中論 巻第一
若眾緣和合中無果者,則眾因緣即同非因緣。如乳是酪因緣,若乳中無酪,水中亦無酪。若乳中無酪,則與水同,不應言但從乳出。是故眾緣和合中無果者,是事不然。
もし衆縁和合の中に果なければ、衆因縁はすなわち非因縁と相同じとなる。乳は酪の因縁なるが如く、もし乳の中に酪なければ、水の中にも酪なし。もし乳の中に酪なければ、すなわち水と相同じとなる。ただ乳から出ると説くべきではない。ゆえに衆縁和合の中に果なしは、この事は当らない。
問曰:因為果作因已滅,而有因果。無如是咎。
問う者曰く、果のために因を作してすでに滅したれば、かえって因有り果有る。この類の過失なし。
答曰:
答える者曰く、
「若因與果因,作因已而滅,
「もし因が果に与えて因を作し、作り了わりて因滅せば、
是因有二體,一與一則滅。」
この因に二つの体有り。一は与、一は滅。」
若因與果作因已而滅者,是因則有二體:一謂與因;二謂滅因。是事不然,一法有二體故。是故因與果作因已而滅,是事不然。
もし因が果に与えて因を作してすでに滅せば、この因に二つの体有る。一つを与の因と名づけ、二つを滅の因と名づく。この事は当らない。同一の法に二つの体有ればがゆえである。ゆえに因が果に与えて因を作してすでに滅すは、この事は当らない。
問曰:若謂因不與果作因已而滅,亦有果生,有何咎。
問う者曰く、もし因は果に与えて因を作さずしてすでに滅したるも、また果の生有ると言うに、何の過失あらん。
答曰:
答える者曰く、
「若因不與果,作因已而滅,
「もし因が果に与えて因を作さずしてすでに滅せば、
因滅而果生,是果則無因。」
因滅して果生ず。この果はすなわち無因なり。」
若是因不與果作因已而滅者,則因滅已而果生,是果則無因。是事不然。何以故?現見一切果,無有無因生者。是故汝說因不與果作因已而滅亦有果生者,是事不然。
もしこの因が果に与えて因を作さずしてすでに滅せば、すなわち因滅して果生ず。この果はすなわち無因である。この事は当らない。なぜか。現前に一切の果を見るに、無因にして生ずることなきがゆえである。ゆえにあなたが因は果に与えて因を作さずしてすでに滅したるも果の生有ると説くは、この事は当らない。
問曰:眾緣合時而有果生者,有何咎?
問う者曰く、衆縁合する時に果の生有るに、何の過失が有るか。
答曰:
答える者曰く、
「若眾緣合時,而有果生者,
「もし衆縁合する時に果の生有れば、
生者及可生,則為一時俱。」
能生および可生は、すなわち同一時に俱り在らん。」
若眾緣合時有果生者,則生者可生即一時俱。但是事不爾。何以故?如父子不得一時生。是故汝說眾緣合時有果生者,是事不然。
もし衆縁合する時に果の生有れば、能生と可生とすなわち同一時に俱り在る。しかるにこの事はそうではない。なぜか。父と子は同一時に生ずること能わざるが如し。ゆえにあなたが衆縁合する時に果の生有ると説くは、この事は当らない。
問曰:若先有果生,而後眾緣合,有何咎?
問う者曰く、もし先に果生じて、しかる後に衆縁こそ合するに、何の過失が有るか。
答曰:
答える者曰く、
「若先有果生,而後眾緣合,
「もし先に果生じて、しかる後に衆縁こそ合せば、
此即離因緣,名為無因果。」
これはすなわち因縁を離れて、無因の果と名づく。」
若眾緣未合而先有果生者,是事不然,果離因緣故則名無因果。是故汝說眾緣未合時先有果生者,是事則不然。
もし衆縁まだ合せざるに先に果の生有れば、この事は当らない。果が因縁を離れるは、すなわち無因の果と名づく。ゆえにあなたが衆縁まだ合せざる時に先に果生ずと説くは、この事は当らない。
問曰:因滅變為果者,有何咎?
問う者曰く、因が滅して果に変ずるに、何の過失が有るか。
答曰:
答える者曰く、
「若因變為果,因即至於果,
「もし因が果に変ずれば、因はすなわち果に至り、
是則前生因,生已而復生。」
それはすなわち先前に生じたる因が、生じてさらに生ず。」
因有二種:一者前生;二者共生。若因滅變為果,是前生因應還更生。但是事不然。何以故?已生物不應更生。若謂是因即變為果,是亦不然。何以故?若即是不名為變,若變不名即是。
因に二種有る。一つは先前に生じたる、二つは共に生ずる。もし因が滅して果に変ずれば、この先前に生じたる因は還りてさらに生ずべきである。しかるにこの事は当らない。なぜか。すでに生出したる物はさらに生ずべきではないからである。もしこの因がすなわち果に変ずと言うならば、これも当らない。なぜか。もしすなわちなれば、変と名づけない。もし変なれば、すなわちと名づけないからである。
問曰:因不盡滅但名字滅,而因體變為果,如泥團變為瓶,失泥團名而瓶名生。
問う者曰く、因は尽く滅するのではなく、ただ名字が滅するのみで、因の体が果に変ず。泥団が瓶に変じて、泥団の名字を失い瓶の名字が生ずるが如し。
答曰:泥團先滅而有瓶生,不名為變。又泥團體不獨生,瓶瓫甕等皆從泥中出。若泥團但有名,不應變為瓶,變名如乳變為酪。是故汝說因名雖滅而變為果,是事不然。
答える者曰く、泥団は先に滅してこそ瓶の生有る。変と名づけない。しかも泥団の体は独りで生ぜず、瓶・瓫・瓮等皆泥から出る。もし泥団がただ名字のみあれば、瓶に変ずべきではない。いわゆる変とは、乳の酪に変ずるが如し。ゆえにあなたが因の名字は滅すれども果に変ずと説くは、この事は当らない。
問曰:因雖滅失而能生果,是故有果。無如是咎。
問う者曰く、因は滅失するといえども能く果を生ず。ゆえに果有る。この類の過失なし。
答曰:
答える者曰く、
「云何因滅失,而能生於果?
