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抱朴子外篇 · 第5巻

东晋 · 葛洪 · 第5巻 / 12

持之以夙興側立,加之以先意承指,其利口諛辭也似辯,其道聽途說也似學,其心險貌柔也似仁,其行汙言潔也似廉,其好說人短也似忠,其不知忌諱也似直,故多通焉。且亦奉望我者,欲我益之,不求我者,我不能愛,自然之理也。

(抱朴子が続けて言うには、)夙興側立を拿着して以て持守し、加上意旨に先意迎合するは、彼の利口諛辭は辯の如く、彼の道聽塗說は學の如く、彼の心險貌柔は仁の如く、彼の行污言潔は廉の如く、彼の人の短を説くを喜ぶは忠の如く、彼の忌諱を知らざるは直の如し、ゆえに多半通達す。況んや我を奉望する人は、我をして彼を益せしめんと欲し、我を求めざる人は、我は愛する能わず、是れ自然の道理なり、と。

“夫賢常少而愚常多,多則比周而匿瑕,少則孤弱而無援,佞人相汲引而柴正路,俊哲處下位而不見知,拔茅之義圯,而負乘之群興,亢龍高墜,泣血漣如。故子西逐大聖之仲尼,臧倉毀命世之孟軻。二生不免斯患,降茲亦何足言!斯禍蓋與開闢並生,苦之匪唯一世也。歷覽振古,多同此疾。

(抱朴子が続けて言うには、)「賢は常常に少なくして愚は常常に多し、多ければ便ち比周して瑕疵を藏起し、少なければ便ち孤弱して援助なし、佞人は互相汲引して正路を堵塞し、俊哲は下位に處して知られず、茅を拔くの義は毁壞し、乘を負うの群は興起し、亢龍は高處より墜落し、血を泣き漣如たり。ゆえに子西は大聖仲尼を驅逐し、臧倉は命世の孟軻を毁謗せり。這兩位も亦た這種の患を免れず、這以下に降りて又河處か説くに値せん。這種の禍は大概天を開き地を闢くと一倂に產生し、それを苦しむは一個の世代のみならず。往古を歷覽すれば、多半同じく這種の疾病なり」と。

至於駑蹇矯首於王周輦,駥驥委牧乎林垧,彼己尸祿,邦國殄瘁,下凌上替,實此之由。或蟲流而莫斂,或逆竄於申亥,或擢筋於廟梁,或絕命於望夷,蓋所拔之非真,而忠能之不用也。

(抱朴子が続けて言うには、)駑蹇が王の周輦の上に頭を擡げ、駿馬が委棄せられて林坰に牧放せられ、彼己は位に尸り祿を食み、邦國殄瘁し、下は上を陵り替はるに至りては、實に這個に由る。或いは尸體は蟲を生じ汁を流すも然れども收斂する人なく、或いは逆向に申亥に逃竄し、或いは廟梁の上に筋を抽かれ、或いは望夷に命を斷たるは、大概是れ提拔する所の真に非ずして、而も忠能は用いられざるなり、と。

“故明君勤於招賢,而汲汲於擢奇,導達凝滯,而嚴防壅蔽。才誠足委,不拘於屠釣;言審可施,抽之於戎戍。或舉於牛口之下,而加之於群僚之上;或拔於桎梏之中,而任以社稷之重。故能勳業隆濟,拓境服遠,取威定功,垂統長世也。

(抱朴子が続けて言うには、)「ゆえに明君は賢を招くに勤く、奇才を擢拔するに急急とし、凝滯を疏導し、壅蔽を嚴防す。才能實に足りて委托す可ければ、便ち屠釣に拘泥せず。話審察して施行す可ければ、便ち戎戍の中より抽取す。或いは牛口の下より擧起し、群僚の上に加え、或いは桎梏の中より拔出し、社稷の重任を彼に委任す。ゆえに能く勳業隆盛に濟成し、邊境を開拓し遠方を服從せしめ、威を取得し功を確定し、統を垂れて世を長くす」と。

“夫直繩者,枉木之所憎也;清公者,奸慝之所讎也。人主不能運玄鑑以索隱,而必須當途之所舉。然每觀前代專權之徒,率其所舉皆在乎附己者也,所薦者先乎利己者也。毀所畏而進所愛,所畏則至公者也,所愛則同私者也。至公用則奸黨破,眾私立則主威奪矣;奸黨破則升泰之所由也,主威奪則危亡之端漸矣。毀所畏則恐辭之不痛,雖刖劓之,猶未弇意焉,故必除之而後快也;彼進所愛則苦談之不美,雖位超之,猶未逞心焉,故必危彼以安此也。是故抱枉而死,無愆而黜者,有自來矣。

(抱朴子が続けて言うには、)「直の繩は、枉木の憎惡する所なり。清公は、奸慝の仇視する所なり。人主は能く玄鑑を運轉して以て隱微を求索する能わずして、而も必ず當途の人の擧薦する所を須要す。然れども每々前代の權を專にする徒を觀看すれば、大抵彼らの擧ぐる所は皆自己に依附する人に在り、彼らの薦する所は先ず自己に利有る人なり。畏懼する所を毁謗して所愛を進用するは、畏懼する所は便ち至公の人、所愛は便ち同私の人なり。至公は用いられれば則ち奸黨破れ、衆私は立住すれば則ち主の威は奪はる。奸黨破れれば則ち升泰の經由する路出現し、主威奪はれれば則ち危亡の端緒漸漸來る。畏懼する所を毁謗すれば便ち言辭の痛からざるを怕り、卽使彼を刖劓するも、還に意を滿足する能わず、ゆえに一定に彼を除掉して然後痛快す。所愛を進用すれば便ち談ずるの美ならざるを苦しみ、卽使位子彼を超過するも、還に心を逞しう能わず、ゆえに一定に彼を危害して以て此を安定す。ゆえに枉を抱きて死し、愆なくして貶黜せらるる人は、來由有るなり」と。

“所以體道合真,嶷然特立,才遠量逸,懷霜履冰,思綿天地,器兼元凱,執經衡門,淵渟嶽立。寧潔身以守滯,恥脅肩以苟合。樂飢陋巷,以勵高尚之節;藏器全真,以待天年之盡。非時不出,非禮不動。結褐嚼蔬,而不悒悒也;黃髮終否,而不悢悢也。安肯蹙太山之峻,以適鑿枘之中;斂垂天之羽,為戒旦之役編於仕類,而抑鬱庸兒之下。舍鸞鳳之林,適枳棘之藪,競腐鼠於踞鴟,而枉尺以直尋哉!

(抱朴子が続けて言うには、)「ゆえに道を體認し真に合し、嶷然として特立し、才遠く量逸れ、霜を懷き冰を踏着し、思慮は天地に綿延し、器能は元凱を兼備し、衡門に經を執りて、淵渟岳立す。寧ろ身を潔くして以て滯留を守着し、肩を聳して苟合するを恥とす。陋巷に飢えるを樂しみて、以て高尚の節を激勵し。器を藏し真を保全して、以て天年の盡くるを待つ。其の時に非ざれば便ち出去せず、禮に非ざれば便ち動かず。褐を結び蔬を嚼るも、然れども悒悒たらず。黃髮終始否塞するも、然れども悢悢たらず。怎ぞ肯じて太山の峻を蹙縮して、以て鑿枘の中に適合し、天を垂るの羽毛を收斂して、以て曉を報ずるの役使を做り、仕類に編進して、却って庸兒の下に抑郁せんや。鸞鳳の林を舍棄して、枳棘の藪に到り、踞る鴟と腐鼠を競争して、却って一尺を枉げて以て一尋の直を求めんや」と。

“且大賢之狀也至拙,其為味也甚淡,蕭然自足,泊爾無知,知之者稀而不戚,時不能用而不悶。雖並日無藜藿之糝,不以易不義之太牢也;雖縕袍無卒歲之服,不肯樂無道之狐白也。獨可散發高枕,守其所有已,絕不曲躬低眉,求其所未須也。

(抱朴子が続けて言うには、)「況んや大賢の狀貌は至爲笨拙にして、彼の爲す味道は甚だ淡く、蕭然として自足し、泊然として知無きが如く、彼を知る人は稀少にして然れども戚とせず、時は用いる能わずとも然れども悶えず。卽使兩日藜藿の糝なくとも、も亦た以て不義の太牢と換えず。卽使縕袍一年を過ぐるの衣なくとも、も肯んじて無道の狐白を以て樂と爲さず。ただ可に髮を散らし高枕して、自己已に有るを守着し、絶に身を彎曲し眉を低くして、以て自己未だ須要せざるを求めず」と。

