,疑者可協。

ゆえに用兵は必ず糧食儲備を以て根本と爲し、謀略を以て工具と爲し、強壯勇敢を以て戰力と爲し、鋒利兵刃を以て裝備と爲し、官祿爵位を以て誘勸と爲し、斬殺を以て威懾と爲す。強と弱と互相支援し、勇と怯と互相搭配し、前後互相馳援し、左右互相救應し、遠近互相取用し、銳利と鈍拙と互相掩護し、步兵と騎兵と互相啣接し、長兵器と短兵器と互相配合す(原注:説く所は長兵器と短兵器各々の用法)。敵人陣地を固守せんと欲すれば、我は彼の意料せざる處を攻め、敵人直接衝擊せんと欲すれば、我は彼の衝來の路線を防備す。進攻は必ず先ず彼の兵力單薄の處を攻め、出擊は必ず先ず彼の剛纔移動する處を擊つ。陣形單薄のは突破し得べく、隊伍拉長のは截斷し得べく、內部混亂のは更に迷惑を加うべく、心存疑懼のは法を設けて挾制し得べし。

夫軍之為政也,勞在乎役無度,怨在乎賞不均,弱在乎逼迫,窮在乎絕地,離在乎將失道,懼在乎將無勇,饑在乎遠輸,渴在乎窮井。軍之為逸也,樂在乎安靜,利在乎賞罰,當其死在乎軍檢正,成其功在乎戰陣詳。如此者,戰陣之術也。軍之即於戰陣也,從生擊死,從實擊虛,從整擊亂,從利擊害,從逸擊勞,從有餘擊困窮。山陵之戰,不仰高,不速深,不沖隘,不遠追;水上之戰,不違風,不逆流;林中之戰,不連翼,不相馳;草上之戰,不涉深;平陸之戰,不遠離。此戰法之利也。

軍を治め政を理する時、勞苦は役使に節度なきに產生し、怨恨は賞賜不公に產生し、兵力削弱は逼迫を遭受するに產生し、走投無路は絕地に陷入るに產生し、離心は主將失道に產生し、恐懼は主將無勇に產生し、饑餓は糧を運ぶ路遠きに產生し、乾渴は水井枯竭に產生す。軍隊をして安逸ならしめんには、快樂は環境安靜に在り、得利は賞罰分明に在り、效死を肯んずるは軍中檢核公正に在り、能く成功するは戰陣布置周詳に在り。これらすなわち戰陣の術なり。軍隊一旦戰陣に投入せば、就ち生地を以て死地を打ち、實處を以て虛處を打ち、整齊を以て混亂を打ち、有利を以て不利を打ち、安逸を以て疲勞を打ち、有餘を以て困窘を打つべし。山陵の戰は、高處を仰攻せず、輕率に深入せず、隘口を硬衝せず、敗兵を遠追せず。水上の戰は、風に逆らわず、水流に逆らわず。林中の戰は、隊伍翼を並べて行せず、彼此縱馬亂馳せず。草地の戰は、深草に涉入せず。平原の戰は、本隊を遠離せず。これらすなわち戰法上の便利なり。

軍之禁也,不節語,言必洩;不峻令,行必亂;不行賞,士必怠。行伍紊亂,由於昧暗〈一作旺〉,在明察以正之。晦夜驚怖,在鎮靜以嚴之。是以知陣之嚴整,軍之表也;軍吏畏愛,將之裡也。軍之所親,將之所在。非智賢,孰能與此乎?

軍中の禁忌は、說話節制を加えざれば、機密必ず外泄す。號令嚴峻ならざれば、行動必ず混亂す。賞賜兌現せざれば、士卒必ず懈怠す。行伍紊亂は、昏昧不明(「昧暗」は一本に「昧旺」と作る)に起因す。明察を以てそれを糾正するを靠る。黑夜裏驚恐を受くるは、鎭靜嚴整を以てそれを安定するを靠る。これより知るべし、陣形嚴整は、軍隊の外表なり。軍吏の主將に對して畏懼するもまた愛戴するは、軍隊の內裏なり。軍心の親附する所の地方は、すなわち主將の所在の地方なり。明智賢能の人に非ざれば、誰か能くこの步に做到せんや。

教戰第十四

諸教戰陣,每五十為隊,從營繕緝搶蟠,教場左右廂各依隊次解幡立隊。伍相去各十步,分佈使均。其駐隊塞空,去前隊二十步。列布訖,諸營士卒一時即向大將麾下聽令。每隔一隊,定〈一作一〉戰隊,即出向前各進五十步。

凡そ戰陣を教練するに、每五十人を編成して一隊と爲し、營中より器械を整修し行裝を收拾し旗幡を盤卷するより始め、教場の左廂右廂に各々隊次に按じて旗幡を解開し隊伍を列成す。各伍の間十步を相距り、分布均勻なり。駐守を擔任する隊伍は空檔を填補し、前隊より二十步を距る。排列完畢せば、各營士卒一齊に主將の麾下に面向いて號令を聽候す。一隊を隔てて出戰の隊に指定す(「定」は一本に「一」と作る)、就ち出列して向前各々五十步を推進す。

聽角聲第一聲絕,諸隊即一時散立;第二聲絕,諸隊一時捺槍、張弓、卷幡、拔刀;第三聲絕,諸隊一時舉槍;第四聲絕,諸隊一時跪膝籠槍坐,目看大將黃旗,耳聽鼓聲。黃旗向前亞,鼓聲動,齊喝“嗚乎”〈並去聲〉,齊向前到中間〈一作界〉,一時齊喝,聲殺齊入。賊退敗訖,可趁行三十步。審知賊徒喪敗,馬軍從背逐北。聞金鉦動,即須聽去行。膊上架槍,側行回身,本處散立。

角聲を聽くに、第一聲吹完せば、各隊立即に一齊に散開站立す。第二聲吹完せば、各隊一齊に槍を按住し弓を張開し幡を卷起し刀を拔出す。第三聲吹完せば、各隊一齊に槍を擧ぐ。第四聲吹完せば、各隊一齊に屈膝して槍を攏めて坐下し、眼は主將の黃旗を看、耳は鼓聲を聽く。黃旗向前壓下し鼓聲一たび響けば、全體齊聲に「嗚呼」(原注:兩字皆去聲に讀む)と高喊し、一齊に向前推進して兩陣の間に到り(「中間」は一本に「中界」と作る)、同時に齊聲に呐喊し、喊聲一落すれば就ち一齊に殺入す。敵軍退敗したる後、三十步を追趕し得べし。敵軍すでに潰敗せるを確知すれば、騎兵は背後より敗逃の敵を追擊す。金鉦の響起を聽到せば、必ず令に依りて兵を收めて行かねばならず。槍を肩の上に架け、側身回轉して、原處に回到して散開站立す。

第一聲絕,一時捺槍便解幡旗;第二聲絕,一時舉槍;第三聲絕,一時旗隊。一看大將處兩旗交,即五隊合為一隊,即是二百五十人為一隊。其隊法及卷幡、舉槍、旗隊、鬥戰法並依前。一看大將處五旗交,即十隊為一隊,即是五百人合為一隊。其隊法及卷幡、舉槍、旗隊、鬥戰法如前。聽第一聲角絕,即散二百五十人為一隊。如此凡三度,即教畢,諸士卒一時聽大將賞罰進止。第三聲角絕,即從頭引隊伍還軍。

第一聲の角吹完せば、一齊に槍を按して幡旗を解開す。第二聲吹完せば、一齊に槍を擧ぐ。第三聲吹完せば、一齊に旗を按して隊を成す。一たび主將のあちらに兩面の旗交叉するを看到せば、就ち五隊を合して一隊と爲し、すなわち二百五十人を編成して一隊とす。この一隊の隊法および卷幡・擧槍・列旗成隊・格鬥作戰の辦法は、皆前面に講ずる所に照らして做れ。一たび主將のあちらに五面の旗交叉するを看到せば、就ち十隊を合して一隊と爲し、すなわち五百人を合成して一隊とす。この一隊の隊法および卷幡・擧槍・列旗成隊・格鬥作戰の辦法もまた前面と同じ。第一聲の角吹完を聽到せば、就ち散開して還原して二百五十人の一隊と爲す。この如く一共に三遍を演練すれば、教練結束し、全體士卒一齊に主將の賞罰と進止號令とを聽候す。第三聲の角吹完せば、就ち頭より帶領して隊伍を返回して營中に歸る。

先謀第十五

用兵之法,先謀為本。是以欲謀行師,先謀安民;欲謀攻敵,先謀通糧;欲謀疏陣,先謀地利;欲謀勝敵,先謀人和;欲謀守據,先謀儲蓄;欲謀強兵,先謀正其賞罰;欲謀取遠,先謀不失其邇。茍有反是而用兵者,未有不為損利而趨害者也。是故聖王之兵,先務其本,本壯則末亦從而茂矣。茍能知利害之本,謀以禦敵,雖有百萬之眾,可不勞而克矣。

用兵の法則は、預め謀劃するを以て根本とす。ゆえに出兵行軍を謀劃せんと欲せば、先ず百姓を安定するを謀劃すべし。敵人を進攻せんと欲せば、先ず糧道を打通するを謀劃すべし。疏散して陣を布かんと欲せば、先ず地利を占據するを謀劃すべし。敵人に戰勝せんと欲せば、先ず人和を取得するを謀劃すべし。要地を據守せんと欲せば、先ず物資を積儲するを謀劃すべし。兵力を強化せんと欲せば、先ず賞罰を端正するを謀劃すべし。遠方を奪取せんと欲せば、先ず近處を丟掉せざるを謀劃すべし。凡そ反って來て兵を用うるは、自身の利益を損害し自ら禍害に趨らざるなし。ゆえに聖明君王の軍隊は、先ず根本に致力し、根本壯實なれば、枝末自然に之に隨って繁茂す。若し能く利害の根本所在を弄清し、據って敵人を抵禦するを謀劃せば、則ち對面たとえ百萬の衆あるも、また大いに力を費やさずして彼に戰勝し得べし。

先勝第十六

孫子曰:勝兵先勝。謂先定必勝之術而後舉也。何謂必勝?許洞曰:先務三和,次務三有餘,次務三必行。何謂三和?曰:和於國,然後可以出軍;和於軍,然後可以出陣;和於陣,然後可以出戰。國不和,則人心離;軍不和,則教令亂;陣不和,則行列不整。不先務此三和之道,何其可戰耶?

《孫子兵法・形篇》に曰く、「勝兵は先ず勝つ」と——打ち勝つを得る軍隊は總じて先ず必勝の條件を造成して乃ち戰を求む。意思是れ先ず必勝の辦法を定下し、然る後乃ち兵を發す。何をか必勝と謂う。許洞答えて曰く、首先要ず「三和」を做到し、其次に「三有餘」を做到し、再次に「三必行」を做到するを要す。何をか三和と謂う。すなわち、國內和睦して、然る後乃ち出兵すべし。軍中和睦して、然る後乃ち出陣すべし。陣中和睦して、然る後乃ち出戰すべし。國內和せざれば、人心離散す。軍中和せざれば、教令混亂す。陣中和せざれば、行列整齊ならず。先ずこの三和の道を做到せざれば、何に憑って戰いに往かんや。

何謂三有餘?曰:力有餘,食有餘,義有餘也。力無餘,則困於鬥;食無餘,則怠於時;義無餘,則吏士怨。不務三有餘之術,師其可動耶?何謂三必行?曰:必行其謀,則奸機不成;必行其賞,則好功者不愛死;必行其罰,則有過者不歸咎。不務三必行之道,人其可用耶?

何をか三有餘と謂う。すなわち、兵力有餘・糧食有餘・道義有餘なり。兵力足らざれば、作戰の時困頓に陷る。糧食足らざれば、時機を貽誤して懈怠す。道義足らざれば、軍吏士卒怨恨を心に懷く。三有餘の辦法を講求せざれば、軍隊何ぞ能く出動せんや。何をか三必行と謂う。すなわち、謀劃一定執行すれば、敵人の奸謀は逞しうる所なし。賞賜一定兌現すれば、軍功を追求する人は性命を惜しまず。刑罰一定施行すれば、過錯ある人は責任を別人に推すことなし。三必行の道を講求せざれば、人何ぞ任用し得んや。

是以知善務和者,公無私,舍小惠務大惠;善務有餘者,力諸事而不自怠;善務必行者,興勇斷,去猶豫之謂也。舉是九者,務令預定之於前,則萬變千機然後動乎其中矣。率此以禦敵,未有不勝者也。故曰:勝兵先勝者,勝在我也。其在《易》曰先天不違之義也。

これより知るべし、善く和睦を求むる人は、公正無私にして、小恩小惠を舍棄して大きな恩惠に致力す。善く有餘を求むる人は、各樣の事情皆力を盡くして做して肯んじて自己懈怠せず。善く必行を求むる人は、勇氣と決斷とを振起し、猶豫不決を去掉す。この九條は、務めて事先皆預定好し、然る後千變萬化の機宜をしてその中に於て隨機應付せしめ得べし。照らしてこの樣に敵人を抵禦せば、勝を取らざるなし。ゆえに曰く、打ち勝つを得る軍隊は先ず必勝の勢を造成す。是れ勝負の關鍵が自己の手裏に掌握せらるるが故なり。これ正に《周易・乾卦・文言》の謂う所の「先天にして天違わず」の意思なり。

勝敗第十七

用兵之術,戰勝不可專,專勝有必敗之理;戰敗不可專,專敗有反勝之道。戰勝而敗者有五:急難定謀狐疑不決,一敗也;機巧萬端失於遲後,二敗也;機事不密,三敗也;似勇非勇,似怯非怯,四敗也;主將不一,五敗也。此五者,皆戰勝而反敗也。戰勝而欲必勝者,定謀貴決,機巧貴速,機事貴密,進退貴審,兵權貴一也。

用兵の術、勝仗を打ちて一味に必勝と認定すべからず。一味に必勝と認定すればその裏面に必敗の道理を藏す。敗仗を打ちても亦た一味に必敗と認定すべからず。一味に必敗と認定すればその裏面にも亦た敗を轉じて勝と爲す路子を藏す。もとより勝を取り得るを卻って失敗に轉成する情形に五種あり。情勢危急の時主意を定下せず狐疑不決するは、第一種の敗因なり。機巧變化雖多しとするも、卻って遲疑落後に因りて時機を錯過するは、第二種の敗因なり。機密の事を嚴守せざるは、第三種の敗因なり。勇敢と見えて其實勇ならず、怯懦と見えて其實怯ならず、進退搖擺するは、第四種の敗因なり。主將號令統一せざるは、第五種の敗因なり。この五條は、皆もとより能く勝てども反って失敗す。勝勢の中に於て必勝を確保せんと要せば、就得て曰く、計を定むるは果決を貴び、機變は迅速を貴び、機密の事は嚴守を貴び、進退は審慎を貴び、兵權は統一を貴ぶ、と。

勢敗而反勝者有四:吏士饑渴,割所愛啖之〈割所愛者,謂在急難之中,殺所乘駿馬、愛妾以啖吏士也〉,眾有飽之用矣;吏士恐懼,奮身先之,眾有勇之用矣;期應不到,殺其所暱〈所暱者,謂所嬖倖或子弟諸姻同在軍中,若有主守者犯命則先殺之也〉,眾有懼之用矣;人有疑惑,陰為鬼詐〈鬼詐者,謂詐為狐鳴叢祠中之類也,或假託卜筮,百端不一〉,眾有天之用也〈天謂天所授也〉。如是者,以敗為勝也。勝敗之術,非勇決神智,安能行之耶?

形勢すでに敗壞せるも卻って敗を反して勝と爲し得る辦法に四種あり。軍吏士卒饑渴すれば、主將は就ち自己最も心愛の東西を割舍し出して彼らに充饑せしむ(原注:謂う所の心愛の物を割舍するは、危急困難の中に於て、自己の騎る所の駿馬・寵愛する所の姬妾を殺して以て軍吏士卒に充饑せしむを説く)。衆人は就ち喫飽したる後の戰力有らん。軍吏士卒恐懼すれば、主將は就ち身を奮いて最も前面に衝れば、衆人は就ち勇敢の戰力有らん。時限を約定して部屬到らざれば、就ち自己最も親近の人を殺す(原注:謂う所の親近の人は、寵幸する所の人あるいは子弟姻親の同じく軍中に在るを説く。若し守備職任を擔任する人軍令に違犯せば、就先ず彼を殺す)。衆人は就ち畏懼の帶來する戰力有らん。人心疑惑を生出せば、就ち暗中に鬼神の一類の詭詐手段を假借す(原注:謂う所の鬼詐は、假裝して叢林神祠の中に狐鳴の一類を作し、あるいは卜筮に假托し、花樣繁多にして一種に止まらずを説く)。衆人は就ち「天意」の帶來する戰力有らん(原注:謂う所の天は、上天の授予する所を説く)。この如くにして、すなわち敗局を勝局に轉成す。この種の勝敗を扭轉する手段は、決斷に勇み智慧神の如き人に非ざれば、何ぞ能く施行せんや。

知奸第十八

敵使來,目數動,色數異而言肆者,刺客也。敵未困而請和者,謀也。敵卑辭厚幣者,驕我也。使雖頻來,為寇不止者,侮我也。厚貨啖我左右者,欲構我密謀也。使來言語辯利,欲兩國休解者,將掩我不備也。使言崛強者,欺我也。敵使有此七者,宜細詳之,將為挾之〈謂謁見之時,以操兵者挾輔而見〉。

敵方使者前來すれど、眼珠頻頻に轉動し、臉色屢々變異して言語放肆のは、刺客なり。敵人未だ困境に陷入らざるに卻って來りて講和を請求するは、別に陰謀あり。敵人言辭謙卑にして禮物豐厚のは、我方をして驕傲せしめんと要するなり。使者雖頻頻に前來するも、侵擾劫掠卻って停止せざるは、我方を輕侮するなり。厚禮を以て我方の左右近臣を收買するは、我方の機密謀劃を套取せんと欲するなり。使者來る時言語雄辯流利にして、兩國兵を罷め和解せんと希望するを聲稱するは、我の不備に乘じて襲擊を發動せんと準備するなり。使者言語倔强傲慢のは、我方を欺凌するなり。敵方使者にこの七種の表現あれば、就ち當に仔細に審察し、かつ接見の時挾持を加うべし(原注:説く所は謁見の時、兵器を持つ衛士をして彼を夾持して進見せしむ)。

謀者反其謀〈謂偽許之卻,掩其不備也〉,驕者反其驕〈拒其辭幣使敵人信我為驕也〉,侮者淩之〈舉兵其無禮〉,構者示之〈佯不知,而反示之以虛事也〉,將掩不備復之〈佯聽其說,反掩其不備也〉,欺者誅之〈誅無禮以威敵〉。留使者不可久,久則知我微,不若殺之。是以知奸之道,兵之本也,不可不審。

陰謀を懷けるに對しては、反って彼の陰謀を破れ(原注:説く所は假意答應して然る後退讓し、その不備に乘じて襲擊を加う)、我方を驕傲ならしめんと欲するに對しては、反って彼をして自己驕傲ならしめよ(原注:彼の言辭と禮物とを拒絕し、敵人をして我方確實に驕傲せりと相信せしむ)、我方を輕侮するに對しては、兵を出して彼を凌壓せよ(原注:彼の無禮を以て由と爲して兵を興す)、機密を套取するに對しては、故意に彼に假東西を看せよ(原注:假裝して情を知らざり、反って虛假の事を拿って彼に看せしむ)、我の不備に乘ぜんと準備するに對しては、反って彼を襲擊せよ(原注:假裝して彼の説法を聽信し、反って彼の不備に乘ず)、出言欺凌するに對しては、來使を誅殺せよ(原注:無禮の人を誅殺して以て敵方を威懾す)。敵方使者を留住するに太久しきを可とせず。久しければ彼は我方の虛實底細を摸清む。彼を殺すに如かず。ゆえに曰く、奸謀を識破する辦法は用兵の根本なり。仔細に審察せざる可からず。

奪恃第十九

敵無恃不可以為寇,欲審者豫審而奪之。敵之為梗,或以強,或以隘,或以勇,或以緩之謂也。奪強以氣,奪隘以動,奪勇以威,奪緩以誘。夫敵以力有餘而加於人,我則以緩伺其力衰而乘之,此奪氣者也。敵以險地壁守,或盈隘而陣,我雖士民豐逸,不可以強取。守者以利暢其心,否則以動則攻之;陣者以勢逼其敵,否則俟動隨而沖之,此奪隘者也。

敵人若し倚仗し得べき東西なければ、寇を爲し亂を作すに法なし。ゆえに底細を弄清せんと欲する人は、預め審察してかつ彼の倚仗する所の東西を奪掉すべし。敵人の禍患と成るは、無非兵力強きを仗り、地形險隘を仗り、士卒勇悍を仗り、あるいは從容不迫を仗るのここら幾樣なり。彼の強を奪うは、士氣を消磨する辦法を用い、彼の險隘を奪うは、彼を調動する辦法を用い、彼の勇を奪うは、威懾の辦法を用い、彼の從容を奪うは、引誘の辦法を用いよ。敵人兵力有餘を憑って別人に壓向すれば、我就ち緩兵の計を以て彼の兵力衰疲するを等ちて再び機に乘じて進攻す。これすなわち彼の氣を奪うなり。敵人險地に憑って壘を築き固守し、あるいは隘口を塞滿して陣を列すれば、我方たとえ人力充足・軍民安逸なるも、硬取すべからず。固守の敵人に對しては、利益を以て彼の心を打動し、不然ずれば法を設けて彼を調動して再び攻打せよ。列陣の敵人に對しては、態勢を以て彼を逼迫し、不然ずれば彼の一動を等ちて隨卽衝擊せよ——これすなわち彼の險隘を奪うなり。

關塞營壘,糗糧所扼,預於要路伏兵絕之,必力奪其輜重,敵可使饑,此奪緩者也。人逸馬良,恃強輕戰,可據隘設伏,示弱以誘,此奪勇者也。不知四奪,不足以語奇也。兵術萬途,不可專一,先能奪其恃,則彼力衰半矣。

關隘要塞と營壘とは、乾糧輜重の必ず經過する咽喉なり。預め要道の上に兵力を埋伏してそれを截斷し、務めて全力で敵人の輜重を奪取せば、便能に敵人をして餓えしめ得。これすなわち彼の從容を奪うなり。敵人人馬安逸・馬匹精良にして、強盛を仗りて輕率に戰を求むれば、便ち隘口に據って伏兵を設け、故意に弱を示して以て彼を引誘すべし。これすなわち彼の勇を奪うなり。この四種の「奪」を懂得せざれば、奇を出して制勝するを談ずるに配せず。用兵の術に千萬條の路あり、一端に專執すべからず。能く先ず敵人の倚仗する所の東西を奪掉せば、彼の實力はすでに衰減一半せり。

襲虛第二十

襲虛之術有二焉:一曰因,二曰誘。何謂因?曰:敵兵所向,我亦佯應之;別以精兵潛出虛地,或攻其壘,或斷其後,或焚其積聚也。何謂誘?曰:欲敵之要地則不攻而佯攻其鄰,大其攻具,盛其師旅,以誘敵兵;敵兵到則勿與戰,復於壁守,潛以精銳襲所出兵之城而掩其內。此二者,皆襲虛之道也。

敵人の空虛の處を襲擊する辦法に兩種あり。一を「因」と謂い、二を「誘」と謂う。何をか因と謂う。すなわち、敵軍の兵鋒の指向する處何れなれば、我方もまた假裝して彼を應付し、別に精兵を派して悄悄に彼の兵力空虛の地方に開到せしめ、あるいは彼の營壘を攻打し、あるいは彼の後路を切斷し、あるいは彼の囤積する糧草物資を燒掉す。何をか誘と謂う。すなわち、敵人の要害の地を取らんと欲し、偏に它を攻め往かず、卻って假裝して鄰近の城邑を攻打し、攻城器械を甚だ大きく擺し、兵馬を甚だ盛んに擺し、以て敵軍を引誘して救いに來らしむ。敵軍一到すれば彼と交戰せず、仍ほ營壘に退回して固守し、暗中別に精銳を派してあの兵を派して援を出したる城を襲擊し、虛に乘じてその內部を攻取す。この兩種は、皆空虛の處を襲擊する辦法なり。

任勢第二十一

兵之勝敗,非人之勇怯也。勇者不可必勝,怯者不可必敗,率由勢焉耳。勢之任者有五:一曰乘勢,二曰氣勢,三曰假勢,四曰隨勢,五曰地勢。勢之敗者有三焉:一曰銼勢,二曰支勢,三曰輕勢。

用兵の勝敗は、人の勇敢あるいは怯懦に取決せず。勇敢の人は必ずしも必勝ならず、怯懦の人もまた必ずしも必敗ならず。大都「勢」に取決す。憑藉し得べき勢に五種あり。一を乘勢と謂い、二を氣勢と謂い、三を假勢と謂い、四を隨勢と謂い、五を地勢と謂う。失敗を招致する勢に三種あり。一を銼勢と謂い、二を支勢と謂い、三を輕勢と謂う。

凡新破大敵,將士樂戰,威名隆震,聞者駭懼,回其勢而擊人者,此之謂乘勢者也。將有威德,部伍嚴整,士有餘勇,名譽所加,懾如雷霆,此之謂氣勢者也。士卒寡少,盛其鼓、張其旗為疑兵,使敵人震懼,此之謂假勢者也。因敵疲倦懈怠襲擊之,此之謂隨勢者也。合戰之地,便其干戈,利其步騎,左右前後無有陷隱,此之謂地勢者也。用兵者乘此五勢,未有不能追亡逐敗,以建大功也。

凡そ剛纔強敵を擊破して、將士再戰を樂しみ、威名隆盛にして四方を震動し、聽く人皆驚駭畏懼し、この股の勢頭に趁って別人を打てば、これを乘勢と謂う。主將威嚴あり德望あり、部伍嚴整にして、士卒なお餘勇あり、聲譽の到る所の處震懾すること雷霆の如ければ、これを氣勢と謂う。卒數甚少なくして、卻って鼓を甚だ響く擂し旗を甚だ多く張り、疑兵に充てて敵人をして震恐せしむれば、これを假勢と謂う。敵人の疲倦懈怠に趁って彼を襲擊すれば、これを隨勢と謂う。交戰の地方兵器を施展するに便く、步兵騎兵行動に利あり、左右前後に陷坑と隱蔽の危險と無ければ、これを地勢と謂う。兵を用うる人この五種の勢に憑藉すれば、逃敵を追殲し大功を建立せざるなし。

又若累戰累敗,吏士畏於戰敵,此之謂挫勢者也〈挫勢者,言曾於敵人控辱,故言勢不利也〉。將無威德,謀慮賞罰不當,吏士之心率多離散,此之謂支勢者也。吏士喧嘩,不循禁令,部伍不肅,此之謂輕勢者也。凡用兵有此三者,未有不敗軍殺將者焉。

更にあの種の屢戰屢敗して、軍吏士卒皆敵と交鋒するを害怕するは、これを挫勢と謂う(原注:謂う所の挫勢は、かつて敵人に挾制侮辱せられしを説く。ゆえに形勢不利と謂う)。主將威望德行なく、謀慮周ならず賞罰當ならず、軍吏士卒大多離心渙散するは、これを支勢と謂う。軍吏士卒喧譁吵鬧して、禁令を遵守せず、部伍整肅ならざるは、これを輕勢と謂う。凡そ用兵にこの三種の情形あるは、兵を損し將を折らざるなし。

是故乘〈一作五〉勢在我,可以指揮進攻矣;任〈一作五〉勢在敵,我當有道,反能擊之。若夫敵有乘勢而到者,未可與戰,堅壁固守,待之曠日持久,敵心必緩於始到矣;俟其攻無所拔,掠無所得,敵之眾心益以慢矣;當於中夜潛令驍勇襲其營壘,攻其無備,乘其亂出精兵兩道擊之〈地勢便則兩道出,不便則一道出〉,壁中鼓譟應之。如此,則可以破其敵者矣。

ゆえに、乘勢我方に在れば(「乘」は一本に「五」と作る)、便ち放手して進攻を指揮し得べし。勢敵方に在れば(「任」は一本に「五」と作る)、我方もまた當に辦法ありて反って彼を打擊すべし。假如敵人は乘勢を挾して來るなれば、就ち彼と交戰すべからず。當に堅壁固守し、彼と曠日持久に耗耗すべし。敵人の心氣必ず剛到の時より松懈せん。彼の攻めても又攻下せず掠めても又掠得ざるを等ち、敵軍上下の心思更に怠慢せん。この時當に半夜裏に暗中驍勇の士を派して彼の營壘を襲擊し、彼の防備なき處を攻め、その混亂に乘じ、精兵を派して兩路に分出擊せしむべし(原注:地勢便利なれば兩路に分出擊し、不便利なれば一路出擊す)。營壘裏の部隊は鼓を擂き呐喊して接應す。こうすれば、便ち敵人を擊破し得べし。

敵有恃氣勢而到者,可以後潛精兵,偽示以老弱;敵進攻則發伏擊之,必勝矣。何謂也?許洞曰:精勢在人者,止用勇敢疾速為務,鮮能精謀慮。彼見老弱,必輕進轢〈一作揲〉陵之,堅陣以俟,一鼓不勝,鋒必挫,反為我乘矣。

敵人若し是れ氣勢を仗りて來るなれば、精兵を後面に埋伏し、故意に老弱の士卒をして前に露面せしめ得べし。敵人一たび進攻せば、就ち伏兵を發動して彼を打擊せば、必ず勝を取らん。何を以てかくの如く説くや。許洞答えて曰く、氣勢旺盛の人は、一味に勇敢迅疾を以て能事と爲し、很少く能く精心に謀劃思慮す。彼は我方盡く老弱なるを見れば、必ず輕率に前進し、碾壓欺凌せんと欲す(「轢」は一本に「揲」と作る)。我方堅陣を結成して彼を待てば、彼一鼓作氣して攻下せず、鋒芒必ず挫を受け、反って我方に勢に乘じて打擊せらるるなり、と。

敵有以假勢而到,旗鼓之盛,埃芇之多矣〈旗鼓或露眾芇或以曳戰〉。預料敵國兵:如國有十萬之眾,侵伐之地不及五萬之師矣,降之不溢三萬矣;國有百萬之眾,侵伐之地不及五十萬之師矣,降之不溢三十萬〈謂其各有屯授之地及死亡之所,或徵兵不能盡到侵伐之地〉。以此料之,百萬之國,其眾來者有百萬、六十、七十、八十、九十萬之旗鼓與號令者,必不溢四十萬矣,餘皆疑兵也;十萬之國,其眾來者有四萬、五萬之旗鼓與號令者,此必不溢三萬矣,餘皆疑兵也〈敵國大小、敵眾多寡,皆以此類數知之也〉。

敵人若し是れ假勢に憑って來るなれば、旗鼓甚だ盛んに擺し、塵土甚だ多く揚ぐ(原注:旗鼓は時に故意に暴露して人に看せ、時に以て拖曳して戰を助く)。預め敵國の兵力を估算し得べし。一國若し十萬の衆有れば、眞に侵伐前線に投入するは五萬に滿たず、再び折算すれば三萬を超過せざらん。一國に百萬の衆有れば、眞に侵伐前線に投入するは五十萬に滿たず、再び折算すれば三十萬を超過せざらん(原注:説く所は彼ら各々屯駐戍守の地方および傷亡損耗あり、あるいは征調の兵は全部侵伐の地に開到し得ざるなり)。この樣に照らして估算すれば、百萬の國の前來する部隊は、たとえ百萬あるいは六十萬・七十萬・八十萬・九十萬の旗鼓と號令とを擺すも、實際必ず四十萬を超過せず、その餘皆虛張聲勢の疑兵なり。十萬の國の前來する部隊は、四萬・五萬の旗鼓と號令とを擺すも、實際必ず三萬を超過せず、その餘もまた皆疑兵なり(原注:敵國の大小・敵軍の多寡は、皆この一類の辦法に照らして推算し出すを得べし)。

是以知旗鼓多者,其兵少矣,不可怖。但以精兵出其不意,必敗矣。或敵探我動靜者,為我所知,即詐示以疲倦懈怠,使知之。敵必隨勢而來,預於諸間道及通衢陰伏銳兵俟之〈先令細人密探敵人舉兵之期,然後設伏以待,亦可〉,過半則邀擊之。敵得地勢以薄我,未可與戰,堅壁觀之,持久則眾心怠。

これより知るべし、旗鼓の擺ること愈多きは、兵かえって少なし。害怕する要なし。ただ精兵を以て不意を出して攻撃すれば、敵人必ず潰敗せん。時に敵人來りて我方の動靜を刺探し、我方に察覺せられれば、就ち故意に疲倦懈怠の樣子を裝い出して、彼に探り去らしめよ。敵人必ずこの「勢」に順って前來せん。我方預め各條の小路と大道の上に精銳を暗伏して彼を等て(原注:先に細作を派して密かに敵人の出兵の日期を探り、然る後伏を設けて等待すも、亦た可行なり)、彼の一半過ぐるを等ちて腰を攔んで截擊せよ。敵人若し地勢を占めて我方に逼近せば、また彼と交戰すべからず。當に堅壁觀望し、相持久しければ彼の軍心自然に懈怠せん。

夫得敵有銼勢者,可以自外擊之;敵有支勢者,可以自內擊之〈內攻為用間得其敵心,然後擊之也〉;敵有輕勢者,可以突之〈掩不備也〉。此隨敵三敗勢攻之也。以此言之,是故多勝者非強也,多敗者非弱也,率由勢爾。夫水之柔弱,方圓任性而能蹶〈一作寢〉堤漂石者,水之勢也;火之剛〈一作測〉炎,亙天而起者,火之勢也;薪木既灰而滅影者,木之勢也。故用兵之道,既知水火之旺敗,則盡於勢之用矣。

敵人挫勢に處するに遇上せば、外面より彼を攻打し得べし。敵人支勢に處するは、內部より瓦解して彼を攻打し得べし(原注:內部より攻打するは、先ず間諜を用いて敵方の人心を收買し、然る後再び攻打す)。敵人輕勢に處するは、直接彼を突襲し得べし(原注:彼の防備なきに乘ず)。これすなわち敵人の三種の敗勢に順って彼を攻打するなり。これに由りて説くに、多く勝仗を打つは並びに強大に因るに非ず、多く敗仗を打つも並びに弱小に因るに非ず、皆「勢」に由って決定せらる。水はもとより柔弱にして、方に遇えば方を成し圓に遇えば圓を成すも、卻って能く堤壩を衝垮し石頭を漂走せしむ(「蹶」は一本に「寢」と作る)。これは水の勢なり。火はもとより剛猛炎烈にして(「剛」は一本に「測」と作る)、能く天に連ねて起こるを得。これは火の勢なり。柴薪灰燼に燒成すれば便ち影子も亦た無し。これは木の勢なり。ゆえに用兵の道理、すでに水火盛衰の規律を懂得せば、亦た「勢」の用法を窮盡せり。

使間第二十二

《周禮》巡國傳謀,反間也。用間之道,聖人以用兵決勝,不可不間。用間決中,不可不密。茍非大智,孰能臻於是乎?故間之行也,觀事而舉,其術有八焉。其一曰:兩國相拒,兵抗其境,詐為疲困畏懼,潛漏其言,厚貨諂敵所愛幸,因以所求中之;次使使者致玉帛子女與駿馬精佩之飾以求和解;覺其驕慢,陰選精兵分道,早夜兼時,以乘不備,此以使者為間者也。

《周禮》裏の謂う所の諸國を巡行し謀議を傳遞する職事は、すなわち反間なり。間を用うる道理は、聖人兵を用いて決勝せんと欲せば、間諜を用いざる能わず。間を用うるに能く要害に命中せんと要せば、機密を嚴守せざる能わず。若し極めて智慧ある人に非ざれば、誰か能くこの地步に達せんや。ゆえに間諜の施行は情勢を看て定むべく、手法に八種あり。第一種、兩國相持して兵馬邊境に對峙す。我方假裝して疲困畏懼し、暗中にこの種の話を透露し出し、重金厚禮を以て敵方の寵幸する所の人を討好し、彼を借着して敵人の心願に迎合せしむ。續いて使者を派して玉帛美女および駿馬・精美佩飾の一類を送り、和解を請求す。敵人すでに驕傲怠慢せるを察覺すれば、就ち暗中精兵を挑選して路を分かちて出發せしめ、晝夜兼程して、その不備に乘じて襲擊を發動す——これは使者を拿って間諜に充つるなり。

其二曰:獲敵生口,以所謀漏〈一作洩〉之〈謀皆虛者,非實也〉,俾得聞焉,陰緩使遁去,令敵得所謀而信之,我行則不然也,此以敵人為間者也。其三曰:敵來間,我詐為不知也,反事示之,敵將為事,我則出不意而擊之,此反求來言以為間也。其四曰:敵以間來,厚賂之,令反其言以間敵,此反以來人為間也。

第二種、敵方俘虜を抓到し、故意に我方の謀劃を泄露して(「漏」は一本に「泄」と作る)彼に聽かしむ(原注:泄露する謀劃は皆假にして、眞に非ず)。彼をして聽き去らしめ、再び暗中看管を放松して彼を逃歸せしめ、敵人をしてこの「謀劃」を得てかつ眞實と信ぜしめ、我方實際の行動は卻ってこの樣ならず——これは敵方の人を拿って間諜に充つるなり。第三種、敵人間諜を派して來れば、我方假裝して知らず、反って假象を拿って彼に看せ、敵人これに據って行動する所有れば、我方就ちその不意を出して彼を打擊す——これは反って來間の傳話行間を利用するなり。第四種、敵人間諜を派して來れば、我方重金を以て彼を收買し、彼をして反って假話を帶回して敵人を欺騙せしむ——これは反って來人を變じて我方の間諜と爲すなり。

其五曰:與敵人戰,佯為小敗,亟引兵深壁示以懼色,乃選語言鄙鈍、無智慮者使於敵,令盛張皇我軍之強盛,俾敵知為間者,必以我為懼,以強詞來間也;既行,即舉奇兵隨而襲擊之,此以明間而為間者也。其六曰:敵有內寵,令心腹者以金寶饋其家,使潛構敵情,此以內嬖為間者也。

第五種、敵人と交戰する時假裝して小敗し、急いで兵を收め深壘に退入し、故意に畏懼の神色を露出し、然る後言語粗鈍・心計なき人を挑選して敵營に出使せしめ、彼をして大肆に我軍の如何に強盛なるを張揚せしめ、好く敵人をして彼が命を奉じて行間する人なるを看出せしめ、敵人必ず我方是れ害怕するを認定し、始めてこの種の大話を以て行間するなりと。使者一去れば、我方立刻奇兵を出動して後に隨いて彼を襲擊す——これは公開の間諜を以て行間するなり。第六種、敵方君主に寵幸の近侍內臣有れば、就ち心腹の人をして金銀珠寶を彼の家に送らしめ、彼をして暗中に敵方の內情を竊取せしむ——これは內廷寵幸の人を拿って間諜に充つるなり。

其七曰:敵有謀臣,則潛行賂敵親信,構讒於內,外以事應讒者言,使君臣相疑,自相殘害,此以讒人為間也。其八曰:求敵所委信者,副其所欲,陰求其動靜言語者,此以鄉人為間者也。是以知間者,兵家之要妙也。茍非賢智,莫能用之。故用間之道,在乎微密潛誠,此良將之所註意也。

第七種、敵方に出謀劃策の重臣有れば、就ち暗中敵君の親信を賄賂し、內部に讒言を構織し、外部再び些かの事情を制造して以て讒を進むる者の話を印證せしめ、敵國君臣を互相猜疑せしめ、自相殘害せしむ——これは讒言を進むる人を拿って間諜に充つるなり。第八種、敵方の信任倚重する所の人を找出し、彼の欲望に迎合し、暗中に彼のあちらの動靜と言談とを探聽す——これは鄕里熟人を拿って間諜に充つるなり。これより知るべし、間諜は兵家の最も要緊・最も精微の一環なり。若し賢明有智の人に非ざれば、則ち運用する能わず。ゆえに間を用うる道理は、隱微・周密・潛行にして誠篤に在り。これは良將の特別に留意する要する所なり。

分守第二十三

守備不可不講。善守者如環,使敵不得其間而入焉。夫人之治身者,血脈往來通暢於四肢,則安寧矣。或一脈不來,一氣不通,未有免於病者。是以善用兵者,雖四屯急難,則如首尾相顧而不窮,斯為妙矣。

守備の事は講求せざる能わず。善く防守する人は、防線を一隻の圓環の如く布置し、首尾相接して敵人をして空隙を找て鑽入るを得ざらしむ。人の身體を調養するに、血脈往來四肢に通暢すれば、身體就ち安寧なり。一旦一處の脈息到らず一處の氣機通ぜざれば、病を生ぜざるなし。ゆえに善く兵を用うる人は、たとえ四面駐屯の部隊同時に告急するも、能く常山の蛇の如く首尾互相照應して應付に窮せざるに至らず。これ始めて高妙と算す。

十可擊第二十四

敵人信鬼多祈禱者,必懷疑懼,不能任人故也,一可擊也。敵惟務天時,擇其方位,觀其雲氣,不顧地形之險易,不詳人心之逆順,二可擊也。敵止以地利為擇,不能整肅號令,嚴戒行伍,三可擊也。結營分陣,時多動移者,此多疑恐,四可擊也。軍發言無誠實,事多利己,吏士怨怒,五可擊也。

敵人鬼神を迷信し頻繁に祈禱するは、心裏必ず疑慮恐懼す。あれは彼の部下を信任し得ざるが故なり。これは第一種の攻撃し得べき情形なり。敵人ただ天時を講求し、方位を挑選し、雲氣を觀望するも、卻って地形の險易を顧みず、人心の順逆を細察せざるは、これは第二種の攻撃し得べき情形なり。敵人ただ有利の地形を挑選するを知るも、卻って能く號令を整肅し行伍を嚴格に約束する能わざるは、これは第三種の攻撃し得べき情形なり。營を扎し陣を分かちたる後頻繁に位置を挪動するは、彼の疑慮恐懼甚だ多きを説明す。これは第四種の攻撃し得べき情形なり。軍中發布する話信實なく、事を辦するに多く自己の爲に利を謀り、軍吏士卒怨恨憤怒するは、これは第五種の攻撃し得べき情形なり。

將吏淫怠,六可擊也。結營之地,四要無防〈四要者,四面間道也〉,七可擊也。將馭人無禮,八可擊也。賞罰顛倒,九可擊也。將士多輕,十可擊也。茍欲擊之,先令細人密構其實而我乘之,然後行擊,必中矣。我師亦宜以此自為戒焉。

敵方の將吏が縱情享樂して軍務を懈怠するは、これは第六種の攻撃し得べき情形なり。營を扎する地方、四面の要道に人の設防なきは(原注:謂う所の四要は、すなわち四面の小路)、これは第七種の攻撃し得べき情形なり。主將部下を駕馭するに禮數を講ぜざるは、これは第八種の攻撃し得べき情形なり。賞罰顛倒錯亂するは、これは第九種の攻撃し得べき情形なり。將士大多輕率浮躁するは、これは第十種の攻撃し得べき情形なり。若し彼を攻撃せんと要せば、先ず細作を派して暗中にこれらの情形を査實せしめ、我方據って隙に乘じ、然る後再び動手せば、必ず要害を擊中し得べし。我方軍隊もまた當にこの十條を以て自我警戒すべし。

五不可擊第二十五

兩師相去數裡,見敵兵疲弱懈怠,號令不肅,僉謂敵人可擊也;而我未備知敵地之形勢,或汪汙坳沮,或曲道相伏,高下相承,叢林茂草。當慮敵示弱而匿其強,示不肅而藏其整,示無謀而匿其智,示遠而弊在近。如是而敵久不退者,必有奇謀,一不可擊也。

兩軍數里を相距り、敵兵の疲弱懈怠・號令嚴整ならざるを看見し、大家皆敵人は攻打すべしと説く。然れども我方は未だ完全に敵方の所在の地形を摸清めず。あちらはあるいは積水低窪の泥沼あり、あるいは曲折小路ありて埋伏を供し、高低相承して、なお叢林深草あり。この時當に顧慮すべし、敵人は弱を示して強を藏起し、整肅ならざるを示して整肅を藏起し、謀なきを示して智謀を藏起し、遠く他處に在るを裝い出して禍患は其實近旁に在るなりと。この如くして敵人の久々退かざるは、必ず別に奇謀あり。これは第一種の攻撃すべからざる情形なり。

合戰未久,敵師未甚傷殘,即棄其鼓旗疾奔者,勿逐之,必有伏兵,二不可擊也。我之生口為敵所獲,一旦遁歸,以敵事語我;或獲敵生口,亦以敵事語我,皆敵謀也,勿信之,三不可擊也。敵師乘勢鼓行進攻於我,則勒兵堅陣待之〈候其氣衰〉。此乘勢之兵,氣威鋒銳,與戰必不利,四不可擊也。敵結陣不顧死絕之地,而鼓旗整肅者,五不可擊也。

交戰久しからず、敵軍未だ多くの傷亡なきに、就ち戰鼓旗幟を丟下して飛奔逃走するは、追趕するなかれ。一定に伏兵を設けたり。これは第二種の攻撃すべからざる情形なり。我方敵人に俘去られし人忽然逃げ歸り來て、敵方の情況を我方に告ぐ。あるいは我方敵方の俘虜を抓到して、彼もまた主動に敵情を我方に説き聽かす——これ皆敵人の圈套たるを得。輕信するなかれ。これは第三種の攻撃すべからざる情形なり。敵軍勝を得るの勢を挾して鼓を擂き推進して我方を攻打し來れば、就ち部隊を約束して堅陣を結成して彼を等つべし(原注:彼の氣勢衰落するを等つ)。この種の勢に乘じて來る軍隊は、氣勢威猛・鋒芒銳利にして、彼と交戰すれば必ず利ならず。これは第四種の攻撃すべからざる情形なり。敵人陣を結成したる後、自己の死絕の地に身處するを顧忌せずして、鼓旗依旧整肅なるは、これは第五種の攻撃すべからざる情形なり。

五異第二十六

太公曰:智與眾同,非人師也;伎與眾同,非國工也。動莫神於不意,勝莫大於不識。孫子曰:善戰者,其勢險,其節短。率謂異諸常也。是以善用兵者,其異有五:一曰險,二曰輕,三曰危,四曰愚,五曰畏。

《六韜》に太公の説を記す曰く、智慧が衆人と同じければ、衆人の師となるに配せず。技藝が衆人と同じければ、國中の名工と稱するに配せず。行動は意外に出づるより神妙なるはなく、勝を取るは看破せられざるより了不起なるはなし。《孫子兵法・勢篇》に曰く、「善く戰う者は、その勢険にしてその節短し」と——善く作戰する人は、造る所の態勢が峻険にして、發動する節奏が短促なり。これら皆尋常の做法と異なるを説くなり。ゆえに善く兵を用うる人は、衆人と同じからざる所に五種あり。一を険と謂い、二を輕と謂い、三を危と謂い、四を愚と謂い、五を畏と謂う。

窮途邃谷,死絕之地;敗壘夷壁,馳突之所。眾以險也去焉,我當內軍固陣,外若不整,以誘敵;內嚴部伍,外若有畏,以驕敵。彼既不識,隱之以變,沖之以卒,此用險之道也。彼眾我寡,力殫糧絕,勝勢在彼,敗勢在我,當歃血誓士,嚴令厚賞,進退以必死,提寡少之兵,突強禦之眾。以我為輕也,當有輕之用。由窮地而闢生門,反輕而決焉,此用輕之道也。

走投無路の絶路深谷は、死絶の地なり。營壘殘破・墙壁夷平する所は、人に任せて馬を縱りて衝突する所なり。衆人此處が険しすぎるを嫌いて皆避くるも、我は卻って應に内部に軍隊を整頓し陣形を穩固にし、外表は散亂不整を裝い、以て敵人を引誘すべし。内部に部伍を嚴明にし、外表は心存畏懼を裝い、以て敵人の驕氣を助長すべし。敵人すでに識破ること能わざれば、我就ち變化を以て真相を隱蔽し、突然の衝擊を以て彼を打垮す。これすなわち「険」を用うる辦法なり。敵衆我寡にして、兵力耗盡し糧食斷絶し、勝勢敵方に在り敗勢我方に在れば、就當に歃血して盟を爲し士卒と誓を立て、號令を嚴明にし賞賜を優厚にし、進退皆必死の心を抱定し、僅かな兵を率いて強悍にして當り難き敵衆を衝擊すべし。別人我方の輕率を認定すれば、我正にこの「輕」を利用し、絶地の中より一條の生路を開闢し、反ってこの輕捷決死に靠って勝を取る。これすなわち「輕」を用うる辦法なり。

敵強攻急,師人大震,眾以為危,我不以忽遽自亂,當有危之用。嚴號謹備,以天命慰撫吏士,外閑其貌,內潛速其機,以奇出兵,此用危之道也。敵人以間來間,我佯不知而受之;敵人以探來探,我佯無備而設伏待之。敵以我愚也,當有愚之用,反而智焉,此用愚之道也。

敵人強大にして進攻猛急なれば、全軍大いに震動し、衆人皆危險と認むるも、我は倉促慌亂に因りて自ら陣脚を亂さず、正當にこの「危」を利用すべし。號令を嚴明にし戒備を謹愼にし、天命の説を以て軍吏士卒を安慰撫定し、外表上從容不迫にして、内裏卻って暗々に機宜の部署を加緊し、奇兵を出して襲擊す。これすなわち「危」を用うる辦法なり。敵人間諜を派して行間に來れば、我假裝して知らず彼を接納し、敵人探子を派して窺探に來れば、我假裝して毫も防備なしと見せて伏兵を設けて彼を等つ。敵人我方の愚鈍を認定すれば、我正當にこの「愚」を利用し、反って智謀を施展す。これすなわち「愚」を用うる辦法なり。

望敵之兵來,退縮守壁;見敵之使來,卑辭下氣,如欲和解。眾以我為畏也,當有畏之用。退縮則設伏而攻之,出奇沖之;欲和解則以利動之,以卑驕之,此用畏之道也。是五者,反眾之法也。眾以我為險者,我用其利也;眾以我為輕者,我用其決也;眾以我為危者,我用其安也;眾以我為愚者,我用其智也;眾以我為畏者,我用其勇也。故太公曰:不能推移,不可語奇。此之謂也。

敵兵の開來するを望見すれば、就ち退縮して營壘に回り固守し、敵方の使者の到來するを見れば、就ち言辭謙卑・語氣低下にして、和解せんと欲するが如くす。衆人皆我方の害怕せりを以爲とするも、我正當にこの「畏」を利用すべし。退縮固守するは伏兵を設けて再び彼を攻打し奇兵を出して彼を衝擊せんが爲、和解せんと欲するを表示するは利益を以て彼を調動し謙卑を以て彼の驕氣を助長せんが爲なり。これすなわち「畏」を用うる辦法なり。この五種は、皆衆人の看法に反して兵を用うる方法なり。衆人我の険境に身處すを以爲とするも、其實我は険中の利を利用するなり。衆人我の輕率を以爲とするも、其實我は決死一戰を利用するなり。衆人我の危殆を以爲とするも、其實我はその中の安穩を利用するなり。衆人我の愚鈍を以爲とするも、其實我は智謀を施展するなり。衆人我の畏懼を以爲とするも、其實我は勇氣を蓄積するなり。ゆえに太公曰く、勢に因りて推移變化する能わざる人は、彼と奇を出して制勝するを談ずるに配せず。説く所は正にこの道理なり。

五機第二十七

兵有五機:一曰地機,二曰事機,三曰勢機,四曰利機,五曰神機。列營布陣,先據要害,敵取逆動,我取順息,是謂地機。審探敵事,因而為之,以中敵情,使敵不知為我所覺,得以欺敵,是謂事機。

用兵に五種の關鍵の機要あり。一を地機と謂い、二を事機と謂い、三を勢機と謂い、四を利機と謂い、五を神機と謂う。營を扎し陣を布くに先ず要害を占據し、敵人をして逆勢の中に行動せしめ、我方をして順勢の中に休整せしむ。これを地機と謂う。仔細に敵方の動向を探明し、それに順って自己の行動を安排し、正好く敵情に切中し、また敵人をして自己すでに我方に察覺せられたるを知らしめず、因りて敵人を騙過し得。これを事機と謂う。

鼓十人之氣為百人之用,鼓百人之氣為千人之用,威名氣焰,動如雷電,所當者破,是謂勢機。糧芻儲積,士馬習閑,凡敵境糧道通利,是謂利機。敵人料我於前,失之於後;料我於遠,失之於近。動靜出入,敵不能察,是謂神機。用兵以五機應敵,未有不能攻城掠地者也。

十箇の人の士氣を鼓動して百箇の人の作用を發揮せしめ、百箇の人の士氣を鼓動して千箇の人の作用を發揮せしめ、威名氣焰人を逼り、一動すれば雷電の如く、碰上する所の敵人皆擊破せらる。これを勢機と謂う。糧草儲備充足し、士卒馬匹訓練嫻熟にしてまた休整を得、敵境に深入する時糧道また暢通無阻なり。これを利機と謂う。敵人我の前面に在るを料想するも、我卻って彼の後面に出現し、我の遠處に在るを料想するも、我卻って彼の近旁に出現し、一動一靜・一出一入、敵人皆察覺するに由なし。これを神機と謂う。用兵能くこの五種の機要を以て敵人に應對すれば、攻城略地し得ざるなし。

被圍第二十八

我師為敵所圍,可以力守者三:外有援兵,一可守也;人士勁勇,芻粟豐備,二可守也;城池完固,民人富庶,三可守也。可以決戰者三:外無援兵,一可戰也;人勁馬壯,甲兵堅利,儲畜不備,二可戰也;城池不完,士民窮匱,三可戰也。

我軍敵人に圍困せらるる時、能く實力に憑って堅守する情形に三種あり。城外に接應の援軍あるは、これ第一種の守り得べきなり。將士精悍勇猛にして、「芻粟」(馬を飼う草料と人に供する穀米)の儲備充足するは、これ第二種の守り得べきなり。城墙と護城河と完整堅固にして、城中の百姓富足するは、これ第三種の守り得べきなり。反って、城を出でて決戰すべき情形もまた三種あり。城外に指望し得べき援軍なきは、これ第一種の戰うべきなり。士卒強健・戰馬壯實にして、铠甲兵器堅固鋒利なるも、糧草物資並びに儲備なきは、これ第二種の戰うべきなり。城墙護城河殘破不全にして、軍民皆すでに窮困匱乏するは、これ第三種の戰うべきなり。

守可以必守,戰可以即戰。何謂必守?許洞曰:盡我力焉,援之不到,俟敵困懈,出奇以戰〈如光武昆陽水上鼓譟而出,如田單即墨火牛之類是也〉。何謂即戰?許洞曰:既圍即戰,謀未備也,圍久則困〈一作用〉焉。

すでに守るを決定せば、就ち最後まで守るべし。すでに戰うを決定せば、就ち立刻開戰すべし。何をか「必守」と謂う。許洞曰く、守御の力量を極處に用うるも、援軍依旧來らざれば、就ち敵人の疲困松懈する時を等ち、奇兵を出して突擊す(例えば東漢光武帝劉秀昆陽に在りて、敢死の士を率いて城西の水邊より鼓を擂き呐喊して衝殺し出づ。また戰國田單即墨に據守して、「火牛陣」を以て燕軍を衝破す。皆この一類に屬す)。何をか「即戰」と謂う。許洞曰く、敵人剛纔合圍すれば就ち出戰するは、彼の部署未だ周全ならざるに趁るなり。圍困一たび久しければ、我方自己先に困境に陷入る(「困」の字は一本に「用」と作る)。

破圍之師,不可出者三:敵無故開圍一角者,有伏也;退圍數裡者,謀也;示以老弱者,誘也。可以急備者二:敵攻其西,謹備其東〈一面皆如之〉;敵示以閑暇者,此必緩我而欲求懈,陰將沖突也。夫被圍者,當安其內而後反其外,可也。

突圍を準備する部隊、三種の情況は城を出づべからず。敵人故なく包圍圈の一角を讓開するは、あちら必ず伏兵を設けたり。敵人圍困の營壘を數里後撤せしむるは、これ圈套なり。敵人故意に老弱殘兵を外面に擺すは、これ誘餌なり。兩種の情況は必ず戒備を加緊すべし。敵人西面を猛攻すれば、就ち東面を嚴防すべし(其餘各面もまたこれに照らして辦理す)。敵人一副從容閑暇・事無き樣子を擺すは、これ一定に我方を麻痹して守軍を松懈せしめ、暗中正に突然の猛攻を準備するなり。凡そ圍困せらるる一方は、皆應に先ず城內の人心を安定し、然る後再び城外の敵人に對付するを圖るべし。これ始めて妥當なり。

圍寇第二十九

逐寇於城隍壘堡,逼而圍之者,逾數旬不變,非克敵之術。如圍中士馬精壯,兵器堅利,芻糧豐溢,外有援可俟者,宜樹土山,浚渠池,去圍百里廣途間道築壁備之。人數不可多,隨地大小用之。盛其遊兵,分部往來提舉,遇急則救應之。

敵寇を追趕して城池・壁壘・堡砦の中に入れ、逼近して包圍す。若し數十日圍んでも局面依旧變化を見ざれば、則ち克敵の好辦法に非ず。假如圍せらるる敵人兵強馬壯にして、兵器堅固鋒利、草料糧食充裕有餘にして、外面また援軍に指望し得べきあれば、則ち應に圍城の外に土山を堆築して以て城內を瞰制し、溝渠を深く掘りて水を蓄え、兼ねて包圍圈より百里の內の大道と小路とに壁壘を修築して防備を加うべし。これらの據點の駐兵は多くを要せず、地面の大小に依って配置す。同時に多く機動の「游兵」を派して、幾部に分かちて往來巡查調度せしめ、何處か一處喫緊なれば就ち趕いて接應に往かしむ。

圍中寇敵窮匱,慮以可守復生他計,則伏精兵於敵路以待〈敵路者,謂敵人要路及歸路也〉。本圍實三面,兵士嚴為備禦,開圍一角,令得生路。敵不奔則戰〈在圍一心死守,出圍則心散各求生路〉,奔則伏兵發,戰則志散,此可以必克矣。是故圍寇之道,不可以堅守為事。《易》曰:窮則變,變則通。此之謂也。

圍せらるる敵人すでに窮困匱乏せるに、若し彼がなお守り得るを仗って別に計謀を生ずるを担心せば、就ち精銳を「敵路」の上に埋伏して彼を等つべし(謂う所の敵路は、敵人の必ず經過する要道と退歸の路線とを指す)。包圍する時その三面を嚴嚴實實に圍み、官兵嚴加防守し、ただ一角を放開して、敵人をして一條の生路を見せしむ。かくすれば敵人逃げざれば出でて交戰せざるを得ず(圍中に困せられては彼一心に死守し、一旦圍を出でれば、人心就ち散じて各々活路を找に往く)。逃げれば伏兵四起し、出戰すれば鬥志渙散し、かくの如く必ず勝を取り得べし。ゆえに敵寇を圍困する要領は、ただ死死に圍むを以て正事と爲すべからず。《周易・繫辭下》に曰く、事極まれば變通し、變通して始めて行き通ず。説く所は正にこの道理なり。

防敵第三十

深入敵境,寂然不逢一人,不可輕動,防有伏焉。宜詳審四沖之雲氣,秣馬勵士,坐甲以俟結營之地。夜於營數裡四圍,各以勁勇之士伏強弩利盾,多列鼓鼙。有賊遽發,擊鼓為號。賊擊衛兵,則中營出輕兵援之。賊擊中營,則四面夾攻之。中營堅陣,坐以俟變而已。賊退則隨之,勿逼之。中營亦隨而進焉。

敵國境內に深入して、四周寂静して一箇の人にも遇上せざれば、切に輕率に行動すべからず、埋伏あるを提防すべし。應に仔細に四面の要道上空の雲氣を察看し、馬匹を飽かせ士卒を激勵し、全軍甲を披いて待命し、營を扎する地方を選定したるを等ちて再び駐扎すべし。夜裏營外數里の四周に、各々精悍勇猛の士兵を派して埋伏せしめ、强弩と堅盾とを配備し、多く「鼓鼙」(軍中の大鼓と小鼓)を擺設す。敵人一旦突然發動すれば、鼓を撃ちて號と爲す。敵人これらの外圍警戒部隊を攻打すれば、中軍大營軽裝部隊を派して接應に往かしむ。敵人中軍大營を攻打すれば、四面の伏兵便ち一齊に夾擊す。中軍大營はただ陣形を穩固にし、安坐して戰局の變化を等待せば足る。敵人退走すればその後に跟隨すれど、逼ること太だ緊ならしむるなかれ。中軍大營もまた之に隨って向前推進す。

夫頓兵敵境,暇則秣食,不常其時,備不測之寇。所行之地遇平川大澤,分五方之師,左右前後人等差隨時,去中軍不可過遠。大將軍處於中軍,隨軍芻粟處於中軍,賞賜資貨處於中軍。若山川險狹,則{艹乞}左右二軍前後如故焉。與賊相遇,不可忽遽周章,當寅畏戒嚴,俾吏士若臨大祭。鼓則進,金則止。不金不鼓,湛如氵亭淵。雖使之奔沖馳突,不可妄動。

大軍敵境に駐扎して、一たび空閑あれば就ち馬を飼い食を進むるを抓緊し、同一の時辰に固定すべからず、以て意料外の來敵を防備す。行軍平原大澤に遇上せば、就ち隊伍を五箇の方位に分かち(中軍と前後左右の四軍)、左右前後の各部の人數は情況に依りて增減すれど、中軍を離るること皆太だ遠くすべからず。主將本人は中軍に居り、隨軍の草料糧食は中軍に放ち、賞賜に用うる財物もまた中軍に放つ。若し山川の險要狹窄の處に遇上せば、就ち左右の兩軍を收攏して靠近せしめ(原文の此の字は僻字にして、當に收束合併の意なり)、前軍後軍は仍ほ舊の如く序列す。敵と相遇する時、驚慌失措して亂作一團となるべからず。應に肅然戒嚴して、全軍將士をして國家の大祭に面對するが如く莊敬ならしむべし。鼓聲を聽到すれば前進し、鳴金を聽到すれば停止し、金を鳴らさず鼓を擊たざる時は、全軍沈靜なること深潭止水の如くなるべし。たとえ派し出して奔襲衝突する部隊なるも、擅自に妄動するを許さず。

何也?曰:凡深入敵境,與常戰不同,地形我不細究其逆順,叢林我不深曉其厚薄。且堅其大陣於陣中,數出奇兵,左右掩逐,利則進,不利則止,貨則掠,人則殺而已。此皆深入之道也。茍不先備而俟之,必有驚撓卻奪之困。可不慎哉!

何を爲してかくの如くするや。答えて曰く、凡そ敵境に深入して作戰するは、平常の交戰と同じからず。當地の地形は我方細察するに及ばずその順逆利害を辨せず、林莽草叢もまた我方その疏密深淺を清楚ならず。ゆえに主力大陣を穩穩に中間に擺し、屢々奇兵を派出して、左右に向かって掩襲追撃し、利あれば前進し不利なれば停下し、財物を見れば奪取し敵人に遇えば殲滅す。かくの如くのみなり。これら皆敵境に深入して作戰する門道なり。假如預め準備を做好して以て應付せざれば、必定に驚擾潰退・戰果奪わるるの困厄を遭受せん。何ぞ愼重ならざらんや。

候敵第三十一

兩師未合,先候敵人之情,故其將之偏才皆可見之也。其有猛而輕死者,可伏而挑之;智而遲者,可逼也;機事速疾而不精者,可誘也;機緩而精者,可抗也;自伐者,可間也;信人者,可詐也;不信人者,可離也;剛愎自用者,可擊也;親愛人者,可侮也〈侮一作悔〉;貪者,可賂也;鄙者,可奪也;廉者,可汙也;清者,可辱也;畏鬼神者,可驚也;懦而善用人者,可欺也。將有是十五者,擊之無疑也。

兩軍未だ交鋒せざるに、先ず敵方の情形を偵察すべし。かくすれば敵將の才性上の偏失皆看出し得べし。敵將勇猛にして死を事と爲さざるは、埋伏を設けて彼を挑逗し得べし。智謀ありて行動遲緩なるは、進逼し得べし。事機を處置するに迅速なるも周密ならざるは、引誘し得べし。事機を處置するに雖遲なるも周密なるは、ただ彼と相持して抗衡するのみ。自誇を好むは、反間計を用い得べし。輕易に人を信ずるは、詐術を用い得べし。誰をも信ぜざるは、彼と部下とを離間し得べし。剛愎自用なるは、直接進撃し得べし。一味に姑息して部下を厚待するは、侮慢挑釁し得べし(「侮」の字は一本に「悔」と作る)。財を貪るは、賄賂を行い收買し得べし。鄙陋なるは、その所有を奪い得べし。廉潔を標榜するは、謠を造りて彼を玷汙し得べし。清高を自命するは、羞辱して激怒せしめ得べし。鬼神を畏懼するは、怪異の事を以て彼を驚嚇し得べし。懦弱なるも善く人を用うるは、欺騙し得べし。敵將この十五種の毛病の中のいずれか一種あれば、彼を攻撃するに遲疑するを要せず。

士卒使用無時者,可擊也;士馬秣食無時者,可擊也;結營之地無出入之便者,可擊也;臨陣喧嘩,約之不止者,可擊也;營柵無泉源溪澗者,可擊也;動而不能避日耗月刑者,可擊也;諸將爭功者,可擊也;謀臣放逐者,可擊也;吏士怨怒者,可擊也;傳呼不應節者,可擊也。是十者能候而擊之,無疑焉。孫子曰:候之而知動靜之理者,此之謂也。茍不能候敵之情,而浪與戰者,是謂舉眾與敵也。

敵軍士卒を役使するに定時なきは、攻撃し得べし。人馬進食喂料に定時なきは、攻撃し得べし。營を扎する地點出入不便なるは、攻撃し得べし。臨陣吵嚷喧鬧して約束し得ざるは、攻撃し得べし。營柵附近に泉水溪澗取る可きなきは、攻撃し得べし。行動の時「日耗」「月刑」のこの類の兵家の忌む凶日を避くるを懂得せざるは、攻撃し得べし。衆將功勞を爭搶するは、攻撃し得べし。出謀劃策の臣僚排斥放逐せらるるは、攻撃し得べし。官吏士卒心に怨憤を懷くは、攻撃し得べし。傳令呼應節度に合わざるは、攻撃し得べし。この十種の情形、ただ偵察清楚せば放手して攻撃し、遲疑するを要せず。《孫子兵法・虛實篇》に曰く、敵人を偵察すれば便能にその行動と靜止の規律を掌握す。講ずる所は正にこの意思なり。假如能く敵情を偵察せずして、卻って貿然として人と交戰せば、あれは自己の部衆を白白と敵人に送るに等し。

追敵第三十二

敵戰既敗,可以追之者五,不可以追之者六。何謂也?曰:彼勝氣,可追者,一也;步騎散亂,奔多顛躓,不成部伍,二也;奔其鄉里,赴其城壁,三也〈前有生路可往,士卒無鬥誌矣〉;輜重甲兵散而不收,四也;主將已死,五也。

敵軍交戰すでに敗退せるに、追撃し得べき情形に五種あり、追撃すべからざる情形に六種あり。この話如何に講ずるや。答えて曰く、我方士氣對方を壓倒するは、これ追う可き第一種なり。敵人步騎散亂して、奔逃する時不断に跌倒絆摔し、編制隊列全く亂るるは、これ第二種なり。敵人自己の家鄕に向かって奔逃し自己の城壘に往きて跑るは、これ第三種なり(前面に活路の走る可きあれば、士卒就ち鬥志なし)。輜重・铠甲兵器丟れて滿地にして收拾する人なきは、これ第四種なり。敵方主將すでに戰死せるは、これ第五種なり。

又若敵人雖敗,銳氣不減,一不可也;舊溪澗水流忽〈一作急〉絕者,盜已過,二也〈慮其絕水之計耳〉;敗軍遁走,行伍不甚亂,旌旗不甚錯,三也〈慮其詐敗,欲我逐之,然後發其伏兵者也〉;吏士奔走不甚蹶躓,步騎不相參錯,四也〈慮其亦詐也,詐則心安,故走不躓也〉;敵敗失道,左右山谷前亦如之,五也〈無路可走,必還而致死〉;途窮食盡,吏士未甚散,六也。是以可追者,急追;不可追者,堅壁而觀,必有利害之變矣,俟舉兵我則利進而害退也。

更に追うべからざる情形を説く。敵人雖敗れたるも、銳氣卻って減退せざるは、これ第一種の追うべからざるなり。もとより長流の溪澗忽然斷流するは(「忽」の字は一本に「急」と作る)、敵人すでに上游に手脚を動かしたるを説明す。これ第二種なり(彼が水源を截斷する計謀を提防すべし)。敗軍逃げ走る時行列太だ散亂せず旗幟太だ錯雜せざるは、これ第三種なり(彼が詐敗して我を引いて追わしめ、然る後伏兵を發動するを提防すべし)。敵人官兵奔走する時あまり跌絆せず、步兵騎兵もまた相互混雜せざるは、これ第四種なり(同じくこれが僞裝にして、心裏底ありて始めて跑るも摔跤せざるを提防すべし)。敵人敗退する時道路を迷失し、左右は山谷にして前面もまた山谷なるは、これ第五種なり(路なく走る可からず、必定に回頭して命を拼す)。敵人走投無路・糧食喫盡するも、官兵未だ潰散せざるは、これ第六種なり。ゆえに追う可きは就急追すべく、追うべからざるは就ち營壘を堅守し靜觀すべし。形勢必然に利害の轉變有らん。該く兵を出す時候に到るを等ちて、我方便能に利に因りて進み害を避けて退かん。

詭敵第三十三

兵者,詭道也。卷舒萬變,雖天地鬼神不可使測之〈不可使測之,一作莫能知之〉。是故詭敵之道,其術有二。敵使到,以權臣私之,豐寶貨露試疑,為結使者之術。使其信我不疑,然後以憤〈一作忿〉惑之,復以國家事洩〈皆以國家虛實,似是而非者〉,既密,乃反構敵意,料不以我為疑,即以通情於敵君,示舉兵期與地,以內應之。待期〈一作奇〉則以精兵出不意搗其虛,我外通之,其術一也〈內慮號皆虛號也,亦為我臨兵之害〉。

用兵は、一門の詭詐の學問にして、あるいは收めあるいは放ち變化萬端、たとえ天地鬼神も測知する能わず(「不可使測之」は一本に「莫能知之」と作る)。ゆえに敵人を欺騙する辦法、大体に兩條の門路あり。第一條、敵國の使者來到すれば、就ち我方の權勢ある大臣をして私下に彼を結交せしめ、豐厚の珍寶財貨を擺し、故意に一點の口風を露して彼が疑を起こすや否やを試探す。これ是れ使者を籠絡する手段なり。彼が完全に我方を信任して再び疑わざるを等ちて、激憤の言辭を以て彼を迷惑し(「憤」は一本に「忿」と作る)、再び假裝して國家の機密を彼に泄露す(謂う所の機密は、皆國家の虛實に關し、似て眞にして假なるもの)。關係すでに親密なれば、就ち反って敵方を構陷し、對方の我を疑わざるを估量して、便ち直接敵國君主と消息を通じ、我方の擧兵の日期と地點とを彼に告げ、內應を充當せんと願うを表示す。約定の期に到れば(「期」は一本に「奇」と作る)、就ち精兵を以て不意を出して直ちに彼の空虛の處を搗ち、我方また外面に於て之と呼應す。これ第一條の門路なり(須知すべし、謂う所の內應の暗號旗號は皆假にして、この法若し人に反って我方に用いられば、同じく我軍臨陣の時の禍害と爲らん)。

募勇敢者以為間,一旦佯為怒,笞之見血,即潛使竄敵。復囚其妻子,俾知之而為怨〈一作怒〉。我以密事告〈亦虛事也〉,使傳聞於敵,詐言以某時當加兵於某處。我潛應其言,及期果與言合。乃陰出銳兵,攻其不意,其術二也。此皆以奇為勝者,兵之要道,不可以不詳於此也。

第二條の門路、膽大敢死の人を招募して間諜に充當せしめ、ある日假裝して發怒し、彼を鞭打ちて皮開肉綻せしめ、隨卽暗中に彼を放して敵方に逃奔せしむ。同時に彼の妻子兒女を關押して、彼に知らしめて心に怨恨を生ぜしむ(「怨」は一本に「怒」と作る)。我方再び「機密」を彼に告げ(同じく假の機密)、彼をして敵人に傳えしめ、詐りて某の時某の地に兵を發すと稱さしむ。我方暗中にこの話に照らして做り、期に到れば果然として彼の説く所と相合す。於是乎敵人の深信不疑に趁り、暗に精銳部隊を出してその不備を攻む。これ第二條の門路なり。これら皆奇を以て制勝する辦法にして、用兵の關鍵の所在なり。この上に講究透徹せざる能わず。

困敵第三十四

敵有謀臣,以間疏之;敵有積聚,細人焚之;敵有種植,欺而刈之;敵有民人,強而〈一作以〉虜之。陰賂敵之密人,使進敵美女以惑其意,獻良犬駿馬以蕩其心,多方以誤之。迨其外困而內惑,則國事懈矣。然後舉兵伐之,可不勞而功立矣。善用兵者,常謀困敵。敵困則我逸矣,以逸擊困,尚何敵之不克哉!

敵國に善く謀る大臣あれば、就ち反間計を用いて彼を君主と疏遠ならしむ。敵國に糧草の積儲あれば、就ち細作を派して燒掉せしむ。敵國に種下せる莊稼あれば、就ち辦法を設けて誆騙してそれを割走らしむ。敵國に百姓丁口あれば、就ち武力を以て掳掠し來る(「而」は一本に「以」と作る)。暗裏に敵君の親信近臣を賄賂し、彼をして美女を進獻して敵君の心意を迷亂せしめ、良犬駿馬を獻上して彼の心志を放縱せしめ、多方に辦法を設けて彼を歧途に引き入る。敵國の外部困を受け內部また迷惑せらるるを等ちて、國政就ち鬆弛せん。この時再び兵を擧げて討伐せば、便ち大力を費やさずして大功を建成し得べし。善く兵を用うる人は、總じて辦法を設けて敵人をして困境に陷入らしむ。敵人困頓すれば我方就ち安逸し、安逸の師を以て困頓の敵を打てば、何の敵人か攻下せざらんや。

周備第三十五

一方之地,一界之內,一城之間,分兵守之。要地則盛兵防禦,量人數多少,分為步、騎。中營大將所居,外皆環列營陣,所備之地不空虛焉。敵來襲擊,四面皆救援。急則引中營之兵以赴焉,表裡互相救也。慮敵人擊其一處,則立左、右營陣以護防矣。

一方の地面・一條の邊界の內・一座の城池の間は、皆兵を分かちて把守すべし。要害の處は就ち兵を多く駐して防禦し、用い得べき人數の多少に按じて、步兵と騎兵とに分編す。中軍大營は主將の居る所にして、外圍一圈環列して各營各陣あり、凡そ該く防を設くべき所は皆空虚を留めず。敵人來襲すれば、四面皆相互に救援し得、情況緊急なれば就ち中軍大營の兵力を抽調して趕り往かしめ、內外彼此策應す。若し敵人の專ら某の一處を攻めんことを担心せば、就ちあちらの左右兩側に別に營陣を立てて護衛を加うべし。

遠近第三十六

兵者,詭道也。詭可使虛為實,遠示之近,近示之遠。故遠近之用,其術有六。善攻敵者,警前掩後,聲東擊西,出敵所不趨,趨敵所不意;利而誘之,安而動之,逸而勞之,飽而饑之;覘其無備,卒然乘之。其術一也。

用兵は、一門の詭詐の學問なり。詭詐は能く虛のを實に變じ得。本來遠處を打たんとするも、卻って近處を攻むる樣子を做し、本來近處を打たんとするも、卻って遠處を攻むる樣子を做す。ゆえに遠近相欺の法、共に六條あり。善く進攻する人は、彼の前面を驚動して彼の後面を襲擊し、東邊を打つと揚言して實は西邊を打ち、敵人の趕り往かざる地方より出撃し、直ちに敵人の意想し到らざる地方に趨る。小利を以て彼を引誘し、敵安穩なれば辦法を設けて彼を攪動し、敵安逸なれば辦法を設けて彼を疲勞せしめ、敵糧足れば辦法を設けて彼を饑餓せしめ、彼の防備なきを窺察して、突然隙に乘じて入る。これ第一條なり。

所臨之境界於洪淵大壑,不可卒濟,即駐兵築壘,鑿林刳木,廣為舟航,示以必濟也〈如不可卒辦之,則令彼備此行,我則不然也〉。中夜陰令精兵銜枚於他處,舉筏而渡,擊沿流屯守,俟彼眾亂,大兵筏而隨之。其術二也。

到る所の邊界は深淵大壑の一類の大水を隔てて、一時渡り過ぐる能わざれば、就ち駐扎して營壘を修築し、樹林を砍伐し木料を剖鑿し、大いに船只を造り、非ず此處より渡る可からずの架勢を擺す(船只若し一時辦成せざれば、もまた敵人をして我軍將に此處より渡河せんと以爲せしむべし。其實我方は並びにこの路を走らんと打算せず)。半夜に到り、暗中に精兵に命じて「銜枚」(口中に短木を橫銜えて以て喧聲を禁ず)せしめ、另一處に於て木筏を放下して水を渡り、沿河駐守の敵軍を攻撃す。敵方の陣脚一たび亂るるを等ちて、主力もまた筏に乘じて跟進す。これ第二條なり。

加兵之地,斷敵之路,大軍陰謀以詭敵。敵聞焉,如以為然,所備必緩。即陰令輕捷者從間道以懸梯行索接續以亟渡,出其不意,我即令大軍以應之。其術三也。兩陣相向,敵人鼓譟挑戰,勿即應,久之,則徐徐引退。敵來薄陣,即亟出驍勇沖其心,後軍張翼而從之。其術四也。交戰既酣,陰以奇兵分左、右翼,自陣後兩出擊之,使外潰而內駭焉。其術五也。

兵を用いんと準備する地方に敵人の道路を切斷せんとする姿態を擺すも、主力は卻って別に暗中の圖謀ありて以て敵人を欺騙す。敵人聽説して信を爲とせば、あの一帶の防備必然に鬆弛せん。この時暗中に輕捷の士を派して小路より、「懸梯」(崖壁に掛くる軟梯)と繩索とを以て一段一段接續し、迅速に險阻を越過して、その不意を出す。我方隨卽大軍に命じて接應せしむ。これ第三條なり。兩陣相對する時、敵人鼓を擂き呐喊して前來挑戰すれば、立刻應戰するなかれ。一陣を拖し、再び慢慢後撤し、敵人の我陣に逼近するを等ちて、就ち立刻驍勇の士を放出して直ちに彼の中堅を衝き、後軍は兩翼を張開するが如く跟上して包抄す。これ第四條なり。交戰正に酣なる時、暗中に奇兵を分かちて左右兩翼と爲し、本陣の背後より兩面に繞出して敵人を攻撃し、彼をして外圍潰散・內部驚駭せしむ。これ第五條なり。

敵戰時,於大戰後以精兵伏之,不施旗鼓,唯以強弩、劍盾、戈藏隱於身,埋伏山林深草之處。伺前陣大戰,令後伏兵先出強弩射之後麾,前陣兩向兵徐逼敵,佯敗誘追,伏動則撲之。其術六也。此六者,皆示以近而取勝在遠也。如是者,奇正之謀也。孫子曰:兵以正合〈一作才〉,以奇勝。此之謂也。

敵と交戰する時、主戰場の後に別に精兵を派して埋伏せしめ、旗號を打たず鼓角を用いず、ただ强弩・劍盾・長戈を身に貼して藏好し、山林深草の中に潛伏す。前面の大陣激戰するの際を等ちて、先ず後面の伏兵をして出動せしめ、强弩を以て敵軍後方の指揮旗號を射撃す。同時に前陣の左右兩向の部隊緩緩に敵人に逼近し、假裝敗退して彼を引いて追わしめ、伏兵一動すれば就ち撲上す。これ第六條なり。この六條は、皆架勢を近處に擺して、勝を取る着眼點は卻って遠處に在り。この如くなるは、すなわち「奇」と「正」と相配合する謀略なり。《孫子兵法・勢篇》に曰く、用兵は正兵を以て交合し奇兵を以て勝を取る(「合」の字は一本に「才」と作る)。説く所は正にこの道理なり。

料地第三十七

用地之法,考地之形勢有六焉:一曰通,二曰掛,三曰支,四曰隘,五曰險,六曰遠。我可以往,彼可以來,曰通。居通地,利乘高待敵,後通糧運,障其間道,絕敵之潛來,用戰則利也。我可以往,彼難以反,曰掛。居掛地,先詳敵無備,伏兵絕其歸路,則利焉;敵有備而出,則自躓焉。

地形を利用する方法は、地の形勢を考察するにして、共分かちて六類あり。一を「通」と謂い、二を「挂」と謂い、三を「支」と謂い、四を「隘」と謂い、五を「險」と謂い、六を「遠」と謂う。我方能く過去し敵方もまた能く過來するを、通形と謂う。通形の地に處しては、高處を搶占して敵人を待つに宜しく、後方糧道の暢通を保持し、旁出の小路を堵住し、敵人の暗中に來襲する可能を斷絶せば、かくして交戰すれば便ち利あり。我方能く過去し敵方卻って退回し難きを、挂形と謂う。挂形の地に處しては、先ず敵人の防備なきを探明して、就ち伏兵を派して彼の歸路を切斷せば、かくすれば利あり。若し敵人早く防備ありて出撃せば、我軍貿然として往けば自ら挫敗に陷らん。

我出而不利,彼出而不利,曰支。居支地,若敵引兵而去,是誘我也,勿擊之;待其自出薄我則擊之,利焉。守山谷之口,界乎兩向峭絕,曰隘。我先居隘地,整其營陣待敵,絕沖突之患;若敵先居之,盈陣待之(言盈陣者,實陣絕隘口);如攻不盈,則從其它攻之,利焉。

我方の出撃利ならず敵方の出撃もまた利ならざるを、支形と謂う。支形の地に處して、若し敵人兵を領して退走せば、あれは我方を引誘するなり。追撃するなかれ。彼の自ら出でて我陣に逼近するを等ちて再び打てば、かくすれば利あり。山谷の口子を扼守して兩側皆陡峭の斷崖なるを、隘形と謂う。隘形の地若し我方先に占據せば、就ち營陣を整肅して敵人を等待し、敵に衝突せらるるの禍患を杜絶せよ。若し敵人先に占據しかつ「盈陣」せば、ただ兵を按じて等待し、硬攻するなかれ(謂う所の盈陣は、實兵を以て陣列に布满し隘口を完全に堵死するを説く)。若し彼隘口を塞滿せざれば、就ち別に別處より進攻せば、かくすれば利あり。

處高待下,處安待危,曰險。居險地,我先居之,利以戰;若敵先居之,勒兵退,乃見其利焉。與敵相去營壘之遙,曰遠(疑有脫誤)地。敵不先進,但挑戰,戰則不可進,必有伏焉;敵不戰而引退,亦不可逐,逐則不利。故古人云:用兵之道,地利為寶。此之謂也。

高に居り下に臨み、自ら安穩に處して險危の處に對するを、險形と謂う。險形の地我方先に占據せば、就ち交戰するに利あり。若し敵人先に占據せば、就ち兵を收めて退走し、退下して始めて好處を見るを得。敵人の營壘と相距ること遙遠なるを、遠形と謂う(原書此處に注あり:疑いに脱文訛誤あらん)。遠形に處して、敵人先に推進せず、ただ一味に來りて挑戰すれば、我方一たび交戰すれば貿然前進すべからず。あちら必定に伏兵あり。敵人戰わずして後撤するも、また追趕すべからず。追えば必定に利なからず。ゆえに古人曰く、用兵の道理は、地利を取得するを以て至寶と爲す。説く所は正にこの意思なり。

生地第三十八

生地者,謂左右前後非死絕之地,通糧道,進退皆利也。生地雖曰兵家之利,可以用者六焉:若夫懸車深入,一可用也;士馬精壯,陣勢習熟,二可用也;將明令嚴,三可用也;我強敵弱,四可用也;大將夙著恩,使吏士服從,五可用也;吏士樂戰,六可用也。其不可以用者有三焉:士卒顧家者,一不可用也;前無利誘,士卒退心,二不可用也;進則害,退則利,三不可用也。茲生地之利害,可不審乎?

