卷下・人中を論ず
夫人中者,溝洫之態,深則疏通,淺則遲延。〔人中者,若大川之溝洫,清流四瀆,潮接歸海,宜其寬深而長也。深則必致亨通,淺則應當困滯。〕淺短絕嗣而夭命,深長宜子以遐年。〔如其人中淺短者,絕嗣夭命。若得深長者,宜其子孫富貴,又當壽考。〕
賦文曰く、「人中」此の個部位、形狀田間の水溝の如し、溝深ければ則ち水流通暢、溝淺ければ則ち水行遲滯す。注文曰く、人中好比大河の溝渠、清水耳目口鼻此の「四瀆」に從り流出し、潮水一路接引して大海に歸入す(口は海を爲す)、故に人中宜しく又た寬・又た深・又た長ならん。人中深のは、事を做す必定亨通す。人中淺のは、一生困頓滯塞を免れ難し。賦文又曰く、人中淺にして短のは後を絕ち而且短命、人中深にして長のは子多く而且長壽。注文曰く、人中淺短の人子嗣を斷絕し・壽命長からず。人中深長の人子孫富貴・自己も亦た高壽を享く。
黑子難產乎蓐上,橫紋殍卒於道傍。〔凡人中者,月孛也。若人中有靨者,主其母產之難。若有橫紋截斷,必當餓死於途中。〕上狹下廣兮多後旺,下狹上廣兮屢孤眠。〔若人中上窄下寬者,主晚年發祿,子孫成群。如下狹上闊者,多為鰥孤之人。〕
賦文曰く、人中黑痣有るは、母親產褥上に在りて難產す。人中橫紋有るは、道路旁邊に餓死せん。注文曰く、人中星曜上に在りて「月孛」此の顆の凶星に配す。人中若し痣靨を生ずれば、彼を生むの時母親難產を主る。人中若し橫紋に截斷せられれば、此の人必定半路に餓死せん。賦文又曰く、人中上窄下寬の後代興旺、人中上寬下窄の常常獨眠無偶。注文曰く、人中上端窄・下端寬のは、晚年發達得祿を主り、子孫成群。反って下端窄・上端寬のは、多半會あり鰥居孤獨の人と爲らん。
深長者誠信著,寬厚者功名先。〔深長者著有誠信,寬闊者早立功名。〕微如一線之文,身填溝壑;明由破竹之仰,家世貂蟬。〔但人中微窄,如線之紋痕,主死填於溝壑之間。若如破竹之仰,長遠有稜理者,則祖庭高貴。〕
賦文曰く、人中深長の人誠信を以て著稱す、人中寬厚の人功名來ること早し。注文曰く、人中深にして長のは、誠實守信を以て聞ゆ。人中寬にして闊のは、甚だ早く功名を建立す。賦文又曰く、人中細きこと一條線の如きは、屍首須みに山溝裏に填むべし。人中明晰なること剖開の竹管仰放の如きは、家世貂尾蟬紋冠を戴くの顯宦出でたり。注文曰く、人中若し細窄なること只だ一道の線痕を餘さば、死後屍を溝壑の間に棄つるを主る。若し剖開の竹子仰面朝上の如く、深長にして兩邊棱有り理有れば、彼麼祖上門庭必定高貴なり。「貂蟬」是れ漢代侍中一類近臣冠上の飾物、借りて高官を指す。
卷下・口唇を論ず
唯口者,語言之鑰,是非之關。〔發言為開口之鑰,開口則是非無不至也。〕禍福之所招,利害之所詮。〔言為禍福之根,禍福乃利害之本。惟其人之所招故言不可不慎也。〕端厚寡辭者定免乎辱,誹謗多言者必招其愆。〔古人之辭寡,若能謹慎於寡辭者,定免乎恥辱。誹謗多言者,謂其專談人之過惡也。如是之人,必禍咎及身。〕
賦文曰く、口是れ言語の鑰匙、是非の關口。注文曰く、口を開きて話を說く、等しきこと鑰匙を用ゐて此の道の門を打開す。門一たび開けば、是非來らざる有る無し。賦文又曰く、口是れ禍福を招來するの地方、是れ利害を解釋するの所在。注文曰く、言語是れ禍福の根源、禍福又た是れ利害の根本。既然全く自己に由りて招來す、故に說話能く謹慎せざる可からず。賦文又曰く、端厚にして言少きの人必定羞辱を免れん、毀謗を好みて言多きの人必定自ら罪愆を招かん。注文曰く、古人言辭甚だ少し。若し能く謹守寡言すれば、必定恥辱を受けず。所謂「誹謗多言」、是れ此の種人專門別人の過失醜惡を議論するを說く。此の樣の人、災禍罪責一定自己身上に落到せん。
肥馬輕裘,由方成於四字;出將入相,蓋大容乎一拳。〔若乘肥馬,衣輕裘者,由其口若四字。出為將帥。入為宰輔者,蓋口大而能容其拳也。〕唇欲厚,語欲端,音欲朗,色慾鮮。〔唇貴乎秀厚,語貴乎端嚴,音貴乎高朗,色貴乎明鮮。〕上下紋交子孫眾,周匝稜利仁信全。〔唇上下紋交者,子孫甚眾。如周迴有稜利者,仁信皆全。〕
