国風
瞻彼淇奧,綠竹如簀。有匪君子,如金如錫,如圭如璧。寬兮綽兮,猗重較兮。善戲謔兮,不為虐兮。
あの淇水の曲がりを望めば、緑竹は蓆のように密だ。文采ある君子は、金のよう錫(しゃく)のよう、圭(けい)のよう璧(へき)のよう。寛(かん)として綽(しゃく)として、重較(じゅうかく)の車に倚(よ)る。善く戯れるが、虐(ぎゃく)には至らない。
考槃在澗,碩人之寬。獨寐寤言,永矢弗諼。
槃(はん)を考(こう)として山涧にいる、碩人(せきじん)は寛(かん)として広い。独り寝て、覚めて言う、永く誓って忘れない。
考槃在阿,碩人之薖。獨寐寤歌,永矢弗過。
槃を考として山阿にいる、碩人は薖(か)として和らぐ。独り寝て、覚めて歌う、永く誓って過(あやま)らない。
考槃在六,碩人之軸。獨寐寤宿,永矢弗告。
槃を考して陸(りく)にいる(底本は「六」とするが、「六」は「陸」の誤字)。碩人は軸(じく)として去らない。独り寝て、覚めて宿る、永く誓って人に告げない。
碩人其頎,衣錦褧衣。齊侯之子,衛侯之妻。東宮之妹,邢侯之姨,譚公維私。
碩人はそのように頎(き)として長く、錦衣の上に褧(けい)衣を重ねる。斉侯の娘で、衛侯の妻。太子の妹で、邢侯(けいこう)の姨(い)、譚公(たんこう)は彼女の妹婿。
手如柔荑,膚如凝脂,領如蝤蠐,齒如瓠犀,螓首蛾眉,巧笑倩兮,美目盼兮。
手は柔らかい茅の荑(てい)のよう、肌は凝った脂のよう、頸は天牛の幼虫(蠐螬・さいそう)のよう、歯は瓠瓜の子(瓠犀・こせい)のよう、螓首(しんしゅ)に蛾眉(がび)、巧みに笑って倩(せん)とえくぼができ、美しい目は盼(はん)として黒白が分明だ。
碩人敖敖,說於農郊。四牡有驕,朱幩鑣鑣。翟茀以朝。大夫夙退,無使君勞。
碩人は敖敖(ごうごう)として長い、近郊に車を停める。四匹の牡馬は驕健(きょうけん)で、朱幨(しゅてん)を纏った鏣(びょう)が鑣鑣(ひょうひょう)と鳴る。翟羽の車が朝見に来る。大夫は早く退け、国君を労わせるな。
河水洋洋,北流活活。施罛濊濊,鱣鮪發發。葭菼揭揭,庶姜孽孽,庶士有朅。
河水は洋洋(ようよう)と大きく、北へ活活(かつかつ)と流れ響く。網を施して濊濊(わいわい)と水に入り、鱣(てん)・鮪(い)が発発(はつはつ)と跳ねる。芦荻(ろてき)は揭揭(けつけつ)と高く、衆の姜姓の女は盛装し、衆の士は朅(けつ)として強い。
氓之蚩蚩,抱布貿絲。匪來貿絲,來即我謀。送子涉淇,至於頓丘。匪我愆期,子無良媒。將子無怒,秋以為期。
あの人は蚩蚩(しし)と笑い、布を抱いて絲を買いに来た。絲を買いに来たのではない、私と謀りに来たのだ。あなたを淇水を渡って送り、頓丘(とんきゅう)まで。期日を誤ったのは私ではなく、あなたに良い媒人がいなかったのだ。どうか怒らないで、秋を約束の時としよう。
乘彼垝垣,以望復關。不見覆關,泣涕漣漣。既見覆關,載笑載言。爾卜爾筮,體無咎言。以爾車來,以我賄遷。
あの壊れた墻に登って、復関(ふくかん)を望む。復関が見えず、涙は漣漣(れんれん)。すでに復関が見えれば、笑い語る。あなたが卜に問い筮(ぜい)に占えば、卦象に咎(とが)の言葉はない。あなたの車で来て、私の賄(わい・財物)を移し取る。
桑之未落,其葉沃若。于嗟鳩兮!無食桑葚。于嗟女兮!無與士耽。士之耽兮,猶可說也。女之耽兮,不可說也。
桑の葉がまだ落ちないうち、葉は沃若(ようじゃく)として潤う。ああ鳲鳩よ!桑椹(そうじん)を食べるな。ああ女よ!士と耽(たん)して耽るな。士が耽るのは、まだ脱(だっ)することができる。女が耽るのは、脱することができない。
桑之落矣,其黃而隕。自我徂爾,三歲食貧。淇水湯湯,漸車帷裳。女也不爽,士二其行。士也罔極,二三其德。
桑の葉が落ちれば、黄ばんで隕(お)ちる。私があなたの家に来てから、三年貧しく食してきた。淇水は湯湯(しょうしょう)と大きく、車の帷(とばり)を濡らす。女に差失はないのに、士は二心がある。士は極(きょく)がなく、二三その徳。
三歲為婦,靡室勞矣。夙興夜寐,靡有朝矣。言既遂矣,至於暴矣。兄弟不知,咥其笑矣。靜言思之,躬自悼矣。
三年嫁として、家の労苦をせぬことはなかった。夙(つと)に起き夜に寐(ね)て、朝の暇な日はなかった。言(ことば)が遂げられれば、暴虐に至る。兄弟は知らず、咥咥(きき)と笑う。静まって思い起こせば、自らを傷悼する。
及爾偕老,老使我怨。淇則有岸,隰則有泮。總角之宴,言笑晏晏,信誓旦旦,不思其反。反是不思,亦已焉哉!