謂う所の「生地」は、左右前後皆絶路に非ざる地方を指し、糧道暢通して進退皆便利なり。生地雖説兵家に對して利ありとするも、此處に於て兵を用い得べき情形はただ六種あるのみ。一は能く「懸車束馬」して險阻を越過し敵境に深入す。二は人馬精悍壯實にして、陣法演練純熟す。三は主將賢明にして號令嚴整す。四は我強く敵弱し。五は主將平素恩信卓著にして、官兵甘心して服從す。六は官兵作戰を樂しむ。生地に於て兵を用うべからざる情形に三種あり。一は士卒家室を挂念す。二は前面に圖る可き利益の引誘なく、士卒退縮の心を起こす。三は前進すれば害ありて後退すれば利あり。これらすなわち生地の利と害なり。何ぞ仔細に審察せざらんや。

死地第三十九

死地者,謂背山負水,糧道、生路皆絕也。死地雖曰兵家之害,可以用戰者四焉:將之恩威未著,吏士未服,一也;我兵與敵等,我力戰則利,畏戰則害,欲令吏卒死戰者,二也;為敵所逼,糧芻將竭,三也;前軍既破,後軍尚固,四也。其不可以用者三焉:彼眾我寡,一也;利害未審,矯眾強為,二也;將心猶豫,三也。

謂う所の「死地」は、高山に背靠り大水に面臨し、糧道と生路と皆斷絶せられたる地方を指す。死地雖説兵家に對して害ありとするも、此處に於て死を拼して一戰し得べき情形に四種あり。一は主將の恩德威信未だ樹立せず官兵未だ服従を肯ぜず、正好く絶境を借りて鬥志を逼出す。二は我軍兵力敵と相當にして、全力に死戰すれば則ち利あり畏縮して戰わざれば則ち害あり、官兵を迫使して命を舍てて戰わせんと欲す。三は敵人に緊逼せられ、糧食草料將に耗盡せんとす。四は前軍すでに擊破せられたるも、後軍はなお穩固なり。死地に於て兵を用うべからざる情形に三種あり。一は敵衆我寡。二は利害未だ審察清楚せずして、勉强に部衆を驅趕して硬幹す。三は主將自心に猶豫を存す。

料山第四十

山勢迫而障於近者勿營,慮伏在側也;山亞而繞林奮者勿營,慮四周有伏也;山回於路者不可妄行,慮伏在前也;山伏於後者速過,急以兵守其後,慮為敵所絕也。左右前後皆山,我頓軍於中者,細究其往來之蹊路,因諸間道以兵守之。凡諸山阪及野地者,有林近我,我利。若得之,戰則為伏,急則為藏,守則為薪也。茍能知山林之利害者,鮮不勝也。

山勢逼近し近處に視線を遮斷して屏障を形成する地方は營を扎するなかれ。怕るるは兩側に伏兵あらんなり。山形低伏して四圍林木蓊鬱蔽塞する地方は營を扎するなかれ。怕るるは四周に伏兵あらんなり。山勢回環して道路を擋住する地方は貿然行進すべからず。怕るるは前面に伏兵あらんなり。山岡隊伍の背後に橫わる地方は迅速に通過し、兼ねて急いで兵を派して後路を扼守すべし。怕るるは敵人に退路を截斷せられんなり。左右前後皆山にして、我軍當中に駐扎する時は、細細に各條の往來の小路を查明し、これらの間道に依托して兵を派して把守すべし。凡そ山坡と曠野の地は、ただ樹林ありて我方に靠近せば、就ち我方に利あり。若し能くそれを占住せば、作戰の時伏を設け得、情勢危急には藏身し得、駐守する時はまた砍りて柴薪に充つるを得。若し眞に能く山林の利害を懂得せば、打ち勝たざること少なからん。

料水第四十一

頓軍之地,水流而清澈者,食之上也;水流而黃濁有沙者,食之次也;流之黑者,食之下也(水黃黑,以膠投之,可以得清)。設或水停而不流者,勿食;水流而上源在敵者,勿食。水流而中有黑脈不定毒流者,勿食,食者死。水多糞草者,勿食,食者病。水上有人、狗、彘之尸者,勿食。如無水可食,當於其側穿井以汲。

軍を駐する所、水流清澈なるは、最も上等の飲用水なり。水流黄濁して泥沙を夾帶するは、次一等のなり。水流黑を發するは、最も下等のなり(水色黄黑を發するは、膠質を投入して泥沙を凝沉せしめば、澄清し得べし)。假如水停積して流れざれば、飲用するなかれ。水雖流動するも上游敵方境內に在れば、もまた飲用するなかれ。水流當中に黑色脈紋ありて游移不定の毒流あれば、飲用するなかれ。飲めば命を送らん。水中糞便雑草多きは、飲用するなかれ。飲めば病を生ぜん。水面人・狗・猪の屍體を漂わすは、飲用するなかれ。若し飲む可き水なければ、應に近旁に井を鑿りて汲取すべし。

吏士營必以水,暫憩必以水。若將有所涉也,水流而或盈或減者,勿涉,必有壅囊之機;水止而為陂為沮洳限於路者,勿涉,必有澤淖之陷。水在敵要地而無甲兵防之者,未可即涉。先令輕兵搜驗山谷崎岸,慮有伏焉。欲奪敵之力者,先奪其水。得之上流者,美莫大焉。

官兵營を扎するは必ず水源に靠近すべく、短暫休息するも必ず水源に靠近すべし。若し將に水を涉らんとするに、水流忽漲忽落するに遇えば、涉渡するなかれ。上游必定に人ありて「壅囊」(土沙の口袋を以て壩を築く)を以て水を攔み、ただ我軍の半渡するを等ちて堤を決して水を放つ。水停積して陂塘を成し泥沼に變じて去路を擋住するは、涉渡するなかれ。あちら必定に沼澤陷坑あり。水面敵方の要害の地に處するも敵兵の防守を見ざるは、马上涉渡すべからず。先ず輕裝部隊を派して兩岸の山谷と陡岸とを搜查し、埋伏あるを提防すべし。敵人の戰力を削弱せんと欲せば、先ず彼の水源を奪え。能く上游を占住するは、好處これより大なるは再びなし。

料塵第四十二

敵之始來,塵有條而散漫者,曳薪也;穗起而驚亂者,塵車來也;塵高濃厚,渾渾而起者,騎兵來也;卑而廣,奮奮而起者,步兵也。

敵人剛纔來る時、塵土一條一條の細線を呈してまた散漫なるは、地上に柴薪を拖曳して塵を揚げ虛張聲勢するなり。塵頭谷穗の如く簇を成して騰起し紛亂不定なるは、戰車の馳來するなり。塵柱高くまた濃く滾滾として翻卷して起こるは、騎兵の到來なり。塵頭低くして寬闊に蓬蓬として湧起するは、步兵の行進なり。

兵少而塵散亂者,部伍不肅也;兵多而塵清者,部伍按行,將之令整也;塵埃左右前後起者,使人無常法也。軍動而塵埃條條而起者,不散漫,軍止而塵亦者,此皆大將威德行,部伍整肅故也。列營結陣之時,有塵起飛者,隨所起處防之,必有賊兵潛到。臨賊以塵為候,亦料敵取勝之術者也。

兵少なくして塵土散亂するは、隊伍整肅ならざるなり。兵多くして塵土反って清淡なるは、隊伍行列に按じて行進し主將號令嚴整なるなり。塵埃左右前後各處に零散に騰起するは、人馬を調遣するに一定の章法なきなり。行軍の時塵土條を成して騰起して散漫せず、隊伍一停すれば塵土もまた之に隨って停息す。これ皆主將の威德通行・部伍整肅の緣故なり。營を安んじ陣を列する時候、若し塵土飛揚あれば、就ち揚塵の方位に照らして防備を加うべし。あちら必定に敵兵の悄悄に摸到するあり。敵に臨む時塵土を以て偵察の徵候と爲すは、亦た敵を料りて勝を取る一種の辦法なり。

料敵陣第四十三

敵陣稍長心薄者,我軍當自堅其陣。先以勁兵力沖敵陣之心,力困則益兵進之;俟敵陣稍動而來救於心,則退沖心之兵,復堅我陣;俟敵陣稍動,則麾我兩稍之兵乘之。若敵陣心實而稍圓,不可輕擊,俟變而後動焉。

敵陣兩翼拉長して中央單薄なるは、我軍應に先ず自己の陣形を穩固にし、再び精兵を以て全力に敵陣の中央を衝擊すべし。衝きて力竭きれば、就ち兵力を增派して繼續推進せしむ。敵陣兩翼鬆動して兵を抽いて中央を回救するを等ちて、就ち中央を衝擊する部隊を撤回し、重新に我陣を穩住す。再び敵陣の鬆動するを等ちて、就ち我方兩翼の部隊を指揮して隙に乘じて進撃せしむ。若し敵陣中央厚實にして兩翼收まりて渾圓なるは、輕易に攻撃すべからず。それが自身變を生ずるを等ちて後動手すべし。

若敵陣於死地,部伍齊肅如一者,此將賢而兵精也,不可輕擊焉。陣於死地,部伍不肅,多動多嘩,旗幟撩亂,此皆將軍愚昧,不能擇地利,使士伍心動故也,可迫而擊之,必勝也。

若し敵人死地に列陣して、隊伍卻って整齊嚴肅なること一人の如ければ、これ敵將賢能にして士卒精銳なるを説明す。輕易に攻撃すべからず。若し死地に列陣して隊伍整肅ならず、動作紛雜・喧譁止まず、旗幟繚亂するは、これ皆敵將愚昧にして、有利の地形を選擇するを會せず、士卒をして軍心浮動せしむるが故なり。逼り上りて打つ可し。必定に勝を取らん。

若陣於生地,人馬利於出入,行列嚴整,旌旗如畫,金鼓應節,人無喧囂,此將有謀而善於得地利者也,不可輕擊。敵陣於生地,令不嚴肅,行列不整,進退不節,此蓋將內不能曉軍政,外不能擇地利故也。吏士之心必不固,可放兵擊之,必勝也。若敵陣左右山峽而不能盈者,可擊也;列陣而不能順其地勢者,可擊也。是知善戰者,莫不能此而能料其勝負也。

若し敵人生地に列陣して、人馬進出便利、行列嚴整、旌旗鮮明にして畫の如く、鳴金擊鼓節度に合し、人人喧譁の聲を出さざれば、これ敵將謀略有りてまた善く地利を占取するを説明す。輕易に攻撃すべからず。敵人生地に列陣して、號令卻って嚴肅ならず、行列整齊ならず、進退節度に合わざれば、これ大概敵將內に軍中政令に通曉せず外に地利を選擇するを會せざる緣故なり。官兵の心必定に穩固ならず。兵を放ちて進撃し得べし。必定に勝を取らん。若し敵陣左右山峽に倚りて兵力填滿し得ざるは、攻撃し得べし。列陣して能く地形の走勢に順應せざるは、攻撃し得べし。これに由りて知るべし、善く作戰する人は、これらに憑って勝負を預判せざるなし。

料敵營第四十四

敵營糧道不通利者,可守之。敵營得高燥之地而不顧泉水之利者,可俟之;俟之久,則人馬多渴也。敵營得泉水之利而地勢下濕者,可逼之。敵營地勢不順出入者,可攻之。敵營寬大而兵少者,可薄之。敵營圍密而兵寬者,不可輕之。敵營四周守備不均者,隨其虛處以攻之。敵營前後左右有出入之便者、水草之利者,不可輕之。此皆料陣法也。

敵營の糧道暢通せざれば、就ち圍困して相持し得べし。敵營高爽乾燥の地方を占めて、卻って水を取る便利を顧みざれば、就ち拖して等待し得べし。等つこと久しければ、彼の人馬多半渇かん。敵營泉水の便を得るも、地勢低窪潮濕なれば、就ち逼近して攻打し得べし。敵營地形出入不便なるは、進攻し得べし。敵營範圍寬大にして兵力單薄なるは、迫近して攻取し得べし。敵營圍壘緊密にして兵力なお餘裕あるは、輕視すべからず。敵營四周守備均衡ならざるは、就ち彼の空虚の處に照らして進攻せよ。敵營前後左右出入方便にして、また水草の利を占むるは、輕視すべからず。これら皆敵方の營陣を審度する辦法なり。

料用天氣第四十五

望氣者以氣勝敗告於大將。觀敵之氣衰則進攻,氣旺則止兵勿與戰,此之謂順天時者。彼之氣旺,他人皆懼怯不敢進兵,我獨勇而進焉,反能必勝者,何也?在乎以智逆於氣,而己順任乎時者也。夫五行之旺,以日、時為用。靜為主,動為客。

軍中「望氣」の術士は、雲氣の顯示する勝敗を主將に禀告す。敵方の氣象衰弱を見れば進攻し、氣象旺盛なれば兵を按じて彼と交戰せず。これを天時に順應すと謂う。然れども對方氣旺なれば、別人皆畏怯して兵を進め敢てせざるに、唯獨我奮勇進撃して、反って能く必勝す。これ何の緣故ぞや。關鍵は智謀を以て雲氣に逆らって行き、而も自身依旧日辰時辰の生剋に順應するに在り。五行の旺相は、日辰と時辰とを以て推算取用す。靜守の一方を「主」と爲し、進動の一方を「客」と爲す。

敵上勝氣有如門上樓如杵如枝,或曰赤為木,我則俟金時,自西擊之,可克矣;水日水時不可也,水能生木故也。敵上勝氣或赤如火光火煙之狀,暈暈而起者,木日木時不可也,為木能生火也;日為火,亦俟水時自北擊之,可克矣。

敵軍上空の旺氣、形狀門上の樓閣の如く・木杵の如く・樹枝の如くして、その色木に屬すれば(原文「赤」と作るも、當に「青」と爲すべし)、我方就ち金に屬する時辰を等ちて、西方の金位より彼を攻撃せば、便ち剋制し得べし。水に屬する日子・水に屬する時辰は動手すべからず。水は木を生じて、反って敵氣を助長するを以てなり。敵軍上空の旺氣若し赤紅にして火光火煙の狀の如く、一暈一暈升騰するは、あれは火に屬す。木に屬する日子・木に屬する時辰は動手すべからず。木は能く火を生ずればなり。此の氣すでに火に屬すれば、もまた水に屬する時辰を等ちて、北方の水位より彼を攻撃せば、便ち剋制し得べし。

敵上勝氣如白粉者,白為金,水日金時皆不可也;茍金日火時,利自南方攻之,可克矣。敵上勝氣黃如土臺者,土日金時不可也,金日土時不可也,金日金時、土日土時皆不可也;土日木時,利自東擊之。黃者土也,臺者亦土也。不言雲氣如水狀而及色黑者,緣黑氣多為敗氣,此不復用。

敵軍上空の旺氣白粉の如くなるは、白色は金に屬す。水に屬する日子と金に屬する時辰と皆兵を用うべからず。若し金に屬する日子・火に屬する時辰に逢えば、就ち南方の火位より進攻するに利あり、剋制し得べし。敵軍上空の旺氣黄を發して形狀土臺の如きは、土に屬す。土に屬する日子に金に屬する時辰を配するは行かず、金に屬する日子に土に屬する時辰を配するも行かず、金に屬する日子に金に屬する時辰を配し、土に屬する日子に土に屬する時辰を配するもまた皆行かず。要ずるに土に屬する日子に木に屬する時辰を配し、東方の木位より攻撃するに利あり。黄色は土にして、臺形もまた土なり。此處形狀水の如く顏色黑を發する雲氣を談ぜざるは、黑氣多半敗亡の氣にして、再び取用せざるを以てなり。

或敵人先據吉地,我之頓軍稅駕,逼近於凶神死氣之上,不得利門而出者,但觀我軍上雲氣及敵上雲氣形與色,以五行相生相剋用之。敵氣能生我,我則出師進戰;我軍上氣能克敵,亦利出師進戰。不然,則勒兵撫士,戒嚴警備,俟時而動焉,不可妄也。夫天下專勝敗之氣,由人用之而已。兵家萬變,此其一也。

時に敵人先に吉利の地方を占め、我軍の駐扎卸裝の處卻って正に凶神死氣の所在に逼近し、有利の方位を找て兵を出すを得ざれば、この時ただ我軍上空と敵軍上空の雲氣の形狀と顏色とを觀察し、五行相生相剋の道理に按じて推用すれば足る。敵方の氣能く我方の氣を生ぜば、我就ち兵を出して進戰す。我軍上空の氣能く敵氣を剋制すれば、もまた兵を出して進戰するに利あり。若し皆この如くならざれば、就ち部隊を整飭し士卒を撫慰し、戒嚴警備して、時機を等待して再び動き、輕擧妄動すべからず。天下これらの勝敗を主宰する雲氣は、説き極めれば不過人に由って運用せらるるのみ。兵家の變化千萬種あり、望氣はただその中の一種なり。

料用地形第四十六

兵法曰:“散地無戰。”散地者,境內地上也,士卒顧家,其意未專,不可戰也。“輕地則止。”入敵地尚淺,士卒意未堅,不可以進敵,當自堅其心也。“爭地則無攻。”山谷隘險之口,以弱勝強,以少擊眾之地也。“交地則無絕。”俱可進退之地,不可以兵絕之。“衢地則合交。”有路往來,我可結交於諸侯也。

《孫子兵法・九地篇》に曰く、「散地戰うことなし」と。謂う所の散地は、本國境內に於て作戰する地を指し、士卒家室を挂念し心志專一ならず。ゆえに此處に於て決戰するに宜しからず。また曰く、「輕地は則ち止まれ」と。敵境に入ること未だ深からず、士卒の意志未だ堅定せず、急いで敵に向かって推進すべからず。應に先ず自己の軍心を穩住すべし。また曰く、「爭地は則ち攻むることなし」と。爭地は山谷險隘の關口にして、能く弱を以て強に勝ち少を以て衆を擊つ地方なり。敵人先に占めれば就ち硬攻するなかれ。また曰く、「交地は則ち絕つことなし」と。交地は雙方皆能く進退往來する地方にして、兵を派してそれを攔斷しに往くべからず。また曰く、「衢地は則ち交を合わせよ」と。衢地は四通八達して、我方此處に於て諸侯と結交し得べし。

“重地則掠。”深入敵境,士卒意已堅固,可以掠取財物。“圍地則謀。”士卒因於險隘,鬥則兵弱,持久則糧食乏絕,則當用謀以免難。“死地則戰。”前有高山,後有大水,糧食乏絕,進退守備皆無所利,當則曰死戰也。許洞曰:此八者,古人用戰地之法。若地協於用則用之,不協於用則反之。

また曰く、「重地は則ち掠れ」と。敵境に深入して、士卒の意志すでに堅定せば、就ち地に就りて糧秣財物を掠取して以て軍用に供し得べし。また曰く、「圍地は則ち謀れ」と。士卒險隘の中に困せられ、硬拼すれば兵力單薄にして、久拖すれば糧食斷絶す。この時應に計謀を以て難を脱すべし。また曰く、「死地は則ち戰え」と。前面は高山、後面は大水にして、糧食斷絶し、進・退・守いずれも一つも利なければ、則ちただ死を拼して一戰あるのみ。許洞曰く、以上八條は、古人の戰地を利用する成法なり。地形若し用法と相合せば就ち照らして用い、相合せざれば就ち反って用うべし。

反之之謂何也?曰:若敵眾深入吾境,營壁不完,芻糧寡少,守且不利,詎可以散地而不戰乎?在我當以必戰為約,怯退示以必死,擒獲示以必賞。令立告諸吏士:將戰之際,後顧斬之,臨敵而目不定、目數移者斬之,有憂色者斬之,偃蹇者斬之,相視而動目者斬之,遺弓刀器械者斬之,金鼓不應節者斬之;獲一首級者亦厚賞之。如是,則有散地之用矣。

何をか反って用うと謂う。答えて曰く、假如敵軍大擧して我國境內に深入し、我方營壘完固ならず、草料糧食また少なく、守るにすら守り得住ず。豈にこれが「散地」なるが故に打たざるを得んや。この時我方應に必戰を以て約を立て、凡そ怯懦後退するは一律處死し、凡そ敵人を俘獲するは一律重賞すべし。軍令は預め明白に全體官兵に告知すべし。臨戰の際、頭を回して張望するは斬。敵人に面對して眼神游移・目光頻頻轉動するは斬。面に憂懼の色を帶ぶるは斬。傲慢にして號令を聽かざるは斬。相互に對視し眼色を以て示意するは斬。弓刀器械を丟棄するは斬。鳴金擊鼓節度に合わざるは斬。而るに首級一顆を斬獲するもまた重重に彼を賞すべし。この樣にして來れば、散地もまたその用處有らん。

入敵地尚淺,險則據而挑,夷則守而應。慮士卒心不固,當擇左右前後背險絕面夷生路,肅部伍,嚴節制,使人人有自戰,是則有輕地之用矣。

敵境に入ること未だ深からざる時、地勢險要なれば就ち險處を占住して敵に挑戰し、地勢平坦なれば就ち據守して敵の來攻を待つべし。士卒の軍心穩ならざるを担心せば、就ちあの種の左右前後險絕に背靠り正面また平地の生路なる地方を挑選して隊伍を安置し、部伍を整肅し節制を嚴明にし、人人に各々奮戰の位置と責任とを有せしむべし。この樣にして來れば、輕地もまたその用處有らん。

山谷險隘,敵人先得以控隘我勢,我當屯師為大營廣陣,務攻其懈。其機狀如不密,俾敵見之,則洩謀矣。欲敵人備在前,陰出精銳敢死者循間道,或扼其糧運,或搗絕其後。凡間道必多險阻,或有巖崖峭壁之地,則為懸梯竹索以陟登之;或有深淵澗,則為罌缶渡之。覺敵內撓,則自營陣中出精兵為應,內外夾攻,有爭地之用矣。

山谷險隘の處、敵人先に關口を占めて來りて我方の態勢を控扼せば、我方就當に大軍を屯駐し大營廣陣を結成し、專ら彼の松懈する時を等ちて進攻すべし。この類の機謀若し嚴密に做らざれば、敵人をして看破せしめ、計謀就ち泄漏せん。敵人をして防備を皆正面に擺せしむるを設法し、同時に暗中に精銳敢死の士を派して小路に沿って潛行せしめ、あるいは彼の糧運を卡斷し、あるいは直搗して彼の後路を切斷せしむべし。凡そ小路必定に多く險阻あり。岩崖峭壁に遇えば、就ち懸梯と竹索とを以て攀登し上り、深淵溪澗に遇えば、就ち「罌缶」(大口の陶甕を扎りて成す浮渡の器具)を以て渡り過ぐべし。敵人の內部すでに攪亂せられたるを察覺せば、就ち本營陣中より精兵を派出して接應し、內外夾攻すべし。この樣にして來れば、爭地もまたその用處有らん。

道路相錯,我可以往,彼可以來,利設伏進戰,戰佯敗,俟逐兵過半則舉號發伏沖擊之,反佯敗之師以應,有交地之用矣。

道路縱橫交錯して、我方能く過去し敵方もまた能く過來する。この種の地方は先ず伏を設けて後進戰するに利あり。交戰する時假裝敗退して、追撃の敵兵の過半するを等ち、就ち號令を擧げて伏兵を發動して衝擊せしめ、同時に先前佯敗の部隊をして頭を回して夾撃接應せしむべし。この樣にして來れば、交地もまたその用處有らん。

頓泊之地逕達四面,當選腹心勁勇者各將步、騎以扼四沖,人數隨多少使之,雖無交應,有衢地之用矣。

駐扎の地道路直通して四面八方に達すれば、就當に心腹可靠にしてまた强悍勇猛の人を挑選し、各々步兵・騎兵を統領して四方の要衝を扼守せしめ、兵力の多少は情況に隨って調配すべし。かくすればたとえ諸侯と結交呼應するに由なきも、衢地も依旧その用處有らん。

致兵敵境,凡屬守備者,順利安之,否則夷之。資食所獲,必副吏士,內以悅師人,外絕敵所恃。豈直深入然後用掠乎?如是,則用掠非止重地之用矣。

兵を出して敵國境內に到り、凡そ敵方の守備據點は、順從歸附するは就ち之を安撫し、然らざれば就ち之を蕩平すべし。繳獲の物資糧食は、一定に官兵に分配すべし。內に軍心を歡悅せしめ、外に敵人の憑恃を斷絶し得べし。何處にか非ず敵境に深入したる後始めて地に就りて掠取するを談ずるに及ばんや。かく看來れば、「掠」のこの一條は並びに重地に限りて始めて用い得るに非ず。

大兵將動,先料其強弱,觀其云勢,察地勢逆順,審人心向背,而後舉焉。兵法曰:策之而知得失之計,候之而知動靜之理。故得失之道,利在先知。謀勝於未勝,慎於未失者,善也。有死地之危,始謀於軍者,必有後機之困矣。設能反後機而達先知,必無圍地之患矣。

大軍將に行動せんとすれば、先ず雙方の強弱を估量し、雲氣の形勢を觀察し、地形の順逆を察看し、人心の向背を審度し、然る後乃ち出動すべし。《孫子兵法・虛實篇》に曰く、敵情を籌算すれば便能に得失の計較を知り、敵情を偵察すれば便能に行動と靜止の規律を知る。ゆえに得失の關鍵は、好處全く事先に知曉するに在り。未だ勝を取らざる時に勝を取るを謀劃し、未だ失誤あらざる時にこれを謹愼に加う。これ始めて高明と謂う。已に死地の危に陷入るを等ちて、始めて軍中に於て謀劃を開始せば、必定に「後機」(時機の後に落つ)の苦頭を喫せん。假如能く時機に落後する毛病を扭轉して先知先覺を做到せば、一定に圍地に陷入るの禍患あらざらん。

高山大澤,險阻峭壁,沮洳溪逕,斷絕無以生遁,此乃智士用謀之利也。當宜用奇兵出不意,以沖寇敵而後擊之。出奇奔沖,或利用燧馬、燧牛如田單、陽班之類是也;或候夜昏詐為號,直奔沖敵師,混服飾軍伍,使不辯認之類是也。如止以死戰為期,茍敵兵益壯,我援不利,則李陵有弓折矢盡之困矣。戰極力斃,當自殞陷。能竭智用謀,萬變不極,則無死地之憂矣。孫子曰:戰貴地利。然則地利者,不可一概用也,但臨時觀其用何如爾。兵貴設變,不能以變用兵,雖得地利無益也。

高山大澤・險阻峭壁・泥沼溪徑・四面阻絶して逃ぐる路なし。これ正に智謀ある人の計謀を施展する好機會なり。此の時應に奇兵を以てその不意を出し、先ず敵寇を衝亂して然る後進撃すべし。奇兵を出して奔襲衝陣するに、あるは「燧馬」「燧牛」を用い(馬・牛の身に火炬を縛束して後之を縱りて敵に衝かしむ)、田單・陽班の用いたるが如くなり。あるは夜色昏黑に趁って詐りて敵方の口令を用い、直ちに敵軍に衝り、服色旗號を敵に混同せしめて、彼をして分辨し清らかならしめず。若しただ死を拼して一戰するを唯一の指望と爲せば、一旦敵兵戰うほど強くなり我方の援救力及ばざれば、則ち漢將李陵の弓折れ箭盡くるの困境を重蹈せん。打ちて力盡くして倒斃するは、あれは自ら覆亡を取るなり。能く智謀を竭盡し變化窮まらざれば、死地に陷入るの憂慮なし。《孫子兵法》に曰く、作戰は地利を得るを以て貴と爲す。然れども謂う所の地利は、一概に照搬して用うる能わず、ただ事に臨みてそれが究竟如何に用うべきかを看るのみ。用兵は能く變を設くるを貴とす。若し隨機應變して兵を用うるを會せざれば、たとえ地利を占むるも用處なし。

逆用古法第四十七

舉兵用武,率以古法為用執之,與膠柱鼓瑟無異爾,未見決中者也。兵家之利,利在變通之機,觀其逆順。夫興師之際,當先探敵將才不才。設若敵將不能以兵法使眾,惟以勇敢為己任,我則順用古法待之也。或敵將善用古法,我則逆用古法待之也。夫用兵之奇,莫奇於設伏。設伏之奇,莫奇於新智。新智者,非不師古也,因古而反之爾。

兵を擧げ武を動かすに、一概に古法を死に抱いて照搬するは、「膠柱鼓瑟」(瑟上の弦柱を粘り死せしめて再び彈く)と兩樣なきなり。かくして能く一擊して中るを見たることなし。兵家の便利は、全く隨機變通に在り、形勢の逆と順とを看清む。兵を發する際、應に先ず敵將の有才か無才かを探明すべし。假如敵將兵法に按じて部衆を調度するを懂得せず、ただ勇敢を逞ばしむるを本分と爲さば、我方就ち古法に順って彼に對付すべし。若し敵將善く古法を運用せば、我方就ち古法に反って彼に對付すべし。用兵の奇なるは、伏を設くるより奇なるはなし。伏を設くるの奇なるは、また新意を出すより奇なるはなし。謂う所の新意は、並びに古人を學ばざるに非ず、而是れ古法に就りて反って運用するのみなり。

古人料敵,以其始來、戰陣未合,先以賤而勇者挑之,觀其號令、旗鼓之整與亂,士馬之強弱,營陣之偏正,行伍之齊肅散亂,言語之喧嘩緘黙,以定勝負焉。是以古法曰:若其眾喧旗亂,其卒自行自止,其兵或縱或橫,其追敗恐不及,見利恐不得,如此者將必無謀,雖眾可獲矣。許洞曰:如古人以此取功,茍敵人能料,我當順其所料,伏兵待之,以詐示之;俟彼出師,則發伏攻之。

古人の敵を料るは、敵人剛纔來到して兩陣未だ交合せざる時に趁り、先ず身份低微にして勇悍の人を派して挑戰せしめ、此を借りて對方の號令と旗鼓とが整齊か散亂か、人馬強か弱か、營陣偏斜か端正か、行伍齊肅か散亂か、言語喧譁か緘默かを觀察し、據って勝負を判定す。ゆえに古法に曰く、若し對方人聲喧鬧・旗幟雜亂にして、士卒各々自ら行走し各々自ら停下し、隊列忽ち縱忽ち橫にして、敗兵を追趕するに追い着かざるを唯恐れ、便宜を見るに撈り着かざるを唯恐る。かかる軍隊は主將必定に謀なく、人雖多きも擒獲し得べし。許洞曰く、古人はこの一套に靠って功を建つるも、可如今敵人もまたこの一套を拿って我を料らん。我就ち彼の料想する所に順って做り、預め兵馬を埋伏して等ち、故意にこれらの破綻を做りて彼に看せしむ。彼の兵を出して來りて打つを等ちて、就ち伏兵を發動して彼を攻撃せん。

古法曰:杖而立者饑也,汲而先飲者渴也,見利不進者勞也,軍擾者將不重也,旗動者亂也,吏怨者倦也,懸瓶不反其舍者窮寇也,諄諄翕翕徐與人言者失其眾也,數顧者失其群也,來委謝者欲休息也。

古法に曰く、士卒兵器に拄えて站立するは、餓えたるなり。水を打つ人先ず自己で喝むは、渇えたるなり。便宜を見て卻って上前せざるは、疲敝せるなり。軍中騷擾寧らざるは、主將莊重ならざるなり。旗幟亂晃するは、隊伍亂れたるなり。軍吏抱怨するは、全軍倦怠せるなり。水瓶炊具を掛起して營舍に回らざるは、走投無路の窮寇なり。主將絮絮叨叨として低聲慢氣に人と說話するは、衆心を失掉せるなり。屢々頭を回して張望するは、部屬の依托を失去せるなり。人を派して委婉に謝罪し來るは、休戰を求めんと欲するなり。

許洞曰:觀古人以此料敵,今則不然,當令精銳吏士分而伏於要衝,使其勞倦殘傷者如饑渴失群之狀,或數搖動其旗,或數驚擾其眾,使吏士喧嘩,應敵人所料。茍出師襲我,則潛發所伏,出其不意擊之。

許洞曰く、古人がこれらの徵候を拿って敵を料るを見る可し。如今就當に反って做るべし。精銳官兵を分散して要衝に埋伏し、疲勞傷病の人をして外面に露わせ、饑渇・失群の樣子を裝い出さしむ。あるいは不断に旗幟を搖動し、あるいは故意に部衆を驚擾して、官兵をして吵吵嚷嚷たらしめ、正好く敵人の料る所のあの幾條に對上せしむ。彼若し兵を出して我を襲い來れば、就ち暗中に伏兵を發動し、その不意を出して彼を打て。

古法曰:敵如來到,行陣未定,可擊也;跋涉長道,後行未息,可擊也;行阪涉險,半隱半出,可擊也;涉水半渡,可擊也;險道狹路,可擊也;旌旗亂動,可擊也;陣數動移,可擊也。

古法に曰く、敵人剛到して行列陣形未だ安定せざれば、攻撃し得べし。長途跋涉の後、後隊未だ歇り復らざれば、攻撃し得べし。坡を翻え險を越えて、隊伍一半山後に藏れ一半外に露わるれば、攻撃し得べし。水を涉り渡りて一半なれば、攻撃し得べし。險道狹路の中に處すれば、攻撃し得べし。旌旗亂晃すれば、攻撃し得べし。陣形屢々變動移位すれば、攻撃し得べし。

許洞曰:在我則不然:如以行陣未定,四面可設伏也;長道移行未息,中可設伏也;山阪半隱半出,長林土穀可設伏也;涉水半渡,則崖岸坡阪可設伏也;狹路險道,則前後可設伏也;旗數亂動,陣數動移,前後可設伏也。如或敵人敗走,我師未敢逐之者,防有伏也。

許洞曰く、我方に換れば就當に反って用うべし。故意に行列陣形をして安定ならざるを顯さしめて、而も四面に伏を設け、故意に長途行軍後隊未だ歇らざるの樣子を露出して、而も隊伍の中間に伏を設け、山坡の上に半藏半露すれば、就ち長林土谷を借りて伏を設け、水を渡りて一半なれば、就ち崖岸坡坂に伏を設け、狹路險道を行經すれば、就ち前後に伏を設け、旗幟亂晃・陣形屢動するも、また前後に伏を設くべし。ゆえに敵人若し敗走すれば、我軍卻って追趕を敢てせざるは、正に彼がこの種の埋伏あるを提防するなり。

古法曰:鳥起者伏也,眾樹動者來也。不如此,未必伏與來也,欲為疑兵也。我已奔遁,多令老弱者動其眾樹,及驚鳥起之類也。又曰:無約而請和者,謀也;半進半退者,誘也。此亦大兵已潛遁,恐後人逐者,設此為疑也。

古法に曰く、飛鳥驚起するは、あちら伏兵あり。片を成す樹木搖動するは、敵人正に來るなり。反って用いれば未必この如し。必ずしも眞に伏兵あり・眞に敵の來るあらずして、而是れ有意に布下せる疑陣なり。我方明明すでに撤走せるも、卻って多く老弱の人を派してあの片の樹林を搖動し飛鳥を驚起せしむれば、就ちこの一類に屬す。古法また曰く、約定なくして和を求めに來るは、別に圖謀あり。半進半退するは、引誘なり。これもまた同じく我方主力すでに暗中に撤走して、後面の人の追趕するを怕り、故意にこれらの姿態を擺して彼を迷惑するを得。

許洞曰:料敵以事者,多慮為反古之法也,多中為期,用之於人也。是以兵法如車之載其物,則車之轉者由輪也,及有車之用,則東西南北者由人也。故兵法不可執而用之也,明矣。

許洞曰く、具體の迹象に憑って敵を料る人は、多く一層想うべし。對方可能に正に古法に反って用うるなりと。能く屢々料中するを目標と爲して、最後はなお何人の身上に用うるかを看るを要す。ゆえに兵法は譬えば車子の貨物を裝載するが如し。車の能く轉動するは輪子に靠るも、眞に車を用うれば、東に往き西に往き南に往北に往くは卻って人に由って決定せらる。ゆえに兵法は死に抱えて照搬する能わざるの道理は甚だ清楚なり。

水戰第四十八

凡水戰之具,船闊狹長短大小,載人多少,以米為則。一人重米一石,則人數積而可知也。棹、篙、櫓、帆、席、組、繩索、沉石、調度,與常船不殊。船上安樓三重,列女墻戰格,樹幡幟,開弩窗、矛穴、炮車,置壘木、鐵汁,狀如守城。

凡そ水戰の器具は、船の寬窄・長短・大小と人を載する多少とは、皆米を載る量を以て折算す。一箇の人は米一石を折合し、米數を累加すれば、能く幾人を載るか知るを得。槳・篙・櫓・帆・席・繫帶・繩索・沉石(石製の錨)および各項の配備は、普通の船只と分別なし。此處説く所は「樓船」なり。船上に三層の樓を架け、「女牆」(矮護牆)と「戰格」(護身の木柵)とを圍り、旗幟を豎立し、弩を射る窗と矛を刺す孔とを開き、石を抛る炮車を安放し、壘木と熔化の鐵汁とを備え、整箇の形制就ち城を守るが如し。

王濬伐吳,作大船,長二百四十步,建飛簷閣道,可以奔馬馳車。忽遇大風,則人力不能制,甚不便戰鬥。然為水軍,不可不設,以張形勢。蒙衝,以犀蒙覆船,皆兩廂開制棹孔,前後左右有弩窗、矛穴,敵不得近,矢石不能敗。此不用大船,務於速進退,戰船也。

西晋王濬呉を伐つ時大船を造れり。長さ二百四十步、船上に飛檐と閣道とを建て、馬を跑らし車を馳せるを得。此の種の船一旦大風に遇上せば、人力控制し得ず、甚だ戰鬥に便ならず。然れども水軍の內備え置かざる能わざる數艘ありて、以て聲勢を張大す。「蒙衝」は、堅韌の犀皮を以て船身を蒙覆し、兩側の船舷皆划槳の孔を開き、前後左右に弩を射る窗と矛を刺す孔とを開き、敵人靠近するに法なく、箭矢と抛石とまたそれを傷るを得ず。此の種の船は船體の大なるを求めず、ただ進退迅速なるを求むるのみ。專用の戰船なり。

鬥艦,艦船舷上設墻,可蔽半身,墻下開制孔。舷內五尺建柵為女墻,重列戰格,上無覆背。前後左右樹牙旗、金鼓,戰船也。走舸,舷上重列女墻、棹篙,多戰卒,選驍勇精銳者,奔走往反如飛鷗,乘人不及,旗幟金鼓列之於上,戰船也。

「鬥艦」は、船舷上に護牆を立て、高度半身を遮蔽し得べく、牆下に射孔を開く。舷の內側五尺を離れて再び木柵を立てて第二道の女牆を爲し、重重に戰格を排列し、上面に頂蓋を加えず。前後左右に牙旗を豎立し金鼓を設置す。正規の戰船なり。「走舸」は、船舷上に重重に女牆を排列し、多く槳篙を備え、多く戰卒を載せ、皆驍勇精銳の人を挑選す。往返奔馳すること掠水の飛鷗の如く快く、能く敵の防備に及ばざるに乘じて突然撲到す。旗幟金鼓もまた皆船上に設く。同じく戰船なり。

遊艇,小艇船,無女墻,船上置木床,左右隨艇大小長短,四尺一床。計會進止,回軍轉陣,其疾如飛,虞候居止之,非戰船也。海鶻,頭低尾高,前小後大,如鶻之狀。左右置浮板,如鶻翅翼。雖風波漲大,無傾倒也。覆背上左右皆張生牛皮為之,建牙旗、金鼓如常法,江海之中戰船也。

「游艇」は小艇にして、女牆を設けず、船上に木床を安放し、左右に艇の大小長短に依って布置し、每四尺に一張の床あり。それは調度を傳達し進止を約定するに用い、軍を回し陣を轉ずる時飛ぶが如く快し。「虞候」(軍中偵察巡邏を掌る軍官)の乘坐する船にして、戰船に非ず。「海鶻」は、船頭低く船尾高く、前部小さく後部大きく、形狀鶻鳥の如し。左右に浮板を裝して、鶻の翅膀の如く、たとえ風浪大いに漲るも傾覆せず。頂蓋上の左右皆生牛皮を張掛して防護を加え、牙旗を豎立し金鼓を設くるは通常の做法と同じ。江海の中に使用する戰船なり。

水利第四十九

兵法曰:以水佐攻者強。善用水者,其道有四:一曰因,二曰逆,三曰賊,四曰絕。因水之用,其道有二:或敵絕中流而柵,我得上遊,因風之利,可以鼓棹縱火,順流沖之,柵絕而過,風轉則止;又若敵在下,士馬逆流,我得上遊,可以攻之。此二者,所謂因者也。

《孫子兵法・火攻篇》に曰く、水を以て進攻を輔助すれば、威力就ち強し。善く水を用うる人は、辦法に四種あり。一を「因」と謂い、すなわち勢に順って利用す。二を「逆」と謂い、すなわち壅高して倒灌す。三を「賊」と謂い、すなわち暗中に水源を偸走す。四を「絶」と謂い、すなわち水流を截斷す。勢に順って水を用うる路數に兩條あり。一は、敵人河心に水道を攔斷して木柵を設け、而我方上游を占住せば、就ち順風の利に趁り、奮力に槳を划り火を放って順流に衝撞し、木柵を燒斷衝開して通過し、風向一轉すれば就ち手を停む。二は、敵人下游に在りて、人馬皆水に逆らって行くを要すれば、我方上游を占住して、便ち順流に彼を攻撃し得べし。この兩條は、すなわち謂う所の「因」なり。

逆水之用也,則為崇堤以障其下,註溢於內,然後引之以灌,所謂逆者也。賊水之用也,敵所以賴水也,當潛以水攻,審地理,陰為畎澮,導之他處,竭敵所賴,所謂賊也。

「逆」の用法は、下游に高堤を築きて水を攔住し、水をして堤內に壅積漫漲せしめ、然る後堤を掘りて水を引きて敵軍を淹灌す。これすなわち謂う所の「逆」なり。「賊」の用法は、敵人の依賴する水源に對して暗中に手を下すなり。地形を查明し、悄悄に溝渠を開挖し、水を別處に導き去りて、敵人の仰賴する水源を枯竭せしむ。これすなわち謂う所の「賊」なり。

絕水之用也,或以薪木土石,實舟沈之於上,別為長渠洩之;或為沙囊於上流以壅其水,欲水行則以決囊,所謂絕者也。用水之道,有其地非所用而必用,反為所害,順則善矣。

「絶」の用法は、あるいは柴木土石を船只に装满して、上游に於て鑿沈して河道を堵塞し、別に一條の長渠を開きて水を泄走らしむ。あるいは上游に於て沙袋を以て水流を壅住し、水を放たんと欲する時就ち沙袋を掘開す。これすなわち謂う所の「絶」なり。水を用うる道理は、ある地方本來水を用うに宜しからずして硬して用いれば、反って水に害せらる。地勢水性に順って用いて始めて高明と算す。

水攻第五十

先量水之高下,水平水槽長二尺四寸,兩頭及中間鑿為三池,橫闊一寸二分。池間相去一尺五分。間有通水渠,闊二分,深一寸三分。三池各置浮木,闊狹微少於池。箱厚二分,上建立齒,高八分,闊一寸七分,厚一分。槽為轉開,腳高下與眼等。以水注之,三池浮木齊起,眇目視之,三齒齊平,則為天下準。

水攻を用いんと要せば、先ず地勢水位の高低を測量し得べし。用うる所の儀器は「水平」と謂う。水槽長さ二尺四寸、兩端と中間とに三箇の水池を鑿出し、池の橫寬一寸二分、池と池と相距ること一尺零五分、池間に水を通ずる小渠あり、寬二分・深さ一寸三分。三箇の池裏各々一塊の浮木を放ち、寬窄池より略々小さし。浮木板厚さ二分、板上に一枚の齒標を立て、齒高さ八分・寬一寸七分・厚さ一分。水槽轉動開合し得べき架に安じ、支脚の高低は人眼と齊平なるを要す。水を槽中に注ぎ入れ、三池の浮木一齊に浮起し、一隻の眼を瞇めて瞄看せば、三枚の齒標一條の齊平の線に連成す。これすなわち高下を測量する水平の基準なり。

或十步,或一里,乃到數十里,因力所及,置照板、度竿,以白繩計其尺寸,則高下丈尺分寸可知。照板形如方扇,長四尺,下二尺,上二尺,面闊三尺,柄長一尺,大可握。

然る後每十步を隔て、あるいは每一里を隔て、幾十里の外に至るまで、目力の及ぶに憑って依次に「照板」と「度竿」とを架設し、白色の繩線を以て尺寸を量取せば、各處の地勢の高低丈尺分寸皆算し出すを得べし。照板形狀一把の方扇の如く、通長四尺、上下兩段各二尺に分かち(色を分かちて以て遠看辨認に便なり)、板面寬三尺、柄長さ一尺、粗細正好く一握なり。

度竿長二丈,克作二百寸,二千分。每寸內小克。隨所向遠近高下置竿,以照板映之,眇目視之,三浮木齒及照板以度竿上尺寸為高下,遞而往來,尺寸相乘,則山淵水源高下淺深,可以分寸度矣。

度竿長さ二丈、二百寸・二千分に刻成し、每一寸の內再び細分を刻す。測る所の方向の遠近高低に按じて度竿を豎立し、照板を以てそれに對して顯示し、一隻の眼を瞇めて瞄準す。三塊の浮木上の齒標を照板と一線に連成せしめ、再び照板の對應する度竿上の尺寸を讀取せば、あれすなわち該處の高下なり。かくして一站一站遞推往返して、各段の尺寸を依次に累算せば、山陵・深淵・水源の高低深淺、皆分寸に精確し得べし。

過水第五十一

罌筏一,凡縛罌甕為筏,甕間闊五寸,深受三石米,力勝一。底以勾繩連之,編槍於上,形長而方,前置板頭,後置板梢,左右掉之。槍筏:槍十根為一束,力勝一人,四千一百六十根為一筏,去鉆刃束為魚鱗次,橫括而縛之。可渡四百一十六人。為三筏,計用一萬二千五十根,渡人一千二百五十人。十渡則一軍濟矣。

第一種は「罌筏」。陶罌陶甕を捆扎して筏を爲し、甕と甕と相距ること五寸、每只の甕容量三石の米を裝し得、浮力能く一人を載す。筏底は鈎を帶びたる繩索を以て甕を連結し、上面に長槍を橫編して筏面を作り、形狀長くして方正、前端に船頭板を安じ、後端に船梢板を安じ、左右兩側水を划りて行進す。第二種は「槍筏」。長槍十根一束に捆り、浮力一人を載し得べし。四千一百六十根一張の筏に編成し、先ず槍尖の鋒刃を去掉し、槍束を魚鱗の如く層層相壓せしめ、再び橫向に卡緊して捆牢す。一張の筏四百一十六人を渡し得べし。三張の筏を編成して、共に槍一萬二千零五十根を用い、一千二百五十人を渡し得べし。往返十趟すれば、一軍全く渡り盡くせん。

挾ㄌ,以善水者繫小繩於要處,先浮大木,次引大ㄌ。於兩岸立大橛及繫於樹,急定ㄌ使人挾ㄌ浮渡。大軍可分為十道渡之。浮囊,以渾脫羊皮,吹氣令滿,繫其孔,束於腋下,兩浮而渡。

第三種は「挾纜」(原文のこの字は僻字にして、粗纜繩を指す)。善く水の人をして細繩を腰間に繫がしめ、先ず大木を推して河を過ぎ、再び粗纜を牽引して過ぎらしむ。兩岸に大木樁を打下し、あるいは纜繩を樹上に繫ぎ、纜を繃緊固定せば、人は纜繩を夾抱して水に浮きて渡る。大軍は分かちて十道同時に渡河し得べし。第四種は「浮囊」。整張に剥下して破口なき羊皮を氣を吹足し、氣口を扎住し、腋下に束え、兩腋各々一隻として、浮きて水を渡る。

尋水脈第五十二

無水之地,擇地有黃羊糞者必有水。砂鹵甘潤者,下有水。細草蒙茸,與無水處不同者,亦如之。

水なき地方に水を找るに、黄羊の糞便ある地方を挑ぶべし。あの底下必定に水あり。砂石鹽鹼地にして土味甘潤なるは、底下に水あり。細草蓬鬆茂密に長じて、周圍の水なき處と明顯に不同なるは、も同じく地下に水あるを表明す。

火利第五十三

將有火之用,先知其日〈日者謂春丙丁、夏戊己、秋壬癸、冬甲乙,此日有大風雨故也〉,次順其風〈我得上風則放火燒,下風一作起馬〉。攻城寇寨,風助順,利為飛火〈飛火者,謂火炮火箭之類也〉。相守不動,利於奸火〈奸火者,因其人焚其積聚甲兵也〉。兩陣相合,禦風之便揚〈一作枵〉塵鼓煙,利為燧牛以俟之。若敵於上風放火,我亦縱火為解火法〈敵燒門恐火恐火威,我使積薪以伍外火亦此類也〉。

將に火を用いんとすれば、先ず日子を挑準すべし(謂う所の日子は、春の丙丁日・夏の戊己日・秋の壬癸日・冬の甲乙日を指す。これらの日子多く大風雨あるを以てなり)。其次に風向に順うべし(我方上風を占めれば火を放ちて敵を燒く。下風に處すれば別に打算を作す。「下風」は一本に「起馬」と作る)。城池營寨を攻打するに、若し順風の相助あれば、宜しく「飛火」(火炮・火箭の一類の抛射し得べき火器を指す)を用うべし。兩軍相持して動かざる時、宜しく「奸火」(すなわち敵營中の人を買通して、彼の囤積する糧草と甲兵とを燒掉す)を用うべし。兩陣接戰する時、風勢に趁りて塵土を揚げ煙霧を鼓起せば(「揚」は一本に「枵」と作る)、宜しく「燧牛」(身に火炬を縛したる牛)を準備して時機を待ち放出すべし。若し敵人上風に在りて火を放てば、我方もまた火を放ちて隔離帶を燒出す。これを「解火」の法と謂う(敵人我が城門を燒けば、我方火勢の凶猛逼近を怕り、便ち預め門外に柴を堆み先行點燃して燃やし得べき物を燒盡す。もまたこの一類に屬す)。

凡入敵境,郡邑窮匱,城隍頹靡,山川非設險之地而非敵所恃者,則存之。茍拔敵所恃之邑,皆火之,以絕其望焉。敵境之林木筏草,皆火之。故火為兵之大利也。

凡そ敵境に入りて、あれらの郡縣貧困枯竭・城墙壕溝殘破傾頹・山川また據守設險するに足らずして、敵人の倚仗する所に非ざる地方は、保留して焚毀するを要せず。然れども一旦敵人の倚仗する所の城邑を攻下せば、就ち一概に火を放ちて燒掉し、よく彼の卷土重來の指望を斷絶せよ。敵境內の樹林と筏材と爲し得べき草木とも、も一概に燒掉せよ。ゆえに火は用兵の一大の利器なり。

火攻第五十四

月對〈一作在〉東壁、南箕、軫之夕,則設火候風以焚之〈四時亦其火利偏攻〉。以驍騎夜銜枚縛馬口,人負薪及束,カ火直抵敵營。一時舉火,營中驚亂,急而乘之;靜而不動,勿攻。

月亮東方の壁宿・南方の箕宿と軫宿と相對するあの幾箇の夜晚に行到れば(「對」は一本に「在」と作る)、正に風の起こる時なり。火具を備えて風の來るを候ちて敵營を焚燒すべし(一年四季もまた各々火攻に便く偏襲一面の時機あり)。驍勇の騎兵を派して夜裏「銜枚」せしめ、兼ねて馬嘴を扎住し、每人成捆の柴薪を背負し、火種を帶して直ちに敵營に抵る。同時に火を擧ぐるを約定すれば、敵營中必定に驚亂せん。就ち亂に趁りて急攻せよ。若し敵營安靜にして動かざれば、就ち進攻するなかれ。

火獸,以艾溫置瓢中,開四孔,繫野豬、獐、鹿項下,針其尾端,望敵營而縱之,奔走入草內,則火起。火禽,以胡桃空中實艾,開兩口,復合之,繫野雞項下,針其尾而縱之,飛宿於草上,則火發。

「火獸」の做法、陰燃の艾絨を瓢裏に放ち、瓢上に四箇の通氣孔を開き、野猪・獐・鹿の頸下に繫ぎ、針を以てその尾梢を刺し、敵營の方向に對して放走す。野獸草叢に奔り入れば、火就ち燒起せん。「火禽」の做法、胡桃を掏空にして裏面に艾絨を填實し、殼上に兩箇の口を開き、再び合攏し起こして、野雞の頸下に繫ぎ、針を以てその尾巴を刺して放走す。野雞飛落して草上に棲宿せば、火就ち燒起せん。

守城法第五十五

城不守者:大而人少;小而人眾;糧寬而柴水不供;壘薄而攻具不足;土疏地下,溉灌可設;人戶疲悴,修緝未就。凡此類者,速徒之。營壘高厚,城堅溝深,糧食眾多,地利險阻,所謂無守無不守也。故曰:善守者,敵不知其所攻。

守住り得ざる城にこんな幾種あり。城大きくして人少なく、兵力鋪開し得ず。城小さくして人多く、擠下り得ずまた糧を耗すること快し。糧食雖寬裕なるも柴薪飲水供給せず。壁壘單薄にして守御器械足らず。土質疏鬆・地勢低窪にして、敵人水を引きて城を灌ぐを得。民戶疲敝憔悴して、城防修繕未だ完工せず。凡そこの幾類に屬せば、就ち急いで遷走すべし。反って、營壘高厚・城墙堅固・壕溝深闊・糧食充足にして、また險阻の地利を占むれば、あれすなわち謂う所の「守るに無く守らざるに無し」——彼の專ら何處を守るか看出せず、實は處處守住り得べし。ゆえに《孫子兵法・虛實篇》に曰く、善く防守する人は、能く敵人をして何處より進攻すべきかを知らしめず。

築城第五十六

凡築城,下闊與高倍,上闊與下倍。城高五丈,下闊二丈五尺,上闊一丈二尺五寸。高下闊狹,以此為準。料工:上闊下加闊,得三丈七尺五寸;半之,得一丈八尺七寸五分;以高五丈乘之,一尺之城積數〈積數一作利〉得九十三丈七尺五寸。

凡そ城を築くは、底部の寛さは城の高さの一半にして、頂部の寛さはまた底寛の一半なり。城高さ五丈なれば、則ち底寛二丈五尺、頂寛一丈二尺五寸なり。城墙の高低寛窄を論ぜず、皆この比例に照らして準と爲す。工程量を核算する辦法は、頂寛と底寛とを相加して、三丈七尺五寸を得、折半して、一丈八尺七寸五分を得、再び城高五丈を以て乘ずれば、於是乎每一尺の長さの城墙、土方の積數は九十三丈七尺五寸なり(「積數」は一本に「積利」と作る)。

每一工,舊築土二丈,計工約四十七人。一步五尺之城,計役二百三十五人。百步之城,計工二萬三千五百人。三百六〈一作九〉十步,計工八萬四千六百人。率一里,則十里可知也。其出土負簣,並計之於工內矣。城內面,別穿井四所,置水車大甕二十口,灶千所。卻敵臺上建候樓,以跳板出為櫓,與四外烽戍晝夜瞻視,以備警急。

舊例に按ずれば、每一箇の工は土二丈を築き得。ゆえに一尺長さの城墙は約四十七箇の工を需う。一步(五尺に合す)長さの城墙は、役夫二百三十五人を需う。一百步の城墙は、工二萬三千五百人を需う。三百六十步(「六」は一本に「九」と作る)は、工八萬四千六百人を需う。これ一里の用工數にして、十里の用工數はこれに照らして推算すれば即ち知る。土を挖り筐を背負いて土を運ぶ人力は、皆すでに一倂に工數の內に算入す。城內一面に別に水井四口を鑿り、水車と大甕二十口・竈一千座とを配備す。「卻敵臺」(城墙外に突き出たる敵臺)の上に瞭望樓を建て、跳板を以て外に挑出して「櫓」(懸空の觀察臺)に充て、四外の烽火戍所と晝夜相互に瞭望して、以て突發の警情を防備す。

城壕第五十七

鑿壕之法,面闊二丈,深一丈,底闊一丈。以面闊二丈加底闊一丈,積數大半得之,得數一丈五尺。以深一丈乘之,鑿壕一丈,得數一十五丈。每工日出三丈,計工五人。一步五尺,計工二十五人。十步,計工二百五十人。百步,計工二千五百人。三百六十步,計工九千人。率一里,則百里可知也。

城壕を開挖する規格は、壕口寬二丈・深さ一丈・壕底寬一丈なり。壕口寛二丈を以て壕底寛一丈を加え、その一半を取りて、一丈五尺を得。これすなわち平均の寛度なり。再び深さ一丈を以て乘ずれば、則ち每丈の長さの壕溝を挖るに、土方は十五丈なり。每箇の工は每天土三丈を出すを得。ゆえに一丈の壕溝は五箇の工を計す。一步(五尺に合す)は、二十五箇の工を計す。十步は、二百五十箇の工を計す。一百步は、二千五百箇の工を計す。三百六十步は、九千箇の工を計す。これ一里の用工數にして、一百里の用工數はこれに照らして推算すれば即ち知る。

防城第五十八

城上一步〈一作裡〉一甲卒,十步加五人,以備雜供之要。五步有五長,十步有十長,五十步、百步皆有將長。文武相兼,量才授任,而統領精銳驍勇,或十隊,或二十隊,三十隊。大將、副將各〈一作為〉領隊巡城,曉諭激勸赴役。

城墙の上每一步に甲を披ける士卒一名を配し(「步」は一本に「里」と作る)、每十步に再び五人を加派して、以て各種の雜役供應の需要に應付す。每五步に「五長」を設け、每十步に「十長」を設け、五十步・一百步の處に皆統領の將長を設く。人を用うるは文武兼顧し、才を量りて職を授くべし。これらの將長は精銳驍勇の隊伍を統率し、あるいは十隊、あるいは二十隊・三十隊とす。主將と副將と各々隊を領して城防を巡視し、宣諭曉示し守卒を激勵して奮力に役に赴かしむ。

城上分四隊,別立四表以為攻城之候焉。若敵欲攻之處,去城五六十步,即舉一表;撞梯逼城,舉二表;敵若登梯,舉三表;欲攀女墻,舉四表。夜則舉火如表法。

城上は四隊に分かち、別に四種の「表」(信號標)を立てて以て敵人の攻城の進程を通報す。敵人進攻を準備する方位に在りて、城を距ることなお五六十步の時、就ち一表を擧ぐ。撞車・雲梯城下に逼近すれば、二表を擧ぐ。敵人梯に登り始むれば、三表を擧ぐ。將に女牆に攀上せんとすれば、四表を擧ぐ。夜間は則ち火を擧ぐるに改め、火數と擧表の規矩とは同じなり。

城上四隊之間,各〈一作為〉置八旗。若須水摽、枋板,舉蒼旗;須灰炭、銅鐵,舉赤旗;須礧木、樵葦,舉黃旗;須砂石、磚瓦,舉白旗;須水湯不潔之物,舉黑旗;須毛氈、麻䌇、鑠鐵、鍬鑊、斧鑿,舉雙兔旗;須戰士銳卒,舉熊虎旗;須戈戟矢弓刀劍,舉鷙旗。當主之官,隨色而供。城內老少婦女除營食外,皆令應役於城上,分為八隊,使識文字者點檢常旗物與八部也。

城上の四隊の間、各々八面の旗を設けて以て補給を索取する信號と爲す。水標・枋板を需うれば、青旗を擧ぐ。灰炭・銅鐵を需うれば、赤旗を擧ぐ。礌木・柴葦を需うれば、黄旗を擧ぐ。砂石・磚瓦を需うれば、白旗を擧ぐ。滾水と污穢の物とを需うれば(以て攀城の敵兵を澆燙す)、黑旗を擧ぐ。毛氈・麻繩・熔鐵・鍬鑊・斧鑿を需うれば、雙兔旗を擧ぐ。戰士精兵の增援を需うれば、熊虎旗を擧ぐ。戈・戟・箭・弓・刀・劍を需うれば、鷙鳥旗を擧ぐ。各項物資を主管する官員は、旗色に照らして供應す。城內の老少婦女は、炊事供食を負責するを除くの外、皆城上に到りて役に應じ、八隊に編成し、字を識る人を派して各色の旗號の對應する物件を清點核對せしめ、兼ねてこの八箇の部を管束せしむ。

反浸第五十九

我城若居卑下之地,敵人擁水灌城,速築墻壅諸門及陷處。更於城內促為周匝,視水高下狹闊,築墻,外取土高一丈以上。城立,於墻外取土而薄築之。精兵備守,不得容雜色人。

我方の城若し低窪の地に處すれば、敵人水を壅めて城を灌がん。就ち急いで牆を築きて各處の城門と低陷の處とを堵住し、再び城內に急ぎ一道の城を環る圍牆を築き、水位の高低・水面の寛窄に按じて牆の規模を決定し、牆外より土を取りて、牆を一丈以上に築上す。この道の牆立起したる後、仍ほ牆外より土を取り、再び一層の薄牆を貼築して加固す。精兵を派して把守せしめ、閑雜の人等この一帶に進入するを許さず。

如有洩水之處,則十步為一井,井內潛通引洩漏。城中速造船一二十隻,募解舟楫者,載以弓弩鍬釒瞿,每三十人自暗門穴銜枚而出,決其堤堰。敵覺,即急於城上鼓譟,以精銳急出助之。

若し排水し得べき去處を找得せば、就ち每十步を隔てて井一口を鑿り、井下に暗中に打通し、積水を引き出して泄去らしむ。城中一二十隻の船を趕造し、舟を操るを會する人を招募し、弓弩と鍬・钁の一類の挖掘工具とを裝載し、每三十人を一批と爲して暗門の洞口より銜枚して城を出で、敵人の築く所の堤壩を掘開しに往かしむ。敵人一旦察覺せば、城上就ち立刻鼓を擂き呐喊し、兼ねて精銳を派して迅速に城を出でて接應せしむ。

弩臺第六十

高下與城等,去城百步,每臺相去亦如之。下闊四丈,高五丈,上闊二丈。上建女墻,內通暗道,安屈膝梯,人上便卷收之。中設氈幕,置弩手五人,備糧水火。

弩臺の高度は城墙と相等しく、城を距ること一百步、臺と臺との間距もまた一百步なり。臺底寛四丈・高さ五丈・臺頂寛二丈なり。臺頂に女牆を砌り、臺內に暗道を通じ、「屈膝梯」(折叠して收起し得べき軟梯)を架設し、人上去したる後隨卽梯子を卷收す。臺上に氈帳を設け、弩手五人を配し、糧食・飲水と火種とを備足す。

烽火臺第六十一

高山四顧險絕處置之,無山亦於孤回平地置之。築羊馬城,高低便常以三十五為堆。臺高五丈,下闊二丈,上闊一丈,形圓。上建圓屋覆之。屋徑有六尺,一面跳出三尺,以板為之上覆下棧屋。上置突灶三所,臺下亦置三所,並以石灰飾其表裡。

烽火臺は高山上の四面可望・地勢險絶の處に設くるを要す。山なき地方も、また平地上の孤聳して四周開闊回環の處を選んで設置すべし。臺脚の外に一道の「羊馬城」(臺に貼る小護牆)を築き、高低は便用を以て準と爲し、通常三十五の數に按じて堆築す。臺高さ五丈・底寛二丈・頂寛一丈、形狀は圓なり。臺頂に一間の圓屋を蓋して臺面を覆い、屋の径六尺、一面外に向かって三尺挑出し、木板を以て搭成し、上面に頂を覆い下面に棧を鋪く。屋上に三座の「突竈」(煙を出す烟突竈)を設け、臺下にもまた三座を設け、裏外皆石灰を以て塗飾す。

復置柴籠三所,流火繩三條,在臺側近。上下用屈膝梯,上訖收之。屋四壁開睹賊孔及安視火筒。置旗二口,鼓一面,弩兩張,礟石,礨木,停水甕,乾糧,麻熅,火鉆,火箭,蒿艾,狼糞。

臺旁近處に再び三箇の「柴籠」(點燃して後擧げて報警する柴筐)と三條の「流火繩」(延燃して火を傳える火繩)とを設く。臺に上下するは屈膝梯を用い、上去したる後就收め上ぐ。屋子の四壁に敵を窺う孔を開き、兼ねて「視火筒」(鄰臺を對準して火號を觀看する管筒)を安裝す。臺上に旗兩面・鼓一面・弩兩張を配し、また炮石・礌木・水を貯える甕・乾糧、および麻縕(火を引くに用うる麻絨)・火鑽・火箭・蒿艾と狼糞(燃やせば煙を生ず、即ち謂う所の狼煙)あり。

每晨及夜平安,舉一火;聞警覺,舉二火;見煙塵,舉三火。見賊,燒柴籠。如每晨及夜平安,火不來,即烽子為人所捉。一烽六人,五人為烽子,遞知更刻,觀視動靜;一人為烽師,知文書符牒轉遞。

每天清晨と入夜の時平安無事なれば、一炬の火を擧ぐ。警報を聽到すれば、兩炬を擧ぐ。煙塵を望見すれば、三炬を擧ぐ。親眼に敵人を看見すれば、就ち柴籠を燒起す。若し清晨あるいは入夜の平安を報ずべき時候に到りて、鄰臺の火號傳はり來らざれば、あれすなわちあちらの「烽子」すでに敵人に捉え去られたるなり。每一座の烽臺に六箇の人を配す。五人は「烽子」と爲り、輪班に更次の時刻を掌管し動靜を觀察す。一人は「烽師」と爲り、文書符牒の轉遞を掌管す。

望樓第六十二

牙帳前立百尺竿,上置板屋,四面開門,狀如斗。令人上望賊,賊有所攻,隨其方面以小白旗招之。眾賊往來,聚散遠近,皆審而觀之,以告於下。

主將の牙帳の前に一根の百尺高竿を豎立し、竿頂に一間の板屋を安じ、四面に門を開き、形狀一隻の方斗の如し。人を派して上りて敵情を瞭望せしむ。敵人何れの方向より來攻すれば、就ちその方向に向かって小白旗を揮って示警す。敵軍の往來・聚散・遠近の情形は、皆看清楚にして、隨時下面に報告すべし。

馬鋪第六十三

每鋪相去三十里,於要路山谷間牧馬兩匹,設游奕計會。有事警急,煙塵入境,即報探。設土河於山谷口,當賊路橫斷,闊二丈,深二尺,以細沙土填平。每日檢行跡,掃令凈平。人馬入境,即知足跡多少。

馬鋪の間は三十里を相距り、要道と山谷の間に於て兩匹の馬を牧養し、「游奕」(巡邏偵騎)と配合して消息を互通す。一旦有警して敵方の煙塵境內に進入せば、立刻探得の情況を回報す。山谷口に「土河」を修す。敵人の來路を橫斷して一條の壕を挖り、寛二丈・深さ二尺、細沙土を以て填平す。每天その上面の痕迹を檢査し、掃きて乾淨平整ならしむ。かくすればただ人馬の入境あれば、足跡を看て便能に來ること幾何なるかを知らん。

遊奕第六十四

軍中選驍勇諳山川泉井者充之,常與土河、烽、鋪計會交牌。日夕邏候於亭障之外,捉生事問。其軍中虛實體用,勿使游奕人知。其副使子將並用久在軍中行人〈一作善〉騎射者充之。

「游奕」は軍中より驍勇にして山川と泉井の方位とに熟悉の人を挑選して充任す。經常に土河・烽火臺・馬鋪と相互に通報し憑牌を交換す。彼らは晝夜亭障(邊地の哨堡)の外に於て巡邏偵察し、活口を捉えて來りて敵情を審問す。本軍の虛實と部署運用とに至っては、游奕の人に知らしむるなかれ。俘虜せられたる後泄漏するを免れんが爲なり。游奕の副使と子將とは、皆長期に軍中に當差して騎射に善なる人を以て充任すべし(「行人」は一本に「善」と作る)。

守城具第六十五

雜物,守城之時,其什物、五穀、糗糒、魚鹽、布帛、醫藥、工巧戎具、鍛冶、稭稿、茆荻、蘆葦、灰炭、柴薪、松樺、蒿艾、脂臈、麻皮、氈毯、荊棘、篦籬、釜鑊、盆甕、礨木、槌、鑿刀、鋸、長斧、長刀〈一作矛〉、長錐、長梯、短梯、大鉤、連鎖,但人所用之物,一一預備。仍令修緝,不得損壞。

先ず「雜物」を説く。城を守る時候、各種の器用・五穀・乾糧炒米・魚鹽・布帛・醫藥・工匠手藝と兵器・鍛造冶煉の家什・秸秆・茅草荻草・蘆葦・灰炭・柴薪・松木樺木・蒿艾・油脂蠟燭・麻皮・氈毯・荆棘・篦籬(荆柳を編んで成す箭を擋く排)・鍋鑊・盆甕・礌木・槌・鑿刀・鋸・長斧・長刀(「刀」は一本に「矛」と作る)・長錐・長梯・短梯・大鈎・連鎖、凡そ人の用着くる所の東西は、皆一一預め備齊すべし。兼ねて隨時に修補整治して、損壞あるを許さず。

雜備,上八隊之間安轉關小炮〈一作仉〉二,機關大炮一。雲梯撞炮等間。先從城身用木跳出為重女墻,高於土女墻五寸以上,以板覆之,隨事緩急而開閉之。敵若以大石擊墻樓,石下之處,出跳空中,懸生牛皮或氈毯等袋,以乘其石。

更に「雜備」を説く。城上の八隊の間、轉向し得べき小型抛石機兩架・機關を帶びたる大型抛石機一架を安設し、雲梯と撞車とに對付する器具もまた一倂にその間に配置す。先ず城身より木料を以て外に挑出し、第二重の女牆を架成し、原有の土女牆より五寸以上高くし、上面に板を以て遮蓋し、情勢の緩急に隨って隨時に開合す。敵人若し大石を以て牆樓を轟撃せば、就ち落石の位置に於て空中に向かって木架を挑出し、生牛皮あるいは氈毯の做る口袋を懸掛して、以て來る石を兜接し石頭の衝力を卸去す。

城內人家,咸令置水防火,先約〈先一作但〉失火者斬。火發之處,多恐奸人放火,但令近便主當八部官人領老少婦女救之。火起所部,急白大將,大將親領信人、左右救火。城中有卒警及雜人,城上不得輒離職掌,亂走街巷。違者斬之。敵若推輪排來攻,先以手炮打,手炮既眾,所中傷必多。來者被傷,則力不齊矣。

城內各家各戶、皆水を貯えて火を防ぎ、兼ねて預め約定す。火を失するは處斬す(「先」は一本に「但」と作る)。火の起こる地方は、多半奸細の放火なるを疑心うを要す。ただ附近主管の八部官員をして老少婦女を帶領して撲救に往かしむ。火の起こる所在のあの一部は急いで主將に禀報すべし。主將親自可靠の人と左右隨從とを帶して救火に前往す。城中一旦突發の警報あるいは閑雜人の騷動あれば、城上の守卒は擅自に自己の職守を離れ街巻を亂走するを得ず。違う者處斬す。敵人若し「輪排」(輪を帶びたる大盾牆)を推して來攻せば、就ち先ず「手炮」(手に投ぐる石彈・火器)を以て彼を打て。手炮投ぐること多ければ、打中打傷する必定にまた多し。來攻の人一たび傷を受ければ、攻勢の氣力就ち齊整ならず。

懸門,懸板為門也。鐵甘之如棧板,用之懸鐘,板繞城於敵柵上,上皆懸板。受敵之時,則板起發矢。突門,於城中對敵營自鑿內為暗道,多少臨時,入五六寸,力穿。或於中夜,於敵初來營則未定,精騎從突門躍出,擊其不意。塗扇,以泥泥城門,可厚三尺,備火。鑿門,為敵所逼,先自鑿門扇十數孔,出弩射之,長矛剌之,敵且不得近。門棧塗,以泥塗門上大棧,可厚五寸,備火。

「懸門」は、すなわち懸吊する木板を以て門と爲す。板上に鐵を包み、棧板の如く做り、懸鐘の辦法を以てそれを吊起す。此の種の板は城に沿って敵人の柵壘に正對する一段に布置し、上面皆板を懸け、敵を受くる時板を吊起して、就ち下面より箭を射る。「突門」は、城內に於て敵營に對する方向に、內側より暗道を鑿出し、幾條を鑿るかは臨時の需要を視て、先ず五六寸鑿進みて留め置き、用うる時に到りて再び力を以て鑿穿す。あるいは半夜に敵人の剛纔來りて營壘未だ安定せざるに趁り、精銳騎兵突門より躍出して、その不備を攻む。「塗扇」は、泥を以て城門門扇に塗抹し、厚さ三尺に至るを得、以て火を防ぐ。「鑿門」は、敵人に城門下に逼られし時、先ず自家の門扇上に十幾箇の孔を鑿り、孔中より弩を發して彼を射、長矛を以て彼を刺せば、敵人靠近するに法なし。「門棧塗」は、泥を城門上方の大棧板上に塗るにして、厚さ五寸可し、同じく以て火を防ぐ。

篦籬戰格,於女墻上跳出,椽去墻三尺,橫者檢。椽安轄,以荊柳編之,長二尺,闊五尺,懸椽端,以遮矢石。布幔,以復布為幔,用弱竿懸倒於女墻外,去墻七八尺,柔石之勢,則矢石不復近墻矣。連梃,如打禾連枷狀,打女墻外上城人。叉竿,如槍刃,為兩歧,用叉飛梯及人。鉤竿,如槍刃,偏有曲,可以鉤人。

「篦籬戰格」、女牆上に外に向かって椽木を挑出し、椽頭牆を離るること三尺、橫向に木條を以て約束固定し、椽上に銷楔を安好す。籬片は荆條柳條を以て編成し、長さ二尺・寛五尺、椽頭に懸掛して、以て箭矢飛石を遮擋す。「布幔」、雙層の布を以て幔子を做成し、軟竿を拿って倒懸して女牆の外に在り、牆を離るること七八尺、能く飛石の來勢を卸去し、箭矢飛石就ち牆上に打至らず。「連梃」、形狀稻谷を打つ連枷の如く、以て女牆外の正に城を爬る人を抽打す。「叉竿」、形槍刃の如くして兩股に分かれ、以て敵人の飛梯と登梯の人とを叉推す。「鈎竿」、もまた槍刃の如く、一側に彎鈎を帶び、能く敵人を鈎住して下に拽くるを得。

長柄鉤,城上以木為棚,客兵一隊,作長柄鐵鉤,隨安便以為之備。若敵攀女墻踴身,待其身出,眾鉤齊拾,掣入城中,百刀錐斧助之。若敵以木驢攻城,我用鐵蒺藜而入之。其法:以熟鐵為之,闊徑一尺,四條縱橫如蒺藜形,以生鐵汁灌其中央,重五十斤,上安鼻索鎖直下敦訖,以轆轤拗上。若木驢有牛皮並泥,敦著即速放火炬,灌油燒之。

「長柄鈎」、城上木料を以て棚架を搭起し、客軍一隊を派して、長柄の鐵鈎を做成し、處に隨って安放して以て急用に備う。敵人女牆に攀上して身を縱て跳び入らんと欲する時、彼の身體露出するを等ちて、衆鈎一齊に鈎住して提起し、彼を拽きて城裏に入れ、再び刀・錐・斧を以て一齊に招呼す。敵人若し「木驢」(城を挖るを掩護する木架車)を以て城を攻めば、我方就ち大鐵蒺藜を以てそれを砸く。做法は、熟鐵を以て打造し、直径一尺、四條の鐵枝縱橫交叉して蒺藜形を成し、中心に生鐵汁を灌注し、重さ五十斤、頂上に一箇の鼻環を安じて鎖鏈を拴住し、城上より直ちに墜下して砸撃し、砸完りて後再び轆轤を以て絞り上ぐ。木驢上若し牛皮を蒙りてまた泥を敷けば、砸中したる後急いで火炬を投下し油を澆りてそれを燒くべし。

鐵菱,狀似小鐵蒺藜,要路撒之。串環,敵若推撞車攻城,我以粗鐵環,並屋乘子為之,用索相連。遇撞頭適到,我速以環串撞頭,於其次便處,將士牽索則撞車翻倒,弓弩齊射,自然敗走。瞇敵,石炭、糠粃,回風〈一作羅〉於城上以瞇敵人目,因以金汁灑之。轉關橋,一梁為橋梁,端著橫栝。拔去栝〈一作橫〉,橋轉關,人馬不得渡,皆傾水中。

「鐵菱」、形狀小號の鐵蒺藜の如く、要道上に撒きて以て人馬を扎傷す。「串環」、敵人若し撞車を推して來りて城を撞かば、我方粗鐵環を以て屋乘子(承重の木件)に配して做成し、繩索を以て相連ならしむ。撞頭剛纔頂上し來るを等ちて、迅速に鐵環を以て撞頭を套住し、一箇の順手の位置を選び、將士一齊に繩を拽けば、撞車就ち翻倒せん。この時弓弩齊射せば、敵人自然に敗退す。「眯敵」、石炭末と糠秕とを回旋の風に趁りて城上に揚撒し、敵人の眼睛を迷わしむ(「回風」は一本に「羅」と作る)。隨卽再び滾燙の金汁を潑下す。「轉關橋」、一根の梁を以て橋面を作り、梁端に橫插銷を裝す。一たび插銷を拔掉すれば(「栝」は一本に「橫」と作る)、橋面就ち翻轉し、人馬過ぐるを得ず、全て水中に掉進せん。

轉關墻,凡攻城之兵,禦捍矢石,頭戴蠡帽,傾視而不便;衣甲重厚,進退又難;前既不得上城,退則師逼迫,人眾煩鬧。我作轉關女墻,騰出城外,轆轤墜鐵索,索頭安鴟腳,當聚鬧處擲下。撥大木弩,以黃楊、桑、柘為弓,長一丈二尺,中徑七寸,兩梢三寸,絞車張之,大矢一發,聲如雷吼。積木備礨木,徑一尺小,頭六七寸,長五尺,候敵人上城,則擲下礨之。積石備炮石,大小隨身,下從敵人。

「轉關牆」、凡そ城を攻むる兵は、箭矢飛石を抵擋するが爲、頭上に蠡殼形の護帽を戴き、頭を歪めて看るに甚だ不便なり。衣甲また厚くまた重く、進退皆難し。前面上城する能わず、後退すればまた自家の隊伍に逼られ、於是乎人擠りて一團を成し亂哄哄たり。我方就ち轉關女牆を做り、それを翻轉して城外に挑出し、轆轤を以て鐵索を墜下し、索頭に「鴟脚」(鳥爪形の鐵抓)を裝し、人の擠りて堆を成す地方に對準して扔下す。「撥大木弩」、黄楊・桑・柘を以て弓身を做り、弓長一丈二尺、中段直径七寸、兩梢三寸、絞車を以て弦を張り、大箭一發せば、聲雷吼の如し。「積木」は預備の礌木なり。直径一尺、小頭六七寸、長さ五尺、敵人城上に爬上するを等ちて、就ち扔下して砸く。「積石」は預備の炮石なり。大小手に隨って取る可し。城上より投下して敵人を砸撃す。

地探,於城西隅穿井,各深二丈,令覆新甕於井上,坐而聽之,城外賊到,有孔城地道,並聞甕中,辯遠近矣。天井,於城內八方穿井,各深二丈,以新甕薄皮鞔口如鼓,令聰耳者於井中枕甕而聽,則去城五百步悉知之。既審其處,我則隨地鑿穴近之,以乾艾一石,燒令煙出,乃用板於穴下封之,而令煙洩。更以韝鼓之,則敵人焦灼矣。

「地探」、城の西角に井を鑿り、各々深さ二丈、新甕を倒扣して井口の上に在らしめ、人坐して甕に貼して細聽す。城外に敵人の到來有り、あるいは人ありて城を穿つ地道を挖るは、聲響皆甕中に傳入し、還って遠近を辨出し得べし。「天井」、城內八箇の方位に各々一口の井を鑿り、深さ二丈、新甕を以て薄皮を蒙せ鼓面の如く繃緊し、耳朵靈敏の人をして井中に甕を枕にして聽かしめば、城外五百步以內の動靜就ち全能に察覺す。すでに敵人の地道を挖る所在を探明せば、我方近くに一箇の坑穴を鑿りてその旁に通じ、乾艾一石を取りて點燃して煙を出さしめ、再び木板を以て穴口の下方を封住し、煙を逼めてただ敵道の裏に往かしめ、然る後「鞲」(皮の風囊)を以て風を鼓して煙を送れば、敵人就ち熏灼せられて受け得住ざらん。

警火,每城四面,夜間設有警火。油囊,盛水,於城上擲安火上,囊敗火滅。救火,用水筒。敵若縱火焚樓堞,以甕竹長一丈,鎪去節,以生薄皮為袋,令貯水二、三石,將筒納於袋內,急縛如唧筒,令將士三五人撮水口,急註之救火。每門常置兩具。無竹,即以木合筒,漆之而用。井水踐筒二十〈一作百〉具助之,門內常以甕貯。

「警火」、城の四面夜間皆報警の火を設くべし。「油囊」、囊中に水を盛り、城上より火の起こる處に扔到すれば、囊一破れて水就ち淌出して火を澆滅す。「救火」は水筒を用う。敵人若し火を放ちて城樓城垛を燒かば、就ち長さ一丈の大竹を取り、中間の竹節を通掉し、生薄皮を以て水袋を做成し、水二三石を貯え得べく、竹筒を袋裏に插進して緊緊に扎住し、一具の「唧筒」(水を壓する噴筒)を做成す。三五名の將士を叫びて一齊に袋口を擠壓せしめ、急速に水を噴きて火を救う。每座の城門常に兩具を備う。大竹なければ、就ち木條を以て拼合して筒と爲し、漆を上げて後使用す。別に井の水を汲取する「踐筒」二十具を配して救火を協助す(「二十」は一本に「二百」と作る)。城門內に常に大甕を以て水を貯滿して備用す。

火炬,用燕尾炬縛葦草為炬,分為兩歧,如燕尾狀,以油蠟灌之,加火縱墜城下,使騎木驢而燒之。松明炬,以松木為之,燒令明,直墜下隨城照之,恐敵人乘暗上城。脂油燭炬,燃脂秉燭於城四隅、要路門下,晨夜不得絕明,用備非常。行轤,熔鐵汁轤,舁行於城上以灑敵。遊火,鐵箱盛火加脂蠟,鏁錘下,燒穴孔中人。毒井,守城之時,城外有井先沈以毒藥。

「火炬」、謂う所の燕尾炬は、葦草を捆成して火炬と爲し、前端兩叉に分かち、形狀燕子の尾巴の如く、油と蠟とを澆り、點着して後城上より放墜せしめ、專らあれらの木驢上に騎りて作業する敵兵を燒く。「松明炬」、松木を以て做成し、點燃して後光焰明亮にして、筆直に墜下して城身に貼して照明し、敵人の黑に趁りて城を爬るを防備す。「脂油燭炬」、城の四角と要道の門下とに油脂蠟燭を點起し、早より夜に至るまで亮光を斷ずるを許さず、以て意外に應付す。「行轆」、熔鐵汁を裝むる轆轤にして、人に抬がれて城上を巡行し、以て敵人に澆潑す。「游火」、鐵箱裏に火を盛りて再び油脂蠟を添え、鎖鏈を以て墜下し、洞穴孔道裏に鑽る敵人を燒灼す。「毒井」、城を守る時候、城外原有の水井は預め毒藥を投下すべし。

陷馬坑,孔長五尺,闊一丈,深三尺。坑中埋鹿槍、竹戟,沈〈一作坑〉十字相連,狀如鉤鏁,覆以芻草、茆禾,加土種草,令生苗蒙覆其上。軍城、礨壁、要路皆設之。拒馬槍,以木徑二尺,長短隨時,十字鑿孔,縱橫安栝,長一丈,銳其端,可用塞城門,要路。木柵,為敵所逼,不及築城礨,或因山河險隘,多石少土,不任板築,則建立木為棚,方圓高下隨時。深埋木棍,彌縫其疏闊。內重柱為閣道,外重柱長出女墻,皆入泥七八寸。又立閣道,內柱上布板為棧,立闌干,行於柵上懸門。擁墻、濠塹、拒馬,一如守城法。

「陷馬坑」、坑口長さ五尺・寛一丈・深さ三尺、坑中に鹿角槍と竹戟とを埋插し、一處處交錯して十字に相連なり(「沈」は一本に「坑」と作る)、形狀連環の鈎鎖の如し。上面に乾草茅秆を覆蓋し、再び土を加えて草を種し、草をして苗を長出して坑面を遮蔽せしむ。軍城・壘壁と要道の旁と皆布設すべし。「拒馬槍」、直径二尺の木料を取り、長短臨時に決定し、十字孔を鑿成し、縱橫に一丈長さの木栝を插上し、端頭を削尖せば、以て城門と要道とを堵塞し得べし。「木柵」、敵人に逼近せられ、城壘を築くに及ばず、あるいは山河險隘の處多く石ありて土少なく版築して牆を夯る能わざるが爲に、就ち木料を豎立して柵棚を搭成し、方圓高低臨時に決定す。木樁は深く埋むるを要し、稀疏漏縫の處は塞嚴を要す。裏面一重の柱子は閣道を架成し、外面一重の柱子は女牆より高出し、柱脚皆土に入ること七八寸を要す。再び閣道を立て、內柱上に板を鋪きて棧を成し、欄杆を裝し、人柵上に通行し得べく、兼ねて懸門を設く。擁牆・壕塹・拒馬これらの配套に至っては、一概に城を守る成法に照らして辦理す。

攻城具第六十六

轒轀車,四輪車,上以繩為脊,犀革蒙之,下可藏十人。填隍推之,直抵城下,可以攻掘,金、木、水、火、石所〈一作俱〉不能敗。

「轒辒車」は一種の四輪車にして、車頂繩索を以て脊梁を編成し、外面に犀牛皮を蒙り、車下に十箇の人を藏し得べし。先ず護城壕を填平し、再び車を推して前進し、直ちに城墙脚の下に抵り、人車下に於て牆を鑿り洞を挖る。金・木・水・火・石の各種の手段皆それを損壞する能わず(「所」は一本に「俱」と作る)。

飛雲梯,一大木為床,床下置六輪,上立雙牙,牙有栝,梯長一丈二尺,有四桄,桄相去三尺,勢微曲遞相栝。飛於雲間,以窺城中。其上城,首冠雙轆轤,枕城而上。

「飛雲梯」、一根の大木を以て底架を做り、架下に六箇の輪子を裝し、架上に兩根の牙柱を立て、牙柱上に插銷を裝す。梯長一丈二尺、四根の橫檔を裝し、檔と檔と相距ること三尺、梯身略々彎勢を帶び、一節一節插銷を以て接續加長す。梯擧げて高きこと雲間に飛ぶが如く、以て城中を窺看す。それを以て城に登る時、梯首に兩隻の轆轤を裝し、城墙上に搭靠して勢に順って攀登す。

