仏果圜悟禅師碧巌録 巻第六終
盡機不成瞎(只道得一半。也要驗他過。言猶在耳)按牛頭吃草(失錢遭罪。半河南半河北。殊不知傷鋒犯手)
機を尽くして瞎と成らず(只だ一半を道い得たり。も彼の過を験めんと要す。言猶お耳に在り)牛頭を按えて草を喫わしむ(銭を失いて罪に遭う。半ば河南半ば河北。殊に知らず鋒を傷け手を犯すを)
四七二三諸祖師(有條攀條。帶累先聖。不唯只帶累一人)
四七二三の諸祖師(条有らば条に攀じ、先聖を帯累す。唯だ只だ一人を帯累するのみならず)
寶器持來成過咎(盡大地人換手搥胸。還我拄杖來。帶累山僧也出頭不得)
宝器持ち来たりて過咎と成る(大地の人を尽くして手を換えて胸を捶く。我に拄杖を還せ。山僧を帯累しても頭を出づるを得ず)
過咎深(可殺深。天下衲僧跳不出。且道深多少)無處尋(在爾腳跟下。摸索不著)
過咎深し(殺すべき深し。天下の衲僧跳び出でず。且く道え深きこと多少)尋ぬるの処無し(爾の脚跟の下に在り。摸索し著けず)
天上人間同陸沈(天下衲僧一坑埋卻。還有活底人麼。放過一著。蒼天蒼天)
天上人間同じく陸に沈む(天下の衲僧一坑に埋却せん。還た活きたるの人有るか。一着を放過す。蒼天蒼天)
廠(齒兩切馬屋無壁也)眨(側洽切目動也)
廠(歯両切、馬屋壁無きなり)眨(側洽切、目の動くなり)
盡機不成瞎。長慶雲。盡其機來。還成瞎否。保福雲。道我瞎得麼。一似按牛頭吃草。須是等他自吃始得。那裡按他頭教吃。雪竇恁麼頌。自然見得丹霞意。四七二三諸祖師。寶器持來成過咎。不唯只帶累長慶。乃至西天二十八祖。此土六祖。一時埋沒。釋迦老子。四十九年。說一大藏教。末後唯傳這箇寶器。永嘉道。不是標形虛事褫。如來寶杖親蹤跡。若作保福見解。寶器持來。都成過咎。過咎深無處尋。這箇與爾說不得。但去靜坐。向他句中點檢看。既是過咎深。因什麼卻無處尋。此非小過也。將祖師大事。一齊於陸地上平沈卻。所以雪竇道。天上人間同陸沈。
機を尽くして瞎と成らず。長慶説く。其の機を尽くして来たるに、還た瞎と成るか否や。保福説く。我を瞎と道い得るか。一たい牛頭を按えて草を喫わしむるに似たり。須く是れ彼の自ら喫うを待ちて始めて得ん。那里にか彼の頭を按えて喫わしめんと教えん。雪竇此の様に頌すれば、自然に丹霞の意を見得せん。四七二三の諸祖師。宝器持ち来たりて過咎と成る。唯だ只だ長慶を帯累するのみならず、乃至西天の二十八祖、此の土の六祖、一時に埋没す。釈迦老子、四十九年、一大蔵教を説きて、末後唯だ此の箇の宝器を伝う。永嘉説く。是れ形を標し虚事を褫ぐに非ず。如来の宝杖親しく蹤跡を蹴る。もし保福の見解を作さば、宝器持ち来たれば、都て過咎と成る。過咎深く尋ぬるの処無し。此の箇爾と説くことを得ず。但だ去りて静坐して、彼の句中に向かい点検して看よ。既に是れ過咎深し。什麼に因りてか却って尋ぬるの処無し。此れ小過に非ざるなり。祖師の大事を將て、一斉に陸地の上に於いて平らに沈却す。所以に雪竇説く。天上人間同じく陸に沈む。
垂示雲。向上轉去。可以穿天下人鼻孔。似鶻捉鳩。向下轉去。自己鼻孔在別人手裡。如龜藏殼。箇中忽有箇出來道。本來無向上向下。用轉作什麼。只向伊道。我也知爾向鬼窟裡作活計。且道作麼生。辨箇緇素。良久雲。有條攀條無條攀例。試舉看。
垂示していう。上に向かい轉じて去らば、以て天下人の鼻孔を穿るべし。鶻の鳩を捉えるに似たり。下に向かい轉じて去らば、自己の鼻孔別の人の手裏に在り。亀の殻に蔵るるが如し。箇の中忽ち箇の人有りて出でて説け。本来向上向下無し。轉じて什麼を作さんと。只だ伊に向かい道え。我也た知れり爾の鬼窟の中に向かい活計を作するを。且く道え怎么样にか、箇の緇素を辨ぜん。良久して説く。条有らば条に攀じ条無からば例に攀ぜよ。試みに挙げ看よ。