德薄位厚,弗交也;名與實違,弗親也;榮華馳逐,弗務也;豪俠奸權,弗接也;俗說細辨,不答也;脅肩所赴,弗隨也。貌愚而志遠,面垢而行潔。確乎若嵩岱,銓衡所不能測也;浩乎若滄海,鬥斛所不能校也。峻其重仞之高,隱其百官之富。觀彼佻竊,若草莽也。邈世之操,眇焉冠秋雲之表;遺俗之神,緬焉棲九玄之端。雖窮賤,而不可脅以威;雖危苦,而不可動以利。

(抱朴子が続けて言うには、)德薄く位厚きは、結交せず。名と實は違背するは、親近せず。榮華馳逐するは、從事せず。豪俠奸權は、接觸せず。俗說細辯は、回答せず。肩を聳するの奔赴する所は、跟隨せず。貌は愚の如くして志向遠く、面に垢有りて行潔し。確然として嵩岱の如く、銓衡は測度する能わず。浩然として滄海の如く、斗斛は校核する能わず。重仞の高を加峻し、百官の富を隱藏す。あの佻竊を觀看するは、草莽の如し。邈世の操守は、眇然として秋雲の外に冠たり。流俗を遺落するの神は、緬然として九玄の端に栖む。卽使窮賤なるも、も亦た以て威を脅迫す可からず。卽使危苦なるも、も亦た以て利を打動す可からず、と。

“其所業尚,可聞而不可盡也;其所執守,可見而不可論也。故疾之者,齊聲而側目;愛之者,寡弱而無益。亦猶撮壤不能填決河,升水不能殄原火。於是鼖鼓戢雷霆之音,鼗鞞恣喋鼛之響。芳蕙芟夷,臭鮑佩御。玄鬯傾棄而不羞,醨酪專灌於圓丘。汗血驅放而垂耳,跛蹇馳騁於鑾軒。此古人之所以懷沙負石,赴流魚葬,而不堪與之同世也。已矣!悲夫!

(抱朴子が続けて言うには、)「彼の從業崇尚する所は、以て聽見す可くして然れども窮盡す可からず。彼の執守する所は、以て看見す可くして然れども論ず可からず。ゆえに彼を疾恨する人は、聲を齊し目を側く。彼を愛する人は、寡弱して然れども益處なし。も亦た一撮の土は决口の河を填める能わず、一升の水は原野の火を滅する能わざるが如し。是に大鼓は雷霆の聲を收起し、鼗鞞は喋喋の鼛響を放任す。芳蕙は芟夷せられ、臭鮑は佩戴御用せらる。玄鬯は傾棄して進獻せられず、薄酒濁酪は專ら以て圓丘を灌る。汗血は驅放せられて耳を垂れ、跛蹇は鑾軒の上に馳騁す。這即ち古人の沙を懷き石を負いて、流に赴き魚に葬られて、而も彼らと同世するに堪えざりし所以の緣故なり。已矣。悲夫」と。

“然捐玄黎於洿濘,非夜光之不真也,由莫識焉;投彤盧而不彎,非繁弱之不勁也,坐莫賞焉。故瓊瑤俟荊和而顯連城之價,烏號須逢門而著陷堅之功,飛菟待子豫而飈騰,俊民值知己而宣力。若夫美玉不出重岫,良弓不鑿百札,驥騄不服朱軒,命世不履爵勢,則孰知其能攄符彩之耀曄,頓雲禽於千仞,騁逸跡以追風,康庶績於百揆乎

(抱朴子が続けて言うには、)「然れども玄黎を污濘の裡に丟棄するは、夜光の真ならざるに非ず、是れ人の認識する無きに由る。彤盧を投下して然れども彎らざるは、繁弱の勁ならざるに非ず、是れ人の賞識する無きに因る。ゆえに瓊瑤は荆和を等待して乃ち連城の價を顯し、烏號は必ず逢門に遇うて乃ち堅を陷すの功を顯著にし、飛菟は子豫を等待して乃ち飆の如く騰し、俊民は知己に遇上して乃ち力氣を宣揚す。美玉は重岫より出來せず、良弓は百札を鑿穿せず、騏驥は朱軒に服せず、命世は爵勢に踏上せざるに至りては、則ち誰か彼の能く符彩の耀曄を舒展し、千仞に雲禽を頓住し、逸迹を馳騁して以て風を追い、百揆の上に各種の業績を安康するを知らんや」と。

夫其不遇,亦得不雜糅於瓦石,鈞賤於朽木,列鑣於下乘,等望於凡瑣哉!嗟乎!弓廣棘矢而望高手於渠廣,策疲駑而求繼軌於周穆,放斧斤而欲雙巧於班墨,忽良才而欲彝倫之攸敘,不亦難乎名實雖漏於一世,德音可邀乎將來。樂天知命,何慮何憂安時處順,何怨何憂哉!

(抱朴子が続けて言うには、)彼遇わざるも、も亦た以て瓦石と雜糅せず、朽木と均同に低賤せず、劣馬と並列に鑣せず、凡瑣と同等に聲望せざるを得ずや。嗟乎。棘矢を張りて然れども渠廣に向かって高手を指望し、疲駑を鞭策して然れども周穆の處に軌道を接續せんと求め、斧斤を放下して然れども公輸班・墨翟と巧を雙にせんと想い、良才を忽略して然れども彝倫に叙次有らんと欲するは、不亦難きか。名實は卽使一世に遺漏するも、德音は以て將來に向かって邀取す可し。天を樂しみ命を知れば、什麼の顧慮有りて什麼の憂有らん。時に安んじ順に處すれば、什麼の怨有りて什麼の憂有らんや、と。

清鑑卷第二十一

清鑑巻第二十一

抱朴子曰;鹹謂勇力絕倫者,則上將之器;洽聞治亂者,則三九之才也。然張飛關羽萬人之敵,而皆喪元辱主,授首非所;孔融邊讓文學邈俗,而並不達治務,所在敗績。鄧禹馬援田間諸生,而善於用兵;蕭何曹叄不涉經誥,而優於宰輔。爾則知人果未易也。欲試可乃已,則恐成折足覆食束;欲聽言察貌,則或似是而非,真偽混錯。然而世人甚以為易,經耳過目,謂可精盡。餘甚猜焉,未敢許也。

抱朴子曰く、皆曰く勇力絶倫の人は、即ち上將の器なり。洽博見聞し亂を治理する人は、即ち三九の才なりと。然れども張飛・關羽は萬人の敵にして、然れども皆頭顱を喪失し主上を辱没し、頭を授く可からざる處に授與せり。孔融・邊讓は文學流俗を遠離するも、然れども皆治務を通達せず、在る所の處は敗績せり。鄧禹・馬援は田間の諸生にして、然れども兵を用うるに善し。蕭何・曹參は經誥に涉獵せず(底本は「叁」に作る、「叁」は「參」の訛)、然れども宰輔に優れり。這の如く看れば人を知るは果たして容易ならず。試驗して可き才に止まらんと想えば、便ち足を折り𫗧を覆すと成らんを怕る。言を聽き貌を察せんと想えば、便ち或いは是に似て而も非、真僞混錯す。然れども世人は甚だ以て容易と爲して、耳朵を經過し眼睛を過ぐれば、便ち精盡す可しと説く。我甚だ猜疑して、敢えて許可せず、と。

區別臧否,瞻形得神,存乎其人,不可力為。自非明並日月,聽聞無音者,願加清澄,以漸進用,不可頓任。輕假利器,收還之既甚難,所損者亦已多矣。無以一事暗保其餘,同乎己者,未必可用;異於我者,未必可忽也。

臧否を區別し、形を瞻望して神を得るは、あの人に在りて、以て力を做成する可からず。若し明は日月と並列し聽見聲音無き人に非ざれば、清澄を加上して、以て漸漸進用せんことを希望す、突然委任する可からず。輕易に利器を借出すれば、收回已に甚だ難く、損する所も亦た已に多し。一事暗昧するに因りて其餘を保全することなく、自己と相同するは、未必用う可からず。我と同じからざるは、未必忽略す可からず。

或難曰:“夫在天者垂象,在地者有形,故望山度水,則高深可推;風起雲飛,則吉凶可步。智者睹木不瘁,則悟美玉之在山;覿岸不枯,則覺明珠之沈淵。彗星出,則知鱣魚之方死;日月蝕,則識騏驎之共鬥。華霍不須稱,而無限之重可知矣;江河不待量,而不測之數已定矣。鴻鵠之翼,騄騏之足,雖未飛走,輕迅可必也。豪曹之劍,徐氏匕首,雖未奮擊,其立斷無疑也。