炮車,以大木為床,床下安四輪,上建雙陛,陛間橫栝,中立獨竿,竿首如桔橰狀。其竿高下、長短、大小,以城為準。竿首以窠盛石,大小多少,隨竿力所制。人挽其端而投之。其車推輪,逐便而用之,亦可埋腳著地而用之。其旋風四腳,亦隨事而用。

「炮車」、即ち抛石機の車なり。大木を以て底架を做り、架下に四箇の輪子を安じ、架上に兩根の立柱を豎て、柱間に軸銷を橫穿し、當中に一根の獨竿を立て、竿頭形狀水を汲む桔槔の如し。竿の高低・長短・粗細は、皆攻むる所の城墙の高度を以て準と爲す。竿頭「窠」(皮兜)を以て石彈を盛り、石彈の大小と多少とは、竿の承力を看て定む。人に竿の另一端を拉住せしめて猛拽して、石を抛り出す。此の種の車は輪を推して走り、何處に到るも取りて用うるに便し。もまた架脚を地裏に埋進して固定して用いるを得。「旋風炮」のあの種の四脚の架子に至っては、同じく情況を看て取用す。

車弩,為軸轉車,車上定十四石弩弓,以鐵鉤繩連軸,車行軸轉,引弩弓持滿弦掛牙上。弩為七衢,中衢大箭一,鏃刃長七寸廣五寸,簳長三尺圍五寸,以鐵葉為羽。左、右各三箭,次小於中箭。其牙一發,諸箭皆起,及七百步,所中城壘罔〈一作無〉不崩潰ソ櫓以便顛墜。

「車弩」、能く軸を絞りて轉動する車を做成し、車上に一張の十四石力の弩弓を固定し、鐵鈎繩を以て絞軸に連ねる。車を推して行進せば軸轉を帶動し、就ち弩弦を引滿し弩牙に掛く。弩上に七道の箭槽を開く。正中の一道に大箭一支を放ち、箭鏃刃長さ七寸・寛五寸、箭杆長さ三尺・圍五寸、鐵片を以て箭羽を做る。左右各々三支を放ち、依次に中箭より小さし。弩牙一發すれば、各箭齊飛し、射程七百步に達し得べし。射中する所の城墙壁壘崩さざるなし(「罔」は一本に「无」と作る)、城上の櫓樓に連なりても之に隨って傾墜す。

尖頭木驢,以木為脊,長一丈,徑一尺五寸,下安六腳。下闊而上尖,頭高七尺,內可容六人,用濕牛皮蒙之。蔽人其下,共舁至敵城下,木、石、鐵、火皆不能敗,用攻其城。

「尖頭木驢」、木料を以て脊梁を做り、長さ一丈・直径一尺五寸、下面に六條の腿を安ず。整體下寛上尖、前頭高さ七尺、裏面六人を容れ得べく、外面に濕牛皮を蒙る。人その下に躲れて遮蔽と爲し、一齊に抬して走りて敵城の脚下に到る。木・石・鐵・火皆それを損壞する能わず。それに靠りて掩護して往きて城墙を鑿攻す。

土山,於城外起土為山,乘城而上。地道,鑿地為道,行於城下,因以攻城。往往建柱,積薪於柱,閑而焚之,柱折而城崩。

「土山」、城外に土を堆して山を成し、それを借りて高に居り城に臨みて攻上る。「地道」、地下に向かって坑道を開鑿し、城墙の底下に通じ、此を借りて城を攻む。城基の下に挖到れば、往往にして先ず木柱を立てて城基を頂住し、再び柴薪を柱旁に堆み、一段を隔てて點火焚燒し、柱子一斷すれば、城墙就ち塌陷し下る。

板屋,以八輪車,上樹高竿,竿下安轆轤,以繩挽板屋,上竿首以窺城中。板屋方四尺,高五尺,有十二孔,四面列布。車可進退,圍城而行,於營中遠望,謂之巢車,言如鳥巢也。木幔,以板為幔,立桔橰於四輪車上,懸帳逼城其間,使し卒蔽之,蟻附而上,矢石亦不能及。

「板屋」、八輪車を用い、車上に高竿を豎起し、竿下に轆轤を裝し、繩を以て一間の板屋を竿頂に絞吊す。人その裏面に於て城中を窺看す。板屋見方四尺・高さ五尺、四壁共に十二箇の孔洞を開く。車進む可く退く可く、城を繞りて行き、もまた營中に於て遠望し得べし。これを「巢車」と謂う。それが竿上に懸かる鳥巢の如きを説くなり。「木幔」、木板を以て遮幔を做成し、四輪車上に桔槔式の吊杆を立起し、遮幔を懸吊して城墙に逼近せしめ、士卒幔後に掩蔽し、螞蟻の如く攀附して城に登り、箭矢飛石もまた彼らを傷る能わず。

發火箭,以小瓢盛油灌矢端,射城樓櫓板木上,瓢敗油散,因以火箭射油散處,火立燃,復以油瓢續之,則樓櫓盡焚。

「發火箭」、小瓢を以て油を盛りて箭頭上に縛し、城樓・櫓棚の木板上に射到れば、瓢一破れて油就ち濺開し、隨卽火箭を以て濺油の處に射向せば、火立刻燒起し、再び相連ねて油瓢を射て油を續けば、城樓櫓棚就ち全く燒光せん。

雀杏,磨杏子中空,以艾實之,繫雀足上,加火,於薄莫群飛入城壘中棲宿,其積聚廬舍須臾火發。蜀鐵釒瞿鋤,蜀釒瞿短柄,著鋼鐵鏨,以鋤其城。

「雀杏」、杏核を磨空にして、裏面に艾絨を填實し、麻雀の脚上に繫ぎ、火を點着し、傍晚に趁りて放出す。雀群城中營壘裏に飛進みて棲宿せば、敵人の囤積する物資と房舍とは頃刻に就ち着火せん。「蜀鐵钁鋤」、蜀地樣式の钁にして、短柄にして鋼鐵の鑿刃を裝し、以て城墙を刨鑿す。

將軍炮,置四柱,長短為之,其下四面著橫栝,半之則前及左右著栝後,其下著其頂上,左右亦頂轉輪致卒其竿,隨其架所宜為之。其ㄌ索之類,隨其炮大小增減。竿稍懸其繩置窠,中盛炮,其架編全竹為衣,以禦敵矢石。

「將軍炮」、四根の柱子を立て、柱の長短需要に依って定め、柱脚四面に橫向の栝木を裝して相連ならしめ、一半は前面と左右とに裝し、另一半は後面に裝す。下部と頂部と相接する處、左右の頂端にもまた轉輪を裝して以て抛竿を承接す。一切皆架子の實際の情形に按じて制作す。用うる所の纜繩の一類は、炮の大小に隨って增減す。抛竿の梢端に繩を繫げて兼ねて「窠」(皮兜)を掛け、窠中に石彈を盛放す。炮架の外面は整根の竹子を以て護衣を編成し、以て敵人の箭矢飛石を擋く。

狗蹲炮,前置兩長柱,中著橫竿,如前炮狀,與衣亦然。旋風炮,左右著二方木,亦如之鑿一孔通貫下柱,左右前後皆可運轉,埋之於地,其頂轉輪著竿如前狀。此炮不用衣。

「狗蹲炮」、前面に兩根の長柱を立て、中間に橫竿を架し、形制前の一種の炮と相同じく、護衣もまた一樣なり。「旋風炮」、左右に兩根の方木を裝し、同じく木上に一箇の孔を鑿りて下面の立柱に貫通す。ゆえに前後左右皆轉動し得べし。柱脚を地裏に埋進し、頂上に轉輪を裝して抛竿を承接するは、前面に説く所と同じ。此の一種の炮は護衣を用いず。

地聽第六十七

令少睡者枕空葫蘆臥,有人行,四十里外,東西南北皆知之。

睡眠淺く驚醒し易き士卒を挑選し、彼をして掏空せる葫蘆を枕にして地に貼して臥せしむ。葫蘆の空腔は能く地下より傳來する震動を聚攏放大し、ただ人馬の行走あれば、四十里以外の動靜皆聽き出すを得、兼ねて東・西・南・北の何れの一面より來るかも分辨し清らかにし得べし。これすなわち軍中の敵情を偵察するに用うる所の「地聽」の法なり。

失道第六十八

夜失道,以北斗建為正,以四時定之,然後知四方之路矣。如本路,則放老馬以從之。

夜間行軍道路を迷失すれば、就ち北斗七星の斗柄の指す方向(即ち「斗建」)を以て方位を校正し、再び四季の中の斗柄指向の節令に隨って移轉する規律に參照して推定を加うれば、かくして東西南北の四方の道路皆辨明し得べし。若し走る所のもとより來る時の舊路なれば、則ち途を識る老馬を放ちて前に在らしめ、隊伍をしてそれに跟隨して走らしむべし。

旗幟第六十九

旗幟者,軍中之標表也。以門旗為首,竿上置金銅珠,大纛深紅八幅,樹大將牙帳前,鼓坐其下,五方旗各按方面。將有事旗戰陣,大將齋戒,潔心凈服,俟天清星皎,中營立壇,率諸將校宣祝文,隨方面祭之。

旗幟は、全軍の身份を標示し號令を傳遞するに用うる標記なり。衆旗は「門旗」を以て首と爲し、旗竿頂端に金銅の寶珠を安裝す。「大纛」は深紅色の繒帛八幅を以て縫成し、主將の牙帳の前に豎立し、戰鼓就ち纛下に安設す。青・赤・黄・白・黑の「五方旗」は各々自己の代表する方位に按じて陳列す。將に旗を以て列陣作戰を指揮せんとする前に、主將先ず齋戒を行い、心思を澄淨にし潔淨の衣服に換え、天色清朗・星光皎潔の時候を等ちて、中軍大營に祭壇を築起し、各級の將校を率領して祝文を宣讀し、各旗の主る所の方位に依照して分別に致祭す。

大將之行,先以五色旗導引之。沖向方位:甲乙日青旗,丙丁日紅旗,戊己日黃旗,庚辛日白旗,壬癸日黑旗〈五方旗所向在後〉。或前後林藪險隘,下斧釒瞿斫伐開道,舉青旗。前有山峽高峰深溪,無避賊寇處,復風火相逼,即抽兵要逐風燒草以避賊,舉紅旗。前遇敵列陣,即排列輜重,引兵結陣,擇高勝地守隘以拒賊,舉白旗。前值山川地濡卑濕,溪澗不平,舉皂旗。前平原大澤,無他患害,舉黃旗。

主將出行するは、先ず五色旗を以て前に引導す。衝る所の方位は當日の天干の屬する五行に按じて旗色を決定す。甲・乙日は青旗を擧げ、丙・丁日は紅旗を擧げ、戊・己日は黄旗を擧げ、庚・辛日は白旗を擧げ、壬・癸日は黑旗を擧ぐ(五方旗各自の指す方位は別に後文を見よ)。行進の途中、若し前後皆密林荒藪にして道路險狹にして、斧・钁を動用して砍伐開道するを需うれば、就ち青旗を擧ぐ。若し前方山峽高峰・深溪絶谷にして敵寇を躲避する處なく、また風の火勢を助けて逼近するに遇い、必ず兵力を抽調して風に順って野草を燒掉して以て敵人を躲开せざるを得ざれば、就ち紅旗を擧ぐ。若し前方敵軍の列陣に遇上し、須く輜重を收攏排列し兵を帶して戰陣を結成し高處險要の地を搶占して隘口を扼守して以て敵人を抗擊すべければ、就ち白旗を擧ぐ。若し前方山川低窪潮濕・溪澗起伏不平なれば、就ち皂旗(黑旗)を擧ぐ。若し前方平原大澤にして別の禍患妨害なければ、就ち黄旗を擧ぐ。

五色牙帳旗,隨天地〈一作氣〉四時雲色舉之。見青雲舉青旗,他皆同此。厭土以青旗,厭火以皂旗,厭金以紅旗,厭水以黃旗,厭木以白旗。厭旌旗之上,文以熊虎者,象其猛也;文以鵾鷄者,象其鬥也;文以日月星辰者,法天文也;文以鬼神雲氣者,如其變也。

牙帳前の五色旗は、天地(一本に「氣」と作る)四時の雲氣の顏色に順って擧ぐるを要す。青雲を望見すれば就ち青旗を擧げ、其餘各色皆この類に照らして推す。旗色を以て五行の氣を壓勝する時は則ち相剋の義を取る。土氣を鎭壓するは青旗を用い(木は土を剋す)、火氣を鎭壓するは皂旗を用い(水は火を剋す)、金氣を鎭壓するは紅旗を用い(火は金を剋す)、水氣を鎭壓するは黄旗を用い(土は水を剋す)、木氣を鎭壓するは白旗を用う(金は木を剋す)。旌旗上の紋飾に至っては、熊・虎を畫くは、その勇猛を取るなり。鵾雞を畫くは、その善く鬥うを取るなり。日・月・星辰を畫くは、天象を效法するなり。鬼神・雲氣を畫くは、變化測り難く神鬼知り難きを象徵す。

坐罪人於白旗之下,殺之於黑纛之下也。初得敵人,刳其心以祭旗,塗其血以釁鼓。為我之號者,隨我所主焉。故《春秋傳》曰:晝施旌旗以威其目,夜施火鼓以威其心。是故旗幟之用,大軍之本也。

罪人を審斷するは、彼をして白旗の下に跪坐して判を聽かしむるを要す。罪人を處決するは、則ち黑纛の下に於て刑を行う。初次に敵人を擒獲せば、就ちその心を剖取して以て旗を祭り、血を戰鼓上に塗りて以て「釁鼓」の禮を行う。凡そ我方號令標志と爲る旗幟は、皆我方主將の用意に隨って變換使用す。ゆえに《春秋傳》(即ち《左傳》)に曰く、白日旌旗を張設するは、形色を以て敵人の眼目を震懾するなり。夜裏火光と鼓聲とを施用するは、聲光を以て敵人の心志を震懾するなり。これに由りて知るべし、旗幟の運用は、實に大軍を統率する根本なり。

大將旗鼓第七十

纛六口,槍二根,以豹尾為,居門旗後。前五方旗,隨所六纛在,營亦在纛後。嚴敬鼓一十二面,居大將前。左右列六纛,下用一十二具旗鼓,前列代金旗隊二百五十口,尚色圖禽,與諸隊同。每一旗五幡,認旗二百五十口,尚色圖禽,與諸隊不同。各因為認,出居隊後,恐卒伍交錯。

主將の旗鼓儀仗は、大纛六面・長槍二根、槍上に豹尾を繫げて飾と爲し(原文「爲」の下疑いに一「飾」の字を脱せん)、門旗の後に列す。前面の五方旗は、六面の大纛の所在の位置に隨って擺布す。營を扎する時、五方旗もまた同じく纛後に列す。「嚴敬鼓」十二面、主將の座前に設く。左右に分列して六面の大纛あり、纛下に十二副の旗鼓を配備す。前面に排列する「代金旗」二百五十面は、旗色は本隊の尚う所の色に依り、旗面は本隊の所屬の禽鳥を畫き、各隊の樣式一律相同じし。每一面の旗は五條の幡を帶ぶ。別に「認旗」二百五十面あり、同じく顏色と禽鳥圖形とを講究するも、各隊互いに相同じからず。それは正に各隊の自我辨認の記號にして、出戰の時本隊の後に列す。爲す所は士卒行伍の彼此錯雜混亂を防止するなり。

陣將旗鼓第七十一

門旗不得用紅色,嫌亂。大將鼓一百二十五面,恐疑驚敵人用之。甲五分,七千五百領。戰袍四分,五千領。槍十分,一萬二千五百根,縛〈一作傅〉筏。牛肋脾二分,二千五百面;馬軍以圍伐牌一伐,分支。

陣中の門旗は紅色を用うるを許さず。主將の深紅の大纛と相混じて號令錯亂を致さんを怕るればなり。主將戰鼓一百二十五面は、迷惑・驚嚇せんと要する敵人の時に留待して擂動す。全陣一萬二千五百人の裝備配比は、铠甲十分之五を占め、共に七千五百領。戰袍十分之四を占め、共に五千領。長槍十成を占め、人手一枝、共に一萬二千五百根、別に縛扎用の筏を配す(「縛」は一本に「傅」と作る)。牛肋脾——即ち牛皮を蒙制したる護身の大牌——十分之二を占め、共に二千五百面。騎兵は則ち改めて環身遮護に便き伐牌を用い、隊に按じて分批に支領す。

弩二分〈弦三付〉,兵一分,二千五百張。弩七千五百條,弦二十五萬只。箭弓十分〈弦三付〉,矢二十六萬只,一萬三千五百糧,弓二萬七千五百條,弦三十七萬五千。射甲、箭、弓、袋、胡祿並張弓袋,並十分,一萬三千五百副。佩刀八分,一萬口。陌刀二分,三千五百口。二分,三千五百條。馬軍及陌刀,並付以錘鉞斧〈一作為〉四支。

弩十分之二を占め(每張弦三副を配す)、弩を執る士卒十分之一を占め、共に二千五百張。弩弦七千五百條、弩箭二十五萬支。弓十成を占め(每張もまた弦三副を配す)、箭二十六萬支、別に一萬三千五百份の口糧を備え、弓二萬七千五百張、弓弦三十七萬五千條。甲を射るに用うる箭・弓および箭袋・胡祿(箭を盛る箭箙)連なり張弓袋は、皆十成に按じて配備し、共に一萬三千五百副。佩刀十分之八を占め、共に一萬口。陌刀(步戰に用うる長柄の大刀)十分之二を占め、共に三千五百口。別に一項十分之二を占め共に三千五百條の器械あり(原文此處器名を脱す)。騎兵と陌刀を執る士卒とは、一倂に錘・鉞・斧等の四件の兵器を配發す(「斧」は一本に「爲」と作る)。

金鼓第七十二

《周禮》六鼓,樂人掌教六鼓,以節樂和軍旅。一曰銅鼓,二曰鐃鼓。凡在軍中,金之制有四。《司馬法》曰:卒長執鐃,兩司馬長執鐸,進軍鳴鐸,退軍鳴鐃。大戰之時,擊鼓以進,擊金以退〈一作止〉。

《周禮》に「六鼓」の制を載せ、樂人に由って管教してこの六種の鼓法を習わしめ、以て樂舞を節制し軍旅の進退を協調す。第一種を銅鼓と謂い、第二種を鐃鼓と謂う。凡そ軍中に使用する金屬の節器は共に四類あり。《司馬法》に曰く、卒長手に鐃を執り、兩司馬の長手に鐸を執る。軍を進むる時鐸を鳴らし、軍を退くる時鐃を鳴らす。大戰の際、鼓を擊つは前進を表示し、金を鳴らすは後退を表示す(「退」は一本に「止」と作る、即ち停止)。

三曰■,《周禮》曰:以金■和鼓。四曰鐲,以節鼓。鄭玄曰:鐲,鉦也,軍行鳴之,以節鼓也。五曰鐸,《周禮》曰:以金鐸通鼓。鐸,鈴也。刁斗,按《黃帝大傳》曰:與■尤戰,擊之以警夜也。六曰鉦,《樂志》曰:鉦形如半鐘,旁有小柄,樂師持之以和樂節制。鉦者,進退用之,有征之義也。

第三種、原文の此の字殘缺す。《周禮・地官・鼓人》に據れば當に「錞」(金錞)なり。《周禮》に曰く、金錞を以て鼓聲に應和す。第四種を「鐲」と謂い、以て鼓點を節制す。鄭玄注に曰く、鐲は即ち鉦にして、行軍の時敲響し、以て鼓聲の疾徐を節制す。第五種を「鐸」と謂い、《周禮》に曰く、金鐸を以て鼓令を傳通す。鐸は、舌有る大鈴なり。「刁斗」に至っては、《黄帝大傳》の記載に據れば、黄帝と蚩尤(「蚩」の字原文殘缺)と交戰する時用う所にして、夜間それを敲擊して以て警戒報更す。第六種を「鉦」と謂い、《樂志》に曰く、鉦の形狀半隻の鐘の如く、旁に小柄あり、樂師手持して以て樂曲の節奏を協調す。軍中鉦を用うるは、專ら進退を號令するが爲、取る所は「征伐」のこの一層の意思なり。

蠡角第七十三

黃帝戰蚩尤,吹角,長六尺,聲甚嗚。後有涿鹿之敗,帝問曰:所吹何物?蚩尤曰:角也,吹之則風霧俱集。後以六尺曰角,五尺曰蠡。

相傳う黄帝と蚩尤と交戰する時角を吹き、角長さ六尺、聲音十分に低沉呜咽せり。後來蚩尤涿鹿の戰に於て敗北し、黄帝彼に問うて曰く、汝先前の吹く所は何の東西ぞや。蚩尤答えて曰く、あれは角にして、一たびそれを吹響せば、風と霧と就ち皆聚攏し過來す。後世於是乎六尺長さの號器を「角」と叫作し、五尺長さのを「蠡」と叫作す。

近世列陣,金鼓之外,餘無他聲號。或陣形長為山谷所掩映,慮不能照,宜於陣兩稍為蠡角〈隨牌大小增之〉。值敵攻稍,則吹之為號,中軍吹而應焉。

近世陣を布くに、鳴金擊鼓を除くの外、再び別の聲音號令なし。若し陣形拉し長くして、中間また山谷に遮擋せられ、號令の照應到らざるを担心せば、就當に陣の左右兩「梢」(兩端)に蠡と角とを配置すべし(數量は所屬の牌隊の大小に隨って增減す)。一旦敵人某の一端を攻打すれば、あの一端就ち蠡角を吹いて報警して號と爲し、中軍聽見して後もまた角を吹いて回應し、すでに知曉しかつ將に接應せんとするを表示す。

鼓角第七十四

鼓角者,大將之威德。十萬兵已上,大角二十四具,大鼓六十四面;五萬兵已上,大角一十六具,大鼓四十二面;三萬兵已上,大角八具,大鼓二十四面;一萬兵已上,大角六具,大鼓一十四面。或深入敵境,欲敵人畏,謂我師旅大盛,但多著之,不用此法也。

鼓と角とは、主將の威嚴を彰顯する器物なり。兵を統べること十萬以上は、大角二十四具・大鼓六十四面を配す。五萬以上は、大角十六具・大鼓四十二面を配す。三萬以上は、大角八具・大鼓二十四面を配す。一萬以上は、大角六具・大鼓十四面を配す。若し是れ敵境に深入して作戰して、敵人をして心に畏懼を生じ我軍の兵力極めて雄厚と誤以爲せしめんと欲せば、則ち儘量に多く鼓角を設け、必ずしも上面のこの套の定額を拘守するを要せず。

動鼓角之時,日沒前二刻先吹小角,次吹大角,一會十六聲,三會計四十八聲,為一曲畢。暮擊鼓,三會間,第一會五十六聲六疊一間。三間畢,吹大角一十六聲,引第二會鼓五十六聲六疊一間。三間畢,發鉦一百五十聲畢,軍門掣鎖,諸將各按部靜,吏士無敢喧嘩,傳刁斗,報更漏,謹巡警。

鼓角を起動する程序は、日落前二刻に先ず小角を吹き、續いて大角を吹き、一會十六聲を吹き、三會共に四十八聲、一曲を吹畢ると爲す。入暮の時鼓を擊ち、三會に分かちて進行す。第一會五十六聲を敲き、每六疊を一間歇と爲す。三箇の間歇敲完れば、大角十六聲を吹き、第二會の鼓を引出し、同じく五十六聲・六疊一間歇。三箇の間歇また完れば、便ち鉦を一百五十聲鳴らす。鉦聲一停すれば、軍營大門就ち鎖を落とし、各將領本部に按じて隊伍を約束して安靜ならしめ、官兵喧譁するを許さず。此の後刁斗を傳遞し更漏の時刻を報告し、巡夜警戒を嚴加す。

晚起角在四更二點,吹小角畢〈一作吹〉,四更三點過吹大角,引第一會鼓四十五聲六疊一間,三間畢吹〈一作叫〉。四更四點過吹大角,引第二會鼓四十五聲六疊一間,三間畢吹〈一作叫〉。四更五點過吹大角,引第三會鼓四十五聲六疊一間,三間畢叫。五更一點過吹泊,五更四點轉鼓,至天曉一十八轉叫,五更五點過擊鉦一百五十聲。絕聲,擊鼓三百。聲絕,軍門鎖開,大將軍嚴裝坐牙帳之上,引諸將以次朝。

拂曉の起營角は四更二點に吹起す。先ず小角を吹完し(「畢」は一本に「吹」と作る)、四更三點過ぐる後大角を吹き、第一會の鼓四十五聲・六疊一間歇を引出し、三箇の間歇完畢して再び角を吹く(「吹」は一本に「叫」と作る、即ち呼號)。四更四點過ぐる後再び大角を吹き、第二會の鼓四十五聲・六疊一間歇を引出し、三箇の間歇完畢してまた吹く。四更五點過ぐる後再び大角を吹き、第三會の鼓四十五聲・六疊一間歇を引出し、三箇の間歇完畢すれば就ち呼號す。五更一點過ぐる後「泊」を吹いて聲を收め、五更四點に轉鼓を起こし、天亮に到るまで共に十八轉を轉じて兼ねて呼號し、五更五點過ぐる後鉦を一百五十聲鳴らす。鉦聲斷絶し、續いて鼓を三百下擊つ。鼓聲一停すれば、軍門鎖を開き、大將軍全副戎裝にして牙帳の上に端坐し、衆將を引導して依次に前來參見せしむ。

漏法第七十五

木櫃一枚,八角,高二尺四寸,闊二尺三寸。雜色,裝畫金銅環紉及蓋水匱三片,共闊二尺四寸,厚一寸五分,布黑漆。貯水生銅釒瞿一口,闊一尺九寸,深一尺五寸,重七十斤。金銅引水龍一條,長二尺六寸。前腳踏虛雲朵一枝,重二十斤。龍腹中熟銅飲水渴烏一條,內空長四尺八寸,圍一寸五分。

軍中の刻漏(計時の水鐘)の構件は次の如し。木櫃一具、八角形を作り、高さ二尺四寸・寛二尺三寸、通體に雜色彩繪を施し、鎏金の銅環鈕を裝配す。水匱を覆蓋する木板三片、合寛二尺四寸・厚さ一寸五分、遍く黑漆を塗る。水を貯えるに用うる生銅の钁形の大器一口、寛一尺九寸・深さ一尺五寸・重さ七十斤。鎏金銅製の引水の龍一條、長さ二尺六寸。龍の前脚は一朵の騰空の雲朵の上に踏み、雲朵一枝重さ二十斤。龍腹中に熟銅製の虹吸管「渇烏」一條を裝し、管內中空、長さ四尺八寸・周長一寸五分。水は即ちそれに靠りて高處より虹吸して下注するなり。

力士柱二枚,各長六尺,圍一尺二寸五分。並腳下卷荷坐水離獅子四個裝褫盡,力士柱頭鍍金寶珠二枚。及鐵涉一鬆〈一作枚〉,闊二寸五分,長三尺六寸。金銅釘鉸水秤一梁,身長五尺六寸,徑一寸五分。金銅環連鎖,長一尺四寸。金銅象錘一枚,連鎖九寸,共重七斤半〈一作平〉。

力士形の立柱二根、各々長さ六尺・周長一尺二寸五分。柱脚下に卷荷の承座と踞水の獅子四隻とを配し、裝飾俱全なり。力士柱頂に各々鎏金寶珠一枚を安じ、共に二枚。別に鐵製の踏板一枚あり(「松」は一本に「枚」と作る)、寛二寸五分・長さ三尺六寸。鎏金銅釘鉸接の「水秤」橫梁一根、梁身長さ五尺六寸・直径一寸五分。鎏金銅環連接の鏈條、長さ一尺四寸。鎏金銅鑄の象形秤錘一枚、鏈條に連なりて長さ九寸、合重七斤半(「半」は一本に「平」と作る)。

準桿一條,長六尺,竿身八楞,圍八寸五分。向本上雕一隻腳踏蓮花坐,向下卷雲座。金銅環紉,及曲尺金銅工正一枚,長一尺五寸。熟銅鍍金壺一枚,面闊一尺一寸,深七尺。金銅連鎖三條,各長二尺二寸。及連金銅小蓋一枚,闊三寸五分,共重一十四斤四兩。銅觜一枚,重十八銖。大鼓一面,闊一尺一寸,深七寸。蟠龍繞腔彩畫鉦一面,厚四分。銅水斗一枚,平準竿一條。皆以約漏刻數之。

校準に用うる準杆一條、長さ六尺、杆身八稜を作り、周長八寸五分。杆の上端に一隻の脚蓮花を踏む坐像を雕り、下端は卷雲形の底座と爲す。別に鎏金銅環鈕および曲尺形の鎏金銅校正器一枚を配し、長さ一尺五寸。熟銅鎏金の漏壺一枚、壺口寛一尺一寸・深さ七尺。鎏金銅鏈三條、各々長さ二尺二寸。壺に連なる鎏金銅の小蓋一枚、寛三寸五分、合重十四斤四兩。銅製の出水嘴一枚、重さ十八銖。大鼓一面、鼓面寛一尺一寸・鼓身深さ七寸。蟠龍繞腔の彩畫を繪したる鉦一面、厚さ四分。銅水斗一枚、平準杆一條。以上の器物は、皆漏刻時辰の數を量定し核校するに用うるなり。

傳箭第七十六

每時有八刻十二分,一刻六十分,一日二十時,合一百刻。冬至前三日改第一箭,晝四十刻〈日出辰時一刻〉,夜六十刻〈日入申時八刻〉,每更一十二刻,每點二刻二十四分。後三日改第二箭,晝四十一刻〈日出辰時半刻〉,夜五十九刻〈日入酉時半刻〉,每更一十一刻四十八分,每點二刻二十二分。

漏壺中刻度を標する浮箭は節氣に隨って更換す。全年共に二十支を用う。これすなわち「傳箭」なり。計時の法は、每一箇の時辰に八刻十二分あり、每一刻は六十分と爲し、一晝夜十二時辰(原文「二十時」と作るも、當に「十二時」の訛なり)、合計一百刻。冬至前三日第一支の箭に換用す。白晝四十刻(日出辰時一刻に在り)、黑夜六十刻(日落申時八刻に在り)、每一更は十二刻、每一點は二刻二十四分。冬至後三日第二支の箭に換用す。白晝四十一刻(日出辰時半刻に在り)、黑夜五十九刻(日落酉時半刻に在り)、每一更十一刻四十八分、每一點二刻二十二分。

小寒初日改第三箭,晝四十二刻〈日出卯時八刻〉,夜五十八刻〈日入酉時一刻〉,每更一十一刻三十六分,每點二刻一十八〈一作九〉分。後九日改第四箭,晝四十三刻〈日出卯時七刻半〉,夜五十七刻〈日入酉時一刻半〉,每更一十一刻二十四分,每點二刻一十六分。大寒後三日改第五箭,晝四十四刻〈日出卯時七刻〉,夜五十六刻〈日入酉時二刻〉,每更一十一刻一十二分,每點二刻一十四分。

小寒頭一天第三支の箭に換用す。白晝四十二刻(日出卯時八刻に在り)、黑夜五十八刻(日落酉時一刻に在り)、每一更十一刻三十六分、每一點二刻十八分(「十八」は一本に「十九」と作る)。此の後第九日第四支の箭に換用す。白晝四十三刻(日出卯時七刻半に在り)、黑夜五十七刻(日落酉時一刻半に在り)、每一更十一刻二十四分、每一點二刻十六分。大寒後三日第五支の箭に換用す。白晝四十四刻(日出卯時七刻に在り)、黑夜五十六刻(日落酉時二刻に在り)、每一更十一刻十二分、每一點二刻十四分。冬至より以後、一支の箭を換うる每に晝漏就ち一刻遞增し夜漏一刻遞減し、更と點との時長もまた之に隨って縮短す。

立春前三日改第六箭,晝四十五刻〈日出卯時六刻半〉,夜五十五刻〈日入酉時二刻半〉,每更一十一刻,每點二刻一十二分。後六十日改第七箭,晝四十六刻〈日出卯時六刻〉,夜五十四刻〈日入酉時三刻〉,每更一十刻四十八分,每點二刻九發。雨水初日改第八箭,晝四十七刻〈日出卯時五刻半〉,夜五十三刻〈日入酉時三刻半〉,每更一十刻三十六分,每點二刻七分。

立春前三日第六支の箭に換用す。白晝四十五刻(日出卯時六刻半に在り)、黑夜五十五刻(日落酉時二刻半に在り)、每一更整十一刻、每一點二刻十二分。此の後第六日第七支の箭に換用す(原文「六十日」と作るも、前後遞進の數と合わず、當に「六日」と作るべし)。白晝四十六刻(日出卯時六刻に在り)、黑夜五十四刻(日落酉時三刻に在り)、每一更十刻四十八分、每一點二刻九分(「分」原文「發」と作る)。雨水頭一天第八支の箭に換用す。白晝四十七刻(日出卯時五刻半に在り)、黑夜五十三刻(日落酉時三刻半に在り)、每一更十刻三十六分、每一點二刻七分。

後第九日改第九箭,晝四十八刻〈日出卯時五刻〉,夜五十二刻〈日入酉時四刻〉,每更一十刻二十四分,每點二刻四分。驚蟄後三日改第十箭,晝四十九刻〈日出卯時四刻半〉,夜五十一刻〈日入酉時四刻半〉,每更一十刻十分,每點二刻二分。春分前三日改第十一箭,晝五十刻〈日出卯時四刻〉,夜五十刻〈日入酉時五刻〉,每更一十刻,每點二刻。

此の後第九日第九支の箭に換用す。白晝四十八刻(日出卯時五刻に在り)、黑夜五十二刻(日落酉時四刻に在り)、每一更十刻二十四分、每一點二刻四分。驚蟄後三日第十支の箭に換用す。白晝四十九刻(日出卯時四刻半に在り)、黑夜五十一刻(日落酉時四刻半に在り)、每一更十刻十分(當に十刻十二分と作るべし)、每一點二刻二分。春分前三日第十一支の箭に換用す。この一天晝夜均分にして、白晝五十刻(日出卯時四刻に在り)、黑夜もまた五十刻(日落酉時五刻に在り)、每一更整十刻、每一點整二刻。

後六日改第十二箭,晝五十一刻〈日出卯時三刻半〉,夜四十九刻〈日入酉時五刻半〉,每更九刻四十八分,每點一刻五十七分。清明初日改第十三箭,晝五十二刻〈日出卯時三刻〉,夜四十八刻〈日入酉時六刻〉,每更九刻三十六分,每點一刻五十五分。後九日改第十四箭,晝五十三刻〈日出卯時二刻半〉,夜四十七刻〈日入酉時六刻半〉,每更九刻二十四分,每點一刻五十二分。

此の後第六日第十二支の箭に換用す。白晝五十一刻(日出卯時三刻半に在り)、黑夜四十九刻(日落酉時五刻半に在り)、每一更九刻四十八分、每一點一刻五十七分。清明頭一天第十三支の箭に換用す。白晝五十二刻(日出卯時三刻に在り)、黑夜四十八刻(日落酉時六刻に在り)、每一更九刻三十六分、每一點一刻五十五分。此の後第九日第十四支の箭に換用す。白晝五十三刻(日出卯時二刻半に在り)、黑夜四十七刻(日落酉時六刻半に在り)、每一更九刻二十四分、每一點一刻五十二分。春分の後晝長夜短なり。ゆえに夜間の每更・每點の時長皆持續に縮減し在り。

穀雨後三日改第十五箭,晝五十四刻〈日出卯時二刻〉,夜四十六刻〈日入酉時七刻〉,每更九刻一十二分,每點一刻五十分。立夏前三日改第十六箭,晝五十五刻〈日出卯時一刻半〉,夜四十五刻〈日入酉時七刻半〉,每更九刻,每點一刻四十八分。後六日改第十七箭,晝五十六刻〈日出卯時一刻〉,夜四十四刻〈日入酉時八刻〉,每更八刻四十八分,每點一刻四十五分。

穀雨後三日第十五支の箭に換用す。白晝五十四刻(日出卯時二刻に在り)、黑夜四十六刻(日落酉時七刻に在り)、每一更九刻十二分、每一點一刻五十分。立夏前三日第十六支の箭に換用す。白晝五十五刻(日出卯時一刻半に在り)、黑夜四十五刻(日落酉時七刻半に在り)、每一更整九刻、每一點一刻四十八分。此の後第六日第十七支の箭に換用す。白晝五十六刻(日出卯時一刻に在り)、黑夜四十四刻(日落酉時八刻に在り)、每一更八刻四十八分、每一點一刻四十五分。一更是一夜の五分之一にして、一更また五點に分かつ。ゆえに夜漏愈短ければ、更と點もまた愈短促す。

小滿初日改第十八箭,晝五十七刻〈日出寅時半刻〉,夜四十三刻〈日入戌時半刻〉,每更八刻三十六分,每點一刻四十二分。後九日改第十九箭,晝五十八刻〈日出寅時八刻〉,夜四十二刻〈日入酉時一刻〉,每更八刻二十四分,每點一刻四十分。芒種後三日改第二十箭,晝五十九刻〈日出寅時七刻半〉,夜四十一刻〈日入戌時一刻半〉,每更八刻一十二分,每點一刻三十分。

小滿頭一天第十八支の箭に換用す。白晝五十七刻(日出寅時半刻に在り)、黑夜四十三刻(日落戌時半刻に在り)、每一更八刻三十六分、每一點一刻四十二分。此の後第九日第十九支の箭に換用す。白晝五十八刻(日出寅時八刻に在り)、黑夜四十二刻(日落戌時一刻に在り、原文「酉時」と作る)、每一更八刻二十四分、每一點一刻四十分。芒種後三日第二十支の箭に換用す。白晝五十九刻(日出寅時七刻半に在り)、黑夜四十一刻(日落戌時一刻半に在り)、每一更八刻十二分、每一點一刻三十分。此に至りて、冬至より起こりて晝漏を遞增する二十支の箭用畢る。

夏至前三日改第一箭,晝六十刻〈日出寅時七刻〉,夜四十刻〈日入戌時二刻〉,每更八刻,每點一刻三十六分。後六日改第二箭,晝五十九刻〈日出寅時七刻半〉,夜四十一刻〈日入戌時一刻半〉,每更八刻一十二分,每點一刻三十八分。小暑初日改第三箭,晝五十八刻〈日出寅時八刻〉,夜四十二刻〈日入戌時一刻〉,每更八刻二十四分,每點一刻四十分。

夏至前三日別に一輪を起こし、第一支の箭に換用す。この時晝最も長く、白晝六十刻(日出寅時七刻に在り)、黑夜四十刻(日落戌時二刻に在り)、每一更整八刻、每一點一刻三十六分。此の後第六日第二支の箭に換用す。白晝五十九刻(日出寅時七刻半に在り)、黑夜四十一刻(日落戌時一刻半に在り)、每一更八刻十二分、每一點一刻三十八分。小暑頭一天第三支の箭に換用す。白晝五十八刻(日出寅時八刻に在り)、黑夜四十二刻(日落戌時一刻に在り)、每一更八刻二十四分、每一點一刻四十分。

後九日改第四箭,晝五十七刻〈日出卯時半刻〉,夜四十三刻〈日入戌時半刻〉,每更八刻三十六分,每點一刻四十三分。大暑後三日改第五箭,晝五十六刻〈日出卯時一刻〉,夜四十四刻〈日入酉時八刻〉,每更八刻四十八分,每點一刻四十五分。立秋前三日改第六箭,晝五十五刻〈日出卯時一刻半〉,夜四十五刻〈日入酉時七刻半〉,每更九刻,每點一刻四十八分。

此の後第九日第四支の箭に換用す。白晝五十七刻(日出卯時半刻に在り)、黑夜四十三刻(日落戌時半刻に在り)、每一更八刻三十六分、每一點一刻四十三分。大暑後三日第五支の箭に換用す。白晝五十六刻(日出卯時一刻に在り)、黑夜四十四刻(日落酉時八刻に在り)、每一更八刻四十八分、每一點一刻四十五分。立秋前三日第六支の箭に換用す。白晝五十五刻(日出卯時一刻半に在り)、黑夜四十五刻(日落酉時七刻半に在り)、每一更整九刻、每一點一刻四十八分。夏至より以後、晝漏支を逐うて一刻遞減し夜漏支を逐うて一刻遞增し、更と點との時長もまた之に隨って加長す。

後六日改第七箭,晝五十四刻〈日出卯時二刻〉,夜四十六刻〈日入酉時七刻〉,每更九刻一十二分,每點一刻五十分。處暑初日改第八箭,晝五十三刻〈日出卯時二刻半〉,夜四十七刻〈日入酉時六刻半〉,每更九刻二十四分,每點一刻五十二分。後三日改第九箭,晝五十二刻〈日出卯時三刻〉,夜四十八刻〈日入酉時六刻〉,每更九刻三十六分,每點一刻五十五分。

此の後第六日第七支の箭に換用す。白晝五十四刻(日出卯時二刻に在り)、黑夜四十六刻(日落酉時七刻に在り)、每一更九刻十二分、每一點一刻五十分。處暑頭一天第八支の箭に換用す。白晝五十三刻(日出卯時二刻半に在り)、黑夜四十七刻(日落酉時六刻半に在り)、每一更九刻二十四分、每一點一刻五十二分。此の後第三日第九支の箭に換用す。白晝五十二刻(日出卯時三刻に在り)、黑夜四十八刻(日落酉時六刻に在り)、每一更九刻三十六分、每一點一刻五十五分。此の時暑氣漸退し、夜漏すでに四十八刻に回升し、晝漏と相差すること幾なし。

白露後三日改第十箭,晝五十一刻〈日出卯時三刻半〉,夜四十九刻〈日入酉時五刻半〉,每更九刻四十八分,每點一刻五十七分。秋分前三日改第十一箭,晝五十刻〈日出卯時四刻〉,夜五十刻〈日入酉時五刻〉,每更十刻,每點二刻。後六日改第十二箭,晝四十九刻〈日出卯時四刻半〉,夜五十一刻〈日入酉時四刻半〉,每更十刻十二分,每點二刻二分。

白露後三日第十支の箭に換用す。白晝五十一刻(日出卯時三刻半に在り)、黑夜四十九刻(日落酉時五刻半に在り)、每一更九刻四十八分、每一點一刻五十七分。秋分前三日第十一支の箭に換用す。此の時晝夜再度均分にして、白晝五十刻(日出卯時四刻に在り)、黑夜もまた五十刻(日落酉時五刻に在り)、每一更整十刻、每一點整二刻。此の後第六日第十二支の箭に換用す。白晝四十九刻(日出卯時四刻半に在り)、黑夜五十一刻(日落酉時四刻半に在り)、每一更十刻十二分、每一點二刻二分。

寒露初日改第十三箭,晝四十八刻〈日出卯時五刻〉,夜五十二刻〈日入酉時四刻〉,每更一十刻二十四分,每點二刻四分。後九日改第十四箭,晝四十七刻〈日出卯時五刻半〉,夜五十三刻〈日入酉時三刻半〉,每更一十刻三十六分,每點二刻七分。霜降後三日改第十五箭,晝四十六刻〈日出卯時六刻〉,夜五十四刻〈日入酉時三刻〉,每更一十刻四十八分,每點二刻九分。

寒露頭一天第十三支の箭に換用す。白晝四十八刻(日出卯時五刻に在り)、黑夜五十二刻(日落酉時四刻に在り)、每一更十刻二十四分、每一點二刻四分。此の後第九日第十四支の箭に換用す。白晝四十七刻(日出卯時五刻半に在り)、黑夜五十三刻(日落酉時三刻半に在り)、每一更十刻三十六分、每一點二刻七分。霜降後三日第十五支の箭に換用す。白晝四十六刻(日出卯時六刻に在り)、黑夜五十四刻(日落酉時三刻に在り)、每一更十刻四十八分、每一點二刻九分。秋分より以後夜は晝より長し。更と點との時長便ち支を逐うて加長す。

立冬前三日改第十六箭,晝四十五刻〈日出卯時六刻半〉,夜五十五刻〈日入酉時二刻半〉,每更一十一刻,每點二刻一十二分。後六日改第十七箭,晝四十四刻〈日出卯時七刻〉,夜五十六刻〈日入酉時二刻〉,每更一十一刻一十二分,每點二刻一十四分。小雪初日改第十八箭,晝四十三刻〈日出卯時七刻半〉,夜五十七刻〈日入酉時一刻半〉,每更一十一刻二十四分,每點二刻一十六分。

立冬前三日第十六支の箭に換用す。白晝四十五刻(日出卯時六刻半に在り)、黑夜五十五刻(日落酉時二刻半に在り)、每一更整十一刻、每一點二刻十二分。此の後第六日第十七支の箭に換用す。白晝四十四刻(日出卯時七刻に在り)、黑夜五十六刻(日落酉時二刻に在り)、每一更十一刻十二分、每一點二刻十四分。小雪頭一天第十八支の箭に換用す。白晝四十三刻(日出卯時七刻半に在り)、黑夜五十七刻(日落酉時一刻半に在り)、每一更十一刻二十四分、每一點二刻十六分。冬に入りて以後夜漏日に增し、夜を守り更を巡る班次もまた之に隨って延長す。

後九日改第十九箭,晝四十二刻〈日出卯時八刻〉,夜五十八刻〈日入酉時一刻〉,每更一十一刻五十六分,每點二刻一十八分。大雪三日改第二十箭,晝四十一刻〈日出辰時半刻〉,夜五十九刻〈日入酉時半刻〉,每更一十一刻四十八分,每點二刻二十一分。

此の後第九日第十九支の箭に換用す。白晝四十二刻(日出卯時八刻に在り)、黑夜五十八刻(日落酉時一刻に在り)、每一更十一刻五十六分(當に三十六分と作るべし)、每一點二刻十八分。大雪後三日第二十支の箭に換用す。白晝四十一刻(日出辰時半刻に在り)、黑夜五十九刻(日落酉時半刻に在り)、每一更十一刻四十八分、每一點二刻二十一分。此に到りて夜漏漸長の一輪二十支の箭もまた用盡し、隨卽また冬至に回到して第一箭に改め、周而復始す。

測影第七十七

先定南北使正,樹八尺表竿為勾,臥一丈四尺為股。中節氣,日中視影之尺寸,若與歷合則吉,不合則凶。冬至十一月中氣,律中黃鐘,管長九寸徑三分,影長一丈三尺。小寒十二月節,影長一丈二尺四寸三分。大寒十二月中氣,律中大呂,管長八寸三分,影長一丈一尺二寸。立春正月節,影長九尺八寸。

影を測る法は、先ず南北の方位を定準し、八尺高さの表竿を豎立して以て「勾」と爲し、地面に一丈四尺長さの量尺を平鋪して以て「股」と爲す。節氣交接の日に到り、正午時分に日影の長短尺寸を察看し、若し歷法の推算と相合せば即ち吉、合わざれば即ち凶(歷法の失準あるいは天時の變あらんを表示す)。冬至は十一月の中氣にして、律呂黄鐘に相應し、律管長さ九寸・径三分、此の日影長さ一丈三尺。小寒は十二月の節氣にして、影長さ一丈二尺四寸三分。大寒は十二月の中氣にして、律呂大呂に相應し、律管長さ八寸三分、影長さ一丈一尺二寸。立春は正月の節氣にして、影長さ九尺八寸。

雨水正月中氣,律中大蔟,管長八寸,影長八尺一寸七分。驚蟄二月節,影長六尺六寸七分。春分二月中氣,律中夾鐘,管長七寸四分,影長五尺三寸七分。清明三月節,影長四尺二寸五分。穀雨三月中氣,律中姑洗,管長七寸一分,影長三尺二寸六分。

雨水は正月の中氣にして、律呂太簇に相應し、律管長さ八寸、影長さ八尺一寸七分。驚蟄は二月の節氣にして、影長さ六尺六寸七分。春分は二月の中氣にして、律呂夾鐘に相應し、律管長さ七寸四分、影長さ五尺三寸七分。清明は三月の節氣にして、影長さ四尺二寸五分。穀雨は三月の中氣にして、律呂姑洗に相應し、律管長さ七寸一分、影長さ三尺二寸六分。日影冬至より以後節を逐うて縮短するは、正に太陽南北往還の驗證なり。

立夏四月節,影長二尺五寸三分。小滿四月中氣,律中仲呂,管長六寸五分,影長一尺九寸九分。芒種五月節,影長一尺六寸九分。夏至五月中氣,律中蕤賓,管長六寸二分,影長一尺五寸。小暑六月節,影長一尺六寸九分。大暑六月中氣,律中林鐘,管長五寸九分,影長一尺九寸一分〈一作九〉。

立夏は四月の節氣にして、影長さ二尺五寸三分。小滿は四月の中氣にして、律呂仲呂に相應し、律管長さ六寸五分、影長さ一尺九寸九分。芒種は五月の節氣にして、影長さ一尺六寸九分。夏至は五月の中氣にして、律呂蕤賓に相應し、律管長さ六寸二分、影長さ一尺五寸。これ是れ全年日影最短の一天なり。小暑は六月の節氣にして、影長さ一尺六寸九分。大暑は六月の中氣にして、律呂林鐘に相應し、律管長さ五寸九分、影長さ一尺九寸一分(末の字は一本に「九」と作る)。日影夏至より以後また節を逐うて長に轉ず。

立秋七月節,影長二尺五寸三分。處暑七月中氣,律中夷則,管長五寸六分,影長五尺三寸七分。白露八月節,影長五尺七寸。秋分八月中氣,律中南呂,管長五寸三分,影長六尺二寸三分。寒露九月節,影長六尺〈一作八〉六寸七分。霜降九月中氣,律中無射,管長四寸九分,影長八尺一寸七分。立冬十月節,影長八尺九寸。小雪十月中氣,律中應鐘,管長四寸七分,影長一丈二尺二寸。大雪十一月節,影長一丈二尺四寸三分。

立秋は七月の節氣にして、影長さ二尺五寸三分。處暑は七月の中氣にして、律呂夷則に相應し、律管長さ五寸六分、影長さ五尺三寸七分(此の數は前後遞增の勢と合わず、疑いに傳寫の誤あらん)。白露は八月の節氣にして、影長さ五尺七寸。秋分は八月の中氣にして、律呂南呂に相應し、律管長さ五寸三分、影長さ六尺二寸三分。寒露は九月の節氣にして、影長さ六尺(「六」は一本に「八」と作る)六寸七分。霜降は九月の中氣にして、律呂無射に相應し、律管長さ四寸九分、影長さ八尺一寸七分。立冬は十月の節氣にして、影長さ八尺九寸。小雪は十月の中氣にして、律呂應鐘に相應し、律管長さ四寸七分、影長さ一丈二尺二寸。大雪は十一月の節氣にして、影長さ一丈二尺四寸三分。

夫周天三百六十度四分度之一,為十二次,華夷共同,以至十二國王侯之所度。日一日行一度,月一日行十三度,月節遲疾,平行九道,故二十八日行三百六十度,餘日逐日度入朔。一歲十二月行十三周天,與日同。夏至日在井,去極近。冬至日在斗,去極遠。日陽用事,則進北而影短。月陰用事,則退南而影長。測法極遠近以影,而知以定南北也。

周天共に三百六十度また四分の一度、十二「次」に劃分し、中原と四夷の用うる所相同じく、以て十二國諸侯の分野もまた此に據って劃定すに至る。太陽一晝夜に一度を行き、月亮一晝夜に十三度を行く。月行遲あるいは疾あり、平均すれば九條の軌道に沿って運行す。ゆえに二十八日にして三百六十度を行滿し、剩下の度數は則ち日を逐うて累加して朔日に交る。一年十二箇月、月亮十三周天を行きて、太陽の行く所の一周天と相合す。夏至の時太陽位井宿に在りて、北極を距ること較近し。冬至の時太陽位斗宿に在りて、北極を距ること較遠し。陽氣當令すれば、太陽北に移り、日影就ち短し。陰氣當令すれば、太陽南に退き、日影就ち長し。影を測る法は、即ち日影の長短に憑って太陽の極を距る遠近を推知し、兼ねて據って南北の正位を校定す。

結營統論第七十八

立營之法,按八宮陰陽數置(一作至)之。營居陽卦之上,以九為法(九十步、九百步、九里、九十里,量人數加之);陰卦之上,以六為法(如九之法)。營門向陽以受生氣,不飲死水,不處死地(死地,丘墓間也),不居地柱(地柱者,四下中之高也),不居地獄(地獄者,四高中之下也),不居天灶(天灶者,谷口也),不居龍首(龍首者,山之端也)。

營を扎する法度は、八卦九宮の陰陽の數に按じて布置す(「置」は一本に「至」と作る)。營地陽卦の方位上に落るは、九を以て基數と爲して尺度を取る(九十步・九百步・九里・九十里と作る可く、人數の多少を視て遞加す)。陰卦の方位上に落るは、六を以て基數と爲して尺度を取る(推算の辦法は九を用うる時と同じ)。營門は陽面に向かって朝るを要し、以て生發の氣を承受す。死水(流動せざる積水)を飲まず、死地(死地は即ち墳丘墓地の間)に駐扎せず、「地柱」(地柱は四面低下して中間隆起の處)を占めず、「地獄」(地獄は四面高聳して中間低陷の處)を占めず、「天竈」(天竈は即ち山谷の出口)を占めず、「龍首」(龍首は即ち山脈の盡頭頂端)を占めず。

大將軍居九天之上,頓泊玉帳(九天,青龍也。玉帳者,進前之三辰也。假令正月,當居巳地是也)。已下類此推之。如隨六甲所居,則將軍居青龍,旗鼓居蓬星,士卒居明堂,伏兵居大陰,軍門居天門,小將居地戶,斬殺居天獄,軍糧居天牢,治罪居天庭,軍器居華蓋。此所謂立營居天地也。

大將軍は「九天」の位に駐するを要し、「玉帳」を扎設す(九天は即ち青龍の位。玉帳は本位より向前三辰を推す位置。例えば正月なれば、就當に巳の方位に駐すべし)。其餘の月份皆この類に照らして推す。若し六甲の各神の主る所の方位に按じて分配せば、則ち、主將青龍位に駐し、旗鼓蓬星位に設け、士卒明堂位に屯し、伏兵太陰位に藏れ、軍門天門位に開き、副將地戶位に居り、刑を行い斬殺するは天獄位に在り、軍糧天牢位に囤し、罪を問い案を斷ずるは天庭位に在り、軍械は「華蓋」位に存放す(華蓋は星名の指す方位にして、「華麗の傘蓋」の意に非ず)。これすなわち謂う所の天地方位に依って營を立つるなり。

六甲第七十九

甲為青龍大將住,出呼門戶解領行,門神名號徐儀直,戶神孫齊甲子神,乙下蓬星鼓角過,丙下明堂士卒亨,丁下大陰伏兵利,戊下天門師入行,己下神戶小將位,齊眾斬斷天獄庚,治罪判斷天庭卒,囚繫糧儲天牢壬,癸下天倉安庫藏,又為華蓋敵避兵。

これは六甲の方位を記誦する口訣にして、句を逐うて解す可し。甲の方位は青龍に屬し、主將此處に駐す。出入に門神・戶神を呼唤すれば、便能に厄を解して行軍順利なり。門神の名は徐儀直と謂い、戶神の名は孫齊と謂い、皆甲子日の主る所の神なり。乙位は蓬星に屬し、旗鼓此處より經過す。丙位は明堂に屬し、士卒此に屯すれば則ち亨通す。丁位は太陰に屬し、伏兵此に設くる最も利あり。戊位は天門に屬し、大軍此に由りて開進す。己位は地戶(神戶)に屬し、副將此に居る。庚位は天獄に屬し、部衆を整肅し刑を行い斬決するは此に在り。辛位は天庭に屬し、罪を問い案を斷ずるは此に由りて發落す。壬位は天牢に屬し、罪人を囚繫し糧草を囤積するは此に在り。癸位は天倉に屬し、府庫儲藏を安置するは此に在り、同時にまた華蓋の位にして、能く敵人をして我が兵鋒を避けしむ。

(圖缺)

(原書此處に六甲方位圖を附すも、圖已に亡佚す。)

(圖缺)

(原書此處に別に一圖を附すも、圖も亦た亡佚す。)

地勢第八十

凡立營之地,非生氣不旺,非山不固。營壘之法,欲北據連山,南恁高崗,左右襟帶地水東流。故自乾山伏下,旁連子丑寅卯之地,入於巽宮。未申酉戌地欲高,前欲有迎生平穩,地勢欲支條脈散,氣候欲鬱,茂林叢聳,四維阜隴欲如雞籠映起。巽上欲水順流,地欲順東南。

凡そ營を扎する地方を選擇するに、生發の氣なければ興旺する能わず、山嶺の憑依なければ穩固する能わず。營壘選址の要領は、北面連綿の山脈に背靠り、南面高岡に依托し、左右兩側衣襟帶子の如く環繞する水流ありて東に向かって匯去る。ゆえに山勢は西北の乾位より低伏し下りて、旁に子・丑・寅・卯(北より東)の一帶の地形に接連し、最後に東南の巽宮に歸入す。未・申・酉・戌(西南より西北)の一帶の地勢は高きを要し、營前に生氣を迎え平坦安穩の開闊地あるを要し、地形は樹枝の如く支脈を分かち脈絡舒展し、氣候溫潤郁蒸・林木茂密叢生し、四隅の土阜丘隴は雞籠の如く隆起して環護するを要す。巽位(東南)の水は順流して出ずるを要し、地勢もまた東南に向かって傾瀉するを要す。

凡造壘之時,先從戊己上起板築。若或其地草木不生則去之,鳥獸不集則去之,古城古社則去之,窯灶古墓則去之,焦石砂礫則去之,河水逆流則去之。此六者,營壘之大忌也。

凡そ營壘を修築するは、先ず戊・己の主る所の中央の方位より版築(夾板を以て土を夯して牆を成す)に動工すべし。假如あの地方草木生ぜざれば、就ち舍棄すべし。飛鳥走獸來りて栖集せざれば、就ち舍棄すべし。廢棄の古城・古代社壇の舊址なれば、就ち舍棄すべし。窯址・竈址あるいは古墓あれば、就ち舍棄すべし。滿地焦石砂礫なれば、就ち舍棄すべし。河水倒流して順ならざるも、また舍棄すべし。この六種の情形は、營を安んじ壘を立つる最大の忌諱なり。

山勢第八十一

山如蟠龍,旺案數重,宛轉斜曲,首尾相從。山如鳳凰,翅翼開張,群隊十萬,帶挾隴崗,前禦印綬,後有迴翔。山如飛龍,支翼遠通,或驚或躍,官橫乍從,臺嶺池間,舞鶴連鴻。

以下營を安んずる可き山形を列舉す。山勢盤曲の龍の如きは、正面の案山重重疊疊にして、山脈宛轉斜曲し、首尾彼此照應す。山勢鳳凰の如きは、兩翼舒展張開して、十萬の大軍分隊屯駐を容れ得べく、兩旁に隴岡を挾帶し、前方に印綬の形如き小山ありて拱衛し、後方山脈盤旋回翔す。山勢飛龍の如きは、支脈と兩翼と伸展遠通し、忽ち驚起の如く忽ち騰躍の如く、山岡橫列してまた勢に順って相從い、臺地・嶺脊・水池相間して、形狀舞鶴と飛鴻との連翩たるに好比す。

山如母狗,頭拳尾就,腹內乳見,項上連首。山如生蛇,或曲或斜,後崗前合,隱為藏車。山如麒麟,乍立乍蹲,群從數萬,朝者數人。山如臥牛,屈膝拳頭,三光照覆,兩水分流,屬帶林隴,依附土丘。

山勢が母狗の如きは、頭蜷曲し尾收攏し、腹部の一側に乳の如き小丘を現出し、頸項と頭部とが一氣に連成す。山勢が活蛇の如きは、あるいは彎曲しあるいは斜行し、後に山岡あり前に合抱の勢ありて、隱蔽の處正好に車乘を藏匿す。山勢が麒麟の如きは、忽ち站立し忽ち蹲踞し、隨從の群山成千上萬にして、正面より來朝拱するはただ數座のみあり。山勢が臥牛の如きは、膝を屈し首を蜷め、日月星の三光照臨して覆護し、兩道の水流分向して下り、林木と隴脊とを連帶し、一座座の土丘に依傍す。

山如伏鱉,四方無缺,清泉東流,亢陽下歇,三門起高,一戶雙闕。山如游龍,倚伏數重,華蓋隱隱,美草茸茸,前如雀躍,後如雞籠,剛柔順俯,八卦皆通。山如舞鶴,翅翼仰搏,開拓胸臆,首尾盤礴。如此者,皆可以居之也。

山勢が伏臥の鱉の如きは、四面周正にして缺口なく、清泉東に流れ去り、過盛の陽氣此に到りて收斂歇止し、三處の山口地勢高起し、一處の入口兩側對峙して雙闕の如し。山勢が游龍の如きは、山巒相倚相伏して重疊數層、「華蓋」の形如き山影隱隱として環拱し(「華蓋」は星名にして、此處傘蓋狀の山形を指す)、芳草豐茸にして、前方の山形雀躍起の如く、後方の山形雞籠合抱の如く、剛峭と柔緩と相順じ相俯し、八方の卦位皆暢通して阻無し。山勢が舞鶴の如きは、雙翼上擧して將に搏擊せんと欲するが如く、胸懷の如き谷地開闊舒展して、首尾盤繞磅礴す。凡そ上述の形勢を具備する山地は、皆營を安んじ駐扎し得べし。

四獸第八十二

南有汙池為朱雀,北有堆阜為玄武,東有叢林為青龍,西有大道為白虎。四獸既具,八卦既列,乃立表測影,以定子午之位(立表法在前)。若夫朱雀無頂,不可居也;玄武折足,不可居也;白虎銜刀,不可居也;青龍悲哭,不可居也。強居之者,軍覆將死。

營地の南面に水池あれば、即ち朱雀の象なり。北面に土堆丘阜あれば、即ち玄武の象なり。東面に叢林あれば、即ち青龍の象なり。西面に大道あれば、即ち白虎の象なり。四獸の象すでに齊備し八卦の方位すでに排定せば、就ち圭表を豎立して日影を測量し、以て正南正北の子午の方位を確定す(表を立てて影を測る法は前面《測影》篇を見よ)。朱雀方に依るべき山頂なきに至っては、駐扎すべからず。玄武方に山脚斷折するは、駐扎すべからず。白虎方に刀を銜むが形如き尖石惡砂あるは、駐扎すべからず。青龍方に水聲呜咽して悲哭の如きは、駐扎すべからず。硬にこの類の地方に駐扎せば、就ち全軍覆沒し主將命を喪わん。

握奇營第八十三

外壘,一軍一萬二千五百人,以十人為火,一千二百五十火。幕數一如是。幕長一丈六尺,舍十人,守地一尺六寸。以三為奇,以三千七百五十人為奇數,餘人八千七百五十人分為八陣。陣有一千九百九十七分五銖,守地一千七百五十尺。八陣積尺,守地一萬四千尺。積步二千三百七十二步,餘二尺。積裡六里,餘一百七十三步二尺。以壘四面乘之,一面得地一里,餘二百二十三步。壘內得地十四頃十七畝,餘一百九十步四尺五寸六分,以為外壘。

先ず外壘を説く。一軍一萬二千五百人、每十人を編して一「火」と爲し、共に一千二百五十火なり。營帳の數目もまた一千二百五十頂なり。每頂の帳長さ一丈六尺、十人を住せしめ、每人地面一尺六寸を占守す。十分之三に按じて留めて奇兵と作し、即ち三千七百五十人を奇數機動の兵と爲し、其餘八千七百五十人を分編して八陣と爲す。每陣一千零九十三人餘を得(原文「一千九百九十七分五銖」と作るも、數に訛脱あり)、地面一千七百五十尺を占守す。八陣合計して、地面一萬四千尺を占守し、折合して二千三百七十二步零二尺と爲し、再び折合して六里零一百七十三步二尺と爲す。營壘四面に均分するを以て、每一面地一里零二百二十三步を得。壘內の圍む所の面積は十四頃十七畝にして、別に一百九十步四尺五寸六分を餘す。これすなわち外壘の規模なり。

天陣居乾為天門,地陣居坤為地門,風陣居巽為風門,雲陣居坎為雲門,飛龍陣居震為飛龍門,虎翼陣居兌為虎翼門,鳥翔陣居離為鳥翔門,蛇盤陣居艮為蛇盤門。天地風雲為四正,龍虎鳥蛇為四奇。乾坤艮巽為闔門,離坎兌震為開門。有牙旗遊隊列左右偏,將軍居壘,門禁出入。外有遊軍,兩端前有沖,後有軸,四隅有鋪。

八陣各々卦位に按じて分布す。天陣乾位(西北)に居り、對する所の營門を天門と謂う。地陣坤位(西南)に居り、地門と謂う。風陣巽位(東南)に居り、風門と謂う。雲陣坎位(正北)に居り、雲門と謂う。飛龍陣震位(正東)に居り、飛龍門と謂う。虎翼陣兌位(正西)に居り、虎翼門と謂う。鳥翔陣離位(正南)に居り、鳥翔門と謂う。蛇盤陣艮位(東北)に居り、蛇盤門と謂う。天・地・風・雲の四陣を「四正」と爲し、龍・虎・鳥・蛇の四陣を「四奇」と爲す。乾・坤・艮・巽の四門は常閉の門にして、離・坎・兌・震の四門は常開の門なり。別に牙旗を樹つる游動の隊伍ありて左右の兩偏に分列し、主將本人營壘の中央に坐鎮し、各門人員の擅自の出入を嚴禁す。壘外還って游動の機動部隊を配し、隊伍の兩端前に衝陣を置き後に軸陣を置き、四角に鋪哨を設置す。

中壘,以奇兵三千七百五十人為中壘,守地六千尺,積步得二里,餘二百八十步。以壘四面乘之,一面得二百五十步。壘內地二頃六十畝,餘一百步。六纛、旗鼓、五麾、金鼓、府藏,皆在中壘。

更に中壘を説く。奇兵と作す所の三千七百五十人を以て中壘を組成し、地面六千尺を占守し、折合して二里零二百八十步と爲す。營壘四面に均分するを以て、每一面二百五十步を得。壘內の圍む所の面積は二頃六十畝にして、別に一百步を餘す。六面の大纛・旗鼓・五色の指揮麾旗・金を鳴らし鼓を擊つの號器および府庫の積儲は、全て中壘の內に設く。

(圖缺)

(原書此處に握奇營圖を附すも、圖已に亡佚す。)

偃月營第八十四

背山崗,面坡澤,前後險阻,其地狹窄之營也。凡偃月外營,以四六分,幕一萬人,以六千人守地九千六百尺,積得前一千六百步,積得四里,餘一百六十步為營。轉以六千四百尺,得步一千六十六步四尺為弦。弦置三門,相去三里五十步一尺五寸。營內有地一十五頃八十五畝五十八步四尺。右置上弦門,中偃月門,左下弦門。

偃月營は山岡に背靠り坡澤に面向し、前後皆險阻あり地形狹窄の時用うる營式にして、形半弦月の如し。偃月の外營は四六に按じて兵力を分配す。營帳一萬人を容れ、その中六千人は地面九千六百尺を占守し、折成して正面の弧長一千六百步と爲し、即ち四里零一百六十步にして、以て營の弧背と爲す。其餘轉じて六千四百尺を以て計し、一千零六十六步四尺を得、以て營の「弦」(即ち弧背兩端相連なる直邊)と爲す。弦上に三座の門を開き、各門相距ること三里五十步一尺五寸。營內に圍得する土地は十五頃八十五畝五十八步四尺なり。右邊に上弦門を設け、中間に偃月門を設け、左邊に下弦門を設く。

偃月中營,營以二千五百人守地四千尺,積得六百六十步餘四尺,積步得一里,餘三百步四尺。每幕加地四尺五寸四分。每幕營中兩廂置土馬一十二匹,大小如常馬,被其鞍。令士卒披甲冑,橐弓矢,佩刀劍,持矛盾,左右上下,以便習事。

偃月營の中營は、二千五百人を以て地面四千尺を占守し、折合して六百六十步零四尺、即ち一里零三百步四尺と爲す。每一頂の營帳に別に地四尺五寸四分を加う。每一處の帳營の左右兩廂に、土坯を堆塑したる假馬十二匹を設置し、大小眞馬と相同じく、鞍具を配し、士卒をして甲胄を披挂し弓矢を背負い刀劍を佩帶し矛盾を手持して、假馬の左右上下に反復演練せしめ、以て馬に上り馬を下り馬上の格鬥の事を熟習せしむ。

(圖缺)

(原書此處に偃月營圖を附すも、圖已に亡佚す。)

教弩第八十五

凡弩,古有黃連、百竹、八擔、雙弓之號。今有絞車弩,中七百步,攻城拔壘用之;蹶張弩,中三百步,騎用之。凡臨敵用不過一二發,故戰陣不便於弩用也。

弩の此の一類の兵器は、古代に「黄連」「百竹」「八擔」「雙弓」等の名號あり。當今用うる所は、絞車弩あり、射程七百步に達し得べく、城を攻め壘を拔くに用う。蹶張弩あり、即ち脚を以て踏みて弦を張る弩にして、射程三百步、騎兵使用す。但し陣に臨みて敵に對する時、一張の弩往往にして發射し得ること一二回に及ぶのみ。ゆえに短兵相接の戰陣の中に於て、弩は倂べて施用に便ならず。

弩不可離於短兵,常別為隊攢箭註射,則前無立兵,對無橫陣。復以陣中張陣外射,番次輪回,張而復出,射而復入。如是則弩無絕聲,敵無薄我矣。夫置弩必處其高,爭奪山川守隘塞之口者,非弩不克焉。

この因此に弩手は刀槍等の短兵器の護衛を脫離する能わず。通常別に弩隊に編成し、箭矢を集中して一處に攅射すべし。かくすれば敵人正面に人を立つる能わず、對面もまた橫陣を結成する能わず。再び陣內に弦を上げ陣外に發射する辦法を采取し、番を分かちて輪換す。弦を張好るは出列して施射し、射完るは退回して陣中に於て重新に弦を上ぐ。かくの如く循環斷えず、弩聲便ち始終絕えず、敵人もまた我が陣に逼近するに法なし。弩手を安置するは必定に高處を占據すべし。凡そ山川の要地を爭奪し關隘塞口を扼守するは、弩を用いずして攻下る能わず。

欲教之時,乃下命曰:張弩後左廂丁字立,當弩八字立。高揎手,垂衫襟,左手承撞,右手迎上,當心開張,張有闊狹,在腔右膊,還復當心,安箭高舉射敵。

弩手を訓練せんと要すれば、就ち此の如き口令を下達す。弦を上好して後、左廂の人は「丁」の字步に站成し、弩身に正對する人は「八」の字步に站成す。衣袖を高く卷起し衫襟を放下し、左手弩臂を托住し、右手迎え上りて弦を搭し、胸口の正中に對準して張開す。弦を張る幅度寬あるいは窄あり。弩腔は右肩膊上に抵るを要し、隨後再び胸口の正中に回到し、然る後箭を安上し弩身を高擧して敵人を瞄準して發射す。

敵遠,擡頭放;敵近,平身放;敵左右,回身放;敵在高,掣腳放。箭訖唱殺,卻掣拗蠍尾,覆弩在地焉。此教弩之法也。

敵人遠處に在れば、就ち弩身を抬高して發射す。敵人近處に在れば、就ち身體を平端して發射す。敵人左右の兩側に在れば、就ち身を轉じて發射す。敵人高處に居れば、就ち一脚を撤後して身を仰がせて發射す。箭發射完畢すれば、齊聲に「殺」を唱え、隨卽弩後の蝎尾の形如き機括を扳動して弦を松め、弩を覆い置きて地上に在らしめて待命す。以上即ち弩手を訓練する方法なり。

(圖缺)

(原書此處に教弩圖を附すも、圖已に亡佚す。)

教弓第八十六

凡射必中席而坐,一膝正當梁,一膝前堅按席,稍吐下,稍向左,微令上傾向右。然後取箭,覆其手微拳第二,令節齊。以三指撚箭三分之一,加弓,手亦三分之一。以左手頭指受,不則轉弓。令弦稍離身,即易見箭之高下,取其平直。

凡そ射箭を練習するは、先ず席子の正中に端坐し、一膝正しく席縫に對し、另一膝前に在りて穩かに席面を壓し、上身稍々前俯して略々左に偏し、再び微微に上體を右方に側す。然る後箭を取る。手背上に向かい、第二指微微に拳を屈して、各指の關節を整齊ならしむ。三根の手指を以て箭杆の三分之一の處を捻住し、弓弦に搭上し、弓を握る手もまた弓身の三分之一の位置を取る。左手の食指を以て箭杆を承住せしむ。然らざれば弓身就ち轉動せん。弓弦をして稍々身體を離れしめば、かくして箭鏃の高低を看清るに易く、好く箭を調えて平直ならしむべし。

然後擡弓離席,目視其地,按手頤下引之,令滿持其弓。手與控指及右臂肘平如水準,令其肘可措杯水。故曰端身如幹,執臂如枝。直臂者,非初直也。駕弦畢,使引之,比及滿,使臂直是也。引去不得急,急則失威儀而不主皮;不得緩,緩則力難為而箭去遲。惟善者能之。

然る後弓を抬起して席面を離れ、眼睛先ず地面を看定し、手を下巴の下に壓して弓を開き、一直に拉滿して穩かに持住す。弓を持つ手・弦を扣く手指と右臂の肘とは水準儀の如く平なるを要し、肘上平らかにして一杯の水を搁えて洒らさざるを得べし。ゆえに曰く、身軀端正なること樹幹の如く、手臂伸展なること枝條の如し。謂う所の「直臂」は、倂べて一開始に手臂を伸直するに非ず。乃ち弦を搭好して後拉を開始し、拉滿するを等ちて手臂自然に伸直するなり。弦を拉くは太急なる可からず。急ければ就ち威儀を失掉し箭もまた皮靶を射透らず。もまた太緩なる可からず。緩ければ則ち力を費やして支うる難く箭の出でること遲鈍なり。ただ善射の人のみ能く恰好なるを把握す。

箭與弓地齊為滿,地平之中為盈,胄信矣而術準。要令大指知簇到,然後發箭。故曰簇無(一作不)上指必無中理,指不知簇同於無目。試之到也,或以目視簇,馬上與暗中則乖。此為無術矣。

箭鏃拉きて弓身と持平なるを「滿」と叫作し、恰もこの平齊の中に在るを「盈」と叫作す。此の一步を做到せば、姿態就ち可靠にして技法もまた準確なり。關鍵は拇指に箭鏃すでに拉到位なるを感覺せしめ、然る後に纔か撒放するに在り。ゆえに曰く、箭鏃拇指に抵らざれば(「无」は一本に「不」と作る)、必定射中の道理なし。手指箭鏃の位置を感覺せざれば、眼睛を長ぜざるに跟うが如し。これ全く手指に靠りて拉到位か否かを試探す。若しただ眼睛に靠りて箭鏃を看れば、則ち馬背上あるいは黑暗の中に於て完全に失效す。これを技法なしと叫作す。

故矢在弓右,視在弓左,箭發則靡其肖,厭其肘,仰其腕,目以註之,手以註之,心以趣之,其不中何為其易。矢量其弓,弓量其力。無動容,無作色,和其肢體,調其氣息,一其心志,謂之指式。知此五者為上德。故曰莫患弓軟,復當自遠;莫患力羸,當常引之。

ゆえに箭弓の右側に搭するも、視線卻って弓の左側に落つ。箭一たび撒放せば、身形之に隨って舒展し、肘部を壓住し手腕を仰起し、眼睛を以てそれを專注し手を以てそれを穩定し心意を以てそれを驅使す。かくして還って射中せざれば、乃ち纔か怪事なり。箭の長短は弓と相稱するを要し、弓の強弱は自己の臂力と相稱するを要す。容貌を改めず聲色を動かさず、四肢を協調せしめ呼吸を勻停せしめ心志を專一ならしむ。これを「指式」と叫作す。此の五條を懂得するは、射法の中の上乘の德なり。ゆえに曰く、弓の軟なるを嫌うなかれ。弓軟しと雖も照樣射ること遠し。力の弱きを嫌うなかれ。ただ常に弓を開きて練習すれば、力氣自然に增長せん。

但力勝其弓則容貌和,發無不中。故始學者先學持滿,雖能制弓定其體,然後射之。初去地一丈,百發百中。寸以加之,漸到於百步,亦百發百中,乃為之術成。或升其的於高,或致其的於下,或以禽獸為的也。

ただ臂力餘りあり手中の弓を駕馭し得れば、姿態就ち從容和順にして、箭を發すれば中らざるなし。ゆえに初學の人は先ず「持滿」を練り、能く弓を控制住し身形を穩定するを等ちて、然る後に纔か發射を談ずべし。開始の時靶子身を離るること一丈、練りて百發百中に至り、再び一寸一寸に距離を增加し、逐漸に拉遠して一百步に至り、仍ほ百發百中なれば、射術纔か練成すと算す。此の外還って靶子を高處に升到して射、あるいは低處に放して射、あるいは飛禽走獸を以て活靶と作して練るを得。

凡弓惡左(一作右)傾,箭惡直懦(音溥),頤惡旁引,頭惡腳垂(一作既),胸惡前亞,背惡後偃,皆射之骨髓病也。故身前竦為猛虎方騰,額前臨為捧兒欲鬥,出弓如懷中吐月,平箭如弦上懸衡,此皆有容儀之善也。

射箭最も忌諱するは此の幾樣の毛病なり。弓身左に傾斜す(「左」は一本に「右」と作る)、箭杆軟弱にして挺せず(「懦」は溥と讀作す)、下巴旁に向かって偏引し、頭部低垂し(「脚垂」は一本に「脚既」と作る)、胸部前に向かって伏塌し、脊背後に向かって仰折す。これら皆射法の中の骨髓に深く入る痼疾なり。反し來れば、身體の前挺は猛虎の正に騰躍せんと欲するが如く、額頭の前俯は壯士の孩童を抱起して將に爭鬥せんとするが如く、弓を推し出すは懷中より一輪の明月を吐出するが如く、箭杆の放平は弦上に一杆の秤衡を懸けるが如し。これら纔か儀態優美にして合度の樣子なり。

控弦者二法:無名指壓小指,令中指壓大指,頭指當弦直立,中國法也;屈大指,以頭指壓勾指,此胡法也。胡法力少利馬上,漢法力多利步用。然其特妙在頭指間,世人皆以其指末齪弦,致箭曲又傷羽。但令指面隨弦直堅,則脆而易中,其致遠乃過常數步。古人以為神而秘之。故法不使大指過頭指,亦為妙爾。其執弓於便把箭入厄後,當四節指本節,平其大指成(即承)鏃,卻其頭指使不礙,則和美有聲而後快也。射之道備矣。

弦を扣くに兩種の手法あり。無名指小指を壓し中指拇指を壓し食指弓弦に對して直立す。これ是れ中原の射法なり。拇指を屈起して弦を勾き再び食指を以て拇指を壓す。これ是れ胡人の射法なり。胡法力を省き馬上の使用に便し。漢法力を費やし步戰の使用に便し。不過その中の最も精妙の處は食指の用法に在り。世人多く指尖を以て弓弦を咬住せしめて、結果箭の出づる時彎曲し、還って箭羽を磨損す。ただ指面をして弦に順い直挺挺に貼緊せしめば、撒放乾脆利落にして命中し易く、射程還って平常より多く出でること好幾步なり。古人これを神技と看倣して秘めて外に傳えず。ゆえに射法は拇指をして食指を越過せしめず。正に是れこの妙處なり。弓を持する時、箭を弓弣(握把の處)に搭進して後、第四指の本節を以て抵住し、拇指を放平して箭鏞を承住せしめ(「成」は當に「承」と作るべし)、食指を縮開して它を妨礙せしめず。かくすれば撒放の時和順悅耳にして弦聲清脆にして、纔か痛快と算す。射箭の門道此に到りて就ち完備す。

教旗第八十七

凡教旗幟,平原曠野登高遠視處,大將居其上,南向。左右各置鼓一十二面,各樹五色旗,六纛居前,列旗節次之。監軍使禦史裨副次,左右衙官隊如偃月形為後騎。下臨平野,使士卒目見旌旗,耳聞鼓角,心存號令。

凡そ旗號を教練するは、平原曠野の中の登高して遠望し得る地方を選ばんを要す。主將高處に坐鎮し、面南方に朝かす。左右各々戰鼓十二面を設け、各々五色旗を豎て、六面の大纛最前に列し、其餘の旌旗と符節と依次に後面に排す。監軍使・御史と裨將・副將と再び依次に排列し、左右衙官の領する所の隊伍は偃月形に擺成して、後面の騎隊に充作す。臺下平野に俯臨して、士卒をして眼裏旌旗を看見せしめ耳裏鼓角を聽到せしめ心裏號令を牢記せしむ。

乃命十將左右決勝將總一十二將一萬二千人去。兵刃以精新,甲冑幡幟分為左右廂,各以兵馬使為長,班布其次。陣間容陣,隊間容隊,曲間容曲。以長參短,以短參長。回軍轉隊,以後為前,以前為後。進無奔迸,退無遽走(孫子所謂“紛紛紜紜,鬥亂而不可亂;渾渾沌沌,形圓而不可敗”者,此之謂也)。

於是乎十將・左右決勝將等共に十二員の將領を命じ、一萬二千人を率いて出場演練せしむ。兵器は精良嶄新なるを要し、甲胄と幡旗と左右兩廂に分かち、各々兵馬使を以て主管と爲し、班次に按じて布列す。陣と陣との間一箇の陣を容れ得べく、隊と隊との間一箇の隊を容れ得べく、曲と曲との間一箇の曲を容れ得べく做到すべし(「曲」は隊以上の編制單位なり)。長兵器を以て短兵器を夾雜し、短兵器を以て長兵器を夾雜す。軍を回し隊を轉ずる時候、後隊變じて前隊と作し前隊變じて後隊と作す。前進亂奔衝撞するを許さず、後退倉皇逃散するを許さず(《孫子兵法》の説く所の「紛紛紜紜にして、鬥亂して亂る可からず。渾渾沌沌にして、形圓くして敗る可からず」とは、講ずる所正に此の種の境界なり)。

以正合,以奇勝。聽音視麾,乍合而乍動之便也。每一陣分校(四校皆有立校),五校各立將軍校尉,以準於古。每校亦各自陣數,其分佈隊伍皆準圖之(逐部兵器率以槍戰)。戈鉦居首隊而包於弓弩焉(包於弓弩,一作包弓弩於十)。左校以青龍旗表之,右校以白虎旗表之,中校軒轅大將所處。左鼓右旗,四陣普同。謂之一隊者,三十五人。一部者,二十隊也。每一校不常其部,各列陣數應敵之勢,貴戰鬥之際前後不相交亂也。

正兵を以て敵と交鋒し、奇兵を以て奇を出だして勝を制す。士卒鼓角の音を聽き麾旗の指す所を看て、忽ち聚合し忽ち移動し、全く指揮の便捷に在り。每一陣若干の校を分設し(四校皆各々立校を設立す)、五校各々將軍・校尉を設けて統領し、以て古制に合乎す。每一校もまた各々自己の陣數ありて、隊伍の分布皆陣圖に依照す(各部の兵器一般に長槍を以て主戰の具と爲す)。戈を執り鉦を鳴らすは首隊に居り、外面は弓弩手を以て環護す(「包于弓弩」は一本に「包弓弩于十」と作る)。左校は青龍旗を以て標識を作し、右校は白虎旗を以て標識を作し、中校は則ち軒轅大將の坐鎮する處なり。左邊鼓を擊ち右邊旗を擧げ、四陣一律相同じし。謂う所の一「隊」は、三十五人なり。一「部」は、二十隊なり。每一校の轄する所の部は倂べて固定せず。各々敵に應ずる形勢に按じて陣數を排列し、緊要なるは交戰の際前後互いに交錯混亂を致さざるに在り。

飛鶚陣,前校出首騎者,所以為重也。前出一部為觜,次四部為面,餘五部包之於首。左右校出騎兵者,內以副身,外以副項及首也。夫鶚以搏擊為俊,故陣欲觜爪之利焉。

飛鶚陣は、前校頭を打つ騎兵を派出するは、爲す所は前鋒の分量を加重するなり。最前一部を伸出して鳥の「喙」に充當し、その後四部は鳥の「面」に充當し、餘下の五部は鳥首の周圍に環包す。左右兩校の派出する騎兵は、對內に鳥の「身」を輔助し、對外に鳥の「頸」と鳥の「首」とを輔助す。鶚鳥は凶猛搏擊を以て見長す。ゆえにこの陣の要害就ち喙と爪の銳利に在り。

重霞陣,衛其不動,即分兩穗從旁擊焉。敵若驚亂,前校騎兵兩穗進擊。步士則不可輕進,但在本處受戰。若前沖騎退即前校騎兵進,前校騎兵退即前沖騎兵進。夫雲霞以開闔進退不常其法,故前校騎兵往來氤氳以象之也。

重霞陣は、主體守卫して動かず、別に兩「穗」(兩支の側翼縱隊)を分出して旁より襲擊す。敵人若し衝かれて驚慌散亂せば、就ち前校騎兵の兩穗に由って一齊に進撃す。步兵卻って輕易に前出すべからず。ただ原地に在りて承接して迎戰す。若し前面衝擊の騎兵退回し來れば、就ち前校騎兵を換えて上前せしめ、前校騎兵退回し來れば、再び前衝騎兵を換えて上前せしむ。雲霞の形態開合進退して變幻定まらず。ゆえに前校騎兵をして往來交錯して雲氣氤氲の如くせしむるは、取る所正に此の意象なり。