【七七】舉。僧問雲門。如何是超佛越祖之談(開。旱地忽雷。拶)門雲。餬餅(舌拄上顎。過也)。
【七七】挙:僧雲門に問う。如何なるか是れ仏を超え祖を越えるの談(開。旱地に忽ち雷。拶)門説く。糊餅(舌上腭に拄く。過ぎたり)。
這僧問雲門。如何是超佛越祖之談。門雲。餬餅。還覺寒毛卓竪麼。衲僧家問佛問祖。問禪問道。問向上向下了。更無可得問。卻致箇問端。問超佛越祖之談。雲門是作家。便水長船高。泥多佛大。便答道。餬餅。可謂道不虛行。功不浪施。雲門復示眾雲。爾勿可作了。見人道著祖師意。便問超佛越祖之談道理。爾且喚什麼作佛。喚什麼作祖。即說超佛越祖之談。便問箇出三界。爾把三界來看。有什麼見聞覺知隔礙著爾。有什麼聲色佛法與汝可了。了箇什麼碗。以那箇為差殊之見。他古聖勿奈爾何。橫身為物。道箇舉體全真物物覿體。不可得。我向汝道。直下有什麼事。早是埋沒了也。會得此語。便識得餬餅。五祖雲。驢屎比麝香。所謂直截根源佛所印。摘葉尋枝我不能。到這裡欲得親切。莫將問來問。看這僧問。如何是超佛越祖之談。門雲。餬餅。還識羞慚麼。還覺漏逗麼。有一般人。杜撰道。雲門見兔放鷹。便道餬餅。若恁麼將餬餅。便是超佛越祖之談見去。豈有活路。莫作餬餅會。又不作超佛越祖會。便是活路也。與麻三斤解打鼓一般。雖然只道餬餅。其實難見。後人多作道理雲。麁言及細語皆歸第一義。若恁麼會。且去作座主。一生贏得多知多解。如今禪和子道。超佛越祖之時。諸佛也踏在腳跟下。祖師也踏在腳跟下。所以雲門只向他道餬餅。既是餬餅。豈解超佛越祖。試去參詳看。諸方頌極多。盡向問頭邊作言語。唯雪竇頌得最好試舉看。頌雲。
此の僧雲門に問う。如何なるか是れ仏を超え祖を越えるの談。門説く。糊餅。還た覚えるか寒毛卓立するを。衲僧の家仏を問い祖を問い、禅を問い道を問い、向上向下を問いて了れり。更に問うべく得る無し。却って箇の問端を致して、仏を超え祖を越えるの談を問う。雲門是れ作家。便ち水長ずれば船高く、泥多ければ仏大なり。便ち答えて道う。糊餅。謂うべし道虚しく行われず、功浪りに施されず。雲門復た衆に示して説く。爾作して了るべからず。人の祖師の意を道著すと見れば、便ち仏を超え祖を越えるの談の道理を問う。爾且く什麼を喚びて仏と作す。什麼を喚びて祖と作す。即ち説く仏を超え祖を越えるの談。便ち箇の三界を出づるを問う。爾三界を把りて看よ。什麼の見聞覚知か爾を隔碍する。什麼の声色仏法か爾と了すべき有らん。箇の什麼の碗をか了する。那箇を以て差殊の見と為す。他古聖爾を奈何す可からず。身を横たえて物と為りて、道う箇の挙体全真物物觌体。得べからず。我爾に向かい道う。直下に什麼の事か有らん。早くも是れ埋没して了れり。此の語を会得せば、便ち糊餅を識得せん。五祖説く。驢の屎麝香に比す。所謂直截根源仏の印する所、葉を摘み枝を尋ぬるは我能わず。ここに到りて親切を得んと欲せば、問を將て来たりて問う莫れ。看此の僧問う。如何なるか是れ仏を超え祖を越えるの談。門説く。糊餅。還た羞慚を識るか。還た覚えるか漏逗するを。一般の人有りて、杜撰に道う。雲門兎を見て鷹を放つ。便ち道う糊餅。もし此の様に糊餅を將て、便ち是れ仏を超え祖を越えるの談と見て去らば、豈に活路有らん。糊餅と作して会する莫れ。又た仏を超え祖を越えると作して会せず。便ち是れ活路なり。麻三斤鼓を打つを解するに一般なり。只だ糊餅と道うと雖も、其の実見難し。後人多く道理を作して説く。粗言及び細語皆な第一義に帰す。もし此の様に会せば、且く去りて座主を作れ。一生贏えて多知多解を得ん。如今の禅和子道う。仏を超え祖を越えるの時、諸仏も亦た脚跟の下に踏み、祖師も亦た脚跟の下に踏むと。所以に雲門只だ彼に向かい説く糊餅。既に是れ糊餅。豈に仏を超え祖を越えるを解せんや。試みに去りて参詳して看よ。諸方の頌極めて多し。尽く問頭の辺に向かい言語を作す。唯だ雪竇頌し得ること最好し試みに挙げ看よ。頌して説く。
