抱朴子外篇 · 第2巻
若乃下帷高枕,遊神九典,精義賾隱,味道居靜,確乎建不拔之操,揚青於歲寒之後,不揆世以投跡,不隨眾以萍漂者,蓋亦鮮矣。汲汲於進趨,悒悶於否滯者,豈能捨至易速達之通途,而守甚難必窮之塞路乎此川上所以無人,《子衿》之所為作。憫俗者所以痛心而長慨,憂道者所以含悲而頹思也。
帷帳を放下し高枕して臥し、神を九典に游ばしめ、義理を精研し隱微を探索し、道を體味して居處清静にして、確然として拔く可からざる操守を建立起し、歲寒の後に青蒼を揚起し、時世を估量せずして投足し、衆人に跟隨して浮萍の如く漂う人に至りては、大概も亦た少なし。急急として進取し滯留に悒悶する人は、何ぞ能く至易速達の通途を舍棄して、甚難・一定窮困の塞路を守らんや。這即ち川上に人なき所以・《子衿》の寫作せられたる所以の緣故なり。流俗を憫傷する人は此に因りて痛心して長慨し、道を憂慮する人は此に因りて悲を含みて頹喪思念す。
夫寒暑代謝,否終則泰,文武迭貴,常然之數也。冀群寇畢滌,中興在今,七耀遵度,舊邦惟新,振天彗以廣埽,鼓九陽之洪爐,運大鈞乎皇極,開玄模以軌物。陶冶庶類,匠成翹秀,蕩汰積埃,革邪反正。戢干戈,橐弓矢,興辟雍之庠序,集國子,修文德,發金聲,振玉音。降風雲於潛初,旅束帛乎丘園,令抱翼之鳳,奮翮於清虛;項領之駿,騁跡於千里。使夫含章抑鬱,窮覽洽聞者,申公伏生之徒,發玄纁,登蒲輪,吐結氣,陳立素,顯其身,行其道,俾聖世迪唐虞之高軌,馳昇平之廣途,玄流沾於九垓,惠風被乎無外。五刑厝而頌聲作,和氣洽而嘉禾遂生,不亦休哉!
寒暑は代謝し、否は終れば則ち泰、文と武は交替して貴重す、是れ常然の定數なり。群寇の滌除し淨盡せんを希望し、中興は今の日に在り、七曜は度數を遵循し、舊邦は維新を得しめ、天彗を揮動して以て廣く掃除し、九陽の洪鑪を鼓動し、皇極に大鈞を運轉し、玄模を打開して事物を規範せんことを。庶類を陶冶し、翹秀を匠成し、積埃を蕩去し、邪を革除して正に返回せしめ、干戈を收藏し、弓矢を袋子の裡に裝進し、辟雍の庠序を興辦し、國子を聚集し、文德を修明し、金聲を發出し、玉音を振起せしめん。風雲を潛藏の初位に降到し、束帛を丘園に送到し、翅膀を收起せる鳳をして、清虛の中に翮を奮起せしめ、項領高昂の駿馬をして、千里の路上に足迹を馳騁せしめん。あの文采を含みて抑郁せられ・閱覽を窮盡して洽博の見聞有る人をして、申公・伏生の一類の如く、玄纁を打開し、蒲輪に登上し、鬱結の氣を吐出し、素來の立論を陳述し、自身を顯揚し、彼らの道を推行し、聖世をして唐虞の高軌に遵循し、升平の廣途に奔馳し、玄流は九垓に沾溉し、惠風は外面なきに被及せしめん。五刑は擱置して頌聲興起し、和氣洽合して嘉禾是に生長す、不亦美好ならんや。
昔秦之二世,不重儒術,舍先聖之道,習刑獄之法。民不見德,唯戮是聞。故惑而不知反迷之路,敗而不知自救之方,遂墮墜於雲霄之上,而敕韭粉乎不測之下。惟尊及卑,可無鑑乎!
從前秦の二世は、儒術を看重せず、先聖の道を舍棄し、刑獄の法を習用せり。百姓は德を見ず、ただ殺戮を聞くのみ。ゆえに迷惑して返回の路を知らず、敗亂して自救の方法を知らず、是に雲霄の上より墮墜して、測り可からざる下に敕令して齏粉に碾碎せられたり。尊より卑に至るまで、鑑戒無かる可けんや。
崇教卷第四
崇教巻第四
抱朴子曰:澄視於秋毫者,不見天文之煥炳。肆心於細務者,不覺儒道之弘遠。玩鮑者忘茞蕙,迷大者不能反。夫受繩墨者無枉刳之木,染道訓者無邪僻之人。飾治之術,莫良乎學。學之廣在於不倦,不倦在於固志。志苟不固,則貧賤者汲汲於營生,富貴者沈倫於逸樂。是以遐覽淵博者,曠代而時有;面牆之徒,比肩而接武也。
抱朴子曰く、視力を秋毫の上に澄清する人は、天文の焕炳を見えず。心を細務の上に放縱する人は、儒道の弘遠を覺えず。鮑魚を玩ぶ人は茝蕙を忘掉し、大に迷う人は返回する能わず。繩墨を受くるは枉に刳削を加えらるる木なし、道訓に染むるは邪僻の人なし。修飾整治の方法は、學習より更に好きなし。學の廣は不倦に在り、不倦は志向の堅固に在り。志向もし堅固ならざれば、貧賤の人は急急として營生し、富貴の人は逸樂の裡に沈淪す。ゆえに遠覽淵博の人は、曠代に時を經て乃ち一個有り。牆壁に面對する一類は、却って肩を挨ぎ脚を接ぐ、と。
若使素士則晝躬耕以餬口,夜薪火以修業,在位則以酣宴之餘暇,時遊觀於勸誡,則世無視肉,遊夏不乏矣。亦有飢寒切己,藜藿不給,膚困風霜,口乏糟糠,出無從師之資,家有暮旦之急,釋耒則農事廢,執卷則供養虧者,雖闕學業,可怒者也。所謂千里之足,困於鹽車之下;赤刀之礦,不經歐冶之門者也。
假如寒素の士が白天に親しく耕作して以て口を糊り、夜裡薪火を點起して以て業を修め、位に在る人は酣宴の剩餘の閒暇を以て、時時勸誡の上に游觀せば、則ち世上は視肉(傳説の神物、難得の人才を喻う)無きことなく、游夏も亦た缺乏せざらん。も亦た饑寒身に切り、藜藿は供給に上らず、皮膚は風霜に困り、口裡は糟糠を缺少し、出門は從師の資用なく、家裡は朝夕の急難有り、耒を放下すれば農事は便ち廢し、書卷を拿起すれば供養は便ち虧くる人は、卽使學業を缺くとも、亦た原諒す可きなり。這即ち所謂千里の足、鹽車の下に困る、赤刀の礦石は、歐冶の門を經由せざるなり。
若夫王孫公子,優遊貴樂,婆娑綺紈之間,不知稼穡之艱難,目倦於玄黃,耳疲乎鄭衛,鼻饜乎蘭麝,口爽於膏粱,冬沓貂狐之縕麗,夏縝紗縠之翩飄,出驅慶封之輕軒,入宴華房之粲蔚,飾朱翠於楹梲,積無已於篋匱,陳妖冶以娛心,湎醹醁以沈醉,行為會飲之魁,坐為博奕之帥。省文章既不曉,睹學士如草芥,口筆乏乎典據,牽引錯於事類。劇談則方戰而已屈,臨疑則未老而憔悴。雖叔麥之能辯,亦奚別乎瞽瞶哉!
王孫公子に至りては、貴樂の裡に優游し、綺紈の間に徘徊し、稼穡の艱難を知らず、眼睛は玄黃に倦み、耳朵は鄭衛に疲れ、鼻子は蘭麝に饜足し、口裡は膏粱に敗壞し、冬天は貂狐の縕麗を重疊し、夏天は紗縠の翩飄を密織し、出門は慶封の如き輕軒を驅り、進門は華房の粲蔚に宴し、楹梲の上に朱翠を裝飾し、篋匱の裡に止境なきを積蓄し、妖冶を陳列して以て心を娛樂し、醹醁に沈湎して沈醉し、行動は會飮の魁首にして、坐着は博弈の主帥なり。文章を省視して已に曉らず、學士を看待して草芥の如く、口と筆は典據を缺少し、事情を牽引して類別錯亂す。劇談は剛交戰して已に屈服し、疑難に面臨して未だ老せずして憔悴す。卽使菽麥を分辨する能くすとも(底本は「叔」と作る、「叔」は「菽」の訛)、瞽瞶と又什麼の分別有らんや。
抱朴子曰:蓋聞帝之元儲,必入太學,承師問道。齒於國子者,以知為臣,然後可以為君;知為子,然後可以為父也。故學立而仕,不以政學,操刀傷割,鄭喬所嘆。觸情縱慾,謂之非人。而貴遊子弟,生乎深宮之中,長乎婦人之手,憂懼之勞,未常經心,或未免於襁褓之中,而加青紫之官;才勝衣冠,而居清顯之位。操殺生之威,提黜陟之柄,榮辱決於與奪,利病感於唇吻,愛惡無時暫乏,譭譽括厲於耳。嫌疑象類,似是而非,因機會以生無端,藉素信以設巧言,交構之變,千端萬緒,巧算所不能詳,毫墨所不能究也。無術學,則安能見邪正之真偽,具古今之行事自悟之理,無所惑假,能無傾巢覆車之禍乎!
