国風
式微,式微,胡不歸?微君之故,胡為乎中露!
衰えた、衰えた、なぜ帰らないのか。君のためでなければ、どうして露の中にいるのか!
式微,式微,胡不歸?微君之躬,胡為乎泥中!
衰えた、衰えた、なぜ帰らないのか。君ご自身のためでなければ、どうして泥の中にいるのか!
旄丘之葛兮,何誕之節兮。叔兮伯兮,何多日也?
旄丘(ぼうきゅう)の葛よ、節はなぜあんなに長いのか。叔よ伯よ、なぜこんなに多くの日が経つのか。
何其處也?必有與也!何其久也?必有以也!
なぜ安らかに動かないのか。きっと相手がいるのだ!なぜこんなに久しいのか。きっとわけがあるのだ!
狐裘蒙戎,匪車不東。叔兮伯兮,靡所與同。
狐裘(こきゅう)は蓬茸(ぼうじょう)として散らばり、車が東へ行かないわけではない。叔よ伯よ、私と心を同じくする者がいない。
瑣兮尾兮,流離之子。叔兮伯兮,褎如充耳。
瑣(さ)く細(さい)く小さいよ、流離して所を失った人。叔よ伯よ、盛装しているのに耳を塞いでいるようだ。
簡兮簡兮,方將萬舞。日之方中,在前上處。
簡簡(かんかん)と楽を奏でる、まもなく万舞(ばんぶ)を舞う。太陽が真ん中にある、彼は前列の上位にいる。
碩人俁俁,公庭萬舞。有力如虎,執轡如組。
頎(き)として大きい人が、公の庭で万舞を舞う。力は虎のよう、轡(くつわ)を握れば糸の組み合わせのように斉一だ。
左手執龠,右手秉翟。赫如渥赭,公言錫爵。
左手に籥(やく)を持ち、右手に翟(てき・雉羽)を持つ。顔は赭(しゃ)を塗ったように赤く、公は酒爵を賜うと言う。
山有榛,隰有苓。雲誰之思?西方美人。彼美人兮,西方之人兮。
山の上に榛(はしばみ)があり、隰(しつ)の低地に苓(れい・甘草)がある。思うのは誰か。西方の美人。あの美人よ、西方の人よ。
毖彼泉水,亦流於淇。有懷於衛,靡日不思。孌彼諸姬,聊與之謀。
あの泉は毖(ひつ)として湧き、淇水にも流れ込む。衛を懐かしんで、思わない日はない。あの美しい姫姓の女たちと、しばらく相談しよう。
出宿於泲,飲餞於禰。女子有行,遠父母兄弟,問我諸姑,遂及伯姊。
出て泲(せい)に宿り、禰(ねい)で餞別の酒を飲む。女が嫁いで遠く行くのは、父母兄弟を離れるからだ。私の諸姑(しょこ・おばたち)に挨拶して、ついでに大姐にも問う。
出宿於幹,飲餞於言。載脂載轄,還車言邁。遄臻於衛,不瑕有害?
出て干(かん)に宿り、言(げん)で餞別の酒を飲む。車に脂を塗り轄(かつ)を設け、車を回して前へ進む。早く衛に至るが、害はないだろうか。
我思肥泉,茲之永嘆。思須與漕,我心悠悠。駕言出遊,以寫我憂。
私は肥泉(ひせん)を思い、これに対して永く嘆息する。須(しゅ)と漕(そう)を思い、私の心は悠々として絶えない。車を駕(が)して出て遊び、私の憂いを書き散らそう。
出自北門,憂心殷殷。終窶且貧,莫知我艱。已焉哉!天實為之,謂之何哉!
北門を出てくると、憂いの心は殷殷(いんいん)とする。貧しくて窮乏しているのに、私の艱難を知る者がいない。もうやめだ!実に天が成したのだ、私はどうすればよいのか!
王事適我,政事一埤益我。我入自外,室人交遍謫我。已焉哉!天實為之,謂之何哉!
王の事が私に降りかかり、政事が一つ残らず私に加えられる。私が外から入ってくると、家人が輪番で私を責める。もうやめだ!実に天が成したのだ、私はどうすればよいのか!