超談禪客問偏多(箇箇出來便作這般見解。如麻似粟)縫罅披離見也麼(已在言前。開也。自屎不覺臭)
談を超ゆるの禅客問うこと偏に多し(個個出で来たれば便ち此の般の見解を作す。麻の如く粟に似たり)縫罅披離見る也嗎(已に言の前に在り。開けたり。自らの屎臭きを覚えず)
餬餅𡎺來猶不住(將木槵子換卻爾眼睛了也)
糊餅搗き来たるも猶お住せず(木槵子を將て爾の眼晴を換却して了れり)
至今天下有誵訛(畫箇圓相雲。莫是恁麼會麼。咬人言語。有甚了期。大地茫茫愁殺人。便打)
今に至るまで天下淆訛有り(箇の円相を画きて説く。是れ此の様の会か莫れや。人を咬むの言語。甚の了期か有らん。大地茫茫として人を愁え殺さん。便ち打つ)
𡎺(仄六切塞也)
𡎺(仄六切、塞ぐなり。此の処即ち「搗」)
超談禪客問偏多。此語禪和家偏愛問。不見雲門道。爾諸人橫擔拄杖。道我參禪學道。便覓箇超佛越祖道理。我且問爾。十二時中。行住坐臥。屙屎放尿。至於茅坑裡蟲子市肆買賣羊肉案頭。還有超佛越祖底道理麼。道得底出來。若無莫妨我東行西行。便下座。有者更不識好惡。作圓相。土上加泥。添枷帶鎖。縫罅披離見也麼。他致問處。有大小大縫罅。雲門見他問處披離。所以將餬餅攔縫塞定。這僧猶自不肯住。卻更問。是故雪竇道。餬餅𡎺來猶不住。至今天下有誵訛。如今禪和子。只管去餬餅上解會。不然去超佛越祖處作道理。既不在這兩頭。畢竟在什麼處。三十年後。待山僧換骨出來。卻向爾道。
談を超ゆるの禅客問うこと偏に多し。此の語禅和の家偏に愛し問う。雲門の説くを見ざるか。爾諸人拄杖を横担して、我禅を参じ道を学ぶと道い、便ち箇の仏を超え祖を越えるの道理を覓む。我且く爾に問う。十二時の中、行住坐臥、屎を屙し尿を放ち、乃至茅坑の中の虫子市肆の売買羊肉の案頭に至るまで、還た仏を超え祖を越えるの道理有るか。道い得る者出で来たれ。もし無からば我が東行し西行するを妨ぐる莫れ。便ち座を下る。有るの更に好悪を識らず、円相を作す。土の上に泥を加う。枷を添え鎖を帯ぶ。縫罅披離見る也嗎。他問うの処を致すに、大小大きの縫罅有り。雲門彼の問うの処の披離するを見て、所以に糊餅を將て縫を攔ぎて塞ぎ定む。此の僧猶お自ら住せずと肯んぜず。却って更に問う。是の故に雪竇説く。糊餅搗き来たるも猶お住せず。今に至るまで天下淆訛有り。如今の禅和子、只管に糊餅の上に去りて解会し、然らずんば仏を超え祖を越えるの処に去りて道理を作す。既に此の両頭に在らざれば、畢竟に什麼の処に在る。三十年の後、山僧の骨を換えて出で来たるを待ちて、却って爾に向かい道わん。
【七八】舉。古有十六開士(成群作隊。有什麼用處。這一隊不唧𠺕漢)於浴僧時隨例入浴(撞著露柱。漆桶作什麼)忽悟水因(惡水驀頭澆)諸禪德作麼生會。他道妙觸宣明(更不幹別人事。作麼生會他。撲落非他物)成佛子住(天下衲僧到這裡摸索不著。兩頭三而作什麼)也須七穿八穴始得(一棒一條痕。莫辜負山僧好。撞著磕著。還曾見德山臨濟麼)。
【七八】挙:古に十六の開士有りて(群を成し隊を作す。什麼の用処か有らん。此の一隊の不唧溜の漢)浴僧の時に於いて例に随い浴に入る(露柱に撞著せり。漆桶什麼を作さん)忽ち水因を悟る(悪水頭を蓦めて浇ぐ)諸の禅徳怎么样にか会せん。他道う妙触宣明(更に別の人の事に干らず。怎么样にか彼を会せん。撲落他物に非ず)仏子の住と成ると(天下の衲僧ここに到りて摸索し著けず。両頭三面什麼を作さん)も須く是れ七穿八穴ならば始めて得ん(一棒一条の痕。山僧を辜負する莫れ好し。撞き著け磕き著け。還た曽て徳山臨済を見たるか)。