抱朴子曰く、帝王の嫡長子は、一定に太學に進入し、師傅を承受し道を詢問す、と聞く。國子と年齡を按じて排列するは、以て臣を做るを知り、然後乃ち君を做る可く、子を做るを知り、然後乃ち父を做る可きが爲なり。ゆえに學成して再び出仕し、政事を拿りて學習せず、刀を操れば便ち割傷せん、這は鄭國の子産の歎息する所なり。情に觸れ欲を放縱するは、非人と稱す。然れども貴游の子弟は、深宮の中に生まれ、婦人の手に長ち、憂懼の勞苦は、未曾だ心を經過せず、或いは未だ襁褓を離れずして、便ち青紫の官を加う。才能剛く衣冠を撑起するに足れば、便ち清顯の位子を占む。殺生の威嚴を操り、黜陟の權柄を提げ、榮辱は給與あるいは剥奪に決定し、利害は嘴唇に感應し、愛惡は一時片刻の缺乏なく、毁譽は括りて耳邊に猛烈なり。嫌疑と象類は、是に似て是に非ず、機會を借りて無端を生出し、素來の信任に憑りて巧言を設置し、交相構陷の變化は、千端萬緒にして、巧算も亦た詳細する能わず、毫墨も亦た窮盡する能わず。術學なくんば、又怎ぞ能く邪正の真僞を見、古今行事の自己覺悟の道理を具備し、迷惑假借せらるる處なく、傾巢覆車の禍無き能けんや。
先哲居高,不敢忘危,愛子欲教之義方,雕琢切磋,弗納於邪偽。選明師以象成之,擇良友以漸染之,督之以博覽,示之以成敗,使之察往以悟來,觀彼以知此,驅之於直道之上,斂之乎檢括之中,懍乎若跟掛於萬仞,慄然有如乘奔以履冰。故能多遠悔吝,保其貞吉也。
先哲は高位に處りて、危險を忘掉するを敢えてせず、兒子を愛すれば便ち義方を拿りて教えんと想い、雕琢切磋して、邪僞の裡に接納せず。明師を選擇して以て彼を仿效成就せしめ、良友を選擇して以て漸漸彼を浸染し、博覽を以て彼を督促し、成敗を以て彼に指示し、彼をして往來を察して將來を覺悟し、彼を觀看して以て此を知らしめ、彼を直道の上に驅趕し、彼を檢括の中に收斂し、懔然として脚根を萬仞の上に挂け、栗然として奔馬に乘りて冰を踏むが如くせしむ。ゆえに能く悔吝を遠離して多く、彼の貞吉を保全す。
昔諸竇蒙遺教之福,霍禹受率意之禍,中山東平以好古而安,燕剌由面牆而危。前事不忘,今之良鑑也。湯武染乎伊呂,其興勃然;辛癸染乎推崇,其亡忽焉。朋友師傅,尤宜精簡。必取寒素德行之士,以清苦自立,以不群見憚者。其經術如仲舒桓榮者,強直若龔遂王吉者,能朝夕講論忠孝之至道,正色證存亡之軌跡,以洗濯垢涅,閒邪矯枉,宜必抑情遵憲法,入德訓者矣。
從前諸位の竇氏は遺教の福を蒙受し、霍禹は任性の禍を承受し、中山・東平は古を好むに因りて安く、燕剌王は面牆に因りて危うし。前事不忘れば、是れ今の日の好鏡子なり。湯武は伊尹・呂尚に浸染して、彼らの興盛は勃然なり。辛癸は推崇する人に浸染して、彼らの滅亡は忽然として至れり。朋友師傅は、尤も精嚴簡選すべし。必ず寒素の德行有る士を取り、清苦に靠りて自立し不群に因りて人に忌まるる者を。經術は董仲舒・桓榮の如き、強直は龔遂・王吉の如き、能く朝夕忠孝の至道を講論し、正色して存亡の軌迹を證明し、以て垢涅を洗濯し、邪を防止し枉を矯正せば、便ち一定に感情を抑制し憲法を遵守し、德の訓導に進入する能くす。
漢之末世,吳之晚年,則不然焉。望冠蓋以選用,任朋黨之華譽,有師友之名,無拾遺之實。匪唯無益,乃反為損。故其所講說,非道德也;其所貢進,非忠益也。唯在於新聲豔色,輕體妙手,評歌謳之清濁,理管絃之長短,相狗馬之剿駑,議遨遊之處所,比錯途之好惡,方雕琢之精粗,校彈棋樗蒲之巧拙,計漁獵相掊之勝負,品藻妓妾之妍蚩,指摘衣服之鄙野,爭騎乘之善否,論弓劍之疏密。招奇合異,至於無限,盈溢之過,日增月甚。
漢の末世・吳の晚年は、便ちこの如くならず。冠蓋を望見して以て選用し、朋黨浮華の稱譽に聽任し、師友の名有りて、拾遺補闕の實なし。益處無きのみならず、却って損害と爲る。ゆえに彼らの講説する所は、道德に非ず。彼らの貢進する所は、忠益に非ず。ただ新聲艷色・輕體妙手に在り、歌謳の清濁を評議し、管弦の長短を調理し、狗馬の迅捷あるいは駑鈍を相看し、遨游の處所を議論し、錯雜道路の好惡を比較し、雕琢の精粗を衡量し、彈棋樗蒲の巧拙を校核し、漁獵相搏の勝負を計算し、妓妾の美醜を品評し、衣服の鄙野を指摘し、騎乘の好壞を争い、弓劍の疏密を談論す。奇を招き異を合して、極限なきに至り、盈溢の過錯は、日增し月甚し。
其談宮殿,則遠擬瑤臺瓊室,近效阿房林光,以千門萬戶為侷促,以昆明太液為淺陋,笑茅茨為不肖,以土階為樸馬矣。民力竭於功役,儲蓄靡於不急,起土山以準嵩霍,決渠水以象九河;登凌霄之華觀,闢雲際之綺窗。淫音噪而惑耳,羅袂揮而亂目,濮上北里,迭奏迭起;或號或呼,俾晝作夜。流連於羽觴之間,沈淪乎弦節之側。
彼らは宮殿を談ずれば、便ち遠く瑶臺瓊室に比し、近く阿房・林光を效し、千門萬戸を局促と看なし、昆明・太液を淺陋と看なし、茅茨を不肖と笑話し、土階を朴陋と看なせり(底本は「朴馬」と作る、「馬」は「焉」の訛)。民力は功役の上に枯竭し、儲蓄は不急の事の上に消耗し、土山を堆起して嵩霍に比准し、渠水を開決して九河を模仿す。凌霄の華觀に登上し、雲際の綺窓を開闢す。淫音は噪響して耳朵を迷惑し、羅袖は揮動して眼睛を擾亂し、濮上・北里は、交替して奏起し、或いは號し或いは呼して、白天を以て夜晚と當てす。羽觴の間に流連し、弦節の側に沈淪す。
或建翠翳之青蔥,或射勇禽於郊垧,馳輕足於嶮峻之上,暴僚隸於盛日之下,舉火而往,乘星而返,機事廢而不修,賞罰棄而不治。或浮文艘於滉漾,布密網於綠川,垂香餌於漣潭,縱擢歌於清淵,飛高繳以下輕鴻,引沈綸以拔潛鱗;或結罝罘於林麓之中,合重圍於山澤之表,列丹飈於豐草,騁逸騎於平原,縱盧獵以噬狡獸,飛輕鷂以鷙翔禽,勁弩殪狂兕,長戟斃熊虎。如此,既彌年而不厭,歷載而無已矣。
或いは翠綠の翳蓋の如き青葱を樹起し、或いは郊野に勇禽を射擊し、險峻の上に輕捷の足を驅馳し、盛日の下に僚隸を暴露し、火把を擧げて前往し、星辰に乘りて返回し、機要の事は廢棄して修せず、賞罰は抛棄して治せず。或いは彩飾の船を滉漾の水上に浮べ、綠川の中に密網を布下し、漣漪の潭裡に香餌を垂下し、清淵の中に棹歌を放任し、高繳を放出して輕鴻を射下し、沉綸を牽引して潛鱗を拔出し、或いは林麓の中に罝罘を結起し、山澤の外に重圍を合成し、豐草の裡に丹飇を列出し、平原の上に逸騎を馳騁し、韓盧を放縱して狡獸を咬ましめ、輕鷂を放出して翔禽を搏擊し、勁弩は狂兕を射死し、長戟は熊虎を殺死す。這の如く、已に滿年しても厭かず、歷年して停止なし。
而又加之以四時請會,祖送慶賀,要思數之密客,接執贄之嘉賓。人間之務,密勿罔極。是以雅正稍遠,遨逸漸篤。其去儒學,緬乎邈矣。能獨見崇替之理,自拔淪溺之中,舍敗德之嶮途,履長世之大道者,良甚鮮矣。嗟乎!此所以保國安家者至稀,而傾撓泣血者無算也。
而も又四季の邀請聚會・餞行送別・慶賀を加え、恩數親密の客を邀約し、贄を執る嘉賓を接待す。人間の事務は、勤勉して極限なし。ゆえに雅正は漸漸遠離し、遨逸は漸漸加重す。儒學を離開する、緬邈なる甚だし。能く獨り興廢の道理を見て、淪溺の中より自己を拔出し、敗德の險途を舍棄し、長世の大道を踏上する人は、實に少なし。嗟乎、這即ち國を保ち家を安んずる人の極少にして、傾覆撓亂・泣血する人の計算する能わざる緣故なり。
今聖明在上,稽古濟物,堅堤防以杜決溢,明褒貶以彰勸沮;想宗室公族,及貴門富年,必當競尚儒術,撙節藝文,釋老莊之意(意字衍)不急,精六經之正道也。
如今聖明在上にして、古代を考核して以て萬物を成就し、堤防を堅固にして以て決溢を杜絶し、褒貶を明確にして以て勸勉と阻攔を彰顯す。想来宗室公族及び貴門裡の年輕の人は、一定に競い儒術を崇尚し、藝文を撙節し、老莊の意中のあの不急のものを放下し(底本「意」字は衍文)、六經の正道を精研すべし。
君道卷第五
君道巻第五
抱朴子曰:清玄剖而上浮,濁黃判而下沈。尊卑等威,於是乎著。往聖取諸兩儀,而君臣之道立;設官分職,而雍熙之化隆。君人者,必修諸己以先四海,去偏黨以平王道,遣私情以標至公,氦宇宙以籠萬殊。真偽既明於物外矣,而兼之以自見;聽受既聰於接來矣,而加之以自聞。儀決水以進善,鈞絕弦以黜惡,昭德塞違,庸親暱賢,使規盡其圓,矩竭其方,繩肆其直,斤效其斫。器無量表之任,才無失授之用。