賦文曰く、能く肥馬に騎り・輕裘を穿つの富貴人、是れ口形方正「四」字の如きに因る。能く出でて大將と爲り・入りて宰相と爲るの人、是れ口大なること一隻の拳頭を容下する能くすに因る。注文曰く、肥壯の馬に乘り・輕軟の皮裘を著るの人、是れ彼の嘴生ずること「四」字の如く方正に因る。出外して統兵將帥を做り・入朝して輔政宰相を做るの人、是れ嘴大なること以て自己の拳頭を放進する可きに因る。賦文又曰く、嘴唇須みに厚、說話須みに端正、聲音須みに洪亮、唇色須みに鮮明ならん。注文曰く、嘴唇貴んで清秀豐厚、說話貴んで端莊嚴正、聲音貴んで高朗、氣色貴んで明淨鮮潤を。賦文又曰く、上下唇紋交錯の人子孫衆多、唇周棱角分明有るの人仁と信と俱全なり。注文曰く、上下唇の紋路互相交接のは、子孫甚多。嘴唇一圈邊緣棱有り角有り・界限分明のは、仁德と信義と皆齊備す。
璟血餘資,似括囊而貧薄;含丹多藝,如吹火以酸寒。〔唇如禋血者,主有殷富之資。如括囊者,貧寒孤苦。古相云:唇若含丹多技藝,口如吹火必孤寒。〕合勢欲小,開勢欲寬;狗貪馬餒,鼠讒蜂單。〔口不欲不收,故合勢欲其小,而開勢則欲其大也。凡人食物若似讒狗之狼餐,餓馬之喃草,如鼠蜂之偷食,皆下賤之相也。〕
賦文曰く、唇色紅潤血の如きは餘財有り、嘴扎緊の口袋の如きは貧寒單薄。唇色紅きこと朱丹を含むが如きは多才藝、嘴撮起して吹火の如きは酸楚寒苦。注文曰く、嘴唇顏色祭牲の血の如く鮮紅のは、殷實富厚の家資有るを主る。嘴扎緊袋口の如く緊縮のは、貧寒孤苦を主る。古相書曰く、唇丹砂を含むが如きは技藝多し、嘴吹火の如く撮るの人一定孤苦貧寒なり。賦文又曰く、口合上する時須みに小に顯れ、張開する時須みに寬に顯れん。喫相貪食の狗・飢餓の馬・偷食の鼠與蜂の如きは、皆好からず。注文曰く、嘴散漫不收す可からず、故に閉合するの時形勢須みに小・張開するの時形勢須みに大ならん。凡是れ東西を喫すること饞狗の如く狼吞・餓馬の如く咀嚼停まらず・鼠和蜂の如く偷偷摸摸は、皆是れ下賤の相なり。
大言寡信者略綽,無機促齡者偃蹇。〔如其口略綽不收,唇無稜理者,主自滿不謙,兇徒寡信。唇若偃蹇者,乃無機巧之人,又當夭壽。〕青黑禍發,黃白病纏。〔口唇青黑者,惡禍將至。色見黃白者,大病臨身。〕
賦文曰く、口形寬闊鬆散の人大話を說きて信用少なし、口唇仰翹收せざるの人機變に通ぜず而且短命。注文曰く、嘴巴寬大鬆弛・收束住せず、嘴唇又た棱線紋理無きは、此の人自滿不謙虛を主り、是れ信用少きの凶徒。嘴唇若し翹起不平なれば、是れ機巧變通を懂得せざるの人、而且壽命長からず。賦文又曰く、唇色青黑禍事發生を主り、唇色黄白疾病纏身を主る。注文曰く、口唇發青發黑のは、惡禍即將到來す。唇色黄中に白を帶ぶるを現出するは、重病就ち身に上らんと欲す。
左右紋粗定凶惡,上下急蕩多屯□□。〔其人之左右有粗紋者,定是兇徒之輩,多遭憲網。急蕩者謂不語而唇自動,多主孤苦之相。〕如鳥啄者高人終難共處,同劍鐔者義士可與交歡。〔若口如鳥啄者,難與為交。鐔者,劍之隔手。同劍鐔者,主有信義,宜與交。〕
賦文曰く、口の左右粗紋有るは必定凶惡、上下唇急促抖動のは多く屯难有り(此の句末二字底本殘缺、「□□」を作す、敢て臆補せず)。注文曰く、嘴角左右粗紋を生じ有るの人、一定是れ凶惡の輩、多半須みに刑法を觸犯し・法網に落入せん。所謂「急蕩」、是れ話を說かざるの時嘴唇自己抖動するを指す、此れ多半是れ孤苦の相を主る。賦文又曰く、嘴鳥喙の如く尖啄のは、高明の人終究彼と相處し難し。嘴形劍鐔の如きは、是れ義士、以て彼と結交する可し。注文曰く、嘴若し鳥の食を啄むが如く尖撮のは、之と交往し難し。「鐔」是れ劍柄と劍身との間の護手。嘴形劍鐔の如く端方界有るは、人と爲りて信義を講ずるを主り、應當彼と結交せん。
卷下・齒牙を論ず
惟壽算之先定,以牙齒之可觀。〔其於壽算故為前定,觀其牙齒而預可知矣。〕康寧者齊且密,賤夭者疏不連。〔康寧之人,其牙齒齊固而密。賤夭者,則稀少而疏。〕上覆下兮少困,下掩上兮晚鰥。〔上覆下者幼年困滯,下掩上者晚歲鰥寡。〕
賦文曰く、一個人の壽數早已注定、牙齒上に從りて就ち看出來るを得。注文曰く、壽命長短本是れ命裏先定、彼の牙齒を看れば便ち以て預知する可し。賦文又曰く、康健安寧の人牙齒整齊にして緊密、下賤短命の人牙齒稀疏にして不相連なり。注文曰く、身體康寧の人、牙齒排列整齊堅固にして密實。下賤早夭の人、牙齒稀少にして縫隙大なり。賦文又曰く、上齒下齒を蓋ふの人少年困頓、下齒上齒を包住の人晚年鰥居。注文曰く、上排牙下排牙を覆蓋するは、幼年時困頓滯塞。下排牙上排牙を掩住するは、晚年鰥寡孤獨なり。