或る人が責難して曰く、天の上に在るは象を垂下し、地の上に在るは形有り、ゆえに山を望み水を測度すれば、高深は以て推す可し。風起こり雲飛べば、吉凶は以て推步す可し。智者は樹木の瘁せざるを見れば、便ち美玉の山裡に在るを覺悟す。岸の枯せざるを見れば、便ち明珠の淵裡に沈むを發覺す。彗星出來すれば、便ち鱣魚の將に死せんを知る。日月蝕すれば、便ち騏麟の共に鬥うを認識す。華霍は稱を須要せず、無限の重は便ち以て知る可し。江河は量を等たず、測り可からざる數は已に定まりき。鴻鵠の翼・騏驥の足は、卽使未だ飛走せざるも、輕迅は以て必ず期す可し。豪曹の劍・徐氏の匕首は、卽使未だ奮擊せざるも、立刻砍斷するに疑問なし、と。

駁子有吞牛之容,鶚鷧有凌鷙之貌。卉茂者土必沃,魚大者水必廣。虎尾不附狸身,象牙不出鼠口。叔魚無饜之心,見於初生之狀;食我滅宗之徵,著乎開胞之始。申童覺竊妻之巫臣,張負知將貴之陳平。範子所以絕跡於五湖者,以句踐蜂目而鳥喙也。趙人所以息意於爭鋒者,以白起首銳而視直也。文王之接呂尚,桑陰未移,而知其足師矣。玄德之見孔明,晷景未改,而腹心已委矣。

(或る人が続けて言うには、)駁子は牛を吞むの容有り、鶚鷧は鷙を凌ぐの貌有り。卉茂る土は一定に肥沃し、魚大なる水は一定に廣し。虎尾は狸身に附着せず、象牙は鼠口より出來せず。叔魚は餍足の心なく、初生の狀の上に顯現せり。食我が宗を滅すの徵兆は、胞を開くの開始に顯著せり。申童は妻を竊る巫臣を發覺し、張負は將に貴ならんとする陳平を知れり。范蠡の五湖に跡を絶つ所以は、句踐の蜂目鳥喙に因るなり。趙人の爭鋒の上に意を止息せし所以は、白起の頭銳くして視直なるに因るなり。文王は呂尚を接待して、桑陰未だ移らざるに、便ち彼の足りて師事するを知れり。玄德は孔明を見て、日影未だ改まらざるに、腹心已に委托せり、と。

郭泰中才,猶能知人,故入潁川則友李元禮,到陳留則結符偉明,入外黃則親韓子助,至蒲亨則師仇季知,止學舍則收魏德公,觀耕者則拔茅季偉,奇孟敏於擔負,戒元艾之必敗。終如其言,一無差錯。必能簡精鈍於符表,詳舒急乎聲氣,料明暗於舉厝,察清濁於財色,觀取與於宜適,謂虛實於言行,考操業於閨閫,校始終於信效,善否之驗,不其易乎”

(或る人が続けて言うには、)郭泰はただ中才のみ、還に能く人を知る、ゆえに潁川に進入すれば便ち李元禮と朋友を做り、陳留に到れば便ち符偉明と結交し、外黃に進入すれば便ち韓子助に親近し、蒲亭に到れば便ち仇季知に師事し、學舍に停まれば便ち魏德公を收錄し、耕する者を觀看すれば便ち茅季偉を提拔し、擔負の中に孟敏を以て奇と爲し、元艾を警戒して一定に敗れんとす。終に彼の言うが如く、一點の差錯も亦た無し。一定能く符表より精鈍を簡選し、聲氣より舒緩或いは急を詳細にし、擧止より明暗を料想し、財色より清濁を察し、取與より是否適宜を觀看し、言行より虛實を評論し、閨閫より操業を考核し、信效より終始を校核し、善否の驗證は、不亦容易ならんか、と。

抱朴子答曰:“餘非謂人物了不可知,知人挺無形理也。徒以斯術存乎大明,非夫當人自許。然而世士各謂能之,是以有云,以警付任耳。夫貌望豐偉者不必賢,而形器尪瘁者不必愚,咆哮者不必勇,淳淡者不必怯。或外候同而用意異,或氣性殊而所務合。非若天地有常候,山川有定止也。

抱朴子回答して曰く、我は人物完全に知る可からず・人を知る完全に形理無しと説くに非ず。ただ這種の方法は大明に存在して、當世人の自己許可する所に非ざるに因るなり。然れども世士は各々能くこの如くと説き、ゆえに這種の説法有りて、以て付任を警戒するのみ。貌望豐偉なるは不必賢、形器尪瘁なるは不必愚、咆哮するは不必勇、淳淡なるは不必怯なり。或いは外候相同して然れども用意同じからず、或いは氣性殊異して然れども從事する所相合す。天地の經常の候有り・山川の固定の止有るが如くならず、と。

物亦故有遠而易知,近而難料,譬猶眼能察天衢,而不能周項領之間;耳能聞雷霆,而不能識蟲豈蝨之音也。唐呂樊許善於相人狀,唯知壽夭貧富官秩尊卑,而不能審情性之寬克,志行之洿隆。惟帝難之,況庸人乎!而吾子舉論形之例,詰精神之談,未修其本,殆失指矣。

(抱朴子が続けて言うには、)物も亦た本來遠くして知り易く、近くして料想し難き有り、眼睛は能く天衢を察看するも、然れども項領の間を周遍する能わざるが如し。耳朵は能く雷霆を聽見するも、然れども蟣虱の聲を識別する能わず(底本「虫豈虱」は「虫」旁の殘留)。唐擧・呂公・樊・許は人を相するの狀に善く、ただ壽夭貧富官秩尊卑を知るも、然れども情性の寬克・志行の污隆を審察する能わず。帝を連ねても亦た難しと覺う、況んや庸人をや。而も您は形を論ずるの例子を擧出して、精神の談を詰問す、根本を修治せず、大概旨意を失去せり、と。

“夫亡射之箭,皆破秋毫。然準的恆不得為工。叔向之母,申氏之子,非不一得,然不能常也。陶唐稽古而失任,姬公欽明而謬授。尼父遠得崇替於未兆,近失澹臺於形骸。延州審清濁於千載之外,而蔽奇士於咫尺之內。知人之難,如此其甚。郭泰所論,皆為此人過上聖乎但其所得者,顯而易識;其所失者,人不能紀。

(抱朴子が続けて言うには、)「亡射の箭は、皆秋毫を射破る。然れども準的恒定なるは以て工と算へる能わず。叔向の母親・申氏の兒子は、一次に非ざれば得ざるなきに非ず、然れども能く經常ならず。陶唐は古代を考核して然れども任を失し、周公は欽明して然れども錯を授けり。尼父は遠處に未だ兆を成さざるより興廢を得て、近處に形骸の上より澹臺を看失せり。延州は千載の外に清濁を審察して、然れども咫尺の內に奇士を遮蔽せり。人を知るの難は、這の如く嚴重なり。郭泰の論ずる所は、皆這些の人は上聖を超過するに因るか。ただ彼の得たる所は、淺顯にして識り易く、彼の失いたる所は、人の記載する能くするに非ず」と。

“且夫所貴,貴乎見俊才於無名之中,料逸足乎吳坂之間,掇懷珠之蚌於九淵之底,指含光之珍於積石之中。若伯喈識絕音之器於煙燼之餘,平子剔逸響之竹於未用之前。六軍之聚,市人之會,暫觀一睹,無所眩惑,探其潛生之心計,定其始終之事行,乃為獨見不傳之妙耳。若如未論(原文有脫文),必俟考其操蹈之全毀,觀其云為之好醜,此為絲線既銓衡,布帛已歷於丈尺,徐乃說其斤兩之輕重,端匹之修短,人皆能之,何煩於明哲哉!”