抱朴子曰く、清にして玄きは剖開して上に浮び、濁にして黃きは分開して下に沉む。尊卑と等級威儀は、此より顯著す。往昔の聖人は兩儀に取法して、君臣の道は是に確立し、官職を設置し職事を分開して、雍熙の教化は是に隆盛す。人君を做るは、必ず先ず自己を修治して以て四海に先を作り、偏黨を去掉して以て王道を平正せしめ、私情を遣開して以て至公を標擧し、宇宙を函蓋して以て萬種の差異を籠罩せねばならず(底本は「氦」と作る、「氦」は「函」の訛)。真僞はすでに物外に辨明せられ、再び自己の能く自己を見るを兼ね、聽受はすでに到來の事に聰敏せられ、再び加上自己の能く自己を聞くを。决堤放水を取法して以て善を引進し、斷弦に比擬して以て惡を黜退し、明德を昭らかにし違を堵塞し、親族を用い賢人を親近し、規をしてその圓を用盡せしめ、矩をしてその方を用盡せしめ、繩をしてその直を放任せしめ、斧をしてその斫を效驗せしむ。器物に量度を超過するの任用なく、才能に授錯するの使用なし。
考名責實,屢省勤恤,樹訓典以示民極,審褒貶以彰勸沮,明檢齊以杜僭濫,詳直枉以違晦吝。其與之也,無叛理之幸;其奪之也,有百氏之掩。匠之以六藝,軌之以忠信,蒞之以慈和,齊之以禮刑。揚仄陋以促沈抑,激清流以澄臧否。使物無詭道,事無非分。立朝牧民者,不得侵官越局;推轂即戎者,莫敢憚危顧命。悅近以懷遠,修文以招攜。阜百姓之財粟,闡進德之廣途,杜機偽之繁務(下有脫文),則明罰敕法,哀敬折獄;淳化洽,則匿瑕藏疾,五教在寬。
名を考核して以て實を責求し、屢次省察し勤めて體恤し、訓典を樹立して以て百姓に極則を看さしめ、褒貶を審察して以て勸勉と阻攔を彰顯し、檢齊を明確にして以て僭濫を杜絶し、正直と枉曲とを詳細にして以て悔吝を遠離す。彼の給與するの時は、道理に違背するの僥倖なし。彼の剥奪するの時は、百官の掩蓋せらるる處有り。六藝を以て造就し、忠信を以て規範し、慈和を以て臨莅し、禮刑を以て齊一す。仄陋を揚起して以て沈抑せらるる人を催促し、清流を激揚して以て臧否を澄清す。物に詭詐の道なく、事に非分なからしむ。立朝して民を牧する人は、官職局守を侵越するを得ず。轂を推して軍に從う人は、危險を怕れて性命を顧惜する敢えてするなし。近處をして喜悅せしめて以て遠方を懷柔し、文教を修明して以て攜貳を招徠す。百姓の財粟をして豐阜せしめ、德を進むるの廣途を開闢し、機巧虛僞の繁務を杜絶せば(底本此處疑して脫文有り)、則ち刑罰を顯明にし法令を整飭し、哀矜敬慎して獄訟を判決す。淳化洽合せば、便ち瑕疵を藏起して疾苦を包容し、五教は寬に主す。
外總多士於文武,內建維城之穆屬,使親疏相持,尾為身幹。枝雖茂而無傷本之憂,流雖盛而無背源之勢。石盤嶽峙,式遏覬覦。見三苗之傾殄,則知川源之未可恃也;睹翳幽之不守,則覺嚴*嶮之不足賴也。夫江漢猶存,而強楚虜辱;劍閣自如,而子陽赤族。四嶽三塗土,實不一姓;金城湯池,未若人和。守在海外,匪山河也。
外に文武の多士を總攬し、內に維城の如き宗族を建立し、親疏をして互相に扶持せしめ、尾巴をして身子の骨干と爲らしむ。枝は茂盛なると雖も、然れども本を傷害するの憂なし。流は盛大なると雖も、然れども源に背離するの勢なし。石盤・岳峙の如くして、以て覬覦を遏止す。三苗の傾覆殄滅するを見れば、便ち川源は依恃す可からざるを知る。翳・幽の守る能わざるを見れば、便ち嚴〔底本此字は生僻字にして轉錄後失落せり〕險は依賴するに足らざるを覺ゆ。江漢は還在するも、強楚は却って俘虜せられ辱を受けたり。劍閣は仍舊なるも、子陽は却って滅族せられたり。四岳・三塗の土地は、實に一姓のみならず。金城湯池は、人和に如かず。海外に守るに在りて、山河に在らず。
是以賢君抱(有脫文)懼不足,而改過恐有餘。謀當計得,猶思危而弗休焉;戰勝地廣,猶戒盈而夕惕焉。象渾穹以遐燾,式坤厚以廣載。運重光以表微,致遠思乎未兆。資春景以嫗煦,範秋霜以肅物。言州諮以校同異,平衡以銓群言。虛己以盡下情,推功以勸將來。御之以術,則終始可竭也;整之以度,則叄差可齊也。嶷若閬風之凌霄,而諸下不得以輕重料焉;窈若玄淵之萬仞,則近侍不能以少多量焉。然則君之流源不窮,而百僚之才力畢陳矣;我之涯畔無外,而彼之斤兩可限矣。
ゆえに賢君は〔底本此處疑して脫文有り〕を抱きて足らざるを懼怕し、而も過錯を改正するは有餘を恐るのみ。計謀當を得るも、還に危險を想着して休息せず。戰勝して地廣きも、還に盈滿を警戒して夕惕す。渾穹を取法して以て遠く覆燾し、坤厚を效法して以て廣く承載す。重光を運轉して以て微細を表彰し、深遠の思慮を未だ兆を成さざる處に送到す。春日に憑藉して以て嫗煦し、秋霜を取範して以て萬物を整肅す。言事・州里を咨詢して以て同異を校核し、平衡を以て群言を銓衡す。自己を虛にして以て下情を窮盡し、功勞を推讓して以て將來を勸勉す。術を以て駕馭すれば、終始は便ち用盡す可し。法度を以て整飭すれば、參差は便ち齊一す可し。嶷然として閬風の雲霄を凌越するが如くすれば、諸下は便ち輕重を以て彼を料想する能わず。窈然として玄淵萬仞の如くすれば、近侍は便ち多少を以て彼を量度する能わず。この如くすれば、君主の流源は窮盡なくして、而も百僚の才力は全部陳列出來す。我の涯畔に外面なくして、而も彼の斤兩は便ち限定す可し。
發號吐令,則車訇若震霆之激響,而不為邪辯改其正。畫法創制,則炳若七曜之麗天,而不以愛惡曲其情。宏略遠罩,則藹若密雲之高結。居貞成務,則確若嵩岱之根地。料倚伏於未萌之前,審譭譽於巧言之口。不使敦樸散於雕偽,不使一體澆於二端。雖能獨斷,必博納乎芻蕘;雖務含弘,必清耳於浸潤。
號を發し令を吐けば、便ち車然轟響して震霆の回響を激起するが如く、然れども邪辯の爲にその正を改變せず。法を畫し制を創れば、便ち炳然として七曜の天上に附着するが如く、然れども愛惡に因りてその情を彎曲せず。宏略は遠く罩住すれば、便ち藹然として密雲の高高結起するが如し。居守貞正して以て事務を成就すれば、便ち確然として嵩岱の地上に生根するが如し。未だ萌芽せざる前に倚伏を料想し、巧言の口裡に毁譽を審察す。敦朴を雕僞の裡に散らしめず、一體を両端に澆薄せしめず。卽使能く獨り決斷すとも、一定に芻蕘に向かって廣く接納す。卽使含弘を務求すとも、一定に耳朵を清理乾淨して以て浸潤の讒言を聽く。
民之飢寒,則哀彼責此;百姓有罪,則謂之在予。嘉祥之臻,則念得神之佑;或逢天之怒,則思桑林之引咎。不吝改弦於宜易之調,不恥反迷於朝過之途。虎眄以警密,麟跱以接疏。路無擊壤之叟,則羞聞和音之作;民有不粒之匱,則愧臨方丈之膳。處飛閣之概天,則懼役夫之勞瘁;茹柔嘉之旨月色,則憂敬授之失時;聆管絃之宴羨,則戚逸樂之有過;瞻藻麗之辨粲,則慮賦斂之慘烈。遵放勳之粗裘,準衛文之大帛;追有夏之卑宮,識露臺之不果;鑑章華之召災,悟阿房之速禍。
百姓饑寒なれば、便ち彼らを哀憫して自己を責備す。百姓に罪有れば、便ち罪過は我に在りと説く。嘉祥到來すれば、便ち神の保佑を得るを思念す。或いは上天の怒りに逢えば、便ち桑林の如き引咎を想着す。適宜改換すべき曲調の上に弦を改むるを吝嗇せず、早上走り過ぎた迷途の上に返回するを恥と爲さず。虎の如く眄視して以て周密を警戒し、麟の如く停駐して以て疏遠を接待す。路上に壤を擊つ老人なくんば、便ち和樂の音の興起するを聞くを羞恥し、百姓に顆粒繼がざるの匱乏有れば、便ち方丈の膳食に面對するを愧じる。飛閣の高きこと天に接近する處に處れば、便ち役夫の勞瘁を懼怕し、柔嘉の旨味(底本「旨月色」は疑らくは「旨味」と當るべし)を喫れば、便ち敬授人時の失時を憂慮し、管弦宴飮の羨樂を聽けば、便ち逸樂の過有るを憂戚し、藻麗の粲然を看れば、便ち賦斂の慘烈を顧慮す。放勳の粗裘を遵循し、衛文公の大帛に比准し、有夏の卑宮を追慕し、露臺の終に建成せざるを記得し、章華の召來せし災を鑑戒し、阿房の加速せし禍を覺悟す。
誥誓則念依時之失信。耽玩則覺褒妲之惑我。征伐則量力度時,不令百里有號泣之憤;誅戮則遺情任理,不使鴟夷有抱枉之魂。鑑操彤之杜伯,惟人立之呼豕。廢嫡則戒晉獻之巨惑。立庶則念劉表之殄祀。草鬼畋則樂失獸而得士,識馳網而悅遠,偏愛則慮袖蜂之謗巧,飛燕之專寵。獨任則悟鹿馬之作威,恭顯之惡直。納策則思漢祖之吐哺,孝景之誅錯。