楞嚴會上。跋陀婆羅菩薩。與十六開士。各修梵行。乃各說所證圓通法門之因。此亦二十五圓通之一數也。他因浴僧時。隨例入浴。忽悟水因。雲。既不洗塵。亦不洗體。且道洗箇什麼。若會得去。中間安然。得無所有。千箇萬箇。更近傍不得。所謂以無所得是真般若。若有所得。是相似般若。不見達磨謂二祖雲。將心來與汝安。二祖雲。覓心了不可得。這裡些子。是衲僧性命根本。更總不消得如許多葛藤。只消道箇忽悟水因。自然了當。既不洗塵。亦不洗體。且道悟箇什麼。到這般田地。一點也著不得。道箇佛字。也須諱卻。他道。妙觸宣明。成佛子住。宣則是顯也。妙觸是明也。既悟妙觸。成佛子住。即住佛地也。如今人亦入浴亦洗水。也恁麼觸。因甚卻不悟。皆被塵境惑障。粘皮著骨。所以不能便惺惺去。若向這裡。洗亦無所得。觸亦無所得。水因亦無所得。且道。是妙觸宣明。不是妙觸宣明。若向箇裡。直下見得。便是妙觸宣明。成佛子住。如今人亦觸。還見妙處麼。妙觸非常觸與觸者合則為觸。離則非也。玄沙過嶺。磕著腳指頭。以至德山棒。豈不是妙觸。雖然恁麼。也須是七穿八穴始得。若只向身上摸索。有什麼交涉。爾若七穿八穴去。何須入浴。便於一毫端上現寶王剎。向微塵裡。轉大法輪。一處透得。千處萬處一時透。莫只守一窠一窟。一切處都是觀音入理之門。古人亦有聞聲悟道見色明心。若一人悟去。則故是。因甚十六開士。同時悟去。是故古人同修同證。同悟同解。雪竇拈他教意。令人去妙觸處會取。出他教眼頌。免得人去教網裡籠罩半醉半醒。要令人直下灑灑落落。頌雲。
『楞厳』の会上、跋陀婆羅菩薩、十六の開士と与に、各各梵行を修し、乃ち各各証する所の円通の法門の因を説く。此れも亦た二十五円通の一数なり。他浴僧の時に因りて、例に随い浴に入りて、忽ち水因を悟りて、説く。既に塵を洗わず、亦た体を洗わず。且く道え箇の什麼を洗う。もし会得して去らば、中間安然として、所有無きを得たり。千箇万箇、更に近傍することを得ず。所謂無所得を以て是れ真の般若。もし所得有らば、是れ相似の般若。達磨の二祖に謂うを見ざるか。心を將て爾と安んぜん。二祖説く。心を覓めて了に得べからず。ここの些子、是れ衲僧の性命の根本。更に総て如許の葛藤を消せず。只だ箇の忽ち水因を悟ると道うを消す。自然に了当す。既に塵を洗わず、亦た体を洗わず。且く道え箇の什麼を悟る。此の般の田地に到れば、一点も亦た著くることを得ず。箇の仏の字を道うも、須く諱み却くべし。他道う。妙触宣明。仏子の住と成る。宣は則ち是れ顕なり。妙触是れ明なり。既に妙触を悟れば、仏子の住と成る。即ち仏地に住するなり。如今人も亦た浴に入り亦た水を洗う。も此の様に触る。甚に因りてか却って悟らざる。皆な塵境に惑障せられ、皮に粘り骨に著く。所以に能く便ち惺惺として去るを得ず。もしここに向かい、洗うも亦た所得無く、触るるも亦た所得無く、水因も亦た所得無し。且く道え。是れ妙触宣明か、是れ妙触宣明ならざるか。もし箇の中に向かい、直下に見得せば、便ち是れ妙触宣明、仏子の住と成る。如今人も亦た触る。還た妙き処を見るか。妙触常の触に非ず触るる者と合すれば則ち触と為る。離れれば則ち非なり。玄沙嶺を過ぎて、脚の指頭に磕き著き、乃至徳山の棒に至るまで、豈に是れ妙触ならずや。此の様と雖も、も須く是れ七穿八穴ならば始めて得ん。もし只だ身上に向かい摸索せば、什麼の交渉か有らん。爾もし七穿八穴して去らば、何ぞ須んや浴に入らん。便ち一毫の端の上に宝王刹を現じ、微塵の中に向かい、大法輪を轉ず。一処透得せば、千処万処一時に透る。只だ一窠一窟を守る莫れ。一切の処皆な是れ観音の理に入るの門。古人も亦た声を聞きて道を悟り色を見て心を明らむる有り。もし一人悟りて去れば、則ち故に是なり。甚に因りてか十六の開士、同時に悟りて去る。是の故に古人同修同証、同悟同解す。雪竇彼の教意を拈じて、人を令して妙触の処に去りて会取せしむ。彼の教の眼に出でて頌す。人を免れて教網の中に去りて籠罩せられて半ば酔い半ば醒むるを。人を令して直下に洒洒落落たらんと要す。頌して説く。