(抱朴子が続けて言うには、)「況んや貴重する所は、無名の中より俊才を見、吳坂の間より逸足を料想し、九淵の底より珠を懷く蚌を掇取し、積石の中より光を含む珍を指出するに貴し。伯喈の煙燼の餘より絶音の器を認識し、平子の未だ用いざるの前に逸響の竹を剔出するが如し。六軍聚集し、市人會合し、暫く觀て一眼に、眩惑する所なく、彼の潛藏して生ずるの心計を探出し、彼の終始の事行を確定するは、乃是れ獨見不傳の妙のみ。若し後面の論ずるが如く〔原文脫文有り〕、一定に彼の操蹈の全毁を考核するを等待し、彼の言爲の好醜を觀看するは、這是絲線已に銓衡を經過し、布帛已に丈尺を經過して、乃ち慢慢にそれの斤兩の輕重・端匹の長短を説くは、人人皆能くす、何必明哲を煩勞せんや」と。

行品卷第二十二

行品巻第二十二

抱朴子曰:擬玄黃之覆載,揚明並以表微;文彪日丙而備體,獨澄見以入神者,聖人也。稟高亮之純粹,抗峻標以邈俗,虛靈機以如愚,不貳過而諂黷者,賢人也。居寂寞之無為,蹈修直而執平者,道人也。盡烝嘗於存亡,保發膚以揚名者,孝人也。垂惻隱於有生,恆恕己以接物者,仁人也。端身命以徇國,經險難而一節者,忠人也。覿微理於難覺,料倚伏於將來者,明人也。量理亂以卷舒,審去就以保身者,智人也。順通塞而一情,任性命而不滯者,達人也。不枉尺以直尋,不降辱以苟合者,雅人也。據體度以動靜,每清詳而無悔者,重人也。體冰霜之粹素,不染潔於勢利者,清人也。篤始終於寒暑,雖危亡而不猜者,義人也。守一言於久要,歷衰而不渝者,信人也。摛銳藻以立言,辭炳蔚而清允者,文人也。奮果毅之壯烈,騁干戈以靜難者,武人也。甄《墳》《索》之淵奧,該前言以窮理者,儒人也。銳乃心於精義,吝寸陰以進德者,益人也。識多藏之厚亡,臨祿利而如遺者,廉人也。不改操於得失,不傾志於可欲者,貞人也。恤急難而忘勞,以憂人為己任者,篤人也。潔皎分以守終,不遜避而苟免者,節人也。飛清機之英麗,言約暢而判滯者,辯人也。每居卑而推功,雖處泰而滋恭者,謙人也。崇敦睦於九族,必居正以赴理者,順人也。臨凝結而能斷,操繩墨而無私者,幹人也。拔朱紫於中構,剖猶豫以允當者,理人也。步七曜之盈縮,推興亡之道度者,術人也。赴白刃而忘生,格兕虎於林谷者,勇人也。整威容以肅眾,仗法度而無二者,嚴人也。創機巧以濟用,總音數而並精者,藝人也。凌強御而無憚,雖險逼而不沮者,黠人也。執匪懈於夙夜,忘勞瘁於深峻者,勤人也。蒙謗讀言而晏如,不懾懼於可畏者,勁人也。聞榮譽而不歡,遭憂難而不變者,審人也。

抱朴子曰く、玄黃の覆載を比擬し、明倂を揚起して以て微細を表彰す。文采彪炳して體完備し、獨自澄見して神に進入するは、是れ聖人なり。高亮の純粹を稟受し、峻標を抗起して以て流俗を遠離し、靈機を空虛にして愚の如く、第二次同じ過錯を犯さず諂瀆せざるは、是れ賢人なり。寂寞の無爲に處し、修直を踏着して平を執守するは、是れ道人なり。存亡に烝嘗を盡くし、髮膚を保全して以て名を揚ぐるは、是れ孝人なり。惻隱を有生に垂給し、常常に己を推して以て物に接觸するは、是れ仁人なり。身命を端正して以て國に徇り、險難を經歷して節操如一なるは、是れ忠人なり。察覺し難き處に微理を看見し、將來に倚伏を料想するは、是れ明人なり。理亂を量度して以て卷舒し、去就を審察して以て自身を保全するは、是れ智人なり。通塞に順從して情意如一に、性命に聽任して然れども滯留せざるは、是れ達人なり。一尺を枉げて以て一尋の直を求めず、降辱して以て苟合せざるは、是れ雅人なり。體度に依據して以て動靜し、每々清詳して然れども悔なきは、是れ重人なり。冰霜の粹素を體認し、勢利に染潔せられざるは、是れ清人なり。寒暑の上に終始を篤厚に做して、卽使危亡なるも猜疑せざるは、是れ義人なり。長久約定の上に一句話を守着し、衰を經歷するも亦た改變せざるは、是れ信人なり。銳利の辭藻を舒展して以て言を立て、文辭炳蔚して清允なるは、是れ文人なり。果毅の壯烈を奮起し、干戈を馳騁して以て難を平定するは、是れ武人なり。《三墳》《八索》の淵奧を甄別し、前言を該備して以て理を窮盡するは、是れ儒人なり。心を精義の上に銳利に用い、寸陰を吝惜して以て德を進むるは、是れ益人なり。多藏すれば便ち厚亡するを認識し、祿利に臨みて遺棄の如くするは、是れ廉人なり。得失の上に操守を改めず、可欲の上に志向を傾覆せざるは、是れ貞人なり。急難を體恤して勞を忘掉し、人を憂えるを以て自己の任務と當てるは、是れ篤人なり。皎然の本分を潔治して以て終を守り、遜避して以て苟且免れを求めざるは、是れ節人なり。清機の英麗を飛起し、言辭簡約暢達して滯留を判決するは、是れ辯人なり。每々卑下に處して功勞を推讓し、卽使泰に處するも還に更加恭なるは、是れ謙人なり。九族の上に敦睦を推崇し、一定に正に居りて理に奔赴するは、是れ順人なり。凝結に面臨して能く決斷し、繩墨を操りて然れども私なきは、是れ幹人なり。構裡の中より朱紫を拔出し、猶豫を剖開して允當するは、是れ理人なり。七曜の盈縮を推步し、興亡の道度を推求するは、是れ術人なり。白刃に奔赴して生を忘掉し、林谷に兕虎を格殺するは、是れ勇人なり。威容を整飭して以て衆人を肅靜し、法度に依仗して然れども兩樣なきは、是れ嚴人なり。機巧を創立して以て器用を濟助し、音數を總攬して一倂精通するは、是れ藝人なり。強御に凌越して然れども忌憚なく、卽使險逼なるも亦た沮喪せざるは、是れ黠人なり。早より夜に至るまで執守懈まず、深峻の上に勞瘁を忘掉するは、是れ勤人なり。謗と瀆言を蒙受して然れども安然として、可畏の上に懾懼せざるは、是れ勁人なり。榮譽を聽見して然れども歡ばず、憂難に遭遇して然れども改變せざるは、是れ審人なり、と。

知事可而必行,不猶豫於群疑者,果人也。循繩墨以進止,不乾沒於僥倖者,謹人也。奉禮度以戰兢,及親屬而無尤者,良人也。履道素而無慾,時雖移而不變者,樸人也。凡此諸行,了無一然,而不躋善人之跡者,下人也。

事の可きを知れば便ち一定に實行し、群疑の上に猶豫せざるは、是れ果人なり。繩墨に遵循して以て進止し、僥倖求利の上に沈没せざるは、是れ謹人なり。禮度を奉守して戰戰兢兢とし、親屬に涉及して然れども尤怨なきは、是れ良人なり。道素を履行して然れども欲望なく、時は移ると雖も然れども改變せざるは、是れ朴人なり。以上這些の德行は、完全に一樣も這の如くなく、然れども善人の足迹に踏上せざるは、是れ下人なり。

門人請曰:“善人之行,既聞其目矣;惡者之事,可以戒俗者,願文垂誥焉。”

門人請求して曰く、善人の德行は、已に條目を聽聞せり。惡者の事・以て流俗を警戒す可きは、您の誥告を垂下せんを希望す、と。

抱朴子曰:“不致養於所生,損道而危身者,悖人也。懷邪偽以偷榮,豫利己而忘生者,逆人也。背仁義之正途,苟危人以自安者,兇人也。好爭奪而無厭,專醜正而害直者,惡人也。出繩墨以傷刻,心好殺而安忍者,虐人也。飾邪說以浸潤,構謗累於忠貞者,讒人也。雖言巧而行違,實履濁而假清者,佞人也。不原本於枉直,苟好勝而肆怒者,暴人也。措細善以取信,陰挾毒而無親者,奸人也。承風指以苟容,揆主意而扶非者,諂人也。言不計於反覆,好輕諾而無實者,虛人也。睹利地而忘義,棄廉恥以苟得者,貪人也。睹豔逸而心蕩,飾絝綺而思邪者,淫人也。見成事而疑惑,動失計而多悔者,暗人也。背訓典而自任,恥請問於勝己者,損人也。知善事而不逮,雖多為而無成者,劣人也。委德行而不修,奉權勢以取媚者,弊人也。履蹊徑以僥速,推貨賄以爭津者,邪人也。既傲很以無禮,好凌辱乎勝己者,悍人也。被抑枉則自誣,事無苦而振懾者,怯人也。治細辯於稠眾,非其人而盡言者,淺人也。暗事宜之可否,雖企慕而不及者,頑人也。知事非而不改,聞良規而增劇者,惑人也。無濟恤之仁心,輕告絕於親舊者,薄人也。既疾其所不逮,喜他人之有災者,妒人也。專財谷而輕義,觀困匱而不振者,吝人也。冒至危以僥倖,植禍敗而不悔者,愚人也。情局碎而偏黨,志唯務於盈利者,小人也。騁鷹犬於原獸,好博戲而無已者,迷人也。忘等威之異數,快飾玩之夸麗者,奢人也。耽聲色於飲宴,廢慶弔於人理者,荒人也。既無心於修尚,又怠惰於家業者,懶人也。無抑斷之威儀,每脫易而不思者,輕人也。觀道義而如醉,聞貨殖而波擾者,穢人也。杖淺短而多謬,暗趨舍之臧否者,笨人也。憎賢者而不貴,聞高言而如聾者,囂人也。睹朱紫而不分,雖提耳而不悟者,蔽人也。