班馬文章,白若瓠犀之美;喬松壽考,瑩如崑玉之堅。〔能班固、馬遷之文者,其齒牙若瓠犀之白,高貴人也。享王喬、赤松之壽者,其人齒白瑩堅,如崑山之美玉也。〕當門二齒缺,則命蹇於沒世;學堂一官全,則聞於普天。〔當門二齒缺者,其命蹇滯,終身困窮。當門二齒為內學堂,若大而明者,主名聞天下。〕
賦文曰く、能く班固・司馬遷の如き文章を寫き出づるの人、牙齒白きこと瓠瓜子の如し。能く王子喬・赤松子の如き高壽を享くるの人、牙齒瑩潤堅固崑山之玉の如し。注文曰く、能く班固・司馬遷一流の文章を作るの人、牙齒瓠瓜の籽の如く潔白整齊、是れ高貴の人。能く王子喬・赤松子此の兩位の傳說中仙人彼の種の長壽を享くるの人、牙齒潔白瑩亮にして堅固、崑崙山出産の美玉の如し。賦文又曰く、門牙兩顆缺損有るのは、一輩子命途蹇滯。「學堂」此の一官生ずること完好のは、名聲天下に傳遍す。注文曰く、正當門口の兩顆門牙缺有るは、命運艱難阻滯、終身困窮。此の兩顆門牙之を「內學堂」と呼ぶ、若し生ずること大にして明淨なれば、名天下に聞ゆるを主る。
焦黑困乏,鮮明足錢。〔若其齒牙焦黑者,乏困貧窮。鮮明者,錢財豐足。〕二十四兮命折,三十六兮壽延。〔二十四齒疏而不連者,謂之鬼形,主命夭。三十六齒主長年。〕尖若立錐,必乏衣食之士;齊如編貝,優登廊廟之賢。〔齒尖如錐者,必缺衣食。編貝,海物,色白而瑩。齒若齊如編貝,足為賢相以登廊廟。〕
賦文曰く、牙齒焦黑の人困頓乏財、牙齒鮮明の人錢財充足。注文曰く、牙齒焦枯發黑のは、窮困錢缺す。牙齒鮮潔明亮のは、錢財豐裕。賦文又曰く、只だ二十四顆牙有るの人夭折、三十六顆牙に長到するの人長壽。注文曰く、只だ二十四顆牙有り・又た稀疏不相連のは、相術之を「鬼形」と呼ぶ、壽命短促を主る。三十六顆牙有るは、長壽を主る。賦文又曰く、牙尖きこと立てる錐子の如きは、必是れ缺衣少食の人。牙齊きこと成串の貝殼の如きは、以て朝堂に位列するの賢臣を做るに足る。注文曰く、牙齒尖きこと錐子の如きは、一定缺衣少食。「編貝」是れ一種海産貝殼、色白にして瑩亮、串起して排列整齊。牙齒若し整齊なること編貝の如ければ、以て賢能の宰輔を做り・朝廷に登上るに足る。
卷下・舌を論ず
惟舌者,以短少薄鈍為下,以長大方利為先。〔舌短小薄鈍者,為下愚之人。若其長大而方利者,則為上卿。〕方長者咳唾成玉,短小者皂隸執鞭。〔舌方長者,主有才德,文高四海,出語可為珠玉。短小者,俗謂之舌禿,則皂隸執鞭之僕。〕
賦文曰く、舌頭短小・薄弱・遲鈍を以て下等と爲し、長大・方正・鋒利を以て上等と爲す。注文曰く、舌短小にして薄鈍のは、是れ下愚の人。舌長大にして方正鋒利のは、以て上卿の高位に做る可し。賦文又曰く、舌方にして長の人一咳一唾皆珠玉を成し、舌短にして小の人只だ能く鞭を執るの差役を做るのみ。注文曰く、舌頭方長のは、才有り德有るを主り、文名四海に高し、口に隨り說き出づるの話皆珠玉の如く可貴なり。舌頭短小のは、俗「舌秃」と稱す、只だ能く衙門裏鞭を執り馬を趕るの皂隸奴僕を做るのみ。
黑子凶惡,粟粒榮遷。〔舌上有黑靨者,多為凶惡。有粟粒者,則必居官食祿。〕黑紫布衣而肘露,鮮明金帶而腰懸。〔舌上色若黯紫之色者,當貧賤露肘。舌若鮮明光瑩者,則有腰金之貴。〕七星理明,可享千鍾之祿;三川紋足,必食萬戶之田。〔舌上七星靨者,可享千鍾之厚祿。舌上有紋如川者,必享萬戶之食。〕
賦文曰く、舌上黑痣有るの人凶惡、舌上粟粒狀顆粒有るの人榮升。注文曰く、舌上黑痣靨を生ずるは、多半凶惡。舌上小米粒の如き顆粒有るは、必定官を做り祿を食む。賦文又曰く、舌色黑紫の人布衣を穿ち・胳膊肘を露し、舌色鮮明の人腰間金帶を懸ぐ。注文曰く、舌上顏色發暗紫のは、注定貧賤なること衣服破れて手肘露出するに到る。舌頭鮮明光潤のは、則ち腰佩金帶の富貴有り。賦文又曰く、舌上七顆痣七星排列の如く明淨のは、以て千鍾厚祿を享く可し。舌上三道紋「川」字の如きは、必ず萬戶封邑を享けん。注文曰く、舌上七顆の痣靨有るは、以て千鍾の厚俸を享受する可し。舌上紋路「川」字形に排成するは、一定能く萬戶人家の賦稅を享けん。
卷下・項頸を論ず
允謂瘦人項短致災殃,肥人項長必夭橫。〔瘦人本宜項長而項短者,決致災禍。肥人本宜項短而項長者,必當橫夭。〕如罌如瓶總非吉,似鵝似豕皆不令。〔罌、瓶皆瓦器也,項下垂若器者凶。鵝項太長,豬項太短,如是之人,皆主惡死,不善終也。〕