誥誓すれば便ち時令に依照せざるの失信を思念す。耽玩すれば便ち褒姒・妲己の我を迷惑するを發覺す。征伐すれば便ち力を量り時を度して、百里の地に號泣の憤を有らしめず。誅戮すれば便ち私情を放下し道理に聽任して、鴟夷裡に冤枉を抱く魂を有らしめず。彤弓を操る杜伯を鑑戒し、人立ちて呼叫する豕を思量す。嫡を廢すれば便ち晋獻公の巨大の迷惑を警戒す。庶を立てれば便ち劉表の祀統の斷絶を思念す。田獵(底本は「草鬼畋」と作る、疑らくは「搜畋」と當るべし)すれば便ち獸を失いて士を得るを樂しみ、網を放开して遠方の來歸を喜悅するを知る。偏愛すれば便ち袖裡蜂を藏するの巧謗・飛燕の專寵を顧慮す。獨任すれば便ち鹿を指して馬と爲すの作威・弘恭石顯の正直を厭惡するを覺悟す。計策を接納すれば便ち漢祖の吐哺・孝景の晁錯を誅するを想着す。
旨甘之進,則疏儀狄。容悅姑息,則沈欒激。除蒸子之諂,親放麋之仁。鑑白龍以輟輕脫,觀羸(原脫一字)以節無饜。防人彘之變於六宮之中,止汗血之求於絕域之外。除惡犬以遏酒酗之患,市馬骨以招追風之駿。軾怒蛙以以勸勇,避螳螂以勵武。聆公廬之讜言,容保甲之正直。剔腹背無益之毛,攬六翮凌虛之用。烹如簧以謐司原之箴,折菀渃以迪梁伯之美。放丹姬以弭婉孌之迷,退子瑕以杜餘桃之惑。藏淵中之魚,操利器之柄。勿憚徙薪之煩,以省焦爛之費。鼓廉恥之陶冶,明考試之準的。
甜美の進獻には、便ち儀狄を疏遠す。容悅姑息には、便ち欒激を沈没す。子を蒸すの諂媚を除去し、小麋を放走するの仁を親近す。白龍を鑑戒して以て輕脫を停止し、羸〔底本原一字を脫す〕を觀看して以て饜足なきを節制す。六宮の中に人彘の變故を防止し、絶域の外に汗血を求取するを停止す。惡犬を除去して以て酒酗の禍患を遏止し、馬骨を買いて以て追風の駿馬を招致す。軾を憑りて怒蛙に向かいて以て勇を勸勉し(底本「以以」は一「以」字を衍す)、螳螂を避開して以て武を激勵す。公廬の正直の言を聽き、保甲の正直を容納す。腹背上の益處なき毛を剔除し、六翮の虛空を凌越するの用を攬取す。簧の如き巧言を烹掉して以て司原の箴言を安静せしめ、菀渃を折斷して以て梁伯の美を開導す。丹姬を放走して以て婉孌の迷惑を止息し、彌子瑕を斥退して以て餘桃の惑亂を杜絶す。淵中の魚を藏起し、利器の權柄を操る。柴薪を搬開するの麻煩を怕れずして、以て焦爛の耗費を省去す。廉恥の陶冶を鼓動し、考試の準的を明確にす。
怒不越法以加虐,喜不逾憲以厚遺。割情於所愛,而有犯者無赦;辨善於所憎,而有勞者不遺。傾下(原脫一字)以納忠,聞逆耳而不諱。廣乞言於誹謗,雖委抑而不距。掩細瑕而錄大用,忘近惡而念遠功,使夫曹劌孟明有修來之效,魏尚張敞立雪恥之績。身鉤之賊臣,著匡合之弘勳;釋縛之左車,吐止戈之高策。則鵂梟化為鴛鸞,邪偽變成忠貞。芒穎秀於斥鹵,夜光起乎泥濘。剡銳載胥,九功允諧,西面逡巡,以延師友之才;尊事老叟,以敦孝悌之行。
發怒は法度を超過して虐待を施加せず、喜悅は憲章を超過して贈遺を厚加せず。愛する所の人に感情を割捨し、觸犯有るは便ち赦免せず。憎む所の人に善を辨別し、勞績有るは便ち遺漏せず。下を傾け〔底本原一字を脫す〕て以て忠言を接納し、耳に逆らうを聞きても避諱せず。誹謗に向かって廣く言論を求取し、卽使委屈壓抑すとも拒絶せず。細小の瑕疵を掩住して大用を錄用し、近處の惡を忘掉して遠處の功を思念し、曹劌・孟明をして後來を修治するの效驗有らしめ、魏尚・張敞をして恥辱を洗雪するの業績を立てしむ。曾て鉤を射るの仇有る賊臣は、匡合の弘勳を顯出し、縛を解くの李左車は、戈を止めるの高策を吐出せり。是に鵂梟は鴛鸞に化し、邪僞は忠貞に變ず。芒穎は斥鹵の中に秀出し、夜光は泥濘の裡より升起す。鋒銳は皆在り、九功は確實に和諧し、西面して彼らに向かって逡巡し、以て師友の人才を延請し、老者を尊奉して、以て孝悌の德行を敦厚す。
是以淵蟠者仰赴,山棲者俯集。炳蔚內弼,九虎闞外御。政得於上,而物傾於下;惠發乎邇,而澤邁乎遠。明哲宣力於攸蒞,黔庶讓畔於藪澤。爾乃蠲滋章之法令,振大和之清風。蒲輪玉帛,以抽丘園之俊民;元豈畢集,以究論道之損益。減牧羊之多人,反不酤之至醇,張仁讓之闈,杜華競之津,旌義正之操,弘道素之格。使附德者若潛萌之悅甘雨,見歸者猶行潦之赴大川。黎民安之,若綠葉之綴修柯;左衽仰之,若眾星之系北辰。
ゆえに淵中に蟠曲する人は仰頭して赴來し、山上に棲止する人は低頭して聚集す。炳蔚の文采は內に輔弼し、九虎は怒視して外に防御す。政は上に當を得、物は下に傾心す。惠は近處より發出し、澤は遠方に邁向す。明哲は臨莅する所の處に力氣を宣揚し、黎庶は藪澤の裡に田畔を讓出す。是に滋章の法令を免除し、大和の清風を振起す。蒲輪玉帛を以て、丘園裡の俊民を抽取し、元凱は全部聚集し(底本は「豈」と作る、「豈」は「凱」の訛)、以て道を論ずるの損益を窮盡す。牧羊の多余の人を減少し、酒を薄めざるの至醇に返回し、仁讓の門闈を張開し、浮華競争の津渡を堵住し、義正の操守を旌表し、道素の格範を弘揚す。德に歸附する人をして潛藏の萌芽の甘雨を喜悅するが如く、來歸する人をして行潦の大川に奔赴するが如くせしむ。黎民はそれに安定して、綠葉の修長の枝柯に連綴するが如く、左衽はそれを仰望して、衆星の北辰に維繫するが如し。
是以七政不亂象於玄極,寒溫不謬節而錯集。四靈備覿,芝華灼粲。甘露淋漉以霄附,嘉穗婀娜而盈箱。。丹魃逐於神潢,玄厲拘於廣朔。百川無沸騰之異,南箕謐偃禾之暴,物無詭時之凋,人無嗟慨之響。囹圄虛陳,五刑寢厝。正朔所不加,冕紳所不暨,氈裘皮服,山棲海竄,莫不含歡革面,感和重譯,靈禽貢於彤庭,瑤環獻自西極。員首遽善,猶氤氳之順勁風;要荒承指,若響亮之和絕音。誠升隆之盛致,三五之軌躅也。故能固廟祧於罔極,繁本枝乎百世矣。
ゆえに七政は玄極の上に象を亂らず、寒温は節令を錯えずして錯集せず。四靈は皆來りて見え、芝華は灼然粲爛たり。甘露は淋漉として夜空に附着し、嘉穗は婀娜として箱子に裝滿す。旱魃は神潢に趕到せられ、疫厲は廣朔に拘せらる。百川に沸騰の變異なく、南箕は禾を吹倒するの暴風を平息せり、物に時令に違背するの凋落なく、人に嗟慨の聲響なし。囹圄は虛空に陳設し、五刑は擱置して用いず。正朔の加えざる所・冕紳の到らざる所の、氈裘皮服・山棲海竄する人は、歡を含みて面貌を改變し、和氣に感じて輾轉翻譯せざるなし、靈禽は彤庭に貢到し、瑶環は西極より獻上す。圓頭の人は善に向かって急ぎ、氤氳の勁風に順從するが如く、要荒は意旨を奉承して、響亮の絶音に應和するが如し。這實に升隆の盛致・三皇五帝の軌迹なり。ゆえに能く廟祧を極限なきに鞏固し、本枝を百世に繁衍せしむ。
夫根深則末盛矣,下樂則上安矣。馬不調,造父不能超千里之跡;民不附,唐虞不能致同天之美。馬極則變態生,而傾僨惟憂矣;民困則多離叛,其禍必振矣。可不戰戰以待旦乎!可不慄慄而慮危乎!人主不澄思於治亂,不深鑑於亡徵,雖盼百尋之秋毫,耳精八音之清濁,文則琳琅墮於筆端,武則鉤鉻摧於指掌,心苞萬篇之誦,口播濤波之辯,猶無補於土崩,不救乎瓦解也。何者不居其大,而務其細,滯乎下人之業,而暗元本之端也。
根深ければ則ち末梢便ち盛んに、下邊快樂なれば則ち上邊便ち安し。馬は調理せざれば、造父も亦た千里の足迹を超過する能わず。百姓は親附せざれば、唐虞も亦た天と同等の美に達する能わず。馬は極處に用到れば便ち變態を生出し、傾覆すれば便ち憂のみ剩る。百姓は困頓すれば便ち多く離散叛亂し、禍は一定に震動す。能く戰戰兢兢として天亮を等待せざらんや。能く栗栗として危險を憂慮せざらんや。人主は思慮を治亂の上に澄清せず、滅亡の征兆を深く鑑戒せざれば、卽使百尋外の秋毫を盼視し、耳朵は八音の清濁を精辨し、文は則ち琳琅を筆端より墜落し、武は則ち鉤铬を指掌の間に摧折すとも(底本は「铬」と作る、「铬」は近代の元素名にして晋人の書に出現する能わず、上文の「琳琅」と對擧して、指す所は當に兵器なるべし、正字は未だ唯一に判定する能わず)、心裡に萬篇の誦讀を包含し、口裡に濤波の如き辯才を播散すとも、還に土崩に補無く、瓦解を救う能わず。何を爲すか。あの大なる處に處らずして、却ってあの細なるを務求し、下人の行業に滯留して、却って元本の端緒に暗昧なればなり。
誠能事過乎叢,臨深履冰,居安不忘乘奔之戒,處存不廢慮亡之懼,操綱領以整毛目,握道數以御眾才,韓白畢力以折沖,蕭曹竭能以經國,介一人之心致其果毅,謀夫協思進其長算;則人主雖從容玉房之內,逍遙雲閣之端,羽爵腐於甘醪,樂人疲於拚舞,猶可以垂拱而任賢,高枕以責成。何必居茅茨之狹陋,食薄味之大羹,躬監門之勞役,懷損命之辛勤,然後可以惠流蒼生,道洽海外哉!