王事敦我,政事一埤遺我。我入自外,室人交遍摧我。已焉哉!天實為之,謂之何哉!
王の事が私を敦迫(とんぱく)し、政事が一つ残らず私に残される。私が外から入ってくると、家人が輪番で私を摧辱(さいじょく)する。もうやめだ!実に天が成したのだ、私はどうすればよいのか!
北風其涼,雨雪其雱。惠而好我,攜手同行。其虛其邪?既亟只且!
北風は涼しげに吹き、雪は雱雱(ほうほう)と大きく降る。私を愛し好んでくれる人と、手を取り合ってともに行こう。なお躊躇し、なお遅れるのか。もうとても急いでいるのだ!
北風其喈,雨雪其霏。惠而好我,攜手同歸。其虛其邪?既亟只且!
北風は喈喈(かいかい)と急ぎ、雪は霏霏(ひひ)と密に降る。私を愛し好んでくれる人と、手を取り合ってともに帰ろう。なお躊躇し、なお遅れるのか。もうとても急いでいるのだ!
莫赤匪狐,莫黑匪烏。惠而好我,攜手同車。其虛其邪?既亟只且!
赤くなければ狐ではなく、黒くなければ烏ではない。私を愛し好んでくれる人と、手を取り合って同じ車に乗ろう。なお躊躇し、なお遅れるのか。もうとても急いでいるのだ!
靜女其姝,俟我於城隅。愛而不見,搔首踟躕。
静かな女はあんなに美しく、城の隅で私を待っている。隠れて見えないので、頭を掻きながら歩き回る。
靜女其孌,貽我彤管。彤管有煒,說懌女美。
静かな女はあんなに美しく、私に彤管(とうかん)を贈ってくれた。彤管には光沢がある、あなたの美しさを愛しいと思う。
自牧歸荑,洵美且異。匪女之為美,美人之貽。
牧場から茅荑(ぼうてい)を持ち帰ってきた、実に美しくて格別だ。この茅荑自体が美しいのではない、美人が贈ってくれたものだからだ。
新臺有泚,河水瀰瀰。燕婉之求,蘧篨不鮮。
新台は鮮明に輝き、河水は漲り満ちている。美しい相手を求めたのに、蟾蜍(せんじょ・ヒキガエル)のように醜い人だった。
新臺有灑,河水浼浼。燕婉之求,蘧篨不殄。
新台は高くそびえ、河水は漫漫(まんまん)と漲る。美しい相手を求めたのに、蟾蜍のように滅びない人だった。
魚網之設,鴻則離之。燕婉之求,得此戚施。
魚網を設けたのに、鴻(おおとり)がかかってしまった。美しい相手を求めたのに、この戚施(せきし・背の曲がった人)を得た。
二子乘舟,泛泛其景。願言思子,中心養養!
二人の子が舟に乗り、影が汎汎(はんはん)と漂う。願わくは私があなたがたを思い、心は養養(ようよう)として定まらない!
二子乘舟,泛泛其逝。願言思子,不瑕有害?
二人の子が舟に乗り、汎汎と遠く逝く。願わくは私があなたがたを思うが、害はないだろうか!
泛彼柏舟,在彼中河。髧彼兩髦,實維我儀。之死矢靡它。母也天只,不諒人只!
あの柏木の舟に漂い、あの河の中に。髧(たん)と二つの髷を垂れた少年、実に私の配偶者だ。死ぬまで誓って二心はない。母よ天よ、人の心を察しないのか!
泛彼柏舟,在彼河側。髧彼兩髦,實維我特。之死矢靡慝。母也天只,不諒人只!
あの柏木の舟に漂い、あの河のほとりに。髧と二つの髷を垂れた少年、実に私の良き相手だ。死ぬまで誓って邪な心はない。母よ天よ、人の心を察しないのか!
牆有茨,不可掃也。中冓之言,不可道也。所可道也,言之醜也。
墻に茨(いばら)が生え、掃き除けられない。宮中のことは、言えない。言えるとしても、言えば醜い。
牆有茨,不可襄也。中冓之言,不可詳也。所可詳也,言之長也。
墻に茨が生え、取り除けられない。宮中のことは、くわしく語れない。くわしく語れるとしても、語ればあまりに長い。
牆有茨,不可束也。中冓之言,不可讀也。所可讀也,言之辱也。
墻に茨が生え、束ねて持ち去れない。宮中のことは、読み上げられない。読み上げられるとしても、言えば恥ずかしい。
君子偕老,副笄六珈。委委佗佗,如山如河,象服是宜。子之不淑,雲如之何?