賦文曰く、確かに說く可し、瘦人脖子短は災殃を招來せん、胖人脖子長は必定橫死早亡せん。注文曰く、瘦の人本當長脖子を配すべし、反って短脖子を生じたり、必定災禍を招致せん。胖の人本當短脖子を配すべし、反って長脖子を生じたり、一定橫死短命なり。此れ是れ形と頸と須みに相稱せんを說く。賦文又曰く、脖子罌の如く・瓶の如き皆不吉利、鹅頸の如く・猪頸の如き皆好からず。注文曰く、罌和瓶皆是れ陶製の容器、頸下垂鼓れること此の類器皿の如きは凶を主る。鹅の脖子太だ長し、猪の脖子太だ短し。此の兩種の脖子を生ずるの人、皆凶死を主り、善終を得ず。
豐圓厚實多財產,光隆溫潤足權柄。〔項若豐圓厚實與背相稱者,財產多而富足。其光隆溫潤者,足主樞機重柄。〕瘦人結喉身孤兆,肥人結喉刑剋證。〔瘦人結喉者,身必孤獨。肥人結喉者,必遭刑害。〕項後豐起,定為厚福之人;頷下絛垂,永保遐齡之慶。〔項後骨豐而起者,是為厚福。頷下餘絛雙垂者,永保遐齡之壽。〕
賦文曰く、脖頸豐圓厚實の人財産豐厚、光潤隆起の人以て權柄を掌握するに足る。注文曰く、脖子若し豐滿圓潤・厚實にして背部と相稱せば、財産豐足富裕を主る。若し又た光澤隆起・溫潤神有れば、以て中樞要職の大權を執掌するに足る。賦文又曰く、瘦人喉結突出は是れ孤獨の兆、胖人喉結突出は是れ刑克の證。注文曰く、瘦人喉結高凸のは、一身必定孤獨なり。胖人喉結高凸のは、必定刑傷禍害に遭遇せん。賦文又曰く、後頸豐滿隆起のは、一定是れ福澤深厚の人。下巴底下雙條垂肉有るは、永く高壽の慶を保有せん。注文曰く、後頸骨豐厚隆起のは、就ち是れ福厚の相。下頷底下多く兩條の垂下する肉絛出づるは、能く長く高壽を保たん。
卷下・背膊手掌を論ず
夫貴背之豐隆,身乃恃而安定。〔夫人之背貴於豐隆,必以體之上下安恃而為可稱。〕貧夭絕嗣者偏側欹斜,富貴有後者闊厚平正。〔貧窮壽夭無後者,蓋為背之偏側,欹斜不正。富貴有後者,則背闊澤潤,堅厚而平。〕
賦文曰く、背脊貴んで豐滿隆起、一身纔かに倚靠する所有りて安穩ならん。注文曰く、人の背豐厚隆起を以て貴と爲し、一定須みに身體上下皆依托する所有り・安穩搖せざらせしめば、纔かに合格と算ふ。賦文又曰く、貧窮短命・子嗣を斷絕するの人、背一邊に偏し・歪斜不正。富貴にして後代有るの人、背寬闊厚實・平坦端正。注文曰く、貧窮・早夭・無後の人、多半是れ背部偏側、歪斜端正ならず。富貴にして子嗣有るの人、背部寬闊にして光澤潤澤、堅實厚重にして平整なり。
勢若踞山之蹲虎,利賓于王;形如出海之伏龜,考終厥命。〔背勢似山中坐虎有威力者,當利賓于王,足為王佐。背如出海之龜,則考終壽命。〕龍骨欲長而充實,虎骨欲短而堅硬。〔龍骨者臂,虎骨者膊,上為君,下為臣。上壯下細者龍吞虎,下壯上細者虎吞龍也。〕
賦文曰く、背の氣勢山頭に盤踞する蹲虎の如きは、君王の上賓と作るに宜し。背の形狀海面に浮出する伏龜の如きは、能く天年を享盡して善終せん。注文曰く、背の氣勢山中蹲坐の老虎の如く威武有力のは、應當君王の座上賓と成るべし、以て帝王を輔佐するの人才を做るに足る。「利賓于王」一語《周易・觀卦》に出づ。背海に出づるの烏龜の如く隆圓のは、能く安く天年を享して壽終せん。賦文又曰く、「龍骨」須みに長にして充實、「虎骨」須みに短にして堅硬ならん。注文曰く、龍骨指すは上臂骨、虎骨指すは前臂(肘以下)骨。上は君と爲し、下は臣と爲す。上臂粗壯にして下臂細弱を、「龍吞虎」と呼ぶ。下臂粗壯にして上臂細弱を、「虎吞龍」と呼ぶ、皆是れ君臣失序の象なり。
瑀肩者騰上必速,恐不多時;犀膊者為儒早亨,優於從政。〔矰鳥之肩者,騰上迅速,早而困乏,故馬周矰肩火色,任之要職,壯歲辭閒,急流勇退。為人犀膊豐而圓厚,則為文明之士,幼達長於大政。〕指節慾其纖直,腕節慾其圓勁。〔手指欲纖而長,腕節慾圓而勁。〕
賦文曰く、肩聳えること鳥の如きの人昇遷必定快し、只だ維持久長能わざるを怕る。臂膊犀の如きの人書を讀み早く亨通を得、從政に長ず。注文曰く、肩膀弦を離るるの箭射出する鳥の如く高聳のは、升騰極めて快し、卻って早早耗盡して困乏す。故に唐代馬周生就す聳肩・面火色を帶び、雖も要職に任ぜられ、壯年就ち官を辭し閒居す、急流勇退に屬す。至りて臂膊豐滿圓厚犀角の如きは、則ち是れ文采學問有るの士、年少顯達、年長じて大政を處理するに長ず。賦文又曰く、指節須みに纖細挺直、腕節須みに圓潤有力ならん。注文曰く、手指須みに纖細にして修長、腕骨關節須みに圓潤にして强勁ならん。