若し真能く事情を叢脞瑣碎に超過し、深淵に臨み薄冰を履むが如く、安穩の裡に處りて奔に乘るの警戒を忘掉せず、生存の裡に處りて滅亡を憂慮するの懼怕を廢棄せず、綱領を操りて以て毛目を整飭し、道の術數を握着して以て衆才を駕馭し、韓信・白起は力氣を用盡して以て折衝し、蕭何・曹參は才能を用盡して以て國家を經營し、甲士は一人の心を果毅の上に用到し、謀夫は心を齊えて彼らの長算を獻上せば、則ち人主は卽使玉房の內に從容し、雲閣の端に逍遙し、羽爵は甘醪の裡に腐壞し、樂人は拊舞の中に疲倦すとも、還に手を垂れ拱して賢人を任用し、高枕して以て成功を責求す可し。何を必ずしも茅茨の狹陋の裡に住し、薄味の大羹を喫り、親しく監門の勞役を做り、性命を損傷するの辛勤を懷きて、然後乃ち恩惠を蒼生に流し道を海外に洽合せしむる可けんや。
昏惑之君,則不然焉。其為政也,或仁而不斷,朱紫混漫,正者不賞,邪者不罰。或苛猛慘酷,或純威無恩,刑過乎重,不恕不逮。根露基頹,危猶巢幕,而自比於天日,擬固於泰山,謂克明俊德者不難及,小心翼翼者未足算也。於是無罪無辜,淫刑以逞,民不見德,唯戮是聞。
昏惑の君主は、便ちこの如くならず。彼の施政は、或いは仁にして果斷せず、朱紫混漫して、正は賞せず、邪は罰せず。或いは苛猛慘酷にして、或いはただ威嚴を用いて恩なく、刑罰は重きに過ぎ、寬恕せず達せず。根基は裸露し基礎は頹壞し、危險は帷幕の上に巢を作るが如く、然れども自己を天日に比作し、堅固を泰山に比擬して、克明俊德の人は趕上する難からず、小心翼翼の人は計算するに足らずと説く。是に罪なく辜なきに、濫に刑罰を施して意を逞し、百姓は德を見ず、ただ殺戮を聞くのみ。
官人則以順志者為賢,擢才則以近習者為前。上宰鼎列,委之母后之族;專斷顧問,決之阿諂之徒。所揚引則遠九族外親,而不簡其器幹;所信仗則在於瑣才曲媚,而憎乎方直;所抑退則從雷同,而不察之以情;所寵進則任美談,而不考其績用。掌要治民之官,御戎專征之將,或貪汙以壞所在矣,或營私以亂朝廷矣,或懦弱以敗庶事矣,或恇怯以失軍利矣。終於不覺,不忍黜斥,猶加親委,冀其晚效。器小任大,遂及於禍。良才遠量無援之士,或披褐而朝隱,或沈淪於窮否,懷道括囊,民力莫由,陵替之災,所以多有也。
官員を任用すれば便ち自己の心意に順從するを以て賢と當て、人才を提拔すれば便ち近習を前面に放つ。上宰と鼎列は、母后の族人に委托す。專斷と顧問は、阿諛諂媚の徒に決定す。表揚引薦する所は便ち遠く九族外親に及ぶも、然れども彼らの器幹を簡選せず。信任依仗する所は便ち瑣才曲媚に在るも、然れども方直を憎惡す。壓抑斥退する所は便ち雷同に聽從するも、然れども實情を拿りて察せず。寵幸進用する所は便ち美談に聽任するも、然れども彼らの績用を考核せず。機要を執掌し百姓を治理する官・戎事を統率し征伐を專事する將は、或いは貪污して在る所の地方を敗壞し、或いは私を營して朝廷を擾亂し、或いは懦弱して庶事を敗壞し、或いは恇怯して軍利を失去す。終に覺悟せず、黜斥するを忍びず、還に親近委任を加えて、彼の晚年に效を見るを指望す。器小にして大を任ずれば、是に禍の上に落つ。良才遠量にして援助なき士は、或いは褐を披きて朝廷上に隱れ、或いは窮困否塞の裡に沈淪し、道を懷きて括嚢の如く顯さず、民力は發揮する無く、陵夷替代の災は、多く有る所以なり。
又經典規戒,弗聞弗覽,玩弄褻宴,是耽是務。高樓觀而下道德,廣苑囿而狹招納,深池沼而淺恩信,悅狗馬而惡蹇諤,貴珠玉而賤智略,豐綺紈而約惠澤,緩賑濟而急聚斂,勤畋弋而忽稼穡,重兼併而輕民命,進優倡而退儒雅,厚嬖倖而薄戰士,流聲色而忘庶事,先酣遊而後聽斷,數苦役而疏犒賜,工造費好不急之器,圈聚食肉靡谷之物。然則危亡不可以怨天,微弱不可以尤人也。夫吉凶由己,湯武豈一哉
また經典と規戒は、聽かず看もせず、褻狎宴樂を玩弄し、ただ沈溺し、ただ從事す。樓觀を高く建てて道德を却って低く看、苑囿を廣く拓いて招納を却って窄く看、池沼を深く挖って恩信を却って淺く看、狗馬を喜悅して蹇諤を厭惡し、珠玉を貴重して智略を賤視し、綺紈を豐厚ならしめて惠澤を儉約ならしめ、賑濟に緩くして聚斂に急く、畋獵に勤めて稼穡を忽略し、兼倂を看重して民命を看輕し、優倡を進用して儒雅を斥退し、嬖幸を厚待して戰士を薄待し、聲色に流向して庶事を忘掉し、先に酣游して後に聽斷し、苦役は頻繁なるも犒賜は疏く、工匠の造作は耗費し、不急の器物を愛好し、圈裡に肉を喫し穀を耗費する動物を聚集す。この如くなれば、危亡は天を怨む可からず、微弱は人を尤める可からず。吉凶は自己に由り、湯武は豈にただ一個のみならんや。
昔周文掩未埋之骨,而天下稱其仁。殷紂剖比干之心,而四海疾其虐。望在具瞻,譭譽尤速。得失之舉,不在多也。凡譽重則蠻貊歸懷,而不可以虛索也;毀積即華夏離心,而不可以言救也。是以小善雖無大益,而不可不為;細惡雖無近禍,而不可不去也。
從前周文王は未だ埋めざる骨を掩埋し、天下は彼を仁と稱せり。殷紂は比干の心を剖開し、四海は彼の虐を疾恨せり。望まるる人は衆目の瞻仰の下に在り、毁譽は尤も迅速なり。得失の擧動は、多きに在らず。凡是稱譽重ければ、蠻貊も歸懷す、然れども空虚に求取する可からず。毁謗積もれば、華夏も心を離る、然れども話を以て挽救する可からず。ゆえに小善は大益無しと雖も、然れども爲さざる可からず。細惡は近禍無しと雖も、然れども去掉せざる可からず。
若乃肆情縱慾,而不與天下共其樂,故有憂莫之恤也。削基憎峻,而不覺下墮則上崩,故傾頹莫之扶也。於是轡策去於我手,神物假而不還,力勤財匱,民不堪命,眾怨於下,天怒於上,田成盜全齊於帷幄,姬昌取有二於西鄰,陳吳之徒,奮劍而大呼,劉項之倫,揮戈而飈駭,雲梯乘於百雉之上,皓刃交於象魏之下,飛鋒內薦,禁兵外潰,而乃憂悲以思邈世之大賢,擁彗以延巖棲之智士,慕伊呂於嵩岫,招孫吳於草萊,拜昌言而無所,思嘉算而莫問,猶大廈既燔,而運水於滄海,洪潦凌室,而造船於長洲矣。
情欲を放肆するも、然れども天下とその樂を共享せざれば、ゆえに憂有りて體恤する人なし。基礎を削薄して高峻を憎惡し、然れども下邊墮ちれば上邊崩るるを覺えず、ゆえに傾頽して扶持する人なし。是に轡策は我が手裡より離れ、神物は借出して再び歸還せず、力氣勤めて財用匱乏し、百姓は命令を承受する能わず、衆怨は下に在り、天怒は上に在り、田成は帷幄の中に整個の齊を盗走し、姬昌は西鄰より殷の二分を取走り、陳勝・吳廣の一類人は劍を奮いて大呼し、劉邦・項羽の一類人は戈を揮って飆風の如く驚駭し、雲梯は百雉の上に登り、白刃は象魏の下に相交り、飛鋒は內に薦至し、禁兵は外に潰散す、這乃ち憂悲して邈世の大賢を思念し、掃帚を拿着して以て巖栖の智士を延請し、嵩岫に伊尹・呂尚を羨慕し、草萊に孫吳を招請し、昌言を拜求するも尋ぬる處なく、嘉算を思索するも問う可き人なし、大廈已に焚燒するに、却って滄海に往きて水を運び、洪潦は室中に漫るに、却って長洲に往きて船を造るが如し。
夫巍巍之稱,不可驕吝構;而東嶽之封,未易以恣欲修也。上聖兼策載馳,猶懼不逮前;而庸主緩步按轡,而自以為過之。或於安而思危,或在嶮而自逸。或功成治定,而匪怠匪荒,或綴旒累卵,而不覺不寤。不有辛癸之沒溺,曷用貴欽明之高濟哉念茲在茲,庶乎庶乎!