長虹陣及八卦陣,皆有沖實。外以安敵之不意,內以衛大陣也。夫長虹以為名者,取陣形彎前扼敵之勢。八卦以名之者,取八面受敵之象也。

長虹陣と八卦陣とは、皆衝陣と實陣とを配備す。對外に用いて以て敵の不意を出でて敵人を壓制し、對內に用いて以て中央大陣を護衛す。長虹の得名する所以は、陣形の前に向かって彎曲して虹の如く敵人を扼制する態勢を取るなり。八卦の得名する所以は、八面皆能く敵を受けて應戰する形象を取るなり。

凡四陣逐步結陣之法,橫七隊為首,橫七隊為身,橫六隊為尾。部兵每一部橫七十步,首橫七十步,厚十步,身亦如之,尾橫六十步,厚十步。身去首二步,前後並同。騎兵每一步橫一百四十步,厚六十步八步,首橫一百二十步,厚二步,身亦如之,尾橫一百二十步。身去首四步亦如之。

四陣步兵に按じて結陣する通則は、橫列七隊を以て陣首と爲し、橫列七隊を以て陣身と爲し、橫列六隊を以て陣尾と爲す。步兵每一部の橫寛は七十步、陣首の橫寛は七十步・縱深は十步、陣身もまた此の如し、陣尾の橫寛は六十步・縱深は十步。陣身の陣首を距ること二步、前後各段一律相同じし。騎兵每一部の橫寛は一百四十步・縱深は六十步(原文「厚六十步八步」、數字に衍誤あり)、陣首の橫寛は一百二十步・縱深は二步、陣身もまた此の如し、陣尾の橫寛は一百二十步。陣身の陣首を距ること四步、其餘の各段同じく辦理す。

受戰之時,大陣不可輒動,敵眾未薄則大敵離。於是三令五申:白旗點,鼓音動,則左右廂齊合;朱旗點,角聲動,則左右廂齊離。合與離皆不離中央之地。左廂陽回而旋,右廂陰回而旋,左右各復本位。

戰に接する時候、中央大陣は輕易に挪動すべからず。敵軍未だ逼近せざれば、就先ず法を設けて大股の敵人を分離開來せしむべし。於是乎反復に號令を申明す。白旗點動し鼓聲響起せば、左右兩廂就ち一齊に合攏す。朱旗點動し角聲響起せば、左右兩廂就ち一齊に分離す。合なりと離なりとを論ぜず、皆中央の本位を脫離せず。左廂は陽道に依って左に回旋し、右廂は陰道に依って右に回旋し、旋畢れば左右各々自ら原來の位置に回到す。

白旗掉,鼓音動,左右各雲蒸鳥散,彌川絡野,然而不失部伍之疏密;朱旗掉,角聲動,左右各復本位。前後左右,無差尺寸。散則法天,聚則法地。如此則三合三離,三聚三散。不如法者,吏士罪之,務從軍令。於是大將出五彩旗十二口,各樹於左右廂陣前。每旗用壯勇士五十人,奪旗者勝,失旗者負,勝賞而負罰。離合之勢,聚散之形,勝負之理,賞罰之信,因是而教之。

白旗搖動し鼓聲響起せば、左右兩廂便ち雲氣の蒸騰し鳥群の飛散するが如く鋪展開去り、山川を彌漫し原野を羅絡す。然れども隊伍の疏密の間距絲毫亂れず。朱旗搖動し角聲響起せば、左右兩廂また各々本位に收回す。前後左右の距離、分毫差さず。散開の時は天之無窮を效法し、聚攏の時は地之厚載を效法す。此の樣に照らして三度合・三度離・三度聚・三度散を演練す。法度に合わざれば、就ち軍法に依って相關の官兵を處治し、務めて人人軍令に服從せしめん。最後に主將五彩旗十二面を取出し、分別に左右兩廂の陣前に豎て、每一面の旗に壯勇の士五十人を派して守護せしめ、旗を奪得するは勝と算し、旗を丟失するは負と算し、勝者賞を受け負者罰を受く。分合の態勢・聚散の形狀・勝負の道理・賞罰の信實は、即ち此の場の演練を借りて全軍に教うるなり。

(圖缺)

(原書此處に教旗陣圖を附すも、圖已に亡佚す。)

校獵第八十八

校獵,一人守圍地三尺,量其人多少,以左右兩將為校頭,其次左右將,各主士伍為行列,皆以金鼓旗為節制。其初起圍張翼,隨山林地勢遠近部分。其合圍地,虞候先擇定訖,以善弧矢者為圍中騎。其步卒槍幡守圍,有漏獸者,坐守圍吏。大獸公之,小獸私之,以觀進止之節。亦教之一端也。

校獵は、即ち圍獵を以て戰陣を演習するなり。每人圍地三尺を守り、參加の人數に按じて圍場の大小を計算す。左右の兩將を以て校頭に充當し、その下再び左右將を設け、各々士卒を統領して行列に排成せしめ、一律に金を鳴らし・鼓を擊ち・旗を擧ぐるを以て號令を節制す。開始の時兩翼を張開して合圍し、山林の地勢の遠近に依って各部の守る所の地段を劃分す。合圍の地點は、先ず虞候に由って勘察選定す。弓箭を善く使う人を挑選して圍場中の騎手に充當し、步卒は則ち手に槍と幡とを執りて圍圈を守住す。若し野獸の圍中より漏出する有れば、就ちあの段の守圍の官吏の罪責を追究す。獵獲の大獸は公に歸し、小獸は箇人に歸す。此を借りて部隊の進退止息の節制を考察す。これもまた士卒を教練する一種の辦法なり。

軍樂第八十九

夫軍中作樂,所以激揚壯氣,和其心忄舀其憂而已,故其樂但清厲峭拔雄壯之音。至於彈弦鼓簧柔靡之音,使人悲感怨懟者,皆不可取焉。其戲亦取壯猛而可觀者,樂鼓、杖笛、篥、鉦拍多少,隨部伍用戲板橛、角抵、馬騎、飛石、劍鬥、斫刀、搶牌(師子)。

軍中に樂を奏ずるは、爲す所は士氣を激揚し軍心を調和し將士の憂悶を寬解するのみ。ゆえに軍樂はただ清亮激越・峭拔雄壯の曲調を取る。撥弦吹簧のあの一類の柔靡の音に至っては、能く人をして悲傷感懷し怨懟を心生ぜしむるは、一概に采用すべからず。軍中の百戲もまたただ雄壯勇猛・觀賞に供し得べき項目を取る。樂器鼓・杖笛・觱篥・鉦・拍板等の如きは、數量各部伍の編制に依って配備す。表演の項目は則ち戲板橛(棍棒を弄す)・角抵(摔角)・馬術騎射・飛石・劍鬥・斫刀および搶牌(即ち獅子を舞うの一類)あり。

軍賜第九十

錦袍、金帶、銀帶、銀壺瓶、金壺瓶、金錢、銀錢,每一文重一兩。所得敵人財帛,所得敵人婦女、酒食、鞍馬、弓箭、玩好等,皆充軍賜之物。

軍中の賞賜に充作する物品あり。錦袍・金帶・銀帶・銀壺瓶・金壺瓶・金錢和び銀錢、金銀錢每一文重さ一兩なり。此の外、敵方より繳獲する財貨布帛、および俘獲の敵方の婦女、繳獲の酒食・鞍馬・弓箭・玩賞器物等等も、皆用いて以て將士を犒賞する物に充當し得べし。

大將軍員第九十一

大將軍一人,智信義勇賢明者任。副將二人,一主軍糧,一主支糧,智信仁勇忠義平直者任。總管四人,嚴勇諳識軍容者任,二主虞候,二主押衙。子將八人,明行陣金鼓曉部置者任。

大將軍一人を設け、智謀有り信義を守り勇敢賢明の人に由って擔任せしむ。副將二人、一人は軍糧の收储を主管し、一人は軍糧の支發を主管し、智信仁勇・忠義正直の人に由って擔任せしむ。總管四人、嚴明勇敢にして軍容典制に熟悉の人に由って擔任せしめ、その中二人は虞候の事(偵察巡查)を主管し、二人は押衙の事(護衛儀仗)を主管す。子將八人、行軍布陣に通曉し金鼓號令を明白にし部伍の編置に熟知の人に由って擔任せしむ。

大將別奏八人,亻兼十六人,副大將總管別奏並同大將,忠勇有才者任。判官二人,沉厚密謀者任。偏闢腐儒,不堪令禮儀賓客祭祀,與四人兵會騎曹。

大將屬下の別奏(奏報を專司する屬官)八人、傔人(身に隨いて役に供する親從、原文「傔」の字を「亻兼」と拆す)十六人。副大將・總管の設くる所の別奏は、員額大將と相同じく、皆忠勇にして才幹有る人に由って充任す。判官二人、沉穩厚重にして密謀に善なる人に由って擔任せしむ。偏僻迂腐の儒生に至っては、委ねて軍務に堪えず、ただ彼らをして禮儀を掌管し賓客を接待し祭祀を主持するの一類の事に往かしむるのみ(此の句原文脱誤あり、文義盡く通ずべからず)。別に四人を配して、兵曹・騎曹と會同して辦事せしむ。

陣將軍員第九十二

偏將一人,勇猛果敢、揮戈掉劍、力敵百夫、好勇者任。副偏將二人,子將四人,明旌旗金鼓節令者任。虞候二人,多機謀能擒奸摘伏者任。承局二人,點平更漏,無失糾舉。偏將別奏六人,亻兼一十二人。副將奏同亻兼,判官一人,虞候亻兼、充子虞候八人,典二人。

偏將一人、勇猛果敢にして能く戈を揮い劍を舞い力百人を抵擋し得べくしてまた勇を好み戰に善なる人に由って擔任せしむ。副偏將二人、子將四人、旌旗・金鼓等の號令法度に通曉の人に由って擔任せしむ。虞候二人、智謀足りて奸細を擒獲し潛伏の敵を揭發するに善なる人に由って擔任せしむ。承局二人、更漏の時刻を校點するを負責し、糾察擧報に失するを得ず。偏將屬下の別奏六人、傔人十二人。副將の設くる所の別奏と傔人の員額相同じし。判官一人。虞候の傔人および子虞候に充任するは共に八人。典吏二人。

隊將軍員第九十三

押官一人,經軍陣習戰鬥。隊頭二人,副隊二人,主文書名目點簿,酬功行賞,知勞苦,明部隊行列。秉旗一人,副旗二人,勇者用。抱鼓一人,主昏明,警進止。吹角一人,主收軍。司兵一人,主五兵利鈍。提轄承局一人,主雜差科惡,口舌無人情者即任。火長五人,主持採等。

押官一人、須く戰陣を經歷し戰鬥に熟習の人なるべし。隊頭二人・副隊二人、文書名冊と點檢簿籍とを主管し、功勞を酬報し賞格を施行し、士卒の勞苦を體恤し、本隊行列の編次を明了す。掌旗一人・副旗二人、勇敢の人を用うるを要す。抱鼓一人、早晚の報時を主管し、隊伍の進止を警示す。吹角一人、兵を收め營に歸る號令を主管す。司兵一人、弓・殳・矛・戈・戟の此の「五兵」即ち五種の兵器の鋒利と鈍損とを主管す。提轄承局一人、各種の雜役差派と難辦の差事とを主管し、口舌是非を怕れず人情に徇らざる人を挑んで擔任せしむるを要す。火長五人、本火の采買等の事務を主管す。

征馬第九十四

徵馬副一人,副大將擇能養者(已下並同)。總管二人,副將子將八人,軍隊子將押官五十人,群頭五百人,善騎馬奔走者任。馬子一千人,軍外差能者禦之。

征戰の馬匹を掌管する副職一人、副大將に由って養馬に善なる人の中より挑選す(以下の各職皆此に照らして辦理す)。總管二人、副將・子將八人、各軍隊の子將と押官五十人、群頭五百人、皆馬に騎りて奔馳するに善なる人に由って擔任せしむ。馬子(馬を養うを專職とする役夫)一千人、軍外より有本事の人を徵調して駕馭管理せしむ。

牧放第九十五

諸營各作異旗一,放馬,每隊作認旗。放驢於外,其馬中央,令四面援馬。放驢馬子並宜於驢群四面,圍達驢群知更。如狂賊偷馬,例須(一作到傾)奔走,驢在外,驅趁稍難。以次防閑亦甚,尤便營別。即令別放,諸群不得相交。非直發引之不難,忽有不虞追喚亦易。

各營皆一面の衆と異なる旗子を制作すべし。馬匹を牧放する時、每一隊再び各々一面の認旗を作る。牧放の布局は、驢群外圍に放ち馬群居中に居らしめ、驢をして四面より馬を護住せしむ。驢を放つ牧夫皆應當に驢群の四周に分布し、驢群を環圍して輪番に更を值すべし。假如凶悍の盜賊ありて馬を偷に來れば、照例總じて馬を驅って奔逃せしむるを要す。驢群外圈に擋りて、賊人の驅趕するを起こし較べて困難ならしむ。かくして依次に防を設け攔阻するもまた格外嚴密にして、兼ねて各營の分別管理に便す。ゆえに各營をして分頭に牧放せしめ、各群の牲口混雜交錯するを得ざるを下令するを要す。かくすれば不但に營を拔き出發する時隊を整うるに易く、萬一意外の情況ありて緊急に追喚するを需うるも、また找い回るに易し。即ち謂う所の各軍の驢馬牧放に一片に連なるを得ざるの道理なり。

諸將軍立營,驢馬各於所管地界放牧。如營側草惡,使擇好處放。仍與虞候計會,不使交雜,各執本營認旗。如須追喚,見旗疾知驢馬處。所謂諸軍驢馬牧放不得連繫。每軍營,令定一官專檢校逐水草,合群牧放,仍定一虞候果貂專巡諸營水草。令各分界牧放,不使參雜。

各位の將軍營を扎して後、驢馬皆本營の管する所の地界の內に於て牧放す。若し營旁の草質好からざれば、別に水草の好き地方を選びて放つ可きも、仍ほ須く虞候と商定して、各營の牲口をして混雜せしめず、各隊皆本營の認旗を執らしむべし。一旦緊急に追喚するを需うれば、旗色を望見すれば便能に立刻驢馬の所在を知る。これすなわち謂う所の各軍驢馬の牧放一片に連成するを得ざるの道理なり。每一軍營、一名の官員を指定して專ら水草を察看し合群して牧放するを管せしめ、再び一名の虞候を指定して(「果貂」の二字原文疑いに訛誤あらん)專ら各營の水草を巡查せしむ。總じて各々地界に按じて牧放して、彼此摻雜せしめざるを要す。

四陣統論第九十六

四陣圖者,非古陣也。臣切見李筌纂聚諸家陣圖,但有形勢而已。其部位行列,精微尺寸,則莫能釋然。其名既多,其要則寡。臣因辯古陣之法,創造新意,別為四陣之施,可禦而變。因著論以明之。

此の四種の陣圖は、倂べて古代より傳下る舊陣に非ず。臣(許洞の自稱)曾て唐人李筌の彙集する所の各家の陣圖を細看す。あれらの圖はただ大致の形勢を畫出するのみにして、各部の位置・行列の次第・精細到寸の分寸に至っては、皆説き明白ならず。名目多しと雖も、切要の處少し。臣此に因って古代の結陣の法度を考辨し、別に新意を創し、別に此の四種の陣法を立て、既に據って以て防禦し得べく、また隨機に應變し得べし。於是乎此の篇の統論を寫下して以て説明を加う。

論曰:臣聞兵陣戰場,立功之所,不能規度以固法,何以取功決勝而定天下乎?是故結陣之術不可疏,疏則難應;不可密,密則難用。首欲棲,翼欲輕,腹欲實,尾欲正。棲者不可使過,輕者不可使淩,實者不可使不應機,正者不可使不知便(即變)。

論中に説く。臣聞く、陣を列ねて交鋒する戰場は、正に功業を建立する所在なり。若し能く規劃度量し穩固の法度を定出せざれば、何を憑って勝を取り功を立て天下を平定せんや。ゆえに結陣の術は、太疏なる可からず。太疏ければ各部難しく相互に接應す。もまた太密なる可からず。太密ければ兵力難しく施展す。陣首は鳥の枝頭に栖るが如く高踞するを要し、兩翼は輕捷なるを要し、腹心は充實なるを要し、陣尾は端正なるを要す。但し高踞過分なる可からず、輕捷輕率凌亂に流るる可からず、充實實して隨機應變する能わざるに到る可からず、端正正して通權達變を知らざるに到る可からず(「便」は即ち「變」の字なり)。

今之所定四陣者,十萬人之正陣也(人數之多少臨時增減,此非執蓋此十萬人為準則焉)。每一陣,步兵七萬,騎兵七萬,以為常準。但四陣更變,各隨所便而用之爾。每步兵一人占地兩步,騎兵一人占地四步,取其出入輕各受敵。

現在の擬定する所の此の四種の陣は、十萬人規模の正規の大陣にして(實際の人數は臨時に增減し得べく、倂べて此の數を死守するに非ず。ただ十萬人を以て推算の準則と爲すのみ)、每一陣の中、步兵七萬・騎兵七萬(兩數相加するは十萬の總數と合わず、「騎兵七萬」は疑いに當に「騎兵三萬」と作るべし)、以て通常の標準と爲す。四陣の間相互に變換し得べく、各々形勢の便利に隨って運用するのみなり。每名の步兵地兩步を占め、每名の騎兵地四步を占む。爲す所は隊伍をして出入輕便にして各々皆能く敵人を承接せしめんとなり。

夫四陣我應之法:若敵為彎陣,我以飛鶚陣應之;敵為直陣,我以重覆陣當之;敵為突陣,我以長虹陣當之;敵用兵四面圍我,我以八卦陣當之。此所謂應敵者也。其逐校所動,各因敵之去就焉。

此の四種の陣を以て敵に應ずる辦法は、若し敵人彎月形の陣を擺成せば、我就ち飛鶚陣を以て應對し、敵人平直の陣を擺成せば、我就ち重覆陣を以て抵擋し、敵人突擊の陣を以て猛衝し來れば、我就ち長虹陣を以て抵擋し、敵人四面合圍して我軍すれば、我就ち八卦陣を以て抵擋す。これ即ち謂う所の敵に因って變に應ずるなり。各校の何時に出動するかに至っては、則ち各々敵人の進退の動向に按じて決定す。

善結陣者,先結人心。何謂先結人心?賞罰明也。欲士伍應變之精熟,在日月數習之。不能教陣者,是舉其師伍與敵也。夫孔子云:以不教人戰,是謂棄之。此之謂也。雖萬變之機,不能精於陣戰之事,與愚者同也。然善戰者不陣。騎兵也,一部謂之五百;步兵也,部如騎之數。

善く陣を結ぶ人は、先ず人心を結住するを要す。何をか先ず人心を結ぶと謂う。就ち是れ賞罰分明なり。士卒をして陣に臨みて應變嫻熟せしめんと要すれば、全く平日月に按じ日に按じて反復演練するに靠る。肯えて陣法を教練せざる將領は、自己の部隊を拱手して敵人に送るに等し。孔子曾て説きて曰く、「訓練を受けざる百姓を以て作戰せしむるは、これを彼らを抛棄すると謂う」(語は《論語・子路》を見よ)と。説く所正に此の道理なり。縱い隨機萬變の巧智ありと雖も、若し能く陣戰の事を精熟せざれば、もまた愚人と異なるなし。然れども眞正に善戰の人は、往往にして必ずしも陣を擺るに拘泥せず。騎兵の編制は、一部を五百人と叫作す。步兵の編制は、一部の人數騎兵と相同じし。

飛鶚陣第九十七

前校首騎三陣一十部,合成五千騎。一陣一部,長一百四十步;第二陣四部(左右各只一隊,大陣中並同),長一里二百步(計五百六十步);第三陣五部,長一里三百四十步(計七百步)。前校項兵三陣,步兵二十七步,合一萬三千五百人。第一陣九部,長一里二百七十步(計六百三十步);第二陣並第三陣亦如之。

飛鶚陣の部署は次の如し。前校の鳥首に充當する騎兵は、共に三陣十部、合して五千騎なり。第一陣一部、橫長一百四十步。第二陣四部(左右各々ただ一隊を列すのみ、大陣の中一律此の如し)、橫長一里二百步(五百六十步に合す、本書每里三百六十步を以て折算す)。第三陣五部、橫長一里三百四十步(七百步に合す)。前校の鳥頸に充當する兵力は共に三陣、步兵二十七部(原文「步」は當に「部」と作るべし)、合して一萬三千五百人。第一陣九部、橫長一里二百七十步(六百三十步に合す)。第二陣と第三陣もまた此の如し。

中校五陣,步兵九十二步,合四萬六千人。第一陣二十一陣(即部),長四里三十步(計一千四百七十步);第二陣、第三陣、第四陣亦如之;第五陣八部,長一里二百步(計五百七十步)。後校尾兵一直陣,步兵二十一步,合(舀計一千四百七十步)。

中校共に五陣、步兵九十二部、合して四萬六千人。第一陣二十一陣(即ち二十一部)、橫長四里三十步(一千四百七十步に合す)。第二陣・第三陣・第四陣もまた此の如し。第五陣八部、橫長一里二百步(五百七十步に合す)。後校の鳥尾に充當する兵力は一箇の直陣にして、步兵二十一部(此處原文人數を脱し、僅かに「計一千四百七十步」の數を存す。「舀」の字は殘文なり)。

左校爪騎二陣五步,合二千五百騎。第一陣二部,長一里六十步(計四百二十步);第二陣長一百八十步。右校爪騎亦如之。左校翼騎四陣,二十步,一萬騎。第一陣五部,長一里三百四十步(計七百步);第二陣、第三陣、第四陣亦如之。右校翼陣亦如之。

左校の鳥爪に充當する騎兵は共に二陣五部、合して二千五百騎。第一陣二部、橫長一里六十步(四百二十步に合す)。第二陣橫長一百八十步。右校の爪騎は此と相同じし。左校の鳥翼に充當する騎兵は共に四陣二十部、合して一萬騎。第一陣五部、橫長一里三百四十步(七百步に合す)。第二陣・第三陣・第四陣もまた此の如し。右校の翼陣もまた此と相同じし。爪騎は鳥身の兩側靠前の處に列し、翼騎は更に外の一層に張開し、合して正に鶚鳥の雙爪と兩翼とを構成す。

前校首騎三陣之中,兩處各虛六十八步,計一百三十六步,在內虛實都厚三百四十步。前校項兵三陣之中,兩處各虛三、四步,計六十八步(一作一百三十步),虛實都厚三百七十步。中校五陣之中,四處各虛三十四步,計一百三十六步,虛實共厚三百六步。後校一陣,厚三十四步。右校爪騎二陣之中,一處虛六十八步,計二百四步,虛實都厚一里一百一十六步。左校翼騎亦如之。

各陣の間の留出する空隙は次の如し。前校首騎三陣の中、兩處各々六十八步を空け、合計一百三十六步、空隙を連ねて內に算え、虛實合計して縱深三百四十步。前校頸兵三陣の中、兩處各々三十四步を空け(原文「三、四步」と作るも、下文「計六十八步」に據れば當に三十四步と知るべし)、合計六十八步(一本に一百三十步と作る)、虛實合計して縱深三百七十步。中校五陣の中、四處各々三十四步を空け、合計一百三十六步、虛實合計して縱深三百零六步。後校一陣、縱深三十四步。右校爪騎二陣の中、一處六十八步を空け、合計二百零四步、虛實合計して縱深一里一百一十六步。左校の翼騎もまた此の如し。

前校之項前去首騎之末三百四十步,中校之首去前校項兵之末一百七十步。後校之首去中校之末,自前校首共之,到後校之並虛在內,共厚四里二百二十步(計一千六百七十步)。左校爪騎居中校左校相接之地,中校稍前一百三十步。右校爪騎所居之地亦如之。左右校低於中校第二陣一隊,與中校相去各一里四十步,統成一大陣,虛實共長八里二百七十步,計三千一百五十步。

各校の間の間距は、前校頸兵の前沿は、首騎の末尾を距ること三百四十步。中校の前沿は、前校頸兵の末尾を距ること一百七十步。後校の前沿の中校の末尾を距るは、若し前校首騎より算起して一倂に計算し、後校に到るまで、各處の空隙を皆內に算え、共に縱深四里二百二十步(一千六百七十步に合す)。左校の爪騎は中校と左校と相接する地方に處り、中校より稍々靠前一百三十步。右校爪騎の處する所の位置もまた此の如し。左右兩校は中校第二陣より低きこと一隊、中校と各々相距ること一里四十步。以上の各部は一箇の大陣を合成し、虛實合計して橫長八里二百七十步、共に三千一百五十步なり。

(圖缺)

(原書此處に飛鶚陣圖を附すも、圖已に亡佚す。)

長虹陣第九十八

前校三陣,步兵三十七部,合一萬三千五百人。第一陣九步,長一里二百七十步(計六百三十步);第二、第三陣亦如之。中校五陣,步兵九十二部,合一萬六十(作千)人。第一陣一十九部,長三里二百五十步,計一千三百三十步;第二陣二十一部,長四里三十步(計一千四百七十步);第三、第四陣亦如之;第五陣一十部,一里三百四十步(計百七步)。

長虹陣の部署は次の如し。前校共に三陣、步兵二十七部(原文「三十七部」と作るも、下文三陣各々九部に據って計れば、當に二十七部なり)、合して一萬三千五百人。第一陣九部(原文「步」は當に「部」と作るべし)、橫長一里二百七十步(六百三十步に合す、本書每里三百六十步を以て折算す)。第二陣・第三陣もまた此の如し。中校共に五陣、步兵九十二部、合して四萬六千人(原文「一萬六十人」と作るも、注中また「作千」と云う、數字に訛脱あり)。第一陣十九部、橫長三里二百五十步、一千三百三十步に合す。第二陣二十一部、橫長四里三十步(一千四百七十步に合す)。第三陣・第四陣もまた此の如し。第五陣十部、橫長一里三百四十步(七百步に合す、原文「計百七步」は脱字あり)。

後校一陣步兵二十一部,合一萬五百人,長四里三十步(計一千四百七十步)。右校沖騎二陣八部,合四十騎。第一陣五步,左右各抵隊,長一里三百四十步(計一千步);第二陣亦如之。第三陣六部,長二里一百二十步(計八百四十步);第四陣亦如之。左校四陣,與左校同法。

後校一陣、步兵二十一部、合して一萬零五百人、橫長四里三十步(一千四百七十步に合す)。右校の衝擊を擔任する騎兵は共に二陣八部、合して四千騎(原文「四十騎」と作るも、當に一「百」の字を脱す)。第一陣五部(原文「步」は當に「部」と作るべし)、左右各々一隊を抵住し、橫長一里三百四十步(七百步に合す、原文「計一千步」は誤り)。第二陣もまた此の如し。第三陣六部、橫長二里一百二十步(八百四十步に合す)。第四陣もまた此の如し。左校四陣は、右校と同じ辦法を用う(原文兩處皆「左校」と作るも、上の一處は當に「右校」と作るべし)。

前校三陣之中,二處各虛三十四步(計六十八步),左內都厚一百七十步。中校五陣之中,四處各虛三十四步,計一百三十六步,虛實都厚二百六步。後校一陣,都厚三十四步。左校沖騎亦如之。中一處虛六十八步,虛實都厚二百四步。右校沖騎亦如之。左校四陣之中,三處各虛五十八步,計二百四十步,虛實都一里一百二十二步(計四百七十二步)。右校亦如之。

各陣の間の留出する空隙は次の如し。前校三陣の中、兩處各々三十四步を空け(六十八步に合す)、空隙を連ねて內に算えて合計縱深一百七十步(原文「左內」は當に「在內」と作るべし)。中校五陣の中、四處各々三十四步を空け、合計一百三十六步、虛實合計して縱深二百零六步。後校一陣、合計縱深三十四步。左校の衝騎もまた此の如し。その中一處六十八步を空け、虛實合計して縱深二百零四步。右校の衝騎もまた此の如し。左校四陣の中、三處各々五十八步を空け、合計二百四十步、虛實合計して一里一百二十二步(四百七十二步に合す)。右校もまた此の如し。

中校之首去前校之末一百五十步,後校之首去中校之末一百二十步。自前校之首到後校之末,虛實共厚二里六十步(計七百八十步)。自後校之首,左右校沖騎之末一百五十步。自左校沖騎之首到右校之末,虛實共厚一里三百一十六步(計六百七十六步)。右校沖騎到左校之末亦如之。

中校の前沿は前校の末尾を距ること一百五十步、後校の前沿は中校の末尾を距ること一百二十步。前校の前沿より後校の末尾に到るまで、虛實合計して縱深二里六十步(七百八十步に合す)。後校の前沿より算起して、左右兩校の衝騎の末尾に到るまで、相距ること一百五十步。左校衝騎の前沿より右校の末尾に到るまで、虛實合計して縱深一里三百一十六步(六百七十六步に合す)。右校衝騎より左校の末尾に到る距離もまた此の如し。これらの間距は皆各校に前後進退・輪番接戰の餘地を留出するが爲なり。

左右校角,各去中校角一十步,計二十步在內。左右校第一陣、第二陣,與中校齊頭(以向中校巡各一部為準,外府高於中校六十步),左右校角第三、第四陣,皆掩一百在中之後。統成一大陣,彎長七里二百三十步,計二千七百五十步。

左右兩校の角部は、各々中校の角部を距ること十步、兩邊合計して二十步皆陣內に算入す。左右兩校の第一陣・第二陣は中校と齊頭倂列し(中校に朝向する方向を以て各々一部を推出するを準と爲し、外圍中校より高きこと六十步)、左右兩校角部の第三陣・第四陣は、皆中陣の後の一百步の位置に掩蔽す。以上の各部一箇の大陣を合成し、彎曲の弧長は七里二百三十步にして、共に二千七百五十步なり。陣形長虹の空に橫たわるが如く、兩端前に向かって彎抱して敵を扼す。

(圖缺)

(原書此處に長虹陣圖を附すも、圖已に亡佚す。)

重覆陣第九十九

前校沖騎三陣,一十二部,合六十騎。第一陣六部,左右各抵一隊,長二里一百二十步(計八百四十步)。第二陣亦如之。前校四陣,步兵三十五步,騎兵八部,兵四十三步,計步、騎各二萬一千五百人。第一陣步兵九部,步騎兵左右各二部,計一十三部,長五里一百一十三步(計一千一百九十八之地各虛步,並步騎二處相接四步在內);第二陣步兵九步,長一里二百七十步,計六百三十步;第三陣與第四陣同法。第四陣步兵八步,長一里二百步(計五百六十步)。

重覆陣の部署は次の如し。前校の衝擊を擔任する騎兵は共に三陣十二部、合して六千騎(原文「六十騎」と作るも、當に一「百」の字を脱す)。第一陣六部、左右各々一隊を抵住し、橫長二里一百二十步(八百四十步に合す)。第二陣もまた此の如し。前校別に四陣あり、步兵三十五部・騎兵八部、共に四十三部(原文「步」は皆當に「部」と作るべし)、步・騎合計して二萬一千五百人。第一陣步兵九部、左右また各々騎兵二部を配し、共に十三部、橫長五里一百一十三步(一千一百九十八步に合す。各處の空隙および步・騎兩處相接の四步皆已に計入す、原文此の句倒脱あり)。第二陣步兵九部、橫長一里二百七十步、六百三十步に合す。第三陣と第四陣とは同じ辦法を用う。第四陣步兵八部、橫長一里二百步(五百六十步に合す)。

中校四陣,步兵八十四部,合一萬二千人。第一陣二十一隊,四里三十步(計一千一百七十步)。第二陣、第三陣、第四陣亦如之。後校一陣二十一步,合一萬五百人,長四里三十步(計一千四百七十步)。右校四陣,騎兵二十部,合一萬騎。第一陣五部,長一里三百四十步(計七百步)。第二陣、第三陣、第四陣亦如之。右校四陣,與左校同法。

中校共に四陣、步兵八十四部、合して四萬二千人(原文「一萬二千人」と作るも、八十四部每部五百人に按じて計れば當に四萬二千なり)。第一陣二十一隊、橫長四里三十步(一千四百七十步に合す、原文「一千一百七十步」は誤り)。第二陣・第三陣・第四陣もまた此の如し。後校一陣二十一部、合して一萬零五百人、橫長四里三十步(一千四百七十步に合す)。右校四陣、騎兵二十部、合して一萬騎。第一陣五部、橫長一里三百四十步(七百步に合す)。第二陣・第三陣・第四陣もまた此の如し。右校四陣は、左校と同じ辦法を用う。

前校沖騎二陣之中,一處虛六十八步,虛實都厚二百四步。前校四陣之中,三處各虛三十步,計一百二步,虛實都厚二百三十八步。騎兵即虛六十八步,厚薄同數。中校四陣之中,厚薄之數與前校同法,無騎兵數。後校一陣,後三十四步。

各陣の間の留出する空隙は次の如し。前校衝騎二陣の中、一處六十八步を空け、虛實合計して縱深二百零四步。前校四陣の中、三處各々三十四步を空け(原文「四」の字を脱す)、合計一百零二步、虛實合計して縱深二百三十八步。若し是れ騎兵なれば、就ち六十八步を空け、縱深の數目相同じし。中校四陣の中、縱深の數目は前校と同じ法にして、ただ騎兵の份額を計せざるのみ。後校一陣、その後三十四步を留出す。

左校四陣之中,三處各虛六十八步(計二百四十步),虛實都厚一里一十六步(計四百七十六步)。右校亦如之。前校之首去中騎之末二百步。自沖之首到後校之末,並虛在內,共厚二里二百三十四步(計一千三百一十四部)。左右校於中校平頭,各相去四步,計八步。在內統成一大陣,長七里三百五十八步,計三千八百七十八步。

左校四陣の中、三處各々六十八步を空け(二百零四步に合す、原文「二百四十步」は誤り)、虛實合計して縱深一里一百一十六步(四百七十六步に合す)。右校もまた此の如し。前校の前沿は中間騎兵の末尾を距ること二百步。衝騎の前沿より後校の末尾に到るまで、各處の空隙を皆內に算え、共に縱深二里二百三十四步(一千三百一十四步に合す、原文「部」は當に「步」と作るべし)。左右兩校は中校と齊頭倂列し、各々相距ること四步、兩邊合計して八步。これら皆陣內に算入し、一箇の大陣を合成し、橫長七里三百五十八步、共に三千八百七十八步なり。前後兩重彼此覆護す。ゆえに之を重覆陣と叫作す。

(圖缺)

(原書此處に重覆陣圖を附すも、圖已に亡佚す。)

八卦陣第一百

沖騎四穗各五部,每穗一部居中,中部則居於左右前各二處,各相去二十步,虛實彎長二里二十步(計七百四十步,每穗各二千五百,計四穗並同)。居大陣角前,披掩左右,去大陣三十步,不繫大陣厚薄之數。四陣並同法。

八卦陣の部署は次の如し。衝擊を擔任する騎兵は四「穗」に分かち、每穗五部、每穗一部を以て居中と爲し、居中の此の一部は左右・前方の各兩處の夾む中に安置し、彼此相距ること二十步、虛實合計して彎曲の長度二里二十步(七百四十步に合す。每穗各々二千五百騎、四穗一律相同じし)。四穗大陣の四角の前に分置し、左右に向かって披張して掩護し、大陣を距ること三十步、大陣縱深の數目に計入せず。四面の陣皆同じ辦法を用う。

前校四陣,步兵二十部,騎六部,共計六十四步,步、騎合一萬七千人。第一陣步兵七部,騎兵左右各二部,計一十一部,長二里三里五十八步(計一千五百八步,並部騎三處相接之地,各虛四步);第二陣步兵七部,長一里一百三十步(計四百九十步);第三陣步兵七部,騎兵左右各一部,計九部,長二里五十八步(計七百七十八步,虛法同前);第四陣與第二陣同法。右左後校並同前校法。

前校共に四陣、步兵二十部・騎兵六部、共に二十六部(原文「共計六十四步」は訛誤あり)、步・騎合して一萬七千人。第一陣步兵七部、左右各々騎兵二部を配し、共に十一部、橫長二里三百五十八步(一千五百零八步に合す。原文「二里三里」は一「里」の字を衍す。步・騎三處相接の地各々四步を空け、已に計入す)。第二陣步兵七部、橫長一里一百三十步(四百九十步に合す)。第三陣步兵七部、左右各々騎兵一部を配し、共に九部、橫長二里五十八步(七百七十八步に合す、空を留する法前面と相同じし)。第四陣は第二陣と同じ辦法を用う。右校・左校と後校とは、皆前校と同じ辦法を用う。

中校七陣,步兵二十八部,騎兵八部,共三十六部(部騎合一萬八千人)。第一陣步兵五部,騎兵右各一部,共七部,長一里二百七十八步(計六百八十六步,並步騎二處相接之地,各處四步);第二陣步兵五部,長三百五十步;第三陣、第五陣與第一陣同;第四陣與二陣同法;第六陣步兵三部,長二百一十一部;第七陣步兵二部,長二百八十步。

中校共に七陣、步兵二十八部・騎兵八部、共に三十六部(步・騎合して一萬八千人)。第一陣步兵五部、左右各々騎兵一部を配し(原文「騎兵右各一部」は一「左」の字を脱す)、共に七部、橫長一里二百七十八步(原文六百八十六步と計作すも、每里三百六十步に按じて折算すれば當に六百三十八步なり。步・騎兩處相接の地各々四步を空け、已に計入す)。第二陣步兵五部、橫長三百五十步。第三陣・第五陣は第一陣と相同じし。第四陣は第二陣と同じ法。第六陣步兵三部、橫長二百一十步(原文「二百一十一部」、「部」は當に「步」と作るべし)。第七陣步兵二部、橫長二百八十步。

前校四陣之中,三處各虛三十四部,計一百二部,虛實都厚二百三十八步。騎兵即虛六十八步,厚薄同數。左右後校並同前校法。中校七陣之中,六處各虛三十四步,虛實都厚一里一百一十六步(計四百七十六步)。

各陣の間の留出する空隙は次の如し。前校四陣の中、三處各々三十四步を空け(原文「部」は當に「步」と作るべし)、合計一百零二步、虛實合計して縱深二百三十八步。若し是れ騎兵なれば、就ち六十八步を空け、縱深の數目相同じし。左校・右校と後校とは、皆前校と同じ辦法を用う。中校七陣の中、六處各々三十四步を空け、虛實合計して縱深一里一百一十六步(四百七十六步に合す)。

中校不常其地,觀四面敵人力攻之處則應之。別出騎兵八部,居大陣四角之內。每二部,第二陣後一部兩哨,指大陣相去五步,第三陣後一部同前部法(四面並同)。

中校の位置は倂べて固定せず。四面の中の敵人全力猛攻する方位を觀察して、隨時移りて往きて策應す。別に騎兵八部を抽出して、大陣の四角の內に配置す。每角二部、その中第二陣の後の一部は兩哨を分かちて作り、大陣に朝向して、相距ること五步。第三陣の後の一部は、辦法前の一部と相同じし(四面皆此の如し)。

統成一大陣,每角前虛一百步,計四百步。在內徑三里一百八十步,計一千三百六十步。四方並同。外環一十二里三百一十三步(計四千六百三十二步)。如敵兵四面俱以沖騎力戰,大陣不可輒動。沖敵之進退,令無反自蹂踐我陣焉。

以上の各部一箇の大陣を合成す。每一角の前一百步を留空し、四角共に四百步。陣內の直径三里一百八十步、一千三百六十步に合し、四面皆此の數なり。陣外の周長十二里三百一十三步(四千六百三十二步に合す)。若し敵軍四面より同時に衝擊騎兵を以て猛攻せば、中央大陣切に輕易に挪動すべからず。ただ敵人を衝擊するの進退の間に於て分寸を把握し、務めて自家の騎兵をして反って自己の陣伍を踐踏せしめざらんことを致さん。

(圖缺)

(原書此處應に八卦陣の陣圖を附すべし、今已に亡佚す。)

飛轅陣第一百一

飛轅陣者,非古陣也。臣切謂戎馬以沖突為利,因此寨以禦之。每一束,竿四條,每四條長六尺五寸,徑方一寸五分。前間一尺為槍頭側立(槍頭以好鐵為之),一尺為幹過竿,方八尺二寸五分。筍中間二尺近鉆,方一寸五分。筍後間八寸為幹,三寸為鉆(鉆亦以鐵為之)。其竿各相去七寸一分,鑿圓竅以扇之。其方兩頭,各露六寸三分。

「飛轅陣」は倂べて古人の傳下る舊陣法に非ず。臣許洞以爲すらく、敵方の戰馬の最も擅長するは即ち衝鋒突擊なり。ゆえに此の種の槍刺を帶びたる車寨を以てそれを抵擋するを要す。飛轅の每一「束」(一組の構件)は、竿四條を用い、四條各々長さ六尺五寸、截面見方一寸五分。竿の前端一尺を留出し、側立の槍頭を裝し(槍頭は上好の熟鐵を以て打造するを要す)。再び一尺を留めて槍杆を作り、橫木を穿過し、橫木見方にして長さ八尺二寸五分。榫頭の中段二尺の處は「鑽」(尾端の鐵錐)に靠近し、もまた見方一寸五分。榫頭後に向かって八寸を留めて杆を作り、再び三寸を留めて鑽を作る(鑽同じく鐵を以て打造す)。四條の竿彼此相距ること七寸一分、橫木上に圓孔を鑿出し、竿を扇骨の如く張開して插進せしむ。橫木の兩頭各々六寸三分を露出す。

槍頭四條,每條長二尺五寸。內一尺為槍頭,一尺為幹(同前法),二寸五分入槍頭。方筍二寸五分,五分通過後以拴之。腳四度,每隻長四尺,徑方一寸五分。搭腦筍入一寸,上間一尺通竿,方入二寸五分。筍中間一尺一寸,置槍頭,方入二寸五分。筍下間一尺一寸,陷雲頭筍二寸。令透底腳,各居竿高中安置。兩畔間各闊七寸一分,中闊一尺五寸七分。

槍頭共に四條、每條長さ二尺五寸。その中一尺は槍刃、一尺は槍杆(做法前面と相同じし)、別に二寸五分槍頭座の裏に插進す。方形の榫頭長さ二寸五分、その中五分穿透して後再び木栓を以て別住す。支脚共に四根、每根長さ四尺、截面見方一寸五分。頂端の「搭腦」(橫擔)は榫入一寸、往上一尺の處竿を橫穿過し、方榫入ること二寸五分。榫頭の中段一尺一寸の處に槍頭を安放し、方榫もまた入ること二寸五分。榫頭往下の一尺一寸の處に、「雲頭」(起翹する彎木)の榫二寸を嵌入す。榫をして底脚に至るまで貫透せしめんを要し、各支脚皆竿身の高度の正中に安置す。兩側の間各々寛七寸一分、中間寛一尺五寸七分。

方二條,每條長四尺,徑二寸五分。穿腳兩頭,各露二寸,鑿竅各闊一寸五分,以腳穿之。近鉆,方一條,長四尺二寸五分,闊一寸五分。搭腦,方一條,長四尺,徑方以一尺五寸。雲頭,自四角起伏如車輞而起,闊一寸五分,厚三寸二分,彎長七寸一分。車通竿上用鐵鉤二,左右各一也。一照內而一垂下,以牛車挽之。

橫木二條、每條長さ四尺、截面二寸五分。它支脚を橫穿し、兩頭各々二寸を露出す。橫木上に孔を鑿り、每孔寛一寸五分、支脚をして穿過せしむ。鐵鑽に靠近する地方は、橫木一條を用い、長さ四尺二寸五分、寛一寸五分。「搭腦」は橫木一條を用い、長さ四尺、見方一尺五寸。「雲頭」は四箇の角上より起翹し、形狀車輪の外圈の如く彎起し、寛一寸五分・厚さ三寸二分、彎段長さ七寸一分。整具の器械は貫通の竿上に鐵鈎兩箇を安じ、左右各々一箇。一箇は內に朝かって扣住し、一箇は下に向かって垂れ、牛車を以てそれを牽引して行進す。

如有所用,則眾車相鉤聯,周環如城,以拒沖突。欲戰則旋,拆開為門,內鉆強彎為守。行則剖之,止則聯之。每一車用步士一人禦之。其用兵器者,不限其數。或立營或據險,皆可用之也。

それを用いんと要する時、就ち許多の車を相互に鈎連せしめて、一圈を圍成して城墙の如くし、以て敵騎の衝擊を抵擋す。出戰せんと想えば、就ち車身を旋轉し一處を拆開して以て營門と當り、門內鐵鑽と勁弓とを以て據守す。行軍の時それを拆散分開し、駐扎の時それを連接して環を成す。每一輛の車ただ步兵一人を以て操縱す。それに依托して弓弩刀槍を使用して作戰する人に至っては、數目を限定せず。營を安んじ寨を立つると、險要の地形を據守するとを論ぜず、皆此の套の器械を以て用い得べし。

相人第一百二

凡欲擢用,先須辯人形神肌骨之貴賤。且人神隱於中,形藏於身,氣發於外,先觀其形。夫山有美玉,草木滋茂;人有貴相,氣色豐潤。人雖處下品,顏色、形神、器度、動止與眾殊也。相有七等也:一曰看骨,二曰看神氣,三曰看肉,四曰看色,五曰看文理、黑子、赤子,六曰看毛髮,七曰看星文。

凡そ人才を提拔任用せんと要すれば、先ず此の人の形貌・神采・肌肉・骨骼の顯示する貴賤を分辨するを得べし。人の「神」は心裏に藏れ、「形」は身上に寄托し、「氣」は則ち體外に發散す。ゆえに先ずその形貌を觀察するを要す。山裏美玉を蘊藏すれば、山上の草木就ち格外繁茂す。人富貴の相有れば、氣色もまた豐潤にして光有り。此の種の人縱い眼下下層に身處すと雖も、その面色・形神・器量・擧止もまた衆人と同じからず。人を相する法は七箇の門類に分かつ。一は骨骼を看、二は神氣を看、三は肌肉を看、四は氣色を看、五は皮膚の紋理と黑痣・紅痣とを看、六は毛髮を看、七は「星文」(額面の間の紋路と星點)を看るなり。

人相有十成:一曰神氣清,二曰五嶽齊,三曰笑語美媚,四曰聲色深沉,五曰鬚髮無間,六曰詞語穩重,七曰接對無偽,八曰不欺信行,九曰為事正直,十曰風骨合度。此謂十成之相也。十成之人,其可信乎。經曰:七成八成,臣中(一作子)尊貴,位極人臣也。

人の相貌に「十成」の説あり。一は神氣清朗、二は「五岳」(額・頦・鼻と左右の顴骨)端正相稱、三は談笑溫和悅人、四は聲音沉穩にして氣色深厚、五は須髮生るること均勻にして缺斷なし、六は言辭穩重、七は待人接物に虛僞なし、八は欺瞞せず信義を守る、九は事を辦するに正直、十は風度骨相法度に合乎す。これを「十成の相」と叫作す。十成俱全の人は、完全に信任し得べし。相書の上に説く、能く七成・八成を占到る人は、群臣の當中に於て已に尊貴に屬し、位極めて人臣たるを做到し得べし(「臣中」は一本に「子」と作る)。

凡欲相人,先視其頭。頭者,五臟之主,四體之父,百體之母。頭面之間有五獄,有四瀆,有四骨。四瀆:鼻江,口河,目淮,耳濟。四骨:龍骨,神龜,驛馬,伏犀。平滿為頰,高成為嶽。入耳曰龍骨,入鬢曰驛馬。耳濟為將軍,左目後骨為日角,右目後骨為月角,圓為龍宮。鼻上天中曰伏犀,次兩邊溝,外神龜。額間後為中子,中子下高為龍角骨,主三公臺輔之骨。腦後為玉枕。此骨一十六般,並應頭面之主。

凡そ人に相を看んと要するは、先ずその頭を看よ。頭は五臟の主宰・四肢の父・百骸の母なり。頭面の間に「五岳」・「四瀆」・「四骨」を分かつ。四瀆は、鼻は江と爲り、口は河と爲り、目は淮と爲り、耳は濟と爲る。四骨は、龍骨・神龜・驛馬・伏犀なり。平坦豐滿の部位を「頰」と謂い、隆起高聳の部位を「岳」と謂う。骨勢耳部に伸入するを「龍骨」と謂い、鬢角に伸入するを「驛馬」と謂う。耳は「濟瀆」に應じ、將軍の位を主る。左眼の後面の骨を「日角」と謂い、右眼の後面の骨を「月角」と謂い、その形圓滿なるを「龍宮」と謂う。鼻梁上に往きて正中の部位を「伏犀」と謂い、それの兩旁は「溝」にして、溝外は「神龜」なり。額頭の當中の後に偏するを「中子」と謂い、中子の下方の隆起するを「龍角骨」と謂い、これは位三公臺輔に登るを主る骨相なり。腦後の骨を「玉枕」と謂う。以上の此の十六種の骨は、皆頭面上の主位に對應す。

且玉枕之相,自兩耳上中平為百歲。前頭後腦,前為星堂,後為玉枕也。其一○,卒軸枕。其二,六字枕。其三,連珠枕。其四,仰月枕。其五,覆日枕。其六,兩背日枕。其七,上下相背月枕。其八,如環日枕。其九,十字枕。其十,一字枕。其十一,左稍枕。其十二,右稍枕。其十三,垂露枕。其十四,雞子枕。其十五□,犀口枕。其十六,懸枕。如此者,皆公侯之相也。

更に玉枕の相を説く。兩耳より上に往きて腦後正中の一段の生るること平滿なるは、壽百歲に至るを主る。頭の前面と後面とは、前を「星堂」と謂い、後を「玉枕」と謂う。玉枕共に十六種に分かつ。第一は卒軸枕、第二は六字枕、第三は連珠枕、第四は仰月枕、第五は覆日枕、第六は兩背日枕、第七は上下相背月枕、第八は如環日枕、第九は十字枕、第十は一字枕、第十一是左稍枕、第十二是右稍枕、第十三是垂露枕、第十四是雞子枕、第十五是犀口枕(此處原本一字を缺く)、第十六是懸枕なり。此れらの骨相を生成する人は、皆公侯の相なり。

又若人之形也,魂居肝,魄居肺,志居脾,精居命,神居心。故心有五輪,則目亦有五輪,五行各以居其位。且(一作低)觀其目,則知其心矣。是以心圓者上也,鈴次之,破地者主奸詐。夫心如月形者為盜,如弓形者主非命,圓者主事不虛妄之情。目多正視,主忠孝慈惠。

更に人の形體を説く。魂は肝に寄居し、魄は肺に寄居し、志は脾に寄居し、精は命門に寄居し、神は心に寄居す。心に「五輪」あり、眼睛もまた相應して「五輪」あり、五行各々自己の位置を占據す。ゆえにただ(「且」は一本に「低」と作る)その眼睛を細看すれば、便能にその心性を知るを得。心形圓正なるは上等にして、鈴鐺形の如きは次一等、心形殘破して裂地の如きは人の奸詐を主る。心の月牙形の如きは盜賊を做るを會し、弓形の如きは非命に死するを主り、心形圓正のは事を做るに虛妄の念を存せず、目光多くは正視して、人の忠孝慈愛を主る。

心鈴形者屬火,能辯明禮義。目視重大回顧有常,聰明智慧。心破梯者,目視瞬息高下,主多作盜,言詞虛妄無信。心月形者,目視百回,高下屬水,水流急不還,少信行不忠孝,貶流在外而死。心如弓形者,目視左右高下方回,兼露白睛,必逐遠方,為子殺父,為臣殺君。

心鈴形を呈するは火に屬し、能く禮義を明辨し、眼神持重にして回顧常度有り、人と爲り聰明にして智慧有り。心形殘破して斷梯の如きは、目光瞬息の間忽高忽低して、多く偷盜を行い言語虛妄にして信用を守らざるを主る。心月形を呈するは、目光反復游移して忽高忽低し、水に屬し、急流の一去して回らざるに好比し、人と爲り信義少なく不忠不孝にして、多く貶謫流放せられ、異鄉に死す。心弓形を呈するは、目光左右上下四處亂轉して、還って眼白を露出す。此の種の人必ず遠方に驅逐せられ、兒子と做るは敢えて父親を殺し、臣子と做るは敢えて君主を弑せん。

至若解後如鬼神,有形而無骨,莽蒼無色,黃色亂翌,口葉舌尖,腸淺語薄,似歡不歡,似顛不顛,面毛半茸若有塵灰,腦髮倒垂,鶴頭露結,忽行後視,神采昏茸,骨法不正如是者,皆極賤人也。

あの種の偶然相遇すれば便ち鬼神に撞見するが如き人に至っては、肉有りて骨無く、面色蒼茫暗淡にして、黄を泛びて雜亂し、嘴薄きこと葉の如く舌尖利にして、心思淺露し言語輕薄し、歡喜に似てまた歡喜に似ず、瘋癲に似てまた瘋癲に似ず、臉上茸毛半生にして、一層の塵灰を蒙るが如く、腦後頭髮倒垂して、頭形鶴の如く骨節外露し、走りて走りて忽然頭を回して張望し、神采昏昧にして清ならず、骨相端正ならず。此の如きの如きは、皆極下賤の人なり。

金瘡統論第一百三

人為兵器所傷出血者,必甚渴。不可即與飲食,恐簇毛在吻,須乾食。食肥膩之物,無所妨害,貴解渴而已。不可多食粥,則血沸出,人必死矣。所忌者有八焉:一曰嗔怒,二曰喜笑,三曰大言,四曰勞力,五曰妄想,六曰熱羹粥,七曰飲酒,八曰咸酸。此八者犯之,未有不死者矣。

人刀槍箭矢の一類の兵器に砍刺せられて出血して後、一定極めて口渴す。此の時馬上に彼に湯水を給與すべからず。箭鏃上の毛羽還って口邊に沾りて嚥下に隨うを怕るればなり。ただ乾の食物を給與するのみ。些か肥膩の東西を吃するは妨害なし。要緊なるはただ彼の爲に渴を解するのみなり。但し粥を多飲すべからず。多飲すれば血就ち沸涌して出で、人必定命を喪わん。金創傷者八件事必ず忌諱するを要す。一は發怒、二は嬉笑、三是高聲説話、四是用力勞作、五是胡思亂想、六是熱羹熱粥を吃、七是飲酒、八は鹹の酸的を吃するなり。此の八件はただ犯せば、死せざるなし。

夫金瘡不可治之者有九焉:一曰傷腦戶,二曰傷天窗,三曰傷臂中跳脈,四曰傷髀中陰股,五曰傷心,六曰傷乳,七曰傷鳩尾,八曰傷小腸,九曰傷五臟。此九者,皆死處也。

金創傷中に治し得べからざる九種あり。一は「腦戶」(後腦枕骨の下方)に傷つく、二は「天窗」(頸側動脈の所在の處)に傷つく、三是手臂上の搏動する大脈に傷つく、四是大腿內側の陰股大脈に傷つく、五是心に傷つく、六是乳に傷つく、七は「鳩尾」(胸骨劍突の處)に傷つく、八是小腸に傷つく、九是五臟に傷つくなり。此の九處は、皆致命の部位なり。

又曰金瘡不可治之者有四焉:一曰腦髓出;二曰腦破,而咽喉中沸聲啞,目直視;三曰痛不在瘡處者,此謂傷經也矣;四曰出血不止,前赤後黑,或自肌肉腐臭,寒冷堅忍,其瘡難愈。此四者,皆不可療矣。除此之外,復診其脈:脈虛細者生,數實者死,沉小者生,浮大者死。其所傷在陽處,出血過度,而脈微緩者生,急疾者死矣。

また一説あり。金創傷に醫治するに法なき四種の情形あり。一は腦髓流出す。二は頭骨破裂して、咽喉裏沸響を發して聲音嘶啞し、兩眼發直す。三は疼痛傷口處に在らず。これを經脈を傷つくと謂う。四は流血止まず、先に出る血鮮紅にして後に出るは黑を發し、あるいは傷處肌肉自ら腐爛して臭を發し、摸上去冷を發し硬を發す。此の樣の傷口は甚だ愈合し難し。此の四種は、皆救治するに法なし。此を除く以外、還ってその脈を診るを要す。脈象虛細なるは活くるを得、脈數にして實なるは死せん。脈沉にして小なるは活くるを得、脈浮にして大なるは死せん。陽分(身體の外側)に傷つき失血過多にして脈象微緩なるは活くるを得、脈來ること急疾なるは就ち死せん。

治金瘡第一百四

金瘡方,右五月五日平旦,使四人出四方,於五里採一方草木莖葉,每種各半把,勿令脫漏一事。日午時,切碓搗,令極爛,仍先揀好石灰一斗同杵之。復選大實樹三兩株,鑿作十竅,令可受藥。然後實於竅中,緊築之畢,即以麻皮繫之。用麻搗石灰,密泥,不令洩氣。更以皮纏定,令牢。到九月九日子時取出,陰乾百日,藥成。搗之,曝,令極乾,更搗,用絹羅之。

金創藥方は、五月初五の清晨に、四箇の人を派して分頭に東南西北の四方に走向せしめ、各々五里の內に本方位の草木の莖葉を采集せしめ、每種各々半把を采り、任何の一樣を漏掉するなかれ。當日正午に到り、采來の藥を切碎して石臼に放進みて舂搗し、極爛に搗りて、事先別に石灰一斗を揀好して藥と一緒に舂れ。再び三兩株の結實粗壯の大樹を選び、樹身上に十箇の孔洞を鑿り、それをして藥物を容納し得べからしむ。然る後藥を孔中に填進み、壓緊夯實し、隨卽麻皮を以て口を扎住す。再び麻と石灰とを以て泥に搗りて、孔口を封嚴して、藥氣をして外泄せしめず。外面別に樹皮を以て纏牢固定す。九月初九子時に到りて取出し、陰處に放ちて一百日晾せば、藥就ち制成せん。取出して後再び舂搗・曝曬し、極乾に曬りて、再び一遍を舂り、然る後絹篩を以て羅して細末を成す。

凡有金瘡傷所出血,用藥封裹,勿令轉動,十日即瘥矣,不膿不腫不畏風。若傷後數日始得藥,須先用溫水洗,令血出即敷之。此藥大驗如神,預多合之,金瘡之要無出之者。

凡そ金創傷口出血するは、此の藥を以て敷上して包好し、傷處をして活動せしめず、十天便能に痊愈し、既に化膿せずまた腫脹せず、更に風を受くるを怕れず。若し受傷好幾天以後に纔か藥を得れば、須く先ず溫水を以て傷口を洗淨し、淤血を流出せしめ、隨卽藥を敷くべし。此の藥靈驗して神の如し。應當に預め多く配製して儲備起來すべし。金創を治する要藥は、それより好きもの有る比なし。

治金瘡中風痙口不語方:赤箭一兩,桂心三分,防風三分,去蘆頭巴豆二分,去皮及心,然後研之極爛,用紙裹壓。又法:用吳茱萸半兩,湯浸七遍,焙乾微炒;天南星三分,炮令烈;白附子半兩,泡烈;硃砂一兩,水飛過;乾薑一分,泡烈;附子三分,去皮尖臍,泡乾烈;蠍半兩。主用右件搗羅為末,用釅醋三升熬成膏丸,如桐子大。每服三丸,不計時候,熬蔥酒下服後汗出為效。

金創傷後の中風・抽搐・牙關緊閉して話を説き出す能わざるを治する藥方は、赤箭(天麻の苗)一兩・桂心三分・防風三分(蘆頭を去掉す)・巴豆二分(皮を去り心を去る)、然る後極爛に研り、紙を以て包住して油を壓去す。另一箇の方子は、吳茱萸半兩、熱水を以て七遍浸泡し焙乾して後略々炒め、天南星三分焦烈に炮り、白附子半兩焦烈に炮り、朱砂一兩水飛法を以て淘澄し、乾薑一分焦烈に炮り、附子三分皮を去り尖を去り臍を去り焦烈に炮乾し、全蝎半兩。以上の諸藥を搗碎して細末を羅し、濃醋三升を以て膏に熬成し、梧桐子大の藥丸を做成す。每次三丸を服し、何の時辰をも拘わず、煎好の蔥酒を以て送下し、服後汗を出せば即ち見效なり。

金瘡闢風止痛方:當歸半兩,銼微炒;川椒半兩,去蒂及開口者,微炒出汗;澤瀉半兩;芎一兩,附子一兩,去皮臍。右件搗藥羅為末,若金瘡有出瘀血,以溫酒調下一錢,日三服。止金瘡出血不止方:龍骨一兩,銼微炒;芎一兩;熟乾地黃一兩;鹿茸半兩,塗酥灸,令微黃色,先須去毛;烏樟根三兩;突厥白一兩。右件搗羅為末,敷在瘡上,血即止。如服以溫酒調下二錢,日三服。

金創の風を避け痛みを止める藥方は、當歸半兩切碎して略々炒め、川椒半兩椒蒂と已に開口せるとを去掉して略々汗を出すに炒め、澤瀉半兩・川芎一兩・附子一兩皮と臍とを去る。以上の諸藥を搗碎して細末を羅す。若し金創傷處に瘀血の流出あれば、溫酒を以て一錢を調服し每天三次。金創の出血止まざるを止める藥方は、龍骨一兩切碎して略々炒め、川芎一兩・熟乾地黄一兩・鹿茸半兩先ず茸毛を去掉し酥油を塗りて微黄に炙り、烏樟根三兩・突厥白一兩。以上の諸藥を搗碎して細末を羅し、傷口上に敷けば血立刻に就ち止まる。若し內服せんと要せば、就ち溫酒を以て二錢を調服し每天三次。

金瘡內漏方:金瘡通內血者為內漏,而脅脹者不能食死。瘀血搏在於腹內,脈牢大者生,沉細者死。其方:以虻蟲三十枚,去翅及足,微炒;桃仁一兩,湯沉去皮尖雙心麩微炒;黃桂心一兩半;川大黃三兩,銼碎微炒;水蛭三十枚,微炒黃。右件為末,每服二錢,用童子小便一鐘煎至五分溫,和滓服。日五服,夜三服。如卒無小便,用水並酒代之。服訖,然後以胡粉散敷上瘡。胡粉方:粉二兩,乾薑二兩,生栗子二枚,陰乾去皮,為末敷瘡上,即痊矣。

金創の內漏を治する藥方は、金創傷口體內に通じ血裏に往きて流るるを「內漏」と叫作し、若し兩脇脹滿して東西を吃下せざれば就ち致死せん。これ是れ瘀血の腹內に積聚搏結する所致なり。脈象堅實洪大なるは活くるを得、脈沉細なるは死せん。藥方は、虻蟲三十枚翅と足とを去掉して略々炒め、桃仁一兩熱水を以て浸泡して後皮を去り尖を去り雙仁を去り、麩を拌して略々炒め、黄桂心一兩半・川大黄三兩切碎して略々炒め、水蛭三十枚略々黄を發するに炒む。以上の諸藥を細末に研成し、每次二錢を服し、童子小便一盅を以て五分に剩るに煎り、溫熱して後藥渣を連ねて一緒に服下す。白天五次を服し夜裏三次を服す。若し一時童便を找り得ざれば、就ち水と酒とを以て代替す。服し完って後、再び胡粉散を以て傷口上に敷く。胡粉方は、胡粉二兩・乾薑二兩・生栗子二枚(陰乾して皮を去る)、細末に研成して瘡口上に敷けば、就能に痊愈せん。

出箭頭方:蜣螂自死者一枚,土狗子三枚,婦人髮灰少許。右將蜣螂去殼,取其白肉,與二味同研如泥,用生油塗中箭處,則如膏藥。俟肉做癢,即以兩手蹙之,其箭自出。出骨中箭頭方:雄黃一分;蜣螂一分,研石灰末一分,牛糞火燒之,令赤色;葳靈仙一分;朝牡鼠一枚,去頭取血。右為末,入鼠血,並煉蜜和丸,如黃米大,內瘡口中,其箭鏃不拘遠年自出。

箭頭を取出す藥方は、自然に死掉したる屎殼郎一枚・螻蛄三枚・婦人の頭髮を燒きて成る灰少許。先ず屎殼郎の硬殼を去掉し、裏面の白肉を取り、別の兩味と同じく一緒に泥狀に研り、生油を以て調開して箭に中たる地方に塗り、膏藥を敷くが樣にす。傷處の肉の癢くなるを等ちて、就ち兩隻の手を以て中間に向かって擠壓せば、箭頭自ら出で來らん。骨頭の裏に嵌まる箭頭を取出す藥方は、雄黄一分・屎殼郎一分・石灰末一分牛糞火を以て通紅に燒きて後細かに研り、威靈仙一分・雄鼠一隻頭を去掉してその血を取る。以上を細末に研成し、鼠血を加入し、再び煉過の蜂蜜を以て調和して丸を做り、黄米粒の大小の如くして、瘡口裏に塞進めば、箭鏃何年に中たるを論ぜず皆自行に退出せん。

出肉中箭頭方:巴頭一枚,去皮;膩粉一分;砒霜少許;磁石半兩,細研;蜣螂一枚。右為末,以雞子清和丸,如菜豆大。先以針撥開瘡疥,用生男子乳汁化一丸,撥在破處上,用醋面紙封貼。常癢,癢極不可忍,其鏃自出也。多年者兩上,當年者一上即出。箭鏃出後服食方:牡丹皮半兩,鹽半兩,白斂半兩。右為末,每於食前以溫酒調下二分。

肌肉の裏に留まる箭頭を取出す藥方は、巴豆一枚皮を去り、膩粉(即ち輕粉)一分・砒霜少許・磁石半兩細かに研り、屎殼郎一枚。以上を細末に研成し、雞蛋清を以て調和して丸を做り、菜豆の大小の如くす。先ず針を以て瘡口の痂皮を挑開し、生男孩の母乳を取りて一丸を化開し、挑破せる地方に點し、再び醋を以て面糊を調えて做る紙貼を以て封住す。傷處斷えず癢く、癢くして忍受する能わざるに到れば、箭鏃自ら出で來らん。箭に中ること多年のは二回を敷き、當年新に中るは一回を敷けば就ち出づ。箭鏃取出して以後の內服方は、牡丹皮半兩・鹽半兩・白蘞半兩。以上を細末に研成し、每次飯前に溫酒を以て二分を調服す。

中毒箭方:蘆根一兩;藍葉一兩;紫檀半兩;石灰末二兩,以牛糞火燒令赤。右為末,不拘時候,以藍葉葉汁調下一錢粥飲下,亦得。中毒前後皮肉瘀腫方:梨母子一斤,爛研去核;鹽麩子五兩,搗之,曝乾更搗,用絹羅之,去粗滓;綠豆三兩,炒熟;石灰末三兩,牛糞火燒令赤;藍子五兩;黃連三兩,去須獨顆;栗子三兩,生用;黑豆三兩,炒熟;大黃五兩;赤芍藥三兩。右為末,煉蜜調為膏。每服以溫酒下一茶匙,日三四服。

毒箭に中る解毒方は、蘆根一兩・藍葉一兩・紫檀半兩・石灰末二兩牛糞火を以て通紅に燒く。以上を細末に研成し、時辰を拘わず藍葉汁を以て一錢を調服し、米湯を以て送下しても可なり。毒箭に中る前後の皮肉瘀腫の藥方は、梨母子(棠梨の果)一斤、研爛して核を去り、鹽麸子五兩搗碎して後曝曬乾して再び搗り、絹羅を以て篩過して粗渣を去掉し、綠豆三兩炒熟し、石灰末三兩牛糞火を以て通紅に燒き、藍子五兩・黄連三兩須根を去掉して整顆のを取り、栗子三兩生用し、黑豆三兩炒熟し、大黄五兩・赤芍藥三兩。以上を細末に研成し、煉蜜を以て膏に調成す。每次溫酒を以て一茶匙を送服し、每天三四次。

刀槍破腹腸胃突出方:磁石三兩,燒紅醋,淬七次,搗碎研如粉;滑石三兩;鐵銹三兩。右為末,敷槍腸胃上。後別以磁石末用粥飲調下一錢,一日三四服。腹破縫補方:又若皮肉斷裂,剝取新桑白皮作線縫之,以新桑白皮裹之,又以新桑白皮汁塗之,極妙。小療但以桑白皮裹,便如筋斷後,亦封於上可以續之。

刀槍肚腹を刺破して腸胃脱出する藥方は、磁石三兩燒紅して後醋の裏に放進みて淬し、反復七次して、搗碎して粉に研り、滑石三兩・鐵锈三兩。以上を細末に研成し、槍に刺傷されて脱出せる腸胃上に敷く。之後別に磁石末を取り、米湯を以て一錢を調服し、一天三四次。腹部破裂を縫合する方法は、若し皮肉斷裂せば、就ち新鮮の桑白皮を剥取して線に搓りて以て縫合し、再び新鮮の桑白皮を以て傷處を包裹起來し、外面に新鮮桑白皮の汁液を塗れば、效果極好なり。輕傷はただ桑白皮を以て包裹すれば就行し、縱い筋已に斷えたると雖も、もまた桑白皮を以て上面に封じて、斷筋をして重新に接續せしむるを得べし。

傅毒箭及馬汁方:虻蟲大者去翼,於端午日收之,陰乾為末,每服一錢,撥破瘡口,以藥傅之;然後醋麵糊紙靨子貼之,即出毒也。又方:石灰末二兩,以牛糞火燒令赤色;密佗僧一兩,黃柏半兩,銼;膩粉一分。右為末。每用,先以鹽水洗瘡,後用藥敷之,日一換之。

毒箭傷と「馬汁毒」(傷口馬汗・馬涎に沾染して中毒す)とを敷治する藥方は、個頭大なる虻蟲を取り、翅膀を去掉し、端午のあの日に收取して、陰乾して細末に研成す。每次一錢を以てし、先ず瘡口を挑破して藥を敷上し、然る後醋を以て面糊を調えて做成せる紙貼子を以て貼住すれば、毒氣就ち拔出せらる。另一箇の方子は、石灰末二兩牛糞火を以て通紅に燒き、密陀僧一兩・黄柏半兩切碎し、膩粉一分。以上を細末に研成す。每次使用するは、先ず鹽水を以て瘡口を洗淨し、然る後藥を敷き、每天一回を換う。

疫氣統論第一百五

結營須避山川卑濕之地。其濕燥毒氣襲人口鼻者,則山瘴之虐癘生焉。又若寒暑之氣不節,夏寒冬燠,或夏傷於大暑,熱氣盛藏於皮腹之間,加以士卒之眾氣相蒸為溫臭,則時疫生焉。抑又所營之地,士卒不便水土之性、溫涼之氣,致陰陽二氣紊亂於腸胃間,則霍亂吐瀉生焉。斯之三者,眾氣生疾之地十有五六焉。故臨戎之際,得不預備之乎?

營を安んじ寨を扎すには必ず山川の低窪潮濕の地方を避開するを要す。あの裏の濕氣と燥毒の氣とが人の口鼻に侵入すれば、山間の瘴氣就ち瘧疾と疫病とを引發せん。再び寒暑の氣の失調し、夏天反って冷たく冬天反って暖かく、あるいは盛夏に於て暑に中り、熱氣皮肉腹腔の間に積蓄し、士卒人多く氣息互相に蒸騰して溫熱穢濁と變じ、時疫就ち發生す。還って一種の情形ありて、駐營の地の水土の性質・氣候の冷暖士卒の體質に合わず、陰陽の二氣をして腸胃の間に紊亂せしめ、於是乎霍亂吐瀉就ち發生す。此の三樣は、人馬聚集して病に生じ易き地方に於ては、十處の裏五六處を占上せんを要す。ゆえに陣に臨みて兵を用うるの際、怎んぞ能く預め防備せざらんや。

治疫氣第一百六

時氣疫方:用茵陳二兩;大麻仁五兩,研如膏;豉五分,炒乾;常山三兩;梔子二兩;芒硝三兩,細研;鱉甲二兩,塗醋汁,令去裙■;杏仁二兩,湯浸去皮尖雙仁面炒,微黃色;巴豆一兩,去皮心炒,令黃紙裹壓去油,細研。右為末,合勻煉蜜和搗五六百杵,丸如桐子大。每服粥飲下三丸,或吐或痢或汗。或不吐痢或不汗,再餌之。若更不吐痢,以熱粥飲投之。觀其癥候加減。

時令の疫病を治する藥方は、茵陳二兩・大麻仁五兩膏狀に研成し、豆豉五分炒乾し、常山三兩・梔子二兩・芒硝三兩細かに研り、鱉甲二兩醋汁を塗りて炙過し邊緣の裙邊を去掉す(此處原本一字殘損あり)、杏仁二兩熱水を以て浸泡して後皮を去り尖を去り雙仁を去り、麵を和して微黄に炒め、巴豆一兩皮と心とを去りて炒過し、黄紙を以て包住して油を壓去し、再び細かに研る。以上の諸藥を細末に研成し、混合均勻にし、煉蜜を加えて一同に五六百下を舂搗し、梧桐子大の藥丸を做成す。每次米湯を以て三丸を送服し、服後あるいは嘔吐しあるいは瀉痢しあるいは出汗す。若し吐瀉せずもまた出汗せざれば、就ち再び一度を服す。若し還って吐せず瀉せざれば、就ち熱粥湯を以て送服して催發す。病人の症候を看て用量を增減するを要す。

霍亂吐瀉方:桑葉一握,褊(一作篇)竹一握。右細銼末,用水一大盞服。山瘴虐方:常山三兩,烏梅二十七枚,甑帶三寸,獨顆蒜一枚,以酒二大盞作二服。初一服先未發時吃,次一服臨欲發時服。如不發即止。溫虐方:麻黃一兩,去根節;牡蠣粉一合(一作分);蜀漆、甘草、犀角屑、知母,各半兩。右為末,用水兩大盞,慢火煎一盞半去粗。分為三服,早起午初夜服之。

霍亂吐瀉を治する藥方は、桑葉一把・萹竹(即ち萹蓄、「褊」は一本に「篇」と作る)一把。以上を切碎して末に研り、水一大盞を以て送服す。山瘴瘧疾を治する藥方は、常山三兩・烏梅二十七枚・甑帶三寸・獨頭蒜一枚、酒二大盞を以て煎成し、兩次に分かちて服す。頭一次は瘧疾未だ發作せざる時に喝し、第二次は將に發作せんとする時に喝す。若し發作せざれば就ち藥を停む。溫瘧を治する藥方は、麻黄一兩根と節とを去掉し、牡蠣粉一合(「合」は一本に「分」と作る)、蜀漆・甘草・犀角屑・知母各々半兩。以上を細末に研成し、水兩大盞を以て小火を以て一盞半に煎り、藥渣を濾去す。三次に分かちて服用し、早晨・午前・夜間各々一次。

治皸瘃第一百七

士卒涉水蹈冰,蒙犯霜雪寒風,一切淩凍所苦,或失於飲食,肌體虛勞,故頭目手足皸瘃也。冶手足皸瘃血出方:豬胰洗之立止。手足皸瘃方:右取川椒四合,以水煮之,去滓傾出,令燥。須臾復浸乾,即塗羊豬腦髓尤妙。

士卒水を渉り冰を踏み、霜雪寒風を頂いて行軍し、嚴寒凍傷の苦を飽受し、飮食の失調・身體の虛弱疲勞を加え、ゆえに頭面手脚就ち「皸瘃」(皮膚の開裂と凍瘡)を生ず。手脚の皸裂出血を治する方子は、猪胰を以て患處を洗えば、血立刻に就ち止まる。手脚の皸裂凍瘡を治する方子は、川椒四合を取り、水を以て煮開し、藥渣を濾去して倒出して患處を浸洗し、洗後それを晾乾せしめ、一會兒を過ぎて再び一遍を浸し再び晾乾し、然る後羊腦髓あるいは猪腦髓を塗れば、效果尤も好し。

涉水冒霜,手足凍裂方:又取菱葉濃煎汁熱,洗之即愈。手足凍裂成瘡方:右以羊髓熬成膏油,入炒,黃丹攪勻,令搽塗之,三五次即愈。手足指節皸裂欲墜落方:萊州青石作器物者,以刀子細刮取末,欲落指節尚柱文縷微連,便以石灰末厚覆其上,以帛子繫纏之,其痛即止,其指十日即復安矣。

水を渉り霜を冒して後手脚凍裂する方子は、菱葉を取りて濃煎して汁を成し、熱に趁って患處を洗えば就能に治好せん。手脚凍裂して瘡を成す方子は、羊髓を以て膏油に熬成し、炒過の黄丹を加入して攪拌均勻にし、患處を塗搽せば、三五次就能に痊愈せん。手指脚趾の關節皸裂して將に脫落せんとする方子は、萊州の出産する器物を打制し得べき青石を取り、刀子を以て細細に石末を刮下し、若し將に脫落せんとする指節に還って一絲の筋絡相連なる有れば、就ち石灰末を以て厚厚にその上に覆い、再び布帛を以て纏扎住すれば、疼痛立刻停止して、手指十天就ち如常に恢復せん。

禳厭第一百八

厭敵兵法:中夜設於北斗,不致酒脯,焚香為祭,藉用白茅,用五色彩為幣。大將北面再拜禱祝,以所祈之事三奠而止。伐陰木之枝為六甲符,符中書六甲名。祭罷以為六囊,各盛一符。即以本旬符囊繫於旗纛內,勿令人覺之。遂舉而止,敵人當自駭走矣。

敵軍を厭勝する方法は、半夜の時分北斗星に向かって祭を設け、酒肉を擺せず、ただ香を焚きて祭を行い、白茅草を以て祭品を鋪墊し、五色絲帛を以て供奉の禮幣を作す。主將面北方に朝かいて二次拜して禱告し、祈求する所の事情を三次酒を奠じて陳説し完畢すれば即ち止む。背陰の處の樹木の枝條を砍取して「六甲符」を制成し、符上に六甲の神の名號を寫す。祭祀完畢して六箇の布囊を做成し、每囊各々一道の符を裝す。隨卽當旬の屬する所のあの隻の符囊を軍中の大旗の旗面裏に系いで、人をして察覺せしむるなかれ。かくして旗を擧げて事を行えば、敵人自ら驚駭潰逃せん。

厭疫法:大疫,當取虜獲首級不計多少,於上風焚之。人疫大盛,則有用此法,疫少亦假用之。令其煙氣沖襲(一作疫)者經時撤去,可以闢厲氣矣。

瘟疫を厭勝する方法は、軍中大疫發生する時、俘獲の斬る所の敵人の首級を取り、多少を論ぜず、上風の處に放ちて焚燒す。人馬の疫病嚴重の時此の辦法を用い、疫情輕きもまた妨げず照樣用う。煙氣をして染疫の處を衝蕩せしめ(「襲」は一本に「疫」と作る)、一段の時間を過ぎて再び撤去せば、就ち疫癘の氣を驅除し得べし。

厭王氣法:敵之王氣久而不衰者,觀其氣王於何方,當六甲旬首正子時,於營中月空上環三九步,以朱畫八卦壇位,成三界,其內畫十二辰及月將之名,東西南北相去數步。取蒼狗白雞各一隻,大將披素服,右手仗劍,左手按二畜,北面立,默誦敵將名氏,即斬之,埋於氣旺之方,深三尺,氣衰則去之。

敵方の旺氣を厭勝する方法は、若し敵軍の王氣久久衰えざれば、先ずそれの旺するは何れの方位に在るかを看よ。六甲旬の開始するあの日の正子時に到り、營中の「月空」の位置上に於て二十七步を繞行し、朱砂を以て八卦の壇位を畫出し、三層の界域に分かち、壇內に十二辰と十二月將の名號とを寫上し、東西南北各々數步を相隔てる。蒼色の狗・白色の雞各々一隻を備え、主將白色の素服を身穿し、右手劍を持ち、左手此の兩隻の牲畜を按住し、面北方に朝かいて站立し、敵將の姓名を默念し、隨卽それらを斬殺し、敵氣旺盛のあの方位に埋めて、深さ三尺。敵氣の衰落するを等ちて再び挖去る。

厭敵將法:敵將之命厭於我(命者,謂五行細人密構其敵將之命也,當合生年月日時也),我即以所旺相之色可以克彼者,隨所旺月日及時,密制克之(所旺日時,假令敵將火命王,我則擇火日水時為黑道休省之,勿令他人見)。戰陣當以皂旗為沖(它者仿此。)

敵將を厭勝する方法は、敵將の本命をして我方の壓制を受けしめんと要すれば(謂う所の「命」は、細作を指派して暗中に敵將の五行本命を查明するを指し、須く彼の生年・月・日・時を湊齊するを要す)、我の此の邊就ち當令得勢にしてまた能く彼を克制する顏色を選取し、あの旺相の月・日・時辰に按照して、暗中に法を施して彼を克制す(旺相の日時に關しては、方比方敵將火命にして當旺なれば、我就ち火日水時を挑み、黑道日に依って私下に舉行し、外人をして看見せしむるなかれ)。陣に臨みて戰を布く時、應當に黑旗を以て敵方に指向して以て衝克の色と爲すべし(其餘の五行此に依って類推す)。

厭鳥伏兵法:夜伏兵於林薄,慮禽鳥驚啼者,當以朱書十干之號,有十二辰之名、十二月之號、十二歲之號,有二十八宿之號,懸於巢上林上,則禽自不驚啼,而兵可伏矣(干謂從甲到癸,辰謂從子到亥,月從陬到塗,歲從攝提格到赤奮若,星從角到軫也)。

飛鳥を厭勝して以て伏を設けんが爲の方法は、夜間樹林草叢の中に部隊を埋伏し、禽鳥の驚を受けて鳴叫して行蹤を暴露せんことを擔心せば、就ち朱砂を以て十天干の名號・十二地支の名稱・十二箇月の月名・十二歲星紀年の名號、および二十八宿の星名を寫下し、鳥巢上と林木上とに懸掛すれば、禽鳥自然に驚叫せず、伏兵便ち隱藏し得べし(天干は甲より癸に至るを指し、地支は子より亥に至るを指し、月名は正月「陬」より十二月「涂」に至り、歲名は「攝提格」より「赤奮若」に至り、星宿は角宿より軫宿に至る)。

相馬統論第一百九

夫馬之初生無毛者,能行千里;先舉一足者,行五百里。但數其筋得十,即凡馬也;十一、十二者,五百;十三者,千里;過十三者,天馬也(一作枝)。毛起腕上者,六百里。腹脊上下平者,百里。五項圓者,五百里。眼中如童兒並坐者,二百里。腹下有黃筋者,五百里。耳根下生角,長一寸者,三百里;二寸者,五百里;三寸者,一千里。尿射過前腳者,五百里。項如渴烏者,一千里。

馬剛に生れ下りて身上毛無きは、能く日行千里なり。生れ下りて先ず一隻の脚を抬起するは、能く五百里を行く。それの腿上の筋を數うるに、ただ十條のみなるは普通の馬なり。十一・十二條のは能く五百里を行き、十三條のは能く千里を行き、十三條を超過するは就ち天馬なり(「過」は一本に「枝」と作る)。腕關節以上に旋毛を生ずるは、能く六百里を行く。腹部と脊背と上下平直なるは、ただ百里を行くのみ能くす。頸項上五處圓實なるは、能く五百里を行く。眼珠裏に映出する人影の像小孩の倂肩して坐るが如きは、能く二百里を行く。腹下に黄色の筋絡有るは、能く五百里を行く。耳根下に角狀の突起を長出し、長さ一寸のは能く三百里を行き、二寸のは五百里、三寸のは一千里。尿を撒くに能く前脚を射過するは、能く五百里を行く。脖頸彎曲して烏鴉の飮水の狀の如きは、能く一千里を行く。

如初生而七日不能行,才行便能飲水者,千里之駒也。放尿舉足者亦然(一作前)。腹下毛逆生者同。芝蘭孔中有毛長一寸,此駑馬也。

若し小馬生れ下りて七天未だ走るを會せず、一會兒走れば就能に自ら水を飮むは、これ是れ千里の駒なり。尿を撒く時脚を抬起するも同じく然り(「足」は一本に「前」と作る)。腹下の毛の逆に生長するは、同じく良駒なり。鼻孔(「芝蘭」即ち馬の鼻孔)の裏に一寸長の毛を生ずるは、これ是れ劣馬なり。

鼻中金字者(金一作人)十八歲,四字者八歲,八字者四歲。鼻上赤者二十歲,鼻上青者三十歲。鼻上如有公王字者,二十五歲。眼圓有旋毛者,三十歲。目下不滿而白精多者,此多驚也。目白不深,唇不覆齒,口小又淺,不健食。齒參差不相當,難馭。齒欲得上鉤者好也。

鼻中の紋路「金」の字の如き(「金」は一本に「人」と作る)は、十八歲を活くべし。「四」の字の如きは八歲、「八」の字の如きは四歲。鼻上紅を發するは二十歲を活き、鼻上青を發するは三十歲を活く。鼻上の紋路「公」の字・「王」の字の如きは、二十五歲を活く。眼睛圓くして旋毛を生有するは、三十歲を活く。眼眶の下方豐滿ならず眼白偏りて多きは、此の種の馬驚を受け易し。眼白色淺くして深からず、嘴唇牙齒を蓋う能わず、口小さくして而且淺きは、食を吃すること好からず。牙齒參差して齊わず上下對いて攏まらざるは、駕馭し難し。牙齒の上端鉤形を帶ぶる纔か好しと算す。

凡馬頭欲如側摶,耳欲得厚小。左耳卻,害主;右耳卻,不入陣。眼圓欲得滿睛,弩肉滿身,額前錐毛欲得濃盛,鼻欲得大,唇欲得緩,上唇欲得下中,口欲得紅並方大,舌欲得(一作如)懸鉤,面欲藏,骨隹欲寬,胸欲廣,雙肋欲得分明,蹄欲得厚,膝欲得開,腹欲得垂,陰欲得小,肚欲得方,┩肉垂足,足後欲得無毛,尾欲得毛散,尾核欲得長齊於梁骨,尾林欲得粗,汗溝欲得深,膊際橫文欲得分明,脊欲得平,身欲得短,毛欲得細而突(一作笑)。如是者,馬之要相也。