了事衲僧消一箇(現有一箇。朝打三千暮打八百。跳出金剛圈。一箇也不消得)
事を了するの衲僧一箇を消す(現に一箇有り。朝に三千を打ち暮に八百を打つ。金剛の圈を跳び出づ。一箇も亦た消すべからず)
長連床上展腳臥(果然是箇瞌睡漢。論劫不論禪)夢中曾說悟圓通(早是瞌睡更說夢。卻許爾夢見。寐語作什麼)
長連床の上に脚を展べて臥す(果然是れ箇の瞌睡の漢。劫を論じて禅を論ぜず)夢の中に曽て円通を悟ると説く(早くも是れ瞌睡更に夢を説く。却って爾に夢見るを許さん。寐語什麼を作さん)
香水洗來驀面唾(咄。土上加泥又一重。莫來淨地上屙)。
香水洗い来たりて面を蓦めて唾す(咄。土の上に泥を加えて又一重。浄地の上に来たりて屙す莫れ)。
了事衲僧消一箇。且道了得箇什麼事。作家禪客。聊聞舉著。剔起便行。似恁麼衲僧。只消得一箇。何用成群作隊。長連床上展腳臥。古人道。明明無悟法。悟了卻迷人。長舒兩腳睡。無偽亦無真。所以胸中無一事。飢來吃飯困來眠。雪竇意道。爾若說入浴悟得妙觸宣明。在這般無事衲僧分上。只似夢中說夢。所以道。夢中曾說悟圓通。香水洗來驀面唾。似恁麼只是惡水驀頭澆。更說箇什麼圓通。雪竇道似這般漢。正好驀頭驀面唾。山僧道土上加泥又一重。
事を了するの衲僧一箇を消す。且く道え箇の什麼の事を了する。作家の禅客、聊か挙げ著くを聞いて、剔起して便ち行く。此の様の衲僧に似たれば、只だ一箇を消得す。何ぞ用いん群を成し隊を作すを。長連床の上に脚を展べて臥す。古人説く。明々として悟るの法無し。悟りて了れば却って人を迷わす。長く両脚を舒べて睡る。偽無く亦た真無し。所以に胸中に一事無し。飢え来たれば飯を喫い困れ来たれば眠る。雪竇の意道う。爾もし浴に入りて妙触宣明を悟得すと説かば、此の般の事無きの衲僧の分の上に於いては、只だ夢の中に夢を説くに似たり。所以に説く。夢の中に曽て円通を悟ると説く。香水洗い来たりて面を蓦めて唾す。此の様に似たれば只だ是れ悪水を頭を蓦めて浇ぐ。更に箇の什麼の円通をか説く。雪竇道う此の般の漢に似たれば、正しく頭を蓦め面を蓦めて唾すべし。山僧道う土の上に泥を加えて又一重。
垂示雲。大用現前。不存軌則。活捉生擒。不勞餘力。且道是什麼人。曾恁麼來。試舉看。
垂示していう。大用現前。軌則を存せず。活け捉え生け擒え。余力を労せず。且く道え是れ什麼の人。曽て此の様に来たる。試みに挙げ看よ。
【七九】舉。僧問投子。一切聲是佛聲是否(也解捋虎鬚。青天轟霹靂。自屎不覺臭)投子云。是(賺殺一船人。賣身與爾了也。拈放一邊。是什麼心行)僧雲。和尚莫㞘沸碗鳴聲(只見錐頭利。不見鑿頭方。道什麼。果然納敗缺)投子便打(著。好打。放過則不可)又問。麁言及細語皆歸第一義。是否(第二回捋虎鬚。抱贓叫屈作什麼。東西南北。猶有影響在)投子云。是(又是賣身與爾了也。陷虎之機。也是什麼心行)僧雲。喚和尚作一頭驢得麼(只見錐頭利。不見鑿頭方。雖有逆水之波。只是頭上無角。含血噀人)投子便打(著。不可放過。好打。拄杖未到折。因什麼便休去)㞘(都木切臀也)。