「どうして因が滅失してなお果を生ずることができようか。
又若因在果,云何因生果?」
またもし因が果の中に在れば、どうして因はなお果を生ぜんか。」
若因滅失已,云何能生果?若因不滅而與果合,何能更生果?
もし因が滅失せば、どうして果を生ずることができようか。もし因が滅せずして果と合せば、どうしてなお果を生ずることができようか。
問曰:是因遍有果而果生。
問う者曰く、この因は遍く果有りて果生ず。
答曰:
答える者曰く、
「若因遍有果,更生何等果?
「もし因が遍く果有れば、なおどのような果をさらに生ぜんか。
因見不見果,是二俱不生。」
因はあるいは果を見、あるいは果を見ず。二種とも生ぜず。」
是因若不見果,尚不應生果,何況見!若因自不見果,則不應生果。何以故?若不見果,果則不隨因。又未有果,云何生果?若因先見果,不應復生,果已有故。復次:
この因がもし果を見ざれば、なお果を生ずべきではない。いわんや見るをや。もし因が自ら果を見ざれば、果を生ずべきではない。なぜか。もし果を見ざれば、果は因に随わざるがゆえである。またまだ果なければ、どうして果を生ぜんか。もし因が先前にすでに果を見れば、さらに生ずべきではない。果はすでに有ればがゆえである。さらにいえば、
「若言過去因,而於過去果,
「もし過去の因を説くに、過去の果に対して、
未來現在果,是則終不合。
未来・現在の果に対して、終に皆合せず。
若言未來因,而於未來果,
もし未来の因を説くに、未来の果に対して、
現在過去果,是則終不合。
現在・過去の果に対して、終に皆合せず。
若言現在因,而於現在果,
もし現在の因を説くに、現在の果に対して、
未來過去果,是則終不合。」
未来・過去の果に対して、終に皆合せず。」
過去果不與過去、未來、現在因合。未來果不與未來、現在、過去因合。現在果不與現在、未來、過去因合。如是三種果,終不與過去、未來、現在因合。復次:
過去の果は過去・未来・現在の因と合せず。未来の果は未来・現在・過去の因と合せず。現在の果は現在・未来・過去の因と合せず。このように三種の果は、終に過去・未来・現在の因と合せず。さらにいえば、
「若不和合者,因何能生果?
「もし和合せざれば、因はどうして果を生じ得んか。
若有和合者,因何能生果?」
もし和合有れば、因はどうして果を生じ得んか。」
若因果不和合則無果,若無果云何因能生果?若謂因果和合時因能生果者,是亦不然。何以故?若果在因中,則因中已有果,云何而復生?復次:
もし因果が和合せざれば、すなわち果なし。もし果なければ、因はどうして果を生じ得んか。もし因果が和合する時に因は果を生じ得ると言うならば、これも当らない。なぜか。もし果が因の中にあれば、因の中にすでに果有り。どうしてなおさらに生ぜんか。さらにいえば、
「若因空無果,因何能生果?
「もし因が空にして果なければ、因はどうして果を生じ得んか。
若因不空果,因何能生果?」
もし因が空ならずして果有れば、因はどうして果を生じ得んか。」
若因無果者,以無果故因空,云何因生果?如人不懷姙,云何能生子?若因先有果,已有果故不應復生。復次,今當說果。
もし因に果なければ、果なきがゆえに因は空である。因はどうして果を生ぜんか。人が妊せざれば、どうして子を生じ得んかとするが如し。もし因が先前にすでに果有れば、すでに果有るがゆえに、さらに生ずべきではない。さらにいえば、いま果を説くべきである。
「果不空不生,果不空不滅,
「果が不空なれば生ぜず、果が不空なれば滅せず。
以果不空故,不生亦不滅。
果が不空なるがゆえに、生ぜずまた滅せず。
果空故不生,果空故不滅,
果が空なれば生ぜず、果が空なれば滅せず。
以果是空故,不生亦不滅。」
果が是れ空なるがゆえに、生ぜずまた滅せず。」
果若不空,不應生、不應滅。何以故?果若因中先決定有,更不須復生,生無故無滅,是故果不空故不生不滅。若謂果空故有生滅,是亦不然。何以故?果若空,空名無所有,云何當有生滅?是故說果空故不生不滅。復次,今以一異破因果。
果がもし不空なれば、生ずべきではなく、滅すべきでもない。なぜか。果がもし因の中に先前に決定してすでに有れば、さらに生ずるを須いない。生なければ、すなわち滅なし。ゆえに果は不空なれば、これによりて不生不滅である。もし果が空なるがゆえに生滅有ると言うならば、これも当らない。なぜか。果がもし空なれば、空は無所有と名づく。どうしてなお生滅があらんか。ゆえに果は空なれば、これによりて不生不滅と説く。さらにいえば、いま一・異を以て因果を破らんとする。
「因果是一者,是事終不然;
「因果が一なれば、この事は終に当らない。
因果若異者,是事亦不然。
因果が異なれば、この事もまた当らない。
若因果是一,生及所生一;
もし因果が一なれば、能生と所生とは一となる。
若因果是異,因則同非因。
もし因果が異なれば、因はすなわち非因と相同じとなる。