大凡馬頭は側立の拳頭の如く方峻なるを要し、耳朵は厚くして短小なるを要す。左耳後に向かって耷拉するは主人を妨害し、右耳後に向かって耷拉するは陣に上る能わず。眼睛は圓くして眼珠飽滿なるを要し、肌肉は遍身結實隆起なるを要し、額前の錐形の毛は濃密茂盛なるを要し、鼻孔は大なるを要し、嘴唇は鬆弛靈活なるを要し、上唇は能く下唇の正中を蓋過するを要し、口は紅潤にして方大なるを要し、舌頭は(「得」は一本に「如」と作る)懸掛の鈎子の如きを要し、臉面は清瘦にして棱有るを要し、骨架は寬闊なるを要し、胸膛は開廣なるを要し、兩側の肋條は根根分明なるを要し、蹄は厚實なるを要し、膝は開張なるを要し、腹は下垂なるを要し、外腎は小なるを要し、肚腹は方正なるを要し、腿股の肉は足に垂るを要し(此の字原本殘損して辨すべからず)、足後毛を生長するなかれ、尾毛は疏散なるを要し、尾根骨は長くして梁骨と齊平なるを要し、尾根は粗なるを要し、汗溝は深なるを要し、前膊處の橫紋は清晰なるを要し、脊背は平なるを要し、身軀は短なるを要し、被毛は細密にして光澤有るを要す(「突」は一本に「笑」と作る)。此れらの條件に合乎するは、就ち相馬の要領なり。

馬忌第一百一十

石灰泥槽損馬,不得繫馬於門上。令落駒養獼猴於坊內,闢患並去疥癬。戊寅日及庚寅時,不得作廄,作之者不及一年凶。丙寅日不可出入馬,三年人馬俱死。申日不宜取馬,必死。戊午、庚子之日不取,並忌入廄,大敗。凡養馬作廄之法,當擇時日之良,而知所忌之凶矣。

石灰を以て抹する馬槽は馬を損傷し、もまた馬を門上に拴る可からず。あれは駒を懷く母馬をして流産せしむるなり。馬坊の裏に一隻の獼猴を養えば、馬匹の病に生ずるを避免し得べく、還って疥癬を去除し得べし。戊寅の日と庚寅の時とは、馬廄を修建する可からず。建てて一年に到らずして凶事有らん。丙寅の日は馬を牽きて出入する可からず。然らざれば三年の內人和馬皆死せん。申の日は馬を買うに宜からず。買えば必ず死せん。戊午・庚子の此の兩天もまた馬を買うなかれ。同時に馬を廄裏に牽進むを忌諱す。然らざれば大敗せん。凡そ馬を養い廄を建つる辦法は、皆應當に吉良の時日を挑選し、倂べて避忌する所の凶日を清楚なるを要す。

馬毛利害第一百一十一

若馬或白點入口者,名的盧。目下有橫毛者,名死泣旋。毛在吻後者,名禦褐。白馬黑鬃,鞍下有回毛者,名負尸。腋下有回毛者,名挾尸。左脅下有白毛直上者,名曰帶劍。汗溝過尾根者,踏殺人。腮上有旋毛者,名目圍。

馬額上の白斑一直に嘴裏に延伸進むは、「的盧」と叫ぶ。眼睛の下方橫生の毛を長ずるは、「死泣旋」と叫ぶ。毛嘴角の後面に生ずるは、「御褐」と叫ぶ。白馬黑鬃を生じ鞍子の底下回旋の毛有るは、「負尸」と叫ぶ。腋下に回旋の毛有るは、「挾尸」と叫ぶ。左肋下に白毛の豎直して上に向かう有るは、「帶劍」と叫ぶ。汗溝尾根に長過するは、人を踏死せん。腮幫子上に旋毛を生有するは、「目圍」と叫ぶ。

或後足左右白者,或馬渾身白而四蹄黑者,或從前膊外從項去到夾腮應有毛旋者,或毛旋在項者,或爪黑面白者,已上馬毛病者,不利主也。或馬前兩甲膊後近低處毛旋者,能行五百里;後膊近前低處毛旋者,行七百里;後前膊到喉中間有旋毛者,名印綬,能行千里,無益主也。

ある馬は後足左右の兩隻白を發し、あるは浑身雪白にして四蹄烏黑、あるは前膊の外側より頸項に順って一直に腮幫の處に到るまで旋毛を生有し、あるは旋毛頸上に長在し、あるは蹄爪黑を發して面部白を發す。以上の此れらの毛色上の毛病は、皆主人に對して利なからず。ある馬の兩前肩胛の後面靠下の地方に旋毛を生ずるは、能く五百里を行く。後膊靠前偏下の地方に旋毛を生ずるは、能く七百里を行く。後膊より前膊に到るの間・正當咽喉の處に旋毛を生ずるは、「印綬」と叫び、能く千里を行く。ただ是れ主人に對して好處なし。

治馬金瘡藥第一百一十二

馬中金瘡,腸胃突出方:芍藥、黃耆、當歸、芎、白芷、續斷、鹿茸、黃芩、細辛、乾薑、附子。已上各三兩,右為末,先將酒令醉服五分,七日三服,稍加到方寸立愈。

馬刀槍箭傷に中り腸胃脱出する藥方は、芍藥・黄芪・當歸・川芎・白芷・續斷・鹿茸・黄芩・細辛・乾薑・附子、以上各々三兩。細末に研成し、先ず酒を以て馬を灌醉せしめ、再びそれに藥五分を服せしめ、七天の內三次を服し、用量漸漸に一方寸匕に加到せば、馬上就能に痊愈せん。

治馬雜病第一百一十三

灌馬方:春夏用白礬,秋冬用鬱金、芎、當歸、大黃、升麻、黃連、細辛、乾薑。已上各一兩,右為末,入湯中,以酒調灌之。啖馬方:鬱金、大黃、甘草、山梔子、貝母、白芍藥、黃芩、秦膠(一作艽)黃柏、黃連、款冬花、知母、桔梗、槁本等,分為末,右用油並蜜和啖之,每足二兩。治馬瘟方:右以獺肝肚肉去糞煮汁灌之。

馬に藥を灌する方子は、春夏は白礬を用い、秋冬は鬱金・川芎・當歸・大黄・升麻・黄連・細辛・乾薑を用い、以上各々一兩。細末に研成し、熱湯の裏に放進み、再び酒を以て調勻して灌下す。馬に藥を喂る方子は、鬱金・大黄・甘草・山梔子・貝母・白芍藥・黄芩・秦艽(「膠」は一本に「艽」と作る)・黄柏・黄連・款冬花・知母・桔梗・藁本等、等分細末に研成し、油と蜂蜜とを以て調勻してそれに喂り、每次足量二兩。馬瘟を治する方子は、水獺の肝と肚肉とを以てし、裏面の糞污を去掉し、煮成して汁を灌服す。

治馬肚熱結寒顫不食方:黃連末二兩,白蘚皮末一兩,油五合,以臘豬脂四兩、白水一升半調下,牽行拋糞立效。治馬卒熱肚結欲死方:以藍汁二升,並水二升同灌之,立效。治馬迨起方:又取壁上多年石灰細研羅,又用油調二兩灌之,立效。治馬黑方:忽臥不起,汗流如珠,肉顫氣喘者,嘗汗淡不死,汗鹹即死。以人腳下汗襪,以水二升洗,取汁灌之,立瘥。

馬の腹內積熱便結して、冷を發して發抖し、肯えて進食せざるを治する方子は、黄連末二兩・白鮮皮末一兩・油五合、臘月に熬る猪油四兩を以て清水一升半を加えて調勻して灌下し、然る後馬を牽きて走動せしめ、それの糞便を排出するを等ちて立刻見效せん。馬突然發熱し腸結して將に死せんとするを治する方子は、藍汁二升を以て清水二升を加えて一同に灌下せば、立刻見效せん。馬倒地して起來る能わざるを治する方子は、墙壁上の陳年の石灰を取りて細かに研りて篩過し、再び油を以て二兩を調えて灌服せば、立刻見效せん。馬の「黑汗」病を治する方子は、馬忽然に卧倒して起來る能わず、汗珠串を成して滾落し、肌肉顫抖して呼吸急促す。此の時その汗を嘗めて一嘗すれば、味淡きは死せず、味鹹きは就ち死せん。人の穿過せる汗脚の襪子を取り、水二升を以て汁を洗出して灌服せば、立刻痊愈せん。

治馬不進水草方:芒硝一兩、人駱半升。已上和鬱金散灌之,並刺帶血出一升。治馬傷水方:又以蔥鹽油相和,搓成團子,納鼻中以捉馬鼻,令不通氣,又待眼中淚出,即止。治馬傷食方:右以生蘿蔔三五個,切作片子啖之,立效。治馬喉中腫方:軟物裹刀子,露一刺咽喉,令便瘥。又方:以乾馬糞置瓶中,將頭髮蓋之,以火燒煙出,薰馬鼻中,立瘥。又方:以豬脊邊脂,伴發燒薰鼻中,立效。

馬草を吃せず水を喝せざるを治する方子は、芒硝一兩・人溺(即ち人尿、原文「人駱」と作る)半升、鬱金散と調和して灌下し、同時に針刺して血一升を放す。馬の「傷水」(水を飮むこと過量にして寒を受く)を治する方子は、蔥・鹽・油を調和して一緒にし、團子に搓りて馬の鼻孔に塞進み、再び馬鼻を捏住してそれをして通氣せしめず、馬眼の裏に淚を流出するを等ちて、就ち手を停む。馬の傷食を治する方子は、生蘿蔔三五個を取り、片に切成してそれに喂れば、立刻見效せん。馬喉中腫脹を治する方子は、軟布を以て刀子を裹住し、ただ刀尖を露出して咽喉を刺して血を放せば、隨卽就好せん。另一箇の方子は、乾馬糞を瓶裏に裝め、上面に頭髮を蓋い、火を以て煙を燒出して馬の鼻孔を熏れば、立刻就好せん。又一箇の方子は、猪脊背の旁の肥油を以てし、頭髮を摻上して煙を燒き鼻を熏れば、立刻見效せん。

治馬草結方:以白礬末,分為二,兩服。每服和水,飲後即啖之,神效。又方:以手撚令銷,如不銷,火燒掃帚柄築之,效。點馬眼方:青鹽、黃{廠瓦}仁、馬牙硝,已上各等分細研,用蜜煎,以磁瓶盛水,慢點之。治馬疥瘡方:臭黃臘月豬脂,煎令發銷,及熟塗之,立效。治馬瘡方:以齒莧石灰同搗,令習搗作餅子。候曬乾,復搗為末。先以口含水洗凈,用藥貼之。

馬の「草結」(草料腸中に積滯す)を治する方子は、白礬末を兩份に分成し、兩次に分かちて服用す。每次水を以て調和し、馬をして飮下せしめて後隨卽料を喂れば、效驗神の如し。另一箇の方子は、手を以て肚皮を隔てて揉捏し、結塊をして消散せしむ。若し揉みて散ぜざれば、就ち火を以て燒過の掃帚柄を以て頂推せば、もまた效有り。馬眼を點治する方子は、青鹽・黄某某仁(此の味の藥名原本一字殘損して辨し難し)・馬牙硝、以上各々等分を取りて細かに研り、蜜を以て藥汁に煎成し、瓷瓶の裏に裝めて水を兌上し、慢慢に馬眼に點入す。馬疥瘡を治する方子は、臭黄と臘月の猪油とを同煎し、完全に熔化するに煎り到り、熱に趁って患處を塗搽せば、立刻見效せん。馬身上に瘡を生ずるを治する方子は、馬齒莧と石灰とを一同に舂搗し、反復搗熟して餅子を做成し、曬乾して以後再び細末に搗成す。先ず水を含みて患處を噴洗して洗淨し、然る後藥を貼上去す。

治駒兒肚瀉方:以槁本為末,將大麻子研汁調三錢灌下,便效,次將黃連末、麻子解之。腸藥方:莨菪子、烏頭、芫花、茱萸、扣眷、蒼術、木鱉子、葶藶子,右等分為末,每咀用半兩,以醋面椒蒜煎為膏治之。

馬駒の腹瀉を治する方子は、藁本を細末に研成し、大麻子の研出する汁を以て三錢を調えて灌下去せば、就ち見效せん。隨後再び黄連末に麻子汁を加えてそれの爲に藥性を解す。腸病を治する藥方は、莨菪子・烏頭・芫花・吳茱萸・扣眷・蒼朮・木鱉子・葶藶子、以上等分細末に研成し、每次半兩を取りて㕮咀に切碎し、醋・麵・花椒・大蒜を以て同煎して膏を成して以て醫治す。

天時統論第一百一十四

天時者,兵家之主也。若夫星辰變見,雲氣聚散,六壬旺相,遁甲休咎,風露雷雨之所動作,陰陽晦明之所啟閉,鼙鼓之震響,禽鳥之示情,通天地鬼神之心,開勝敗休咎之兆者,其道何也?

天時は、兵家の倚重する所の根本なり。星辰の異變を出現し、雲氣の聚合離散し、六壬の數の旺相し、遁甲の術の吉凶し、風露雷雨の興作し、陰晴晝夜の開合し、戰鼓の震響する所の生ずる感應し、禽鳥の擧動する所の透露する消息するに至って。此れら能く天地鬼神の意向を溝通し勝敗吉凶の征兆を揭示する東西は、それらの道理究竟何れの處に在るか。

臣切謂天地之道,大正也。夫陽為實,陰為虛,實有常而虛不常也。法其實者,政令之謂也,政令一定之象也;法其虛者,權智之謂也,權智應變之象也。動以虛實為用者,天地之正(一作身)道也。是以知政令權智之所設,能應於天地者,此之謂大順也。或天地示其災變,我以順應之;示其吉祥,亦以順應之。是以順應正也。如能以順應正,行師豈有敗乎?

臣許洞以爲すらく、天地の運行の規律は極其中正なり。陽は實に屬し陰は虛に屬す。實の一面に常規有り、虛の一面變動して居らず。それの「實」の一面を效法するは、指す所は政令にして、政令は是れ恒定不變の表現なり。それの「虛」の一面を效法するは、指す所は權謀智略にして、權謀は是れ隨機應變の表現なり。行動の時虛實の兩者を以て交替して用と爲すは、此れ纔か天地の正道なり(「正」は一本に「身」と作る)。ゆえに明白なるを要す。政令と權謀の設置は、ただ能く天地と相應するを要すれば、これを「大順」と叫作す。ある時天地災異を顯示すれば、我便ちそれに順って以て應對し、吉祥を顯示すれば、我也またそれに順って以て應對す。順應する本身すでに正道に合すればなり。若し眞に能く順應の道を以て正道を守住せば、兵を用いて仗を打つに何ぞ還って失敗せんや。

雖然,黑(一作雲)氣出壘,赤氣臨軍,六窮起風,三形生霧,皆為敗象。當其時,茍能觀其凶變,修政謹身,卜地遷營,應天揆日,恭受譴戒(一作恕)而警省焉,此可以易凶為吉矣,斯乃以順道應天者也。

話雖かくの如しと雖も、黑氣(「黑」は一本に「云」と作る)營壘の裏より升起し、赤氣軍隊を籠罩し、六窮の日大風を刮起し、三形の地濃霧を生出す。此れら皆敗亡の征兆なり。此の種の時候に遇到して、若し能く此れらの凶险の異變を看清み、政令を整飭し自身を約束し、占卜して地を擇びて營寨を遷移し、天象に順應し日辰を推算し、恭恭敬敬に上天の譴告(「戒」は一本に「恕」と作る)を接受して自我警醒せば、則ち凶を化して吉と爲すを得べし。これ即ち順應の道を以て上天に回應するなり。

臣今所列時日雲氣歷象之間,其占候既不一,在乎用兵者因其時擇而用之也。若能善服人心,以順天地之情,和陰陽之性,使災咎不見,率由政令、權智之得其道也,又何暇審占天時以為候哉!

臣の如今の羅列する所の此れらの時日・雲氣・曆象の説は、その中の占候の方法本來就不止に一種にあらず。全く兵を用うる人の當時の情形に依據して挑選使用するを看る。倘若能く眞正に人心を收服し、天地の情理に順應し、陰陽の性質を調和し、災殃をして根本出現せしめざれば、那は皆因に政令と權謀と皆正道に合乎するの緣故なり。彼の時に到りて又何ぞ必ずしも再び工夫を費やして天時を細察し占候に依賴せんや。

出軍日第一百十五

月殺、月虛日,利命將出征。又曰:十二月中各有出軍吉凶日。正月戊辰、丙子、庚午、辛卯、戊子、壬辰、丙辰、丙申,二月丁卯、辛卯,此是九丑日,它月皆不犯。三月甲子、乙丑、戊辰、己巳、丙辰、庚申,四月丁卯、己卯、辛卯、癸卯(一作丑),五月丙申、戊戌、庚戌、庚申、壬戌,六月辛未、己未、癸未、庚寅、丙申、辛卯、壬寅、庚申,七月乙丑、乙酉、己酉、丁巳、癸丑,八月庚午、癸酉、壬午、丙午、戊午,九月癸酉、乙酉、丙申、丁酉、壬寅、己酉、甲寅,十月己酉、甲寅,已上用皆吉。

「月殺」「月虛」此の兩箇の日子は、將領を任命して出兵征討するに宜し。また一説あり。十二箇月の中各々出兵の吉日と凶日と有り。正月の戊辰・丙子・庚午・辛卯・戊子・壬辰・丙辰・丙申、二月の丁卯・辛卯、此れらは「九丑日」に屬し、其他の月份皆觸犯せず。三月の甲子・乙丑・戊辰・己巳・丙辰・庚申、四月の丁卯・己卯・辛卯・癸卯(「卯」は一本に「丑」と作る)、五月の丙申・戊戌・庚戌・庚申・壬戌、六月の辛未・己未・癸未・庚寅・丙申・辛卯・壬寅・庚申、七月の乙丑・乙酉・己酉・丁巳・癸丑、八月の庚午・癸酉・壬午・丙午・戊午、九月の癸酉・乙酉・丙申・丁酉・壬寅・己酉・甲寅、十月の己酉・甲寅。以上の此れらの日子兵を用うれば皆吉利なり。

十一月、十二月九丑、八魁、無翹、大禍、反激、天賊、天門、四不出、六絕、血忌、大敗諸日,今悉刪而去之,不在此十二月吉日(一作月)中。唯犯九丑大凶。一說雲,天乙絕氣日,不可出軍攻戰:正月、六月、二月、七月、三月、八月,以次周十二月。一說雲,六窮日不可出軍:初九、十九、二十八。

十一月・十二月の九丑、および八魁・無翹・大禍・反激・天賊・天門・四不出・六絕・血忌・大敗此れらの凶日に至っては、如今一概に删去して錄せず、上面の此の十二箇月の吉日(「日」は一本に「月」と作る)の中に列せず。その中ただ九丑を觸犯するは最も大凶なり。別に一説あり。天乙絕氣の日は出兵攻戰する可からず。依次に正月と六月・二月と七月・三月と八月、此の次序に照らして十二箇月を推遍す。また一説あり。六窮の日は出兵する可からず。就ち是れ每月の初九・十九・二十八なり。

一說雲,天門日亦謂之往亡,不可出軍:正月初七日,二月十四日,三月二十一日,四月八日,五月十六日,六月二十四日,七月九日,八月十八日,九月二十七日,十月十四日,十一月二十一日,十二月三十日。若有急難,擇時吉辰而動,不用此日可也。

還って一説あり。天門日もまた「往亡日」と叫作し、出兵する可からず。それらは正月初七日・二月十四日・三月二十一日・四月初八日・五月十六日・六月二十四日・七月初九日・八月十八日・九月二十七日・十月十四日・十一月二十一日・十二月三十日なり。若し緊急危難に遇上せば、ただ別に一箇の吉利の時辰を挑んで行動すれば、此れらの日子を避開せずとももまた可なり。

四戰圖第一百十六

(圖缺)

(原書此處應に四戰陣圖を附すべし、今已に亡佚す。)

孤虛第一百十七

一人已上用時孤虛,萬人已上用日(一作月)孤虛。日內如或賊不在虛上,我已得其便地,即用旬孤虛。若復逼迫,不得用孤虛之位,背建向破。假令卯為建,則酉為破是也。

一人以上の小規模の行動は、「時孤虛」を以て推算す。萬人以上の大軍は、「日孤虛」を以て推算す(「日」は一本に「月」と作る)。若し當天の內敵軍倂べて「虛」位に處せずして、我方已に有利の地形を占到せば、就ち改めて「旬孤虛」を用う。若し形勢逼迫して、孤虛の方位を占取するに及ばざれば、那就ち「建」位に背靠りて「破」位に面向す。方比方卯を「建」と爲せば、那麼酉就ち「破」なり。

用日孤虛:子日亥孤巳虛,丑日子孤午虛,寅日丑孤未虛,卯日寅孤申虛,辰日卯孤酉虛,巳日辰孤戌虛,午日巳孤亥虛,未日午孤子虛,申日未孤丑虛,酉日申孤寅虛,戌日酉孤卯虛,亥日戌孤辰虛。用時孤虛:以時為主,方位並同。

日孤虛を用うる推法は、子日は亥を以て孤と爲し巳を以て虛と爲し、丑日は子を以て孤と爲し午を以て虛と爲し、寅日は丑を以て孤と爲し未を以て虛と爲し、卯日は寅を以て孤と爲し申を以て虛と爲し、辰日は卯を以て孤と爲し酉を以て虛と爲し、巳日は辰を以て孤と爲し戌を以て虛と爲し、午日は巳を以て孤と爲し亥を以て虛と爲し、未日は午を以て孤と爲し子を以て虛と爲し、申日は未を以て孤と爲し丑を以て虛と爲し、酉日は申を以て孤と爲し寅を以て虛と爲し、戌日は酉を以て孤と爲し卯を以て虛と爲し、亥日は戌を以て孤と爲し辰を以て虛と爲す。時孤虛を用うる推法は、改めて時辰を以て主と爲し、方位の對應完全相同なり。

用旬孤虛:甲子背戌亥擊辰巳,甲戌背申酉擊寅卯,甲申背午未擊子丑,甲午背辰巳擊戌亥,甲辰背寅卯擊申酉,甲寅背子丑擊午未。背者為孤,擊者為虛也。

旬孤虛を用うる推法は、甲子旬は戌亥の方に背靠りて辰巳の方を攻擊し、甲戌旬は申酉の方に背靠りて寅卯の方を攻擊し、甲申旬は午未の方に背靠りて子丑の方を攻擊し、甲午旬は辰巳の方に背靠りて戌亥の方を攻擊し、甲辰旬は寅卯の方に背靠りて申酉の方を攻擊し、甲寅旬は子丑の方に背靠りて午未の方を攻擊す。背靠する所の方位就ち是れ「孤」にして、攻擊する所の方位就ち是れ「虛」なり。

用孤虛之時,須觀年月所建(一作見),兵刃如山,何可為則。如或敵在虛,久戰而不敗者,切不可引退,但並力擊之,必勝矣。故兵法曰:背孤擊虛,一女子當五丈夫。此之謂也。

孤虛の法を運用する時候、還って必ず當年當月の值する「建」位を察看するを要す(「建」は一本に「見」と作る)。敵人刀槍山の如く陣勢堅厚なれば、孤虛の一術また豈能く死板的定則と當作せんや。若し敵軍正に「虛」位上に處して、久戰して仍然に潰えざれば、那就ち切に後撤すべからず。ただ合力猛攻するを管して、必定獲勝せん。ゆえに兵法の上に説く、「孤」位を背きて「虛」位を攻打するは、一箇の女子もまた五箇の壯漢に抵得上すと。講ずる就ち是れ此の道理なり。

九勝法第一百十八

黃帝曰:行兵要背天目,向地耳。甲子旬天目在庚午,地耳在戊辰。甲戌旬天目在庚辰,地耳在戊寅。甲申旬天目在庚寅,地耳在戊子。甲午旬天目在庚子,地耳在戊戌。甲辰旬天目在庚戌,地耳在戊申。甲寅旬天目在庚申,地耳在戊午。

黄帝説く、行軍作戰は「天目」を背きて「地耳」に面向するを要すと。甲子旬の中、天目は庚午に在り地耳は戊辰に在り。甲戌旬の中、天目は庚辰に在り地耳は戊寅に在り。甲申旬の中、天目は庚寅に在り地耳は戊子に在り。甲午旬の中、天目は庚子に在り地耳は戊戌に在り。甲辰旬の中、天目は庚戌に在り地耳は戊申に在り。甲寅旬の中、天目は庚申に在り地耳は戊午に在り。

地兵法第一百十九

(愚謂地兵者六丙耳,丙為天氣,故不可觸也)

(許洞自注:我謂う所の「地兵」を以爲すらく、不過就ち六丙の位のみなり。丙は天上の火氣に屬す。ゆえに觸犯する可からず。)

太公曰:凡行兵向陣,勿可犯地兵,將軍忌之。甲子旬地兵在寅,甲戌旬地兵在子,甲申旬地兵在戌,甲午旬地兵在申,甲辰旬地兵在午,甲寅旬地兵在辰。

姜太公説く、凡そ行軍布陣は、皆「地兵」の所在の方位を衝犯する可からず。これ是れ將帥の忌諱する所なり。甲子旬の中地兵は寅位に在り、甲戌旬の中地兵は子位に在り、甲申旬の中地兵は戌位に在り、甲午旬の中地兵は申位に在り、甲辰旬の中地兵は午位に在り、甲寅旬の中地兵は辰位に在り。

黄幡虎尾第一百二十

凡戰背虎尾,向黃幡,吉。午戌歲黃幡在戌,虎尾在辰;子辰歲黃幡在辰,虎尾在戌;卯未歲黃幡在未,虎尾在丑;酉丑歲黃幡在丑,虎尾在未也。

凡そ作戰は、「虎尾」を背朝し「黄幡」に面向せば就ち吉利なり。午年・戌年は、黄幡は戌位に在り虎尾は辰位に在り。子年・辰年は、黄幡は辰位に在り虎尾は戌位に在り。卯年・未年は、黄幡は未位に在り虎尾は丑位に在り。酉年・丑年は、黄幡は丑位に在り虎尾は未位に在り。

遊門第一百二十一

出兵攻敵,常須遊門。正月天門在申,百死在酉。二月天門在酉,百死在戌。三月天門在戌,百死在亥。四月天門在亥,百死在子。五月天門在子,百死在丑。六月天門在丑,百死在寅。七月天門在寅,百死在卯。八月天門在卯,百死在辰。九月天門在辰,百死在巳。十月天門在巳,百死在午。十一月天門在午,百死在未。十二月天門在未,百死在申。

兵を出だして敵人を攻打するは、經常に「游門」の所在の方位を推算するを要す。正月は、天門は申位に在り百死は酉位に在り。二月は、天門は酉位に在り百死は戌位に在り。三月は、天門は戌位に在り百死は亥位に在り。四月は、天門は亥位に在り百死は子位に在り。五月は、天門は子位に在り百死は丑位に在り。六月は、天門は丑位に在り百死は寅位に在り。七月は、天門は寅位に在り百死は卯位に在り。八月は、天門は卯位に在り百死は辰位に在り。九月は、天門は辰位に在り百死は巳位に在り。十月は、天門は巳位に在り百死は午位に在り。十一月は、天門は午位に在り百死は未位に在り。十二月は、天門は未位に在り百死は申位に在り。

八卦第一百二十二

一日從艮擊坤,二日從震擊兌,三日從巽擊乾,四日從離擊坎,五日從坤擊艮,六日從兌擊震,七日從乾擊巽,八日從坎擊離。一日、十一、二十一日同前例擊之,每到十日、二十、三十日,並軍忌,不可用之。

初一日は艮位(東北)より兵を出だして坤位(西南)を攻打し、初二日は震位(東)より兌位(西)を攻打し、初三日は巽位(東南)より乾位(西北)を攻打し、初四日は離位(南)より坎位(北)を攻打し、初五日は坤位より艮位を攻打し、初六日は兌位より震位を攻打し、初七日は乾位より巽位を攻打し、初八日は坎位より離位を攻打す。初一日・十一日・二十一日は前面の次序に按照して照樣進攻す。每逢する初十・二十・三十の此の三天は、皆軍中の忌日に屬し、兵を用うる可からず。

五姓第一百二十三

角德在巳,陽子陰午,生氣卯,死酉,刑禍申。羽德在申,陽子陰午,生氣子,死午,刑禍丑。徵德在未,陽午陰子,生氣午,死子,刑禍未。商德在亥,陽子陰午,生氣酉,死卯,刑禍午。宮德在巳,陽子陰午,生氣子,死午,刑禍亥。以生氣擊死氣,以陰擊陽。

五音姓を配する之法は、角姓の德位は巳に在り、陽位は子・陰位は午に在り、生氣は卯に在り死氣は酉に在り刑禍は申に在り。羽姓の德位は申に在り、陽位は子・陰位は午に在り、生氣は子に在り死氣は午に在り刑禍は丑に在り。徵姓の德位は未に在り、陽位は午・陰位は子に在り、生氣は午に在り死氣は子に在り刑禍は未に在り。商姓の德位は亥に在り、陽位は子・陰位は午に在り、生氣は酉に在り死氣は卯に在り刑禍は午に在り。宮姓の德位は巳に在り、陽位は子・陰位は午に在り、生氣は子に在り死氣は午に在り刑禍は亥に在り。兵を用うる時自己の生氣の位を拿りて對方の死氣の位を攻打し、陰位を拿りて陽位を攻打するを要す。

天罡第一百二十四

舊說曰:天罡加孟神在內,加仲神在門,加季神在外。凡在所用,以天罡加地戶,可以入山林,設伏兵。以天罡加天門,可以攻敵。以天罡加酉,隨便伏匿,可以探敵事,他人不覺知。

舊説講ず、天罡星四孟の神上に加えば、人屋內に在り。四仲の神上に加えば、人門口に在り。四季の神上に加えば、人屋外に在り。凡そそれを運用せんと要するは、天罡を「地戶」上に加えば、山林に進入して伏兵を設置し得べし。天罡を「天門」上に加えば、敵人を進攻し得べし。天罡を酉位上に加えば、隨處に隱蔽して身を藏れ、敵方の軍情を刺探し、別人不會に察覺せらるべし。

以天罡加子,天地所通,吉候也。天罡加丑,天地不(一作小)通,以為吉事,不可以私忿、興兵、征伐、遠行,三十里止舍吉(一作凶)。天罡加寅,天地慶悅,舉小事吉。天罡加卯,天地開格,不可舉眾。天罡加辰,天地初呼,不可侵人國界,守己地則敵人不能攻之。天罡加巳,天地神佑,無憂患,但進兵入敵境逢敵則止營勿與即戰。

天罡を子位に加うるを、「天地所通」と叫び、是れ吉利の時候なり。天罡を丑位に加うるを、「天地不通」と叫び(「不」は一本に「小」と作る)、ただ吉慶の事を辦するに宜しく、私怨に因って兵を興し征伐しあるいは遠行する可からず。行軍三十里に到れば就ち停下して營を扎して纔か吉利なり(「吉」は一本に「凶」と作る)。天罡を寅位に加うるを、「天地慶悅」と叫び、小事を辦するに吉利なり。天罡を卯位に加うるを、「天地開格」と叫び、大軍を出動する可からず。天罡を辰位に加うるを、「天地初呼」と叫び、別國の疆界を侵犯する可からず。但し自己の地盤を堅守すれば、敵人もまた攻進む能わず。天罡を巳位に加うるを、「天地神佑」と叫び、憂患無し。ただ是れ兵を進めて敵境に深入して敵軍に遇上する時、就地に營を扎し、立刻交戰するなかるを要す。

天罡加午,天地初起而縱橫之時,凶。天罡加未,天地小通,宜小心,行賞賜,撫將校,慎兵馬,如是吉,反是凶。天罡加申,天地不遠揚兵,堅壁設備吉。天罡加酉,天地關無路,若出兵中道奔亡,遇敵即敗,大凶,宜守營自備。天罡加戌,天地返逆,吏士謀殺主將,主將備之。天罡加亥,天地迫無路,行者止。

天罡を午位に加うるは、「天地初起」にして縱橫交錯するの時にして、凶なり。天罡を未位に加うるを、「天地小通」と叫び、應當に小心謹慎にして、賞賜を頒行し、將校を撫慰し、兵馬を愛惜し、此の樣に做れば就ち吉にして、反し做れば就ち凶なり。天罡を申位に加うるを、「天地不遠」と叫び、遠出して兵を揚ぐるに宜からず。壁を堅めて固守し嚴加に戒備すれば則ち吉なり。天罡を酉位に加うるを、「天地關無路」と叫び、若し是れ兵を出だせば、半路上就ち潰散逃亡し、敵に遇えば必ず敗れ、大凶にして、應當に營壘を守住して自作防備すべし。天罡を戌位に加うるを、「天地返逆」と叫び、屬吏士卒主將を殺害せんことを圖謀せん。主將防備するを要す。天罡を亥位に加うるを、「天地迫無路」と叫び、正に行軍するは應當に停下すべし。

占戰鬥:天罡加孟(孟謂寅申巳亥是也),利力戰;加仲(仲謂子午卯酉是也),主客傷;加季(季謂辰戌丑未是也),利客,勿迎戰,從去之。占卒聞敵出軍:加孟不出,加仲半出,加季全出。占卒聞敵罷軍:加孟不罷,加仲及季俱罷。占聞憂:加孟不足憂,加仲小憂,加季大憂。

交戰を占卜するに、天罡四孟に加えば(孟は寅・申・巳・亥を指す)、奮力搏戰するに利し。四仲に加えば(仲は子・午・卯・酉を指す)、主客雙方皆傷亡有り。四季に加えば(季は辰・戌・丑・未を指す)、客方即ち進攻の一方に利し。己方迎戰するなかれ。それを放ちて過らしめよ。士卒敵軍の出兵を聞くを占卜するに、孟に加えば敵軍出動せず。仲に加えば一半を出動す。季に加えば全軍出動す。士卒敵軍の兵を收むるを聞くを占卜するに、孟に加えば兵を收めず。仲と季とに加えば皆兵を收めん。聞く所の憂患を占卜するに、孟に加えば憂うるに値せず。仲に加えば是れ小憂。季に加えば是れ大憂なり。

雷公第一百二十五

(雷公者六庚耳,庚為天刑,故不犯。又庚乃百神聚之方)

(許洞自注:謂う所の「雷公」は、不過就ち六庚の位のみなり。庚は天刑を主る。ゆえに衝犯する可からず。再者庚位もまた是れ百神聚集の方位なり。)

攝殺六律曰:雷公,將軍在午遊庚,領十二月將及風伯、雨師,其所在之處,群臣響應而到。若出軍布陣立營,則雷之所處,慎不可犯之,主敗軍殺將也。甲子旬六庚在午,甲戌旬六庚在辰,甲申旬六庚在寅,甲午旬六庚在子,甲辰旬六庚在戌,甲寅旬六庚在申。

《攝殺六律》の上に説く、雷公此の位の將軍は、午位に居りて庚位に游行し、十二月將および風伯・雨師を統領す。彼の所在する地方は、衆神皆響應して來らん。若し出兵布陣し營を安んじ寨を立つるに、雷公の所在の方位に對して務めて謹慎にして、衝犯する可からず。衝犯すれば主として軍隊潰敗し主將殺されん。甲子旬の中六庚は午位に在り、甲戌旬の中六庚は辰位に在り、甲申旬の中六庚は寅位に在り、甲午旬の中六庚は子位に在り、甲辰旬の中六庚は戌位に在り、甲寅旬の中六庚は申位に在り。

十二將第一百二十六

用起天一以將兵,大捷(一作樓),闢地千里,敵畏服。用起六合以將兵,主得子女玉帛。用起青龍以將兵,大勝,得敵之邦國府庫。用起大陰以將兵,士卒怯怖。用起天后以將兵,不戰自敗。用起大常以將兵,無功。

「天一」の貴神を以て課を起して兵を統べば、大捷を獲得し得べく(「捷」は一本に「樓」と作る)、土地千里を開拓し、敵人畏懼歸服せん。「六合」を以て課を起して兵を統べば、主として子女・玉帛を獲得せん。「青龍」を以て課を起して兵を統べば、大勝を獲得し得べく、能く敵方の邦國と府庫とを奪取せん。「太陰」を以て課を起して兵を統べば、士卒膽怯畏懼せん。「天后」を以て課を起して兵を統べば、戰わずして自敗せん。「太常」を以て課を起して兵を統べば、勞して功無からん。

用起騰蛇以將兵,士卒驚駭,上下相剋,多傷。用起朱雀以將兵,士卒驚恐,或妄作口舌。用起勾陳以將兵,士卒敗,車馬折傷。用起玄武以將兵,軍多亡遁,戰不利。用起白虎以將兵,師敗無救援。用起天空以將兵,士卒死亡,為敵所欺詐。

「騰蛇」を以て課を起して兵を統べば、士卒驚駭し、上下互相に衝克し、傷亡衆多ならん。「朱雀」を以て課を起して兵を統べば、士卒驚恐し、あるいは憑空に口舌是非を生出せん。「勾陳」を以て課を起して兵を統べば、士卒敗北し、車馬折損せん。「玄武」を以て課を起して兵を統べば、軍中多く逃亡あり、交戰利あらざらん。「白虎」を以て課を起して兵を統べば、軍隊潰敗して救いに來る人無からん。「天空」を以て課を起して兵を統べば、士卒死亡し、還って敵人に欺騙詐取せられん。

說曰:天一者,人皇之靈也,上潛精而為星,在紫微宮,下遊十二次,則居己丑,主慶賀事。治大吉、小吉,臨甲乙寅卯。假令天一治大吉、小吉,而臨甲乙寅卯是也。餘皆例此。

解釋して説く、「天一」は是れ人皇の神靈にして、上に於て精氣を潛藏して星辰と化作し、紫微宮に居る。下に於て十二次を巡行し、就ち己丑の位に居り、慶賀の事を主る。それ「大吉」(丑)・「小吉」(未)の兩神に治し、甲・乙・寅・卯の上に臨む。方比方天一の大吉・小吉を治して甲乙寅卯に臨むは、就ち是れ此の意思なり。其餘皆此の例子に照らして推せよ。

凶神將騰蛇者,飄風之精也,居大陽之丁巳。雷公六律曰:天一奉車都尉,凶神也(一作而),大小殺,並主憂驚。朱雀者(一作星),月之精也,居大陰之丙午。雷公六律曰:天一羽林下為霹靂,凶將也,主刑戮口舌。六合者,大陰之精也,居少陽之乙卯,吉將也。雷公六律曰:天乙光祿大夫,主和合吉事。

凶神の中、「騰蛇」是れ飄風の精氣にして、太陽の位丁巳に居る。《雷公六律》説く、騰蛇是れ天一の奉車都尉にして、凶神に屬し(「也」は一本に「而」と作る)、大殺・小殺を配し、皆憂愁驚恐を主る。「朱雀」(「者」は一本に「星」と作る)は是れ月の精氣にして、太陰の位丙午に居る。《雷公六律》説く、朱雀是れ天一の羽林軍にして、地上に落到すれば就ち霹靂と爲り、凶將に屬し、刑戮と口舌とを主る。「六合」是れ太陰の精氣にして、少陽の位乙卯に居り、吉將に屬す。《雷公六律》説く、六合是れ天乙の光祿大夫にして、和睦吉慶の事を主る。

勾陳者,雷電之精也,居大陽之戊辰。雷公六律曰:天一大將軍也,凶將也,主戰鬥多傷敗。青龍者,大陽之精也,居少陽之甲寅。雷公六律曰:天一左丞相,吉將也,主喜慶事。天后者,水之精也,居大陽之癸亥。雷公六律曰:天一綵女也,吉將也,主蔽匿事。大陰者,金之精也,居少陽之辛酉。雷公六律曰:天一禦史中丞,吉將也,主陰私事也。

「勾陳」是れ雷電の精氣にして、太陽の位戊辰に居る。《雷公六律》説く、勾陳是れ天一の大將軍にして、凶將に屬し、交戰多く傷亡敗績あるを主る。「青龍」是れ太陽の精氣にして、少陽の位甲寅に居る。《雷公六律》説く、青龍是れ天一の左丞相にして、吉將に屬し、喜慶の事を主る。「天后」是れ水の精氣にして、太陽の位癸亥に居る。《雷公六律》説く、天后是れ天一の彩女にして、吉將に屬し、隱蔽藏匿の事を主る。「太陰」是れ金の精氣にして、少陽の位辛酉に居る。《雷公六律》説く、太陰是れ天一の御史中丞にして、吉將に屬し、隱私の事を主る。

玄武者,北方七星之精也,居少陰之壬子。雷公六律曰:天一之後將也,凶將也,主逃亡、離別、盜賊,若與風伯、雨師二神並,必有盜賊。大常者,土之精也,居少陰之己未。雷公六律曰:天一大常卿,吉將也,主財帛。白虎者,西方七星之精也,居少陰之庚申。雷公六律曰:天一逆尉也,凶將也,主囚禁骸骨。天空者,斗魁之精也,居少陰之戊戌。雷公六律曰:天一宜師(一作日直),凶將也,主欺詐事。

「玄武」是れ北方七宿の精氣にして、少陰の位壬子に居る。《雷公六律》説く、玄武是れ天一の後將にして、凶將に屬し、逃亡・離別と盜賊とを主る。若しそれ風伯・雨師の二神と倂列せば、一定に盜賊有らん。「太常」是れ土の精氣にして、少陰の位己未に居る。《雷公六律》説く、太常是れ天一の太常卿にして、吉將に屬し、財帛を主る。「白虎」是れ西方七宿の精氣にして、少陰の位庚申に居る。《雷公六律》説く、白虎是れ天一の逆尉にして、凶將に屬し、囚禁と死傷枯骨とを主る。「天空」是れ北斗魁星の精氣にして、少陰の位戊戌に居る。《雷公六律》説く、天空是れ天一の宜師(一本に「日直」と作る)にして、凶將に屬し、欺騙詐取の事を主る。

三九第一百二十七

一九、榮、衰、安、怨、成、壞(一作敗)、友、親,二九業、榮、衰、安、怨、成、壞(一作敗)、友、親,三九貽、榮、衰、安、怨、成、壞(一作敗)、友、親。

「三九」の法の名目は、第一箇の九位を「一九」と叫び、命宿よりして下りて依次に榮・衰・安・怨・成・壞(「壞」は一本に「敗」と作る)・友・親と爲る。第二箇の九位は「業」宿を以て首を起し、依次に榮・衰・安・怨・成・壞(一本に「敗」と作る)・友・親と爲る。第三箇の九位は「貽」宿を以て首を起し、依次に榮・衰・安・怨・成・壞(一本に「敗」と作る)・友・親と爲る。

大將軍將有事,即預揆己所生之日,以月將推之為命宿(一室、二奎、三胃、四壁、五參、六鬼、七張、八角、九亢、十心、十一牛、十二虛)。第一命宿,次榮、衰、安、怨、成、壞、友、親之類。一九之法,次以業宿為準,前三九周二十七宿而推之(假令大將生於五月五日,胃宿為第一命宿,三昴為榮,三畢為衰,四觜為安,五參為怨,六井為成,七鬼為壞,八柳為友,九星為親。次為一九之法,十張為業宿,後起之為首,餘皆以類推之。然於三九,他皆仿此也)。

大將軍將に軍事行動有らんとする時、先ず預め自己の出生の日子を推算し、月將を以て彼の「命宿」を推出す(一は室宿・二は奎宿・三は胃宿・四は壁宿・五は參宿・六は鬼宿・七は張宿・八は角宿・九は亢宿・十は心宿・十一は牛宿・十二は虛宿)。第一位是れ命宿にして、下去に接けて依次に榮・衰・安・怨・成・壞・友・親の類なり。第一箇の九位排完し、接續して「業」宿を以て準として算起し、前後三箇の九位共に二十七宿、此に依って推排す(方比方大將五月初五に生るれば、胃宿就ち第一命宿にして、第三位昴宿は榮にして、第三位畢宿は衰にして、第四位觜宿は安にして、第五位參宿は怨にして、第六位井宿は成にして、第七位鬼宿は壞にして、第八位柳宿は友にして、第九位星宿は親なり。これ即ち一九の法なり。接續して第十位張宿を「業」宿と作し、それより頭を起して再び一輪を排し、其餘皆此に照らして類推す。三九の法に至っては、其他の各輪もまた皆此の樣に仿照す)。

設或值命、業宿值日,宜舉號命(一作令),數習士馬,建立營寨吉。榮宿值(一作吉)日,攻之取戰吉。衰宿值日,所作凶。安宿值日,移兵遷寨吉,餘凶。怨宿值日,惟利結交於諸侯及延納賓客,餘凶。成宿值日,設權詐及禳厭吉。壞宿值日,宜大舉師旅討伐叛逆,及鎮厭咒咀皆吉。友宿及親宿值日,備藥餌,治軍病,犒勞宴賞。此三九之用也。

假如「命宿」あるいは「業宿」の當值する日に輪到せば、號令を發し(「命」は一本に「令」と作る)兵馬を操演し營寨を建立するに宜しく、皆吉利なり。「榮宿」當值する日(「值」は一本に「吉」と作る)は、進攻交戰吉利なり。「衰宿」當值する日は、何を做るも皆凶なり。「安宿」當值する日は、軍隊を移動し營寨を遷徙するに吉利にして、其餘の事皆凶なり。「怨宿」當值する日は、ただ諸侯を結交し賓客を延請接納するに利して、其餘の事皆凶なり。「成宿」當值する日は、權謀詐術を施行しおよび禳解厭勝の術を行うに吉利なり。「壞宿」當值する日は、大擧して師を興して叛逆を討伐し、および鎭壓厭勝・咒詛の類を行うに宜しく、皆吉利なり。「友宿」と「親宿」の當值する日は、藥物を備辦し軍中の病員を醫治し犒賞宴請するに宜し。これ即ち三九の法の用處なり。

茍欲求其值日之法,即以二十八宿本值之日配於大將軍命業胎宿之次,以定吉凶之後,以七元甲子起之。第一虛宿值大陽受日(房、星、昴值示大陽受日,他皆仿此),是謂天元甲子。第二奎宿值木星受日(斗、角、井所值同),是謂地元甲子。第三畢宿值大陰受日(危、心、張所值同),是謂人元甲子。第四鬼宿值金星受日(牛、亢、婁所值同),是謂鬼元甲子。

若し各宿の當值する日を推求するの方法せんと要せば、就ち二十八宿の本來值する所の日子を、大將軍の命宿・業宿・胎宿の次序に配して、吉凶を定出して後、再び「七元甲子」を以て算起す。第一は、虛宿太陽受日を值し(房宿・星宿・昴宿同じく太陽受日を值す、其餘此に仿す)、これを「天元甲子」と叫ぶ。第二は、奎宿木星受日を值し(斗宿・角宿・井宿の值する所相同じし)、これを「地元甲子」と叫ぶ。第三は、畢宿太陰受日を值し(危宿・心宿・張宿の值する所相同じし)、これを「人元甲子」と叫ぶ。第四は、鬼宿金星受日を值し(牛宿・亢宿・婁宿の值する所相同じし)、これを「鬼元甲子」と叫ぶ。

第五翼宿值火星受日(尾、觜、室所值同),是謂江元甲子。第六氐宿值土星受日(女宿、柳、胃所值同),是謂河元甲子。第七箕宿值水星受日(軫、參、畢、壁所值同),是謂海元甲子。以二十八宿所值之內,足以見九宿之日。假令三月一日為五元甲子,即翼宿值火星受日,二日乙丑即軫宿值水星受日,三日丙寅即角宿值木星受日。以類次之,凡七元,起於天元,終於海元,周而復始。

第五は、翼宿火星受日を值し(尾宿・觜宿・室宿の值する所相同じし)、これを「江元甲子」と叫ぶ。第六は、氐宿土星受日を值し(女宿・柳宿・胃宿の值する所相同じし)、これを「河元甲子」と叫ぶ。第七は、箕宿水星受日を值し(軫宿・參宿・畢宿・壁宿の值する所相同じし)、これを「海元甲子」と叫ぶ。二十八宿の值する所の日子の當中に於て、就足以に前述の九宿の當值する日を看出す。方比方三月初一是れ「五元甲子」なれば、那の天便ち是れ翼宿火星受日を值し、初二乙丑は、就ち是れ軫宿水星受日を值し、初三丙寅は、就ち是れ角宿木星受日を值す。此の樣に照らして依次に排し下去りて、一共に七元、天元より開始して、海元に到りて終結し、周而復始す。

茍欲知其七元甲子之資次,當以長歷推之。凡見所值之宿可以配於三九也,行師者能以三九用日,五行用時,孤虛用地,雲氣星辰用天,沈機用人,未有不建拔世之功者也。

若し七元甲子の先後次第を弄清せんと想えば、應當に長曆を以て推算すべし。凡そ某日の值する所の星宿を看出せば、就ち三九の法上に配し得べし。兵を領して作戰する人、能く三九の法を以て日を擇び、五行を以て時を擇び、孤虛を以て地を擇び、雲氣星辰を以て天象を觀察し、深沉の機謀を以て人を用うれば、當世を超越する功業を建立せざる無からん。

六壬傳課第一百二十八

凡用六壬,若占利害之時,先以月將加正時。假令正月占,以正月合神登明為月將,卯時占以登明加卯。他皆例此。

凡そ六壬術を運用するは、若し利害を占問せんと要せば、先ず「月將」を起課の當時の時辰上に加う。方比方正月に於て占卜せば、就ち正月の合神「登明」(亥神)を以て月將と作し、卯時課を起せば、就ち登明を卯位上に加う。其餘の各月皆此の例子に照らして推せよ。

若占今日今時,而行四課之法。何謂四課?假令今甲子,先視甲上所見神為第一課,號曰日之陽。次視神本位上所見之神為第二課,號曰日之陰。次視子上所見之神為第三課,號曰辰之陽。次視此神本位上所見之神為第四課,號曰辰之陰。此謂四課。四課既畢,見有相剋,取以發課。故《金匱經》曰:用兵當知刑剋之忌。

若し占するは當日當時の事なれば、就ち「四課」の法を用いるを要す。何をか四課と謂う。方比方今天是れ甲子日なれば、先ず天干甲上の臨する所の神を看て、以て第一課と作し、「日之陽」と稱す。再び此の神本位上の臨する所の神を看て、以て第二課と作し、「日之陰」と稱す。再び地支子上の臨する所の神を看て、以て第三課と作し、「辰之陽」と稱す。再び此の神本位上の臨する所の神を看て、以て第四課と作し、「辰之陰」と稱す。これを四課と叫ぶ。四課排定して後、其の中より相克の關係有る一組を找出し、それを以て課を發して用神を定出す。ゆえに《金匱經》説く、兵を用うる人は應當に刑克の避忌を懂得すべしと。

凡四課之內,上克下者,正月甲子日寅時用勝光是也。又有下克上者,二月丁巳日午時用從魁是也。兩俱克者,皆下以克上為用,上以克下為體也。下克上者,用兵之家憂深;上克下者,憂淺。自兩上克下以此為用,三月庚午日河魁是也。自有俱此以淺害深者為用,四月戊辰日丑時勝光是也。自有涉害俱深以先見者為用,五月己酉日戌時用勝光是也。

四課の內、上神の下神を克する有るは、例如正月甲子日寅時「勝光」(午神)を取りて用と爲す。もまた下神の上神を克する有るは、例如二月丁巳日午時「從魁」(酉神)を取りて用と爲す。上下兩邊皆相克の有るは、一律に下克上の者を以て「用」と作し、上克下の者を以て「體」と作す。下克上のは、兵を用うる人憂患深重なり。上克下のは、憂患較淺なり。もまた兩處皆上克下にして其の中より一を擇びて用と爲す有るは、例如三月庚午日「河魁」(戌神)を取る。もまた兩處の情形相同じく、受害の較淺き者を取りて用と爲す有るは、例如四月戊辰日丑時「勝光」を取る。もまた涉害同じく深重にして、先に出現する者を取りて用と爲す有るは、例如五月己酉日戌時「勝光」を取る。

自有上下俱不相剋,以遙相剋為用。《金匱經》曰:交俱不入當獨立。此謂遙見相剋也。假令正月甲辰日寅時,即以正月合神登明加甲上,甲日見登明,水木不相剋,辰上見大吉,二土不相剋,登明本位亥上見傳送是金遙見,甲木即以傳送。此謂遙見克。他皆仿此。

もまた上下全く皆相克せざる情形有れば、那就ち「遙克」を以て用神を定む。《金匱經》説く、彼此交錯して皆相入らざれば、就ち獨り一神を取りて立つべしと。講ずる就ち是れ遙相見て相克するなり。方比方正月甲辰日寅時、正月の合神登明を甲上に加えば、甲日の見る所是れ登明にして、水と木と倂べて相克せず。辰上の見る所是れ「大吉」(丑神)にして、二者同じく土に屬し、もまた相克せず。而して登明本位亥上「傳送」(申神)を見て金に屬す。これ即ち遙相見なり。金能く甲木を克す。於是乎傳送を取りて用と爲す。これを「遙見克」と叫ぶ。其餘皆此の辦法に仿照せよ。

自有俱遙見克以比者為用,自有俱比以遙先見用。自有日遙相剋神,神剋日兩俱見,以神克時日為用,無神克者,乃用日克神為用。自有兩遙剋日,亦以比為用。自有俱比以此先見者為用。先見為先後辰課。

兩處皆遙克の有れば、就ち日干と同類相比の一方を取りて用と爲す。兩邊皆同類相比なれば、就ち遙克の中先に出現する一方を取りて用と爲す。あるは日干の遙かに某神を克し、某神また日干を克し、兩種の情形同時に出現すれば、那就ち「神克日」の一方を取りて用と爲す。若し神克日の無ければ、纔か「日克神」を取りて用と爲す。兩箇の神同時に日干を遙克する有れば、もまた同類相比の者を取りて用と爲す。若し皆同類相比なれば、就ち其中の先に出現するを取りて用と爲す。謂う所の「先見」は、日課の先に在り辰課の後に在るの次序に按じて先後を分かつなり。

四課者自有無遙相剋者,當以仰伏視之,此法為用。何謂仰伏視之?說者曰:西方白虎宿有昴星,主天獄也。剛日當從地下星仰望天上,隨所見神仍以為用;柔日當從天上昴星伏視地下,所見辰以此神本位為用;假令仰見大吉,即以大吉為用;假令伏視地下見午,以天上勝光。他皆仿此。所謂仰伏視為用也。昴星不可全信,以日辰上審之,剛日中傳辰後傳日,柔日中傳日後傳辰,自有八專日。唯有兩課見有相剋,亦涉害深為用。無剋日,剛日從日上陽神順數,柔日從辰上陰神逆數,皆及三神為用。

四課の中若し遙克をも連ねて無ければ、就ち「仰視・伏視」の法を以て用神を取るべし。何をか仰視伏視と謂う。解説する人講ず、西方白虎七宿の中昴星有りて、天獄を主ると。剛日(甲・丙・戊・庚・壬)に逢えば、就ち地盤の昴星位より天盤を仰望し、見る所の神に隨って取りて用と爲す。柔日(乙・丁・己・辛・癸)に逢えば、就ち天盤の昴星より地盤を俯視し、見る所の地支の本位の神を以て取りて用と爲す。方比方仰視して「大吉」を見れば、就ち大吉を取りて用と爲し、方比方俯視して地盤に午を見れば、就ち天盤の「勝光」を取る。其餘此に仿せよ。これ即ち謂う所の仰視伏視を以て用を取るなり。不過昴星の法は全信する可からず。還って日・辰の上に於て仔細に審察するを得べし。剛日は中傳辰を取り末傳日を取り、柔日は中傳日を取り末傳辰を取る。此の外別に「八專日」有り。八專日はただ兩課の中相克の出現有れば、もまた照樣涉害の深きを取りて用と爲す。若し日を克する無ければ、剛日は就ち日上の陽神より順に數え、柔日は就ち辰上の陰神より逆に數え、皆第三箇の神に數えて取りて用と爲す。

何謂八專?甲寅、庚申、己未、丁未、癸丑辰同也。假令正月甲寅日寅時,以月將加時申上寅上見登明,此謂地上二神也,共見天下一神。假令正月甲寅日卯時,以月將加卯上寅上共見河魁,此謂一神臨二神。河魁本位上見勝光不相剋,即以河魁為用。無相剋,乃用逆之之數焉。

何をか「八專」と謂う。就ち是れ甲寅・庚申・己未・丁未・癸丑の此れらの日子にして、天干の寄宮と地支と同位なり。方比方正月甲寅日寅時、月將を時上に加えば、申位と寅位の上皆登明を見る。これを地盤上兩箇の位置共同に天盤上の一箇の神に對するを謂う。又比方正月甲寅日卯時、月將を卯上に加えば、寅位上共同に「河魁」を見る。これを一箇の神の兩箇の神上に臨むを謂う。河魁本位上「勝光」を見るも、二者倂べて相克せず。就ち河魁を取りて用と爲す。若し全く皆相克せざれば、纔か前面の説く所の逆數の辦法を用う。

順數法:假令正月庚申日戌時,庚與申共見從克,從河魁本位上見河魁,皆不相剋,庚剛日當從庚申上起從魁順數之,及三神到戌上登明,即以徵明為用也。逆數法:假令正月己未日戌時,以月將加戌巳未共見傳送,傳送本位申上起河魁皆不相剋,柔日當從傳送,傳送本位申上起從魁為始,逆數到午上得小吉為用。

順數の法は、方比方正月庚申日戌時、庚と申と皆「從魁」を見、河魁本位上より又河魁を見、彼此皆相克せず。庚是れ剛日なれば、就ち庚申の所在の處に於て從魁を以て頭を起して順に數え、第三箇の神に數えて、戌位上の登明に落着し、於是乎登明(即ち徵明)を取りて用と爲す。逆數の法は、方比方正月己未日戌時、月將を戌上に加えば、巳位・未位皆「傳送」を見、傳送本位申上に河魁を起し、もまた皆相克せず。己是れ柔日なれば、就ち傳送より算起して、傳送本位申上に於て從魁を以て起點と爲し、逆に數えて午位上に「小吉」を得、それを取りて用と爲す。

自有伏吟時,剛日用日上神,柔日用辰上神,皆前刑而後克,前破而後沖,以為三傳。《金匱經》曰:剛以日,柔以辰。不共言無相剋也。剛日起日上神,柔日以辰上神為用。凡伏吟皆前刑後克,前破後沖。何謂刑?用寅刑巳,用子刑卯之屬也。何謂破?午無刑破子就卯,亥無刑破寅刑申之屬也。辰無刑破丑,酉無刑破子是也。

「伏吟」課(天盤と地盤と重合して動かず)に遇上する時候、剛日は日上の神を取り、柔日は辰上の神を取り、皆先ず相刑を取り後に相克を取り、先ず相破を取り後に相衝を取り、此に據って三傳を定出す。《金匱經》説く、剛日は日干を以て主と爲し、柔日は地支を以て主と爲す。此れら講ずる皆相克取る可き無き時の辦法なり。剛日は日上の神より算起し、柔日は辰上の神を以て用と爲す。凡そ伏吟課は、一律に先刑後克・先破後衝す。何をか「刑」と謂う。就ち是れ寅を以て巳を刑し子を以て卯を刑するの此の一類なり。何をか「破」と謂う。就ち是れ午刑無ければ就ち破を取り子は則ち卯に就き、亥刑無ければ就ち破を取り寅は則ち申を刑し、辰刑無ければ就ち丑を破を取り、酉刑無ければ就ち子を破を取るの此の一類にして、皆是れ此の意思なり。

自有反吟時,剛日以日(一作月)沖為用,柔日以辰沖為用,皆載沖而後刑,為三傳。何謂四沖?假令甲子日甲沖辛,辛上見天罡以為用,天罡而又反沖河魁,此為戰沖,然後刑未。何謂辰沖?假令乙丑日丑沖丙,丙上見登明為用,用登明而後破功曹,又辰沖太乙,此謂再沖,然後刑申。一雲反吟猶有諜課,發卦而後前沖後刑,《玉曆》詳之。

「反吟」課(天盤と地盤と相衝す)に遇上する時候、剛日は日干の相衝を以て用と爲し(「日」は一本に「月」と作る)、柔日は地支の相衝を以て用と爲し、皆先ず衝を取り後に刑を取り、此に據って三傳を定出す。何をか「四衝」と謂う。方比方甲子日、甲と辛と相衝し、辛上「天罡」(辰神)を見れば、就ちそれを取りて用と爲す。天罡また反って「河魁」(戌神)を衝す。これを「戰衝」と叫び、然る後再び未を刑す。何をか「辰衝」と謂う。方比方乙丑日、丑と丙と相衝し、丙上「登明」を見れば、就ちそれを取りて用と爲す。登明を用いて之後「功曹」(寅神)を破し、又辰を以て「太乙」(巳神)を衝す。これを「再衝」と叫び、然る後再び申を刑す。別に一説あり。反吟課に還って謂う所の「諜課」有り。卦を發して後先衝後刑す。《玉曆》一書説きて詳細なり。

凡加臨四課式,反、伏二吟皆須知發課之神,即三傳也。何謂三傳?假令小吉臨寅為用,即小吉為第一傳;小吉本位見神后,神后即第二傳;神后本位見太乙,太乙即為第三傳。所以三者象三正,四者象四時。能於傳課以求相剋之神,斯足以見用兵之利害矣。

凡そ四課式盤を排布するに、反吟・伏吟の此の兩種の課に遇到せば、皆必ず課を發するの神を弄清するを要す。即ち是れ三傳なり。何をか三傳と謂う。方比方「小吉」(未神)寅上に臨んで取りて用神と爲せば、小吉就ち是れ第一傳なり。小吉本位上「神后」(子神)を見れば、神后就是れ第二傳なり。神后本位上「太乙」(巳神)を見れば、太乙就ち是れ第三傳なり。三傳の「三」を取るは、三正に取法するなり。四課の「四」を取るは、四時に取法するなり。能く傳課の中より相克の神を找出せば、就足以に兵を用うるの利害を看清まん。

《集(一作利)靈經》曰:用式之時,朝向南,暮向北,避歲月二建。說曰:甲乙日日入時,丙丁日夜半時,戊己日平旦時,庚申日巳時,壬癸日晡時(已上不可占也)。一云:正月、五月、九月卯,二月、六月、十月子,三月、七月、十一月酉,四月、八月、十二月丑。已上以天罡加之,增減式法。

《集靈經》(「集」は一本に「利」と作る)説く、式盤を使用する時、早晨は面南に朝かい、傍晚は面北に朝かい、太歲と月建の此の兩箇の方位を避開せよと。解説講ず、甲日・乙日の日落の時、丙日・丁日の半夜の時、戊日・己日の清晨の時、庚日・申日の巳時、壬日・癸日の傍晚の申時(以上の此れらの時辰皆占卜する可からず)。別に一説あり。正月・五月・九月は卯を取り、二月・六月・十月は子を取り、三月・七月・十一月は酉を取り、四月・八月・十二月は丑を取る。以上の此れら皆天罡を加上して、用いて式盤の推法を增減する依據と爲すなり。

遁甲遊都第一百二十九

《璧玉經》曰:玄女言:寧可與人妻孥,不可示人游都。欲知敵人,必決游都之法。甲己日大吉,乙庚日神后,丙辛日功曹,丁壬日太乙,戊癸日傳送,皆以月將加時。聞賊時游都加日辰,敵即到臨。一辰一日到臨,二辰後二日到臨,三辰已過矣。游都旺相剋日辰,凶益甚,囚死不克日辰,無以患。

《璧玉經》記載す、九天玄女説く、寧ろ妻子兒女を別人に送るとも、「游都」の術を別人に泄露する能わずと。敵情を察知せんと欲せば、必定に游都の法を以て判斷するを要す。甲日・己日は「大吉」(丑神)を取り、乙日・庚日は「神后」(子神)を取り、丙日・辛日は「功曹」(寅神)を取り、丁日・壬日は「太乙」(巳神)を取り、戊日・癸日は「傳送」(申神)を取り、皆月將を時辰上に加えて推算す。敵情を聽到する時、游都若し日辰の上に加えば、敵人馬上に就到せん。一辰を相隔てば、一日の內に到る。二辰を相隔てば、兩日之後に到る。三辰を相隔てば、那就ち是れ已に過去したり。游都旺相の氣に處してまた日辰を克するは、凶险更に甚し。囚死の氣に處して日辰を克せざれば、就ち憂うるに必あらず。

說者曰:吏神、奸神,一名游都,吏在天一前,奸在天一後。奸在後,加日辰在我家年止謀我身。又說曰:以吏為游都,以賊為虜都。其法同加日,皆不可出軍也。甲己之日,吏神申,賊神寅。乙庚之日,吏神子,賊神午。丙辛之日,吏神寅,賊神申(一作巳),盜神亥。丁壬之日,吏神巳,盜神申,賊神亥。戊癸之日,吏神申,盜神巳,賊神寅。

解説する人講ず、「吏神」と「奸神」と合して又「游都」と叫ぶと。吏神は天一の前に在り、奸神は天一の後に在り。奸神すでに後に在り、若し日辰に加臨して我方の所在する年位上に落れば、那就ちただ我一人を圖謀するのみなり。又有一説、吏神を以て「游都」と爲し、賊神を以て「虜都」と爲し、兩者推法相同じく、凡そ日上に加臨するは、皆出兵する可からず。甲日・己日は、吏神は申に在り賊神は寅に在り。乙日・庚日は、吏神は子に在り賊神は午に在り。丙日・辛日は、吏神は寅に在り賊神は申に在り(「申」は一本に「巳」と作る)盜神は亥に在り。丁日・壬日は、吏神は巳に在り盜神は申に在り賊神は亥に在り。戊日・癸日は、吏神は申に在り盜神は巳に在り賊神は寅に在り。

說曰:申子辰功曹為天賊,亥卯未太乙為天賊,巳酉丑登明為天賊,寅午戌傳送為天賊。

解説講ず、申・子・辰の日は「功曹」(寅神)を以て天賊と爲し、亥・卯・未の日は「太乙」(巳神)を以て天賊と爲し、巳・酉・丑の日は「登明」(亥神)を以て天賊と爲し、寅・午・戌の日は「傳送」(申神)を以て天賊と爲す。

說曰:游都將者,總獲天賊、天殺諸將;若加臨辰則立到;臨好鄉則不戰,有降兵卒;臨所畏,大戰,父子不相親,中外不相信;臨東方,兵凶;西方,兵威不可加;南方,利臨勒兵賜將士;加北方,利禦敵。凡為將皆須知是游都,將不能知是者,與士位同耳。若欲都將之術,甲己之日大吉,乙庚之日神后,丙辛之日功曹,丁壬之日太乙,戊癸之日傳送。

解説講ず、「游都」此の位の將神は、天賊・天殺等の諸神將を總管す。それ若し地支の辰位に加臨せば、敵人立刻に就到せん。吉利の方位に臨めば、交戰せざらん、還って敵兵の前來投降する有らん。我の畏懼する所の方位に臨めば、一場の大戰有りて、以て父子相親する能わず內外相信する能わざるに致らん。東方に臨めば、兵を用うるに凶险なり。西方に臨めば、兵威施加する可からず。南方に臨めば、部伍を整肅し將士を賞賜するに利し。北方に臨めば、來敵を防禦するに利し。凡そ將領を做るは皆必ず游都を懂得するを要す。將領若し此のを懂得せざれば、一名の普通士卒と跟うてもまた甚だ兩樣無からん。都將の術を施行せんと要すれば、甲日・己日は大吉を取り、乙日・庚日は神后を取り、丙日・辛日は功曹を取り、丁日・壬日は太乙を取り、戊日・癸日は傳送を取れ。

說曰:都將凡臨日辰而相剋者,賊來疾速;加季,刺史,亦為來(一作求);四孟神,不來(一作求)。若在天一,在一辰,一日來(一作求);二辰,二日來(一作求);三辰,三日來(一作求);四辰,無賊來;後三辰,為過去。凡三都將所臨,賊在其下。

解説講ず、都將凡そ日辰に臨んでまたそれと相克するは、敵人の來ること極快なり。四季の神辰・戌・丑・未に加臨するは、刺史一級の官長身上に應じ、もまた敵人の要來するを表示す(「來」は一本に「求」と作る)。四孟の神寅・申・巳・亥に加臨するは、敵人來らざらん(一本に「求」と作る)。若し天一の位に落れば、一辰を相隔てば一日の內に來り、二辰を相隔てば兩日の內に來り、三辰を相隔てば三日の內に來り、四辰を相隔てば、就ち敵人の來る無し。後三辰に落るるは、説明して已に過去したり。凡そ三箇の都將の臨む所の方位は、敵人就ちその下方に在り。

說曰:欲知賊消息,往天耳聽之。天耳者,大吉、小吉是也。說曰:正時占大白入熒惑,賊來;熒惑入大白,賊不來。丙丁為熒惑,庚辛(一作申)為大白。說曰:天一加日,今到;天罡、小吉、太乙、神后加日辰,敵來至急。又曰:天罡加孟,言虛;加仲,賊來至半道;加季,即到。

解説講ず、敵人の消息を探知せんと想えば、「天耳」の所在する方位に到りて聽くを要す。謂う所の天耳は、就ち是れ「大吉」(丑)と「小吉」(未)の兩神なり。解説講ず、正時に按じて課を起せば、太白熒惑に入れば、敵人來らん。熒惑太白に入れば、敵人來らざらん。丙・丁は熒惑(火星)に屬し、庚・辛は太白(金星、「辛」は一本に「申」と作る)に屬す。解説講ず、天一日干に加臨すれば、敵人今天到らん。天罡・小吉・太乙・神后日辰に加臨すれば、敵人の來ること非常に急なり。又説く、天罡四孟に加臨すれば、傳來の消息是れ假なり。四仲に加臨すれば、敵人已に半路に走到したり。四季に加臨すれば、敵人馬上に就到せん。

說曰:己在前賊不知處者,正時天目所臨,賊在其下矣。天目者,春氐,氐乙下;夏柳,柳午下;秋胃,胃辛下;冬女,女癸下。一說:神后為玄武,加日時,敵急到。說曰:宵聞敵,三刑加日辰,到急。三刑者,天罡、大沖、太乙也。又占敵,以月將加時天罡,或如房屋,或臨日辰,不可出軍,當逢剽掠。

解説講ず、自己前に在りて敵人の何れの處に藏るるかを知らざるは、就ち正時「天目」の臨む所の方位を看よ。敵人就ちその下方に在り。謂う所の天目は、春天是れ氐宿にして、氐は乙位の下に在り。夏天是れ柳宿にして、柳は午位の下に在り。秋天是れ胃宿にして、胃は辛位の下に在り。冬天是れ女宿にして、女は癸位の下に在り。別に一説あり。神后即ち是れ玄武にして、日時に加臨すれば、敵人急速に趕到せん。解説講ず、夜裏敵情を聽到し、三刑の神日辰に加臨すれば、敵人の來ること甚だ急なり。謂う所の三刑は、就ち是れ天罡(辰)・大衝(卯)・太乙(巳)の此の三神なり。又敵情を占すに、月將を時上に加えて天罡を看れば、若しそれ房屋の如き位置に落るるか、あるいは日辰に臨まば、皆出兵する可からず。出兵すれば必定搶掠に遭わん。

說曰:白虎、勾陳加到己地,聞應有己即為盜。或甲日,必有敵揚兵見血。騰蛇、朱雀,但驚恐耳。傳送加孟,敵肇發;加仲,半道;加季,即到。

解説講ず、白虎・勾陳自己の一方の地面上に加臨すれば、聞く所の應驗若し自己に牽連せば、那就ち是れ盜賊有るなり。若し甲日に逢えば、必定敵人の兵を揚げて挑戰し血を見て交鋒する有らん。若し是れ騰蛇・朱雀の加臨なれば、那ただ是れ虛驚一場のみなり。傳送四孟に加臨すれば、敵人剛剛出發したり。四仲に加臨すれば、敵人已に半路に在り。四季に加臨すれば、敵人立刻に就到せん。

說曰:占聞前後有奸賊,欲知何所在者,以月將加時看大吉:大吉加子午,賊在大沖下;加丑未,在太乙下;加寅申,在傳送下;加卯酉,在從魁下;加辰戌,在登明下;加巳亥,在大吉下。勿避此等,必有傷害。聞有賊,用月將加時,便看大吉前在也。正時大沖、神后、太乙加日,賊在前;加辰,賊在後。

解説講ず、占問する所の聽説する前後に奸細盜賊有りて、それらの在る何れの地方かを知らんと想えば、就ち月將を時上に加えて「大吉」を看よ。大吉子位・午位に加えば、賊は「大衝」(卯)の下に在り。丑位・未位に加えば、賊は「太乙」(巳)の下に在り。寅位・申位に加えば、「傳送」(申)の下に在り。卯位・酉位に加えば、「從魁」(酉)の下に在り。辰位・戌位に加えば、「登明」(亥)の下に在り。巳位・亥位に加えば、「大吉」(丑)の下に在り。若し此れらの方位を回避せざれば、必定傷害を遭受せん。賊有りを聽説せば、就ち月將を以て時に加え、隨卽大吉の前面の所在する位置を察看せよ。正時に按じて課を起せば、大衝・神后・太乙日干に加臨すれば、賊は前方に在り。地支に加臨すれば、賊は後方に在り。

說曰:甲己之日子為吏,亥為賊;乙庚之日亥為吏,酉為賊;丙辛之日寅為吏,巳為賊;丁壬之日巳為吏,申為賊;戊癸之日申為吏,卯為賊。占賊有氣,其賊必來;占死氣,賊不到。又此時言吉凶,以意消息之可也。

解説講ず、甲日・己日は子を以て吏神と爲し亥を以て賊神と爲し、乙日・庚日は亥を以て吏神と爲し酉を以て賊神と爲し、丙日・辛日は寅を以て吏神と爲し巳を以て賊神と爲し、丁日・壬日は巳を以て吏神と爲し申を以て賊神と爲し、戊日・癸日は申を以て吏神と爲し卯を以て賊神と爲す。占得て賊神生氣有る狀態に處せば、敵人必定に來らん。占得て死氣の中に處せば、敵人到らざらん。此の外、此の時の論斷する所の吉凶は、皆自己の斟酌に憑って體會推求し得べし。

五行勝負第一百三十

五行者,順五行所值之時日,以定主客之利害也。金日金時,無所害也,行師不遇敵,旗色上白;報兵馬事來(一作求),虛聲也。金日水時,若值申子辰日,忌申子辰時,當避之,行師不遇敵,旗色上黑;報兵事,事來則不到,見賊亦無戰,自相休解。

謂う所の「五行勝負」は、日辰と時辰と各々の屬する所の五行に順い、以て「主」(據守して後に動く一方)と「客」(進攻して先に動く一方)と誰れ有利か誰れ受害するかを判定す。金日金時に遇えば、五行同氣にして妨害無く、行軍敵人に遭遇せず、旗幟白色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、もまた不過虚張聲勢の空話のみ。金日水時に遇えば、金氣水に泄れ、若し此の日是れ申日・子日・辰日なれば、就ち申時・子時・辰時を忌避するを要し、遇上すれば應當に回避すべし。此の時行軍敵に遇わず、旗幟黑色を以て宜しきを爲す。戰事の通報有れば、消息傳來して事情眞に發生せず、縱い敵軍に撞見しても交戰せず、雙方自ら各々罷兵散去せん。此の時兵馬軍情の報來るは、大吉の兆なり。

金日火時,若寅午戌日,忌寅午戌時,避之,行師宜客,為我利乘敵未動,亟引兵擊之,旗色上赤;若敵先來攻,我不與戰;報兵馬事凶,急備之。金日木時,宜主,我不可往,旗色上白;敵來,堅陣待之,與戰必勝;報兵馬事,大吉。金日土時,不遇敵,亦無戰陣,旗色上黃;報兵馬事來,勿憂;若值子日子時,避之。

金日火時に遇えば、火金を克す。若し此の日是れ寅日・午日・戌日なれば、就ち寅時・午時・戌時を忌避するを要す。此の時行軍「客」を作すに宜しく、即ち先發制人して、敵人未だ行動せざるに趁って、趕緊に兵を帶びて出擊すれば我に利し。旗幟赤色を以て宜しきを爲す。若し是れ敵人搶先して攻め來れば、我方就ち應戰するなかれ。兵馬軍情の報來るは凶を主り、須く趕緊に戒備すべし。金日木時に遇えば、金木を克し、「主」を作すに宜しく、我方主動に前往する可からず、旗幟白色を以て宜しきを爲す。敵人來犯せば、ただ須く陣勢を結好して嚴陣以て待てば、交戰必ず勝たん。此の時兵馬軍情の報來るは、是れ大吉の兆なり。金日土時に遇えば、土生金して、敵人に遇上せず、もまた陣戰有らず、旗幟黄色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、憂慮するに必あらず。ただ是れ若し子日子時に逢えば、仍ほ回避すべし。

火日火時,無所害也,不遇敵,遇亦不戰,旗色上赤;報兵馬事來,虛聲也。火日水時,宜客;報兵馬事凶,急避之;見敵若未動,則我先引兵赴戰,並力擊之,旗色上黑;若敵先來攻我,我則堅壁固守,不可應之。火日金時,宜主,不利往;敵來攻我,我舉赤旗,反往擊之,必勝矣。

火日火時に遇えば、同氣害無く、敵に遇わず、縱い遇上しても交戰せず、旗幟赤色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、ただ是れ虛傳なり。火日水時に遇えば、水火を克し、「客」を作すに宜し。兵馬軍情の報來るは凶を主り、趕緊に躲避するを要す。若し敵人還だ行動せざるを見れば、就ち我方より先に兵を出だして戰に赴き、合力猛擊し、旗幟黑色を以て宜しきを爲す。若し敵人搶先して攻め我に來れば、我方就ち壁を堅めて固守し、出去して應戰する可からず。火日金時に遇えば、火金を克し、「主」を作すに宜しく、主動出擊利あらず。敵人來て我を攻めば、我方赤色の軍旗を擧起して反擊回去せば、必定取勝せん。

火日土時,亡所害也,見敵亦無害,旗色上黃;報兵馬事來,虛聲也。火日木時,亦相生不相剋也,更觀時之衰旺如何:宜主,敵來攻我,則舉赤旗擊之,報兵馬事(一作來)。木日水時,亡所害也,不宜動作,事多不就,亦無戰陣;報兵馬事,虛聲也。

火日土時に遇えば、火土を生じ、妨害無く、縱い敵人を見ても受損せず、旗幟黄色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、仍ほ虛傳に屬す。火日木時に遇えば、木火を生じ、もまた是れ相生して相克せず。還って再び時辰の氣の衰か旺かを看るを要す。總體「主」を作すに宜しく、敵人來て我を攻めば、就ち赤色の軍旗を擧げて迎擊せよ。兵馬軍情自ら報來せん。木日水時に遇えば、水木を生じ、妨害無し。但し擧動あるに宜からず。事を辦するに多半成らず、もまた陣戰有らず。兵馬軍情の報來る有れば、ただ是れ虛聲なり。

木日火時,宜客,利速引兵赴敵,旗色上赤(一作黑);若敵先來,不可應戰;報兵馬事凶,亦觀時之衰旺如何。值巳酉丑日,當忌巳酉丑時,避之。木日金時,宜客,利我速引兵擊之,旗色上白;若敵先來攻,利固守,勿與戰。木日水時,不遇敵,遇亦自退;旗色上黑;報兵馬事來,虛聲也。木日土時,宜主,若敵來攻,舉青旗擊之;報兵馬事凶(一作吉)。

木日火時に遇えば、木火を生じて氣泄れ、「客」を作すに宜しく、趕緊に兵を帶びて敵を迎うれば我に利し。旗幟赤色を以て宜しきを爲す。若し敵人先に來れば、就ち應戰する可からず。兵馬軍情の報來るは凶を主り、もまた時辰の氣の衰旺を看て以て定めるを要す。巳日・酉日・丑日に逢えば、就ち應當に巳時・酉時・丑時を忌避すべし。木日金時に遇えば、金木を克し、「客」を作すに宜しく、我方迅速に兵を引きて搶先出擊すれば利し。旗幟白色を以て宜しきを爲す。若し敵人先に來て攻めば、則ち堅守するに宜しく、交戰するなかれ。木日再び水時に遇えば、敵に遇わず、縱い敵人に遇上しても自行に退去せん。旗幟黑色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、虛傳に屬す。木日土時に遇えば、木土を克し、「主」を作すに宜しく、若し敵人來攻せば、就ち青色の軍旗を擧げて迎擊せよ。兵馬軍情の報來るは凶を主る。

水日水時,無所害也,不遇亦自散,旗色上黑;報兵馬事來,虛聲也。水日火時,宜主,慎勿先動;若敵先來攻,當舉黑旗,放兵大擊之;報兵馬事,大吉。水日金時,見敵不為害,旗色上白;報兵馬事,虛聲也。水日木時,旗色上青;報兵馬事,虛聲也。

水日水時に遇えば、同氣害無く、敵に遇わず、縱い敵有るも自行に散去せん。旗幟黑色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、ただ是れ虛傳なり。水日火時に遇えば、水火を克し、「主」を作すに宜しく、切に搶先行動するなかれと記せよ。若し敵人先に來て進攻せば、就ち黑色の軍旗を擧起し、兵を放ちて大擧に反擊せよ。此の時兵馬軍情の報來るは、是れ大吉の兆なり。水日金時に遇えば、金水を生じ、敵人を見ても受害せず、旗幟白色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、虛聲に屬す。水日木時に遇えば、水木を生じて氣泄れ、旗幟青色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、同じく是れ虛傳なり。

水日土時,不可動眾,報兵馬事,安靜勿憂。夫土能克水,水又能決土也,更審時之衰旺如何:若敵來乘土,土旺,勿與戰;土衰,則又舉黑旗擊之。土日土時,無所害也,不可動眾,旗色上黃;報兵馬事,虛聲也。

水日土時に遇えば、土水を克し、兵を發し衆を動かす可からず。兵馬軍情の報來る有れば、ただ須く兵を按じて動かず、憂慮するに必あらず。土雖も能く水を克すと雖も、水盛なる時もまた能く土堤を衝決することを知るを要す。ゆえに還って時辰の氣の衰旺を審察するを要す。若し敵人土氣に乘じて來れば、土氣正に旺なれば、就ち彼と交戰するなかれ。土氣已に衰えば、便ち黑色の軍旗を擧げて迎擊し得べし。土日土時に遇えば、同氣害無し。但し兵を發し衆を動かす可からず。旗幟黄色を以て宜しきを爲す。兵馬軍情の報來る有れば、ただ是れ虛傳なり。

土日木時,宜客,利敵先動而擊之,旗色上青;若敵固守,勿與戰;報兵馬事,凶。土日金時,不遇敵,遇亦無害;報兵馬事,虛聲也。土日火時,主不可動,敵來攻勿與戰,戰者少衰;報兵馬事來,小有焚燒驚恐。土日水時,先觀時之衰旺何如,然後動靜焉:土旺宜主,水旺宜客,敵來氣旺勿與戰,衰則擊之;報兵馬事,凶。

土日木時に遇えば、木土を克し、「客」を作すに宜しく、敵人の行動の前に搶い先んじて出擊すれば我に利し。旗幟青色を以て宜しきを爲す。若し敵人堅守して出でざれば、就ち彼と交戰するなかれ。兵馬軍情の報來るは凶を主る。土日金時に遇えば、土金を生じ、敵に遇わず、縱い遇上しても妨害無し。兵馬軍情の報來る有れば、是れ虛傳なり。土日火時に遇えば、火土を生じ、據守の一方輕動する可からず。敵人來攻するも交戰するなかれ。硬に交戰すれば便ち稍々挫折を受けん。兵馬軍情の報來る有れば、小規模の焚燒驚擾有らん。土日水時に遇えば、先ず時辰の氣の衰旺を看、然る後再び動か靜かを決定す。土氣旺なれば「主」を作すに宜しく、水氣旺なれば「客」を作すに宜し。敵人氣勢正に旺なれば就ち交戰するなかれ。彼の氣の衰えるを等ちて再び出擊せよ。兵馬軍情の報來るは凶を主る。

甲子、甲午金日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。乙丑、乙未金日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。丙寅、丙申火日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、己亥木時。

以下「納音五行」に依って各日と其の屬する所の時辰の五行の歸屬を列出し、上文の主客を推算するの用に供す。甲子・甲午の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。此の兩日の中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。乙丑・乙未の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。丙寅・丙申の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌・己亥時は木に屬す。

丁卯、丁酉火日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。戊辰、戊戌木日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。己巳、己亥木日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。

丁卯・丁酉の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。戊辰・戊戌の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。己巳・己亥の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。

庚午、庚子土日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。辛丑、辛未土日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、己亥木時。壬寅、壬申金日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。

庚午・庚子の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。辛丑・辛未の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌・己亥時は木に屬す。壬寅・壬申の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。

癸酉、癸卯金日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。甲戌、甲辰火日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。乙亥、乙巳火日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。

癸酉・癸卯の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。甲戌・甲辰の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。乙亥・乙巳の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。

丙子、丙午水日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、丁亥木時。丁未、丁丑水日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。戊寅、戊申土日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。

丙子・丙午の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌と下一時は木に屬す。丁未・丁丑の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。戊寅・戊申の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。

己卯、己酉土日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。庚辰、庚戌金日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。辛巳、辛亥金日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、己亥木時。

己卯・己酉の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。庚辰・庚戌の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。辛巳・辛亥の兩日納音金に屬し、是れ「金日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌・己亥時は木に屬す。