厚而密者謀必有得,薄而疏者心多不稱。〔掌中豐厚而柔,指節瑩光而密者,則足智多謀。如其掌薄骨硬,指節疏露者,平生智多不遂。〕勢若排竿富可羨,色如璟血貴可競。〔指節若排筍者,身必貴顯。其掌如□血者,家必殷富。〕
賦文曰く、手掌厚實・指節緊密の人事を謀る必定得る所有り。手掌單薄・指節稀疏の人心願多半落空す。注文曰く、掌心豐厚にして柔軟、指節明潤にして緊湊のは、智多く謀足る。掌薄骨硬・指節稀疏外露のは、一輩子想ふこと多く卻って辦成せず。賦文又曰く、手指竹竿并排の如く勻齊のは富んで人をして羨慕せしむ、掌色紅潤血の如きは貴く以て人と爭先する可し。注文曰く、指節并排の春筍の如く修長勻直のは、身分必定貴顯なり。掌色鮮血の如く紅潤のは(底本此處一字缺す、「□」を作す、上下文に據れば當に「璟」或いは「禋」ならん)、家道必定殷實富有なり。
身卑才薄,涉中滿而起傾;祿厚官榮,有駟馬之形勝。〔若掌中心薄,周圍起骨,謂之起傾。如是之人,主卑賤寡學。官祿榮高,謂掌中有印旗之形。〕橫紋下愚,縱理慧性。〔凡人掌中若有橫紋而短者,乃為下愚。如有紋縱者,至聰明而多智慧。〕
賦文曰く、身分卑下・才學淺薄の人、掌心塌陷にして四周隆起す。俸祿豐厚・官位榮顯の人、掌中駟馬の如き好形局有り。注文曰く、如果掌心單薄下陷、而るに四圍の骨反って凸起するを、「起傾」と呼ぶ、此の種人身分卑賤・學問を缺少すを主る。官祿榮顯のは、是れ掌中印章・旗幟一類の紋形の如き有るを說く。賦文又曰く、掌上橫紋多きは下愚、掌上豎理多きは聰慧。注文曰く、凡人掌中若し只だ短促の橫紋有れば、便ち是れ下愚の人。若し豎直の紋路有れば、則ち極めて聰明にして智慧多し。
骨露筋浮者主身賤,皮堅肉枯者愁囊罄。〔手若露骨浮筋,主身貧下賤。若皮堅硬肉乾澀者,當愁囊篋空乏。〕家殷而黑子斯明,用足而橫紋乃互。〔手中黑子,主家豪富。如有橫紋通直者,為握刀之紋,則主財豐富足。〕
賦文曰く、手上骨節外露・青筋浮起の人身分低賤、皮硬肉枯の人愁ふは錢袋空空。注文曰く、手若し骨を露し筋を浮かばば、貧窮下賤を主る。若し手皮堅硬・肌肉干澀なれば、彼は則ち須みに箱篋空虚を爲して愁ふべし。賦文又曰く、手心明亮の黑痣有るは家道殷實、掌上橫紋交互貫通の是用度充足。注文曰く、手掌中黑痣を生ずるは、家中豪富を主る。掌上若し橫紋貫通筆直有るを、「握刀紋」と呼ぶ、錢財豐盈富足を主る。
富貴之相若苔之滑而綿之軟,壽安之人如荀之直而玉之瑩。〔富貴賢明之士,手滑軟而若苔若綿。康寧遐齡之人,手直如惸而白如玉。〕
賦文曰く、富貴の相、手青苔の如く滑膩・絲綿の如く柔軟。長壽安康の人、手筍の如く端直・美玉の如く瑩潤。注文曰く、富貴賢明の士、手掌滑軟、摸上すれば苔藓の如く・絲綿の如し。康健長壽の人、手指端直筍の如く、膚色潔白玉の如し。
卷下・心胸腹臍を論ず
心宰視聽,內主魂魄,帥六腑之氣,統五臟之神。〔心乃神之主也,掌其視聽,運行百脈之神,制五臟六腑之神,故《內經》曰:心為君主之官,神明生焉。〕顏色始變,是非已分。〔凡人顏色喜怒方有所變,則一心之明鑑而能預知之。〕
賦文曰く、心看と聽とを主宰し、內に在りて魂と魄とを統領し、六腑の氣を統帥し、五臟の神を總管す。注文曰く、心是れ「神」の主人、視覺聽覺を掌管し、周身百脈中の神氣を運行し、五臟六腑各自の神を節制す、故に《黃帝內經》曰く:心是れ君主の官、人の神明此に由りて產生す。賦文又曰く、臉色剛に變化すれば、是非曲直已に分明なり。注文曰く、凡人喜怒の情剛に臉色上に在りて變動する所有れば、心此の面の明鏡已經先づ照見し・能く預知するを得す。
惡則禍結,善則福臻。〔人之所行善惡,咸發之於心。若其行惡,則禍結。若其行善,則福應。〕胸凸者燥而多劣,毛長者剛而好嗔。〔胸膺骨高起者,主性急燥而多劣。若其生毛者,每多輕怒,此皆不仁,寡合之相也。〕
賦文曰く、惡を作せば就ち禍根を結び、善を行へば就ち福報を招來す。注文曰く、人の做す所の善事惡事、皆心裏に從り發端す。若し惡を行へば、禍患便ち糾結纏身。若し善を行へば、福報便ち之れに隨ひ相應す。賦文又曰く、胸骨突出の人性情焦躁にして劣行多し、胸前毛を長ずるの人剛烈にして怒を發するを好む。注文曰く、胸膛骨頭高高凸起のは、性子急躁・劣跡多きを主る。胸口毛を生ずるは、動輒發怒す。此の兩種皆不仁厚・人と合群し難きの相に屬す。