巍巍の稱號は、驕吝を靠りて構成する可からず。東岳の封禪は、恣欲を靠りて修成する容易ならず。上聖は馬鞭を并せて奔馳しても、還に前人に趕不上るを怕る。庸主は步を緩め轡を按じても、却って自ら以て超過したりと爲す。或いは安穩の裡に危險を思念し、或いは險處に自己安逸す。或いは功成治定して、然れども怠惰せず荒廢せず。或いは冠冕の線に連り累る卵の如く、然れども覺えず醒寤せず。辛癸の如き没溺なければ、何處か欽明の高濟を看重するを用いんや。茲を念じ茲に在り、差不多了、差不多了。
臣節卷第六
臣節巻第六
抱朴子曰:昔在唐虞,稽古欽明,猶俟群后之翼亮,用臻巍巍之成功。故能熙帝之載,庶績欺凝,四門穆穆,百揆時序,蠻夷無猾夏之變,阿閣有鳴鳳之巢也。喻之元首,方之股肱,雖有尊卑之殊,邈實若一體之相賴也。
抱朴子曰く、從前唐虞に在りて、古代を考核し敬慎明察し、還に群后の輔翼光大を等待して、乃ち巍巍の成功に達せり。ゆえに能く帝の事業を熙明し、各種の業績は是に凝定せり(底本は「欺」と作る、「欺」は「其」の訛)、四門は穆穆として、百揆は時に按じて序有り、蠻夷に華夏を擾亂するの變故なく、阿閣に鳴鳳の巢有り。元首に比喻し、股肱に比方す、尊卑の差別有ると雖も、邈遠に看れば實に一體にして互相依賴するが如し、と。
君必度能而授者,備乎覆食束之敗;臣必量才而受者,故無流放之禍。夫如影如響,俯伏惟命者,偷容之屍素也。違令犯顏,蹇蹇匪躬者,安上之民翰也。先意承指者,佞諂之徒也;匡過弼違者,社稷之鯁也。必將伏斧金質而正諫,據鼎鑊而盡言。忠而見疑,諍而不得者,待放可也;必死無補,將增主過者,去之可也。
君主は一定に才能を量度して再び授予するは、傾覆・束手の敗局を防備するが爲なり。臣は一定に才能を估量して再び接受するは、ゆえに流放の禍なきなり。影・回響の如く俯伏してただ命令を聽くは、容身を偷取する尸位素餐なり。令に違い顏を犯し、蹇蹇として自身を顧みざるは、主上を安定する民の骨干なり。意旨に先んじて迎合するは、佞諂の徒なり。過錯を匡正し違失を輔弼するは、社稷の鯁直なり。一定に斧質の上に伏して正諫し、鼎鑊を據りて話を説盡さん。忠なるも疑はれ、諍諫するも行を得ざるは、放逐を等待す可し。一定に死しても補益なく、將に主上の過錯を增加せんとするは、離開す可し。
其動也,匪訓典弗據焉;其靜也,匪憲章弗循焉。請託無所容,申繩不顧私。明刑而不濫乎所恨,審賞而不加乎附己。不專命以招權,不含洿而談潔。進思盡言以攻謬,退念推賢而不蔽。夙興夜寐,戚庶事之不康也;儉躬約志,若策奔於薄冰也。
彼の行動は、訓典に非ざれば依據せず。彼の靜止は、憲章に非ざれば遵循せず。請托は容る可き處なく、繩墨を申明して私を顧みず。刑罰を顯明にして所恨の人の身上に濫施せず、賞賜を審愼にして自己に依附する人に加給せず。命令を專擅して以て權柄を招攬せず、污濁を含みて清潔を談ぜず。進めば便ち話を説盡して以て謬誤を攻治せんと想い、退けば便ち賢人を推擧して遮蔽せざるを思念す。早く起き夜に睡り、庶事の安康せざるを憂戚す。自己節儉・志向約束して、薄冰の上に奔馬を鞭策するが如し。
納謀貢士,不宣之於口;非義之利,不棲之乎心。立朝則以砥矢為操,居己則以羔羊為節。當危值難,則忘家而不顧命。攬衡執銓,則平懷而無彼此。儀蕭曹之指揮,羨張陳之奇畫,追周勃之盡忠,準二鮑之直視,蹈嬰弘之節叢,執恬毅之守終,甘此離紀炙身之分,戒彼韓英失忠之禍。出不辭勞,入不數功,歸勳引過,讓以先下,專誠祗栗,恆若天威之在顏也;宵夙虔竦,有如湯鑊之在側也。
計謀を接納し士人を貢進するに、口上に宣揚せず。義に合せざる利は、心裡に棲止せず。立朝すれば便ち砥矢を當てて操守と爲し、自己に對待すれば便ち羔羊を當てて節度と爲す。危難に面對すれば、便ち家を忘掉して性命を顧みず。衡を攬り銓を執れば、便ち胸懷を平にして彼此なし。蕭何・曹參の指揮を取法し、張良・陳平の奇畫を羨慕し、周勃の盡忠を追慕し、二鮑の直視に比准し、嬰・弘の節操を踐履し、恬・毅の守終を執守し、比干・紀信の如き身を炙るの本分に甘心し、韓信・英布の忠を失うの禍を警戒す。出でて勞苦を辭せず、進みて功勞を計數せず、勳勞を別人に歸し過錯を自己に引き、謙讓して先に下に居り、專一誠敬して戰栗し、常常に天威の臉上に在るが如し。晝夜虔敬竦懼して、湯鑊の旁邊に在るが如し。
負荷寄託,則以伊周為師表;宣力四方,則以吉召為軌儀;送往視居,則竭忠貞而不辶回;搏噬幹紀,則若鷹鸇之鷙鳥雀;蕃捍疆場,則慕魏絳李牧之高蹤;蒞眾撫民,則希文翁信臣之德化。夫忠至者無(原脫一字)以為國,況懷智以迷上乎義督者滅祀而無憚,況黜辱之敢辭乎故能保勞貴以顯親,托良哉於輿歌。昆吾彝器,能者鐫勳。皋陶后稷,亦何人哉!