壬午、壬子木日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。癸未、癸丑木日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。甲申、甲寅水日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。

壬午・壬子の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。癸未・癸丑の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。甲申・甲寅の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。

乙酉、乙卯水日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。丙戌、丁亥土日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、己亥木時。丁亥、丁巳土日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。

乙酉・乙卯の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。丙戌・丁亥の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌・己亥時は木に屬す。丁亥・丁巳の兩日納音土に屬し、是れ「土日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。

戊子、戊午火日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。己丑、己未火日,甲子、乙丑金時,丙寅、丁卯火時,戊辰、己巳木時,庚午、辛未土時,壬申、癸酉金時,甲戌、乙亥火時。庚寅、庚申木日,丙子、丁丑水時,戊寅、己卯土時,庚辰、辛巳金時,壬午、癸未木時,甲申、乙酉水時,丙戌、丁亥土時。

戊子・戊午の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。己丑・己未の兩日納音火に屬し、是れ「火日」なり。その中、甲子・乙丑時は金に屬し、丙寅・丁卯時は火に屬し、戊辰・己巳時は木に屬し、庚午・辛未時は土に屬し、壬申・癸酉時は金に屬し、甲戌・乙亥時は火に屬す。庚寅・庚申の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、丙子・丁丑時は水に屬し、戊寅・己卯時は土に屬し、庚辰・辛巳時は金に屬し、壬午・癸未時は木に屬し、甲申・乙酉時は水に屬し、丙戌・丁亥時は土に屬す。

辛卯、辛酉木日,戊子、己丑火時,庚寅、辛卯木時,壬辰、癸巳水時,甲午、乙未金時,丙申、丁酉火時,戊戌、己亥木時。壬辰、壬戌水日,庚子、辛丑土時,壬寅、癸卯金時,甲辰、乙巳火時,丙午、丁未水時,戊申、己酉土時,庚戌、辛亥金時。癸巳、癸亥水日,壬子、癸丑木時,甲寅、乙卯水時,丙辰、丁巳土時,戊午、己未火時,庚申、辛酉木時,壬戌、癸亥水時。

辛卯・辛酉の兩日納音木に屬し、是れ「木日」なり。その中、戊子・己丑時は火に屬し、庚寅・辛卯時は木に屬し、壬辰・癸巳時は水に屬し、甲午・乙未時は金に屬し、丙申・丁酉時は火に屬し、戊戌・己亥時は木に屬す。壬辰・壬戌の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、庚子・辛丑時は土に屬し、壬寅・癸卯時は金に屬し、甲辰・乙巳時は火に屬し、丙午・丁未時は水に屬し、戊申・己酉時は土に屬し、庚戌・辛亥時は金に屬す。癸巳・癸亥の兩日納音水に屬し、是れ「水日」なり。その中、壬子・癸丑時は木に屬し、甲寅・乙卯時は水に屬し、丙辰・丁巳時は土に屬し、戊午・己未時は火に屬し、庚申・辛酉時は木に屬し、壬戌・癸亥時は水に屬す。

戰位第一百三十一

《龍首經》曰:將欲出兵,初以木日聞事。謂四方舉兵及仇怨,皆是不利,我欲攻之日,必以火日火時行。火日出,出必火門。此謂父母與子除害,子為父母報仇。故以火日火時出行火門,慎勿出金門,勿合金神加年上(謂大將年也),言金木也。

《龍首經》説く、將に兵を出ださんとする時、最初是れ木日に於て軍情を聞く。凡そ四方の兵を興して來犯し怨を結び仇を尋ぬるの事は、木日に聽聞すれば皆不利に屬す。我方の兵を發して進攻せんと決定するあの日を等ちて、必ず火日の火時を擇びて出行するを要す。火日の出兵は、出行もまた必ず火に屬する門戶を走るを要す。これを父母と兒子と一同に害を除き、兒子父母に替わって仇を報ずと叫作す。木能く火を生じ、木是れ父母にして火是れ子なり。木日警訊を聽到せば、就ち火日火時を以てそれの爲に報復するに往く。ゆえに火日火時に於て火門より出行するを要し、切に「金門」を走るを忌み、もまた金に屬する神煞をして主將の行年上に加臨せしむる可からず(「年上」は主將の行年を指す)。説く所正に是れ金の木を克するの此の一層の道理なり。

假令三月甲子從魁加戌,聞警事,甲木日也,到其行時,以丙丁日己午時往,為火時出,勝光太乙火門也,太乙又火時也。假令大將年加木,傳送加之,為(一作如)金神克其年也。西南抵申,又況從魁加之,為出金門也,則運不可金,大凶。太乙勝光加人年上,吉也。

例を擧げて説けば、三月の裏甲子日式盤を排し、月將「從魁」(酉)戌位上に加え、此の天警報を聽到す。甲は木に屬し、是れ木日なり。出兵の時辰に到れば、就ち改めて丙日・丁日の巳時・午時に於て前往せば、此れ纔か火時より出發したと算す。式盤上の「勝光」(午)と「太乙」(巳)とは皆是れ火に屬する門戶にして、太乙の值する所もまた正に是れ火時なり。再び例を擧げて説けば、主將の行年木に屬する位に落り、而して金に屬する「傳送」(申)その上に加臨すれば、これ即ち是れ金神の主將の行年を克傷するなり。行軍若し西南に朝かって直に申位に抵れば、何況んやまた金に屬する「從魁」の加臨有れば、那就ち金門より兵を出だすに等し。此の行絕對に金と相干る可からず。然らざれば大凶なり。之に反して、太乙・勝光の兩箇の火神主將の行年の上に加えば、就ち是れ吉兆なり。

《龍首經》曰:諸欲(一作求)陳兵,必伺(一作同)向白虎。六甲為青龍,六丙為朱雀,六戊為勾陳,六庚為白虎,六癸為玄武。假令甲子旬,青龍在子,朱雀在寅,勾陳在辰,白虎在午,玄武在酉。大將處青龍,執法行刑,抵朱雀;將往來,抵勾陳;以白虎加敵人,伏勾陳,抵玄武。他皆仿此。白虎不以克大將軍年上之神。假令大將年立從魁,傳送加之,而甲子旬白虎在勝光,此克年上之神也。

《龍首經》説く、凡そ陣を列ね兵を布かんと要すれば、必ず「白虎」の方位を窺伺して朝向するを要す。六甲の位を「青龍」と爲し、六丙の位を「朱雀」と爲し、六戊の位を「勾陳」と爲し、六庚の位を「白虎」と爲し、六癸の位を「玄武」と爲す。例を擧げて説けば、甲子此の一旬の裏、青龍は子位に在り、朱雀は寅位に在り、勾陳は辰位に在り、白虎は午位に在り、玄武は酉位に在り。主將本人青龍の位に立つ。法を執り刑を行うは、朱雀に面向するを要す。部隊の往來調動は、勾陳を取向す。白虎の位を敵人の身上に加え、自己勾陳に潛伏して、而して玄武を取向す。其餘の情形皆此に照らして類推せよ。但し白虎の位は用いて主將の行年上の天神を克傷する可からず。例を擧げて説けば、主將の行年「從魁」(酉)に立ち、而して「傳送」(申)その上に加臨し、甲子旬の白虎また「勝光」(午)に在れば、午火申金を克す。これ就ち是れ行年上の神を克するなり。

奎、婁向左,角、亢向右,北斗向柳,張權衡而從斗魁,陰攻陽。以河魁到大沖,陰也;以天罡到從魁,陽也。大吉攻小吉,是其當日加四仲,以陽攻陰,往攻大吉,是逆兵也。又不令青抵白,甲乙不可西行向攻,喪也。黑不可抵黃,言壬癸不可向四季鄉,可向羅攻。他皆仿此。又言春庚辛不可向南攻戰也,春戊己不可東攻也。

奎宿・婁宿は左に向かうを主り、角宿・亢宿は右に向かうを主り、北斗の柄柳宿に指向す。權衡の勢を張開して斗魁の指向に順從するを、これを以て陰を以て陽を攻むと謂う。「河魁」(戌)を以て「大衝」(卯)上に加うるは、陰に屬す。「天罡」(辰)を以て「從魁」(酉)上に加うるは、陽に屬す。「大吉」(丑)を以て「小吉」(未)を攻むるは、是れ當日の神の子午卯酉の四仲の位上に加えるなり。若し反って陽を以て陰を攻め、大吉の位を攻めに往かば、那就ち是れ天に逆らいて動く兵にして、吉ならず。又、青色をして白色を衝かしむる可からず。即ち甲日乙日は西に向かって行軍進攻する可からず。あれは喪亡を招致せん。黑色黄色を衝く可からず。即ち壬日癸日は辰戌丑未の四季の鄕に朝かって進攻する可からず。卻って「羅」位に朝かって進攻し得べし。其餘皆此に照らして類推せよ。又説く、春天の庚日辛日は南に向かって進攻交戰する可からず。春天の戊日己日は東に向かって進攻する可からず。

立今日之神,起其後攻其前面,甲寅日後二在子也。又言天乙吉將加所攻之處也。今年上神往制所攻之神,及其上神,即擒敵矣。又不可攻有氣之神,後自為患。子攻父母,大逆天道,威不能強,必主折兵自傷。甲乙日北向攻焉,父母也,逆天之理,兵不成威,將受戮。南攻者,攻其類,眾人莫貴,還受其屈。西南攻者,其不勝,是自窮。東南攻者,此謂自攻也。攻四維,攻其所勝,大吉,有福。他皆仿此。

先ず當日の日を值する神を立定し、それの後面の位次より算起して、それの前面の方位を攻めに往く。比如甲寅日は、後に往きて第二位を數えれば便ち子上に落つ。又説く、「天乙」の此の類の吉將をして攻めんと要する所の地方に加臨せしむるを要す。若し行年上の天神能く攻むる所の神およびあの神の上面の天神を制伏し往かば、就ち敵人を擒獲し得べし。另外正に旺氣に當る神を攻めに往く可からず。然らざれば日後反って禍患と成らん。兒子を以て父母を攻めに往くは、是れ大大に天道に違逆し、威勢立起せず、必定兵力を折損し自らその身を傷つけん。甲日乙日北に向かって進攻するは、北方の水正に是れ木の父母にして、天理に違逆し、兵威振るわず、主將還って戮を受けん。南に向かって進攻するは、是れ自己の生ずる所の同類を攻むるにして、衆人貴と爲さず、反って自ら屈辱を受けん。西南に向かって進攻するは、勝つ能わず、是れ自ら絕境に陷るなり。東南に向かって進攻するは、那自己を打つに等し。若し乾坤艮巽の四隅の位を攻めば、正に是れ自己の克勝し得べき一方を攻むるにして、大吉にして福有り。其餘皆此に照らして類推せよ。

首察於死生之理,謂神之後二通神。又重之以天乙之道,謂六壬癸之吉將也。故曰通於三天者,順斗行,一也;攻所勝,二也;其後二之辰攻其前面,三也。十二月甲子將加壬,從戌攻辰,是後二也。大將年五十立卯,功曹臨之。甲子旬,白虎在勝光,不與將年上神相剋也。東西攻辰地,攻所勝也。又有四將勾陳攻所勝之辰。年上之神,勾陳神,皆制所攻之鄉。若上之辰克下辰,是謂敵降。此又背胃、昴,攻房、心,隨斗擊乃行政,一當百矣。

首ま要するは死生の理を考察するなり。就ち是れ某神より後に往きて第二位を數えて以て相通の神を求得す。其次再び「天乙」の道を加上す。指す所は六壬術の中壬癸の屬する所の吉將なり。ゆえに能く「三天」を通達する人を説く。一は北斗の指する所の方向に順って行動し、二は自己の克勝し得べき一方を進攻し、三は後二位の辰よりそれの前面の方位を攻めに往くなり。十二月甲子日、月將壬位に加え、戌位より辰位を攻めに往く。これ就ち是れ謂う所の後二位なり。主將年五十、行年卯位に立ち、「功曹」(寅)その上に加臨す。甲子旬の白虎は「勝光」(午)に在り。午と卯と相克せず、主將の行年上の天神と倂べて衝克無し。東に由り西に由りて辰地を攻めに往くは、正に是れ自己の克勝し得べき處を攻むるなり。此の外還って四將の中の勾陳のそれの克勝し得べき辰を攻むる有り。行年上の天神と勾陳の神とは、皆能く攻むる所のあの方位を制伏す。若し上面の辰下面の辰を克せば、これを敵人の來降すと叫び、必定大擧して進攻し得べし。再者胃宿・昴宿を背きて房宿・心宿の方向を進攻し、北斗の指出す所に隨って出擊すれば、これ就ち是れ天に順いて事を行うにして、一人百人を當つ可し。

諸欲戰鬥者,必以先為客,後為主人。先起者令下克上,後起者無令上賊下,謂勾陳所臨之辰也。若辰勝將則主人勝,客將勝辰則客勝主人。反此,兵雖強,上將必不勇也。

凡そ交戰せんと要するは、一律に先に手を動かす一方を以て「客」と爲し、後に手を動かす一方を以て「主」と爲す。先に發動するは、下神をして上神を克制せしむるを要す。後に發動するは、上神をして下神を傷害せしむるなかれ。此處の説く上下は、指す所は勾陳の加臨する所のあの地支なり。若し地支の氣天將に勝れば、就ち是れ主方の取勝なり。若し客位の天將地支に勝れば、就ち是れ客方の主方に戰勝するなり。之に反る情形は、縱い兵力强盛なりと雖も、主將もまた必定に勇氣を振作し起こす能わざらん。

八宮第一百三十二

八宮之地,結陣立營必居一焉,以順陰陽動靜之用。師之屯,致於東方。東方,震宮也,震之象,一陽在內,二陰在外,以陽為主將之位也。牙帳宜深,軍中利作樂,利先震其威聲,大將不可使敵見其刑爵(一作雀)殺罰,以甲乙日祭青旗,合戰之時大將不可暴露於外。

八卦の主る所の八箇の方位は、陣を結び營を扎すれば必定にその一を占據し、以て陰陽動靜の功用に順應す。軍隊東方に屯駐する時、東方は「震宮」に屬し、震卦の象是れ一陽爻下(內)に在り二陰爻上(外)に在り。ゆえにあの陽爻を取りて以て主將の居する所の位と作す。牙帳應當に深藏するを設くるを要し、軍中樂を奏するに宜しく、先ず威名聲勢を張揚出去するに宜し。主將敵人をして自己の刑賞罰を行う擧動を看見せしむる可からず。甲日・乙日に於て青色の軍旗を祭祀するを要す。兩軍交鋒の時、主將外に暴露する可からず。

師之屯,致東南方。東南,巽宮之象,一陰在內,二陽在外也,以陰為主將之位。牙帳宜深,大將宜(一作利)先宣明號令,慎其聲聞,以直以正,自近及遠,主將深隱,令出必行。師之屯,致於南方離宮也。離宮之象,一陰得中,二陽在外,以陰為主將之位。牙帳宜居中,大將利外嚴威號令,不可與人狎,使人望而畏之,內則虛以待賢者,利多禮明視為務,以丙丁日祭赤旗,出戰利處中不宜深隱,亦宜顯揚。

軍隊東南方に屯駐する時、東南は「巽宮」に屬し、巽卦の象是れ一陰爻下(內)に在り二陽爻上(外)に在り。ゆえにあの陰爻を取りて以て主將の位と作す。牙帳應當に深藏し、主將宜しく先ず號令を宣布明白にし、消息の外傳を謹慎控制し、事を處するに正直公正にして、近より遠に及びて推行す。主將本人深藏して露せず、號令發出すれば便ち必定執行せん。軍隊南方に屯駐すれば、南方是れ「離宮」なり。離卦の象是れ一陰爻中に居り二陽爻外に在り。ゆえにあの陰爻を取りて以て主將の位と作す。牙帳宜しく軍陣の正中に設くるを要し、主將宜しく外に對して威令を嚴明にし、人と過分に親昵する可からず、人をして望みて畏を生ぜしむるを要す。內に對しては則ち心を虛くして賢才を接納し、禮遇を多行し下情を明察するを以て要務と爲し、丙日・丁日に於て赤色の軍旗を祭祀す。出戰の時宜しく軍陣の中間に居るを要し、深藏するに宜からず、もまた應當に適度に顯揚すべし。

師之屯,致西南坤宮也。坤之象,三位皆陰也。牙帳利於西南,戰將宜嚴厚寬順,以色容善馭為務,動不妄,順則吉,以戊己日祭黃旗,出戰及在營不利暴露於外。師之屯,致西方兌宮也。兌之象,一陰在外,二陽在內,以陰為主將之位也。牙帳宜近外,大將宜剛嚴肅政,多所決罰制斷,以順布澤,以庚辛日祭白旗,出戰宜近外,按部伍不宜深隱。

軍隊西南方に屯駐すれば、西南是れ「坤宮」なり。坤卦の象三爻全く陰なり。牙帳宜しく營中の西南の一隅に設くるを要し、兵を帶ぶる將應當に嚴整敦厚・寬和柔順にして、和悅の容色と部衆を駕馭するに善なるとを以て要務と爲し、行動輕擧妄動せず、勢に順いて行えば便ち吉にして、戊日・己日に於て黄色の軍旗を祭祀す。出戰するを論ぜず營に在るを論ぜず、皆外に暴露するに宜からず。軍隊西方に屯駐すれば、西方是れ「兌宮」なり。兌卦の象是れ一陰爻上(外)に在り二陽爻下(內)に在り。ゆえにあの陰爻を取りて以て主將の位と作す。牙帳宜しく外に靠る位置に設くるを要し、主將應當に剛毅嚴明・政令を整肅し、多く決斷刑罰を加え、同時に勢に順いて恩澤を廣施し、庚日・辛日に於て白色の軍旗を祭祀す。出戰の時宜しく外圍に靠近するを要し、部伍を巡查して深藏するに宜からず。

師之屯,致西北方乾宮也。乾之象,三位皆陽也。牙帳利不常立其地,大將宜剛正圓轉,任其智慮,應變不窮,出戰之時不可使人知處,麾軍運動左右順用之。師屯,致於北方坎宮也。坎之象,二陰在外,一陽居中,主將之位也。牙帳利得中,大將宜柔容貌以禮接賓客,中多剛斷,運動不惑,以壬癸日祭黑旗,出戰之時利得中,不利暴露於外,亦不利深匿(一作慝)。

軍隊西北方に屯駐すれば、西北是れ「乾宮」なり。乾卦の象三爻全く陽なり。牙帳宜しく固定して一處に設けざるを要し、主將應當に剛正にしてまた圓活善變にして、自己の智謀を充分施展し、應變無窮なり。出戰の時人をして自己の所在を知らしむる可からず。全軍の進退を指揮し、左右の兩翼皆勢に順いて調用す。軍隊北方に屯駐すれば、北方是れ「坎宮」なり。坎卦の象是れ二陰爻外に在り一陽爻中に居り、あの陽爻便ち是れ主將の位なり。牙帳宜しく軍中の正中に設くるを要し、主將應當に外表溫和にして禮を以て賓客を接待し、內心則ち多く剛毅決斷有りて、兵馬を調動して遲疑毫れ無く、壬日・癸日に於て黑色の軍旗を祭祀す。出戰の時宜しく中に居りて調度するを要し、既に外に暴露するに宜からず、もまた藏るること太深きに宜からず。

師之屯,致於東北方艮宮也。艮之象,一陽居外,二陰在內,以陽為主將之位也。牙帳利近外,大將宜慎重敦厚,遊言勿聽,敵言勿驚撓妄動,出戰之時利近外指揮吏士。如是者,居其方而順性者善也。動靜與天地鬼神合,加之以不私於心,斯謂之善矣。

軍隊東北方に屯駐すれば、東北是れ「艮宮」なり。艮卦の象是れ一陽爻上(外)に在り二陰爻下(內)に在り。ゆえにあの陽爻を取りて以て主將の位と作す。牙帳宜しく外に靠る處に設くるを要し、主將應當に慎重敦厚にして、根無き流言は聽信するなかれ。敵方の散布する言語もまた此に因って驚慌騷動し輕擧妄動するなかれ。出戰の時宜しく外圍に靠近して將士を指揮するを要す。上面の此の樣の如く、何れの方に駐するや就ちあの一方の卦象の性情に順應して、纔か高明と算す。動靜擧措皆天地鬼神と相合し、再び心中私念を存せざるを加えれば、此れ纔か善と稱し得べし。

占相兵臨利害第一百三十三

《金匱經》曰:戰不戰,視勾陳。勾陳剋日則戰,與刑剋必戰。甲子日刑在東方,傳送與從魁為勾陳臨甲,又相剋,必戰鬥。勾陳上下相剋,亦鬥。又曰:軍出時,大吉、小吉臨日辰,兩解不戰。他皆仿此。神皆合,戰。又說曰:斗加孟,神在內,宜止;加仲,神在門,兩相傷;加季,神在外,宜出戰,必大勝。

《金匱經》説く、開戰するか否かは、「勾陳」を看るを要す。勾陳日干を克傷すれば便ち開戰し、若し再び刑と相倂して克せば、就ち必定開戰せん。甲子日の刑東方に落ち、「傳送」(申)と「從魁」(酉)と勾陳と作して甲上に加臨し、金また甲木を克せば、必定戰鬥有らん。勾陳の所在する上神と下神と彼此相克するも、もまた交戰を主る。又説く、軍隊出發の時、「大吉」(丑)・「小吉」(未)日辰に加臨すれば、兩邊皆消解和緩して、交戰せざらん。其餘の情形皆此に照らして類推せよ。諸神彼此相合すれば、則ち交戰を主る。又一説、斗柄寅申巳亥の四孟の位に加えば、神内に在り、兵を按じて動かざるに宜し。子午卯酉の四仲の位に加えば、神門口に在り、雙方兩敗倶に傷つかん。辰戌丑未の四季の位に加えば、神外に在り、出戰するに宜しく、必ず大勝を獲せん。

占兵已交勝負第一百三十四

《金匱經》曰:敗不敗,視六害。說者曰:酉戌相害,子未相害,午丑相害,巳寅相害,辰卯相害。假令本命在子,而小吉為白虎加之,此為見六害。以此將兵,今日戰將能此者,可校之戰矣。《龍首經》曰:先起為客,後起為主。先起不可下克上,後起不可上克下,謂初辰(一作陣)也。辰勝神將,主人勝;神將勝辰,客勝。

《金匱經》説く、戰敗するか否かは、「六害」を看るを要す。解説する人説く、酉と戌と相害し、子と未と相害し、午と丑と相害し、巳と寅と相害し、辰と卯と相害す。例を擧げて説けば、本命子上に落ち、而して未に屬する「小吉」また白虎を帶びてその上に加臨すれば、此れ便ち是れ六害に遇上せるなり。兵を帶ぶる人若し此れらを懂得せば、今日陣に臨みて作戰し、纔か手を放して較量一番し得べし。《龍首經》説く、先に手を動かす一方を「客」と爲し、後に手を動かす一方を「主」と爲す。先に手を動かすは下神をして上神を克せしむる可からず、後に手を動かすは上神をして下神を克せしむる可からず。説く所は最初の課を起すあの一辰なり。地支の氣天神と天將とに勝るは、是れ主方の取勝なり。天神天將地支に勝るは、則ち是れ客方の取勝なり。

說曰(一作假令):三傳終始,見前三五後二四(一作之)有氣,天一之神臨主帥行年本命,或用起天一而治(一作值)有氣之鄉,玄武(一作都)立四死之地,則戰勝矣。若玄武臨日辰面遙光時,勿戰,必不利矣。用戰起雄,吉:春寅,夏巳,秋申,冬亥。用戰起雌,凶:春申,夏亥,秋寅,冬巳。一云:都將旺相而臨死,賊勝;都將囚死而臨旺相,討賊者勝。審察之。

又説く、三傳の首尾より看れば、若し前三位・前五位と後二位・後四位と皆旺氣有り、「天一」の貴神主帥の行年あるいは本命に加臨し、あるいは課を起す時天一を以て用と爲してまたそれ正に氣有る鄕に值し、同時に「玄武」四死の地に壓在せられれば、那就ち一定に勝仗を打つを得。若し玄武日・辰に加臨してまた正に「遙光」の時に當れば、就ち交戰するなかれ。必定利あらず。出戰「雄辰」を取りて發動するを吉と爲す。春天は寅を用い、夏天は巳を用い、秋天は申を用い、冬天は亥を用う。出戰「雌辰」を取りて發動すれば則ち凶なり。春天は申を用い、夏天は亥を用い、秋天は寅を用い、冬天は巳を用う。另一種の説法は、諸將を統攝する「都將」本身旺相なるも卻って死地に落れば、敵軍勝を得。都將本身囚死なるも卻って旺相の地に落れば、敵人を討伐する一方勝を得。此れら皆仔細に審察するを要す。

說曰:決勝敗者,勾陳克都將,官軍勝;都將克勾陳,賊軍勝;都將三相加臨囚死,亦賊勝。說曰:將軍年克勾陳白虎,大勝;不勝者,勾陳克玄武,以攻之必克。說曰:將勾陳所軍神,往攻所制之神,勝。所攻之勝神與勾陳並氣,自下制其所臨之辰,是為敵降,必有大攻。說曰:初起者,欲勾陳下克上;後起者,欲勾陳上克下。辰勝將,將勝神,主人勝;神克將,將克辰,客人勝。干克支,客勝;支克干,主人勝。

又説く、勝敗を判定するに、勾陳都將を克傷せば、官軍勝を得。都將勾陳を克傷せば、敵軍勝を得。都將三傳相加して囚死の地に落るるも、もまた是れ敵軍の勝を得るなり。又説く、主將の行年勾陳と白虎とを克傷せば、主として大勝なり。若し還だ取勝する能わざれば、ただ勾陳の能く玄武を克するを要すれば、それを以て進攻するもまた必定攻克せん。又説く、勾陳の統領する所のあの位の天神を以て、それの克制する所の神を攻打するに往けば、勝を得。攻められるあの勝神若し勾陳と氣勢相倂し、また能く自ら下よりそれの加臨する所の地支を制伏せば、これを敵人の來降すと叫び、必定大擧して進攻し得べし。又説く、先に手を動かす一方は、勾陳の是れ下神の上神を克するを希望す。後に手を動かす一方は、勾陳の是れ上神の下神を克するを希望す。地支天將に勝ち天將天神に勝てば、主方取勝す。天神天將を克し天將地支を克すれば、客方取勝す。日干日支を克せば、客方勝つ。日支日干を克せば、主方勝つ。

占伏兵第一百三十五

卯子申巳臨日辰,必有伏兵。此神旺相,與殺並,大凶,必血戰,伏兵發;必不與殺並,伏兵不敢發也。說曰:以聞事時斗加季,有伏兵。說曰:干傷者有伏兵;支傷者無伏兵;支干俱傷必有伏兵,戰必不勝,大凶。

卯・子・申・巳の四辰日辰に加臨せば、前方必定に伏兵を設け有らん。此の幾個の神若し正に旺相の氣に當り、また凶殺の神と倂臨せば、大凶にして、必ず一場の血戰有りて、伏兵一定に發動せん。若しそれら倂べて凶殺の神と倂臨せざれば、伏兵便ち發動するを敢てせざらん。又説く、軍情を聽到するあの一刻を以て課を起し、斗柄辰戌丑未の四季の位に加えば、もまた伏兵有るを主る。又説く、日干傷を受けば、伏兵有るを主り、日支傷を受けば、則ち伏兵無し。日支と日干と皆傷を受けば、必定伏兵有りて、交戰一定に取勝する能わず、是れ大凶の兆なり。

占疑左右近地伏兵第一百三十六

若疑賊有伏兵在左右近地,欲知所在者,於斗下求之。說曰:大吉過日辰,賊已出界;不過,未出界。

若し敵人の左右の附近地帶に兵馬を埋伏せしめたるを懷疑し、伏兵究竟何れの裏に在るかを知らんと想えば、就ち斗柄の指す所の下に到りて推求せよ。又説く、丑に屬する「大吉」已に日辰の位を越過せば、敵人已に邊界を出たるを説明す。若し越過せざれば、敵人還だ界を出でざるなり。

占偷城及擄掠第一百三十七

說曰:以月將加時勝光、玄武,不可行襲人城壘、擄掠之事。以玄武所畏為厄會,木神為玄武,則庚申、辛酉勿須行。

又説く、月將を占時の上に加えて式盤を排出し、若し「勝光」(午)と「玄武」とを得れば、就ち敵人の城池營壘を偷襲し人畜財物を抄掠するの事を做し往く可からず。玄武の畏懼する所のあの一方を以て厄難交會の處と爲すを要す。假如玄武木に屬する神上に落れば、木金を畏る。那麼庚申・辛酉の此れらの金に屬する日子就ち出行するに必あらず。

占疑有人謀己第一百三十八

《正時說》曰:日上神為己身,辰上神為他人,日上克辰上神,有怨恨。又言:辰上剋日上神,將見騰蛇、白虎、魁罡,或在辰上見者,事成;非辰上見者,不成,但有意。說曰:欲知他人有所謀,假令七月時加寅,七月甲死於申,今復遇庚二生(一作王)金,逢一死木,是二人慾殺一人。他皆仿此。

《正時説》講ず、日干の上の天神自己を代表し、日支の上の天神別人を代表す。日上の神辰上の神を克傷せば、對方我に對して怨恨を懷くを説明す。又説く、辰上の神日上の神を克傷し、同時に又騰蛇・白虎・魁罡の此れらの凶神出現し、若しそれら辰上に出現せば、對方の謀算する事就ち得逞せん。若し辰上に出現せざれば、事辦成せず、對方ただ是れ此の念頭を存するのみなり。又説く、別人の圖謀有るか否かを知らんと想えば、例を擧げて説けば、七月の裏占時寅上に加えば、七月申を建て、甲木申地に到れば便ち死絕を告げん。如今また兩重の生旺の庚金に遇上して、ただ一重の死絕の木に對すれば、これ就ち是れ兩箇人の一箇人を謀害せんと要するなり。其餘の情形皆此に照らして類推せよ。

占災危第一百三十九

吉辰與良將並臨日辰及行年,勾陳制所欲出之辰之用,起陰傳出陽者,可出,必克,免難。《金匱經》曰:傷不傷,觀陰陽。說曰:今日是乙丑加一為不傷,將得天后為重,不傷。若神后加丑,從(一作可)魁加一,為傷人,為前二重傷,皆凶也。

吉利の地支と善良の天將と一同に日辰および主將の行年に加臨し、勾陳また能く出行せんと要するあの一辰の用神を制伏し、課を起す時陰神に由って端を發して陽神を傳出せば、此の樣便ち以て出兵し得べく、必定取勝し、災難を免れん。《金匱經》説く、傷損有るか否かは、陰陽を看るを要す。又説く、假如今天是れ乙丑日なれば、天神その後の一位上に加えば、便ち傷損を主らず。天將「天后」を得ば、氣象重厚にして、もまた人を傷つけず。若し是れ「神后」(子)の丑位に加臨し、「從魁」(酉)また前の一位上に加えば、就ち人を傷つけん。前二位重傷の象に屬し、皆凶を主る。

占野地立營止宿第一百四十

《金匱經》曰:怖不怖,視五墓。怖懼,墓加日辰,亦不寧。說曰:聞有敵兵,士卒行疲,日晚欲停此宿,運式占之。遇三刑加日辰,必不可停,敵欲來攻。三刑者,卯辰巳也。說曰:絳宮時宜止,登明勿留也。已止宿未定而心動眼,若吏士虛驚者,以月建此三字住。一云:將加時,魁罡加日辰,急去之,夜必有賊來攻。一云:大吉日急去不可止。

《金匱經》説く、軍中驚怖するか否かは、「五墓」を看るを要す。凡そ驚懼の事有るは、皆墓神の日辰に加臨するに因り、營中もまた安寧を得ざるなり。又説く、前方に敵兵有りを聽説し、士卒行軍已に疲れ、天色晚に向かい就地に宿營せんと想えば、就ち式盤を運轉して占算一し下せよ。若し「三刑」の日辰に加臨するに遇えば、此處絕對に停留する可からず。敵人正に攻め來らんとす。謂う所の三刑は、卯・辰・巳の三辰を指す。又説く、「絳宮」の時停下するに宜しく、「登明」の時留駐する可からず。已に停下して宿營するも卻って還だ安定せず、心神跳動し眼皮亂跳し、あるいは將士故無く驚慌せば、就ち月建此の三箇字を以て鎮住す。另一説は、月將を占時上に加え、若し「魁罡」(戌と辰)日辰に加臨せば、趕緊に離開するを要し、當夜必ず敵人の攻め來る有らん。又一説、「大吉」の日に逢えば應に急速に轉移して、停留する可からず。

一云:辰上見大沖,有風雨;見神后、太乙,有盜賊。說曰:絳宮時宿,利在中;徵明時,利在前;玉堂時,利在後也。一云:大吉干日,急去,不可宿。說曰:辰巳見卯,夜有風雨。子巳加卯,有盜賊。帶旺相氣,即來;帶囚死氣,即不來。說曰:安營止宿,以月將加時,魁罡加日,軍夜驚,騰蛇、白虎臨日辰,軍載驚。一云:魁罡加日,大將死。

另一説、日支の上「大衝」(卯)を出現せば、當に風雨有るべし。「神后」(子)・「太乙」(巳)を出現せば、則ち盜賊有らん。又説く、絳宮の時宿營するは、隊伍の中間に扎するに宜し。徵明の時は、前面に扎するに宜し。玉堂の時は、後面に扎するに宜し。又一説、「大吉」日干に加臨する日は、應に趕快離開して、宿營する可からず。又説く、辰・巳の位卯を見れば、夜裏風雨有らん。子・巳卯位に加臨せば、盜賊有らん。若し此れらの神旺相の氣を帶びれば、賊就ち眞に來らん。囚死の氣を帶びれば、便ち來らざらん。又説く、營を安んじ住宿する時、月將を占時上に加えて盤を排し、若し「魁罡」日干に加臨せば、軍中夜裏驚を受けん。騰蛇・白虎日辰に加臨せば、全軍皆驚を受けん。又一説、魁罡日干に加臨せば、主將死せん。

占渡關梁探賊第一百四十一

《金匱經》曰:凶不凶,視破沖。說曰:行年在歲月日時破沖下,皆凶也。日辰上神上相生,宜進。反此,宜止。說曰:命在一處日辰上罡光明,急去勿住也。說曰:聞此賊干傷,或支傷,勿度或吉,度支干俱吉。說曰:欲入賊營,視二門天罡、六合、大常、大沖、勝光臨之,可行。若出入見勾陳、朱雀、騰蛇、白虎,勿行,必為賊所擒。

《金匱經》説く、凶なるか凶ならざるかは、「破」と「衝」とを看るを要す。又説く、主將の行年太歲・月建・日辰・占時の破位あるいは衝位の下に落れば、皆凶を主る。日辰の上の天神彼此相生すれば、前進するに宜し。相反せば則ち停下するに宜し。又説く、本命と日辰と同じく一處に在りて、而して日辰上の天罡星光明人を照れば、趕緊に離開して、停留する可からず。又説く、此の股の敵人の消息を探聽する時、若し日干傷を受け、あるいは日支傷を受けば、就ち關を渡り橋を過るなかれ。渡らざれば或いは還って吉なり。ただ日干日支皆吉なるのみ、纔か渡り得べし。又説く、敵營に潛入せんと想えば、營の兩座の門上に「天罡」(辰)・「六合」(卯)・「太常」(未)・「大衝」(卯)・「勝光」(午)の加臨有るを看るを要し、此の樣纔か以て往き得べし。若し出入の際勾陳・朱雀・騰蛇・白虎に遇到せば、就ち行動するなかれ。往けば必ず敵人に擒獲せられん。

占星統論第一百四十二

臣謹按星經及諸傳記,凡諸星宿中外羅列周天,蓋隱見變化,下應人事,七曜往來,以為經緯,災變之作,實在於茲。凡為大將,不可不詳察星位,以占休咎焉。或興受命之術,或起敗亡之兆,鮮不由此矣。

臣許洞謹みて《星經》および各家の傳記に依據して考察す。天上の諸多の星宿は、內外羅列して周天に布滿し、それらの隱沒顯現・明暗の變化は、皆下に人間の事に應ず。日月と金木水火土の七曜往來して穿行し、天象の經と緯とを構成し、災禍變異の發生は、實際根源就ち此處に在り。凡そ主將を做る人は、星辰の位次を仔細に審察せざる可からず。用いて吉凶を占斷せよ。あるは其の中より興起して天命を承受する方術有り、あるは其の中より敗亡の先兆を顯出し、此に由らずして來ること鮮し。

中宮大極,其一明者,大乙常居也,旁三星曰三公,或曰子屬。後四星,末(一作未)大星曰正妃,餘三星後宮之屬也。環之十二星,藩臣也,皆曰紫宮。前列直鬥口三星,隨此{辶丌}銳,微,曰陰陽,或曰天一。紫宮左三星天槍,右三星天,後十七星絕漢抵營室,曰閣(一作闖)道。

中宮の天極星は、その中最も明亮の一顆は、「太乙」の常住する處なり。旁の三顆星を「三公」と叫び、あるいは天帝の子嗣と説く。その後の四顆星の裏、末端のあの大星を「正妃」と叫び、其餘の三顆は後宮の嬪御の屬なり。外に環繞する十二顆星は、是れ護衛の藩臣にして、此の一整片合して「紫宮」と稱す。紫宮の前に排し斗口に正對する三顆星は、順いて端頭に向かい漸々尖に收り、光芒微弱にして、「陰陽」と叫作し、あるいは「天一」と叫ぶ。紫宮の左の三星を「天槍」と叫び、右の三星それと相配し、その後十七顆星銀河を橫斷して直に營室宿に抵りて、「閣道」と叫作す。

北斗七星,所謂璇璣玉衡以齊七政。構攜龍角(杓,斗柄也。龍角,東方也。攜,連也),衡中南北,魁抗參首。用昏建者杓,杓自華蓋以西北(斗第七星法,太白主杓者,斗之尾為陰。又其用昏,昏陰位在西方,故主西南也)。

北斗七星は、就ち《尚書・舜典》の説く所の「璇璣玉衡、以て七政を齊う」のあの組の星なり。斗柄東方蒼龍の角宿に牽連し(「杓」就ち是れ斗柄。「龍角」は東方角宿を指す。「攜」是れ連接の意思なり)、玉衡南北の中に當り、斗魁參宿の首に抵る。黄昏時用いて方位を定むるは斗柄にして、斗柄の主る所の分野は、華蓋一帶より西北に向かう(北斗第七星の規矩は、太白金星斗柄を主管し、斗尾陰に屬す。又その用處の黄昏に在るに因り、黄昏陰に屬して陰位西方に在り、ゆえに西南を主る)。

夜半建者衡,衡正中州河濟之間(假令杓昏建寅,衡夜半亦建寅也)。平旦建者魁,魁海岱以東北也(斗魁第一星法,為日主齊,魁斗之首,首陽也,其用在明,陽為明,德在東方,故主東北方也)。斗為帝車,運於中央,臨利(一作制)四海(一作極)。分陰分陽,建四時,均五行,移(一作利)節度,定諸紀,皆繫於斗。

夜半時用いて方位を定むるは玉衡にして、玉衡の主る所正に中州黄河・濟水の間に當る(假如斗柄黄昏に於て寅に指向せば、玉衡夜半に到りてもまた同じく寅に指向す)。天亮時用いて方位を定むるは斗魁にして、斗魁の主る所是れ渤海・泰山以東以北の一帶なり(斗魁第一星の規矩は、日に屬して齊地を主る。魁是れ斗の頭部にして、頭部陽に屬し、その用處天明に在り、陽就ち是れ明にして、その德東方に在り、ゆえに東北方を主る)。北斗是れ天帝の車駕にして、中央に運行し、君臨して四方を統制す。陰陽を分判し、四季を確立し、五行を均調し、節候の度數を推移し、各種の綱紀を釐定するは、全て北斗に係る。

斗魁戴筐六星,曰文昌:一曰上將,二曰次將,三曰貴相,四曰司命,五曰司中,六曰司祿。在魁中,貴人之牢(魁中四星曰天理四星,在斗魁中,貴人牢曰天理)。魁下六星兩兩而比者,曰三臺。三臺色齊,君臣和;不齊,為乖戾。輔星明近,主輔臣親強;暗小,主疏弱。

斗魁の上方一隻の筐を頂くが如き六顆星は、「文昌宮」と叫ぶ。第一星を上將と叫び、第二星を次將と叫び、第三星を貴相と叫び、第四星を司命と叫び、第五星を司中と叫び、第六星を司祿と叫ぶ。斗魁の中のあの幾顆は、是れ貴人を關押する牢獄なり(魁中の四星を「天理」と叫び、斗魁の內に位す。謂う所の貴人の牢就ち是れ天理星なり)。斗魁の下方六顆兩兩竝列の星は、「三臺」と叫ぶ。三臺の六星光色均勻なれば、君臣和睦を主る。光色齊わざれば、就ち是れ君臣乖違なり。輔星明亮にして北斗に貼近すれば、輔政大臣の君主と親近し而且權勢强盛を主る。輔星暗淡細小なれば、則ち君臣の疏遠・輔臣の軟弱を主る。

杓端有兩星:一內為矛,招搖(近北斗者,天子星也,招搖更河三星,天矛、天鋒、天楯、招搖,一星也);一外為楯,天鋒(遠北斗也,在招搖第一星也,名曰天鋒)。有勾圓(一作圖)十五星,曰賊人之牢。牢中星實則囚多,虛則開出也。若夫天一、天槍、天矛、天楯動搖,其芒角,則天下之兵戈大起也。

斗柄の末端に兩顆星有り。內に靠る一顆是れ矛にして、名を「招搖」と曰う(北斗に靠近する此の顆是れ天子の星なり。招搖また銀河邊の三星と相連し、天矛・天鋒・天楯と招搖とは本是れ同一組の星なり)。外に靠る一顆是れ盾にして、名を「天鋒」と曰う(北斗を離れること較遠く、招搖の外の第一顆にして、名を天鋒と曰う)。別に彎曲して環を成す十五顆星有りて、「賊人之牢」(貫索)と叫作す。牢中の星密實なれば、則ち囚犯衆多なり。牢中虛空なれば、則ち犯人獄を出でて釋放せん。天一・天槍・天矛・天楯の此の幾組の星搖動不寧にして光芒角を射出するに至っては、那就ち是れ天下の兵戈大いに起るの征兆なり。

東宮蒼龍,房、心(謂房、心戴角曳尾若龍也)。心為明堂,大星天王,前後星子屬。不欲直,直,王失計。房為天府,曰天駟。其陰,右驂。旁二星(旁一作房)鈐,鈐北星曰牽。東北曲十二星曰旗,旗中四星曰天市。天市中星眾者曰實,虛則耗。房南眾星曰騎官。

東方の一宮是れ蒼龍にして、房宿・心宿を以て主と爲す(意思は房・心の二宿角宿を頂き尾宿を拖きて、形狀一條の龍の如し)。心宿是れ天子の明堂にして、當中の大星天王を象徵し、前後の兩星是れ王子の屬なり。此の三星宜しく一條の直線に排成する可からず。直線を成せば、天王の謀算失當を主る。房宿是れ天府にして、又「天駟」と叫ぶ。それの北面の一顆是れ右驂馬なり。旁邊の兩顆星是れ馬衿にして、衿北の一顆を「舝」と叫ぶ。東北方に彎曲排列の十二顆星を「旗」と叫び、旗中の四顆を「天市」と叫ぶ。天市の中星數多くして密なれば、物資充實を主る。星數稀疏なれば、耗損匱乏を主る。房宿以南の一片の星は、「騎官」と叫ぶ。

左角,理(一作李);右角,將;大角,天王帝廷。其兩旁各有三星,鼎足勾之,曰攝提者,直斗柄所指,以建時節,故曰攝提格。亢為宗廟,主疾。其南北兩大星,曰南門。氐為天根,主疫。尾為九子,曰君臣斥絕,不和。箕為傲客,后妃之府,曰口舌。火犯守角,則有陣戰。犯房、心,王者惡之。

角宿の左星刑獄の官を主り、右星將帥を主る。大角星是れ天王の朝廷なり。大角の兩旁各々三顆星有りて、鼎足の如く彎曲してそれを環抱し、「攝提」と叫作す。攝提正に斗柄の指す所の方向に對し、用いて時令節氣を確立す。ゆえに「攝提格」此の歲名有り。亢宿是れ宗廟にして、疾病を主る。それの南北の兩顆大星は、「南門」と叫ぶ。氐宿是れ天の根基にして、瘟疫を主る。尾宿是れ九箇の王子にして、若し星色離散せば、就ち君臣の互相排斥斷絕し彼此不和を説く。箕宿是れ傲慢の賓客にして、又是れ后妃の府第にして、口舌是非を主る。火星角宿を侵犯あるいは滞留すれば、就ち陣戰有らん。房宿・心宿を侵犯すれば、君王此の種の天象を最も忌諱す。

南宮朱雀,權、衡。軒轅為權,太微為衡。衡、太微,三光之庭。衛十二星,藩臣:西,將;東,相;南四星,曰執法;中,端門;左右,掖門;內六星,諸侯。其內五星,五帝座。後聚一十五星,曰哀烏郎位。旁一大星,將位也。五星順入軌道,司其出所守,天子所誅也。其逆入,若不順軌道,以所犯名之。

南方の一宮是れ朱雀にして、「權」と「衡」とを以て主と爲す。軒轅星是れ權にして、太微垣是れ衡なり。衡もまた就ち是れ太微垣にして、是れ日・月・五星の此の三光の運行する庭院なり。太微を護衛する十二顆星是れ藩臣なり。西邊のは將帥を主り、東邊のは宰相を主り、南面の四顆を「執法」と叫び、正中是れ端門にして、左右の兩側是れ掖門にして、裏面の六顆是れ諸侯なり。再往きて內の五顆は、是れ「五帝座」なり。その後蔚然として聚集する十五顆星は、「郎位」と叫ぶ。旁邊の一顆大星は、是れ將軍の位なり。五星常軌に順って太微に進入すれば、就ちそれの出來る時の停留する位置を觀察せよ。那是れ天子の將に誅罰せんとする處なり。若し逆行して入り、あるいは常軌を循らざれば、就ちそれの侵犯する所の星に按じて名を定め事を斷ず。

中座,成形。中座者,犯帝坐也;成形者,成禍福之形也,群下之從謀也。金、火尤甚。廷藩西有隋星四,曰少微,士大夫。權、軒轅,黃龍體如騰蛇也。前大星,女主象。旁小星,禦者後宮屬。月、五星守犯者,如衡占。

謂う所の「中座・成形」は、中座是れ帝座の星を侵犯するを指し、成形是れ禍福の象已に成形して、群臣屬下從って合謀するを指す。此の類の天象の裏、太白金星と熒惑火星の主る所の應驗尤も厲害なり。太微廷藩の西邊に四顆の斜列する星有りて、「少微」と叫び、士大夫を主る。權は、就ち是れ軒轅星にして、その形黄龍の體の如く、蜿蜒として騰蛇の如し。最前面の大星は、女主を象徵す。旁邊の小星は、是れ御者と後宮の嬪妃の屬なり。月亮と五星と此れらの星に滞留あるいは侵犯する時は、皆太微垣の例子に照らして占斷せよ。

東井為水事,火入之,一星居其左右,天子且以火為敗。東井曲星曰戊;北,北河;南,南河;兩河、天闕間為關梁。輿鬼,則鬼祠事;中白者為質(輿鬼五星中白者為質)。火守南、北河者,兵起之象也,谷不登。

東井宿水利の事を主り、火星その中に進入し、また一星ありてその左右に停れば、天子將に火災に因って受挫せんとす。東井の旁に彎曲排列の星を「鉞」と叫ぶ。北面のを「北河」と叫び、南面のを「南河」と叫ぶ。南北の二河と天闕との間は、是れ天上の關隘橋梁なり。輿鬼宿祭祀鬼神の事を主る。その中の白色のあの顆を「質」と叫ぶ(輿鬼の五星の中の白色の一顆就ち是れ天質星なり)。火星南河・北河に滞留すれば、是れ兵を興すの征象にして、年成もまた豐收せざらん。

故德成衡,觀成潢(日月五星不軌道也,衡太微廷也,觀占也,潢五潢五帝車舍也);傷成戊(敗傷之先占成刑於戊也),誅成質(熒惑入輿鬼天質者,占曰大臣有誅也),禍成井(東方水事,火入一星居其旁,天子且以火敗,故曰禍)。

ゆえに説く、德は太微垣上に成就し、象は五潢星上に顯現す(日月五星常軌を循らざる時、「衡」は太微廷を指し、「觀」是れ占望にして、「潢」は五潢を指す。就ち是れ五帝の車舍なり)、傷損は鉞星上に成形す(敗傷の先兆、占斷して鉞星に刑を成す)、誅戮は天質星上に成形す(熒惑火星輿鬼の天質星に進入すれば、占辭説きて將に大臣の誅せらるる有らんと)、禍患は東井上に成形す(東井水事を主り、火星進入して一星ありてその旁に居れば、天子將に火に因って受挫せん。ゆえに禍と叫ぶ)。

柳為鳥喙,主草木。七星,頸,為圓宮,主急事。張,嗉,為廚,主觴客。翼為羽翮,主遠客。軫為車,主風。其旁有一星,曰長沙星,星不欲明;明與四星等。若五星入軫,兵大起也。軫南眾星曰天庫,庫有五車。車星角,若益眾及不具,亡處車馬。

柳宿是れ朱雀の鳥嘴にして、草木の生長を主る。七星宿是れ鳥頸にして、圓宮を爲し、急迫の事を主る。張宿是れ鳥の嗉囊にして、廚房を爲し、宴飮賓客を主る。翼宿是れ鳥の羽翅にして、遠方の來客を主る。軫宿是れ車にして、風を主る。軫宿の旁邊に一顆星有りて、「長沙星」と叫ぶ。此の星宜しく明亮なる可からず。一旦明亮にして軫宿の四星と相等しければ、便ち是れ異象なり。若し五星軫宿に侵入すれば、兵事大いに起らん。軫宿以南の一片の星を「天庫」と叫び、庫中に五車の星有り。車星若し角芒を射出し、あるいは星數忽然に增多し忽然に殘缺不全なれば、那麼各處の車馬皆亡失せん。

西宮咸池,天五潢,五帝車舍。火入,旱;金入,兵起;水,滂。水中有二柱,柱不具者,兵起。奎曰封犭希,為溝瀆。婁為聚眾,胃為天倉,其南眾星癐積。昴曰旄頭,胡星也,為白衣會。畢曰罕車,為邊兵,主弋獵。其大星旁曰小星附耳,搖動有讒亂之臣在側。畢、昴間為天街,其陰,陰國;其陽,陽國。陰,胡也;陽,中夏也。

西方の一宮是れ咸池にして、もまた天五潢と叫び、是れ五帝の車舍なり。火星進入すれば、旱災を主る。金星進入すれば、兵を興すを主る。水星進入すれば、大水滂沱を主る。咸池水の中に兩根の柱星有り。柱星殘缺不全なれば、就ち兵を起さん。奎宿を「封豕」と叫び、溝渠河道を主る。婁宿民衆を聚集するを主り、胃宿是れ天上の糧倉にして、胃宿以南のあの一片の星を「廥積」と叫び、是れ草料の堆なり。昴宿を「旄頭」と叫び、是れ胡人の星にして、喪事の白衣の聚會を主る。畢宿を「罕車」と叫び、邊境の兵事を主り、射獵を掌管す。畢宿の大星の旁邊の小星を「附耳」と叫び、附耳搖動すれば、讒を進め亂を作す臣子の君主の身邊に有るを説明す。畢宿と昴宿との間是れ「天街」にして、天街以北は陰國に屬し、以南は陽國に屬す。陰國は胡人を指し、陽國は中原を指す。

參為白虎,三星直者,是為衡石。參三星白虎宿中,東西直有以稱衡也。下有三星銳,曰罰,在參間之星也,上小下大(故曰銳,說曰:罰三星小邪列,無銳形),為斬艾事。其外四星,左右肩股(一作暇)也。小三星隅置,曰觜Δ,為虎首,主葆旅事(葆守也,旅軍眾,言佐忝伐芟除凶匿也)。

參宿白虎を象り、中間の三顆の一直線に排成する星は、就ち是れ「衡石」なり。參宿の此の三星白虎宿の中に位し、東西平直にして、一杆の秤衡の如きが好し。その下に三顆の尖銳の星有りて、「罰」と叫び、參宿の間に夾まり、上小下大なり(ゆえに尖銳と叫ぶ。一説罰星三顆小さくして斜列して、倂べて尖銳の形無し)。斬殺刈除の事を主る。外圍の四顆星は、是れ白虎の左右肩と左右股なり。別に小三星角上に斜置する有りて、「觜觿」と叫び、是れ虎首にして、守衛と征戍の事とを主る(「葆」是れ守衛、「旅」是れ軍衆にして、説く所是れ征伐を輔佐し凶惡隱匿の徒を鏟除するなり)。

其南有四星曰天廁,廁下一星曰天矢。矢黃則吉,白及青則凶。其西有勾曲九星,三處羅列:一曰天旗,二曰天苑,三曰九游。其東有一大星曰狼,狼角變色,則多盜賊。下有四星曰弧,直狼。狼比地有大星,曰南極老人:星見,則天下治平;不見,兵起。常以秋分候之南郊。附耳星入畢中,天下兵起。

參宿以南に四顆星有りて「天廁」と叫び、天廁の下の一顆を「天矢」と叫ぶ。天矢黄色を呈すれば則ち吉にして、白色あるいは青色を呈すれば則ち凶なり。參宿以西に彎曲の九顆星有りて、三處に分かちて羅列す。一處を「天旗」と叫び、一處を「天苑」と叫び、一處を「九游」と叫ぶ。參宿以東に一顆の大星有りて「狼星」と叫び、狼星角芒を射出し顏色變異すれば、就ち盜賊衆多ならん。その下の四顆星を「弧矢」と叫び、正に狼星に對す。狼星の附近地平に貼近する處に一顆の大星有りて、「南極老人星」と叫ぶ。此の星出現すれば、天下太平なり。出現せざれば、則ち兵事興起せん。歷來秋分の時節に於て南郊に到りてそれを觀候す。附耳星移りて畢宿の中に入れば、天下兵を起さん。

北宮玄武,虛、危。危為蓋屋(危上一星高,傍二下,似蓋屋也),虛為哭位之事。東(一作其)南有眾星,曰羽林天軍(虛危一作營室。陰陽始終之處,際會之間常多奸邪,故設羽林為兵衛)。天軍之西曰壘,或曰鉞。旁一大星,曰北落,若微天(一作亡),軍星動角益稀,及五星犯北落,入天庫(一作軍),兵火起。火、金、水、犯之,尤甚。火犯,多憂兵事;水犯,憂水患;木、土犯之,軍吉。

北方の一宮是れ玄武にして、虛宿・危宿を以て主と爲す。危宿覆屋を象り(危宿の上面一顆高く、旁邊兩顆低く、形狀屋頂の如し)、虛宿哭泣喪亡の事を主る。それの東南方向の一大遍の星は、「羽林天軍」と叫ぶ(虛危一説に營室と作る。此處是れ陰陽終始交接の地にして、交會の間常に奸邪多し。ゆえに羽林軍を設けて以て宿衛と作す)。天軍の西のあの組を「壘」と叫び、あるいは「鉞」と叫ぶ。旁邊の一顆大星を「北落師門」と叫び、若しそれ光色微弱にして將に隱沒せんとし、而して羽林の諸星搖動して角を生じ數目愈々稀少になり、あるいは五星北落を侵犯し天庫に進入せば、就ち兵災火患有らん。火星・金星・水星の來犯は、爲害尤も嚴重なり。火星之を犯せば、兵事の憂多し。水星之を犯せば、水災を憂う。木星・土星之を犯せば、則ち軍事吉利なり。

危東六星,兩兩而比,曰司寇(一作空)。營室為宗(一作清)廟,四(一作曰)離宮閣(一作闖)道。漢中四星,曰天駟。旁一星,曰王良,策馬,車騎滿野。旁有八星,絕漢,曰潢星。旁,江星,動,人涉水。杵、臼四星,在危南。瓠瓜,有青黑守之,魚鹽貴。南斗為廟,其北建星。建星者,旗也。牽牛為犧牲,其北河鼓。河鼓大星,為上將;左右者,為左右將。婺女,其北為織女。織女者,天孫也。

危宿の東に六顆星有りて、兩兩竝列相比し、「司寇」と叫作す。營室宿是れ天上の宗廟にして、その旁別に離宮と閣道の諸星有り。銀河の當中に橫たわる四顆星は、「天駟」と叫ぶ。天駟の旁邊の一顆を「王良」と叫び、王良一たび鞭を揮い馬を策すれば、人間便ち車騎の原野に布滿するを主る。再往きて旁に八顆星銀河を橫斷する有りて、「天潢」と叫ぶ。天潢の近旁是れ「江星」にして、江星搖動不定なれば、人々の將に水を渉り河を渡らんとするを主る。杵星と臼星と共に四顆、危宿以南に位す。瓠瓜星若し青黑色の星の上面に滞留する有れば、魚と鹽の價錢就ち飛漲せん。南斗宿是れ天上の廟堂にして、それの北面是れ「建星」なり。謂う所の建星は、就ち是れ天上の旗幟なり。牽牛星祭祀の用うる所の犧牲を主り、それの北面是れ「河鼓」なり。河鼓の當中の大星是れ上將にして、左右の兩顆分別に左將と右將なり。婺女星の北面是れ「織女」にして、織女は、就ち是れ天帝の孫女なり。

是以聖人以春秋二百四十二年之間,日食三十六,彗星三見,夜明常星不見,夜中星殞如雨,皆書之。當時禍亂輒應,上下交怨,諸侯奔走,戰伐並興(一作與),不保其社稷者,不可勝數。是知玄象示變,吉凶之征也。凡為將者,不可不詳之也。

ゆえに孔子《春秋》を作りて、二百四十二年の間に於て、日食三十六次、彗星出現三次、夜裏天光大明して恒星見えざるの異象有り、半夜星隕れて雨の如きの異象有りて、全て一一に記錄す。當時禍亂隨卽應驗し、君臣上下彼此怨恨し、諸侯四處に奔逃し、戰伐同時に爆發し、自己の社稷を保住する能わざる國君多くして數え盡くす能わず。此に由って知る、天象變異を顯示するは、正に是れ吉凶の征兆なり。凡そ主將を做る人は、詳しく考察を加えざる可からず。

日第一百四十三

無雲而日色昏晦者,主將不明也。或日月陰沉無光,不雨,或十晝夜不見日月者,此時不可妄委兵於人,大將不忠之象也。日色青,軍令削弱,吏士多陵正也。或日邊雲氣文成五色者,破軍殺將之象也,其大禍在二年之內。或赤雲截日如杵形者,兵將大戰血氣,先動者敗。或日月旁有物如枯樹,起兵者勝。或雲氣如青衣人垂手在日西立者,所見之軍當有帝王,此勝候也。

天上雲無くして日光昏暗明ならざるは、是れ主將昏昧明ならざるの征象なり。若し日月陰沉して光無く、天卻って雨を下さず、あるいは一連十晝夜日月を見るを得ざれば、此の時就ち輕率に兵權を別人に托付する可からず。これ是れ主將二心を懷くの征象なり。日色青を發すれば、軍令鬆弛削弱を主り、將吏士卒多く正直の人を欺凌する事有らん。若し太陽の邊上の雲氣五色の花紋を結成せば、是れ軍を破り將を殺すの征象にして、大禍兩年の內に應驗せん。若し赤色の雲氣太陽を攔腰截斷して形狀木杵の如き有れば、兩軍將に一場の血戰有るを主り、先に手を動かす一方失敗せん。若し日月の旁邊に形如枯樹の物象を出現せば、兵を起す一方勝を得。若し雲氣一箇の青衣を穿つ人の垂手して太陽の西側に立つが如ければ、此の景象を看見するあの支の軍隊の裏當に帝王を出すべし。これ是れ取勝の兆なり。

兩軍相當,日暈等者力均,曰殺將。抱且戴者,有喜,圍在於中者內兵勝,圍在於外者外兵勝。日弭(一作珥),拜大將,有兵在野。日有足白者,所臨破軍殺將。有背氣青赤色,曲而向外者,為背叛之象也,其將有二心。日背有缺,氣被直向外如山字者,兩軍相當,所臨者敗。

兩軍對壘の時、日暈均勻完整なれば、雙方勢均力敵を表示し、此の種の天象を「殺將」と叫ぶ。日旁既に抱氣有り上方また戴氣有れば、喜事有るを主る。暈圈內側に圍るは、裏面に守る一方取勝す。暈圈外側に圍るは、外面に攻むる一方取勝す。日珥を出現すれば、大將を拜授するを主り、野外兵事有り。太陽の下方白色の足狀の光氣有れば、それの對する所の方位軍を破り將を殺さんを要す。青赤色の背氣を出現し、彎曲して太陽に背向して外に朝かうは、是れ背叛の征象にして、あの一方の將領二心を懷く。太陽の背氣缺口有りて、光氣筆直に外に向かって散開して「山」の字の如くなれば、兩軍對壘の時、それの對する所の一方失敗せん。

軍兩相當,日有冠纓者,和解;抱截(一作戴),大喜。日外青內赤,則兩軍以和相去;日外赤內青,則兩軍以惡相去。日之氣暈,先至而後去,居軍勝。若先至先去,前有利後有病;後至後去,前病後利;後至先去,前後皆病,居軍不勝。見而去,其後發病,小勝,必亡功;見半日,上有功。

兩軍對壘し、太陽の上方冠帶纓繩の如き光氣有れば、雙方和解を主る。抱氣環繞有れば、則ち是れ大喜の象なり。日暈の外圈青色・內圈赤色なれば、兩軍講和以て收場せん。外圈赤色・內圈青色なれば、兩軍怨を結び仇に相うる以て收場せん。日旁の雲氣と暈圈とは、先に出現して後に消散するは、駐守の一方取勝す。若し先に出現して又先に消散せば、則ち先前有利にして往後患有り。後に出現して後に消散せば、則ち先前患ありて往後利し。後に出現して卻って先に消散せば、前後皆患ありて、駐守の一方取勝する能わず。日暈剛に出現すれば就ち散去し、その後便ち禍患を生じ、縱い小勝するも終に功無し。日暈半日の久しきを維持すれば、則ち功有るを主る。

暈(一作而)缺,兩軍相當,隨缺擊之,缺方敗。抱暈者隨抱暈,克。日背暈而珥外,軍凶。暈有青氣在外者,所臨克。日月背暈,兵陣不合。七日暈不解者,不可起軍。暈而背抱珥,及值而實之者,順從擊之,克。暈而兩珥,一在外,一在內,並有聚雲,不出三日,兩軍和解之,又有他軍圍城。凡有日暈制勝,近期三十日,遠期六十日。

日暈缺口を出現し、兩軍對壘の時、就ち缺口の方向に順って出擊せよ。缺口の所在するあの一方失敗せん。抱氣環繞有れば、就ち抱氣の方向に順って進攻せば、能く取勝し得べし。日暈背向して日珥また外側に在れば、我軍凶有るを主る。日暈の外面青色の雲氣を帶ぶれば、それの對する所の一方攻克せられんを要す。日月の暈氣背向して相合せざれば、兩軍陣を列ねて卻って交鋒せざるを主る。日暈連續七天散ぜざれば、兵を發する可からず。日暈また背氣・抱氣・珥氣を帶び、而且此れらの光氣厚實充盈せば、就ちその方向に順って出擊せば、能く攻克し得べし。日暈兩箇の珥を帶び、一箇は外に在り一箇は內に在り、同時にまた雲氣聚集有れば、三天を出でずして兩軍就ち和解せん。另外還って別の軍隊の城を圍みに來る有らん。凡そ日暈の象に憑って制勝するは、近きは三十天內に應じ、遠きは六十天內に應ずべし。

日下有雲氣如龍形蜿蜒者,凶。日鬥,有大戰,天下亂。日失行,凶。日月揚光,重輪,日五色,當之大吉利。日無光而赤暈,主將憂;黑暈,敗;白暈,驚。子日日食,兵起魏分;丑日日食,兵起趙分,忌六月、十二月兵動;寅日日食,兵起燕分,忌正月、七月;卯日日食,兵起魯分,忌二月、八月;辰日日食,兵起楚分,忌三月、九月;巳日日食,兵起宋分,忌四月、十月。

太陽の下方雲氣蜿蜒して龍形の如き有れば、凶を主る。兩日相薄して爭鬥の如くなれば、大戰有るを主り、天下動亂せん。太陽の運行常度を失えば、凶を主る。日月の光輝煥發して周圍重重の光輪有り、太陽五色を呈現せば、正に此の種の天象に當れば則ち大吉大利なり。太陽光無くして赤色の暈圈を帶ぶれば、將憂有るを主る。黑色の暈圈を帶ぶれば、敗を主る。白色の暈圈を帶ぶれば、驚を受くるを主る。子日日食發生すれば、兵魏の分野に起る。丑日日食なれば、兵趙の分野に起り、六月・十二月の兵を動かすを忌む。寅日日食なれば、兵燕の分野に起り、正月・七月を忌む。卯日日食なれば、兵魯の分野に起り、二月・八月を忌む。辰日日食なれば、兵楚の分野に起り、三月・九月を忌む。巳日日食なれば、兵宋の分野に起り、四月・十月を忌む。

午日日食,兵起韓分,忌正月、七月。未日日食,兵起齊分,忌六月、十二月;申日日食,兵起魏分,其禍最深,忌五月、十一月;酉日日食,兵起鄭分,忌二月、八月;戌日日食,兵起宋分,忌正月、七月;亥日日食,兵起秦分,忌四月、十月。夫日食之食向上者,不出九十日征伐;日食從下向者,百姓更有侵奪;日從旁食者,兵動鄰國。

午日日食に遇上すれば、戰事韓國の故地の屬する分野に發生し、最も正月と七月の兵を動かすを忌む。未日食に遇えば、戰事齊國の故地の分野に應じ、六月と十二月を忌諱す。申日食に遇えば、戰事仍ほ魏地の分野に應じ、而して此の一天の主る所の禍患最も深重にして、五月と十一月を忌諱す。酉日食に遇えば、鄭地の分野に應じ、二月と八月を忌諱す。戌日食に遇えば、宋地の分野に應じ、正月と七月を忌諱す。亥日食に遇えば、秦地の分野に應じ、四月と十月を忌諱す。再び太陽の虧缺の方向を看よ。虧缺下より上に推進するは、九十天を出でずして就ち征伐の擧有らん。下方より虧食を開始するは、百姓別に侵奪劫掠せらるるの患有らん。側旁より虧食を開始するは、則ち是れ鄰近の國家將に兵を動かさんとす。

月第一百四十四

黃虹貫月者,兵起。月旁氣漸漸大者,不可攻城叩陣,宜屯兵以自守,敵來勿與戰。月旁氣細細從外侵輪,但攻城小戰,勝。月旁氣遠之,不得攻城,切宜堅自守備。或氣繞月而光明者,主人吉,但守勿憂外賊。或星在月背,城中兵欲敗走;星在月角,軍內有智謀之士,勿輕敵。月之下角有星,敵人潛入我軍,宜精守四門,詳別詐偽。

黄色の虹霓月亮を貫穿すれば、兵を起すを主る。月旁の雲氣漸々變大すれば、城を攻める可からず、もまた敵陣を叩擊しに往く可からず。應當に兵を屯して自守し、敵人來るも交戰するなかれ。月旁の雲氣細細に外面より月輪に侵入すれば、只管城を攻め小戰を打ちに往けば、能く取勝し得べし。月旁の雲氣遠遠に月亮を離開すれば、就ち城を攻める能わず。切に自己の守備を堅固するを須す。若し雲氣月亮を環繞して而且光明有れば、守方吉利を主り、ただ須く據守して、外來の敵を憂慮するに必あらず。若し星月の背面に在れば、城中の守軍將に潰敗逃走せんとす。星月の尖角上に在れば、軍中足智多謀の士有るを説明し、敵人を輕視する可からず。月の下角星有れば、敵人已に我軍の中に潛入せるを主り、應當に四門を嚴守し、眞僞を仔細に分辨すべし。

或三星上下,在月之上下角,及在月背,用兵不利,攻城不拔。或三星俱在月背,攻戰(一作城)皆不利,軍中亦有失叛之事,宜精慎明察,恤撫三軍。或三星俱在月上者,攻戰不利。或三星俱在月形中,敵中兵亂,三日內降(月形中者,謂彎月之虛氣也)。三星俱在月中,敵中當有詐降,大造戰具,欲乘間大戰。

若し三顆星上下分布して、月の上下の兩角および月背に落れば、兵を用うるに利あらず、城を攻めるも攻下る能わず。若し三星皆月背に在れば、進攻するを論ぜず野戰するを論ぜず利あらず、軍中還って逃亡叛變の事有らん。應當に格外謹慎明察し、全軍を撫恤すべし。若し三星皆月の上方に在れば、進攻交戰利あらず。若し三星皆彎月の抱く所の空處に落れば、敵軍の內部兵變發生せん、三天の內に來降せん(謂う所の「月形中」は、彎月の環抱する內のあの片の虛空の雲氣を指す)。若し三星皆月輪の中に落れば、敵人當に詐降の謀有るべし、暗中に大いに戰具を造りて、隙に乘じて大戰を發動せんと想う。

月入太微出北座,若犯北座,則下謀上。月出房戶北,為兵亂;出房戶南,為兵敗喪。月暈七重在參、畢之間,兵大戰。辰星在翼,月犯之,大將死。太白入月,胡兵退。月暈,先起兵者勝。抱戴(一作負載)赤色,在外外克,在內內克。月暈之時,歲星、鎮星色暗則主克,若明勝。月暈太白,色暗主勝,色明客勝。

月亮太微垣に進入して北面の星座より穿出し、若しまた北座を侵犯せば、下位の者の上位の者を圖謀するを主る。月亮房宿の房戶の北より穿出せば、兵亂を主る。房戶の南より穿出せば、兵の敗れ喪亡するを主る。月暈七重參宿と畢宿との間に出現すれば、大戰有るを主る。水星翼宿に停り、月亮また往きてそれを侵犯せば、將死せんを主る。太白金星月中に進入せば、胡人の軍隊退走せん。月暈を出現せば、先に兵を動かす一方取勝す。抱氣・戴氣赤色を呈し、外に在れば外面の一方取勝し、內に在れば裏面の一方取勝す。月暈を出現する時、木星・土星の光色晦暗なれば、守方の敵を克するを主る。若し明亮なれば、則ち守方獲勝せん。月暈太白金星を籠罩し、太白の色暗なれば則ち主方勝ち、色明なれば則ち客方勝つ。

月起房、箕,大風起。暈於參、畢,大兵起。軍出之時,卯食即凶。大星入月,色暗惡客敗,色明客勝。月暈赤色,客勝。月垂四珥,敵來攻。月帶四彗而出,密備奸人謀,主將不忠,兵大起。月在天獄中,吏士多犯禁。星貫月中,主將多淫亂之事,亦防奸人亂軍。兩月相重,吏士爭亂(爭一作大)。日月並見,將弱士強。

月亮房宿・箕宿より升起すれば、大風將に至らんを主る。月暈參宿・畢宿に出現すれば、大軍興起を主る。軍隊出發の際、卯時月食發生すれば便ち是れ凶兆なり。大星月中に進入する有れば、星色晦暗醜惡なれば則ち客方失敗し、星色明亮なれば則ち客方取勝す。月暈赤色を呈せば、客方取勝す。月の四周四道の珥氣を垂下せば、敵人の來攻を主る。月亮四道の彗狀の光芒を帶びて升起せば、奸人の圖謀を暗中に防備するを要す。これもまた是れ主將忠ならず大擧起兵するの征象なり。月亮天獄星の中に行けば、將吏士卒多く禁令に觸犯する有るを主る。星有りて月中を貫穿せば、將多く淫亂の事有るを主り、もまた奸人の軍心を攪亂するを防備するを要す。兩箇の月亮重疊して出現せば、將吏士卒の爭鬥作亂を主る。白晝の裏日月同時に出現せば、將領軟弱にして士卒强橫を主る。

月食,謀者不明。入井中者,兵起。月逼近太微者,大臣謀亂。月臨天獄者,從四邊周迴食心者,大亂。食於八月九月者,敵兵勝。茍欲詳日月星辰之變,當以二十八宿之分野驗之,則知在於彼我也。

月食發生すれば、謀劃する人の心智明ならざるを主る。月亮東井宿の中に進入せば、兵を起すを主る。月亮太微垣に逼近せば、大臣の叛亂を圖謀するを主る。月亮天獄星に加臨し、又四邊より周回して心宿を蝕去せば、天下大亂を主る。月食八月・九月に發生せば、敵軍勝を得。若し日月星辰の變異の應驗を詳細に推斷せんと想えば、就ち應當に二十八宿の分野を以て驗核し往き、此の樣便ち能く災祥究竟敵方に落つるか我方に落つるかを知るを得。

雜星第一百四十五

福慶之星,其化者何?積天地淳(一作純)粹之氣也,精氣動而化之也。飛流之星,其化者何?五星之精氣也。五星有變,則精氣散而為妖星。是故《漢書》曰:天睛而景星見(晴者有赤方與青方相連,赤方氣連中有兩黃星,青方氣中有一黃星明也,三星相合而明則為景星者也)。

福慶を象徵する星は、是れ何に由って化生するか。是れ天地間の淳厚精粹の氣の積聚して成るにして、精氣一たび動けば便ち化生出來す。飛行流墜する星は、又はれ何に由って化生するか。是れ金木水火土の五星の精氣なり。五星一旦變異發生すれば、精氣散逸出去して就ち妖星と化成す。ゆえに《漢書》説く、天氣晴朗の時「景星」就ち出現すと(謂う所の晴は、赤色の一方と青色の一方と相連し、赤色の氣の中兩顆の黄星を含み、青色の氣の中一顆の明亮の黄星を含み、三星會合して明亮なるを有り、就ち是れ景星なり)。

景星也者,黃而潤澤,其伏無常,常出有道之國。茍或見於君上,此乃應天之兵,大慶之兆也。若在,當速自退軍,不可與抗也。或流星長四五丈,如龍蛇動搖者,大將凶。或白雲如車輪,下有流星旋入北斗者,主人當走。星有勃於招搖者,夷狄將亂。或流交於天心者,敵盛。或流衡、太白而過者,大將凶。

景星此の種の星は、顏色黄にして潤澤にして、隱沒出現定時無く、常常に政治清明の國家に出現す。若しそれ某位の君主の頭上に出現せば、那便ち是れ天命に順應の師にして、是れ大吉大慶の征兆なり。景星若し敵方に出現せば、我方就ち趕緊に兵を退くべし。彼と對抗する可からず。若し流星長さ四五丈にして、龍蛇の一般に擺動する有れば、將凶有るを主る。若し白雲形車輪の如く、下面また流星旋轉して北斗に進入する有れば、守方の敗走を主る。星芒招搖星を衝犯する有れば、夷狄將に亂を作さんとするを主る。若し流星交錯して心宿天王星上に在れば、敵方强盛を主る。若し流星太微垣と太白金星とを經過せば、將凶有るを主る。

或流星貫日而滅,敵凶。或流星貫於紫宮,備奸賊下謀上。流星前赤後青黑者,客軍敗。流星從敵上來立吾營上者,當有奸謀來說吾軍。流星尾長三尺輝然者,人主使也;赤色者,將軍使也。凡用兵攻其星見之所,則克也。流星色蒼白者為使,赤則有兵,黑則喪。

若し流星太陽を貫穿して後熄滅せば、敵方凶有るを主る。若し流星紫宮に貫入せば、就ち奸賊の下を以て上に犯すの陰謀を防備するを要す。流星の前段赤色・後段青黑なれば、客軍の失敗を主る。流星敵方の上空より飛來して我方の營壘の上に停れば、奸謀を懷く人の我軍を游説しに來る有るを説明す。流星の尾長さ三尺にして光輝燦然たるは、是れ君主の派來する使者の象なり。若し赤色を呈せば、則ち是れ將軍の派來する使者の象なり。凡そ兵を用うるは、此の類の星の出現するあの方位を攻打せば、就ち能く取勝し得べし。流星の色蒼白を作せば、使者の往來有るを主る。色赤なれば、兵事有るを主る。色黑なれば、喪事有るを主る。

星有曳光如匹練墜軍中者,星有色如血,及星有光奕奕,細碎墜軍中者,敵兵陰到,多殺傷。或星無尾,形色如橘,或有拖光如劍形墜軍中者,敵兵則猛,我必敗。或大星無尾狀如斗,及火星狀如橘大而色黑,晝墜軍中者,主大殺害。星有五色曳尾,或有圓光大如斗,內赤黃而外青,及有頭如血而尾白墜軍中者,敗兆也。

星有りて一匹の白絹の如き光尾を拖いて軍中に墜入し、あるいは星色紅きこと血の如く、あるいは星光閃爍不定にして細碎散落して軍中に墜入するは、此れら皆敵兵の暗中に摸來るを預示し、我方傷亡慘重ならん。若し星有りて尾巴無く形狀顏色橘子の如く、あるいは劍形の光芒を拖いて軍中に墜入せば、敵兵凶猛を主り、我方必ず敗れん。若し大星有りて尾無く形狀斗の如く、あるいは火色の星形橘子の如くして個大色黑にして、白天に於て軍中に墜入せば、大規模の殺戮傷亡有るを主る。若し星五色を呈して尾巴を拖き、あるいは圓形光團大きさ斗の如く內裏赤黄にして外圍青色、および頭部紅きこと血の如く尾部白色を呈する星軍中に墜入するは、皆是れ敗亡の兆頭なり。

客星第一百四十六

客星者,非主座之星也,故曰客星。色白如氣勃勃以絮,所過之宿必有災害。出營室,無兵,亦不罷。入奎,破兵,殺將。犯婁,胡亂。入昴,胡入犯塞。入畢,邊有急兵(一作水)。犯觜,堡虛,軍儲少,饑。犯柳,兵起。守張,將有陰計,兵起。入招搖,胡兵起。入天槍,兵起。入天,兵起。

謂う所の客星は、本是れ有る主位の星に非ず。ゆえに「客星」と叫ぶ。それ色白くして氣の如く、蓬勃鼓動して、形似棉絮にして、凡そそれの經過する星宿は、あの裏必ず災害有らん。客星營室宿に出現すれば、雖も眞に兵を興せざるも、事情もまた此に就て罷休せざらん。奎宿に進入すれば、兵の敗れ將の亡ぶを主る。婁宿を侵犯せば、胡人の亂を作すを主る。昴宿に進入すれば、胡人の邊塞を入侵するを主る。畢宿に進入すれば、邊境に緊急の兵事有るを主る。觜宿を侵犯せば、堡壘虛空・軍糧儲備不足・饑荒發生を主る。柳宿を侵犯せば、兵を起すを主る。張宿に滞留せば、將領の隱秘の圖謀を懷き將に兵を起さんとするを主る。招搖星に進入すれば、胡兵興起を主る。天槍星に進入すれば、兵を起すを主る。それと相配するあの組の星に進入するも、もまた兵を起すを主る。

犯文昌星,蒼色,將有憂;色多赤,將驚;色黃,將喜;色黑,將死。守傳曰,胡入中國。守天雞,天下兵馬驚。守天街,胡王死。入婁庫,兵起。守南河,兵起。守騎宮,將憂,士卒疫。守北落師門,虜入寨,兵起。守天倉,粟貴。入天苑,兵作馬死。入天宮,天下弓弩皆張。出天宮,匈奴兵起。守庫騎,西羌來降。守九洲殊口,負海丕安。

客星文昌星を侵犯すれば、若し青色を呈せば、將領の憂患有るを主る。色偏りて赤なれば、將領の驚を受くるを主る。色黄なれば、將領の喜有るを主る。色黑なれば、將領の死亡を主る。傳舍星に滞留せば、胡人の中原に侵入するを主る。天雞星に滞留せば、天下兵馬驚擾を主る。天街星に滞留せば、胡人の君王の死去を主る。婁宿の倉庫の諸星に進入せば、兵を起すを主る。南河星に滞留せば、兵を起すを主る。騎官の諸星に滞留せば、將領の憂愁・士卒の疫病に染上するを主る。北落師門に滞留せば、敵虜の營寨を攻入し兵事興起を主る。天倉星に滞留せば、糧價昂貴を主る。天苑星に進入せば、兵を興して戰馬死亡するを主る。天宮に進入せば、天下の弓弩盡く張りて大いに干戈を動かすを主る。天宮より穿出せば、匈奴の起兵を主る。庫樓・騎官の諸星に滞留せば、西羌の前來歸降を主る。九州殊口星に滞留せば、沿海一帶大いに安寧を得るを主る。

妖星第一百四十七

天雁星,將軍之精華也,色青赤有光,尾長三四丈。天猾星者,飛星忽作為雲者也,所以兆地者流血積骨之象也。頡頏星,如大甕,前卑後高,見則大將死。燭星者,狀如太白,其出也不行,才見而滅,所燭之地城邑拔、兵破亂也。天狗星者,狀如大流星,有聲,其下止地,其形類狗,遠望之如火光炎炎中天而下,圓如數頃田,而上銳,黃色,見則千里破軍死將也(一曰有尾如狗形也)。

天雁星は、是れ將軍の精氣の凝聚して成る所にして、顏色青中に赤を帶びて光有り、尾長さ三四丈。天猾星は、是れ飛行の星忽然に雲氣と化作するあの一種にして、それの預兆する所是れあの片の土地上流血して川を成し白骨堆積するの景象なり。頡頏星は、形狀一口の大甕の如く、前低後高にして、一たび出現すれば將死せんを主る。燭星は、形狀太白金星の如く、出現して後倂べて移行せず、剛に露面すれば就ち熄滅し、それに照到せらるる地方は、城邑將に攻破せられ軍隊潰敗大亂せん。天狗星は、形狀巨大の流星の如く、墜落する時聲響有り、落下して後地上に停り、形狀狗の如し。遠遠に望去れば一團の火光熊熊として中天より落下するが如く、落地して後圓圓に一片を鋪開して幾頃田の大きさ那麼有り、上頭尖銳にして、黄色を呈す。それ一たび出現すれば、方圓千里の內軍を破り將を死せしむ(另一説它尾巴を帶びて、形狀狗の如し)。

蚩尤旗,類彗而尾曲,象旗,見則王者征伐四方。天蓬者,類十小星綿聯如絮,所見之野當有兵起。虎頭星者,其落如大月著地(一作賊),則光星類黑,大聲如雷,所墜之地兵火起。旬始星,出於北斗旁,狀如雄雞,怒則青黑象伏鱉,見則兵亂。格澤星者,如炎火之狀,黃白色起地,上銳(一作鈍)而下大也,其見也不種而獲,不有土功必有大客。

蚩尤旗は、形狀彗星の如くして尾巴彎曲し、一面の旗幟の如く、それ一たび出現すれば、天子便ち四方を征伐せんとす。天蓬星は、十來顆の小星連綴して一緒に成り形如棉絮の如く、それ何れの片の分野に出現するや、あの裏就ち兵を起さん。虎頭星は、墜落する時一輪の大月の地面に貼到するが如く、星光偏りて黑く、聲響大きくして雷鳴の同じく、それの墜落する地方兵災火患を起さん。旬始星は、北斗の旁邊に出現し、形狀一隻の雄雞の如し。怒を發する時轉じて青黑色と成り、一隻の伏着する鱉の如く、それ一たび出現すれば兵亂を主る。格澤星は、形狀燃燒の火焰の如く、黄白色を呈して地面より升起し、上頭尖銳にして下頭粗大なり。それ一たび出現すれば、播種せずとももまた收成有り。若し土木工程を興辦せざれば、就ち必定に大批の客軍の到來有らん。

枉矢星者,類大流星,蛇行,色蒼黑如有毛,目長如一匹布著天,此星見則天下兵起。昭明星者,白而無角,乍上乍下,所見之地兵多變動也。五殘星者,出正東,東方之星也,其狀如辰星,去地可六丈,大而黃。六賊星者,出正南,南方之星也,去地(一作行)六丈,大而數動,有光焰。

枉矢星は、一顆の巨大の流星の如く、蜿蜒して蛇の如く行き、顏色蒼黑して毛を長ずるが好像し。望み上去れば長長たる一條にして、一匹の布の天上に貼るが如同じく、此の星一たび出現すれば、天下就ち兵を起さん。昭明星は、色白くして角芒を射出せず、忽上忽下に移動し、それの出現する地方兵事多く變動有り。五殘星は、正東方に出現し、是れ東方の星にして、形狀水星の如く、地を離るること約六丈高く、星體大にして色黄なり。六賊星は、正南方に出現し、是れ南方の星にして、地を離るること六丈高く、星體大にして頻頻に跳動し、火焰の如き光を帶ぶ。

司詭星者,出正西,西方之星也,去地六丈,其狀如太白,大而白。咸漢星者,出正北,北方之星也,去地可六丈,而赤,數動,察之則中青。此四星所出非其方,其下當起兵為亂,沖擊者不利焉。四鎮星者,出四隅之地,去地可四丈。城維藏光星者,亦出四隅,去地可二丈,若月之初出,所見則下有亂兵興動,有德者昌。

司詭星は、正西方に出現し、是れ西方の星にして、地を離るること六丈高く、形狀太白金星の如く、星體大にして色白なり。咸漢星は、正北方に出現し、是れ北方の星にして、地を離るること約六丈高く、色赤にして頻頻に跳動し、細看すれば則ち星心青を泛ぶ。此の四顆星若し各々の屬する所の方位に出現せざれば、それの下方の對應する地方就ち兵を起して亂を作さん。主動に衝擊進攻する一方利あらず。四鎭星は、四箇の角落の方位に出現し、地を離るること約四丈高し。城維藏光星は、もまた四隅に出現し、地を離るること約二丈高く、樣子初升の月亮の如し。それ出現すれば、則ち下方亂兵の興起騷動有りて、而して德有る人反って昌盛せん。