抱朴子曰く、生む所の人の身上に奉養を盡くさず、道を損傷して自身を危害するは、是れ悖人なり。邪僞を懷きて以て榮を偷取し、豫先に自己に利有りて生を忘掉するは、是れ逆人なり。仁義の正途を背離し、苟且別人を危害して以て自己を安定するは、是れ凶人なり。爭奪を喜歡して然れども餍足なく、專門に正を醜化して直を傷害するは、是れ惡人なり。繩墨を越出して以て苛刻を傷害し、心裡殺を喜歡して殘忍に安んずるは、是れ虐人なり。邪說を文飾浸潤し、謗累を忠貞の身上に構成するは、是れ讒人なり。話は巧なると雖も行は却って違背し、實際濁を踏着して然れども清を假借するは、是れ佞人なり。枉直の根本を推原せず、苟且好勝して放肆發怒するは、是れ暴人なり。細善を安排して以て信を取り、暗中毒を挾みて然れども親なきは、是れ奸人なり。風旨を承受して以て苟且容を取り、主上の意を揆度して以て非を扶持するは、是れ諂人なり。說話は算えず反覆し、輕易許諾を喜歡して然れども實なきは、是れ虛人なり。利有るの地を見れば便ち義を忘掉し、廉恥を抛棄して以て苟且得を求むるは、是れ貪人なり。艷逸を見れば心裡便ち蕩み、絝綺を文飾して邪を思念するは、是れ淫人なり。成事を見て然れども疑惑し、一動すれば便ち計を失して悔多きは、是れ暗人なり。訓典に背離して自己放任し、自己に勝過する人に請問するを恥とするは、是れ損人なり。善事を知るも然れども趕及ばず、卽使做る多くとも然れども成就なきは、是れ劣人なり。德行を委棄して然れども修せず、權勢に奉事して以て媚を取るは、是れ弊人なり。小路を踏着して以て僥倖速を求め、貨賄を推送して以て津渡を爭奪するは、是れ邪人なり。既に傲很して然れども禮なく、自己に勝過する人を凌辱するを喜歡するは、是れ悍人なり。壓抑冤枉せられれば便ち自己を誣陷し、事情苦なく然れども震懾するは、是れ怯人なり。稠衆の中に細辯を治理し、あの種の人に非ずして然れども話を説盡するは、是れ淺人なり。事宜の可否に暗昧して、卽使企慕するも亦た趕及ばざるは、是れ頑人なり。事の非を知るも然れども改めず、良規を聽見するも然れども更加劇烈なるは、是れ惑人なり。濟恤の仁心なく、輕易に親舊に向かって絶交を宣告するは、是れ薄人なり。既に自己の趕及ばざるを疾恨し、又別人に災有るを喜歡するは、是れ妒人なり。財穀を專有して然れども義を看輕し、困匱を看見して然れども賑濟せざるは、是れ吝人なり。至危を冒して以て僥倖し、禍敗を種下して然れども悔なきは、是れ愚人なり。情意局碎して偏黨し、志向ただ盈利に從事するは、是れ小人なり。原野の獸の上に鷹犬を馳騁し、博戲を喜歡して然れども停止なきは、是れ迷人なり。等威の同じからざる度數を忘掉し、飾玩の夸麗に快意するは、是れ奢人なり。飮宴の上に聲色に沈溺し、人理の上に慶弔を廢棄するは、是れ荒人なり。既に修尚するの心なく、又家業に怠惰するは、是れ懶人なり。抑斷の威儀なく、每々脫略輕易して然れども思索せざるは、是れ輕人なり。道義を觀看すること醉の如く、貨殖を聽見すれば便ち波擾するは、是れ穢人なり。淺短を拄きて然れども謬誤多く、趨舍の好壞に暗昧するは、是れ笨人なり。賢者を憎惡して然れども貴ばず、高言を聽見すること聾の如くするは、是れ囂人なり。朱紫を看見して然れども分かたず、卽使耳朵を提着するも亦た覺悟せざるは、是れ蔽人なり、と。

違道義以趑趄,冒禮刑而罔顧者,亂人也。每動作而受嗤,言發口而違理者,拙人也。事酋豪如僕虜,值衰微而背惠者,慝人也。捐貧賤之故舊,輕人士而踞傲者,驕人也。棄衰色而廣欲,非宦學而遠遊者,蕩人也。無忠信之純固,背恩養而趨利者,叛人也。當交顏而面從,至析離而背毀者,偽人也。習強梁而專己,距忠告而不納者,刺人也。”

道義に違背して然れども趑趄し、禮刑に冒犯して然れども顧みざるは、是れ亂人なり。每々動作すれば便ち嗤笑せられ、話口より發出すれば便ち理に違背するは、是れ拙人なり。酋豪に事奉すること僕虜の如く、衰微に碰上れば便ち恩惠を背棄するは、是れ慝人なり。貧賤の故舊を捐棄し、人士を看輕して踞傲するは、是れ驕人なり。衰色を抛棄して慾望を擴大し、宦學の爲に非ずして然れども遠游するは、是れ蕩人なり。忠信の純固なく、恩養を背棄して利に趨向するは、是れ叛人なり。交顏に當れば便ち面に順從し、分離に到れば便ち背後に毁謗するは、是れ僞人なり。強梁に習慣して己を專にし、忠告を拒絶して然れども接納せざるは、是れ刺人なり。

抱朴子曰:人技未易知,真偽或相似。士有顏貌修麗,風表閒雅,望之溢目,接之適意,威儀如龍虎,盤旋成規矩。然心蔽神否,才無所堪,心中所有,盡附皮膚。口不能吐片奇,筆不能屬半句;入不能宰民,出不能用兵;治事則事廢,銜命則命辱。動靜無宜,出處莫可。蓋難分之一也。

抱朴子曰く、人の技藝は知り易からず、真僞或いは相像す。士に顏貌修麗にして、風表閑雅にして、望むや眼睛に充滿し、接觸するや意に適い、威儀は龍虎の如く、盤旋して規矩と成る者有り。然れども心は蔽はれ神は否塞し、才能は擔當する所なく、心裡の有る所は、全部皮膚に附着す。口は半片の奇を吐出する能わず、筆は半句を連屬する能わず。入朝すれば民を主宰する能わず、外出すれば兵を用うる能わず。事情を治理すれば則ち事情廢し、命令を銜えば則ち命令辱を受く。動靜適宜なく、出處可なし。這是分辨し難き第一種なり、と。

士有貌望樸悴,容觀矬陋,聲氣雌弱,進止質澀。然而含英懷寶,經明行高,幹過元凱,文蔚春林。官則庶績康用,武則克全獨勝。蓋難分之二也。

士に貌望朴悴にして、容觀矮陋にして、聲氣雌弱にして、進止質澀なる者有り。然れども英を包含し寶を懷き、經明く行高く、才干は元凱を超過し、文采は春林より蔚なり。官を做れば則ち各種の業績安康に用いられ、武を用いれば則ち能く獨自勝を保全す。這是分辨し難き第二種なり。

士有謀猷淵邃,術略入神,智周成敗,思洞幽玄,才兼能事,神器無宜;而口不傳心,筆不盡意,造次之接,不異凡庸。蓋難分之三也。

士に謀猷淵邃にして、術略神に入り、智は成敗に周遍し、思慮は幽玄を洞穿し、才能は能事を兼備し、神器宜しからざるなき者有り。然れども口は心を傳達せず、筆は意を盡到せず、倉卒の接觸は、凡庸と分別なし。這是分辨し難き第三種なり。