坑陷淺窄愚闇而多居下賤,寬平博厚賢明而早廁縉紳。〔胸貴平闊,若坑陷淺窄者,多為愚下之流。若其寬平博厚者,則幼年而居官明賢而享祿。〕腹為水穀之海,臍為筋脈之源,包萬物而獨化,總六腑以中輪。〔腹為水穀之海,臍者總六腑以居中,以為筋脈之源,由是腹肚大而圓,臍必廣而深。相曰:腹大垂囊,食祿無疆。〕
賦文曰く、胸部凹陷淺窄の人愚昧昏暗、多く下賤の位に居る。胸部寬平博厚の人賢達明智、早早士大夫の列に躋身す。注文曰く、胸貴んで平坦開闊。若し凹陷淺窄なれば、多く是れ愚昧下等の流。若し寬平博厚なれば、就ち能く少年官を做り、賢明を以て著稱して俸祿を享有せん。賦文又曰く、腹是れ水穀匯聚の大海、臍是れ筋脈發源の地方、其れ萬物を包容して獨自化育し、六腑を總攝して居中運轉す。注文曰く、腹是れ水穀の海、臍居中に在りて六腑を總管す、是れ筋脈の源頭。此に由りて知る可し、肚腹須みに大にして圓、肚臍必ず須みに寬にして深ならん。相書曰く、肚腹大にして下垂すること囊袋の如きの人、食祿窮盡無し。
圓厚富安儉薄乏食,深寬富貴淺窄孤貧。〔腹若圓大而厚者,主家富安閒。如戎腹薄而儉小者,必至乏食。腹寬厚者,主能容物。富貴淺薄窄狹者,褊急孤寒。〕勢若垂囊,風雷四方之震;深能容李,芝蘭千里之聞。〔腹垂若囊,主聲名冠世,如風雷震於四方。臍深廣能容夫李者,主美譽播於邦幾之外,若蘭之馨香聞於四遠,言其美德之盛也。〕
賦文曰く、肚腹圓厚のは富足安逸、狹薄のは缺衣少食。肚臍深寬のは富貴、淺窄のは孤苦貧寒。注文曰く、肚腹若し圓大にして厚實なれば、家道富裕・身心安閒を主る。若し肚腹單薄にして短小なれば、必ず糧缺き食少きに至らん。肚腹寬厚のは、氣量能く物を容るるを主り、因而富貴。淺薄窄狹のは、性情褊急、孤苦寒微。賦文又曰く、肚腹垂下すること囊袋の如きの人、聲威風雷の四方を震動するが如し。肚臍深きこと一顆の李子を放進する能くすの人、美名芝蘭の香千里を傳ふるが如し。注文曰く、肚腹下垂袋の如きは、聲名當世に冠絕するを主り、好比風雷四方に震響す。肚臍深廣なること一枚の李子を容下する能くするに到るは、美譽國境之外に傳播するを主り、蘭花の香氣四方に飄散するが如し、是れ彼の德行美盛を說く。
卷下・足を論ず
足者枝之謂,身者幹之云,枝以蔽其幹,足以運諸身。〔足為枝也,身乃幹也,枝當蔭其幹,足可運之身。〕豐厚方正者多閒暇,薄澀橫窄者必苦辛。〔足若豐厚方正者,平生閒樂,其祿自至。若人足之薄窄枯澀,必當辛苦終身。〕
賦文曰く、脚好比樹の枝條、身好比樹の主幹。枝條用ゐて以て主幹を庇護し、雙脚用ゐて以て全身を運載す。注文曰く、脚是れ枝、身是れ幹。枝應當其の幹を蔭庇せん、脚以て身體行動するを載す可し。賦文又曰く、脚豐厚方正の人一生多く閒暇有り、脚薄澀橫窄の人一生必定辛苦。注文曰く、脚若し豐厚方正なれば、一生安閒快樂、俸祿求めずして自ら來る。若し脚生ずること薄・窄・干枯滯澀なれば、必定辛苦一輩子なり。
無紋身賤,有毛家溫。〔足底無紋者,身必貧賤。若其足面有毛者,家必殷實。〕家富累千金,蓋有弓刀之理;官高封一品,由成魚鳥之紋。〔家積千金之富者,足底有弓刀之紋理。官至一品之極者,足底有魚鳥之成紋。〕
賦文曰く、脚底紋無きは身分低賤、脚面毛有るは家道溫飽。注文曰く、脚底一條の紋路すら亦た無きは、一身必定貧賤なり。脚背上汗毛を生じ有るは、家境必定殷實なり。賦文又曰く、家中千金の富を積累するは、是れ脚底弓形・刀形の紋理有るが因。官一品の尊に做るに到るは、是れ脚底魚形・鳥形の紋路生成するに因る。注文曰く、家中千金家産を積下るの人、脚底弓刀狀の紋理有り。官位一品の極致に登上るの人、脚底魚・鳥形狀の成形紋路有り。
卷下・形神氣聲を論ず
短小精悍者,形不足而神有餘;長大孱弱者,形有餘而神不足。〔人身短小精悍者,蓋其形雖不足,神乃有餘。若身長大孱弱者,是形有餘而神不足也。〕伊形神而俱妙,非賢聖其孰能。〔形者發乎外,神者藏於內。其形神俱妙者,非賢聖孰能得之。〕
賦文曰く、身材矮小にして精明强悍の人、形體不足にして精神有餘。身材高大にして孱弱無力の人、形體有餘にして精神不足。注文曰く、人身短小にして卻って精悍のは、形雖も不足、神卻って綽綽として餘有り。身材高大にして卻って孱弱のは、是れ形有餘にして神不足。賦文又曰く、形と神と皆美妙に臻る、是れ賢人聖者に非ざれば誰か能く做到せん。注文曰く、「形」顯發して外に在り、「神」蘊藏して內に在り。形神皆美妙のは、賢聖を除き、誰か能く具備せん?
