国風
摽有梅,其實七兮。求我庶士,迨其吉兮。
梅が落ちてゆく、木にはまだ七割残っている。私を求める多くの士よ、吉日にあわせておくれ。
摽有梅,其實三兮。求我庶士,迨其今兮。
梅が落ちてゆく、木にはまだ三割残っている。私を求める多くの士よ、今日にあわせておくれ。
摽有梅,頃筐塈之。求我庶士,迨其謂之。
梅が落ちてゆく、浅い筐で取り入れる。私を求める多くの士よ、口を開いて一言いってくれればよい。
嘒彼小星,三五在東。肅肅宵征,夙夜在公。寔命不同!
あの微かに光る小星、東の空に三つ五つ。急いで夜道を行き、朝から晩まで公家に仕える。実に運命が違うのだ!
嘒彼小星,維參與昴。肅肅宵征,抱衾與裯。寔命不猶!
あの微かに光る小星、参星(しん)と昴星(ぼう)だ。急いで夜道を行き、被(ふすま)と衾(きん)と帷(とばり)を抱えて。実に運命が人に及ばないのだ!
江有汜,之子歸,不我以。不我以,其後也悔。
江水に分流が分かれてまた合わさる、あの人は帰ってゆき、私を連れて行かない。連れて行かない、後で彼は悔いるだろう。
江有渚,之子歸,不我與。不我與,其後也處。
江水に小洲がある、あの人は帰ってゆき、私とともにいない。ともにいない、後で彼は憂いに処するだろう。
江有沱,之子歸,不我過。不我過,其嘯也歌。
江水に沱水(だすい)が分かれ出る、あの人は帰ってゆき、私を見に来ない。見に来ない、彼女は長く嘯(うそぶ)いて歌うほかない。
野有死麕,白茅包之。有女懷春,吉士誘之。
野に死んだ獐(しょう・ノロ)があり、白茅(しらちがや)で包まれている。春の心が萌した娘がいて、好い男が彼女を誘う。
林有樸樕,野有死鹿。白茅純束,有女如玉。
林の中に朴樕(ぼくそく)という小さな木があり、野に死んだ鹿がある。白茅を一束に結わえ、玉のように清い娘がいる。
舒而脫脫兮,無感我帨兮,無使尨也吠。
ゆっくりと、おだやかにしてくれ、私の佩巾(はいきん)を動かさないでくれ、尨(ぼう・長毛の犬)を吠えさせないでくれ。
何彼襛矣,唐棣之華?曷不肅雍?王姬之車。
なぜあんなに濃艶なのか、唐棣(とうてい)の花のようだ。なぜ粛然として睦まじくないのか。あれは王姫の車だ。
何彼襛矣,華如桃李?平王之孫,齊侯之子。
なぜあんなに濃艶なのか、花は桃李のようだ。あれは平王の孫、斉侯の娘だ。
其釣維何?維絲伊緡。齊侯之子,平王之孫。
釣りに使うのは何か。絲で作った綸(りん)だ。斉侯の娘、平王の孫だ。
彼茁者葭,壹發五豝,于嗟乎騶虞!
あの蓬々(ほうほう)と生い立つ葦(あし)、一矢を放って牝豚を五頭、ああ騶虞(すうぐ・仁獣よ)!
彼茁者蓬,壹發五豵,于嗟乎騶虞!
あの蓬々と生い立つ蓬(よもぎ)、一矢を放って小豚を五頭、ああ騶虞よ!
泛彼柏舟,亦泛其流。耿耿不寐,如有隱憂。微我無酒,以敖以遊。
あの柏木の舟に漂い、水の流れにまかせて漂う。耿耿(こうこう)として眠れず、隠れた憂いがあるようだ。酒がないわけではない、遨遊(ごうゆう)することもできる。
我心匪鑑,不可以茹。亦有兄弟,不可以據。薄言往訴,逢彼之怒。
私の心は鏡ではない、すべてを容れることはできない。兄弟もいるが、頼ることができない。訴えに行けば、彼らが怒るのに出くわす。
我心匪石,不可轉也。我心匪席,不可卷也。威儀棣棣,不可選也。
私の心は石ではない、勝手に転がされはしない。私の心は蓆(むしろ)ではない、勝手に巻かれはしない。威儀は棣棣(ていてい)と雅やかで、選り好みして捨てることはできない。
憂心悄悄,慍於群小。覯閔既多,受侮不少。靜言思之,寤闢有摽。
憂いの心は悄悄(しょうしょう)として、群小の怨みを受ける。遭う憂患はすでに多く、受けた侮辱も少なくない。静まって思い起こせば、覚めて胸を打ち、音を立てる。
日居月諸,胡迭而微?心之憂矣,如匪浣衣。靜言思之,不能奮飛。
日よ月よ、なぜ代わる代わる欠けてゆくのか。心の憂いは、洗っていない衣のようだ。静まって思い起こせば、奮い立って高く飛ぶことができない。
綠兮衣兮,綠衣黃裹。心之憂矣,曷維其已!