或二赤星有月背者,利宮姓為將。或三赤星從西北向東南者,利徵姓為將。或一赤星從西向東者,利角姓為將。或二赤星共尾一處從東向西者,利商姓為將。或三赤星引尾直上者,利羽姓為將。夫星象所見,兵家禍福之本,不可不詳之。

若し兩顆の赤星月の背面に出現せば、五音の「宮」に屬する姓氏の人を以て將と爲すに宜し。若し三顆の赤星西北より東南に指向せば、「徵」に屬する姓氏の人を以て將と爲すに宜し。若し一顆の赤星西より東に向かって移行せば、「角」に屬する姓氏の人を以て將と爲すに宜し。若し兩顆の赤星尾部一處に合して東より西に向かって移行せば、「商」に屬する姓氏の人を以て將と爲すに宜し。若し三顆の赤星尾巴を拖いて筆直に上升せば、「羽」に屬する姓氏の人を以て將と爲すに宜し。總じて之、星象の顯現する所は、是れ兵家の禍福の根本にして、仔細に推究せざる可からず。

流星第一百四十八

流星者,天使也。自下而上者曰飛,自上而下者曰流也。飛大曰奔星,小曰流星。大使大星,小使小星,謂紫微大微宮也,徐行漸進,經於列宿之次,或於他星之座為使也。聲大者怒象也,疾出遲出者並為妖星。

流星是れ上天の派出する使者なり。下より上に往きて升るを「飛」と叫び、上より下に往きて墜るを「流」と叫ぶ。飛びて形體大なるを「奔星」と叫び、小なるを「流星」と叫ぶ。大なる使命大星を派し、小なる使命小星を派するは、指す所是れ紫微垣・太微垣の遣わす所なり。それら緩緩に移行して漸次前進し、各宿の次舍を經過し、あるいは別の星座のあの裏に到りて使者に充當す。墜落する時聲響甚だ大なるは、是れ天怒の象なり。出現すること得て快あるいは得て慢なるは、皆妖星と算作す。

入角,四夷兵起。前黑後赤,兵敗將亡。入參不出,先起者勝,後發者敗。犯七星,兵起。色青,兵起。入河鼓,大將亡。一云,河鼓兵起。入王良,兵起。入將軍及羽林,兵大起。抵北落,兵起。使星出入天庫,匈奴兵起。抵天市垣,大將亡。抵天狗,犯弧矢,將有千里之行。使星出廄,兵馬起。

流星角宿に進入せば、四方の夷狄兵を起さん。流星前段黑・後段赤なれば、兵の敗れ將の亡ぶを主る。流星參宿に進入して再び出でざれば、先に手を動かす一方取勝し、後に發動する一方失敗せん。七星宿を侵犯せば、兵を起すを主る。星色青を發すれば、もまた兵を起すを主る。河鼓星に進入せば、將死せんを主る。另一説、河鼓に進入すれば兵を起すを主る。王良星に進入せば、兵を起すを主る。將軍星と羽林の諸星とに進入せば、大擧興兵を主る。北落師門に觸抵せば、兵を起すを主る。使星天庫を出入せしめば、匈奴の起兵を主る。天市垣に觸抵せば、將死せんを主る。天狗星に觸抵し弧矢星を侵犯せば、將領の將に千里の遠行有らんを主る。使星天廐星より飛出せしめば、兵馬の調動を主る。

彗星第一百四十九

彗星長而亙天,兵大起也。引尾入城,城將拔,近則八日,遠則十二日有應。彗直垂入軍營者凶,宜(一作遠)拔之,否則士卒俱死。若在敵,宜急擊之。彗出於月之左右者,不出三十日有兵起。抵觸月者,暴兵起。若色白者,有大喪也;蒼黃者,臣下謀也;黑者,兵大起也。

彗星長長たるを拖きて整個の天空を橫貫するは、這是れ大擧して兵を興すの征兆なり。彗尾牽引して城中に伸入すれば、此の座の城池將に攻破せられんとし、近きは八天・遠きは十二天就ち應驗せん。彗尾筆直に軍營に垂落せば、凶を主り、應當に趕緊に營寨を拔起して遷走し、然らざれば營中の士卒皆死於非命せん。倘若此の景象敵方の營中に落ちば、就ち時機を抓紧して出擊すべし。彗星月亮の左右の兩側に出現すれば、三十天を出でずして便ち兵事發生せん。彗星月亮に觸碰すれば、突然戰事爆發するを主る。彗星の顏色に至っては、色白なれば、大喪有るを主り、色蒼黄を作せば、臣下の暗中に逆を謀るを主り、色黑なれば、大擧して兵を起すを主る。

從中天出曳尾向西者,奸人害主將;從南曳尾向北者,妄殺害;從天中出身尾向東者,士民多饑;曳尾向東者,民凶;從北出曳尾向南者,士人凶。彗形如寶,寇來疾速。形如幢節者,寇強不可妄動。色如血者,敵兵陰到。光焰燦爛而尾長闊者,敵盛。凡彗所指處,皆凶地也。

彗星中天より出現して尾巴西方に向かって拖れりば、奸人の主將を謀害する有るを主る。南方より出現して尾巴北方に向かって拖れりば、滥りに無辜を殺すを主る。天中より出現して星身と尾巴と皆東方に朝向せば、士民多く饑荒有るを主る。尾巴東方に向かって拖れりば、百姓の凶に遭うを主る。北方より出現して尾巴南方に向かって拖れりば、士人の凶に遭うを主る。彗星形狀一件の寶器の如ければ、敵寇の來ること極めて快きを主る。形狀旗幢節杖の如きは、敵寇强盛を主り、輕擧妄動する可からず。顏色紅きこと血の如ければ、敵兵の暗中に摸來るを主る。光焰燦爛にして尾巴又長く又闊きは、敵方の勢盛んなるを主る。凡そ彗尾の指す所の地方は、皆是れ凶險の地なり。

五星統論第一百五十

歲星之行也,大陰在四仲,則歲行三宿;大陰在四孟及四季,則歲行二宿。二八十六,三四十二,行二十八宿,十二歲而周天也。熒惑之行,常十月入大微,受制而出,行列宿,同無道,出於無常也。太白之行,常以正月甲寅見營室,與熒惑俱晨出東方,二百三十日而入,入二十日而復出西方,二百三十日而入,入二十五日而復出東方,出以辰戌,入以丑未也。

木星(歲星)の運行する規律は、太陰子午卯酉の四仲の位に在る時、一年に三宿を行過し、太陰寅申巳亥の四孟および辰戌丑未の四季の位に在る時、一年に二宿を行過す。二を八に乘じて十六を得、三を四に乘じて十二を得、合して起きて正好二十八宿を走完し、十二年に天を繞りて一周す。火星(熒惑)の運行する規律は、常常に十月に於て太微垣に進入し、天命の節制を受けて後出行し、歷經して各宿を經て、無道の國と相應じ、出没定準無し。金星(太白)の運行する規律は、常常に正月甲寅日に於て營室宿に出現し、熒惑と一同に清晨東方に出現し、二百三十天の後隱沒し、隱沒二十天して又西方に出現し、再び二百三十天して隱沒し、隱沒二十五天して又重新に東方に出現す。それの出現多く辰・戌の位に在り、隱沒多く丑・未の位に在り。

辰星之行也,常以二月春分見奎、婁,五月夏至見東井(一作西),八月秋分見角、亢,十一月冬至見牽牛,出以辰戌,入以丑未,二旬而入。辰候之東方也,戌候之西方也。鎮星之行也,常以甲辰元始建斗,歲鎮一宿,二十八宿(一作歲)而周天也。

水星(辰星)の運行する規律は、常常に二月春分に於て奎宿・婁宿に出現し、五月夏至に於て東井宿に出現し、八月秋分に於て角宿・亢宿に出現し、十一月冬至に於て牽牛宿に出現す。出現多く辰・戌の位に在り、隱沒多く丑・未の位に在り、二十天左右にして便ち隱沒す。辰位に在る時は東方に到りてそれを觀候するを要し、戌位に在る時は西方に到りてそれを觀候するを要す。土星(鎭星)の運行する規律は、常に甲辰年を以て起始と爲し、斗宿より建て起こし、每年一宿を鎭守し、二十八宿を走完して天を繞りて一周す。

凡四星與鎮星合,則為內亂。與星辰合,則為變謀,為饑,為旱。與太白會,則為白衣之會,及為水。熒惑、太白合,則為死喪,用兵者凶。與鎮星合,則憂。與辰星合,則軍困,先舉兵者大敗。鎮星與辰星合,則有覆軍亡師。與太白合,則為疾病,為內亂(一作兵)。辰星與太白合,則為變謀,為兵憂矣。

凡そ其餘の四星と土星と同一宿に會聚すれば、國中內亂發生を主る。水星と會聚すれば、人の生變を圖謀する有るを主り、饑荒を主り、旱災を主る。金星と會聚すれば、披麻戴孝の喪事の聚會有るを主り、もまた大水を發するを主る。火星と金星と會聚すれば、死亡喪亂を主り、兵を動かす一方凶有り。火星と土星と會聚すれば、憂患を招來するを主る。火星と水星と會聚すれば、軍隊の困境に陷入するを主り、先に兵を起す一方大敗仗を喫するを要す。土星と水星と會聚すれば、全軍覆沒し師を喪い衆を失うを主る。土星と金星と會聚すれば、疾疫の流行を主り、もまた內部の亂を生ずるを主る。水星と金星と會聚すれば、人の生變を圖謀する有るを主り、兵事を擔憂するを爲す。

凡歲星、熒惑、鎮星、太白與辰星鬥,皆大戰之象,兵不在外與(一作興)內,兵構亂。一曰:火與水合為淬,與金合為鑠(一作燦),不可舉事用兵。土與金合國亡,與木合國饑,與水合為壅沮,不可舉事用兵。木與金合鬥,國有內亂(同舍為合,相陵為鬥)。二星相近者其殃大,二星相遠者無傷也(犯者七寸以內光芒相及也,陵者相過也)。

凡そ木星・火星・土星・金星と水星と相鬥するは、皆是れ大戰の征象なり。兵事境外に在らざれば便ち境內に在り、總じて禍亂を構成するを要す。另一説、火と水と會合するを「淬」と叫び、火と金と會合するを「鑠」と叫び、皆事を興し兵を用うる可からず。土と金と會合すれば國の亡ぶを主り、木と會合すれば國中の饑荒を主り、水と會合するを「壅沮」と叫び、もまた事を興し兵を用うる可からず。木と金と會合して相鬥せば、國中に內亂有り(同じく一宿に處るを「合」と叫び、彼此相欺壓するを「鬥」と叫ぶ)。兩星の靠りて近きは、災殃就ち大なり。兩星の離れて遠きは、則ち傷害無し(謂う所の「犯」は、是れ相距ること七寸以內にして光芒彼此相觸及するを謂う。謂う所の「陵」は、是れ彼此越過するを謂う)。

凡五宿所聚之宿,其國當亡於下。從歲星以義,從熒惑以禮,從鎮星以重(重者,以威重者也),從太白以兵,從辰星以法。二星若合,是為警立絕行,其國內外皆舉兵,人民饑饉,改立王公。四星若合,是謂大蕩(大蕩者,蕩滌也),其國兵喪並起。五星若合,是謂易行,有德受慶(一作立),王(一作正)者奄有天下,主持泰平。五星大,其事立;五星小,其事不立。

凡そ五星の聚集する所のあの一宿は、それの下方に對應する國家就ち敗亡せんを要す。木星に跟從するは、道義に靠って勝を取る。火星に跟從するは、禮制に靠って勝を取る。土星に跟從するは、威重に靠って勝を取る(謂う所の「重」は、就ち是れ威嚴莊重を以て人を服す)。金星に跟從するは、兵力に靠って勝を取る。水星に跟從するは、法度に靠って勝を取る。兩星會合すれば、「警立絕行」と叫作し、あの國家の境內境外皆兵を起さんを要し、百姓饑饉して、還って王公を改立せんを要す。四星會合すれば、「大蕩」と叫作す(大蕩就ち是れ蕩滌して一空す)、あの國家兵禍と喪亂と一齊に爆發せん。五星會合すれば、「易行」と叫作し、德有る人福慶を承受し、將に天下を統有して、太平を主持せん。五星の光體大なれば、主る所の事就ち能く成立せん。五星の光體小なれば、主る所の事就ち立起す能わず。

凡五星色皆圜白,為喪為兵;赤,為旱;青,為憂,為水;□黑,為多疾;黃,吉。五星皆角而赤,兵大起;黃,有爭地之役;角白,喪;角青,亦興兵;黑,潦。五星同色,天下偃兵,百姓安樂。夫太白主中國,而辰星主胡貉也。凡五星早出為盈,晚為縮。盈為客,縮為主人。五星盈,必有天應。五星入大將軍,興兵吉。五星犯畢,兵起。用兵之道,不能先備五星之休咎,是舉其師(一作兵)與敵也。

凡そ五星の星形渾圓にして色白なれば、喪事を主り兵事を主る。色赤なれば、旱災を主る。色青なれば、憂患を主り水災を主る。色黑なれば、疾病の流行を主る。色黄なれば、則ち吉なり。五星皆角芒を射出して赤色を呈せば、大擧して兵を起すを主る。角芒黄色を呈せば、土地を爭奪する戰役有るを主る。角芒白色を呈せば、喪事を主る。角芒青色を呈せば、もまた兵を興すを主る。角芒黑色を呈せば、大水を主る。五星の光色一致すれば、則ち天下兵を息め、百姓安樂せん。太白金星中原を主り、水星胡貉の等の北方部族を主る。凡そ五星の出現すること早きを「盈」と叫び、出現すること晚きを「縮」と叫ぶ。盈は客方を主り、縮は主方を主る。五星盈を走れば、必定に天象の應驗に來る有り。五星大將軍星に進入すれば、兵を興すを吉と爲す。五星畢宿を侵犯すれば、兵を起すを主る。兵を用うるの法則は、若し能く事先に五星の吉凶を掌握せざれば、那就ち自己の軍隊を白く徒らに敵人に送るに等し。

木星第一百五十一

木星者,東方之宿也,木之精也。所臨之地,必有(一作施)福祐。天子佈德,人君之象也。其下為太和之神,以逆行為不軌,為賊殃。其木星小則多病,大則喜(一作嘉)。以作之宿為有禮,有福。茍無禮,則無福。所見之分野,不依位而見,其色光芒動搖,謂之怒。此則無禮也,故有殃。其精所居之地,或為婦人或為近臣,揚其殃禍,亂其人民,歌謠異語,興動盛衰。

木星是れ東方の星宿にして、木氣の精華なり。それの照臨する所の地方は、必定に福佑の降下する有らん。それ天子の德澤を廣布するを象徵し、是れ人君の象なり。それ下に「太和」の神に應じ、一旦逆行すれば、便ち是れ常軌を循らず、賊害災殃を主る。木星の光體小なれば則ち疾病多く、光體大なれば則ち喜慶有り。それ安然として應值する宿次上に運行すれば、就ち是れ禮有り。禮有れば便ち福有り。若し禮を失えば、就ち福無し。それの出現する分野若し本位に依らず、星色光芒搖動不定なれば、これを「怒」と叫作す。就ち是れ禮無きなり。ゆえに災殃有り。木星の精氣の居する所の地方は、ある時は化して婦人と爲し、ある時は化して近臣と爲し、その禍殃を散布し、あの裏の百姓を攪亂し、奇異の歌謠言語を出現し、一方の盛衰を引動す。

凡木星出,若非常之處,青黃之色勃勃然有光芒三角者,名曰攝提,亦名應星,亦名重華。若角邊見者名重華,久住有災,過則無災,兵喪應之。木星所臨之國不可伐,伐者受禍;可以徵(一作往)伐人。凡木星之行也,進舍為盈,退舍為縮。盈則其國有兵無傷,縮則其國有憂而將死軍敗。

凡そ木星の不尋常の位置に出現し、青黄の色を呈して蓬勃に光有りて三道の角芒を射出するは、名を「攝提」と曰い、もまた「應星」と叫び、もまた「重華」と叫ぶ。若し角芒の一側に偏りて出現するを重華と叫び、それ久留して去らざれば便ち災有り、一たび經過すれば就ち災無し。兵禍と喪事とそれと相應せん。木星の照臨する所の國家は討伐しに往く可からず。它を伐つに往かば反って禍を受けん。あの國家倒れって以て別人を征伐し往き得べし。凡そ木星の運行は、前進一舍を「盈」と叫び、後退一舍を「縮」と叫ぶ。盈を走れば、あの國家兵事有るも損傷を受けず。縮を走れば、あの國家憂患有りて、將領死し軍隊敗れんを要す。

設有所去焉,則失地;所到焉,則得地。亦曰:當居不居國亡,所居(一作到)之國昌。已居之而東西去者凶,不可舉事用兵,以安靜中度吉。凡木星守亢,則天下兵起。乘昴,陰國有憂,胡王死。入畢,邊兵起。犯及附耳,兵亦起。犯參伐,兵起。經柳,兵起。守軫,兵起。入五車,兵起。守羽林,兵起。犯參、旗,兵起。

木星若し某處を離開せば、あの裏就ち土地を失去せんを要す。若し某處に來到せば、あの裏就ち土地を得到する能わし。もまた說法有り、本當に停留すべきに卻って停留せざれば、あの國家亡びんを要す。それの停留する國家は則ち昌盛せん。已に停留し下りてまた東に向かいあるいは西に向かって離去すれば、凶を主り、事を興し兵を用うる可からず。安靜に常を守り行動度に合うを以て吉と爲す。凡そ木星亢宿に滞留せば、天下兵を起さん。昴宿を凌犯すれば、北方の陰國憂有るを主り、胡人の君王死せん。畢宿に進入すれば、邊境に兵を起すを主る。附耳星を侵犯すれば、もまた兵を起すを主る。參宿の伐星を侵犯すれば、兵を起すを主る。柳宿を經過すれば、兵を起すを主る。軫宿に滞留せば、兵を起すを主る。五車星に進入すれば、兵を起すを主る。羽林の諸星に滞留せば、兵を起すを主る。參宿と旗星とを侵犯せば、兵を起すを主る。

火星第一百五十二

火星者,南方之宿,火之精也,為執法之星,歲一周天。其形焰,其行速,與諸星遲逆不同。所臨之地,主兵饑喪亂,妖孽。常以十月入紫微宮受制,取無道之國,出入常以勾芒為凶。一云,東西南北無有常定,其位下為風伯神,一名罰。罰者,其形類留彗,勃勃赤焰如火,見於分野有憂,國人饑亂,父不父,子不子,甲兵起,征伐不息。

火星是れ南方の星宿にして、火氣の精華にして、是れ刑法を執掌する星にして、一年に天を繞りて一周す。それ形は焰の如く色、運行迅速にして、其餘の諸星の遲緩逆行と大いに相同じからず。それの照臨する所の地方は、兵禍・饑荒・喪亂と妖異の事とを預示す。それ常在十月に於て紫微宮に進入して天命の節制を受け、無道の國を取りに往く。出入の際常に「勾芒」を以て相值するを凶と爲す。另一説、それ東西南北に固定の位次無く、下に「風伯」の神に應じ、又「罰」と名づく。謂う所の罰星は、形狀滞留して去らざる彗星の如く、赤焰蓬勃して火の如く、何れの分野に出現するや、あの裏就ち憂患有り。國人饑餓動亂し、父父と爲さず子子と爲さず、甲兵興起して、征伐止まず。

其精在無道之國,化為童兒,著赤衣在於釐(一作蘆)裡,教為歌謠,使國人相惑;或為異鳥,飛入軍營。皆有災異。此星者,五星中最為妖惡,災異甚於諸星。或逆行一舍、二舍,為不祥。居之三月,所臨之分國有災。五月受兵,七月國叛亡地,九月大敗亡。

火星の精氣無道の國に落れば、化して小孩と成り、紅衣を穿著して里巷の中に待在し、人に教えて歌謠を傳唱せしめ、國人をして彼此迷惑せしむ。ある時は化して怪鳥と成り、軍營に飛進す。此れら皆是れ災異の兆なり。此の星五星の中に於て最も妖惡にして、帶來する所の災異其餘の諸星に比べて皆厲害なり。それある時逆行一舍・兩舍するは、皆是れ不祥の象なり。それ某處に三箇月停留すれば、照臨する所のあの片の分野就ち災有り。五箇月停留すれば、あの裏兵禍に遭うを要す。七箇月なれば、國中叛亂し土地を失去す。九箇月なれば、就ち大敗滅亡せんを要す。

且夫火星之精氣也,為亂,為賊,為饑,為喪,為兵,所居之國受殃。角而動者繞環之,及乍前乍後,乍左乍右者,災愈甚。若火星臨敵,我利之,可以力攻之;臨我則勿妄動。熒惑出則有大兵,入則兵散。周旋止散,乃為死喪寇盜也。臨其地則亡地,以戰則不勝。東行疾則兵聚於東方,西行疾則兵聚於西方,其南為丈夫喪,其北為女子喪。

再び火星の精氣を説くに、動亂を主り、賊寇を主り、饑荒を主り、喪亡を主り、兵事を主る。それの停留する所の國家災殃を受くるを要す。若し它角芒を射出して搖動し、某處を繞りて環行し、あるいは忽前忽後・忽左忽右すれば、災禍就ち更加嚴重ならん。若し火星敵方に臨照せば、我に對して利し、全力を以て進攻し得べし。若し我方に臨照せば、就ち輕擧妄動するなかれ。熒惑出現すれば大兵有るを主り、隱沒すれば則ち兵衆散去せん。それの盤旋・停留・散去の間は、死喪と寇盜とを主る。それ何れの裏に臨照するや、何れの裏か就ち地を失うを要す。それの臨む所の時を以て打仗を打ちに往かば、取勝する能わず。それ東に向かって行くこと快ければ、兵力就ち東方に聚集す。西に向かって行くこと快ければ、兵力就ち西方に聚集す。南に偏れば男子の喪有るを主り、北に偏れば女子の喪有るを主る。

火星,天子理也。故曰雖有明天子,必視火星所在。凡鶉火之時,宜背午地。他皆仿此。火犯土、木,主大戰。金星搏之,亡偏將。火環金星,偏將死。與金星相違而鬥,破軍殺將。入金中土出者,破軍殺將,客勝。火出所在,不利先起。犯左右角及守亢,兵起。入房,馬貴。入糠,兵起。犯南斗星,破軍殺將。

火星は、是れ天子の以て天下を治理するに據る星なり。ゆえに説く、縱い聖明の天子有るも、もまた必定に火星の何れの位置に在るかを看るを要す。凡そ鶉火の次の時節に在れば、南方の午位を背對して事を行うに宜しく、其餘の情形皆此に照らして類推せよ。火星土星・木星を侵犯すれば、大戰有るを主る。金星それと相搏すれば、偏將を折損するを主る。火星金星を環繞せば、偏將死せん。金星と相背して鬥えば、軍を破り將を殺すを主る。火星金星の中に進入して土星のあの邊より出來れば、もまた軍を破り將を殺すを主り、客方取勝す。火星の出現する方位は、先に手を動かすに利あらず。角宿の左右の兩星を侵犯しおよび亢宿に滞留せば、兵を起すを主る。房宿に進入すれば、馬匹昂貴を主る。糠星に進入すれば、兵を起すを主る。南斗の諸星を侵犯せば、軍を破り將を殺すを主る。

火入女及入危,兵起。守昴,胡人不寧,匈奴破在三年。犯畢左角,大戰;右角,小戰。犯附耳及角,兵起。犯參,兵起。犯東井一星,將軍野戰死。犯鬼,兵起。守七星,有外兵起。火乘張及與張合,兵大凶。守張合,大將驚。犯翼,邊兵起。入軫,兵起。火行河南界,邊兵起。犯大微宮門之右,大將亡;左,小將亡。

火星婺女宿および危宿に進入すれば、兵を起すを主る。昴宿に滞留せば、胡人の安寧を得ざるを主り、匈奴將に三年の內に擊破せられん。畢宿の左角を侵犯せば、大戰を主る。右角を侵犯せば、小戰を主る。附耳星および角宿を侵犯せば、兵を起すを主る。參宿を侵犯せば、兵を起すを主る。東井の一顆星を侵犯せば、將軍の野に戰死するを主る。輿鬼宿を侵犯せば、兵を起すを主る。七星宿に滞留せば、外來の兵事有るを主る。火星張宿を凌乘しあるいは張宿と會合せば、兵事の大凶を主る。張宿に滞留して倂べてそれと相合せば、將驚を受くるを主る。翼宿を侵犯せば、邊境に兵を起すを主る。軫宿に進入すれば、兵を起すを主る。火星銀河以南の界域を行經せば、邊境に兵を起すを主る。太微宮門の右側を侵犯せば、將死せんを主る。左側を侵犯せば、則ち偏裨小將死せん。

金星第一百五十三

金星者,西方之宿,金之精也。歲行分方,主義,主將策,主奸謀,主誅伐,將軍之象也。其精下為風伯、雨師,所在之宿,止其分野。其芒色搖動,可以隨形見災,以出入不時為凶。其星日不依狀,若沒色大(一作木)甚光(一作火)。大者,表帝王之德正也。若合伏不伏,合見不見,不以常道者,此主君之失政臣下用權之兆也。

金星是れ西方の星宿にして、是れ五行の中金氣の精華なり。それ每年方位を按じて區分して運行し、人事上に於て「義」此の德目に對應し、また主將の謀劃・奸邪の圖謀と征討誅殺とを主管し、是れ將軍の象徵なり。それの精氣人間に降れば就ち化して風伯・雨師の二神と爲る。それ何れの一宿に停駐するや、應驗の範圍就ちあの一宿の管轄する分野に限定せらる。それ光芒の顏色若し閃爍搖動せば、就ち呈現する所の形狀に隨って相應の災異を顯出せん。出没常規の時節に合せざれば、便ち是れ凶兆なり。此の星若し日常の運行常態に合せず、比如隱沒する時光色格外に盛大明亮を顯するは、謂う所の「大」は、是れ帝王の德行端正を表示す。若し它太陽と相合して伏沒すべきに卻って伏沒せず、顯現すべきに卻って顯現せず、常規の軌道に依らずして運行すれば、これ就ち是れ君主の政令失當・臣下の擅權する征兆なり。

或見非常之處,芒角七鋒,色多似赤者,名曰七公,亦曰殷公,亦名太公(一作心),表帝王革政大喪之兆也。或出東方,不依伏沒,其精名啟明,亦名天相,乃在左右大臣不赴(一作附)君心也,萬姓蒼皇(一作黃),流移異國,兵革伏起。其星凡(一作九)鋒色白暈,其精伏於昴酉四十五日。若依位而見,則災消,名更。見於非常,其名大囂,亦曰大澤,亦曰爽星。

金星若し出現すべからざる位置に出現し、光芒七道の尖鋒を射出し、顏色多く赤に偏るは、此の種の星象を「七公」と叫び、もまた「殷公」と叫び、又「太公」と叫ぶ(「公」は一本に「心」と作る)。是れ帝王の政令を變更し國に大喪有るの預兆なり。若し它東方に出現して常規に按じて伏沒せざれば、此の時それの精光を「啟明」と叫び、もまた「天相」と叫び、君主の身邊の大臣の君主と一條心と爲る能わざるを意味し(「赴」は一本に「附」と作る)、百姓惶恐安んぜず(「蒼皇」は一本に「蒼黃」と作る)、別國に流亡遷徙して、兵禍潛伏して起らん。此の星共に七道の鋒芒を射出し(「凡」は一本に「九」と作る)色白にして光暈を帶ぶる時、それの精光昴宿・酉位に伏藏して四十五天に達せん。若し它本位に按じて顯現すれば、災禍就ち消解して、名號もまた之に隨って更換せん。若し反常の位置に顯現せば、就ち「大囂」と叫び、もまた「大澤」と叫び、又「爽星」と叫ぶ。

芒角所臨之國,其大災有七:一曰大水,二曰大火,三曰亡散,四曰兵聚,五曰大兵,六曰大饑,七曰諸侯死境、蟲獸食人、天下大亂。日南方,金星居其北者曰盈,王侯不寧,用兵進吉退凶;日北方,金星居其南者曰縮,王侯有憂,用兵退吉進凶。當出不出,當入不入為失舍,不有破軍必有死亡之兆。

金星の芒角の照臨する所の分野の國は、七種の大災有らん。一は水災、二は火災、三は人口逃亡離散、四は兵馬聚集、五是大規模の戰事、六是大饑荒、七は諸侯の封境に死し蟲獸の人を傷つけ人を食らい、天下大亂なり。太陽南方に在りて金星太陽の北に位すれば、「盈」と叫作し、王侯の安寧を得ざるを主り、兵を用うる時進擊吉利にして退兵凶險なり。太陽北方に在りて金星太陽の南に位すれば、「縮」と叫作し、王侯の憂患有るを主り、兵を用うる時退守吉利にして進擊凶險なり。出現すべきに出現せず隱入すべきに隱入せざれば、「失舍」と叫作し、是れ軍隊の擊破せらるる有らざれば、就一定に死亡の凶兆有らん。

一曰:天下偃兵,野有兵者,所當之國大凶。當出不出,未當入而入,天下偃兵,兵在外則入。未當入而入,未當出而出,天下舉兵,所當之國亡。當期(一作斯)而出,其國昌。出青(一作東)為東方,入黑為北方,出白為西方,入赤為南方。所居久,其國利。疾過,其鄉凶。

另一種の説法は、天下本已に兵を用うるを停止したるに、野外卻って仍ほ軍隊の聚集有れば、金星の對應する所のあの分野の國就ち大凶なり。金星出現すべきに卻って出現せず隱入すべからざるに卻って隱入せば、天下就ち應に兵戈を止息して、外に在る軍隊應當に撤回すべし。隱入すべからざるに卻って隱入し出現すべからざるに卻って出現せば、天下就ち大擧に兵を興さんを要し、金星の對應する所のあの國家將に滅亡せん。若し期に按じて出現すれば(「期」は一本に「斯」と作る)、あの國家就ち昌盛せん。出現する時青色を呈すれば(「青」は一本に「東」と作る)東方に應じ、隱沒する時黑色を呈すれば北方に應じ、出現する時白色を呈すれば西方に應じ、隱沒する時赤色を呈すれば南方に應ず。それ某宿に停留すること久しければ、あの一分野の國利し。急速に掠過せば、あの一地方就ち凶なり。

入七日而後復出,將軍戰死。入十日而後復出,相死。入又復出,王者惡之。已出三日而復微(一作沒沒),入三日而乃復盛出,是謂耎(一作央)伏,其下國有軍將死。已入三日又復微出,三日乃復盛入,其下國有憂師。師雖眾,敵食其糧,用其兵,虜其帥。

金星隱入七天して重新に出現すれば、將軍の戰死を主る。隱入十天して重新に出現すれば、宰相の死亡を主る。剛に隱入して又重新に出現すれば、君王此の種の星象を厭惡す。已に出現三天して又轉じて微暗と爲り(「微」は一本に「沒沒」と作る)、伏藏三天して後再度明亮に升起するは、これを「耎伏」と叫ぶ(「耎」は一本に「央」と作る)、あの一分野の國に將領の軍中に死する有るを主る。已に隱入三天して又微微に露出し、三天を過りて纔かに重新に盛大に隱入すれば、あの一分野の國の軍隊の憂患有るを主る。兵員雖も多しと雖も、糧草卻って敵人に奪食せられ、兵器敵人に取用せられ、主帥敵人に俘虜せられん。

出西方失行,夷狄兵敗;出東方失行,中國兵敗。一曰:出早為月食,出晚為天矢為彗星,將發於無道之國。金星出而留桑榆間,病其下國(行遲而下也,正出舉目,平正出桑榆上,餘二千里焉)。上而疾,未盡期日過參天,病其對國。分天為三,在戌酉過其一也。

金星西方に出現して運行度を失えば、夷狄の軍隊の敗北を主る。東方に出現して運行度を失えば、中原の軍隊の敗北を主る。另一種の説法は、出現する過早は應驗して月食と爲し、出現する過晚は化作して「天矢」・彗星の一類の妖星と爲り、災禍將に無道の國に發生せん。金星升起して後桑樹・榆樹の梢の如き低き高度に停留すれば、それの臨む分野の國の禍患有るを主る(此是れ運行遲緩にして位置低きに偏るの緣故なり。正に它の升起する時に當りて眼を抬げて平視せば、星恰も桑榆の樹梢の上に在り、その地相距ること約二千里なり)。若し它升ること高くして運行迅速にして、還だ應有の日數を走完せずして已に天空の三分之一を越過せば、禍患就ちそれと相對するあの國家に應ずべし。天空を三份に分作し、星戌位・酉位に在れば就ち其の中の一份を越過したるなり。

金星經天,天下革主。日,陽也;金星,陰星也。日出則星亡。晝見於午,上於經天,是謂亂紀。金星晝與日爭明,強國弱,女主昌。金星者,兵象也。出而高,用兵吉;淺,凶。金星庳淺,吉;深,凶。行疾,用兵疾,吉;遲,凶。行遲,用兵遲,吉;疾,凶。有芒角,敢戰,吉;不敢戰,凶。擊角所指,吉;逆,凶。進退左右,用兵進退左右,吉;靜,凶。圜以靜,用兵靜吉;躁,凶。金星出則兵出,入則兵入。順之吉,反之凶。赤角,有戰。

金星白晝天空を橫過すれば、天下の君主を改換するを主る。太陽陽に屬し、金星是れ陰星にして、太陽一たび出でれば、星光就ち隱沒す。金星白天正南の午位に出現し、高懸して天空を橫過するを、これを「亂紀」と叫ぶ。金星白天太陽と光を爭えば、强國の弱に轉じ女主の權を當て勢を得るを主る。金星是れ戰事の象徵なり。それ升起して位置高ければ、兵を用うるに吉利し。位置淺低なれば、兵を用うるに凶險なり。金星低伏して淺ければ、吉。沈沒すること深ければ、凶。それ運行迅速なれば、兵を用うるもまた速戰に宜しく、吉。遲緩なれば則ち凶。それ運行遲緩なれば、兵を用うるもまた緩圖に宜しく、吉。急進すれば則ち凶。它芒角有れば、就ち敢て交戰し、吉。戰うを敢てせざれば則ち凶。芒角の指す所の方向に順って攻擊すれば、吉。方向に逆らいて攻擊すれば、凶。它進退左右の間に移動すれば、兵を用うるもまた之に隨って進退左右し、吉。兵を按じて動かざれば則ち凶。它星體渾圓にして安定なれば、兵を用うるもまた靜守に宜しく、吉。躁動すれば則ち凶。金星出現すれば就ち兵を出だし、金星隱入すれば就ち兵を收め、それに順應すれば就ち吉、それに違背すれば就ち凶。芒角赤色を呈せば、戰事有るを主る。

金星者,猶軍也;而熒惑,憂也。故火星從金星,軍憂;離之,軍舒。出金星之陰,有分軍;出金星之陽,有偏將之戰當其行。金星還之,破軍殺將也。辰星者,殺伐之氣,戰鬥之象也。與金星俱出東方,皆赤而角,夷狄敗,中國勝。與金星俱出西方,皆赤而角,中國敗,夷狄勝。五星分天之中,積於東方,中國大;積於西方,夷狄用兵者利。辰星不出則金星為客,辰星出則金星為主。辰星與金星不相從,雖有軍不戰。若辰星出東方金星出西方,辰星出西方金星出東方為格,野雖有兵不戰。

金星軍隊の如く、而して熒惑(火星)憂患を主る。ゆえに火星金星に跟隨すれば、軍隊就ち憂患有り。火星金星を離開すれば、軍隊就ち寬舒を得以てす。火星金星の陰面(北側)に出現すれば、兵を分かつを主る。金星の陽面(南側)に出現すれば、偏將の將に火星の運行の當る所の處に戰鬥發生せんを主る。金星頭を回らして火星に逼近すれば、就ち是れ軍を破り將を殺すの象なり。辰星(水星)是れ肅殺征伐の氣にして、是れ戰鬥の象徵なり。它金星と一同に東方に出現して、皆色赤にして芒角有れば、夷狄敗れ中原勝つを主る。一同に西方に出現して、皆色赤にして芒角有れば、中原敗れ夷狄勝つを主る。五星天空の中に分布して、東方に聚集すれば、中原强大なり。西方に聚集すれば、夷狄兵を用うるに利し。辰星出現せざれば、金星就ち「客」の位に處す。辰星出現すれば、金星就ち「主」の位に處す。辰星と金星と互いに相隨わざれば、縱い軍隊有るも交戰せざらん。若し辰星東方に出でて金星西方に出で、あるいは辰星西方に出でて金星東方に出でば、これを「格」と叫ぶ。野外雖も軍隊の對峙有るも交戰せざらん。

辰星入金中五日乃出,及入而上出者,破軍殺將,客勝;下出者,客亡地。辰星抵金不去者,將死軍敗。正其上出,破軍殺將,客勝;下出,客亡地。視其所指,以名破軍。水星繞環金星若鬥,大戰,客勝,主人吏士死。水星與金鬥,可咸劍(咸劍者,其間可容一劍也),小戰,客勝。居金星前,三日軍罷。出金星左,小戰。歷金星右,數萬人戰,主人吏士死。出金右去三尺許,軍急約戰。

辰星金星の光芒の中に進入し、五天を過りて纔かに出來す。若し進入して後金星の上方より出來れば、軍を破り將を殺すを主り、客軍獲勝す。下方より出來れば、客軍の土地を喪失するを主る。辰星金星に抵住して去るを肯ぜざれば、將領の死亡・軍隊の敗北を主る。正に金星の上方より出來れば、軍を破り將を殺し、客軍勝つ。下方より出來れば、客軍地を失う。それの芒角の指す所の方位を看るを要し、此に據って何れの一方の軍隊の擊破せらるるかを判定せよ。水星金星を環繞してそれと相鬥するが像是れば、大戰有るを主り、客軍勝ち、主軍の官吏士卒死傷せん。水星と金星と相鬥して「咸劍」の數に相距れば(謂う所の「咸劍」は、是れ兩星の間一把の劍の寬度を容下し得べしと説く)、小戰を主り、客軍勝つ。水星金星の前に處れば、三天內軍隊兵を罷む。金星の左側に出現すれば、小戰を主る。金星の右側を經過せば、數萬人の大戰を主り、主軍の官吏士卒死傷せん。金星の右側約三尺の處に出現すれば、兩軍の急迫して期を約して決戰するを主る。

凡金星所出、所直之辰,其國為得位,得位者戰勝。所直之辰,順其色而角者勝,其色害者敗,隨地而敗向也(鄭色黃而未蒼小敗,宋色黃而赤黑者小敗,楚色赤黑小敗,燕色黑黃小敗,移卻則勝之)。金星白,比狼;赤,比心;黃,比參;右肩青,左肩黑,比奎。大星色勝位、行勝色(大白行得其度,則勝色也),行其度盡,勝之。

凡そ金星の升起する時正對する所の辰位は、あの一分野の國就ち「得位」と叫ばれ、得位の一方作戰して獲勝す。正對する所の辰位に就いて言えば、星色あの地と相順してまた芒角有れば、就ち獲勝す。星色あの地と相克すれば、就ち戰敗して、敗勢地域方位に隨って以て定まる(鄭地本色黄にして星色蒼青なれば、小敗を爲す。宋地本色黄にして星色赤黑なれば、小敗を爲す。楚地星色赤黑なれば、小敗を爲す。燕地星色黑黄なれば、小敗を爲す。星色若し移り開けば、就ち能く敗を反して勝と爲す)。金星色白なれば、天狼星に比照し得べし。色赤なれば、心宿に比照す。色黄なれば、參宿に比照す。右肩青・左肩黑なれば、奎宿に比照す。占斷の時、大星は顏色を以て方位に勝り運行を以て顏色に勝つ(太白運行法度に合乎すれば、就ち星色の吉凶に壓過す)。應行の度數を走完すれば、就ち運行を以て準と爲す。

凡金星與月相夾,有兵,拔城,偏將戰。與月俱出,守城者敗。與列宿相犯,小戰。與五星相犯,大戰。金星在南,南軍勝;在北,北軍勝;出東方,背之吉,逆之凶。西、南亦如之。金星守南斗,三十日夷狄來侵。入羽林,兵起。食昴及食畢,胡王死。金星之光暗,戰敗將死。金星變色,隨方色戰,吉。若青則東克,餘亦如之。入月,客兵敗將死。色白而角,可與戰。

凡そ金星と月亮と相夾みて竝列すれば、戰事有るを主り、城池の攻下せらるる有るを主り、偏將の出戰を主る。金星と月亮と同時に升起すれば、城を守る一方の失敗を主る。金星二十八宿の中の星宿を侵犯すれば、小戰を主る。其餘の諸星を侵犯すれば、大戰を主る。金星南に在れば、南面の軍隊勝つ。北に在れば、北面の軍隊勝つ。它東方に出現すれば、それを背對して作戰すれば吉利にして、それを迎えて作戰すれば凶險なり。西方・南方に出現するもまた此に照らして類推せよ。金星南斗宿に停留せば、三十天內夷狄の侵擾に來る有らん。羽林星に進入すれば、兵を興すを主る。昴宿を掩食しあるいは畢宿を掩食すれば、胡人の君王の死亡を主る。金星の光色晦暗なれば、戰敗・將領死亡を主る。金星顏色を變換すれば、就ち相應の方位の顏色に順って出戰せば、吉利なり。比如色青なれば就ち東に向かい勝を取るに宜しく、其餘の方位此に依って類推せよ。金星月中に進入すれば、客軍の戰敗・將領死亡を主る。星色白にして芒角有れば、敵と交戰し得べし。

金星之出也,初大後小,兵弱;初小後大,兵強。金星與木星一東一西,害王侯;一南一北,刀兵伏藏。犯畢左角,左將死;右角,大戰,將死。陵房色赤,兵起。勾己,大戰,不勝,將誅。金星出入而留守於尾,兵起於野,將士滿道。入南斗,將戰死。犯河鼓,敗軍殺將。犯牽牛,將失眾,守兵作。犯房(一作危),亦兵起。入室,暴兵滿道,將死。犯東壁,大兵起。

金星升起する時先に大にして後に小なれば、軍力衰弱を主る。先に小にして後に大なれば、軍力强盛を主る。金星と木星と一東一西に兩邊に分處すれば、王侯を危害するを主る。一南一北なれば、刀兵暗藏して戰禍潛伏するを主る。金星畢宿の左角を侵犯せば、左路の將領の死を主る。右角を侵犯せば、大戰有るを主り將領死す。金星房宿を凌犯して色赤なれば、兵を興すを主る。星體屈曲して「勾己」の形如れば、大戰有るも取勝する能わず將領誅せらるるを主る。金星出没の際尾宿に停留せば、野外に兵を興し將士道路に擠滿するを主る。南斗宿に進入すれば、將領の戰死を主る。河鼓星を侵犯せば、軍隊の潰敗・將領の殺せらるるを主る。牽牛星を侵犯せば、將領の部衆を失去し戍守の兵の亂を作すを主る。房宿を侵犯せば(「房」は一本に「危」と作る)、もまた兵を興すを主る。室宿に進入すれば、亂兵道路に擠滿し將領死亡を主る。東壁宿を侵犯せば、大規模に兵を興すを主る。

守奎,外國兵入犯塞。守婁,征無功。守胃,兵起,胡王死,四夷多憂驚。犯畢,邊兵欲毀。入畢口,馬貴,軍傷。犯觜,兵起。犯參,邊兵起,左右廂大將憂。犯參、伐,兵起。犯井,將軍惡之。入井,兵起。犯輿鬼,兵起。入柳,兵起,益地。守柳,大將死。犯星,大將入塞。入翼,天下兵起。犯軫,其國兵大起。

金星奎宿に停留せば、外國軍隊の邊塞を入侵するを主る。婁宿に停留せば、出征功無きを主る。胃宿に停留せば、兵を興し胡人君王の死亡・四方夷狄の多く憂懼驚擾するを主る。畢宿を侵犯せば、邊防軍隊の將に摧毀せられんを主る。畢宿の口中に進入すれば、馬價の騰貴・軍隊の受損を主る。觜宿を侵犯せば、兵を興すを主る。參宿を侵犯せば、邊地に兵を興し左右兩厢の大將の憂患有るを主る。參宿と伐星とを侵犯せば、兵を興すを主る。井宿を侵犯せば、將軍此の種の星象を厭惡す。井宿に進入すれば、兵を興すを主る。輿鬼宿を侵犯せば、兵を興すを主る。柳宿に進入すれば、兵を興して疆土を拓展するを主る。柳宿に停留せば、大將の死亡を主る。七星宿を侵犯せば、大將の邊塞に退入するを主る。翼宿に進入すれば、天下に兵を興すを主る。軫宿を侵犯せば、あの一分野の國の大擧して兵を興すを主る。

水星第一百五十四

水星者,北方之宿,水之精也。出於仲月,天下和平。若仲月不見,則災變生,大饑,陰陽錯亂,國家傾危,冬溫夏涼,害人傷物。主制五刑,偏將軍之象也。其精下為先農之神,以不效為凶。一名紐(一作丑)極。

水星是れ北方の星宿にして、是れ五行の中水氣の精華なり。它仲月(二月・五月・八月・十一月)に出現すれば、天下就ち太平和順なり。若し仲月に它を見る能わざれば、就ち災變を生出せん。大饑荒・陰陽錯亂・國家傾危・冬天反って暖に夏天反って凉にして、人畜萬物を傷害せん。它人事上に於て五種の刑罰を主掌し、是れ偏將軍の象徵なり。它の精氣人間に降れば就ち是れ先農の神にして、期に按じて應驗する能わざるを以て凶と爲す。它又「紐極」と名づく(「紐」は一本に「醜」と作る)。

變色出己所見不常之處,其光青白輝輝然者,此帝王之為德及(一作正)也。如此星見,多夜雨晝晴者,臣下用陰謀其上也。至於偏裨地,皆放此。其星若不見四仲見於四孟之月者,其神明名勾星。光芒勃勃然如片雲,大如景星燦爛,九月所見,分野人多流亡,疊相嚙食,白衣聚會,兵起,吞並九州,十年大荒。其變如此,審詳候之。

水星顏色を變換し、自己の平常出現すべからざる位置に出現して、而して光色青白にして閃耀するは、此是れ帝王の德行天下に普及するの征象なり(「及」は一本に「正」と作る)。此の星出現する時、若し多く是れ夜裏雨を下し白天放晴なれば、那是れ臣下の暗中に君上を算計するなり。偏將・副將の一級の應驗に至っても、もまた皆此に照らして類推せよ。此の星若し四仲の月に出現せず、反って四孟の月(正月・四月・七月・十月)に出現せば、它の神明就ち「勾星」と叫ぶ。光芒勃發して一片の浮雲の如く、碩大燦爛として景星の如く、若し九月に出現せば、あの一分野の人口の大量に流亡し、人々相殘食し、喪服を穿る白衣の人聚集し、兵禍興起して、九州を吞倂し、十年大荒を主る。星此の地步に變すれば、必ず仔細に觀測詳審するを要す。

其久而不沒,光聚兩角,變彗勃勃然者,象海鯨魚死,易王迎新之象。其神又名爨星,芒急輝輝然,其芒角五鋒狀如勵劍,形於萬物者也。早為月食,晚為彗星。一時不出,其時不和;四時不出,天下大饑。失其時而出(一作為),當寒反溫,當溫反寒。當出不出,是謂(一作以)擊,卒兵大起也。與他星遇而鬥,天下大亂。

水星長久に隱沒せず、光芒聚りて兩角を成し、變じて彗星の一樣に勃勃として發散するは、此れ海の中の鯨魚の死去するを象徵し、是れ君王を更換し新主を迎立するの星象なり。它の神又「爨星」と名づき、芒角急促にして閃耀し、五道の鋒刃を射出し、形狀磨礪し過る利劍の如く、萬物上に於て對應の形迹を顯出せん。它出現する過早は、應驗して月食と爲す。出現する過晚は、應驗して彗星と爲す。一季出現せざれば、あの一季氣候就ち和を失わん。四季皆出現せざれば、天下大饑荒なり。正常の時令を失去して出現すれば(「出」は一本に「爲」と作る)、冷すべき時に反って溫暖にして、暖すべき時に反って寒冷なり。出現すべきに卻って出現せざれば、これを「擊」と叫作す(「謂」は一本に「以」と作る)、突然大擧に兵を興すを主る。它別の星と相遇して爭鬥せば、天下大亂を主る。

凡水星入月,主敗兵。與金星合而出,破軍殺將,客勝。視旗所指,以命破軍。環金星,大戰,客勝。守房,胡敗。守婁,兵起。犯畢,夷傷主人,客勝。出昴北,胡主死。守畢、昴,邊兵起。守參、伐南,胡人入塞。入井,則兵進;出井,則兵退。犯鬼,兵起。入婁,兵起。守柳,牛馬貴。守張,兵起。入翼,兵大起。犯五車,兵起。留心,兵起四方。

凡そ水星月中に進入すれば、軍隊の敗北を預示す。它金星と相合同出すれば、軍を破り將を殺すを主り、客軍獲勝す。旗星の指す所の方向を看るを要し、此に據って何れの一方の軍隊の擊破せらるるかを判定せよ。它金星を環繞せば、大戰有るを主り、客軍勝つ。房宿に停留せば、胡人の敗を主る。婁宿に停留せば、兵を興すを主る。畢宿を侵犯せば、夷狄の主軍を傷害するを主り、客軍勝つ。昴宿の北に出現すれば、胡人君主の死亡を主る。畢宿・昴宿に停留せば、邊地に兵を興すを主る。參宿・伐星の南に停留せば、胡人の邊塞を入侵するを主る。井宿に進入すれば、就ち兵を進むべし。井宿を離開すれば、就ち兵を退くべし。鬼宿を侵犯せば、兵を興すを主る。婁宿に進入すれば、兵を興すを主る。柳宿に停留せば、牛馬の價貴を主る。張宿に停留せば、兵を興すを主る。翼宿に進入すれば、大擧して兵を興すを主る。五車星を侵犯せば、兵を興すを主る。心宿に滞留せば、四方に兵を興すを主る。

土星第一百五十五

土星者,中央之宿,土之精也。若見於四季,表主之盛衰也。其神隱於大微,或下於人間,為妖異,為艷女起亂,亡破國家,為妖言惑亂人心;或為近臣,間鬥忠良。若其星光潤鮮明,見井、鬼之間,伏沒依常道,則正道不失;不依常道,則三綱錯亂。夫此星之色本黃而光明獨鋒在上,如火焚(一作炎)之狀,四面象光細而附上毳然,即土星之本體。

土星是れ中央の星宿にして、是れ五行の中土氣の精華なり。它若し四季の月(三月・六月・九月・十二月)に出現せば、就ち君主の國運の盛衰を昭示す。它の神靈太微垣の中に隱藏し、ある時人間に降りて妖を興し怪を作す。艷麗の女子と化して禍亂を挑起し、國家をして覆亡破敗せしむ。妖言を散布して人心を迷惑攪亂す。あるいは化して君主の近臣と作り、忠良を離間構陷す。此の星若し光色溫潤鮮明にして、井宿と鬼宿との間に出現し、伏沒顯現皆常道に合乎すれば、那麼正道就ち喪失せざらん。若し常道に合せざれば、君臣・父子・夫婦の三綱就ち錯亂せん。此の星の本色是れ黄色にして、而して光明單獨一道の鋒芒上に向かい、火焰の燃燒する樣子の如く(「焚」は一本に「炎」と作る)、四面の光象細微にして上に向かって附着し、柔軟にして細毛の如く、這就ち是れ土星の本來の形體なり。

土星所居國,吉。未當居而居之,若已去而復還,居之國得土地。當居不居,既已居之又東西去之,國失土。居其宿久則福(一作禍)厚,居其宿易則福薄。當居不居為失鎮,其下國可伐,得者不可伐。其盈為王不寧,縮有軍不復。一曰:既已居之,又東西去之,其國凶,兵將亂,不可舉事用兵。失次二舍、三舍,有王命不成,不然將有大水。

土星の停留する所の分野の國吉利なり。它停留すべからざるに卻って停留し、あるいは已に離開して又返り回り來れば、它に停留せらるる國家土地を獲得する能わし。停留すべきに卻って停留せず、あるいは已に停留して了又東西方に向かって移り開けば、あの國家就ち土地を喪失せん。它某宿に停留する時間長ければ、福澤就ち深厚なり(「福」は一本に「禍」と作る)。停留時間短く變換すること快ければ、福澤就ち淺薄なり。停留すべきに卻って停留せざれば、「失鎭」と叫作し、それの對應する所の分野の國討伐し得べし。之に反して、它の鎭守を得到する國家は討伐する可からず。土星運行超前するを「盈」と叫び、君王の安寧を得ざるを主る。運行落後するを「縮」と叫び、出征の軍隊の返回する能わざるを主る。另一種の説法は、已に停留して了又東西方に向かって移り開けば、あの國家凶險にして、軍隊將に亂を作さんとし、事を擧げ兵を用うる可からず。若し次序を失去して兩宿・三宿なれば、帝王の詔命の成功する能わざるを主り、然らざれば就ち大水災有らん。

凡犯左角,大將戰死。守右角,兵起。守糠,兵大起。入天廟,兵大起。守虛,有客兵至,不過五日自去。守奎,入奎,有邊兵起。入婁亦如之。入胃,客兵敗,主兵不用。入昴,胡主死。入畢,臣下為亂。入觜,兵起逆行。守參,胡兵起。守井,越兵起。

凡そ土星角宿の左星を侵犯せば、大將の戰死を主る。角宿の右星に停留せば、兵を興すを主る。糠星に停留せば、大擧して兵を興すを主る。天廟星に進入すれば、大擧して兵を興すを主る。虛宿に停留せば、客軍の來犯する有るを主り、五天を過りずして自行に退去せん。奎宿に停留しあるいは奎宿に進入すれば、邊地に兵を興すを主る。婁宿に進入するもまた是の如し。胃宿に進入すれば、客軍の敗を主り、主軍動用するに必あらず。昴宿に進入すれば、胡人君主の死亡を主る。畢宿に進入すれば、臣下の亂を作すを主る。觜宿に進入すれば、兵を興して而且行軍倒退するを主る。參宿に停留せば、胡兵興起を主る。井宿に停留せば、越地に兵を興すを主る。

入胃,舍七星,兵起,負海大饑。守張,多盜賊,興土工,兵起。入軫,兵發事自敗。入天庫,兵起。守河南界,蠻夷兵起。出東掖門,為將軍寶事。出西掖門,為將軍受事,西出受刑。

胃宿に進入し七星宿に居れば、兵を興すを主り、瀕海の一帶大饑荒なり。張宿に停留せば、盜賊衆多・大興して土木工役・兵を興すを主る。軫宿に進入すれば、兵を出だして事情自行に敗壞するを主る。天庫星に進入すれば、兵を興すを主る。黄河以南の分界處に停留せば、蠻夷の兵を興すを主る。太微垣の東掖門より出去すれば、將軍の賞を受くるの事有るを主る。西掖門より出去すれば、將軍の任命を領受するを主り、西邊より出れば則ち刑を受くるを主る。

分野統論第一百五十六

《易》曰:天垂象,聖人則之。又曰:仰以觀乎天文,俯以察乎地理。此皆前聖人洞吉凶興亡之道,然而天文、地理、兵象之要略,得不審而用之哉?行師之際,五星伏沒、遲順兩曜、盈虧薄食、飛流示變、孛彗為妖,既知之矣,必審必詳所居躔度焉。

《周易・繫辭上》説く、「上天象を垂示し、聖人それに法を取る」と。又説く、「頭を抬げて天文を觀察し、頭を低うして地理を審視す」と。此れら皆是れ前代聖人の吉凶興亡を洞察するの門徑なり。此の然るが如く然れば、天文・地理と兵家の星象の要領は、何ぞ能く仔細に考察したる後に再び運用を加えざるを得んや。行軍作戰の際、五星の伏藏隱沒・日月兩曜の遲行と順行・月相の盈虧と日月の薄蝕・流星飛墜の示す所の變異・孛星彗星の成す所の妖象は、此れら既に知曉すれば、就ち必ず審慎詳察してそれらの處する所の「躔度」を、就ち是れ星辰の天上に運行して經る所の度數なり。

其躔度既詳之矣,必審所管分野焉。茍如是,方可以精別災異,順其舉動而已矣。今臣輒上據天文,下推地理,以別十二分野。外以觀星辰之變,內以備山川之用,天地之間,燦然在目。其圖其狀,以示於來者焉。

躔度既に詳審せば、就ち必ず再びそれの管轄する所の「分野」を弄清せよ。就ち是れ天上の星宿と地上の州國と相對應する區劃なり。此の一步を做到して、纔か能く精確に災異を辨別し、天象に順應して自己の行動を決定するを得。如今臣許洞就ち上に天文に依り下に地理を推して、以て十二分野を劃分す。外に對して它を以て星辰の變化を觀察し、內に對して它を以て山川地形の運用を籌備すれば、天地の間の形勢便ち一目瞭然なり。臣關有る圖形と形狀とを繪錄して下りて、後來の人の參看に留め遺す。

雲氣統論第一百六十九

臣聞百人已上,勝敗之氣必具焉。是以順之者昌,逆之者亡。天地無言,吉凶以象占;雲氣有異,必契災變。占氣之時,觀氣之初出如甑上雲勃鬱上騰,氣積而為霧氣,陰氣結為虹霓、暈珥之屬;不積不結,散漫一方,不能為災。必須知雜殺氣森森然疾起者,乃可占。常以平明、下晡、日出沒時候之。其內有風雨為解者,不成災也。

臣聞く、凡そ百人以上の隊伍は、勝敗の氣就ち必定に具備す。ゆえにそれに順應するは就ち昌盛し、それに違逆するは就ち敗亡す。天地説話せず、吉凶は天象に靠って占測するを要す。雲氣異狀を出現せば、必定に災變と相應ず。雲氣を占望する時は、氣の剛に升起する樣子を看るを要す。蒸鍋上の水汽の蓬勃して上騰するが如同じく、氣積聚して起きて霧氣と爲り、陰氣凝結して虹霓・日暈・耳珥の類と成る。若し積聚せずもまた凝結せず、ただ是れ散漫して一方に在れば、就ち災を成す能わず。必ずあの種の殺氣を夾雜し森然として急速に升起するを辨認出だして、纔か以て占斷に據る可し。通常天剛に亮ける・傍晚の申時および日出日落の時候に於てそれを觀測す。若し氣の中に風雨有りてそれを化解開けば、就ち災を成さざらん。

若出軍之日,天氣漠漠,雲彩陰沉而寒者,必戰之象也。若晴陽蕩和,風雨不動者,不戰也。如或有青氣見君王相上者,大勝。青屈旋留註者,下流血。大霧五十日不散者,其境當有兵馬。霧色蒼黃者,亦有災變也。白雲如匹練經丑未者,兵之象也。或雲如人行,排列如陣,或壬子日四面無雲,獨見出雲如旌旗,皆兵象也。

若し兵を出だすあの天天色沉沉として、雲彩陰暗にして寒氣人に逼れば、此れ必定に交戰せんと要するの征象なり。若し晴朗和暖にして、風雨興らざれば、就ち開戰せざらん。倘若青氣有りて君王および輔相の對應する所の位次上に出現せば、大勝を主る。青氣屈曲盤旋して停留して下注するは、下方に流血の事有るを主る。大霧五十天散ぜざるは、あの一帶の地方將に兵馬の興動有らん。霧色蒼黄のも、もまた災變有らん。白雲一匹の白絹の如く丑位と未位とを橫貫するは、是れ兵事の征象なり。ある雲人の行走するが如く、排列して軍陣の如同じき有り。あるいは壬子日四面雲無く、唯獨一片の雲の升起して形如旌旗を見る有り。此れら皆是れ兵象なり。

或雲三道,如霧非霧,如塵非塵者,敵人發軍之徵,隨其起處防之。或白雲如匹布起於東方者,大兵起也,色赤者尤甚,青者大喪,黑者亦如之也。或黑雲三道,首尾銳而中裂者,其下將有大戰。或雲氣赤而其緣黃者,大臣專權之兆也,不早除之,將有大變。於軍上往來,則往者敗,來者勝。

ある雲三道に分作し、霧と説くも卻って霧に似ず、塵と説くも又塵に似ず。此是れ敵人の兵を發するの征兆にして、それの升起する方位に順って防備を加以するを要す。ある白雲一匹の布の如く東方より升起するは、大擧して兵を興すを主り、色赤の尤も嚴重にして、色青の大喪有るを主り、色黑のもまた是の如し。ある黑雲三道に分成し、首尾尖銳にして中間裂開するは、それの下方將に大戰有らんを主る。ある雲氣色赤にして邊緣黄を泛ぶは、此是れ大臣の權を專るの預兆にして、早く除かずば、將に大きな變故有らん。此の種の氣若し軍營の上空に於て往來すれば、去る一方失敗し、來る一方獲勝す。

或雲氣散如錦文者,當有赦書行天下。天下若無慶賀事,必見流血。或雲氣如虎頭者,暴亂之象也(象一作眾)。或雲氣如弩弓之狀者,天子之氣。或雲氣長數十百丈者,猛將之氣也。或雲氣無故如虎行雲中者,當暴兵至也。或雲如人字在空者,所發之處(一作地)必有人來告急,一人則氣一條。雲如方一紅者,暴兵至也。

ある雲氣散開して錦緞の花紋の如きは、將に赦免の詔書の天下に頒行する有るを主る。天下若し慶賀に值する事無ければ、就ち必定に血を見るを要す。ある雲氣形如虎頭のは、是れ暴亂の征象なり(「象」は一本に「眾」と作る)。ある雲氣形如弩弓のは、是れ天子の氣なり。ある雲氣長さ數十上百丈に達するは、是れ猛將の氣なり。ある雲氣故無く緣無く老虎の雲中に行走するが如きは、將に亂兵の到來有るを主る。ある雲「人」の字の如く空中に懸るは、它の出現する地方(「處」は一本に「地」と作る)必定に人の前來告急する有り、一箇人就ち一條の氣に對應す。雲一方の紅色の如きは、亂兵の到來を主る。

或望無雲,獨見赤氣如旦暮之霞,或見黑雲極天,或白雲如仙人衣,十萬聯結,部隊相逐,罷而復起,或白雲廣大七丈,東西極天,如此者皆起兵之象。或有黑雲如人持刀盾者,暴兵之氣也。如見之國,當嚴號令,肅士伍以備之。

ある時望去し雲無く、唯獨赤氣の早晚の霞光の如同じきを見、あるいは黑雲の天際に布滿するを見、あるいは白雲仙人の衣裳の如く十萬片連綴して一緒に成り、一隊隊互相に追逐し、散じて又重新に聚起るを見、あるいは白雲寬廣七丈にして東西天際を橫貫するを見る。此の樣の如きの是れ皆兵を起さんと要するの征象なり。ある黑雲人の手に刀と盾牌を持つの如きは、此是れ亂兵の氣なり。它何れの國家に出現するや、あの裏就ち應當に號令を嚴明にし行伍を整肅して以て防備を加以すべし。

雜雲氣第一百七十

凡占氣三四百里,平目望在桑榆上千餘里,登高望之下屬地者居三二千里。雲氣有如獸踞上者,戰。自華而南,氣下黑上赤;嵩高三河之郊,氣正赤;常山已北,氣下黑上青;渤碣海岱之間,氣皆黑;江淮之間,氣皆白。徒氣白,土功氣黃,車氣乍高乍下、往往而聚,騎氣卓而(卓一作卑)布,卒氣搏。

凡そ雲氣を占望するは、平地三四百里を望み得べし。平視して氣の桑榆樹梢の上に在るを望到するは、一千餘里に及び得べし。高きに登りて俯望して氣の下垂して地に接するは、相距ること二三千里なり。雲氣野獸の蹲踞して上面に在るが如き有りて、交戰を主る。華山以南は、氣下に黑く上に赤し。嵩山の高處および河東・河內・河南の三河一帶の郊野は、氣純赤なり。常山以北は、氣下に黑く上に青し。渤海・碣石と東海・泰山との間は、氣皆是れ黑色なり。江淮の間は、氣皆是れ白色なり。服役徒衆の氣色白く、土木工役の氣色黄く、兵車の氣忽高忽低にして往往一團に聚成し、騎兵の氣高聳して散布し(「卓」は一本に「卑」と作る)、步卒の氣團聚して塊を成す。

前卑而後高疾,前方而後高者銳,後銳而卑者卻。其氣平者徐行,前高後卑者不至而反。氣相遇者,卑勝高,銳勝方。來卑而修速者,不過三四日去之五六里見。氣來高七八尺者,不過五、六日十餘里、二十里見。來高又餘二十丈者,不過三十日去之五、六十里見。

氣前低くして後高きは、行軍迅速を主る。前面方正にして後面高聳するは、鋒芒銳利を主る。後面尖銳にして低伏するは、退却を主る。氣面平齊なるは、行軍緩慢を主る。前高後低のは、兵未だ到らずして返回せんを主る。兩股の氣相遇の時、低きは高きに勝ち、尖銳の方正に勝つ。氣の來ること低くして細長迅速なるは、三四天を出でずして、五六里外に於て敵軍を望見し得べし。氣の來る時高さ七八尺のは、五六天を出でずして、十餘里・二十里外に望見す。氣の來る時高さ二十丈を出るは、三十天を出でずして、五六十里外に望見す。

和雲精白者,其將悍,其士怯。其大根而前絕遠者,當戰。精白而前低者,戰勝。其前末兩昴者,戰不勝。陣雲如立垣,杼雲如杼,軸雲搏而端銳,鉤雲如城者亙天其半,雲霓者類闕。

雲氣柔和にして精純潔白なるは、對方の將領强悍にして士卒怯懦なるを主る。氣の根部粗大にして前端伸ばすこと極めて遠きは、將に交戰有らん。精白にして前端低垂するは、交戰獲勝す。氣の前端の末梢兩支に分作して高揚するは、交戰取勝する能わず。陣雲形如竪立の墻垣にして、杼雲形如織布の梭子にして、軸雲團聚して兩端尖銳にして、鉤雲城墻の半箇天空に橫亙するが如く、雲霓の一類形狀宮門前の雙闕の如し。

其故劍雲鉤曲者,此云見,以五色占而澤搏密,其見動人,乃有占,兵必起,必戰鬥。其旦五朔所候,次於日旁雲氣。人主人象皆如其形,故北狄之氣如群畜穹廬,南夷之氣類舟航幡旆(一作旗)。若冬至之後夜明者,陽氣之動也,不足占。

あの種の形狀舊劍の如くして鉤曲する雲は、此の雲出現する時、五色の法則に按じて以て占斷するを要す。氣色潤澤にして團聚緊密にして、望去して以て人の心目を動かすに足るのみ、纔か以て占測に據り得べく、必定に兵を興し必定に戰鬥發生せんを主る。每月初一清晨の觀測せんと要する所は、次序太陽の旁邊の雲氣の後に排す。君主と人事との形象皆各々その本來の樣子の如くなり。ゆえに北方の狄人の氣成群の牲畜と穹廬氈帳とに似、南方の夷人の氣舟船と旗幡とに似(「旆」は一本に「旗」と作る)。冬至以後夜裏天色の發亮するに至っては、那是れ陽氣始めて萌動するにして、此に據って占斷するに足らず。

勝兵雲氣第一百七十一

處營臨陣之時,紫氣出於軍上者,大慶之兆也,即日有喜。或軍上雲氣如覆堤前赤後白者,勝氣,利進兵攻擊,在敵則勝。或軍上氣凝成雲,中天而住(一作往)堅固不變者,名曰剛氣,在敵則勿攻之。或軍上雲氣作盤踞之狀者,此之謂天威也,宜用精兵固以漸進戰。

營壘に駐扎し陣に臨み敵に對する時、若し紫氣我軍の上空より升起する有れば、此是れ大吉慶の預兆にして、當天就ち喜事有らん。ある軍營の上空雲氣覆蓋する堤岸の如く前赤後白なるは、此是れ取勝の氣にして、兵を進め攻擊するに利し。若し敵軍の上空に出現せば、就ち是れ敵方の獲勝なり。ある軍營の上空氣凝聚して云と成りて、半空に停り(「住」は一本に「往」と作る)堅固にして變らざるは、名を「剛氣」と曰い、若し敵軍の上空に在れば就ち攻打するなかれ。ある軍營の上空雲氣盤曲蹲踞の狀を作すは、これを「天威」と叫作し、應當に精銳部隊を動用し、陣脚を穩めて逐步に推進して作戰すべし。

或軍上雲氣如華蓋先動者,或雲氣上赤下黑臨軍者,此弱彼強,然終破強,小能擊大,大戰大勝,小戰小勝。或雲氣如黑人在赤雲中,謂之捷(一作梅)氣。或雲氣如十十五五童子,氣中赤氣在前者,強兵之氣也。

ある軍營の上空雲氣華蓋の如くして率先して移動する有り。ある雲氣上赤下黑にして軍營に壓臨する。此れ我方弱くして敵方强きを表示し、然而して最終に强敵を擊破し得、小を以て大を擊ち、大戰大勝し小戰小勝す。ある雲氣黑色の人の赤雲の中に立つが如きを「捷氣」と叫作す(「捷」は一本に「梅」と作る)。ある雲氣十箇五箇成群の童子の如く、氣の中又赤氣有りて前に在るは、此是れ强兵の氣なり。

或雲氣如山堤林木;或白氣粉(一作分)澤如樓,繞以赤氣;或雲氣爛如火光或湧如火煙;或雲氣如山蓋分為(一作高)兩穗蓬蓬然,又類草煙之狀,此得天勢也;或雲氣凝日而成五色;或雲氣十十五五如赤鳥蹲黑氣中;或氣如黑煙;或雲氣如馬頭高尾低;或雲氣如人持斧向敵;或雲氣如二匹練:此十者,勁兵之氣也,在敵則宜避之,在我則所向皆克矣。

ある雲氣山堤と樹林との如き有り。ある白氣潤澤して樓臺の如く(「粉」は一本に「分」と作る)四周赤氣に繞られたる有り。ある雲氣燦爛として火光の如くあるいは涌動して火煙の如き有り。ある雲氣山蓋の兩穗に分成して蓬蓬鬆鬆たるが如く(「為」は一本に「高」と作る)、又野草焚燒の煙の如きは、此是れ天時地勢を得たるなり。ある雲氣日邊に凝聚して五色を現出する有り。ある雲氣十箇五箇成群にして、赤鳥の黑氣の中に蹲るが如き有り。ある氣黑煙の如き有り。ある雲氣馬頭高くして馬尾低きが如き有り。ある雲氣人の斧を持ちて敵方に朝向するが如き有り。ある雲氣兩匹の白絹の如き有り。此の十種皆是れ勁兵の氣にして、敵方に出現すれば就ち應當に避開し、我方に出現すれば則ち向かう所皆能く取勝し得べし。

黃雲氣黃白厚潤而重者;或雲氣動,廣如三匹皂帛,前大後狹,軍行其中,有雲如鬥雞,赤白相隨在氣中;或陣上有五色氣連天;或雲氣連天如烏衣人在赤雲中;或黃氣亙天:此五者,應天之兵也,擊之大凶。

黄色の雲氣黄白相間にして厚潤凝重なる有り。ある雲氣浮動して寬さ三匹の黑色繒帛の如く前寬後窄にして、軍隊其の中に行進し、又斗雞の如き雲有りて赤白二色氣の中に相隨う有り。ある陣地の上空五色の氣の天際に連接する有り。ある雲氣天に連なりて、黑衣を穿る人の赤雲の中に立つが如き有り。ある黄氣天空を橫貫する有り。此の五種皆是れ天意に順應する軍隊にして、彼らを攻打すれば大凶なり。

或軍上氣如蛇舉頭向敵;或赤黃氣干天;或雲氣如日月而赤氣繞之;或雲氣如日暈有光著(一作者);或氣凝聚而不散;或赤雲如龍,彩色鬱鬱沖天;或雲相繞又如鳳凰之狀;或雲氣光潤如城門隱隱在白雲中;或氣內赤外黃:此九者,強兵之勝氣,一曰王者之氣也。雲氣如是者,在我軍上則出擊敵,若在敵上則慎勿妄動。又若在我軍上,及敵人軍氣如常者,亦勝兆也。

ある軍營の上空氣蛇の頭を昂げて敵方に朝向するが如き有り。ある赤黄の氣直に天際を衝る有り。ある雲氣日月の如くして赤氣の環繞有る有り。ある雲氣日暈の如くして光を帶ぶる有り(「著」は一本に「者」と作る)。ある氣凝聚して消散せざる有り。ある赤雲龍の如く色彩濃郁にして直に天空を衝る有り。ある雲互相纏繞して又鳳凰の形狀の如き有り。ある雲氣光潤して城門の隱隱として白雲の中に現るるが如き有り。ある氣內赤にして外黄なる有り。此の九種是れ强兵の取勝の氣にして、もまた人説く就ち是れ王者の氣なりと。雲氣此の樣の如く、我軍の上空に出現すれば就ち應該に敵人を出擊すべし。若し敵軍の上空に出現せば、就ち千萬に輕擧妄動するなかれ。另外、若し此の種の氣我軍の上空に在りて、而して敵軍の氣一ただ平常の如くなれば、那もまた是れ取勝の征兆なり。

城上雲氣第一百七十二

進兵攻城,及敵來圍我,亦審雲氣之吉凶。或城上或營上有氣如人十十五五,皆叉手低頭者,軍人願降也(此章一緣勝敗之氣雜論之,又多言城中之事,故別立此章。若於營塞及陣上吉凶亦同)。或雲氣上黃下白,名曰善氣,所臨之軍欲相和解。或城中氣如白旗者,不可拔。或黃雲臨城者,城中有大喜慶。

兵を進め城を攻め、および敵人の前來して我方を包圍する時も、もまた雲氣の吉凶を審察するを要す。ある時城上あるいは營上氣人の十箇五箇成群するが如く、皆拱手して頭を低むは、此是れ守軍の投降を願意するなり(本章原本勝敗の氣と混り合って論述し、又多く城中の事を談ず。ゆえに別に一章を立つ。若し營壘要塞と陣地上の吉凶に用いれば、判法相同じ)。ある雲氣上黄下白なるは、名を「善氣」と曰い、それの臨む所の兩軍の講和せんと想うを主る。ある城中の氣白色の旗幟の如きは、此の城攻下る能わず。ある黄雲城上に壓臨するは、城中大きな喜慶有るを主る。

或青色氣如牛頭觸人者,城中不可屠(一作圖)。或城中氣出東方色黃者,此天鉞,不可伐,伐者大禍。或城上氣如火煙分湧者,主人慾出戰也。其氣無極,不可擊。諸色但出而無極者,不可屠。或赤色或黑氣如杵形從城內向外者,內兵突出,主人大勝。或城上雲氣分為兩穗火之狀者,不可攻。或蒙氣繞城而不入者,外兵不得入。

ある青色の氣牛頭の人を頂撞するが如きは、此の城屠戮する可からず(「屠」は一本に「圖」と作る)。ある城中の氣東方に出現して色黄なるは、これを「天鉞」と叫び、討伐する可からず。討伐する一方大禍有り。ある城上の氣火煙の股に分かれて涌出するが如きは、守方の將に出戰せんとするを主る。此の種の氣若し無邊無際なれば、就ち攻擊する可からず。各種顏色の氣ただ涌出して窮盡無きのは、皆城を屠る可からず。ある赤色あるいは黑色の氣杵形の如く城內より城外を指向するは、城內の軍隊の圍を突いて出で守方の大勝を主る。ある城上の雲氣兩穗に分成して火焰の狀の如きは、進攻する可からず。ある蒙昧の氣城を繞りて進入せざるは、城外の軍隊の攻め進入る能わざるを主る。

凡攻城塞有諸氣從城中出入吾軍者,勝氣也,謹備之。或攻城赤氣在城上,黃氣在四面繞之者,城中大將死,城降。或城上赤氣如飛鳥者,急攻之,立可破矣。或氣出入於城中者,城中居(一作軍)民欲逃散,無鬥志,急攻之。或氣如死灰而覆其城寨者,吏士(一作使)病,城可屠。或城全無雲氣者,士卒心散。

凡そ城塞を攻打する時、各種の氣の城中より出來して又我軍に進入する有るは、此是れ敵方の取勝の氣にして、謹慎に防備するを要す。ある攻城する時赤氣城上に在り黄氣四面に於て環繞するは、城中の大將の死亡・城池の投降を主る。ある城上の赤氣飛鳥の如きは、趕緊に進攻し、立刻に以て攻破し得べし。ある氣城中に出出入入するは、城中の居民(「居」は一本に「軍」と作る)の逃散せんと想い鬥志無きを主り、應當に急攻すべし。ある氣死灰の城寨を覆蓋するが如きは、城中の官吏士卒の患病するを主り(「士」は一本に「使」と作る)、城攻下り屠滅し得べし。ある城上完全に雲氣無きは、守軍士卒の人心渙散を主る。

或城上赤氣如眾人頭向下者,其下多死喪血流。或白氣繞城而入者,急攻之,可拔。或白氣光如劍形,長百餘丈,自敵上起而橫城上者,攻之者受禍,城不可屠,八十一日內應。或黑雲高起,以黃為緣,長凝於陣前,橫列如跪,其狀如手相牽,三三五五低頭拱手營陣之上者,人必降。

ある城上の赤氣衆人の頭顱の下に朝くが如きは、城下多く死喪流血有るを主る。ある白氣城を繞りて入るは、趕緊に進攻し、以て攻拔し得べし。ある白氣光を發して劍形の如く長さ百餘丈にして、敵方の上空より升起して城上に橫たわるは、城を攻むる一方禍を受けんを主り、此の城屠滅する可からず、八十一天の內に應驗せん。ある黑雲高高に升起して、黄色を以て邊緣と爲し、久久凝聚して陣前に在り、橫列して跪伏の如同じく、形狀手に手を拉するが如く、三三五五頭を低め拱手して營陣の上空に懸るは、敵人必定に投降せんを主る。

或雲氣如雞雉及走兔者,賊當來攻城,急備之。或雲氣三條五條橫列成陣,文如虎斑者,所臨之軍必拔城殺將,見之急攻之。或雲如龍行於城上者,必有大水。凡城上勝敗之氣如是者,勝在敵,不可攻之;敗在敵,可攻之。勝在我,則利出兵進擊;敗在我,則堅壁清野,嚴以守之。雲氣所見,天地心也,可不慎哉!