士有機變清銳,巧言綺粲,攬引譬喻,淵湧風厲;然而口之所談,身不能行;長於識古,短於理今,為政政亂,牧民民怨。蓋難分之四也。

士に機變清銳にして、巧言綺粲として、譬喻を攬引して、淵涌の如く風厲の如くする者有り。然れども口の談ずる所は、自身は實行する能わず。古を認識するに長く、今を治理するに短し。政を爲すれば則ち政亂れ、民を牧すれば則ち民怨んず。這是分辨し難き第四種なり。

士有外形足恭,容虔言恪,而神疏心慢,中懷散放,受任不憂,居局不治,蓋難分之五也。

士に外形足りて恭敬し、容貌虔・言語恪として、而も神疏く心慢く、中懷散放し、任命を接受して憂慮せず、居守局守して治理せざる者有り。這是分辨し難き第五種なり。

士有控弦命中,空拳入白,倒乘立騎,五兵畢習;而體輕慮淺,手剿心怯,虛試無對,而實用無驗。望塵奔北,聞敵失魄。蓋難分之六也。

士に弦を控えて命中し、拳を空しくして白刃に進入し、倒して乘り立ちて騎し、五兵全部習熟する者有り。而も身體輕く思慮淺く、手快く心怯え、空虛試驗對手なく、實際使用すれば則ち效驗なし。塵土を望見すれば便ち奔逃敗北し、敵を聽見すれば便ち魂魄を失掉す。這是分辨し難き第六種なり。

士有梗概簡緩,言希貌樸,細行闕漏,不為小勇,口止局口止脊拘檢,犯而不校,握爪垂翅,名為弱願。然而膽勁心方,不畏強禦,義正所在,視死猶歸,支解寸斷,不易所守。蓋難分之七也。

士に梗概簡緩にして、話稀く貌朴く、細行缺漏し、小勇を做さず、〔底本「口止局口止脊」文字訛脫〕拘檢せず、冒犯せられて然れども計較せず、爪子を握住し翅膀を垂下し、名は弱願と曰う者有り。然れども膽勁く心方く、強御を畏懼せず、義正の在る所は、死を以て歸と看なし、肢體分解寸斷せらるるも、も亦た守る所を改めず。這是分辨し難き第七種なり。

士有孝友溫淑,恂恂平雅,履信思順,非禮不蹈,安困潔志,操清冰霜;而疏遲迂闊,不達事要,見機不作,所為無成,居己梁倡,受任不舉。蓋難分之八也。

士に孝友溫淑にして、恂恂平雅にして、誠信を履行し和順を思念し、禮に非ざれば便ち踏まず、困に安んじ志を潔治し、操守清くすること冰霜の如くする者有り。而も疏遲迂闊にして、事要を通達せず、機宜を看見して然れども動作せず、做する所成就なく、自己に對待するに踉蹌し、任命を接受して然れども辦起せず。這是分辨し難き第八種なり。

士有行己高簡,風格峻峭,嘯傲偃蹇,凌儕慢俗,不肅檢括,不護小失,適情率意,旁若無人,朋黨排譴,談者同敗,士友不附,品藻所遺。而立朝正色,知無不為,忠於奉上,明以攝下。蓋難分之九也。

士に自己に對待するに高簡にして、風格峻峭にして、嘯傲偃蹇として、儕類に凌越し流俗を怠慢し、檢括を嚴肅にせず、小失を護りせず、情に適い意に率い、旁に人無きが如く、朋黨排譴し、談論する人一同敗壞し、士友親附せず、品藻の遺漏する所なる者有り。然れども立朝正色して、知るや爲さざるなく、上に奉るに忠く、明を以て下を統攝す。這是分辨し難き第九種なり。

士有含弘曠濟,虛己受物,藏疾匿瑕,溫恭廉潔,勞謙沖退,救危全信,寄命不疑,託孤可保;而純良暗權,仁而不斷,善不能賞,惡不忍罰,忠貞有餘,而幹用不足,操柯猶豫,廢法效非,枉直混錯,終於負敗。蓋難分之十也。

士に含弘曠濟にして、自己を空虛にして以て物を接受し、疾を藏し瑕を匿し、溫恭廉潔にして、勞謙沖退し、危を救い信を保全し、性命を寄托して懷疑せず、孤を托す可くして保全す可き者有り。而も純良にして然れども權に暗昧し、仁にして然れども果斷せず、善は賞する能わず、惡は罰するに忍びず、忠貞餘裕有りて、而も才干器用不足し、斧柯を操りて猶豫し、法を廢棄して非を效法し、枉直混錯して、終に負敗す。這是分辨し難き第十種なり。

夫物有似而實非,若然而不然。料之無惑,望形得神,聖者其將病諸,況乎常人故用才取士,推暱結友,不可以不精擇,不可以不詳試也。若乃性行之惑變,始正而終邪,若王莽初則美於伊霍,晚則劇於趙高,又非中才所能逆盡也。

物に相像して然れども實に是れに非ざる有り、這の如くして然れども這の如くならず。それを料想して惑なきは、形を望みて神を得るは、聖人も亦た將に此を以て病と爲す、況んや常人をや。ゆえに才を以て士を取り、親近を推擧し朋友を結交するは、精選せざる可からず、詳細試驗せざる可からず。性行の惑變・始正して終邪するに至りては、王莽の起初は伊尹・霍光より美しく、晚了は趙高より劇烈なるが如く、又中才の豫先窮盡する能くする所に非ず。

若令士之易別,如鷦鷯之與鴻鵠,狐兔之與龍麟者,則四凶不得官於堯朝,管蔡不得幾危宗周,仲尼無澹臺之失,延陵無捐金之恨,伊尹無七十之勞,項羽無嫌範之悔矣。所患於其如石武石夫之亂瑾瑜,鷦螟之似鳳皇,凝冰之類水精,煙燻之疑雲氣,故令不謬者鮮也。惟帝難之,矧乎近人哉!

若し士をして分別し易からしめば、鷦鷯と鴻鵠・狐兔と龍麟の如く、則ち四凶は堯朝に官を做る能わず、管蔡は幾乎宗周を危害する能わず、仲尼は澹臺の過失なく、延陵は金を捐るの恨なく、伊尹は七十次の勞苦なく、項羽は范增を嫌うの悔なからん。患う所は碔砆の瑾瑜を擾亂するに在り(底本「石武石夫」は當に「碔砆」と爲す)、鷦螟は鳳皇の如く、凝冰は水精に類似し、煙薰は雲氣と疑はれ、ゆえに謬誤せざる人をして少なからしむ。帝を連ねても亦た難しと覺う、況んや近人をや。

夫惟大明,玄鑑幽微,靈銓揣物,思灼沈昧,瞻山識璞,臨川知珠。士於難分之中,而無取捨之恨者,使臧否區分,抑揚鹹允。武丁姬文不獨治,而傅說呂尚不永棄,高莽宰嚭不得成其惡,弘恭石顯無所容其偽矣。其蓋取士之較略,選擇之大都耳。精微以求,存乎其人,固非毫翰之所備縷也。

ただ大明のみ、玄鑑幽微にして、靈銓物を揣度し、思慮沈昧を灼照し、山を瞻望して璞を認識し、川に面臨して珠を知る。士は分辨し難きの中に在りて、而も取舍の恨なき人は、臧否を區分せしめ、抑揚皆允當ならしむ。武丁・姬文は獨自治理せず、傅説・呂尚は永遠に抛棄せられず、王莽・宰嚭は彼らの惡を成就する能わず、弘恭・石顯は彼らの僞を容納する處なからん。這大概是れ士を取るの較略・選擇の大要のみ。精微に求むるは、あの人に在りて、本來毫翰の完備縷述する能くする所に非ず。

弭訟卷第二十三

弭訟巻第二十三

姑子劉君士由之論曰:“人綱始於夫婦,判合擬乎二儀。是故大婚之禮,古人所重,將合二姓之好,以承祖宗之基。主人拜迎於門,聽命於廟,玄纁贄幣,親御授綏,婿有三年之喪,致命女氏,女氏許諾而不敢改。大喪既沒,請命於婿,婿有辭焉,然後乃嫁。所以崇敬讓也。豈有先訟後婿之謂乎

姑子劉君士由の議論曰く、人の綱紀は夫婦に開始し、判合は二儀に比擬す。ゆえに大婚の禮は、古人の看重する所にして、將に二姓の好を合成して、以て祖宗の基業を承繼せんとす。主人は門前に拜迎し、廟裡に命を聽き、玄纁贄幣して、親自駕車して綏を授給し、婿は三年の喪有れば、女氏に致命し、女氏は許諾して然れども敢えて改めず。大喪已に結束すれば、婿に命を請い、婿は辭有りて、然後乃ち嫁す。ゆえに敬讓を推崇す。何處に先に訴訟して後に婿を成すの説法有らんや、と。