藏於內者如淵珠之粹,發乎外者若焰光之燭。〔神藏於內者,如淵水驪珠之精粹。神發乎外者,若清夜焰燭之美光。〕善惡在人之憎愛,清濁由目之照矚。〔凡人心之美惡,皆著於目。美則人愛,惡則人憎,分明清濁,瞻視是也。〕
賦文曰く、神內に藏るるは、深淵中の明珠の如く精純。神外に顯るるは、燭焰の如く明亮。注文曰く、神收藏して裏面に在るの人、如同深潭裏驪龍頷下の明珠彼の般精粹。神發散して外面に到るの人、如同清夜裏燭火彼の般美好の光焰。賦文又曰く、善か還た是れ惡か、別人彼を憎惡するか還た是れ彼を喜愛するかを看る。清か還た是れ濁か、彼の眼睛怎樣に事物を照看するかを看る。注文曰く、凡人心地の美と惡、皆眼睛上に顯現す。心美なれば則ち人人喜愛し、心惡なれば則ち人人憎惡す。清と濁とを分辨するは、就ち彼の目光怎樣に注視するかを看る。
質以氣而宏充,氣以神而化育。〔質者形也,人之以氣而養形,故以神而生氣。〕質寬則氣宏而大,神安則氣靜而覆。〔人形體寬大,則心氣宏。若其神之所安,則氣順而能靜。〕如是寵辱不足驚,喜怒不足觸。〔人之所養,氣定而後形固,形固而後神全,神全而後心正,誠能有之則寵辱不驚,喜怒不觸。〕
賦文曰く、形質氣に靠りて以て充實宏大し、氣神に靠りて以て化育生養す。注文曰く、「質」就ち是れ形體。人氣に憑りて以て形體を滋養す、故に又た須みに神に憑りて以て氣を生發せん。賦文又曰く、形質寬厚、氣就ち宏大。神安定すれば、氣就ち沉静にして能く萬物を覆載す。注文曰く、人の形體寬大、心氣就ち宏闊。神安頓下來れば、氣就ち和順にして能く沉静す。賦文又曰く、此の個地步に到れば、寵を得辱を受くとも彼をして驚かしむるに足らず、歡喜惱怒も彼を觸動するに足らず。注文曰く、人の修養、是れ氣定まりて而後形固く、形固く而後神全し、神全し而後心正し。真に能く做到せば、就ち寵辱驚かず・喜怒動かざるなり。
有氣無肉者,譬若寒松;有肉無氣者,猶如蠹木。〔人之形體,牴瘦而有神氣者,譬若寒松之堅,可享其壽。如其形體肥而無神氣者,猶似蟲之蠢木,故枯朽而速敗也。〕李嶠耳息而享百齡,孟軻內養而輕萬斛。〔龜息者氣自耳出,故享其壽。李嶠耳中出息,享遐齡之壽。孟子善養浩然之氣,雖齊宣王授以萬鍾之祿,不顧也。〕
賦文曰く、氣有りて肉少きの人、好比耐寒の松樹。肉有りて氣無きの人、好比蟲の蛀空せる枯木。注文曰く、人の形體清瘦にして卻って神氣有るは、好比寒松彼の般堅韌、以て長壽する可し。形體肥胖にして卻って神氣無きは、好比蠹蟲を生ぜる朽木、快く枯爛敗壞す。賦文又曰く、唐代李嶠耳中呼吸を以て百年の壽を享け、孟軻內に浩然の氣を養ふを以て萬斛の俸祿を看輕せり。注文曰く、所謂「龜息」、是れ氣耳中に從り出入す、因此長壽を得享す。李嶠能く耳中に從り呼吸す、故に高齡に活到せり。孟子善く「浩然の氣」を培養す、卽便齊宣王彼に萬鍾の俸祿を給せんと要すとも、彼も屑とせず顧みず。
和柔剛正之謂君子,狹隘急暴之謂士卒。〔氣和寬剛正為君子,氣狹隘急暴為士卒。〕如龜之息兮保其遠大,如馬之馭兮重其馳逐。〔龜息之細,渺然不聞,蓋能如龜息者,可保長年之氣。若如馬之馭駕者,生平有馳逐之勞重者,辛苦百般。〕
賦文曰く、氣息和柔にして稟性剛正のを君子と呼び、氣量狹隘にして性情急暴のは只だ是れ兵卒。注文曰く、氣和順寬舒・人と爲りて剛强正直のは是れ君子。氣狹窄局促・性情急躁暴烈のは是れ士卒の流。賦文又曰く、呼吸烏龜の如く綿長のは能く長遠を保ち、喘息馬の駕馭せらるるが如く急促のは一生奔波す。注文曰く、龜の呼吸極めて細微、幾ほど聽聞し得ざるが如し。能く龜の如く呼吸するの人、以て長壽の氣を保住する可し。若し呼吸駕馭せられ奔跑する馬の如く粗重なれば、則ち一生奔走驅馳の重負有り、辛苦萬端なり。
身大音小褐所隱,身小音大福所伏。〔身大音小者,形聲不相應,故隱其禍而待其發。身小音大,神氣有餘,故藏其福而待其時。〕夫聲音之所發自元宮而乃臻,與心氣以相續。〔聲音之發,起於丹田,與心氣相續而出也。〕
賦文曰く、身軀大にして聲音小、是れ災禍潜伏の處。身軀小にして聲音大、是れ福氣埋伏の處(賦文「褐」當に「禍」と作るべし、底本此の如く、敢て字を改めず)。注文曰く、身大にして聲小のは、形と聲と相配せず、故に禍事潜藏して發作を待つ。身小にして聲大のは、神氣有餘、故に福分收藏して時機を待つ。賦文又曰く、聲音「元宮」に發して而後成形、心氣と一脈相續す。注文曰く、聲音の發出、「丹田」に起こり、心氣と連成して一氣を爲して出づ。
琅然其若擊石,曠然其若呼谷,斯乃內蘊道德,終應戩谷。〔聲清則琅然若擊磬之音,聲濁則曠然如呼幽谷之奧,此謂內懷道德之人,終當享其厚祿。〕謂之羅網者,乾溼不齊。謂之雌雄者,大小相續。或先急而後緩,或先緩而後速。是為粗俗之卑冗,焉遂風雲之志欲。〔聲音有乾潤,出而不等。若聲大聲小相續亂出,或先急而後緩,或先緩而後急,皆為粗俗卑下之徒。〕