寄托を擔負すれば、便ち伊尹・周公を以て師表と爲し、四方に向かって力氣を宣揚すれば、便ち吉甫・召公を以て軌儀と爲し、送往する・在世を看顧するは、便ち忠貞を竭盡して回遑せず(底本「辶回」は「辶」は偏旁の殘留)。搏擊吞噬し紀綱を干犯するは、便ち鷹鸇の鳥雀を搏擊するが如し。蕃衛捍御して疆場するは、便ち魏絳・李牧の高踪を仰慕す。衆人に臨莅し百姓を安撫するは、便ち文翁・召信臣の德化を希求す。忠は極處に到る人は〔底本原一字を脫す〕して以て國家を爲す、況んや智を懷きて主上を迷惑するをや。義は督責せらるる人は祀を滅すも忌憚なく、況んや貶黜侮辱して敢えて推辭せんや。ゆえに能く勞苦と貴とを保全して以て親を顯揚し、「良哉」を輿人の歌裡に寄托す。昆吾の彝器は、才能有る人は勳勞を镌刻す。皋陶・后稷は、又什麼樣の人ならんや。
抱朴子曰:人臣勳不弘,則恥俸祿之虛厚也;績不茂,則羞爵命之妄高也。履信思順,天人攸贊;畏盈居謙,乃終有慶。舉足則蹈道度,抗手則奉繩墨,褒崇雖淹留,而悔辱亦必遠矣。若夫損上以附下,廢公以營私,阿媚曲從,以水濟水,君舉雖謬,而諂笑贊善。數進玩好,陷主於惡。巧言毀政,令色取悅,上蔽人主之明,下杜進賢之路;外結出境之交,內樹背公之黨。雖才足飾非,言足文過,專威若趙高,擅朝如董卓,未有不身膏剡鋒,家糜湯火者也。然而愚瞽舍正即邪,違真侶偽,親覽傾僨,不改其軌,殃禍之集,匪降自天也。
抱朴子曰く、人臣は勳勞弘大ならざれば、便ち俸祿の憑空に優厚なるを恥とし、業績茂盛ならざれば、便ち爵命の憑空に高きを羞とす。誠信を履行し和順を思念するは、天人の贊する所なり。盈滿を害怕し謙裡に處するは、乃ち終竟慶有り。脚を擡げれば便ち道の法度を踏着し、手を擧げれば便ち繩墨を奉行す、褒崇卽使淹留すとも、悔辱も亦た一定に遠離せん。上を減損して以て下に依附し、公を廢棄して以て私を經營し、阿媚曲從し、水を以て水に增加するに至りては、君主の擧動は謬誤なると雖も、却って諂笑贊美す。屢次玩好を進獻して、主上を惡の裡に陷進せしむ。巧言は政を毁壞し、令色は取悅し、上は人主の明を遮蔽し、下は賢人を進用するの路を堵住す。外に出境の交情を結交し、內に公に背離するの黨を樹立す。卽使才能は過錯を文飾するに足り、言語は過失を掩飾するに足るとも、趙高の如く威嚴を專擅し、董卓の如く朝廷に權を擅するは、自身鋒刃に膏涂し、家室は湯火の裡に糜爛せざるなし。然れども愚瞽は正を舍棄して邪に就向し、真に違背し僞に伴侶し、親眼に傾覆を看見するも、然れども彼らの軌道を改せず、殃禍の聚集は、天上より降下するに非ず、と。
抱朴子曰:臣喻股肱,則手足也。履冰執熱,不得辭焉。是以古人方之於地,掘之則出水泉,樹之則秀百穀;生者立焉,死者入焉。功多而不望賞,勞瘁而不敢怨。審識斯術,保己之要也。
抱朴子曰く、臣は股肱に比喻せられれば、即ち手足なり。冰を踏着し熱を拿着するは、推辭するを得ず。ゆえに古人は彼を地に比方せり、それを挖掘すれば便ち泉水を流出し、それを種植すれば便ち各種の穀物を秀出す。活くる人はその上に立ち、死せる人はその裡に進入す。功勞多くして賞を指望せず、勞瘁するも怨むを敢えてせず。審察してこの方法を認識するは、自己を保全するの要領なり、と。
抱朴子曰:臣職分則治,統廣則多滯。非賁獲之壯,不可以舉兼人之重;非萬夫之特,不可以總異官之局。韓侯所以罪侵冒之典,子元所以懼不勝之禍也。若乃才力絕倫,文武兼允,入有腹心之高算,出有折沖之遠略,雖事殷而益舉,兩循而俱濟,舍之則彝倫斁,委之而無其人者,兼之可也;非此器也,宜自忖引,轅若載重,鮮不及矣。常人貪榮,不慮後患,身既傾溺,而禍逮君親,不亦哀哉!人皆辭斧斤所未開,而莫讓攝官所不堪。嗟乎!陳李所以作戒於力少,而子房所以高蹈於挹盈也。
抱朴子曰く、臣の職分は清楚なれば便ち治理し、統轄太に廣ければ便ち多く滯留す。賁・獲の如き壯に非ざれば、兼人の重を擧起する可からず。萬夫の中の特出に非ざれば、同じからざる官職の局守を總攬する可からず。這即ち韓侯の侵冒する典制を怪罪し、子元の擔當し得ざるの禍を懼怕したる所以の緣故なり。才力絶倫にして、文武兼備し、入朝すれば腹心の高算有り、外出すれば折衝の遠略有るに至りては、卽使事情殷繁なるも更加に辦起する能く、兩方面皆遵循して一倂に濟成し、彼を舍棄すれば便ち彝倫敗壞し、委托するにあの如き人なきのは、兼管す可し。這種の器能に非ざれば、便ち自己忖度して引退すべく、車轅もし載ること太に重ければ、禍に達せざる少なし。常人は榮を貪り、後患を考慮せず、自身已に傾溺して、禍は却って君親に延及す、不亦悲哀ならんや。人は皆斧斤の未だ劈開せざるを推辭するも、却って攝官の擔當し得ざるを辭讓するなし。嗟乎、這即ち陳・李の力少の上に鑑戒を作成し、而も子房の挹盈の上に高蹈したる所以の緣故なり、と。
良規卷第七
良規巻第七
抱朴子曰:翔集而不擇木者,必有離罻之禽矣。出身而不料時者,必有危辱之士矣。時之得也,則飄乎猶應龍之覽景雲;時之失也,則蕩然若巨魚之枯崇陸。是以智者藏其器以有待也,隱其身而有為也。若乃高巖將霣,非細縷所綴;龍門沸騰,非掬壤所遏。則不苟且於乾沒,不投險於僥倖矣。
抱朴子曰く、飛翔聚集して樹木を選擇せざるは、一定に網羅を離開する禽鳥有り。身を獻して時世を估量せざるは、一定に危辱の士有り。時を得れば、便ち飄然として應龍の景雲を覽觀するが如し。時を失えば、便ち蕩然として巨魚の高陸に枯するが如し。ゆえに智者はその器を藏起して以て等待する所有り、自身を隱藏して作爲有り。高巖の將に墜落せんとするに至りては、細縷の連綴する能くする所に非ず。龍門沸騰するは、一捧の土の遏止する能くする所に非ず。便ち僥倖して利を求むる上に苟且せず、險を僥倖に投與せず、と。
抱朴子曰:周公之攝王位,伊尹之黜太甲,霍光之廢昌邑,孫綝之退少帝,謂之舍道用權,以安社稷。然周公之放逐狼跋,流言載路;伊尹終於受戮,大霧三日;霍光幾於及身,家亦尋滅,孫綝桑蔭未移,首足異所。皆笑音未絕,而號咷已及矣。
抱朴子曰く、周公は王位を攝し、伊尹は太甲を貶黜し、霍光は昌邑を廢し、孫𬘭は少帝を斥退す、捨常道を棄て權變を使用して、以て社稷を安定すと稱す。然れども周公は放逐せられて狼狽跋扈し、流言は道路に載滿せり。伊尹は終に戮を受け、大霧三天せり。霍光は幾乎禍は自身に及び、家も亦た接いで滅亡せり。孫𬘭は桑蔭未だ移らざるに、頭と脚は已に一處に在らず。皆笑聲未だ斷えざるに、號咷已に到來せり、と。
夫危而不持,安用彼相爭臣七人,無道可救。致令王莽之徒,生其奸變,外引舊事以飾非,內包豺狼之禍心,由於伊霍,基斯亂也。將來君子,宜深茲矣。夫廢立之事,小順大逆,不可長也。召王之譎,已見貶抑。況乃退主,惡其可乎!此等皆計行事成,徐乃受殃者耳。若夫陰謀始權,而貪人賣之,赤族殄祀;而他家封者,亦不少矣。
危うくして扶持せざれば、あの輔相を要して什麼を做さん。争臣七人あれば、無道も亦た挽救す可し。以致王莽の一類人をして、その奸變を生出せしめ、外に舊事を引用して以て過錯を文飾し、內に豺狼の禍心を包含し、伊尹・霍光より而來りて、這種の亂に基礎を打下せり。將來の君子は、應に深く此を以て戒と爲すべし。廢立の事は、小處は順い大處は逆う、助長する可からず。王を召するの譎詐は、已に貶抑せらるるを見えり。況んや主上を斥退するは、あの惡豈に可ならんや。這一類は皆計謀實行し事情成功して、慢慢に乃ち殃を受くるのみ。陰謀剛く權を用い始むるに至りては、貪人は便ち彼を出賣し、滅族絶祀す。而も別家の封を受くるも、亦た少からざるなり。
若有奸佞翼成驕亂,若桀之干辛推哆,紂之崇惡來,厲之黨也,改置忠良,不亦易乎除君側之眾惡,流兇族於四裔,擁兵持疆,直道守法,嚴操柯斧,正色拱繩,明賞必罰,有犯無赦,官賢任能,唯忠是與,事無專擅,請而後行;君有違謬,據理正諫。戰戰競競,不忘恭敬,使社稷永安於上,己身無患於下。功成不處,乞骸告退,高選忠能,進以自代,不亦綽有餘裕乎何必奪至尊之璽紱,危所奉之見主哉!