【七九】挙:僧投子に問う。一切の声是れ仏の声なるか否や(も虎の鬚を捋ぐるを解す。青天に霹靂を轟かす。自らの屎臭きを覚えず)投子説く。是なり(一船の人を賺し殺す。爾と身を売りて了れり。一辺を拈放す。是れ什麼の心行)僧説く。和尚は㞘沸碗の鳴声を作す莫れ(只だ錐頭の利を見て、鑿頭の方を見ず。什麼を道う。果然敗缺を納めたり)投子便ち打つ(著。好く打て。放過すれば則ち不可なり)又た問う。粗言及び細語皆な第一義に帰す。是なりや否や(第二回虎の鬚を捋ぐ。贓を抱きて屈を叫びて什麼を作さん。東西南北。猶お影響有る在り)投子説く。是なり(又た是れ爾と身を売りて了れり。虎を陥れるの機。も是れ什麼の心行)僧説く。和尚を喚びて一頭の驢と作して得なるか(只だ錐頭の利を見て、鑿頭の方を見ず。水に逆らうの波有りと雖も、只だ是れ頭上に角無し。血を含みて人を噀る)投子便ち打つ(著。放過すべからず。好く打て。拄杖未だ折れず。甚に因りてか便ち休みて去る)㞘(都木切、臀なり)。
投子樸實頭。得逸群之辯。凡有致問。開口便見膽。不費餘力。便坐斷他舌頭。可謂運籌帷幄之中。決勝千里之外。這僧將聲色佛法見解。貼在他額頭上。逢人便問。投子作家。來風深辨。這僧知投子實頭。合下做箇圈繢子。教投子入來。所以有後語。投子卻使陷虎之機。釣他後語出來。這僧接他答處道。和尚莫㞘沸碗鳴聲。果然一釣便上。若是別人。則不奈這僧何。投子具眼。隨後便打。咬豬狗底手腳。須還作家始得。左轉也隨他阿轆轆地。右轉也隨他阿轆轆地。這僧既是做箇圈繢子。要來捋虎鬚。殊不知投子。更在他圈繢頭上。投子便打。這僧可惜許。有頭無尾。當時等他拈棒。便與掀倒禪床。直饒投子全機。也須倒退三千里。又問。麁言及細語皆歸第一義是否。投子亦云是。一似前頭語無異。僧雲。喚和尚作一頭驢得麼。投子又打。這僧雖然作窠窟。也不妨奇特。若是曲彔木床上老漢。頂門無眼。也難折挫他。投子有轉身處。這僧既做箇道理。要攙他行市。到了依舊不奈投子老漢何。不見巖頭道。若論戰也。箇箇立在轉處。投子放去太遲。收來太急。這僧當時。若解轉身吐氣。豈不作得箇口似血盆底漢。衲僧家一不做二不休。這僧既不能返擲。卻被投子穿了鼻孔。頌雲。
投子朴実頭、群を逸するの辨を得たり。凡そ問いを致す有らば、口を開けば便ち胆を見る。余力を費えずして、便ち彼の舌頭を坐断す。謂うべし帷幄の中に運籌し、千里之外に勝を決す。此の僧声色仏法の見解を將て、彼の額頭の上に貼りて、人に逢えば便ち問う。投子作家。来たるの風深く辨ず。此の僧投子の実頭を知りて、合に下に箇の圈繪子を作りて、投子を教えて入り来たらしむ。所以に後語有り。投子却って虎を陥れるの機を使いて、彼の後語を釣り出で来たらしむ。此の僧彼の答うるの処を接ぎて道う。和尚は㞘沸碗の鳴声を作す莫れ。果然一釣すれば便ち上がれり。もし是れ別の人ならば、則ち此の僧を奈何することを得ず。投子眼を具して、後に随いて便ち打つ。猪狗を咬むの手腳、須く是れ作家に還して始めて得ん。左に轉ずるも彼に随いて阿轆轆として地なり、右に轉ずるも彼に随いて阿轆轆として地なり。此の僧既に是れ箇の圈繪子を作りて、来たりて虎の鬚を捋がんと要す。殊に知らず投子、更に彼の圈繪の頭上に在るを。投子便ち打つ。此の僧惜しむべし。頭有りて尾無し。当時他の棒を拈ずるを等てば、便ち彼と禅床を掀き倒さば、直に饒く投子全機なるも、須く三千里を倒退すべし。又た問う。粗言及び細語皆な第一義に帰す是なりや否や。投子も亦た是なりと説く。一たい前頭の語と異なること無しに似たり。僧説く。和尚を喚びて一頭の驢と作して得なるか。投子又た打つ。此の僧窠窟を作ると雖も、亦た妨げず奇特なり。もし是れ曲彔の木床の上の老漢ならば、頂門に眼無くて、も彼を折挫し難し。投子轉身の処有り。此の僧既に箇の道理を作りて、彼の行市を搀がんと要す。到りて了れば旧に依りて投子の老漢を奈何す可からず。巌頭の説くを見ざるか。もし戦いを論ぜば。個個転ずるの処に立つ。投子放ち去ること太だ遅く、収め来たること太だ急なり。此の僧当時、もし身を轉じて気を吐くを解せば、豈に箇の口血盆に似たるの漢と作り得ざらんや。衲僧の家一を作さずんば二を休めず。此の僧既に能く返りて擲がざれば、却って投子に鼻孔を穿たれたり。頌して説く。