君子は彼女とともに老いる、鬘に笄(かんざし)を挿し、玉の珈(か)を六つ。威儀は委委佗佗(いいだだ)として、山のよう河のよう、礼服がよく似合う。あなたがこんなに不善とは、どうすればよいか?
玼兮玼兮,其之翟也。鬒髮如云,不屑髢也。玉之瑱也,象之揥也,揚且之晳也。胡然而天也!胡然而帝也。
鮮やかよ鮮やかよ、彼女の翟衣(てきい)。黒髪は雲のようで、鬘を用いるに屑としない。玉の瑱(てん・耳飾り)、象牙の揥(てい・髪掻き)、眉上はまた白皙。なぜ天神のようか!なぜ帝のようか。
瑳兮瑳兮,其之展也。蒙彼縐絺,是紲袢也。子之清揚,揚且之顏也。展如之人兮,邦之媛也!
鮮明よ鮮明よ、彼女の展衣(てんい)。あの細葛の縐衣(ちゅうい)を重ねて、身に着ける紲袢(せっぱん)。あなたの眉目は清く揚がり、眉上にまたよい顔色。まことにこのような人は、邦国の美人だ!
爰採唐矣?沬之鄉矣。雲誰之思?美孟姜矣。期我乎桑中,要我乎上宮,送我乎淇之上矣。
どこへ行って菟絲(とし・ネナシカズラ)を摘むか。沬(まい)邑の郷里で。思うのは誰か。美しい孟姜(もうきょう)。桑中(そうちゅう)で私を約し、上宮で私を迎え、淇水のほとりまで送ってくれた。
爰採麥矣?沬之北矣。雲誰之思?美孟弋矣。期我乎桑中,要我乎上宮,送我乎淇之上矣。
どこへ行って麦を摘むか。沬邑の北で。思うのは誰か。美しい孟弋(もうよく)。桑中で私を約し、上宮で私を迎え、淇水のほとりまで送ってくれた。
爰採葑矣?沬之東矣。雲誰之思?美孟庸矣。期我乎桑中,要我乎上宮,送我乎淇之上矣。
どこへ行って葑(ふう)を摘むか。沬邑の東で。思うのは誰か。美しい孟庸(もうよう)。桑中で私を約し、上宮で私を迎え、淇水のほとりまで送ってくれた。
鶉之奔奔,鵲之彊彊。人之無良,我以為兄!
鶉(うずら)が急いで飛び、鵲が健やかに飛ぶ。この人は良くないのに、私は彼を兄としている!
鵲之彊彊,鶉之奔奔。人之無良,我以為君!
鵲が健やかに飛び、鶉が急いで飛ぶ。この人は良くないのに、私は彼を君としている!
定之方中,作於楚宮。揆之以日,作於楚室。樹之榛栗,椅桐梓漆,爰伐琴桑。
営室(えいしつ)の星が中天にある、楚丘の宮を建てる。日影で測定し、楚丘の室を建てる。榛栗(しんりつ)を植え、椅(い)・桐・梓(し)・漆(しつ)を、そこで伐って琴瑟を作る。
升彼虛矣,以望楚矣。望楚與堂,景山與京。降觀於桑,卜雲其吉,終然允臧。
あの虚墟(きょきょ)に登って、楚丘を眺める。楚丘と堂邑(どうゆう)を望み、大山と高丘を望む。降りて桑田を見て、卜に問えば大吉で、ついに実に善かった。
靈雨既零,命彼倌人,星言夙駕,說於桑田。匪直也人,秉心塞淵,騋牝三千。
よい雨がすでに降った、あの御者(ぎょしゃ)に命じて、晴れたら早く車を駕して、桑田に停める。この人だけでなく、心は深く実り、高い牝馬(ひんば)三千匹。
蝃蝀在東,莫之敢指。女子有行,遠父母兄弟。
虹が東に出た、指す者はいない。女が嫁いで遠く行くのは、父母兄弟を離れるからだ。
朝隮於西,崇朝其雨。女子有行,遠兄弟父母。
朝に虹気が西に出れば、朝じゅう雨が降る。女が嫁いで遠く行くのは、兄弟父母を離れるからだ。
乃如之人也,懷婚姻也。大無信也,不知命也!