賦文曰く、聲音清越なること石磬を敲擊するが如く、空闊なること山谷に對して呼喊するが如し、此れ就ち是れ內裏道德を蘊含するの人、終究福禄を得到せん。注文曰く、聲清の琅琅作響するは、磬を敲くの聲音の如し。聲濁の空空迴蕩するは、幽深の山谷に向かひ呼喊するが如し。此れ說くは是れ內懷道德の人、終に當に厚祿を享受せん。「戩穀」即ち福と祿。賦文又曰く、「羅網聲」と呼ばるるは、干と潤と參差不齊。「雌雄聲」と呼ばるるは、大と小と交替相續。あるいは先急後緩、あるいは先緩後快。此ら皆是れ粗俗卑下の相、怎麼能く風雲際會の抱負を實現せん?注文曰く、聲音干有り潤有り、發出して參差不等。若し忽ち大忽ち小・混亂相續し、或いは先急後緩、或いは先緩後急は、皆粗俗卑下の徒に屬す。
卷下・氣色總斷を論ず
辨四時之氣,如春蠶吐絲之微微;察五方之色,如浮雲覆日之旭旭。〔辨青白紅黑,豈四時之正氣也。在於皮上者謂之色,皮裡者謂之氣。氣者如粟、如豆、如絲、如髮,藏於紋理之中,隱於髮毛之內。細者若春蠶之絲,欲察五方,正如浮雲覆日之微。〕
賦文曰く、四季の「氣」を分辨するは、須みに春蠶絲を吐くを看るが如く體察細微せん。五方の「色」を觀察するは、須みに浮雲日を掩ふを看るが如く體察隱約せん。注文曰く、青・白・紅・黑を分辨するは、正に是れ四季の正氣の對應する所の顏色。皮膚表面に浮くを「色」と呼び、皮膚裏面に藏るを「氣」と呼ぶ。氣の形狀あるいは小米粒の如く、あるいは豆子の如く、あるいは絲の如く、あるいは頭髮の如し、皮膚紋理の中に藏り、髮毛の內に隱る。細の春蠶吐くの絲の如し。須みに東西南北中五方の色を觀察せんと要すれば、正に浮雲日を遮るを看るが如く、只だ是れ一層微茫の跡象。
地閣明而饒田宅,天嶽暗而罹桎梏。〔地閣光明者,田宅多廣。天嶽昏暗者,刑獄多憂。〕粟黃繒紫多豪貴,脂白晙青合賢淑。〔粟黃者,如粟粒之點嬌黃也。繒紫者,如紫線之亂盤也。是為青龍之氣,若面部四時常見者,乃豪貴之人。人之面色其白若脂,其青若曌者,廊廟之器。〕
賦文曰く、下巴の「地閣」氣色明亮のは田宅富饒、額上の「天岳」氣色昏暗のは牢獄を遭受す。注文曰く、地閣光明の人、田地房産廣多。天岳昏暗の人、刑罰牢獄の憂不斷。賦文又曰く、面上粟黄・繒紫の色を現出するは多く是れ豪貴の人、脂白・晙青の色を現出するは賢淑の品に合す。注文曰く、所謂「粟黄」、是れ小米粒の如く一點點嬌黄。所謂「繒紫」、是れ紫色絲線亂盤して一起に在るが如し。此の兩種皆「青龍」の氣に屬す、若し一年四季常に面上出現すれば、就ち是れ豪貴の人。人の面色白きこと凝脂の如く・青きこと日光初照の如きは、是れ能く朝廷に立つの棟梁の材。
若相者,精究其術,而妙悟於神,安逃禍福。〔若學相者,能細究此書,而得其神妙,則禍福無逃也。〕〔歌曰:嗟嗟世俗不知因,妄將容貌取其形。若得正形為大貴,依稀相似出群倫。形滯之人行必失,神滯之人心不開,氣滯之人言必懶,色滯之人面塵埃。形神氣色都無滯,舉事心謀百事諧。色在皮而氣在血,脈聚作成多喜悅。散則成憂靜則安,部位吉凶皆有訣。又曰:欲窮禍福貴賤,除觀諸家相文,聽聲觀形察色,有肉神、音神、眼神、總欲觀之,則自然明矣。又曰:迷而不反,禍從惑起,災自奢生。老子曰:天之道利而不害,聖人之道為而不爭。此之謂也。〕
賦文曰く、相を學ぶの人若し能く此の門の方術を精研し、又た能く「神」上に在りて妙悟有れば、彼麼禍福就ち躲藏するに從りて無し。注文曰く、相術を學ぶの人、若し能く細細に此の部の書を鑽研し、其の中の神妙を領會せば、彼麼一個人の禍福便ち再び彼の眼睛を逃るる能わず。注文末尾又た歌訣を附して曰く:世俗の人明白せず根由を、胡亂に只だ容貌に憑りて相を取るを歎ず可し。若し端正の形局を得れば便ち是大貴、形貌之れと依稀相似するも亦た能く出衆。形滯の人行事必定閃失有り、神滯の人心胸打開かず、氣滯の人說話必定懶散、色滯の人滿面塵土を蒙るが如し。形・神・氣・色四樣皆滯塞せざれば、事を辦し謀を爲す樣樣和順。色皮上に浮きて氣血中に行き、脈氣凝聚して形を成せば、多く喜事を主る。脈氣涣散すれば便ち憂愁を成し、脈氣安靜なれば便ち平安を得、面上各部位の吉凶皆依據する可きの口訣有り。歌訣又曰く:一個人の禍福貴賤を窮究せんと欲せば、各家相書を參看するを除きて、還た須みに聲を聽き・形を觀し・色を察せん。肉肉の神有り、音音の神有り、眼眼の神有り、皆須みに一倂に觀察せん、自然就ち明白なり。又曰く:迷執悟らず囘頭を肯ぜず、禍患迷惑に從り起こり、災殃奢侈に由り生ず。《老子》曰く:天道萬物を利して損害を加へず、聖人の道是れ有所作爲にして人と爭はず。講ずるは就ち是れ此の個道理。