投子投子(灼然。天下無這實頭老漢。教壞人家男女)機輪無阻(有什麼奈何他處。也有些子)
投子投子(灼然たり。天下に此の実頭の老漢無し。人家の男女を教え壊す)機輪阻ること無し(什麼の彼を奈何するの処か有らん。も些子有り)
放一得二(換卻爾眼睛。什麼處見投子)同彼同此(恁麼來也吃棒。不恁麼來也吃棒。闍黎替他。便打)
一を放ちて二を得る(爾の眼晴を換却す。什麼の処にか投子を見る)彼と同じ此と同じ(此の様に来たるも棒を喫い、此の様ならずして来たるも棒を喫う。闍梨彼に替われば、便ち打つ)
可憐無限弄潮人(叢林中放出一箇半箇。放出這兩箇漢。天下衲僧要恁麼去)
憐れむべし无限の潮を弄するの人(叢林の中に一箇半箇を放出す。此の両箇の漢を放出す。天下の衲僧此の様に去らんと要す)
畢竟還落潮中死(可惜許。爭奈出這圈繢不得。愁人莫向愁人說)
畢竟に還た潮の中に落ちて死す(惜しむべし。怎奈せん此の圈繪を出づるを得ざるを。愁う人愁える人に向かい説く莫れ)
忽然活(禪床震動。驚殺山僧。也倒退三千里)百川倒流閙𣽅𣽅(嶮。徒勞佇思。山僧不敢開口。投子老漢。也須是拗折拄杖始得)
忽然として活す(禅床震動す。山僧を驚かし殺さん。も三千里を倒退せん)百川流を倒して𣽅𣽅として閙ぐ(険し。徒らに佇み思い労す。山僧敢えて口を開かず。投子の老漢、も須く是れ拄杖を拗折して始めて得ん)
𣽅(古活切水流聲)
𣽅(古活切、水の流るるの声)
投子投子。機輪無阻。投子尋常道。爾總道投子實頭。忽然下山三步。有人問爾。道如何是投子實頭處。爾作麼生抵對。古人道。機輪轉處。作者猶迷。他機輪轉轆轆地全無阻隔。所以雪竇道。放一得二。不見僧問。如何是佛。投子云。佛。又問。如何是道。投子云。道。又問。如何是禪。投子云。禪。又問。月未圓時如何。投子云。吞卻三箇四箇。圓後如何。吐卻七箇八箇。投子接人。常用此機。答這僧。只是一箇是字。這僧兩回被打。所以雪竇道。同彼同此。四句一時。頌投子了也。末後頌這僧道。可憐無限弄潮人。這僧敢攙旗奪鼓道。和尚莫㞘沸碗鳴聲。又道喚和尚作一頭驢得麼。此便是弄潮處。這僧做盡伎倆。依前死在投子句中。投子便打。此僧便是畢竟還落潮中死。雪竇出這僧雲。忽然活便與掀倒禪床。投子也須倒退三千里。直得百川倒流閙𣽅𣽅。非唯禪床震動。亦乃山川岌崿。天地陡暗。苟或箇箇如此。山僧且打退鼓。諸人向什麼處。安身立命岌(逆及切)崿(逆各切)。
投子投子。機輪阻ること無し。投子尋常説く。爾総て道う投子実頭。忽然として山を下りて三步に、人の爾に問う有らば、如何なるか是れ投子の実頭の処と道えば、爾怎么样にか抵対せん。古人説く。機輪轉ずるの処、作者猶お迷う。他機輪轉轆轆として地なりて全く阻隔無し。所以に雪竇説く。一を放ちて二を得る。僧の問うを見ざるか。如何なるか是れ仏。投子説く。仏。又た問う。如何なるか是れ道。投子説く。道。又た問う。如何なるか是れ禅。投子説く。禅。又た問う。月未だ円ならざるの時如何。投子説く。三箇四箇を呑却す。円なりて後如何。七箇八箇を吐却す。投子人を接するに、常に此の機を用う。此の僧に答うるに、只だ是れ一箇の是の字。此の僧両回打たる。所以に雪竇説く。彼と同じ此と同じ。四句一時に、投子を頌して了れり。末後此の僧の道うを頌す。憐れむべし无限の潮を弄するの人。此の僧敢えて旗を搀ぎ鼓を奪い道う。