あなたとともに老いる約束だったのに、老いて私を怨ませる。淇水にも岸があり、隰にも畔(はん)がある。総角(そうかく・幼い頃)の宴楽は、笑い晏晏(あんあん)として安らかだった。信誓は旦旦(たんたん)と誠実だったのに、後のことを思わなかった。後のことを思わないなら、もうやめだ!
籊籊竹竿,以釣於淇。豈不爾思?遠莫致之。
籊籊(てきてき)とした竹竿、淇水で釣りをするのに使う。あなたを思わないわけではない、道が遠くて送り届けられないのだ。
泉源在左,淇水在右。女子有行,遠兄弟父母。
泉源は左にあり、淇水は右にある。女が嫁いで遠く行くのは、兄弟父母を離れるからだ。
淇水在右,泉源在左。巧笑之瑳,佩玉之儺。
淇水は右にあり、泉源は左にある。巧みに笑って瑳(さ)と白い歯を見せ、佩玉を身につけて儺(だ)と歩み調子を取る。
淇水滺滺,檜楫松舟。駕言出遊,以寫我憂。
淇水は滺滺(ゆうゆう)と流れ、檜(かい)の楫(かじ)に松の舟。車を駕して出て遊び、私の憂いを書き散らそう。
芄蘭之支,童子佩觿。雖則佩觿,能不我知。容兮遂兮,垂帶悸兮。
芄蘭(かんらん)の枝、童子が觿(けい・角錐)を佩びている。觿を佩びているのに、私を知ることができない。容態は遂遂(すいすい)として、帯の垂れが悸(き)として動く。
芄蘭之葉,童子佩韘。雖則佩韘,能不我甲。容兮遂兮,垂帶悸兮。
芄蘭の葉、童子が韘(しゃ・弓弽)を佩びている。韘を佩びているのに、私と甲(こう)することができない。容態は遂遂として、帯の垂れが悸として動く。
誰謂河廣?一葦杭之。誰謂宋遠?跂予望之。
誰が河(黄河)が広いと言うか。一葦(いちい)の杭(くい)で渡れる。誰が宋が遠いと言うか。跂(き)として立てば私は見える。
誰謂河廣?曾不容刀。誰謂宋遠?曾不崇朝。
誰が河が広いと言うか。あの小さな刀(とう)の舟さえ容れられない。誰が宋が遠いと言うか。一朝(いっちょう)を費やすに足りない。
伯兮朅兮,邦之桀兮。伯也執殳,為王前驅。
伯はあのように朅(けつ)として武勇だ、邦国の桀(けつ・傑出した士)だ。伯は殳(しゅ)を執って、王の前駆となる。
自伯之東,首如飛蓬。豈無膏沐?誰適為容!
伯が東へ行ってから、髪は飛蓬(ひほう)のようだ。膏沐(こうもく・髪油)がないわけではない、誰のために容(かたち)を整えようか!
其雨其雨,杲杲出日。願言思伯,甘心首疾。
雨を望み雨を望んだのに、杲杲(こうこう)と日が出た。願わくは私が伯を思い、甘心(かんしん)して頭が痛くなるまで。
焉得諼草?言樹之背。願言思伯。使我心痗。
どこで諼草(けんそう・忘れ草)を得られるか。北堂に植えよう。願わくは私が伯を思い、私の心を病ませるまで。
有狐綏綏,在彼淇梁。心之憂矣,之子無裳。
狐が緩緩(かんかん)と行く、あの淇水の梁(はし)の上で。心の憂いよ、この人には裳がない。
有狐綏綏,在彼淇厲。心之憂矣,之子無帶。
狐が緩緩と行く、あの淇水の厲(れい・浅瀬)で。心の憂いよ、この人には帯がない。
有狐綏綏,在彼淇側。心之憂矣,之子無服。
狐が緩緩と行く、あの淇水の側で。心の憂いよ、この人には服がない。
投我以木瓜,報之以瓊琚。匪報也,永以為好也!