緑の衣よ緑の衣よ、緑の上衣に黄の裏。心の憂いは、いつか止むのか!
綠兮衣兮,綠衣黃裳。心之憂矣,曷維其亡!
緑の衣よ緑の衣よ、緑の上衣に黄の下裳(したも)。心の憂いは、いつか忘れられるのか!
綠兮絲兮,女所治兮。我思古人,俾無訧兮!
緑の絲よ緑の絲よ、あなたが織り成したものだ。古人を思い慕えば、私に過ちがないようにしてくれる!
絺兮綌兮,悽其以風。我思古人,實獲我心!
細かい葛布よ粗い葛布よ、涼しい風が吹くと冷たく感じる。古人を思い慕えば、実に私の心にかなう!
燕燕于飛,差池其羽。之子于歸,遠送於野。瞻望弗及,泣涕如雨。
燕が飛んでゆく、翅を差池(しち)として不揃いに。この娘が嫁ぐのを、遠く郊野まで送る。見上げて見上げても見えなくなり、涙が雨のように落ちる。
燕燕于飛,頡之頏之。之子于歸,遠於將之。瞻望弗及,佇立以泣。
燕が飛んでゆく、上がったり下がったり。この娘が嫁ぐのを、遠くまで送る。見上げて見上げても見えなくなり、立ち尽くして泣く。
燕燕于飛,下上其音。之子于歸,遠送於南。瞻望弗及,實勞我心。
燕が飛んでゆく、鳴き声が上下に響く。この娘が嫁ぐのを、遠く南方まで送る。見上げて見上げても見えなくなり、実に私の心を労(いた)わしめる。
仲氏任只,其心塞淵。終溫且惠,淑慎其身。先君之思,以勖寡人。
仲氏はこのように誠実だ、その心は深く実っている。温和であって柔顺、善良にして身を慎む。先君を思い、これをもって我が寡人(かじん)を励ます。
日居月諸,照臨下土。乃如之人兮,逝不古處?胡能有定?寧不我顧。
日よ月よ、下土に照り臨んでいる。このような人があるとは、もう昔のように交わってくれないのか。どうして定まりがあろうか。私を見に来なくてもいいというのか。
日居月諸,下土是冒。乃如之人兮,逝不相好。胡能有定?寧不我報。
日よ月よ、下土を覆っている。このような人があるとは、もう睦まじくしてくれないのか。どうして定まりがあろうか。私に報いなくてもいいというのか。
日居月諸,出自東方。乃如之人兮,德音無良。胡能有定?俾也可忘。
日よ月よ、東から出てゆく。このような人があるとは、よい名声を持ちながら心は良くない。どうして定まりがあろうか。人に忘れさせることもできるというのか。
日居月諸,東方自出。父兮母兮,畜我不卒。胡能有定?報我不述。
日よ月よ、東から出てゆく。父よ母よ、私を養ってくださるのに終わりまで至らない。どうして定まりがあろうか。私への報いが道理に従わないとは。
終風且暴,顧我則笑,謔浪笑敖,中心是悼。
風が吹いて荒れ狂い、私を振り返って笑い、戯れて放蕩し、嘲り傲るので、私の心はこれを傷悼する。
終風且霾,惠然肯來,莫往莫來,悠悠我思。
風が吹いて塵を舞い上げる、時には恵みとしていらしてくれるが、往かず来ず、私の思いは悠々として絶えない。
終風且曀,不日有曀,寤言不寐,願言則嚏。
風が吹いて陰り、日もなく陰っている、覚めて物を言っても眠れず、どうか彼がくしゃみをして、私が思っていると知ってほしい。
曀曀其陰,虺虺其雷,寤言不寐,願言則懷。
陰々とした空模様、虺虺(きき)と鳴る雷、覚めて物を言っても眠れず、どうか彼の心も私を思い慕っていてほしい。
擊鼓其鏜,踴躍用兵。土國城漕,我獨南行。
鼓が鏜鏜(とうとう)と鳴り、踊り躍って兵を用いる。国人が城を築き、漕邑の城を修める中、ただ私だけが南へ行く。
從孫子仲,平陳與宋。不我以歸,憂心有忡。
孫子仲に従って、陳と宋を平定する。私を帰らせてくれず、心は忡忡として憂える。
爰居爰處?爰喪其馬?於以求之?於林之下。
どこに住み、どこに歇(やす)むのか。馬はどこで失くしたのか。どこで探すのか。林の下で。
死生契闊,與子成說。執子之手,與子偕老。
死生離合、あなたと約束した。あなたの手を取り、あなたとともに老いるまで。
于嗟闊兮,不我活兮。于嗟洵兮,不我信兮。
ああ、こんなに遠く隔たっているのか、私を生かしてくれないのか。ああ、こんなに長いのか、私に信を守ってくれないのか。
凱風自南,吹彼棘心。棘心夭夭,母氏劬勞。
和やかな風が南から吹いてきて、あの酸棗(さんそう)の嫩い芯を吹いている。嫩い芯は少なく美しく、母は苦労している。
凱風自南,吹彼棘薪。母氏聖善,我無令人。
和やかな風が南から吹いてきて、あの酸棗の成った薪を吹いている。母は聖明で善良なのに、私は善い子ではない。
爰有寒痊?在浚之下。有子七人,母氏勞苦。
どこに寒泉があるか。浚邑(しゅんゆう)の下に。(底本は「痊」とするが、「痊」は「泉」の誤字。)息子が七人いても、母は苦労している。
睍睆黃鳥,載好其音。有子七人,莫慰母心。
黄鳥は明るく美しく、しかもよい声を持っている。息子が七人いても、誰も母の心を慰めることができない。
雄雉于飛,洩洩其羽。我之懷矣,自詒伊阻。
雄の雉(きじ)が飛んでゆく、翅を泄泄(えつえつ)と緩やかに羽ばたかせて。私が思い慕う人は、自ら隔たりを残したのだ。
雄雉于飛,下上其音。展矣君子,實勞我心。
雄の雉が飛んでゆく、鳴き声が上下に響く。誠実な君子よ、実に私の心を労わしめる。
瞻彼日月,悠悠我思。道之雲遠,曷雲能來?