ある雲氣雞雉と奔跑の兔子との如きは、賊兵の將に來りて城を攻めんとするを主り、趕緊に防備せよ。ある雲氣三條五條橫列して陣を成し、紋理虎皮の斑紋の如きは、それの臨む所のあの支の軍隊必定に城池を攻下り敵將を斬殺せんを主り、見れば急攻せよ。ある雲龍の城上に行走するが如きは、必定に大水有るを主る。凡そ城上の勝敗の氣上面の説く所の此れらの如し。勝氣敵方に在れば、就ち進攻する可からず。敗氣敵方に在れば、就ち進攻し得べし。勝氣我方に在れば、就ち兵を出だし進擊するに利し。敗氣我方に在れば、就ち壁を堅くし野を清め、嚴しく固守を加うるを要す。雲氣の顯現する所は、正に是れ天地の心意なり。何ぞ能く慎重ならざらんや。

將軍雲氣第一百七十三

欲知敵將之賢愚,亦以雲氣占之。夫軍上青雲帶赤中黃白,自旦日至夜不散者,其主弱臣強,大將軍驕恣,法令顛倒,可急攻之。或軍上雲氣昏昏暗濁者,主將不明,賢良不附也。或軍上雲氣如蛟龍者,主將軍神魂散亂,可擊之。或出自白日沒之後,有青氣西亙天者,經十日不雨,大將當失位,強在三年之內也。已而變赤者,大敗之兆也。

敵方の將領の賢明なるか愚昧なるかを知らんと想えば、もまた以て雲氣に用いて占測し得べし。凡そ敵軍の上空青云にして赤色を帶び當中黄白を夾むは、清晨より夜裏に到るまで消散せざれば、對方の君弱く臣强きを主り、大將軍驕橫放縱にして、法令顛倒混亂し、以て急速に攻打し得べし。ある軍營の上空雲氣昏暗渾濁なるは、將領の賢明ならざるを主り、賢良の士歸附するを肯ぜず。ある軍營の上空雲氣蛟龍の如きは、將軍の心神散亂を主り、以て攻擊し得べし。ある白天日落の後より開始して、青氣自ら西より天空を橫貫するを出現し、十天を經過して雨を下さざれば、大將の將に職位を丟掉せんとするを主り、最遲くも三年の內に在り。此の後青氣又轉じて赤色と成るは、就ち是れ大敗の預兆なり。

或軍上青氣漸黑者,大將軍死。或雲氣黃白而潤澤者,將有威德也。或軍上氣漸漸如雲變作山形者,將有深識也。或雲外黑而中赤向前者,或兩軍相當雲氣如倉者,或赤氣如山者,此三者將悍精驍勇也。或雲上與天連者,將有智也。

ある軍營の上空青氣漸漸に黑に轉ずるは、大將軍の死亡を主る。ある雲氣黄白にして潤澤なるは、將領の威望德行有るを主る。ある軍營の上空の氣漸漸に雲より山の形狀と變成するは、將領の深遠の見識有るを主る。ある雲外面黑を發して中間赤紅にして前に向かって推進する有り。ある兩軍對壘の時雲氣糧倉の如き有り。ある赤氣山の如き有り。此の三種皆敵將の强悍精干・驍勇善戰を主る。ある雲上に向かって天と相連なるは、將領の智謀有るを主る。

或雲氣如龍虎在煞氣中,或如火煙奮奮,或如火光變變,或如林木あだ者,或如塵埃頭大而卑者,或色紫黑狀如門上樓者,或如紫粉(一作粉素)霏拂者,或如龍游黑霧中者,或如日月有赤氣起繞者,或狀如門上黑下赤者,或如皂旗者,或如弓形,或蜿蜒如蛟蛇者,此十三者猛將之氣也。

ある雲氣龍虎の殺氣の中に處するが如き有り。ある火煙の騰騰として奮起するが如き有り。ある火光の閃爍變幻するが如き有り。ある叢生の林木の如き有り(原文此處二字已に殘訛なり、姑らくその舊を存す)。ある塵埃の如くして頭部粗大にして位置低伏する有り。ある色紫黑にして形狀城門上の譙樓の如き有り。ある紫色粉末の飄拂するが如き有り(「紫粉」は一本に「粉素」と作る)。ある龍の黑霧の中に游動するが如き有り。ある日月の如くして赤氣の升起環繞する有る有り。ある形狀門の如く上面黑く下面赤き有り。ある黑色の旗幟の如き有り。ある弓の形狀の如き有り。ある蜿蜒として蛟蛇の如き有り。此の十三種皆是れ猛將の氣なり。

或雲氣青而疏散者,將怯弱也。或前大後小者,將不明也。或內黑緣以白氣者,將懦而無謀也。如此者,可以詐動,可以事惑,可以威,可以強逼決勝矣。

ある雲氣色青にして稀疏鬆散なるは、將領の怯懦軟弱を主る。ある前大後小なるは、將領の事理を明らめざるを主る。ある內裏黑を發して外緣白氣に鑲れるは、將領の懦弱にして謀略無きを主る。此の樣の敵將に遇上すれば、就ち以て詐術を用いて它を調動し、以て事端を用いて它を迷惑し、以て聲威を用いて它を震懾し、以て强いて逼戰して勝負を決出し得べし。

伏兵雲氣第一百七十四

進兵之時,先於山川四面望其雲氣。渾渾圓長,赤氣在其中者,或如赤杵在黑雲中者,其下有伏兵。或氣青黑色掩北斗者,敵將設伏兵以待我也。或兩軍相當,赤氣在陣前後者,亦有伏兵隨氣所在之方。或雲絞絞綿綿者,此以車騎為伏也。或雲氣聳然類山丘形者,此皆精猛之伏兵也。或雲氣成布席狀者,此以步卒為伏也,所見之地急防之。

兵を進むるの時、要して山川の四面に於て雲氣を眺望するを先とす。若し氣渾然として圓長にして赤氣其の中に在るか、あるいは赤色の木杵の黑雲の中に立つが如ければ、あの下伏兵を埋む有り。ある氣青黑色を呈して北斗を遮掩するは、敵將の伏兵を設下して我軍を等つを主る。ある兩軍對壘の時赤氣陣前陣後に出現するも、もまた是れ伏兵有りて、方位就ち赤氣の所在する處に隨って以て定まる。ある雲絞結纏綿して一片に連成するは、此是れ車兵騎兵を以て伏を設く。ある雲氣高聳して山丘の形狀の如きは、此れら皆是れ精銳勇猛の伏兵なり。ある雲氣鋪開の席子の狀を形成するは、此是れ步卒を以て伏を設く。何れの方位に於て見るや、就ち趕緊にあの裏に防を設くべし。

奸賊雲氣第一百七十五

白氣群行,徘徊結陣往來者,他國人來欲圖亂我,不可應之。視其所往,隨而擊之,可得也。或有黑氣臨我軍上,如車輪行,敵人深入,謀襲營柵。或有黑氣遊行,中含五色,臨我軍上,必謀合諸侯而伐我,諸侯必謀反敵軍,敵軍當自敗。或有黑氣如幢節之狀出於營中,上黑下黃,敵人來求戰,無誠實言信相,及九日內必覺,備之吉。凡雲氣如是者,敵之密謀也。

白氣成群に移動して、徘徊往來して又陣勢を結成するは、別國の人の前來して我方を圖謀擾亂するを主り、貿然と應戰する可からず。それの往き去る何方を看るを要し、跟隨して過去攻擊せば、就ち能く擒獲し得べし。ある黑氣我軍の上空に壓臨して、車輪の般に滾動するは、敵人已に我境に深入し、我方の營柵を偸襲せんと圖謀するを主る。ある黑氣游走して、その中五色を含み、我軍の上空に壓臨するは、敵人必定に諸侯を聯合して我を討伐せんを謀るを主る。而して諸侯必定に反って敵軍を算計し、敵軍將に自行に敗亡せん。ある黑氣旗幢符節の形狀の如く營中より升起し、上黑下黄なるは、敵人の前來して戰を求めるを主り、言辭誠信の憑るべき無く、至多九天の內必定に識破せられん。防備を加以すれば吉利なり。凡そ雲氣此れらの樣子の如きは、皆是れ敵人の祕密の圖謀なり。

敗兵雲氣第一百七十六

軍上氣如死灰,或如馬肝,或如偃蓋,或如群羊,或如驚鹿,或如臥人無手,皆敗征也。或黑如壞山(壞一作敗),隨軍,軍敗將死;隨我,亦(一作移)當避之。或雲氣白黃昏發連夜襲敵者,軍士散亂,擊之吉。或軍上氣卑而一絕一敗,在東發白氣者,災深。或雲氣五色而東西南北不定者,軍欲敗。或赤氣炎隆於天者,大將軍死而眾軍潰亂。

軍營の上空の氣死灰の如くあるいは馬肝の如くあるいは仰翻の車蓋の如くあるいは一群の羊の如くあるいは驚を受けた鹿の如くあるいは躺る人の如くして手臂無きは、此れら皆是れ敗亡の征象なり。ある氣黑きこと崩壞の山の如く(「壞」は一本に「敗」と作る)、某支の軍隊に跟隨すれば、あの支の軍隊就ち敗れ將領就ち死せんを要す。若し我軍に跟隨すれば、もまた應當に避開すべし(「亦」は一本に「移」と作る)。ある雲氣白を發して、黄昏の時に興起して連夜敵人を襲擊するは、軍士の散亂を主り、它を攻擊すれば吉利なり。ある軍營の上空の氣低伏にして時斷時續・一段段に潰散し、且つ東方に於て白氣を生出するは、災禍深重を主る。ある雲氣五色を呈して東西南北飄忽不定なるは、軍隊將に敗亡せんを主る。ある赤氣火焰の隆盛にして天を衝るが如きは、大將軍の死亡・全軍の潰亂を主る。

或黑氣如牛馬從霧中漸漸入軍者,名曰天狗下食血,必營於遠處避之。或雲氣蓋道蒙蔽而晝冥者,立敗之征也,爨不暇熟,急避之。若雲氣或青或碎如瓦礫,所臨之軍即敗也。若雲氣或赤或白,如人無頭,如人臥匐地低頭,所臨之軍敗也,當流血百餘里。在吾而欲禳之者,大將移營他處即吉也,士卒令其歡心上騰,可以解福。

ある黑氣牛馬の霧中より漸漸に軍營に進入するが如きは、名を「天狗下食血」と曰い、必ず營寨を遠處に移到して躲避するを要す。ある雲氣道路を遮蔽し天日を蒙蔽して以て白晝昏暗致らしむは、此是れ立時に敗亡するの征象にして、飯の熟するを等つに及ばずして趕緊に躲避するを要す。若し雲氣あるいは青色を呈しあるいは破碎して瓦礫の如ければ、それの壓臨する所の軍隊立即に敗亡せん。若し雲氣あるいは赤あるいは白にして、頭無き人の如く、人の地に趴伏して頭を低むるが如ければ、それの壓臨する所の軍隊敗亡して、將に百餘里を流血せん。此の種の氣若し我方に出現して禳解せんと想えば、大將營寨を別處に遷せば就ち吉利にして、同時に士卒をして心情歡暢・士氣上揚せしめば、就ち以て災禍を消解し福分を轉來し得べし。

或雲氣如水破堤,士伍潰之兆也,敵將潛兵襲我之後。或夜雲氣長如引索垂下,所臨之軍敗也。或夜半雲氣濃黑者,多陰謀。色青白及蒼黑者,皆反戾之兆也。或黑雲如車輪轉而入軍者,小人謀逆,急察備之。或雲氣狀如犬者,其下多流血。或雲氣黑色而黃色在上者,士卒怯懦,內亦有反亂之計也。

ある雲氣大水の堤壩を衝破するが如きは、此是れ隊伍の潰散するの預兆にして、敵將の暗中に兵を派して我軍の後方を襲擊するを主る。ある夜間の雲氣細長として垂下の繩索の如きは、それの壓臨する所の軍隊敗亡せん。ある半夜の雲氣濃黑なるは、陰謀多きを主る。氣色青白および蒼黑のは、皆是れ叛逆悖亂の預兆なり。ある黑雲車輪の如く旋轉して軍營に進入するは、小人の謀反を主り、趕緊に查察防備するを要す。ある雲氣形狀狗の如きは、それの下方多く流血有るを主る。ある雲氣黑色にして上面黄を泛ぶは、士卒の怯懦を主り、內部もまた反叛作亂の圖謀を藏す。

或黑雲如幡幢在氣中者,或赤氣如血,飛鳥在黑氣中者,皆敗兆也。或黑雜碎如群豕,或如群牛馬,或如群驚鳥者,皆敗兆也。或雲氣如浮塵散漫者,士卒謀反逆。或赤如火之猛焰燭天而起者,大敗流血。或赤雲如人三三兩兩或行或坐者,暴兵將至也。或雲氣如焚生草煙,所臨之軍大敗也。或雲氣如焚生草煙,所臨之軍雖前勇,後當自退。能以歲月候而擊,可勝。

ある黑雲旗幡幢蓋の如く氣の中に立つ有り。ある赤氣血の如く、又飛鳥黑氣の中に在る有り。皆是れ敗亡の兆なり。ある黑氣雜亂破碎して一群の猪の如くあるいは一群の牛馬の如くあるいは一群の驚を受けた鳥の如く、もまた皆是れ敗兆なり。ある雲氣浮塵の一樣に散漫するは、士卒の反叛を圖謀するを主る。ある赤氣烈火猛焰の天空を照亮して升起するが如きは、大敗して流血するを主る。ある赤雲人の三三兩兩なるが如くある行走しある坐するは、亂兵將に到來せんを主る。ある雲氣青草を焚燒の煙の如きは、それの壓臨する所の軍隊大敗せん。ある雲氣青草を焚燒の煙の如きは、それの壓臨する所の軍隊雖も起初勇猛なるも、隨後必定に自行に退却せん。能く年月に按じて時機を推算して攻擊に往けば、就ち以て取勝し得べし。

或赤雲氣而漫漫如垂蓋者,軍當自亂。或赤雲兩向狀如八字,各有首尾,銳而復大者,大戰血流,先動者敗。言先動而敗者,謂有兩軍交刃之時之兆也。或雲氣如懸衣,敗兆也。雲氣如轉蓬者,敗兆也。或兩相當,敵上全無雲氣者,擊之可破也。或兩軍相當,敵上雲氣極天如陣者,此之謂橫海氣,力攻之可破也。或兩軍相當,望彼軍上有火照人者,此失將士之心,攻之可敗也。

ある赤色の雲氣彌漫して低垂の車蓋の如きは、軍隊將に自行に潰亂せんを主る。ある赤雲兩邊に分向して、形狀「八」の字の如く各々首尾有りて、先に尖銳にして後に變大するは、大戰して流血するを主り、先に手を動かす一方失敗せん。謂う所の先動して敗るは、説く所是れ此れ兩軍の刀刃相接する時の征兆なり。ある雲氣懸挂の衣服の如きは、是れ敗兆なり。雲氣風に隨って翻滾する蓬草の如きも、もまた是れ敗兆なり。ある兩軍對壘して敵軍の上空完全に雲氣無ければ、它を攻擊すれば就ち以て擊破し得べし。ある兩軍對壘して敵軍の上空雲氣高く天際に接し排列して軍陣の如ければ、これを「橫海氣」と叫作し、全力攻打して以て擊破し得べし。ある兩軍對壘して對方の軍營の上空火光の人を照らす有るを望見すれば、此れ敵將已に將士の心を失去せるを表示し、它を攻打して以て取勝し得べし。

或雲氣如群鳥亂飛者,敗兆也。或雲氣毿毿如虎尾垂於軍上者,軍欲降。不然,將有奸人為敵應。或兩軍相當,去十里內望見彼軍上氣白又高,後有青雲者,立敗之兆也,宜速鼓行而擊。或雲氣蒼黑者,敗兆也。或雲氣如行牛,或如鼓車,或如群蛇亂走,或黑雲如人牽牛,皆敗兆也。或雲如壞屋之狀,兵亂將死。或淡黑雲中有深黑雲,黯黯而如星者,謂之敗軍之氣,兵大災。

ある雲氣群鳥の亂飛するが如きは、是れ敗兆なり。ある雲氣毛茸茸として虎尾の如く軍營の上空に垂るは、此の支の軍隊將に投降せんを主る。不然なれば、就ち奸細の敵人の內應を充當する有らん。ある兩軍對壘して、十里の內に對方の軍營の上空氣色の白を發して而且高聳し、後面還って青云有るを望見すれば、此是れ立刻に敗亡するの預兆にして、應當に迅速に鼓を擊ちて軍を進め攻擊すべし。ある雲氣蒼黑なるは、是れ敗兆なり。ある雲氣行走の牛の如くあるいは戰鼓車の如くあるいは一群の蛇の亂竄するが如くあるいは黑雲人の牛を牽くが如きは、皆是れ敗兆なり。ある雲倒塌の房屋の如きは、兵變作亂・將領死亡を主る。ある淡黑雲の中又深黑の雲有りて、暗淡として星點の如きは、これを敗軍の氣と叫作し、兵禍大災を主る。

夫興師動眾,天以勝敗之氣告人者有以也。當勝氣者不可恃之,當修軍政、精智慮、嚴號令、正賞罰,此可以答天地之貺也。茍或恃勝氣而軍政不修,荒怠敗度,此可以反勝為敗也。遇敗氣者詎能必敗也?當以嚴教令、謹智慮,責躬罪己、恭答天譴,此可變敗為勝也。大將得不以勝敗之象,立修德之方乎!

凡そ師を興し衆を動かすに、上天勝敗の氣を以て世人に告知するは、是れ緣故有り。勝氣を占得るは以て它を倚仗する可からず。應當に軍政を整頓し精心に謀劃し號令を嚴明にし賞罰を公正にして、此の樣纔か天地の賜予に配得上すべし。假如勝氣を倚仗して軍政修めず、荒廢懈怠して法度を敗壞せば、此れ就ち以て勝局を翻して敗局と爲すに足らん。敗氣に遇上するは難道一定に失敗せんや。應當に敎令を嚴明にし思慮を慎密にし、咎を引きて自ら責め恭敬に上天の譴告に回應して、此の樣就ち以て敗を轉じて勝と爲すを得。身大將と爲りて、何ぞ能く勝敗の天象を借りて、以て德行を修養するの門徑を確立せざらんや。

天第一百七十七

天裂(一作制)於敵上者,敵人自亂之兆也。天色如血,兵戰之兆也。天雨甘露,所雨之地兵大勝也。雨雖在敵,敵敗也;在我,當避之。天雨魚鱉,在敵,敵敗也;在我,亦當避之。天雨血,在敵,急擊之,可勝也;在我,避之;或在我彼兩界者,將大血戰,吏士俱傷。

天敵軍の上空に於て開裂すれば(「裂」は一本に「制」と作る)、是れ敵人の自行に潰亂するの預兆なり。天色紅きこと鮮血の如きは、是れ兵戈の交戰するの預兆なり。天甘露を降せば、降する所の地の軍隊の大勝を主る。此の種の雨縱い敵方に降るも、敵人もまた敗れんを要す。我方に降れば、就ち應當に避開すべし。天上魚鱉を落下すれば、敵方に在れば、敵人敗つ。我方に在れば、もまた應當に避開すべし。天上血雨を落下すれば、敵方に在れば、趕緊に攻擊して以て取勝し得べし。我方に在れば、就ち躲避するを要す。若し我方と敵方との兩邊の交界處に落れば、將に一場の大血戰有るを主り、雙方の官吏士卒皆傷亡せんを要す。

天雨絮及粟,在敵,敵凶;在我,避之。天雨海島毛,大亂之兆也。天雨毛,所雨之地大將信任邪謀也。若煙非煙,慶雲也,雲開有德。若星非星,歸邪也,歸邪有人。若霧非霧,泣軍也,泣軍多殺將。若雷非雷,天鼓也,天鼓多敗軍。不雲而雨,天泣也,天泣多覆國。凡天下之事變異於人者,急慎之。

天上柳絮と谷粟とを落下すれば、敵方に在れば、敵人凶なり。我方に在れば、就ち躲避するを要す。上海島上の鳥獸の羽毛を落下すれば、是れ大亂の預兆なり。天毛を落せば、降落の地の大將の邪惡の謀劃を聽信するを主る。煙に似て又煙に非ざるは、「慶雲」と叫び、雲の開く處德有る人の出現を主る。星に似て又星に非ざるは、「歸邪」と叫び、歸邪出現すれば人の歸附に來る有るを主る。霧に似て又霧に非ざるは、「泣軍」と叫び、泣軍出現すれば多く將領の殺せらるる有り。雷に似て又雷に非ざるは、「天鼓」と叫び、天鼓出現すれば多く軍隊の敗亡有り。天陰らずして雨を下すは、「天泣」と叫び、天泣出現すれば多く國家の傾覆有り。凡そ天下の事情の人に向かって變異を顯出するは、皆趕緊に慎重に對待するを要す。

地第一百七十八

地裂者,兵戈之兆也。營中地生錢者,下謀叛也,急備之。營中地上生毛者,吏士多亡敵,嚴令防之。軍在野,營地震者,有災星到也。營地生五穀者,將士有喜慶,大將有封邑。營中地色忽變黃者,大慶之兆也。營中地忽拆裂,有敗軍將死也,急移營避之。地忽陷者,主將破點之兆也。

大地開裂すれば、是れ兵戈の禍の預兆なり。營中の地上錢幣を長出せば、部下の叛亂を圖謀するを主り、趕緊に防備するを要す。營中の地上毛を生ずれば、官吏士卒多く逃亡して敵に投ずるを主り、嚴令して防範するを要す。軍隊野外に駐扎して營地震動すれば、災星の降臨有るを主る。營地上五穀を長出せば、將士の喜慶の事有り大將封邑を得到するを主る。營中の地色忽然に黄と變ずれば、是れ大喜慶の預兆なり。營中の地面忽然に開裂すれば、軍隊の潰敗・將領死亡を主り、趕緊に營を移して躲避するを要す。地面忽然に塌陷すれば、是れ主將敗亡の預兆なり。

營中地忽生血者,賊來,急速避之。城中與營內山忽有夜崩者,吏士有分散,移營避之。屯兵之城,山春崩者,敵來伐城;山夏崩者,有大水至;山秋崩者,有暴兵至;山冬崩者,軍民饑。結營之地吼如雷者,敵來,急速備之。流水無故絕者,設伏兵至。水忽赤如血者,軍士欲自亂,急備之。

營中の地上忽然に血を滲出せば、敵兵將に至らんを主り、迅速に躲避するを要す。城中と營內の山忽然に夜裏に崩塌すれば、官吏士卒離散を主り、應に營を移して躲避すべし。兵を屯する城池は、山春天に崩塌すれば、敵人の城を攻めに來るを主る。山夏天に崩塌すれば、大水の到來有るを主る。山秋天に崩塌すれば、亂兵の到來有るを主る。山冬天に崩塌すれば、軍民の饑荒を鬧すを主る。營を扎する地雷の如き吼聲を發出せば、敵人の來襲を主り、迅速に防備するを要す。流水故無く斷絕すれば、設伏の兵馬の到來有るを主る。水忽然に赤紅して血の如ければ、軍士將に自ら相擾亂せんを主り、趕緊に防備するを要す。

虹霓第一百七十九

攻敵人之城,有虹霓屈曲從外入者,三日內城屠。五色虹霓飲軍井者,大凶,移營避之。虹霓垂營中者,亦敗兆也。五色虹霓繞城,城中將亂,急攻之。白虹見於軍上者,軍敗流血。白霓貫中,師不可出。白虹繞城而不匝者,從不匝處攻之,必拔矣。繞城而匝者,即俟從漸錯處攻之。

敵人の城池を攻打する時、虹霓屈曲して城外より城內に伸入する有れば、三天の內城池攻破屠戮せらる。五色の虹霓軍中の井水を飲むが如きは、大凶にして、營を移して躲避するを要す。虹霓營中に垂落するも、もまた是れ敗亡の兆なり。五色の虹霓城池を環繞せば、城中將に亂を生ぜんを主り、應に急攻すべし。白虹軍營の上空に出現せば、軍隊の敗亡流血を主る。白霓其の中を貫穿せば、軍隊出動する可からず。白虹城を繞りて合攏無きは、就ち合攏無き缺口より進攻せば、必定に攻下り得べし。已に城を繞りて合攏せるは、就ち它の漸漸に錯開する地方を等ちて再び進攻せよ。

赤虹從天直垂地者,所垂之地敵兵至。十一月屈虹出,破軍敗將。天有白虹如霧者,營中防奸,將及兵將反。黑虹所見之地,大水到其處,利於高處置營。赤虹半隱雲上,有火災,亦當敗。黃虹在營上,吏士多驚撓。青虹亦如之,不為災。

赤虹天上より直に地面に到るまで垂れれば、それの垂落の地敵兵の到來有るを主る。十一月屈曲の虹を出現せば、軍隊の擊破せられ將領敗亡を主る。天上白虹霧の如き有れば、營中奸細を提防するを主り、將領と士兵反叛の虞有り。黑虹出現する地方は、大水將にあの處に至らんを主り、宜しく高處に營を扎すべし。赤虹雲上に半隱れれば、火災有るを主り、もまた戰敗を主る。黄虹營上に出現せば、官吏士卒多く驚擾を受くるを主る。青虹もまた是の如し。但し災禍を構成せず。

雷霆第一百八十

營中雷折木者,大將凶,利修軍政:春三月內甲子、乙丑、戊寅、辛卯、戊午。有雷及霹靂下石殺人者,軍在野營,將有大戰,一月內應之。雷一聲而止者,將軍有重命行。將戰之時,雷聲自我陣後起漸漸入敵者,必勝也。隨其聲而擊之,吉。從敵震迅而來者,凶也,急抽兵避之。

軍營の中雷を打ちて樹木を劈斷せば、大將凶險を主り、宜しく此に借りて軍政を整頓すべし。應に春季三箇月內の甲子・乙丑・戊寅・辛卯・戊午の此の幾日に於て留意して驗證すべし。若し雷霆霹靂石塊を打下して人を砸死せしめ、而して軍隊正に野外に營を扎れば、將に大戰有るを主り、一箇月の內に應驗せん。雷一聲響きて就ち停止せば、將軍の重大の使命の執行せんとする有るを主る。將に交戰せんとする時、雷聲我方の陣後より響き起り、漸漸に敵方に推向すれば、必定取勝せん。雷聲の方向に順って攻擊せば、吉利なり。雷聲敵方より迅猛に震蕩して來れば、凶險にして、趕緊に兵を撤して躲避するを要す。

天陰不雨,雷霆在我軍上,隨而擊之者,大勝也。合戰之時,大雷一聲而止,先動者勝。渾渾圓長者,從來處吉。聲四起東西南北不定者,軍有大血戰,兩軍傷。大雷疾速自我入敵者,勝也;自敵來,凶。霹靂當牙帳,急搜檢(一作驗)之,營中有奸人為賊應,亦慮暴兵至。或夜半無雲而雷者,吏士不從軍令也,火急施恩布惠(一作講我)以禳其禍。

天陰るも而して雨を下さず、雷霆我軍の上空に響けば、隨卽出擊して、大勝を獲し得べし。兩軍交戰の時、一聲の大雷就ち停止せば、先に手を動かす一方獲勝す。雷聲渾厚圓長のは、雷聲の傳來する方向より兵を進めば吉利なり。雷聲四處に響き起り東西南北飄忽不定なるは、軍中大血戰有るを主り、兩軍皆傷亡有らん。大雷迅疾に我方より敵方に推向すれば、勝を主る。敵方より我方に推向せば、則ち凶なり。霹靂正に主將の牙帳上に打當れば、趕緊に搜查するを要し(「檢」は一本に「驗」と作る)、營中奸細の敵人の內應を充當する有り、もまた亂兵の突然來襲を顧慮するを要す。ある時半夜雲無くして雷を打てば、官吏士卒の軍令に服從せざるを主り、火速に恩を施し惠を布きて以て此の場の禍患を禳解するを要す(「布惠」は一本に「講我」と作る)。

戰候第一百八十一

交戰之時,五色採旗掣拽不動者,大勝候也,敵強力戰,慎不可追之。臨戰之時,鼙鼓之音鳴於常者,勝候也。角聲清激者,勝候也。風不起而旌旗悠揚,前指敵陣者,勝候也。馬驕嘶而喜躍欲進者,勝候也。

交戰の時、五彩の旗風に牽扯せられて旗面動かざるは、此是れ大勝の征候なり。不過敵人頑强に死戰せん、務必謹慎にして、貿然と追擊する可からず。戰に臨むの時、鼙鼓の聲音平常に比べ響亮なるは、是れ取勝の征候なり。號角聲清越激揚なるは、是れ取勝の征候なり。風起らずして旌旗自然に飄揚し旗頭敵陣を指向するは、是れ取勝の征候なり。戰馬昂揚嘶鳴して歡躍して前進せんと想うは、是れ取勝の征候なり。

牙帳無故倒折者,敗候也。鼙鼓之音重濁不清徹者,敗候也。角聲洪濁不清潔者,敗候也。焦而四亂者,敗候也。橫而不圓者,內亂將發。旌旗撩亂不整者,敗候也。馬亦多驚嘶退縮者,敗候也。臨陣之際,勝敗之候,能詳慎者善矣。

主將の牙帳故無く倒塌折斷するは、是れ敗亡の征候なり。鼙鼓の聲音重濁にして清亮ならざるは、是れ敗亡の征候なり。號角聲洪大渾濁にして清朗ならざるは、是れ敗亡の征候なり。號角聲焦躁にして四散雜亂なるは、是れ敗亡の征候なり。聲音橫散にして圓渾ならざるは、內亂將に爆發せんを主る。旌旗散亂して整齊ならざるは、是れ敗亡の征候なり。戰馬もまた多く驚を受け嘶叫し畏縮後退するは、是れ敗亡の征候なり。陣に臨むの際の種種の勝敗征候を、能く詳審慎察するは、就ち兵を用うるに善しと算す。

雜占第一百八十二

結營之地,天火焚其林野者,賊兵疾到。火無故自發,焚其帳幕者,有大水到。溪澗中水忽出,主有陰賊到,其地凶,移營避之。或出軍之時,或將戰之際,有兔及麋鹿之類走過者,勿殺之,勝兆也。營中黃龍見者,大勝也。營中山池沼溪澗忽自然自外而入者,士卒陵主將。龍鬥營中及左右者,賊大至,亦防大水。

營を扎する地に、天火あの裏の林野を焚燒せば、賊兵の迅速に到來を主る。火故無く緣無く自行に燒起して帳幕を燒着けば、大水の到來有るを主る。溪澗の中の水忽然に涌出せば、暗藏の賊寇の到來有るを預示し、此地凶險にして、應に營を移して躲避すべし。ある時出兵の際あるいは將に交戰せんとする時、兔子と麋鹿の類の跑過する有れば、それらを殺すなかれ。此是れ取勝の兆なり。營中黄龍を出現せば、大勝を主る。營中の山池・沼澤・溪澗の水忽然に自行に外より內に向かって灌入せば、士卒の主將を欺凌するを主る。龍營中あるいは營の左右に於て爭鬥する有れば、賊兵の大擧到來を主り、もまた大水を防備するを要す。

群蛇集營前道上者,有急兵至。營中竹樹忽然有血者,大將有重憂。營中不雨而樹濕者,賊兵起。營中忽得五色魚者,勿殺之,殺則大水立至,不然暴兵。或有魚上下於樹者,水亦至,急移營高處避之。雞有重距重翼飛來營內者,勝兆也,殺則大凶。兩軍相當,遙見敵上有龍者,不出一月敵當大敗。

成群の蛇營前の道路上に聚集せば、緊急の兵事の到來有るを主る。營中の竹子樹木忽然に血を滲出せば、大將の重大の憂患有るを主る。營中雨を下さずして樹木濕潤せば、賊兵興起を主る。營中忽然に五色魚を捕到せば、它を殺すなかれ。殺せば大水立刻に就到し、然らざればもまた亂兵有らん。ある時魚樹上に於て上下游動すれば、水もまた到らん。趕緊に營を高處に移して躲避するを要す。雙距雙翅を長ずる雞營中に飛進する有れば、是れ取勝の兆にして、它を殺せば大凶なり。兩軍對壘して、遠遠に敵軍の上空龍有るを望見せば、一箇月を出でずして敵人將に大敗せん。

犬尿溺營前大道者,移營避之,有災至。營中馬忽驚嘶者,即起卒兵,立具兵器備之,恐賊潛到。馬前營生角者,多殺傷。馬毛無故而赤,主將災也。將帥之馬夜無故嘶者,其主凶。城忽出水者,賊兵相侵。鼠嚙(一作囓)甲冑及兵器者,損吏士也。鼠群行,即有大水。鼠頻出軍中,防叛逆。虎狼入營者,賊兵至,傷人,大凶。

狗營前の大道上に撒尿せば、應に營を移して躲避して、災禍の到來有るを主る。營中の馬忽然に驚叫せば、應に立即に士卒を喚起し馬上に兵器を備齊して防範を加以し、恐怕賊兵の潛到有らん。馬營前に於て額上に角を長ずれば、殺傷多きを主る。馬毛故無く紅と變ずれば、是れ主將災有るなり。將帥の坐騎夜裏故無く嘶鳴すれば、それの主人凶險なり。城中忽然に水を涌出せば、賊兵の前來侵犯を主る。老鼠鎧甲頭盔と兵器とを啃咬すれば(「嚙」は一本に「囓」と作る)、官吏士卒を損傷するを主る。老鼠成群に遷行すれば、隨卽大水有らん。老鼠頻繁に軍中に出没せば、人の叛變有るを防ぐを要す。虎狼營中に進入すれば、賊兵の到來・人を傷るを主り、大凶なり。

占風統論第一百八十三

凡災風之來,多有殺氣剋日,濁塵飛埃蓬勃四起也。凡詳風之來,多與佳氣並,而日色清朗,天氣涼索,令條長去地少高,不動塵而過也。

凡そ災禍を帶來する風の到來する時は、多半殺氣を夾帶して日光を掩克し、渾濁の塵土飛揚して、蓬蓬勃勃として四面より涌起す。凡そ祥和の風の到來する時は、多く佳美の氣と相伴し、日色清朗にして、天氣清凉爽利にして、枝條をして長長に擺動して地を離るること稍々高くせしめ得、塵土を揚起せずして吹過ぎ往く。

五音占風第一百八十四

宮風聲如雷吼空中(一作風),商風聲如驅群羊,徵風聲如奔馬,羽風聲如擊濕鼓,角風聲如千人語。子午為宮,丑未寅申為徵,卯酉為羽,辰戌為商,巳亥為角。

宮音の風は、聲音雷の空中に吼叫するが如し(「中」は一本に「風」と作る)。商音の風は、聲音羊群を驅趕するが如し。徵音の風は、聲音奔馬の如し。羽音の風は、聲音受潮の鼓を敲擊するが如し。角音の風は、聲音上千人同時に説話するが如し。地支の中子・午は宮に屬し、丑・未・寅・申は徵に屬し、卯・酉は羽に屬し、辰・戌は商に屬し、巳・亥は角に屬す。

宮風發屋折木,米貴,來年兵起。徵風發屋折木,四方有急。羽風發屋折木,米貴(一作情勇)。商風發屋折木,主兵。角風發屋折木,急鬥戰。

宮音の風房屋を掀翻し樹木を吹斷せば、米價騰貴を主り、來年兵を興さん。徵音の風房屋を掀翻し樹木を吹斷せば、四方の急難有るを主る。羽音の風房屋を掀翻し樹木を吹斷せば、米價騰貴を主る(「米貴」は一本に「情勇」と作る)。商音の風房屋を掀翻し樹木を吹斷せば、兵事有るを預示す。角音の風房屋を掀翻し樹木を吹斷せば、急促の搏鬥交戰有るを主る。

刑殺占風第一百八十五

歲月日時,陽德自處,陰德在天干。歲月日時,子刑卯,卯刑子,丑刑戌,戌刑未,未刑丑,丑刑巳,巳刑寅(一作申),辰午酉亥各自相刑。子丑寅巳申為上刑,卯寅巳為下刑。大風從三刑上來,官軍克,大寒大克,小寒小克。風從刑下來禍,從刑上來福。從三刑為上,從自刑為下。

年・月・日・時を論ずれば、陽德自らその位に居り、陰德則ち天干上に寄す。年月日時の地支の相刑に就いて言えば、子は卯を刑し、卯は子を刑し、丑は戌を刑し、戌は未を刑し、未は丑を刑し、丑は巳を刑し、巳は寅を刑す(「寅」は一本に「申」と作る)。辰・午・酉・亥は則ち各々相刑す。子・丑・寅・巳・申は上刑と爲し、卯・寅・巳は下刑と爲す。大風三刑の方位より吹來れば、官軍取勝す。風寒氣重ければ就ち大勝し、風寒氣輕ければ就ち小勝す。風刑位の下より吹來すれば禍を主り、刑位の上より吹來すれば福を主る。三刑の方位より吹來するを上等と爲し、自刑の方位より吹來するを下等と爲す。

十二位占風第一百八十六

申子為貪狼,主欺紿不信,強奪橫取,盜賊攻劫。巳酉為寬大,主福祿賞賜,眾宴酒食,貴人君子。亥卯為陰賊,主戰鬥殺傷,謀反大逆,殺人之事。寅午為廉宜(一作貞),主賓客禮樂,娶嫁,國議,誠信。

十二地支を兩兩に配属する名目に按じて風を占す。申・子の二支は「貪狼」と稱し、欺詐失信・强搶橫奪・盜賊攻劫の事を主る。巳・酉の二支は「寬大」と稱し、福祿賞賜・衆人の宴飮酒食・貴人君子の往來の事を主る。亥・卯の二支は「陰賊」と稱し、戰鬥殺傷・謀反大逆・殺人害命の事を主る。寅・午の二支は「廉貞」と稱し(「宜」は一本に「貞」と作る)、賓客往來・禮樂儀典・男婚女嫁・朝廷議政および誠實守信の事を主る。

丑戌為公正,主執仇怨兵誅。辰未為奸邪,主欺慢人。貪狼之日,風從寬大來,仍以貪狼參說吉凶。他皆仿此。有殺氣從三刑上來,或五墓上來,有伏兵,不戰必克。

丑・戌は「公正」と爲し、仇怨を追究し兵を動かし誅討するを主る。辰・未は「奸邪」と爲し、他人を欺騙輕慢するを主る。比如貪狼の日に於て、風寬大の方位より吹來しても、仍ほ貪狼を一倂に參照し進めて吉凶を推斷するを要し、其餘の情形皆此に照らして類推せよ。若し殺氣三刑の方位より吹來し、あるいは五墓の方位より吹來せば、伏兵有るを主り、交戰するに必あらずもまた必ず能く取勝し得べし。

逆風第一百八十七

蓬勃四方起,或上來觸地,此逆風也,暴兵至。寅時發,主人逆;辰時發,客逆;午時發,親戚逆;申時發,左右逆;黃昏發,外賊逆。宮日風從角上來,卒急有兵圍。至月中折木者,城陷。羽日風喧喧,日無光深霧,兵圍城,客克。商日風從四季上來,關梁不通路絕。陰賊日風從陰賊上來,大寒日(一作賊)日相殺。

風蓬蓬勃勃として四方より涌起し、あるいは上より下に自ら地面に撲到するは、這就ち是れ「逆風」にして、亂兵の到來有るを主る。寅時に風を起せば、人の一方背離を主る。辰時に風を起せば、客軍背離す。午時に風を起せば、親戚背離す。申時に風を起せば、身邊の近侍背離す。黄昏に風を起せば、外來の賊寇逆を作す。宮日の風角位より吹來せば、倉卒の間に兵の城を圍む有るを主る。月中に到りて風樹木を吹斷するのは、城池陷落す。羽日の風聲喧鬧にして、日光晦暗・濃霧彌漫せば、兵の城を圍む有るを主り、客軍取勝す。商日の風辰・戌・丑・未の四季の方位より吹來せば、關隘橋梁通ぜず道路斷絕するを主る。陰賊日の風陰賊の方位より吹來せば、大寒の日雙方相互に廝殺するを主る(「日」は一本に「賊」と作る)。

風雨雜占第一百八十八

攻城圍邑,經旬不雷雨者,城中有輔,疾去之。徵去之日,細雨沐,兵捷之征也。若大風雷雨不見日,辰午戌亥自刑之日,兵家大忌也。臨戎之際,忽來陰氣旁勃,牙槓折陰不見日,旌旗抑揚,此敗征也。

城を攻め邑を圍み、十來天を經過して雷雨を見ざれば、城中神明の輔佑有るを説明し、應に趕快撤離すべし。出征啟程するあの日、細雨の衣裳を沾濕する有るは、是れ軍隊の獲勝するの征兆なり。若し狂風雷雨にして終日太陽を見ず、又辰・午・戌・亥の此れらの自刑の日に趕上せば、那是れ兵家の大忌なり。陣に臨むの際、忽然に陰氣四旁に彌漫し涌來し、牙旗の旗杆折斷し陰雲日を蔽い、旌旗忽起忽落するは、此是れ敗亡の征象なり。

慢風與氣從敵所俱來,我勝,急擊之。反是則凶。旌旗暈暈順風搖曳,舉向賊者,即擊之,勝也。大將牙旗之日,風勢順動,旌旗前指,鼙鼓之音清亮,此勝兆也。持此,可以勝定安三軍之心。

和緩の風と雲氣と一同に敵方より我方に吹到すれば、我軍の獲勝を主り、應に趕緊に攻擊すべし。之に反れば就ち凶なり。旌旗光影閃動して風に順って搖曳し、旗頭敵軍を指向せば、就ち立即に攻擊して、以て取勝し得べし。大將牙旗を樹立するあの日、風勢順暢にして、旌旗前方を指向し、鼙鼓の聲清亮なるは、此是れ取勝の兆にして、此れらを把握住すれば、就ち以て穩く勝算を操り三軍の心を安定し得べし。

風旋塵如穗如蛇形,屈屈來漾者,凶,急備之。風來卑而掃地者,敵兵至,速高則來緩。營中大風折木者,大將失位。風無常而無定者,賊即至。合戰之際,大風晝昏揚塵沖敵,大勝。反是凶。兵初至,所伐之城天色陰翳,又無風而細雨空濛者,軍將敗。若初臨敵而大雷雨隱而至者,大勝之兆也。有旋風入營,折絕旗幟干戈,吹壞帳幕,必有盜賊入營,將死。

旋風塵土を卷起して、形如禾穗・形如長蛇にして、屈曲蕩漾して來れば、凶を主り、趕緊に防備するを要す。風の來ること低くして地に貼りて掃過せば、敵兵將に到らんとし而且來勢迅速を主る。風位偏高なれば、敵人就ち來ること慢し。營中大風樹木を吹斷せば、大將の職位を丟掉するを主る。風向變幻無常にして飄忽不定なるは、賊兵の隨卽到來を主る。兩軍交戰の際、大風白晝を昏暗せしめ塵土を揚起して直に敵方に撲せば、大勝を主る。之に反れば就ち凶なり。軍隊剛に到りて、攻めんと要する所の城池天色陰沉にして、又風無くして細雨迷蒙なれば、我軍將に敗れんを主る。若し初次敵に臨みて就ち大雷雨の隱隱として來る有れば、那是れ大勝の預兆なり。旋風の營中に卷入する有りて、旗幟と戈矛とを吹折し帳幕を吹壞せば、必ず盜賊の營中に混入する有るを主り、將領性命の危有り。

八節占風第一百八十九

候風之次(一作發),常於其節寅時候之。立春之日,位應艮宮,本宮綽綽然和風徐徐而至者,此之謂條風也。風自人門起者,軍民不利也。春分之日,位應震宮,本宮風來,抑之非低,之非高,習然得風者,此之謂明庶風也。明庶風應候,軍民寧泰之兆也。風自金門起者,軍民不利也。

節氣の風の次第を觀測するは(「次」は一本に「發」と作る)、通常あの節氣の當天の寅時に於て進行す。立春此の天は、方位艮宮に對應し、若し本宮方向の寬舒和暖の風緩緩に吹來せば、這就ち「條風」と叫作す。風「人門」の方位より吹起するは、軍隊と百姓とに對して利あらず。春分此の天は、方位震宮に對應し、若し本宮方向の風吹來して、壓下げるに低きと算せず抬起げるに高きと算せず、和順自然に風を得れば、這就ち「明庶風」と叫作す。明庶風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「金門」の方位より吹起するは、軍民に對して利あらず。

立夏之日,位應巽宮,本宮風至,陶陶然圓緩而不散亂者,此之謂清明風者也。清明風應候,軍民寧泰之兆也。風自天門起者,軍不利也。夏至之日,位應離宮,本宮風薰然融和而普者,此謂景風者也。景風應候,軍民寧泰之兆也。風自水門起者,軍民不利也。

立夏此の天は、方位巽宮に對應し、若し本宮方向の風到來して、融融然として圓轉和緩にして散亂せざれば、這就ち「清明風」と叫作す。清明風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「天門」の方位より吹起するは、軍隊に對して利あらず。夏至此の天は、方位離宮に對應し、若し本宮方向の風溫煦融和にして四方に遍及せば、這就ち「景風」と叫作す。景風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「水門」の方位より吹起するは、軍民に對して利あらず。

立秋之日,位應坤宮,本宮風來宣暢而諭(一作渝)者,此之謂涼風者也。涼風應候,軍民寧泰之兆也。風自鬼門起(一作來)者,軍民不利也。秋分之日,位應兌宮,本宮風來肅然者,此謂閶闔風也。閶闔風應候,軍民寧泰之兆也。風自木門起者,軍民不利也。

立秋此の天は、方位坤宮に對應し、若し本宮方向の風吹來して舒暢通達せば(「諭」は一本に「渝」と作る)、這就ち「凉風」と叫作す。凉風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「鬼門」の方位より吹起するは(「起」は一本に「來」と作る)、軍民に對して利あらず。秋分此の天は、方位兌宮に對應し、若し本宮方向の風吹來して肅殺清勁せば、這就ち「閶闔風」と叫作す。閶闔風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「木門」の方位より吹起するは、軍民に對して利あらず。

立冬之日,位應乾宮,本宮風潔清瑩爽而至者,此謂不周風者也。不周風應候,軍民寧泰之兆也。風自土門起者,軍民不利也。冬至之日,位應坎宮,本宮風來淒涼不怒者,此謂廣漠風者也。廣漠風應候,軍民寧泰之兆也。風自火門起者,軍民不利也。

立冬此の天は、方位乾宮に對應し、若し本宮方向の風潔淨清瑩にして爽利に至れば、這就ち「不周風」と叫作す。不周風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「土門」の方位より吹起するは、軍民に對して利あらず。冬至此の天は、方位坎宮に對應し、若し本宮方向の風吹來して凄清にして狂暴ならざれば、這就ち「廣漠風」と叫作す。廣漠風節候に按じて期の如く至れば、是れ軍民安寧康泰の預兆なり。風「火門」の方位より吹起するは、軍民に對して利あらず。

風之來也,順者為祥,逆者為妖。皆人志正邪也,然後通天地鬼神之心也。是以節之首日而占之,可以知其吉凶矣。行師者能以順正之道應乎天,欲風之不祥也,其可得乎!

風の到來は、本位に順應するは是れ祥瑞にして、本位に違逆するは是れ妖異なり。此れ根底に歸って人の心の正と邪とに取决す。人心端正にして、然る後纔か能く天地鬼神の心意を通達せん。ゆえに每箇の節氣の頭一天に於て風を觀測せば、就ち以てそれの示す所の吉凶を知るを得。兵を帶ぶる人若し能く正道に順應する方式を以て上天に回應せば、那麼風をして不祥の兆と變成せしめんと想うも、又怎麼能く可能ならんや。

時加占烏情第一百九十

巳酉為寬大之日,時加巳酉,烏鳴其上,有酒食;時加寅午,烏鳴其上,有酒食、禮讓;時加丑戌,烏鳴其上,有酒食、詞訟、口舌;時加卯亥,烏鳴其上,有酒食;時加辰未,烏鳴其上,有酒食,婦人口舌;時加申子,烏鳴其上,有酒食。

巳日・酉日是れ「寬大」の日なり。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主る。時辰寅・午の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食と禮讓の事と有るを主る。時辰丑・戌の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主り、兼ねて訴訟口舌有り。時辰卯・亥の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主る。時辰辰・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主り、倂べて婦人の口舌有り。時辰申・子の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主る。

寅午為廉貞日,時加廉貞,烏鳴其上,有王相長吏休廢,有諫諍責讓(一作釀);時加巳酉,烏鳴其上,有賓主;時加申子,烏鳴其上,有酒食,相殺;時加丑未,烏鳴其上,有賓主;時加丑戌,烏鳴其上,與上同;時加亥卯,烏鳴其上,有酒食。

寅日・午日是れ「廉貞」の日なり。時辰廉貞の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、王相の位に居る官長の罷免閒置せらるるに遭い、倂べて諫諍責備の事有るを主る(「讓」は一本に「釀」と作る)。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、賓主相會有るを主る。時辰申・子の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主り、もまた互相殘殺の事有り。時辰丑・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、賓主相會有るを主る。時辰丑・戌の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、上の一條と相同じ。時辰亥・卯の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主る。

丑戌為公正日,時加公正,烏鳴其上,有王相當其吉,長吏公事休廢,囚死者有來慰問事;時加巳西,烏鳴其上,有公正,酒食相遺;時加寅午,烏鳴其上,有公正慶賀事;時加辰未,烏鳴其上,有使(一作吏)士來說陰私事;時加申子,烏鳴其上有吏(一作人)來作公正事;時加亥卯,烏鳴其上,有士來說賊相殺事。

丑日・戌日是れ「公正」の日なり。時辰公正の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、王相の位に居る人正にその吉に當りて、而して官長の公事罷廢せられ、人の囚死者の爲に前來慰問する有るを主る。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、公正の事有るを主り、彼此酒食を以て相饋贈す。時辰寅・午の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、公正の慶賀の事有るを主る。時辰辰・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、使者士人の前來して隱私の事を陳說する有るを主る(「使」は一本に「吏」と作る)。時辰申・子の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、官吏の前來して公正の事を辦理する有るを主る(「吏」は一本に「人」と作る)。時辰亥・卯の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、士人の前來して賊寇の互相殘殺する事を陳說する有るを主る。

辰未為奸邪日,時加辰未,烏鳴其上,有王相來,長吏奸詐,休廢囚死口舌事;時加寅午,烏鳴其上,謙讓人說奸訟事;時加巳酉,烏鳴其上,有酒食、陰賊事;時加丑戌,烏鳴其上,有吏捕奸邪私事,陰謀鬥爭劫殺盜事;時加亥卯,烏鳴其上,除賊兵劫。

辰日・未日是れ「奸邪」の日なり。時辰辰・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、王相の位に居る人の到來有るを主り、官長事を行うこと奸詐にして、倂べて罷廢・囚死・口舌の事有り。時辰寅・午の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、謙讓の人の奸詐爭訟の事を陳說する有るを主る。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主り、もまた陰謀して人を害する事有り。時辰丑・戌の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、官吏の奸邪隱私の事を搜捕する有るを主り、倂べて陰謀・爭鬥・劫殺・盜竊の事有り。時辰亥・卯の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、賊兵劫掠の患を除去するを主る。

申子為貪狼日,時加申子,烏鳴其上,有言群盜攻劫,休廢囚死,有盜賊事;時加巳酉,烏鳴其上,有酒食、攻戰事;時加寅午,烏鳴其上,有善人說攻劫事;時加丑戌辰未,烏鳴其上,有婦人說群賊事;時加亥卯,烏鳴其上,有群賊攻奪事。

申日・子日是れ「貪狼」の日なり。時辰申・子の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、人の群盜攻劫を談論する有るを主り、倂べて罷廢・囚死および盜賊の事有り。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食有るを主り、もまた攻戰の事有り。時辰寅・午の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、善人の攻劫の事を陳說する有るを主る。時辰丑・戌・辰・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、婦人の群賊の事を談論する有るを主る。時辰亥・卯の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、群賊の攻奪する事有るを主る。

亥卯為陰賊日,時加亥卯,烏鳴其上,有王相說群臣大義,休廢囚死鬥傷事;時加巳酉,烏鳴其上,有酒食相傷;時加丑戌,烏鳴其上,有使逐賊相傷;時加寅午,烏鳴其上,有婦人奸私相傷事;時加辰未,烏鳴其上,亦如之;時加申子,烏鳴其上,賊攻討事。諸陰日有烏鳴,若群飛狩飄風門從四季上,時加四季,有攻奪,皆為開閉之事。

亥日・卯日是れ「陰賊」の日なり。時辰亥・卯の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、王相の位に居る人の群臣大義を講說する有るを主り、倂べて罷廢・囚死・爭鬥して人を傷る事有り。時辰巳・酉の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、酒食に因って互相傷害するを主る。時辰丑・戌の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、使者の賊寇を追捕して互相傷害する有るを主る。時辰寅・午の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、婦人の奸私して互相傷害する事有るを主る。時辰辰・未の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫するも、もまた是の如し。時辰申・子の位に加臨して、烏鴉上面に於て鳴叫せば、賊寇の攻擊討伐の事有るを主る。各箇の陰日若し烏鴉の鳴叫有れば、群鳥の驚飛と旋風の辰戌丑未の四季の方位より吹來するを加え、而して時辰又四季の位に加臨せば、攻奪の事有るを主る。此れら皆開闔啟閉の一類の事情に屬す。

運加占烏情第一百九十一

烏從子上來,大將不可震威武,敵來勿與戰,必不利。丑上來者,不宜出戰,兵進戰,內有陰謀將發,細察備之。寅上來者,吉音至。卯上來者,利進戰,大將有祿慶之事。辰上來者,有吉信至,營中忽見牛羊大吉,見死物凶。巳上來者,不利戰陣,兩軍俱傷。午上來,不利出兵。未上來,戰鬥主吉,客凶。申上來,不利出兵。酉上來,利出兵,有喜。戌上來,吏士有異心,潛備之。亥上來,不利戰。此十二辰位占烏之情也。

烏鴉子位の方向より飛來せば、大將逞威して武を動かす可からずを主り、敵人來るもそれと交戰するなかれ。交戰すれば必定利あらず。丑位の方向より飛來せば、出戰するに宜からず。若し兵を進め交戰せば、內部陰謀將に發作せんとする有り、細察して防備するを要す。寅位の方向より飛來せば、吉利の消息の到來有るを主る。卯位の方向より飛來せば、兵を進め作戰するに利し、大將加官進祿の喜慶の事有るを主る。辰位の方向より飛來せば、吉信の到來有るを主る。營中忽然に牛羊を見れば大吉にして、死物を見れば則ち凶なり。巳位の方向より飛來せば、陣を列ねて作戰するに利あらず、兩軍皆傷亡有らん。午位の方向より飛來せば、兵を出だすに利あらず。未位の方向より飛來せば、交戰主方に對して吉利にして客方に對して凶險なり。申位の方向より飛來せば、兵を出だすに利あらず。酉位の方向より飛來せば、兵を出だすに利し、喜事有り。戌位の方向より飛來せば、官吏士卒の二心有るを主り、暗中に防備するを要す。亥位の方向より飛來せば、作戰するに利あらず。這就ち是れ十二辰の方位に按じて烏鴉の示す所の情狀を占測するの方法なり。

常以怪字居甲上占之。假令甲子旬,即在子上是也。又若烏從四散並來到營上居,惡聲而止住之者,賊兵已入境矣。急飛過者,賊勇銳,疾如雷電,速為之備,但疾與戰,我可以勝。

占測の時通常旬首「甲」の落る所の位置を以て準と爲す。譬如甲子旬に逢えば、甲就ち子位上に落つ。另外、若し烏鴉四面より散亂して一齊に飛來して、營地の上空に停落し、惡聲を發出して停住して去らざれば、賊兵已に我境に進入せるを説明す。若し烏鴉急速に飛過せば、賊兵勇猛精銳にして來勢雷電の如く快きを説明し、迅速に防備を加以するを要す。但し只要速戰速決すれば、我軍就ち以て取勝し得べし。

鷙鳥飛來將軍牙帳上搏擊者,有賊,不可出戰。三足烏飛來營前後,謂之災飲烏也,賊將來至營中者凶,急備之。赤烏入營者,防奸人刺客。群鳥三三五五營上往來,無聲而四散者,吏士有逃潰之心。

猛禽飛來して將軍の牙帳の上空に於て搏擊せば、賊寇有るを主り、出戰する可からず。三足烏營前營後に飛到するは、これを「災飲烏」と叫作し、賊兵將に營中に打進せんとするを主り、凶にして、趕緊に防備するを要す。紅色の烏鴉營中に飛入せば、奸細と刺客とを提防するを要す。成群の鳥三三五五營上に於て往來して、聲を出さずして四散に飛去れば、官吏士卒逃亡潰散の心有るを主る。

鸛雀忽來營上作巢而鳴,速移營避之,大水至。烏至營棲於牙帳者,吏士謀,大將即有禍,速避之。烏鵲忽來炮上作巢者,吏士謀,大將潛驗之。方戰之時,有白鳥狀如鷹,飛赴敵者,並力擊之,大勝兆也;自敵來赴我者凶,急退軍勿戰。

鸛雀忽然に營上に飛到して巢を筑き鳴叫せば、迅速に營を移して躲避するを要し、大水將に至らんを主る。烏鴉營中に飛到して牙帳上に栖息せば、官吏士卒暗中に謀有るを主り、大將隨卽禍有らん、迅速に回避するを要す。烏鵲忽然に飛來して砲車上に巢を筑けば、官吏士卒暗中に謀有るを主り、大將應に私下に查驗すべし。正に交戰の時に當りて、白色の鳥形狀鷹の如き有りて、敵方に向かって飛べば、就ち合力して出擊せよ。此是れ大勝の兆なり。若し敵方より我方に飛來せば、則ち凶にして、趕緊に兵を退きて交戰するなかれ。

(圖缺)

(此處原有附圖、今已に散佚す。)

雜占烏情第一百九十二

出師之日,烏於軍前逆飛者,征無功;在左則吉;在右則凶。逆軍而作惡聲“查查”者,大凶兆也。或從右發聲和順,自大將後而過左復聲者,大兵有慶之兆也。烏及相呼“於”(一作子)者,吉也。烏於軍前,一足卓立地者,進必(一作不)寇者。在枯卉上鳴者,凶。

兵を出だすあの日、烏鴉軍前に於て迎い面して逆飛せば、出征功無きを主る。左邊に飛べば就ち吉利にして、右邊に飛べば就ち凶險なり。軍隊を迎えて「查查」の惡聲を發出するは、是れ大凶の兆なり。若し烏鴉右邊より和順の叫聲を發出し、大將の背後より左邊を飛過して再次鳴叫せば、此是れ大軍喜慶有るの預兆なり。烏鴉彼此呼應して「於」の叫聲を發出すれば(「於」は一本に「子」と作る)、吉利なり。烏鴉軍前に於て單腳地上に直立せば、軍を進めば必定に敵寇に遭遇するを主る(「必」は一本に「不」と作る)。枯草枯木上に於て鳴叫するは、凶なり。

振迅疾飛,視顧周陣而不止者,前賊也。烏來牙旗上立者,急移營避之,其地不祥。烏立牙帳上作惡聲者,有吏士潛謀逆,速搜驗之,必得奸狀。烏來鼓角上鳴者,將軍、吏士心雄益奮也;器械上鳴者,即有戰陣也;繞營而飛鳴者,所來之處賊兵至也。凡烏之來,大將別令一人候之。此皆能通天地鬼神之情者也。

烏鴉翅を振りて疾飛し、全陣を環視して盤旋して止まざれば、前方に賊寇有るを主る。烏鴉飛來して牙旗上に立てば、趕緊に營を移して躲避するを要し、此の地方吉利ならず。烏鴉牙帳上に立ちて惡聲を發出せば、官吏士卒の暗中に謀反する有るを主り、迅速に搜查核驗して、必定に能く奸情を查出せん。烏鴉戰鼓・號角上に飛到して鳴叫せば、將軍と官吏士卒の鬥志更加昂揚するを主る。兵器上に於て鳴叫するは、隨卽戰陣有らん。營地を繞りて飛鳴するは、それの飛來する方向に賊兵の到來有るを主る。凡そ烏鴉の飛來するは、大將皆別に一人を派して專門に觀測せしむるを要す。此れら皆是れ能く天地鬼神の情狀を通達するの方法なり。

時加占烏情第一百九十三

登明方鳴者,凶;神后、大吉、功曹等方者,大沖、天罡太乙方者,勝光、小吉、傳送方者,吉;從魁、河魁方者,凶。更看神與月將相剋。假令登明是凶神,在寅卯申酉即相生為吉也。假令傳送是吉神,在寅卯巳午即相剋為凶也。他皆仿此。宜細認方位,辯其吉凶。

烏鴉「登明」(亥)の方位に於て鳴叫すれば、凶なり。「神后」(子)・「大吉」(丑)・「功曹」(寅)の等の方位に於て、「大衝」(卯)・「天罡」(辰)・「太乙」(巳)の方位に於て、および「勝光」(午)・「小吉」(未)・「傳送」(申)の方位に於ては、皆吉なり。「從魁」(酉)・「河魁」(戌)の方位に於ては、凶なり。還って再び十二神將と當月の月將との間の生克の關係を看るを要す。譬如登明本是れ凶神なるも、若し寅・卯・申・酉の位に落れば、就ち相生に因って吉と轉ず。譬如傳送本是れ吉神なるも、若し寅・卯・巳・午の位に落れば、就ち相克に因って凶と轉ず。其餘皆此に照らして類推せよ。應當に仔細に方位を辨認し、それの吉凶を分辨すべし。

六甲占烏情第一百九十四

(六甲自圖在第八卷,但以圖按其方可也)(圖缺)

(六甲各々の圖形本書の第八卷に載す。ただ圖に照らして相應の方位を核對すれば即ち可なり。)(此處原有附圖、今已に散佚す。)

烏在上鳴者,賊聞不來,與戰大吉。鳴者,合有吉音,無他戰陣。鳴者,喜信之兆也。鳴者,防慎,在內當有細人潛為賊應,不然有謀叛者,察防之。鳴者,軍無他戰。鳴者,有賊信者,當有戰陣。鳴者,聞賊不來,急備之,不利戰,凶兆也。鳴者,亦慎之,或有小盜,必殺之,不然當有大驚。鳴者,防吏士亡遁。鳴者,將有戰之事,主吉。鳴者,有賊信者。鳴者,防內有奸人潛為賊應,謹備之。

(以下各條原本每條の前各々一箇の甲位の名を標し、插圖と一倂に散佚し、如今各條ただ「鳴者」此の句式のみ殘る。)烏鴉此の位上に於て鳴叫せば、賊寇寇風を聞きて來らざるを主り、それと交戰すれば大吉なり。此の位に於て鳴叫するは、應當に好消息有るべく、別の戰事無し。此の位に於て鳴叫するは、是れ喜信の預兆なり。此の位に於て鳴叫するは、提防謹慎するを要す。內部當に細作の暗中に敵人の內應を充當する有るべく、不然なれば就ち是れ人の叛變を圖謀する有りて、須く察訪防範すべし。此の位に於て鳴叫するは、軍中別の戰事無し。此の位に於て鳴叫するは、賊寇に關する音信有りて、將に戰陣有らん。此の位に於て鳴叫するは、雖も賊寇來らざるを聽説するも、仍ほ趕緊に防備するを要し、作戰するに利あらず、是れ凶兆なり。此の位に於て鳴叫するも、もまた慎重するを要し、或いは小股の盜賊有らん、必ず剿殺するを須し、不然なれば大きな驚擾有らん。此の位に於て鳴叫するは、官吏士卒の逃亡を防備するを要す。此の位に於て鳴叫するは、將に戰事有らん、吉を主る。此の位に於て鳴叫するは、賊寇に關する音信有り。此の位に於て鳴叫するは、內部奸人の暗中に敵人の內應を做る有るを防ぎ、謹慎に防備するを要す。

夫占烏之法,立營之地,非烏所巢而有烏來鳴,方可論占。若聚林群烏之所棲泊,而嘲囂無常者,不足占也。

大凡烏鴉を占測するの方法は、營を扎する地方に於て、本是れ烏鴉の巢を筑く處に非ざるに烏鴉の飛來して鳴叫する有って、纔か以て占斷に據る可し。若し是れ叢林の中の群烏の栖息停泊する地方なれば、それらの喧鬧嘈雜本常態無くして、就ち此に據って占断するに足らず。

誓文第一百九十五

有虞氏戒於國,夏后氏誓於軍,殷人誓於軍門之外,周人將反刃而誓。所誓不同,吾從周誓之誓曰:惟天至仁,亭毒萬物,其有逆於道德者,激霆以震之;惟神至幽,遊息六氣,其有淫於禍亂者,潛靈以殛之;惟王至明,順恤九服,其有悖於教化者,興師以察之。此四者同條而共貫也。

有虞氏(虞舜)は國都の內に於て將士を告誡し、夏后氏(夏禹)は軍中に於て宣誓し、殷人は軍門の外に於て宣誓し、周人は則ち陣に臨み刀刃を翻轉する際に於て宣誓せり。各代宣誓の場合相同じからず。我周人の誓法を採用す。誓詞説く、上天最も仁愛にして、萬物を養育長成し、凡そ道德に違逆する有れば、就ち雷霆を激起して以て它を震懾す。神明最も幽深にして、六氣の中に於て游行止息し、凡そ沉溺して禍亂する有れば、就ち暗中に神靈を降下して以て它を誅殺す。君王最も聖明にして、「九服」の內の百姓を順應體恤し、凡そ敎化を背離する有れば、就ち兵を發して它を查辦しに往く。此の幾條の道理は、本是れ同じく一條の脈絡にして底に到るまで貫穿す。

是知軍(一作君)天下者,揮長戈以賓不臣,未為不善也;滌穢滓以廣王化,未為不嘉也。今孽虜不庭,亂常反德,吾為天子恭行天討,誓翦大憝,決垂元功。即出(一作即)凶門,已即敵境,諮爾眾士:用命賞於祖,弗用命戮於社。生死榮辱在是,一舉勿使自躓,為邦之羞爾。其勉之,勉之。

此に由って知る、軍を統べ天下を治理する人は(「軍」は一本に「君」と作る)、長戈を揮動して臣と稱するを肯ぜざる人を歸服せしむるは、説く好からずと爲す能わず。汚穢渣滓を滌除して以て王道敎化を推廣するは、説く美ならずと爲す能わず。如今叛逆の賊虜來りて朝覲せず、綱常を擾亂し道義を背棄す。我天子の命を奉じて上天の討伐を恭行し、此れらの元凶巨惡を剪除するを發誓し、首功を建立するを決意す。如今已に「凶門」(軍隊の出征の鑿る臨時の門道)を出でて、敵境に到れり。爾の衆位の將士を告誡す。軍令に聽從するは、就ち祖廟の前に於て賞を受く。軍令を聽かざるは、就ち社壇の前に於て處死す。生と死・榮と辱と皆此に係る。此の一戰切に自己失足して跌倒し、國家の恥辱と成ることなかれ。爾努力せんか、努力せんか。

祭毘沙門天王文第一百九十六

維年月日,某宮謹以香火蔬果祭於毘沙門天王:惟天王神靈通暢,威德奮震,據大陰之正位,降普天之妖魔。左手擎塔,尊神顯於西土;右手仗戈(一作戟),赫天威於北方。一舉而群魔駭,再舉而沙界裂。目激電以日暗,髮聚藍而雲委。卓犖萬古,鬱稱亢神。

某年某月某日、某官謹みて香火・蔬果を用いて毘沙門天王を祭祀す。天王神靈通達礙無くして、威德奮發震動し、太陰の正位を占據し、普天下の妖魔を降伏す。左手塔を托して、尊神西方に於て靈を顯し。右手戈を執りて(「戈」は一本に「戟」と作る)、北方に於て天威を顯耀す。一たび手を擧げて群魔驚駭し、再び手を擧げて恒河沙數の世界それの爲に開裂す。目光電の如く激射して、白日を昏暗せしむ。髮絲青藍に凝聚して、雲の垂布するが如し。卓越超絕して萬古に於て、盛大に至高の神と尊稱せらる。

今妖孽未除,生靈塗地,凶聲逆氣,溢天而浮。皇帝命某領雄師權剿戳群黨,大勛未立,壯心徒奮。天王受佛敕印,廣揚通尚,能卷大地於掌中,納須彌於芥子。今此小醜,豈不能祛?伏惟降慈悲心,救眾生苦,開大神力神兵,右回左旋,翦滅賊眾,脫苦惱於刀兵之劫,發濟投於風火之輪,則某也處心歸依,實在此日。尚饗。

如今妖孽未だ鏟除せず、生靈塗炭にして、凶惡の聲と悖逆の氣と彌漫して上浮して天際に到れり。皇帝某を命じて精銳の大軍を統領せしめ、暫く此の夥の賊黨を剿殺す。然而して大功未だ立たず、壯心空しく自ら激奮す。天王佛陀の敕命印信を領受し、崇高の敎法を廣弘し、能く大地を掌中に卷入し、能く須彌山を一粒の芥子に納入す。如今此の幾箇の小丑は、難道還だ驅除する能わざらんや。懇請して天王慈悲の心を降下して、衆生の苦難を救度し、大神力を展開し神兵を遣出して、左旋右轉して、賊衆を剪滅し、百姓をして刀兵劫難の苦惱を脫離せしめ、心を發して救濟してそれを風火の輪に投ぜん。那麼某一心歸依するは、正に是れ今天に在り。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭風伯雨師文第一百九十七

年月日具官某,謹以牲牢(一作羊)香酒之奠祭於風伯、雨師之神:惟神箕、畢之精,陰陽之粹也,動息無間,遊潛大虛。大塊噫氣,鼓天地以發籟;飛龍在天,合雲雷而作解。茫茫禹跡,民其賴之。

某年某月某日、具官某、謹みて犧牲(「牢」は一本に「羊」と作る)と香酒の祭奠を用いて、風伯・雨師の神を祭祀す。二位の神靈是れ箕宿・畢宿の精氣にして(古人箕星を以て風を主り畢星を以て雨を主ると爲す)、是れ陰陽二氣の精粹にして、運行と止息と從來間斷せず、太虛の中に遨游潜行す。大地氣息を吐出して、天地を鼓動して萬種の聲響を發出す。飛龍天に騰躍して、雲雷を會合して紓解鬱結の甘霖と化作す。茫茫たる九州大禹足跡の到る所は、百姓皆二位の神靈に仰賴す。

今某出師有期,惟靈是丘,冀神陰嘉(一作佳),以贊我師旅。或則駕舟楫、濟巨川,神其施九竅之怒號;或則陟岑、厲險阻,神其減十期之滂霈。然後扇腥羶之氣,如塵揚空,抽凶奴(一作妖)之血,為波註海。大事茍濟,敢忘元貺?尚饗。

如今某兵を出だす已に定期有りて、ただ神靈を以て依歸と爲し、神明の暗中の嘉佑を希望し(「嘉」は一本に「佳」と作る)、以て我の軍旅を襄助せ來れ。ある時は舟楫を駕し大川を渡らんと要し、神に施展して萬竅の怒號するが如き順風を請う。ある時は山嶺を登り險阻を越えんと要し、神に減少して連日の滂沱大雨を請う。然る後敵人の腥羶の氣を扇動して、它をして塵土の一樣に空中に飄散せしめ、凶頑奴寇の血を抽盡し(「兇奴」は一本に「兇妖」と作る)、它を以て波濤と爲して大海に注入せしめん。大事若し辦成せば、怎敢神明の厚賜を忘記せんや。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭山川神文第一百九十八

年月日具官某,謹以牲牢香酒之奠祭於山川當境之神:始疏山浚川,所以應天文,裂地紀,限夷夏,宣風雨,惟神者必靈,有祈者必應。蓋山川為之府,人為神之主也。禍淫福善,神其掌之。

某年某月某日、具官某、謹みて犧牲と香酒の祭奠を用いて、本境の山川の神を祭祀す。當初山脈を疏通し河川を開浚するは、是れ上に天文星象に應じ大地の綱紀を劃分し華夏と夷狄とを界定し風雨の時令を宣布するを爲す。凡そ神と稱し得べきは必定に靈驗にして、凡そ祈求有るは必定に應驗を得到す。因りて山川是れ神靈の府第にして、而して人則ち是れ神靈の主司する所の對象なり。淫邪の人に禍を降し善良の人に福を賜うは、此れ正に神靈の掌管に歸す。

故聖人列於典禮,國家配於群望,所冀發善者之福神,殲不善之尸骨。惟神景天地之命,為山川之靈,監我懇誠,贊我兵力,使收功於須臾,馘元惡於頃刻。尚饗。

ゆえに聖人山川の祭を典禮に列入し、國家それを諸多の望祭の列に配享す。指望する所は、就ち是れ善を行う人をして福神の護佑を得到せしめ、不善の人をして身死骨滅せしむるなり。神靈天地の命令を敬奉し、山川の靈主と作爲して、我の懇切の誠意を鑒察し、我の兵力を助長し、我をして片刻の間に戰功を收取し頃刻の間に元凶の首級を割取せしめよ。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭黃帝文第一百九十九

年月日具官某,謹致祭於黃帝之神:惟神天資懿睿,首弄兵戎(一作戌),敷演三才,披攘九極,陶精頤(一作積)粹,嶷立古。雖蹈之不腆,(一作實)伊聖之有作。

某年某月某日、具官某、謹みて此に黃帝の神に致祭す。黃帝天資美好睿智にして、最早に兵戎を創制して運用し(「戎」は一本に「戌」と作る)、天・地・人の三才の道を敷布推演し、九方邊極の患を排除開闢し、精氣を陶冶し淳粹を涵養し(「頤」は一本に「積」と作る)、巍然として遠古に屹立す。後人雖も其の法に遵循して未だ豐盛完備する能わざるも、但し此れ畢竟是れ聖人の開創の功なり(此の句原文已に脫訛有り、「不腆」の下一本に多く「實」の一字有り)。

方今天人合發,夷夏稱忠,隱幽於黃屋之尊,告廟起白旄之命。惟神素章元聖,開闢往世,驅(一作馳)逐凶慝(一作逆),揄揚天功,綿歷千載(一作祀),光靈不泯。陰垂嘉,以贊我師旅,收闢土地,誅鋤鯨鯢,幽明合誠,幸享多福。尚饗。

當今上天と人事と一同に興發し、華夏と夷狄と皆忠義を稱頌し、天子黄屋車蓋の尊位に安居して、宗廟を告祭して白旄授鉞の將命を頒下す。黃帝素來彰顯して元始聖君と爲り、往古の世を開闢し、凶惡の徒を驅逐し(「驅」は一本に「馳」と作り「慝」は一本に「逆」と作る)、上天の功業を宣揚し、綿延して千載を歷經し(「載」は一本に「祀」と作る)、神靈の光輝曾て泯滅せず。懇請して暗中に嘉佑を降下して、以て我の軍旅を襄助し、土地を收復開拓し、凶頑首惡を誅除鏟滅し、幽冥と人世とをして誠意相合せしめ、幸いに衆多の福祉を享受せしめよ。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭蚩尤文第二百

年月日具官某,謹致祭於蚩尤之神:惟神雄材(一作才)自任,命世特立,卓絕萬古,鬱為人豪。在昔(一作官)炎靈不禦,土(一作禦)德丕熾,公鄙自天之職,纂即戎之緒,足蹴九土,手掉五兵,而奮臂一呼,四溟飛水,瞑目再顧,兩曜暗色,籲氣而煙霧蒸,吹蠡(一作角)而風雨作,金虎亦病,神龍亦屠。然公之丙靈,實(一作寶)萬萬世不泯。冀垂嘉,贊衛我師,獲虜樹勛,戴答(戴一作以)神貺。尚饗。

某年某月某日、具官某、謹みて此に蚩尤の神に致祭す。蚩尤雄才を以て自ら任じ(「材」は一本に「才」と作る)、運に應じて生れ卓然として獨立し、萬古を超絕し、盛大に人中の豪傑と成る。當年(「昔」は一本に「官」と作る)炎帝の神靈已に天下を統御する能わず、土德正に熾盛の時に(「土」は一本に「禦」と作る)、公上天の授くる所の職分を鄙棄し、兵を興して征戰するの事業を承接し、雙足九州の大地を踏遍し、雙手刀・劍・矛・戟・矢の等の五種の兵器を揮舞す。臂を奮いて一呼すれば、四海の水それの爲に飛騰す。目を閉ぢて再顧すれば、日月兩曜それの爲に暗淡す。一口の氣を呼べば煙霧蒸騰し、號角を吹響すれば(「蠡」は一本に「角」と作る)風雨驟起す。金虎をしてもそれの爲に衰病せしめ、神龍をしても屠戮に遭わしむ。然而して公の英靈は、實に是れ萬萬世泯滅する能わざるなり(「實」は一本に「寶」と作る)。懇請して嘉佑を降下して、我軍を佑助護衛し、敵虜を俘獲し功勳を樹立せしめよ。我必ず厚禮を以て神明の賜予に報答せん(「戴」は一本に「以」と作る)。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭八神文第二百一

年月日具官某,謹致祭於八方之神:兩儀設象,八卦成文,中含粹氣,結為神靈。聖君則之,以奠萬民。悠悠奸醜,敢有不賓,逆天反道,罹殃道。吾今有告,神順所聞。天門地戶,人門鬼戶,震靈(一作雷)洞洞,火靈郭郭。水澤之神,聚類合鮮,沱沱大極,靈氣詵詵。掃殄凶,廓清妖氛(一作氣)。神靈之,神靈之。尚饗。

某年某月某日、具官某、謹みて此に八方の神に致祭す。天地兩儀形象を設立し、八卦文理を形成し、其の中精粹の氣を含蘊し、凝結して神靈と成る。聖明の君主此に法を取りて、用いて萬民を安定す。あの收斂を知らざる奸邪醜類は、竟も敢て歸服するを肯ぜず、天意に違逆し正道を背棄す。理當に災殃を遭受すべし。我今事有りて禀告し、神靈の我の祈求に順應せんを願う。天門・地戶・人門・鬼戶の四方の位に、震卦の雷神轟轟として響き作し(「靈」は一本に「雷」と作る)、離位の火神赫赫として燃燒す。水澤の神は、同類を聚合し鮮明の氣を匯集し、浩浩蕩蕩として直に太極に通じ、靈氣紛紜衆多なり。凶。凶頑を掃蕩殲滅し、妖氛を廓清せよ(「氛」は一本に「氣」と作る)。願わくは神靈成全したまえ、願わくは神靈成全したまえ。請う此の份の祭品を享用したまえ。

祭當境神文第二百二

年月日具官某,謹備酒牢奠祭於當境山川之神:惟神受天明命,辯位司民。禍淫福善,神之恆德。今奸醜肆暴,聚謀不軌,汙瀆我境土,虜掠我生(一作士)庶,尚未伏鎖授(一作誅報)首。豈神禍淫之道耶?

某年某月某日、具官某、謹みて酒醴と犧牲とを備えて、本境の山川の神に奠祭す。神靈上天の明命を領受し、方位を辨定し百姓を主管す。淫邪の人に禍を降し良善の人に福を賜うは、此是れ神靈の恆久不變の德なり。如今奸邪醜類肆意に暴を施し、衆を聚めて不軌を圖謀し、我の疆土を玷污褻瀆し、我の百姓を擄掠して(「生」は一本に「士」と作る)、今に至るまで還だ束手して縛に就き法を伏して首を授げず(「鎖授」は一本に「誅報」と作る)。此れ難道神靈の淫邪に禍を降すの道理に合乎せんや。

俾我元戎,肅壇命將,提戈遠征,大憝未誅,元勛未輯。豈神福善之道耶?今某虔統大軍,以涉靈境,固當饗我血薦,潛勃其力,贊應天之兵,誅悖道之虜,則神正直之方是乎在。尚饗。

以て朝廷我此の主帥をして祭壇を整肅し將領を任命せしめ、戈を提げて遠征せしむるに致るも、而して元凶巨惡未だ誅除せず、首功未だ成就せず。此れ難道神靈の良善に福を賜うの道理に合乎せんや。如今某虔誠に大軍を統率して、神靈の管轄する所の境域に進入す。神理當に我の血食祭獻を享用して、暗中に神力を奮發し、此の支の天意に順應する軍隊を襄助して、正道を背離する賊虜を誅滅せしむべし。那麼神靈の正直の品格就ち此處に體現せらるるなり。請う此の份の祭品を享用したまえ。

禡牙旗神第二百三

年月日具官某,謹丘於牙旗之神:昊天有命,澤元王,純精播祉,元德勝光。蕞爾醜虜,取(一作敢)謀亂常,麈驚黔首,鼠嚙邊疆。天子命我仗鉞專徵,耀厥威武,討彼不庭。

某年某月某日、具官某、謹みて此に牙旗の神に祭告す(「禡」是れ軍隊の出征する時旗纛を祭祀するの典禮なり)。上天明命を降下し、恩澤元首の王に及ぶ。純粹の精氣福祉を播布し、元始の德行光明に勝る。あの渺小の醜虜は、竟も敢て綱常を擾亂せんと圖謀し(「取」は一本に「敢」と作る)、麈鹿の如く百姓を驚擾し、老鼠の如く邊疆を啃囓す。天子我を命じて節鉞を持して專ら征伐を主らしめ、我軍の威武を光耀し、あの朝に來るを肯ぜざる人を討伐せしむ。

嘗聞天地福謙,鬼神害盈,善終其,惡殄其生。諮爾(一作示)陰,固將效靈。召太乙,呼雷公,馳白虎,走青龍,玄龜鎮後,朱雀沖前,濯蕩蛟日,掃除妖虹,兵不血刃,告厥成功。神其知之,鑒於尚饗。

曾て聞く、天地謙遜の人に福を降し、鬼神驕盈の人に害を加え、善良の能く善終を得、凶惡の斷絕して性命せらるると。爾此の位の神靈を告請して冥冥の中に於て(「爾」は一本に「示」と作る)務必靈驗を顯現せよ。太乙を召來し、雷公を呼喚し、白虎を驅馳し、青龍を奔走せしめ、玄龜後方を鎭守し、朱雀前に於て衝殺し、蛟龍の患を滌蕩し、妖虹の異を掃除し、兵刃を血せずして成功を奏報するを做到せよ。願わくは神靈此の一切を知曉し、明鑒して此の份の祭品を享用したまえ。

禡門旗文第二百四

年月日具官某,謹丘於門旗之神:惟神奠兵作元,揚靈戎首,闢向方之正位,立凶器之寵規。指顧師徒,予實賴汝。今醜黨尚肆,長氛未清,是致伐鼓建牙,聲唬秉律,藉神陰,俾建殊功。誠宜磨五兵之虛,比三軍之氣,納羊犬之地,載扇華風,鎖鯨鯢之尸,盡為京觀。神其聽之,尚饗。

某年某月某日、具官某、謹みて此に門旗の神に祭告す。神兵事を奠定し根本を開創し、軍旅の首に於て威て威靈を揚起し、朝向の正位を開闢し、兵器此の「凶器」の應に遵循する所の法度を樹立す。全軍將士を指揮調度するは、我實に皆爾に仰賴するを要す。如今醜惡の賊黨仍ほ恣肆に在り、長久の妖氛未だ廓清せず。此に因って纔かに鼓を擊ちて牙旗を豎起し、聲威赫赫として軍法を執守し、神明の暗中の護佑を憑借して、我をして特殊の功勳を建立せしめよ。理當に刀・劍・矛・戟・矢の五種の兵器の鋒刃を磨礪し、三軍の士氣を整齊し、あの羊に似て犬に似る化外の地を收納し、進んで華夏の風敎を傳布し、巨寇の屍首を鎖取して、全部京觀を堆築せよ。願わくは神明此の番の話を聽到し、請う此の份の祭品を享用したまえ。

禡五方旗文第二百五

年月日具官某,謹丘於五方旗之神:惟神稟命昊穹,實同所識。體國經野,正位辯方。前指則摧撲兇頑,當位則表列師旅。伊靈有用,由古賴諸。我國家自奠丕基,遐宣惠正,鯨霄鰲柱,總八極以天臨;木口金鈐,震九疆而雷動。方資廣被,孰敢不賓?

某年某月某日、具官某、謹みて此に五方旗の神に祭告す。神蒼天の命令を禀受し、實に天意と相通ず。都城を規劃し郊野を經理し、方位を端正し四方を辨別す。旗頭前に指せば就ち能く凶頑を摧折し、各々本位に居れば就ち能く軍隊の行列を標示す。此の份の靈威自ら大用有りて、自古以來皆它に仰仗す。我朝自ら宏大の基業を奠定してより、恩惠と政令とを遠播し、鯨の雲霄を騰がり鼇の天柱を撑るが如く、八方の極遠の地を總攬して天の覆臨するが如く、木契金鈐の此の樣の兵符を執掌し、九州の疆域を震動して雷の奮動するが如し。正に覆被の德を廣施せんと當るに、誰れか還だ敢て來りて歸服せざらん。

何羊犬之游魂,釁腥羶而背惠。鈐宗既興於嘯聚,在予載掌於車徒。戎有徵事,馘元無爽。冀神垂,陰贊六師。奮朱雀以前驅,命玄龜以後殿,青旆鼓蒼龍之氣,素旌宣白虎之威,黃龍鎮中,為我軍主。誠宜內順指顧,外威奸雄,一揮而龍塞生塵、窮虜罄覆,載鼓而狼居破膽、敗虜磨驚,掃大憝於陬隅,耀殊勛於簡牘,廓清萬里。藉神之靈,尚饗。

何を爲るや還ってあの羊に似て犬に似る游魂有りて、腥羶の氣を散發して恩惠を背棄するや。既に賊首已に衆を聚めて嘯叫して起れるに因りて、我此處就ち車馬步卒を掌管して前に往きて征討す。軍中征伐の事有れば、元凶の耳を割取して絕對に落空せず。懇請して神明垂佑して、暗中に六軍を襄助せよ。朱雀を奮起して以て前驅と爲し、玄龜を命じて後方を殿護せしめ、青色の旗幟蒼龍の氣を鼓蕩し、白色の旌旗白虎の威を宣揚し、黄龍中央を鎭守して、以て我全軍の主帥の象と爲せ。理當に內に對して指揮調度に順應し、外に對して奸雄を威懾し、旗を一たび揮すれば龍城要塞塵土飛揚して窮寇盡く傾覆せられ、鼓を一たび擊てば狼居胥山の敵人風を聞きて膽を喪い敗虜驚駭失措し、元凶を邊遠の角落に掃除し、殊功を史册簡牘に照耀し、萬里の疆土を廓清せよ。此れ皆神靈の力を憑借するを要す。請う此の份の祭品を享用したまえ。

禡六纛旗文第二百六

年月日,某謹丘於六纛之神:夫行殺氣者北方,表戎事者大纛。是故以黑於飾,順其位也;為君之表,嚴其令也。師徒撙節,右在於誠。宣我大用,威彼元兇。所當者皆摧,所指者皆靡。則神順成之功,斯亦至矣。尚饗。

某年某月某日、某謹みて此に六纛の神に祭告す。肅殺の氣を施行する是れ北方にして、軍旅の事を標志する是れ大纛旗なり。ゆえに黑色を用いて它を裝飾するは、是れ北方の位に順應す。それを以て主帥の表識と作爲するは、是れ號令を嚴明にするを爲す。全軍將士節制を謹守するは、關鍵就ち一箇の「誠」の字に在り。我軍の大用を宣揚して、あの邊の元凶を威懾せよ。抵當する所皆摧折せられ、指向する所皆掃平せらる。此の樣、神靈の順成の功もまた其の極に到達せり。請う此の份の祭品を享用したまえ。

禡五兵文第二百七

年月日具官某,謹丘於五兵之神:天道不訁舀,助厥元王。我作五兵,以徵四方。靈星為眾,刃名大房。角星示本,弓名曲張。二宿主弩,曰遠望。熒惑主矢,曰傍徨。彼長戟名大將,賴參星而抑揚。

某年某月某日、具官某、謹みて此に五種の兵器の神に祭告す。天道疑惑不定せず、必定にあの位の元首の王を佑助せん。我五種の兵器を制作して、用いて四方を征討す。靈星衆兵を統領し、刀刃名を「大房」と曰う。角星根本を昭示し、弓名を「曲張」と曰う。角・亢の二宿弩を主管し、弩名を「遠望」と曰う。熒惑箭矢を主管し、矢名を「彷徨」と曰う。あの長戟名を「大將」と曰い、參星を憑借してあるいは抑えあるいは揚ぐ。

今則羶腥聚臭,孛彗騰光,流血如水,傷骨成岡。茍不翦滅,孰為忠良?諮爾五兵,為天大刑,大玄之垂象,方子之淳精,順我動使,以撲不庭。神靈之,尚饗。

如今腥羶の徒一團に聚成して臭惡にして、孛星彗星妖光を騰起し、流血水の如く漫淌して、折傷の白骨堆積して岡を成す。若し彼らを剪滅せざれば、還って何の忠良を算さんや。爾の五種の兵器を告げよ。爾は是れ上天の施行する大刑にして、是れ太玄の道の垂示する星象にして、是れ四方の鍾聚する所の淳厚の精氣なり。我の調遣驅使に順從して、あの朝覲するを肯するを肯ぜざる人を撲滅しに往け。願わくは神靈成全したまえ、請う此の份の祭品を享用したまえ。

禡馬文第二百八

年月日具官某,謹丘於馬神:東方蒼龍,實曰天駟。考星史而立象垂休,觀大易則乾文取譬。懿伊馬之用功,為邦家之大利。何倥傯之邊陬,聚羶腥之黨類?列旗幟而星蕃,掉戈矛而蝟起,將耀武於三軍,當載揚於六轡。所賴者,穹昊儲禎,明神效祉。茍芻飲之葉宜,庶陰口之不昧。尚饗。

某年某月某日、具官某、謹みて此に馬神に祭告す。東方蒼龍の七宿の中に、名を「天駟」と曰う房宿有り。星象史籍を考察すれば、它立象して祥瑞を垂示するを知る可し。《周易》を觀れば、則ち乾卦の文馬を取りて譬喻と爲す。馬の功用實に美好にして、是れ國家の大利の所在なり。何を爲るや邊遠の地紛擾して寧まらず、あの腥羶の黨羽を聚集するや。彼ら旗幟を排列して繁星の如く多く、戈矛を揮舞して蝟毛の竪立するが如く密なり。我將に三軍の中に於て武威を耀揚せんと要し、正に六轡の駕馭する戰馬を靠って以て身手を一展するを要す。仰賴する所は、是れ上蒼の儲備する祥瑞・明神の賜予する福祉なり。ただ草料飲水調配宜しきを得ば、但願くば冥冥の中の護佑昏昧明ならざるに至らざらんことを。請う此の份の祭品を享用したまえ。

釁鼓文第二百九

年月日,某謹釁於鼓之神:三軍之威,職在鼓旗之用。靈為鬼神,塗血致誠。古之常典,以聲為度。兵之令儀,進退周旋,實在於爾。今則五兵暴露,群醜維橫(缺)。

某年某月某日、某謹みて牲血を以て鼓を塗りて、鼓神に祭告す(「釁」就ち是れ牲を殺し血を取りて器を塗りて以て祭を行うの禮なり)。三軍の威勢は、全て鼓と旗との運用に係る。鼓の中の憑依する所是れ鬼神にして、牲血を塗上するは是れ誠意を表達するを爲し、此是れ自古以來の常典にして、鼓聲を用いて號令の準度と爲す。軍中號令の儀法、進退回旋は、實に皆爾に取决す。如今五種の兵器已に外に陳列せられ、衆多の醜類橫行不法せり。(以下原文缺有り。)

回兵第二百一十

回兵,建五方旗,依色配方位。中央土位不動,故大將軍以黃旗為四旗之主,常使諸軍準望,知大將軍所在處回兵。

兵を收むるの時、五方旗を樹立して、各々の顏色に按じて相應の方位に配属するを要す。中央は土に屬し、その位固定して動かず。ゆえに大將軍黄旗を用いて其餘の四面の旗の主旗と作爲し、常に各軍をして它を以て準と爲して瞭望せしめ、大將軍の所在する位置を知りて、好んで以て兵を收むに據らしむ。

南方有賊,大將軍舉赤旗以應之;東方有賊,舉青旗應之;西方有賊,舉白旗應之;北方有賊,則舉黑旗應之。無賊常偃之。舉旗者令諸軍知賊所來也,旗卻偃即回。

南方に賊有れば、大將軍就ち赤旗を擧起して以て應對す。東方に賊有れば、青旗を擧げて應對す。西方に賊有れば、白旗を擧げて應對す。北方に賊有れば、就ち黑旗を擧げて應對す。賊情無き時は、此れらの旗常常に放倒す。旗を擧ぐるは是れ各軍をして賊兵の何れの方向より來るかを知らしめるを爲し、旗一たび放倒せば、各軍就ち立即に兵を收めて營に回る。

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