而末世輕慢,傷化敗俗,舉不修義,許而弗與,訟鬩穢辱,煩塞官曹。今可使諸爭婚者,未及同牢,皆聽義絕,而倍還酒禮,歸其幣帛。其嘗已再離者,一倍裨娉。其三絕者,再倍裨娉。如此,離者不生訟心,貪吝者無利重受,乃王治要術,不易之永法也。”

(劉君が続けて言うには、)然れども末世輕慢にして、教化を傷害し風俗を敗壞し、擧動は義を修めず、許して然れども給與せず、訟鬩穢辱して、官曹を煩擾堵塞す。如今可に諸位婚を爭する人をして、未だ同牢に到らざれば、皆義絶を聽任して、而も酒禮を加倍歸還し、彼らの幣帛を歸還せしめん。あの曾て已に兩次離れたるは、一倍聘禮を補助す。三次絶れたるは、再び倍して聘禮を補助す。這の如くなれば、離れる人は訴訟の心を生出せず、貪吝の人は重受するの利なく、這乃ち王治の要術・改易す可からざる永久法なり、と。

抱朴子答曰:“劉君憫德讓之凌替,疾民爭之損化,雖速我訟,室家不足,用和之貴,將遂淪胥。創讜言以拾世遺,建嘉謀以拯流遁,紛譁之俗,將以此而易,無恥之風,將由此而移。彌綸情偽,固難間矣。誠經國之永法,至益之篤論也。

抱朴子回答して曰く、劉君は德讓の陵夷廢替を憫傷し、民爭の教化を損傷するを疾恨し、卽使我をして迅速に訴訟に陷入せしむるとも、室家は還に足らず、和を用うるの可貴は、將に是に淪胥せんとす。正直の話を創立して以て當世の遺漏を拾取し、嘉謀を建立して以て流遁を拯救し、紛嘩の風俗は、將に此に因りて改易せんとし、無恥の風は、將に此に由りて移せんとす。情僞を彌綸するは、本來離間し難し。實に國家を經營するの永久法・至益の篤論なり、と。

洪以不敏,不識至理,造次承問,竊有疑焉。夫婚媾之結,義無逼迫,彼則簡擇而求,此則可意乃許,輕諾後悔,罪在女氏,食言棄信,與奪任情,嚴防峻制,未之能弭。今猥恣之,唯責裨娉倍貧者所憚也,豐於財者,則適其願矣。後所許者,或能富殖,助其裨娉,必所甘心。然則先家拱默,不得有言,原情論之,能無怨嘆乎

(抱朴子が続けて言うには、)我洪は不敏を以て、至理を認識せず、倉卒詢問を承受し、私下疑惑有り。婚媾の結は、義逼迫なく、彼は則ち簡選して求め、此は則ち意に合して乃ち許す、輕易許諾して後悔するは、罪は女氏に在り、言を食して信を棄て、給與或いは剝奪は情に聽任し、嚴防峻制するも、還に能く止息せず。如今隨便放任して、ただ聘禮を補助するを加倍せしむるを責求するは、是れ貧者の怕れる所にして、財豐の人は、便ち正好其の願望に適合せり。後來許す所の人は、或いは能く富殖して、彼を幇助して聘禮を補助せしめ、一定に甘心する所なり。則ち先頭あの家は拱手沉默して、話有る能わず、情を推原して論ずれば、能く怨歎なからんか、と。

夫不伏之人,視死猶歸,血刃之禍,於是將起。今苟惜其辭訟之小丑,而構其難忍之大恨,所謂愛其僦覽之煩,忘其凋殞之酷也。夫買物於市者,或加價而奪之,則鮮忍而不忿然矣,況乎見奪待告之妻哉!此法遂用者,將使結婚者,雖納敬親迎,猶抱有見奪之慮。何者劉君之論,以同牢為斷,固也。

(抱朴子が続けて言うには、)伏せざる人は、死を以て歸と看なし、血刃の禍は、將に此より興起せん。如今苟且に辭訟のあの如き小醜を愛惜して、却って忍び難きの大恨を構成す、所謂彼の賃覽の煩を愛し、彼の凋殞の酷を忘掉するなり。市上に物を買う人は、或いは價を加えて奪走すれば、便ち少なく能く忍住して忿然せざる、況んや待ち迎娶する妻の奪はるるを看見するをや。這個の法若し用いられれば、將に結婚する人をして、卽使敬を納れ親迎するも、還に將に奪はれんの憂慮を抱かしめん。何を爲すか。劉君の論は、同牢を以て斷と爲す、本來便是れこの如し、と。

爾則女氏雖受幣積年,恆挾在意之威,恃可數奪,必惰於擇婿,婿小不得意,便得改悔,結讎帶禍,莫此之甚矣。曩人畫法,慮關終始,杜漸防萌,思之良精,而不關恣奪之路,斷以報板之制者,殆有決乎

(抱朴子が続けて言うには、)然らば則ち女氏は卽使幣を受けて年を積むとも、常常に隨意の威を挾み、屢次奪う可きを依恃して、一定に婿を擇ぶに怠惰し、婿稍稍意を得ざれば、便ち能く改悔し、仇を結び禍を帶ぶるは、這個より更甚なるなし。往昔の人は法を畫するに、關涉終始を顧慮し、漸を杜じ萌を防ぎ、想い得る實に精しく、然れども放任爭奪の路を打開せず、報板の制度を以て決斷するは、大概是れ決斷有るか、と。

儻令女有國色,傾城絕倫,而值豪右權臣之徒,目玩冶容,心忘禮度,資累千金,情無所吝。十倍還娉,猶所不憚,況但一乎華氏不難於殺孔父而取其妻,楚人為子迎婦,以其美而自納之。以此論之,豈惜傾竭居產以助女氏還前家之直哉!小人輕薄,睚眥成怨,又喜委衰逐盛,蹋冷趨熱,此法之行,則必多奪貧賤而與富貴者矣。不審吾君,何方以防弊乎!

(抱朴子が続けて言うには、)倘若女子をして國色有りて、傾城絶倫にして、然れども豪右權臣の一類人に碰上りて、眼睛は冶容を玩賞し、心裡は禮度を忘掉し、資財千金を累積し、情は吝嗇する所なからしめば。十倍聘禮を歸還するも、なお怕れる所なし、況んやただ一倍のみをや。華氏は孔父を殺死して其の妻を奪取するに難しとせず、楚人は子に婦を迎えて、其の美なるに因りて自ら納れり。此より説けば、豈に家産を傾竭して以て女氏を幇助し前一の家の價錢を歸還するを吝惜せんや。小人輕薄にして、睚眦すれば便ち怨を結成し、又衰を委棄し盛を追逐するを喜歡し、冷を踏着し熱に趨向し、這個の法一實行すれば、便ち一定に多半貧賤を奪取して富貴に給與する人ならん。您の什麼の方法を以て弊を防止するを知らずや、と。

或曰:可使女氏受娉無豐約,皆以即日報板,後皆使時人署姓名於別板,必十人已上,必備遠行及死亡。又令女之父兄若伯叔,答婿家書,必手書一紙,若有變悔而證據明者,女氏父母兄弟,皆加刑罪。如此,庶於無訟者乎!

或る人曰く、可に女氏をして聘を受くるに豊約を論ぜず、皆當日に板を報せしめ、後來皆當時の人をして別の板の上に姓名を署せしめ、一定に十人以上として、必ず遠行及び死亡を防備せしめん。又女の父兄或いは伯叔をして、婿家の書に答覆せしめ、一定に親手一紙を寫せしめ、若し變悔有りて證據明白なる有らば、女氏父母兄弟は、皆刑罪を加えん。這の如くなれば、差不多可に訴訟の人なからしめんか、と。

酒誡卷第二十四

酒誡巻第二十四

抱朴子曰:目之所好,不可從也;耳之所樂,不可順也;鼻之所喜,不可任也;口之所嗜,不可隨也;心之所欲,不可恣也。故惑目者,必逸容鮮藻也;惑耳者,必妍音淫聲也;惑鼻者,必草臣蕙芬也;惑口者,必珍羞嘉旨也;惑心者,必勢利功名也。五者畢惑,則或承之禍為身患者,不亦信哉!