このような人があるとは、婚姻を思いながら。あまりに信がなく、天命を知らない!
相鼠有皮,人而無儀!人而無儀,不死何為?
あの鼠を見よ、まだ皮があるのに、人は儀容がない!人に儀容がなければ、死なずに何をするか?
相鼠有齒,人而無止!人而無止,不死何俟?
あの鼠を見よ、まだ歯があるのに、人は節止がない!人に節止がなければ、死なずに何を待つか?
相鼠有體,人而無禮,人而無禮!胡不遄死?
あの鼠を見よ、まだ肢体があるのに、人は礼がない、人に礼がない!どうして早く死なないか?
孑孑幹旄,在浚之郊。素絲紕之,良馬四之。彼姝者子,何以畀之?
高々とした干旄(かんぼう)、浚邑(しゅんゆう)の郊外に。白い絲で縁を飾り、よい馬が四匹従う。あの美しい人に、何を贈ろうか?
孑孑幹旟,在浚之都。素絲組之,良馬五之。彼姝者子,何以予之?
高々とした干旟(かんよ)、浚邑の都に。白い絲で組を成し、よい馬が五匹従う。あの美しい人に、何を与えようか?
孑孑幹旌,在浚之城。素絲祝之,良馬六之。彼姝者子,何以告之?
高々とした干旌(かんせい)、浚邑の城に。白い絲で結び、よい馬が六匹従う。あの美しい人に、何を告げようか?
載馳載驅,歸唁衛侯。驅馬悠悠,言至於漕。大夫跋涉,我心則憂。
馳せて駆けて、衛侯を弔問しに帰る。馬を駆って道は悠々、ようやく漕邑に至る。大夫が跋涉(はっしょう)して来たので、私の心は憂える。
既不我嘉,不能旋反。視爾不臧,我思不遠。
すでに私を是としないので、私もすぐには帰れない。あなたがたが善くないと見るが、私の思いは遠くない。
既不我嘉,不能旋濟?視爾不臧,我思不閟。
すでに私を是としないので、私もすぐに渡って帰れないか。あなたがたが善くないと見るが、私の思いは閉塞していない。
陟彼阿丘,言採其蝱。女子善懷,亦各有行。許人尤之,眾稚且狂。
あの阿丘(あきゅう)に登って、貝母(ばいも)を摘む。女は多感で善く思うが、それぞれに理がある。許国の人が彼女を責めるのは、衆人が幼稚でしかも狂っているからだ。
我行其野,芃芃其麥。控於大邦,誰因誰極?大夫君子,無我有尤。百爾所思,不如我所之。
あの野を行くと、麦が芃芃(ぼうぼう)と茂っている。大国に訴えるに、誰に依り誰に奔(はし)るか。大夫君子よ、私を責めるな。あなたがたが思う百の方策も、私の往くところには及ばない。
瞻彼淇奧,綠竹猗猗。有匪君子,如切如磋,如琢如磨,瑟兮僴兮,赫兮咺兮。有匪君子,終不可諼兮。
あの淇水の曲がりを望めば、緑竹が猗猗(いい)と美しい。文采ある君子は、切るように磋(さ)らくように、琢(たく)み磨(みが)くように、瑟(しつ)として僴(かん)として、赫(かく)として咺(けん)として。文采ある君子は、終に忘れられない!
瞻彼淇奧,綠竹青青。有匪君子,充耳秀瑩,會弁如星。瑟兮僴兮。赫兮咺兮,有匪君子,終不可諼兮。
あの淇水の曲がりを望めば、緑竹は青青としている。文采ある君子は、充耳(じゅうじ)が秀でて瑩(えい)として、皮弁(ひべん)の合わせ目が星のよう。瑟として僴として、赫として咺として。文采ある君子は、終に忘れられない!