あの日月を望み見て、私の思いは悠々として長い。道のりはこんなに遠く、どうして帰ってこられようか。
百爾君子,不知德行。不忮不求,何用不臧。
あなたがた君子は、徳行を知らない。忌害せず貪らなければ、何が善くないことがあろうか。
匏有苦葉,濟有深涉。深則厲,淺則揭。
瓠(ひさご)に枯れ葉があり、済水に深浅の渡れる場所がある。水深ければ衣のまま渡り、水浅ければ裳を掲げて渡る。
有彌濟盈,有鷕雉鳴。濟盈不濡軌,雉鳴求其牡。
済水は満々と漲り平らぎ、雉が鷕鷕(ようよう)と鳴く。水は漲っても車の軸を濡らさず、雉は鳴いてその雄を求める。
雍雍鳴雁,旭日始旦。士如歸妻,迨冰未泮。
雁が雝雝(ようよう)と鳴き、旭日がようやく明けた。男が妻を娶るなら、氷のまだ解けないうちに。
招招舟子,人涉卬否。不涉卬否,卬須我友。
船頭が手を招く、他人は渡るが私は渡らない。他人は渡るが私は渡らない、私は友を待っているのだ。
習習穀風,以陰以雨。黽勉同心,不宜有怒。採葑採菲,無以下體?德音莫違,及爾同死。
谷からの風が習々と吹き、陰って雨も降る。力を合わせ心を同じくして、怒るべきではない。葑(ふう)を摘み菲(ひ)を摘むのに、葉だけで根はいらないというのか。よい言葉を背かず、あなたとともに死ぬまで。
行道遲遲,中心有違。不遠伊邇,薄送我畿。誰謂荼苦,其甘如薺。宴爾新婚,如兄如弟。
歩みは遅々として、心に離れゆく感がある。遠くない、すぐ近くだ、門の口まで送っただけなのに。誰が荼(と)の苦いと言ったか。それは薺(なずな)のように甘い。あなたがたは新婚で宴楽し、兄弟のように親しい。
涇以渭濁,湜湜其沚。宴爾新婚,不我屑以。毋逝我梁,毋發我笱。我躬不閱,遑恤我後。
涇水は渭水によって濁って見えるが、澱んで止まると清く底まで見える。あなたがたは新婚で宴楽し、私を連れて行こうとしない。私の魚梁(ぎょりょう)に行かないで、私の笱(こう)を開けないで。私自身がまだ容れられないのに、去った後のことまでどうして顧みられようか。
就其深矣,方之舟之。就其淺矣,泳之遊之。何有何亡,黽勉求之。凡民有喪,匍匐救之。
深い所に至れば筏や舟を用い、浅い所に至れば泳いで渡る。あるものはあり、ないものはないと、力を尽くして求める。およそ人の家に凶事があれば、匐(は)ってでも助けに行く。
不我能畜,反以我為仇。既阻我德,賈用不售。昔育恐育鞫,及爾顛覆。既生既育,比予於毒。
私を養うことができず、かえって私を仇のように見なす。私のよさを拒んだのだから、商品が売れないようなものだ。昔は生きるのに恐れ、困窮していたとき、あなたとともに顛沛(てんぱい)した。すでに生育しすでに安定したのに、私を毒物にたとえる。
我有旨蓄,亦以御冬。宴爾新婚,以我御窮。有洸有潰,既詒我肄。不念昔者,伊餘來塈。
私には美味しい蓄え菜があり、それで冬を越す。あなたがたは新婚で宴楽し、私を窮乏にあたる盾にする。武を動かして怒りを発し、すでに私に労苦を負わせた。昔を顧みず、ただ私を慰めの対象にする。