あなたが木瓜(もっか)を投げてくれた、私は瓊琚(けいきょ)で報いる。報いではない、永く好(こう)を結ぶためだ!
投我以木桃,報之以瓊瑤。匪報也,永以為好也!
あなたが木桃(もくとう)を投げてくれた、私は瓊瑶(けいよう)で報いる。報いではない、永く好を結ぶためだ!
投我以木李,報之以瓊九。匪報也,永以為好也!
あなたが木李(もくり)を投げてくれた、私は瓊玖(けいきゅう)で報いる(底本は「九」とするが、「九」は「玖」の誤字)。報いではない、永く好を結ぶためだ!
彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂;不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉?
あの黍は離離(りり)と列を成して生え、あの稷は苗を出している。歩みは靡靡(びび)として遅く、心は揺揺(ようよう)と定まらない。私を知る者は「心が憂えている」と言い、私を知らぬ者は「何を求めているのか」と言う。悠悠たる蒼天よ、これは何という人だ!
彼黍離離,彼稷之穗。行邁靡靡,中心如醉。知我者,謂我心憂;不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉?
あの黍は離離と列を成して生え、あの稷は穂を出している。歩みは靡靡として遅く、心は酔ったようだ。私を知る者は「心が憂えている」と言い、私を知らぬ者は「何を求めているのか」と言う。悠悠たる蒼天よ、これは何という人だ!
彼黍離離,彼稷之實。行邁靡靡,中心如噎。知我者,謂我心憂;不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉?
あの黍は離離と列を成して生え、あの稷は実を結んだ。歩みは靡靡として遅く、心は噎(えつ)したようだ。私を知る者は「心が憂えている」と言い、私を知らぬ者は「何を求めているのか」と言う。悠悠たる蒼天よ、これは何という人だ!
君子于役,不知其期。曷至哉?雞棲於塒。日之夕矣,羊牛下來。君子于役,如之何勿思!
君子は役に出て、期日が分からない。いつ家に至るのか。鶏は墻の塒(ねぐら)に栖(す)む。日が入り、羊牛が下りてくる。君子は役に出て、どうして思わずにいられようか!
君子于役,不日不月。曷其有佸?雞棲於桀。日之夕矣,羊牛下括。君子于役,苟無飢渴?
君子は役に出て、日を算(かぞ)えず月を算えない。いつか相会えるのか。鶏は桀(けつ・木の杭)に栖む。日が入り、羊牛が下りて括(かつ)れる。君子は役に出て、ただ飢え渇かないように!
君子陽陽,左執簧,右招我由房,其樂只且!
君子は陽陽(ようよう)として自得し、左手に簧(こう)を持ち、右手で私を房中から招き出す、その楽しさよ!
君子陶陶,左執翿,右招我由敖,其樂只且!
君子は陶陶(とうとう)として和楽し、左手に翿(とう・羽の幢)を持ち、右手で私を遨(ごう)の所から招き出す、その楽しさよ!
揚之水,不流束薪。彼其之子,不與我戍申。懷哉懷哉,曷月予還歸哉?
激しく揚がる水は、束ねた薪も流せない。あの人は、私とともに申(しん)を戍(じゅ)らない。懐かしいよ懐かしいよ、何月になれば私は帰れるのか?
揚之水,不流束楚。彼其之子,不與我戍甫。懷哉懷哉,曷月予還歸哉?
激しく揚がる水は、束ねた荊(けい)も流せない。あの人は、私とともに甫(ほ)を戍らない。懐かしいよ懐かしいよ、何月になれば私は帰れるのか?
揚之水,不流束蒲。彼其之子,不與我戍許。懷哉懷哉,曷月予還歸哉?
激しく揚がる水は、束ねた蒲(ほ)も流せない。あの人は、私とともに許(きょ)を戍らない。懐かしいよ懐かしいよ、何月になれば私は帰れるのか?