抱朴子曰く、眼睛の喜好する所は、以て聽從す可からず。耳朵の快樂する所は、以て順從す可からず。鼻子の喜悅する所は、以て放任す可からず。口の嗜好する所は、以て跟隨す可からず。心の欲する所は、以て放恣す可からず。ゆえに眼睛を迷惑するは、一定に是れ逸容鮮藻なり。耳朵を迷惑するは、一定に是れ妍音淫聲なり。鼻子を迷惑するは、一定に是れ香蕙の芬芳なり(底本は「草臣蕙」と作る、當に香草の名と爲す)。口を迷惑するは、一定に是れ珍羞嘉旨なり。心を迷惑するは、一定に是れ勢利功名なり。五者全部迷惑せられれば、則ち或いは接いで禍を承受して自身の患と成る、不も亦た實然ならんか、と。

是以智者嚴檃括於性理,不肆神以逐物,檢之以恬愉,增之以長算。其抑情也,劇乎堤防之備決;其御性也,過乎腐轡之乘奔。故能內保永年,外免釁累也。蓋飢寒難堪者也,而清節者不納不義之谷帛焉;困賤難居者也,而高尚者不處危亂之榮貴焉。蓋計得則能忍之心全矣,道勝則害性之事棄矣。

ゆえに智者は性理の上に檃括を加嚴し、精神を放肆して物を追逐せしめず、恬愉を以て檢束し、長遠の算を以て增加す。彼の情を抑制するは、堤防の决口を防備するより劇烈なり。彼の性を駕馭するは、腐轡を以て奔に乘るに超過す。ゆえに能く內に永年を保全し、外に釁累を免る。飢寒は擔當し難きなれども、而も清節の人は不義の穀帛を接納せず。困賤は居り難きなれども、而も高尚の人は危亂の榮貴に處せず。大概計は當を得れば則ち忍の心は便ち保全せられ、道勝れば則ち性を害するの事は便ち抛棄せらる、と。

夫酒醴之近味,生病之毒物,無毫分之細益,有丘山之巨損,君子以之敗德,小人以之速罪,耽之惑之,鮮不及禍。世之士人,亦知其然,既莫能絕,又不肯節,縱心口之近欲,輕召災之根源,似熱渴之恣冷,雖適己而身危也。小大亂喪,亦罔非酒。

酒醴は近前の味道にして、病を生ずるの毒物にして、毫分の細益なく、丘山の巨大損有り、君子はそれに因りて德を敗り、小人はそれに因りて罪を加速し、それに沈溺しそれに迷惑せられて、禍に達せざる少なし。世上の士人も、も亦たこの如くを知るも、既に能く斷絶せず、又不肯じて節制せず、心口近前の慾望を放縱し、災を召するの根源を看輕し、熱渴の時に冷に放恣するが如く、卽使自己に適うとも然れども身子危し。小大の亂喪も、も亦た酒に非ざるなきなり。

然而俗人是酣是湎,其初筵也,抑抑濟濟,言希容整,詠《湛露》之“厭厭”,歌“在鎬”之“愷樂”,舉“萬壽”之觴,育“溫克”之義。日未移晷,體輕耳熱。夫琉璃海螺之器並用,滿酌罰餘之令遂急。醉而不止,拔轄投井。

然れども俗人はただ酣のみただ湎のみ、剛く筵を開くの時は、抑抑濟濟として、話稀く容貌整齊にして、《湛露》の「厭厭」を詠じ、「在鎬」の「愷樂」を唱え、「萬壽」の觴を擧起し、「溫克」の義を養う。日影未だ移らざるに、身體輕く耳朵熱し。琉璃海螺の器は一倂使用し、滿酌・罰餘の令は是に急なり。醉て然れども止まず、車轄を拔掉して井裡に投進す。

於是口湧鼻溢,濡首及亂。屢舞躚躚,舍其坐遷;載號載呶,如沸如羹。或爭辭尚勝,或啞啞獨笑,或無對而談,或嘔吐几筵,或值厥足良倡,或冠脫帶解。

是に口涌き鼻溢れて、頭を沾濕して亂に至る。屢次舞うこと跹跹として、座位を舍棄して遷走す。一邊號し一邊呶して、沸の如く羹の如し。或いは言辭を爭いて勝を崇尚し、或いは啞啞として獨自笑い、或いは對象なくして然れども談じ、或いは几筵の上に嘔吐し、或いは正好厥足踉蹌し、或いは冠脫落し帶解開す。

貞良者流華督之顧眄,怯懦者效慶忌之蕃捷,遲重者蓬轉而波擾,整肅者鹿踴而魚躍。口訥於寒暑者,皆搖掌而譜聲,謙卑而不競者,悉裨瞻以高交。廉恥之儀毀,而荒錯之疾發;闒茸之性露,而傲佷之態出。

貞良の人は華督のあの如き顧盼を流出し、怯懦の人は慶忌の蕃捷を效法し、遲重の人は蓬轉の如く波擾の如く、整肅の人は鹿踊の如く魚躍の如し。口は寒暑の上に木訥する人は、皆掌を搖い譜して聲音を出し、謙卑して然れども競争せざる人は、全都膽量を增加して高交に往く。廉恥の儀は毁され、荒錯の疾病は發作し。闒茸の性は顯露し、傲很の態は出來す。

精濁神亂,臧否顛倒。或奔車走馬,赴坑谷而不憚,以九折之阪為蟲豈封;或登危蹋頹,雖墮墜而不覺,以呂梁之淵為牛跡也。或肆仇於器物,或酗醟於妻子;加枉酷於臣僕,用剡鋒乎六畜;熾火烈於室廬,掊寶玩於淵流;遷威怒於路人,加暴害於士友。褻嚴主以夷戮者,有矣;犯兇人而受困者,有矣。

精濁り神亂れて、臧否顛倒す。或いは車を奔らせ馬を走らせて、坑谷に赴向して然れども怕れず、九折の阪を以て蟻封と當てす(底本「虫豈封」は「虫」旁の殘留)。或いは危に登り頹を踏着して、卽使墮墜するも亦た覺えず、呂梁の淵を以て牛蹄印と當てす。或いは器物の上に仇を放肆し、或いは妻子に對して酗蒏す。枉酷を臣僕に加え、鋒刃を六畜の上に用い。室廬に熾火を點燃し、寶玩を淵流に掊進す。威怒を路人に遷し、暴害を士友に加え。嚴主を褻慢して夷戮せらるるは、之れ有り。凶人に觸犯して困を受くるは、之れ有り。

言雖尚辭,煩而叛理;拜伏徒多,勞悲非敬。臣子失禮於君親之前,幼賤悖慢於耆宿之坐。謂清談為詆詈,以忠告為侵己。於是白刃抽而忘思難之慮,棒杖奮而罔顧乎前後。構漉血之讎,招大辟之禍。

話は文辭を崇尚するも、煩瑣して然れども理に背叛す。拜伏徒然に多く、勞苦悲傷して然れども敬に非ず。臣子は君親の前に禮を失い、幼賤は耆宿の座席の上に悖慢す。清談を以て詛詈と稱し、忠告を以て自己を侵犯すると當てす。是に白刃抽出して然れども難を思うの顧慮を忘掉し、棒杖奮起して然れども前後を顧みず。漉血の仇を構成し、大辟の禍を招來す。

以少凌長,則鄉黨加重責矣;辱人父兄,則子弟將推刃矣;發人所諱,則壯士不能堪矣;計數深克,則醒者不能恕矣。起眾患於須臾,結百疒阿於膏肓。奔駟不能追既往之悔,思改而無自反之蹊。蓋智者所深防,而愚人所不免也。其為禍敗,不可勝載。

少を以て長を凌駕すれば、則ち鄉黨は責を加重せん。別人の父兄を侮辱すれば、則ち子弟は將に刃を推せん。人の忌諱する所を揭發すれば、則ち壯士は堪える能わず。計數深くして刻薄なれば、則ち醒たる人は寬恕する能わず。須臾に衆患を興起し、膏肓に百病を結下す(底本「疒阿」は當に「疴」と爲す)。奔馳の駟馬は既往の悔を追回する能わず、改めんと想うも然れども自己返回するの蹊徑なし。這是智者の深深防備する所にして、而も愚人の免れざる所なり。それの造成する禍敗は、記載完き能わず。

然而歡集,莫之或釋,舉白盈耳,不論於能否。計瀝雨留於小余,以稽遲為輕己。傾匡注於所敬,殷勤變而成薄。勸之不持,督之不盡,怨色醜音所由而發也。

然れども歡集するは、放下する者或いはなし、白を擧ぐるの聲音は耳朵に充滿し、能否を論ぜず。瀝下の酒を計算して小餘に留め、稽遲を以て自己を看輕するを當てす。匡を傾けて以て敬する所の人に注給し、殷勤は薄と變成す。彼を勸むるも然れども持せず、彼を督促するも然れども盡くさず、怨色醜音は此より發出す。

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