若し奸佞有りて輔翼して驕亂を成就する有らば、桀の干辛・推哆、紂の崇侯・惡來、厲王の黨羽の如く、改換して忠良と爲さば、不亦容易ならんや。君側の衆惡を除去し、凶族を四裔に流放し、兵力を擁有し疆土を把持し、直道法を守り、斧柯を嚴操し、正色して繩墨を拿着し、賞罰は必ず行い、犯有れば便ち赦免せず、賢能を任用し、ただ忠と在り、事情は專擅なく、請示して後に實行す。君主に違謬有れば、理を據りて正諫す。戰戰兢兢として(底本は「競」と作る、「競」は「兢」の訛)、恭敬を忘掉せず、社稷をして上に永遠に安定せしめ、自身は下に禍患なからしむ。功成して處らず、骸骨を請い告退し、高く忠能を選拔し、引進來りて以て自己を替代せしむれば、不亦綽として餘裕有らんや。何を必ずしも至尊の璽紱を奪取し、奉事する所の現任主上を危害せんや。
夫君,天也,父也。君而可廢,則天亦可改,父亦可易也。功蓋世者不賞,威震主身危。此徒戰勝攻取,勳勞無二者,且猶鳥盡而弓棄,兔訖而犬烹。況乎廢退其君,而欲後主之愛己,是奚異夫為人子而舉其所生捐之山谷,而取他人養之,而云我能為伯瑜曾叄之孝,但吾親不中奉事,故棄去之。雖日享三牲,昏定晨省,豈能見憐信邪
君は、天なり、父なり。君もし廢す可ければ、則ち天も亦た改す可く、父も亦た換う可し。功は世を蓋う人は賞せられず、威は主を震う人は自身危し。這些はただ戰勝攻取し勳勞第二なき人にして、なお鳥盡きて弓は抛棄せられ、兔完して狗は烹せらる。況んや自己の君を廢退して、却って後主の自己を愛するを欲するは、這と人の子と爲りて自己の生む所の人を擧げて山谷に丟棄し、却って別人を取りて以て奉養し、還に我は伯瑜・曾參の孝を爲す能く(底本は「叁」と作る、「叁」は「參」の訛)、ただ我の親は奉事するに適合せず、ゆえに抛棄離開すと説くとは、什麼の分別有らん。卽使每日三牲を享用し、黃昏安定し早晨省視すとも、豈に憐憫せられ信任せられんや。
霍光之徒,雖當時增班進爵,賞賜無量,皆以計見崇,豈斯人之誠心哉夫納棄妻而論前婿之惡,買僕虜而毀故主之暴,凡人庸夫,猶不平之。何者重傷其類,自然情也。故樂羊以安忍見疏,而秦西以過厚見親。而世人誠謂湯武為是,而伊霍為賢,此乃相勸為逆者也。
霍光の一類人は、當時班次を增加し爵位を進升し、賞賜限量なきと雖も、皆計謀を以て推崇せられたるに因る、何處か這些の人の誠心ならんや。抛棄せられたる妻を接納して却って前婿の惡を談論し、僕虜を買來して却って舊主の暴を毁謗するは、凡人庸夫も、なお平ならず。何を爲すか。自己の同類を深く傷るは、自然の情なり。ゆえに樂羊は殘忍に安んずるに因りて疏遠せられ、秦西巴は過厚なるに因りて親近せられり。然れども世人は眞誠に湯武を對と認め、伊尹・霍光を賢と認む、這即ち互相勸勉して逆を做る人なり。
又見廢之君,未必悉非也。或輔翼少主,作威作福,罪大惡積,慮於為後患;及尚持勢,因而易之,以延近局之禍。規定策之功,計在自利,未必為國也。取威既重,殺生決口。見廢之主,神器去矣,下流之罪,莫不歸焉。雖知其然,孰敢形言無東牟朱虛以致其計,無南史董狐以證其罪,將來今日,誰又理之獨見者乃能追覺桀紂之惡不若是其惡,湯武之事不若是其美也。
又、廢せられたる君は、未必皆對ならざるなり。或いは少主を輔翼して、威を作り福を作り、罪大にして惡積み、後患と成るを憂慮す。還に勢を把持するに趁りて、因りて彼を改換し、以て近局の禍を延長せんとす。策を規定するの功勞は、計謀は自利に在り、未必國家を爲すに非ず。取得の威已に重く、殺生は口に決定す。廢せられたる主は、神器は離開し、下流の罪は、彼の身上に歸せざるなし。卽使この如くを知るとも、誰か敢えて言に形さん。東牟・朱虛なくして以て彼の計を實現せず、南史・董狐なくして以て彼の罪を證明せず、將來は今日を看て、誰か又來りて理清せん。獨見の人は乃ち追い發覺して桀紂の惡はこの如く惡ならず、湯武の事はこの如く美ならざるを。
方策所載,莫不尊君卑臣,強幹弱枝。《春秋》之義,天不可讎。大聖著經,資父事君。民生在三,奉之如一。而許廢立之事,開不道之端,下陵上替,難以訓矣。俗儒沈淪鮑肆,困於詭辯,方論湯武為食馬肝,以彈斯事者,為不知權之為變,貴於起善而不犯順,不謂反理而叛義正也。
方策の記載する所は、君を尊し臣を卑し幹を強し枝を弱しせざるなし。《春秋》の義は、天は以て仇と當てる可からず。大聖は經を著して、父を憑藉して以て君に事奉す。民生は三に在り、それらに事奉すること同一事の如し。然れども廢立の事を許可し、不道の端緒を開出し、下は上を陵り替はる、以て訓と爲すは難し。俗儒は鮑肆の裡に沈淪して、詭辯に圍困せられ、乃ち湯武を馬肝を喫うと論成し、取り來りて以て這件の事を彈劾する人は、權は變を知らざると當て、貴は善を興起して順に觸犯せざるに在り、道理に違反して義を背叛するの正と謂わざるを。
而前代立言者,不析之以大道,使有此情者加夫立剡鋒之端,登方崩之山,非所以延年長世,遠危之術。雖策命暫隆,弘賞暴集,無異乎犧牛之被紋繡,淵魚之愛莽麥,渴者之資口於雲日之酒,飢者之取飽於鬱肉漏脯也。而屬筆者皆共褒之,以為美談,以不容誅之罪為知變,使人悒而永慨者也。
然れども前代に言を立つる人は、大道を拿りて剖析せず、這種の心情有る人をして更加に鋒刃の端の上に立ち、將に崩れんとする山に登るが如くせしめ、以て年壽を延長し長遠に危險を離開するの方法と爲さず。卽使策命暫時隆盛にして、弘賞突然聚集すとも、犧牛の紋繡を披着し、淵魚の莽麥を喜愛し、渴する人は雲日之酒に向かって一口を求め、饑える人は郁肉漏脯に向かって飽を求むると、分別なし。然れども筆を執る人は皆共同に褒奬して、美談と當て、誅を容れざるの罪を以て變を知ると當て、人をして悒郁して永遠に慨歎せしむ。
或諫餘以此言為傷聖人,必見譏貶。餘答曰:“舜禹歷試內外,然後受終文祖。雖有好傷,聖人者豈能傷哉!昔人嚴延年廷奏霍光為不道,於時上下肅然,無以折也。況吾為世之誡,無所指斥,何慮乎常言哉!”
或る人は我を勸めてこの話は聖人を傷害し、一定に譏貶せられんとす。我回答して曰く、舜禹は內外に歷試せられ、然後文祖の處に於て終を受けたり。卽使傷害を喜歡する人有るとも、聖人は豈に傷害せらるる能けんや。從前嚴延年は朝廷上に霍光を不道と奏し、當時上下肅然として、駁倒す可き話なかりき。況んや我は當世の爲に誡を作る、斥する所なし、何を必ずしも平常の話を顧慮せんや、と。
時難卷第八
時難巻第八
抱朴子曰:盡節無隱者,可為也。若夫使言必納而身必安者,須時。時之否也。夫姦凶之徒妒所不逮,擁上抑下,惡直醜正,憂畏公方之彈擊邪枉,是以務除勝己以紓其誅。明主不世而出,庸君迷於皂白,既不能受用忠益,或乃宣洩至言。於是弘恭石顯之徒,飾巧辭以構象似,假至公以售私奸。令獻長生之術者,反獲立死之罪;進安上之計者,旋受危身之禍。故曰:非言之難也,談之時難也。
抱朴子曰く、節操を隱藏なきに盡くすは、做到する能くする所なり。話をして一定に接納せられ自身一定に安定ならしめんに至りては、必ず時を等待せねばならず。時對ならざるの時は、奸凶の徒は自己の趕不上る所を妒忌し、上を擁戴し下を壓抑し、正直を厭惡し正を醜化し、公正方直の邪枉を彈擊するを憂懼す、ゆえに務めて自己に勝過する人を除掉して以て將に誅せられんとするの危險を紓解せんとす。明主は每世代に出現するに非ず、庸君は黑白の上に迷惑し、既に忠益を受用する能わず、或いは竟に至言を宣泄し出去せん。是に弘恭・石顯の一類人は、巧辭を文飾して以て象似を構成し、至公を假借して以て私奸を出售す。長生の術を獻上する人をして、却って立刻死に往くの罪を獲得せしめ、主上を安定するの計を進上する人をして、轉眼に自身に危及するの禍を承受せしむ。ゆえに説く、話するは難に非ず、談ずるの時難なり、と。
夫以賢說聖,猶未必即受,故伊尹幹湯,至於七十也。以智告愚,則必不入,故文諫紂,終不納也。言不見信,猶之可也。若乃李斯之誅韓非,龐涓之刖孫臏,上官之毀屈平,袁盎之中晁錯,不可勝載也。為臣不易,豈一途也哉!蓋往而不反者,所以功在身後;而藏器俟時者,所以百無一遇。高勳之臣曠代而一有;陷冰之徒,委積乎史策。悲夫,時之難遇也,如此其甚哉!由茲以言,吾知渭濱呂尚之儔,巖間傅說之屬,懷其王佐之器,抱其邈世之材,秉竿擁築,老死於庸兒之伍,而遂不遭文王高宗者,必不訾矣。
賢を以て聖を説服するも、還に未必立刻接受せず、ゆえに伊尹は湯に干謁して、七十次に到れり。智を以て愚に告ぐるは、便ち一定に進入せず、ゆえに比干は紂を諫めて、終に接納せられず。話は信任せられずとも、も亦た可なり。李斯の韓非を誅殺し、龐涓の孫臏を刖し、上官の屈平を毁謗し、袁盎の晁錯を中傷するに至りては、記載は完き能わず。臣を做るは容易ならず、豈にただ一條の路のみならんや。一ち去りて返回せざる人は、ゆえに功勞は身死の後に在り。器能を藏起して時を待つ人は、ゆえに一百個に一個も遇わず。高勳の臣は曠代に乃ち一個有り。冰の裡に陷進する一類人は、史策の上に堆積す。悲夫、時の遇い難きは、竟にこの如く嚴重なり。此より説けば、我は渭濱の呂尚の一類人・巖間の傅説の一類人、王佐の器能を懷き、邈世の材を抱き、竿を拿着し筑を擁して、庸兒の行列の裡に老死し、然れども終に文王・高宗に遇わざるは、一定に多くして計量する能わざるを知る。
官理卷第九
官理巻第九
抱朴子曰:騄駬之騁逸跡,由造父之御也;禹稷之序百揆,遭唐虞之主也。故能不勞而千里至,揖讓而頌聲作。若乃臧否之乘驌驦,殷辛之臨三仁,欲長驅輕騖,則轡急轅逼,欲盡規竭忠,則禍如發機。所以車傾於險途,國覆而不振也。故良駿敗於拙御,智士躓於暗世。仲尼不能止魯侯之出,晏嬰不能遏崔杼之亂。其才則是,主則非也。
抱朴子曰く、駿馬の逸迹を馳騁するは(底本は「𫘧駬」と作る)、造父の駕馭に由るなり。禹稷の百揆を叙次するは、唐虞の君主に遇上するなり。ゆえに能く勞せずして千里に到達し、揖讓して頌聲興起す。臧否が駿馬に乘坐し、殷辛が三仁に臨視するに至りては、長驅輕馳せんと欲すれば、轡は便ち急く轅は便ち逼り、規諫を盡くし忠を竭盡せんと欲すれば、禍は便ち機括を扳動するが如く到來す。ゆえに車は險途の上に傾覆し、國は覆敗して再び振う能わず。ゆえに良駿は拙劣の御者の手裡に敗れ、智士は暗世に跌く。仲尼は魯侯の國を出づるを阻止する能わず、晏嬰は崔杼の亂を遏止する能わず。彼らの才是れ對なれども、主は却って對ならず、と。