中谷有蓷,暵其幹矣。有女仳離,慨其嘆矣。慨其嘆矣,遇人之艱難矣。
谷の中に蓷(たい・益母草)があり、暵(かん)として乾いた。離散する女があり、嘅(かい)として嘆く。嘅として嘆く、人としての艱難に遭ったのだ。
中谷有蓷,暵其修矣。有女仳離,條其歗矣。條其歗矣,遇人之不淑矣。
谷の中に蓷があり、脩(しゅう)として細長く乾いた。離散する女があり、條(じょう)として長く嘯く。條として長く嘯く、遇った人が不善だったのだ。
中谷有蓷,暵其溼矣。有女仳離,啜其泣矣。啜其泣矣,何嗟及矣。
谷の中に蓷があり、乾いてまた湿ったようだ。離散する女があり、啜(てつ)して泣く。啜して泣く、嘆いて何の役に立とう。
有兔爰爰,雉離於羅。我生之初,尚無為;我生之後,逢此百罹。尚寐無吪。
兎は爰爰(えんえん)と緩く行くが、雉は羅(ら・網)に罹(かか)る。私が生まれた初めには、まだこれらの事はなかった。私が生まれた後には、この百の憂患に逢う。ただ寐て動かなければよい。
有兔爰爰,雉離於罦。我生之初,尚無造;我生之後,逢此百憂。尚寐無覺。
兎は爰爰と緩く行くが、雉は罦(ふ・覆車網)に罹る。私が生まれた初めには、まだこれらの造(ぞう)はなかった。私が生まれた後には、この百の憂愁に逢う。ただ寐て覚めなければよい。
有兔爰爰,雉離於罿。我生之初,尚無庸;我生之後,逢此百兇。尚寐無聰。
兎は爰爰と緩く行くが、雉は罿(どう)に罹る。私が生まれた初めには、まだこれらの庸(よう・労役)はなかった。私が生まれた後には、この百の凶(きょう)に逢う。ただ寐て聴かなければよい。
綿綿葛藟,在河之滸。終遠兄弟,謂他人父。謂他人父,亦莫我顧!
葛藟は綿綿(めんめん)と連なり、河の涘(し)に在る。ついに兄弟から遠く離れ、他人を父と呼ぶ。他人を父と呼んでも、私を顧みてくれない!
綿綿葛爰,在河之藟。終遠兄弟,謂他人母。謂他人母,亦莫我有!
葛藤は綿綿と連なり、河の涘に在る(底本の文字は錯乱しているので、詩意に基づいて訳す)。ついに兄弟から遠く離れ、他人を母と呼ぶ。他人を母と呼んでも、私を子としてくれない!
綿綿葛藟,在河之漘。終遠兄弟,謂他人昆。謂他人昆,亦莫我聞!
葛藟は綿綿と連なり、河の漘(しゅん・岸)に在る。ついに兄弟から遠く離れ、他人を昆(こん・兄)と呼ぶ。他人を昆と呼んでも、私に聞(ぶん)を通じてくれない!
彼采葛兮,一日不見,如三月兮!
あの葛を采る人よ、一日見なければ、三月のようだ!
彼採蕭兮,一日不見,如三秋兮!
あの蕭(しょう・蓬)を采る人よ、一日見なければ、三秋のようだ!
彼採艾兮!一日不見,如三歲兮!
あの艾(がい・蓬)を采る人よ!一日見なければ、三年のようだ!
大車檻檻,毳衣如菼。豈不爾思?畏子不敢。
大車は檻檻(かんかん)と鳴り、毳衣(ぜいい)は菼(たん・荻)の色だ。あなたを思わないわけではない、あなたを畏れて敢えてしないのだ。
大車啍啍,毳衣如璊,豈不爾思?畏子不奔。
大車は啍啍(とんとん)と遅く、毳衣は璊(めん・玉の赤色)だ。あなたを思わないわけではない、あなたを畏れて奔(ほん)らないのだ。
谷則異室,死則同穴。謂予不信,有如皎日。
生きていれば別々の室に住み、死ねば同じ壙(こう)に埋まる。私が信でないと言うなら、この皦(こう)として皎々たる日が証しだ。
丘中有麻,彼留子嗟。彼留子嗟,將其來施施。
丘の中に麻があり、あの留(りゅう)して子嗟(しさ)を待つ人がいる。あの留して子嗟を待つ人は、彼を施施(しし)として徐々に来させるだろう。
丘中有麥,彼留子國。彼留子國,將其來食。
丘の中に麦があり、あの留して子国(しくく)を待つ人がいる。あの留して子国を待つ人は、彼を来させて食(しょく)させるだろう。
丘中有李,彼留之子。彼留之子,貽我佩九。
丘の中に李があり、あの留して待つ人がいる。あの留して待つ人は、私に佩玖(はいきゅう)を贈るだろう(底本は「九」とするが、「九」は「玖」の誤字)。