和尚は㞘沸碗の鳴声を作す莫れ。又た道う和尚を喚びて一頭の驢と作して得なるか。此れ便ち是れ潮を弄するの処。此の僧伎倆を作尽くして、前に依りて投子の句の中に死す。投子便ち打つ。此の僧便ち是れ畢竟に還た潮の中に落ちて死す。雪竇此の僧を出でて説く。忽然として活せば便ち彼と禅床を掀き倒さん。投子も須く三千里を倒退すべし。直に百川流を倒して𣽅𣽅として閙ぐを得たり。唯だ禅床震動するのみならず、亦た乃ち山川岌崿として、天地陡かに暗し。苟も或いは個個此の如くならば、山僧且く鼓を打ち退かん。諸人什麼の処に向かい、身を安んじ命を立てん。岌(逆及切)崿(逆各切)。
【八〇】舉。僧問趙州。初生孩子。還具六識也無(閃電之機。說什麼初生孩兒子)趙州雲。急水上打毬子(過也。俊鷂趁不及。也要驗過)僧復問投子。急水上打毬子。意旨如何(也是作家同驗過。還會麼。過也)子云。念念不停流(打葛藤漢)。
【八〇】挙:僧趙州に問う。初めて生まるるの孩子、還た六識を具するや無きや(電を閃くの機。什麼を説く初生の孩儿子)趙州説く。急水の上に毬子を打つ(過ぎたり。俊鷂趁い及ばず。も験過せんと要す)僧復た投子に問う。急水の上に毬子を打つ。意旨如何(も是れ作家同じく験過す。還た会するか。過ぎたり)子説く。念念流れて停まらず(葛藤を打つの漢)。
此六識。教家立為正本。山河大地。日月星辰。因其所以生。來為先鋒。去為殿後。古人道。三界唯心。萬法唯識。若證佛地。以八識。轉為四智。教家謂之改名不改體。根塵識是三。前塵元不會分別。勝義根能發生識。識能顯色分別。即是第六意識。第七識末那識。能去執持世間一切影事。令人煩惱。不得自由自在。皆是第七識。到第八識。亦謂之阿賴耶識。亦謂之含藏識。含藏一切善惡種子。這僧知教意。故將來問趙州道。初生孩子。還具六識也無。初生孩兒。雖具六識眼能見耳能聞。然未曾分別六塵。好惡長短。是非得失。他恁麼時總不知。學道之人要復如嬰孩。榮辱功名。逆情順境。都動他不得。眼見色與盲等。耳聞聲與聾等。如痴似兀。其心不動。如須彌山。這箇是衲僧家。真實得力處。古人道。衲被蒙頭萬事休。此時山僧都不會。若能如此。方有少分相應。雖然如此。爭奈一點也瞞他不得。山依舊是山。水依舊是水。無造作。無緣慮。如日月運於太虛未嘗暫止。亦不道我有許多名相。如天普蓋。似地普擎。為無心故。所以長養萬物。亦不道我有許多功行。天地為無心故。所以長久。若有心則有限齊。得道之人亦復如是。於無功用中施功用。一切違情順境。皆以慈心攝受。到這裡。古人尚自呵責道。了了了時無可了。玄玄玄處直須呵。又道。事事通兮物物明。達者聞之暗裡驚。又云。入聖超凡不作聲。臥龍長怖碧潭清。人生若得長如此。大地那能留一名。然雖恁麼。更須跳出窠窟始得。豈不見。教中道。第八不動地菩薩。以無功用智。於一微塵中。轉大法輪。於一切時中。行住坐臥。不拘得失。任運流入薩婆若海。衲僧家。到這裡。亦不可執著。但隨時自在。遇茶吃茶遇飯吃飯。這箇向上事著箇定字也不得。著箇不定字也不得。石室善道和尚示眾雲。汝不見小兒出胎時。何曾道我會看教。
此の六識、教家立てて正本と為す。山河大地、日月星辰、其の所以生じ来たるに因りて、来たれば先鋒と為り、去れば殿後と為す。古人説く。三界唯だ心。万法唯だ識。もし仏地を証せば、八識を以て、轉じて四智と為す。教家之を名を改めて体を改めずと叫ぶ。根塵識是れ三。前塵元は分別することを会せず。勝義根能く識を発生す。識能く色を顕わし分別す。即ち是れ第六の意識。第七識末那識、能く去りて世間の一切の影事を執持し、人を令して煩悩せしめ、自由自在を得しめず。皆な是れ第七識。第八識に到れば、亦た之を阿頼耶識と叫ぶ。亦た之を含蔵識と叫ぶ。一切の善悪の種子を含蔵す。此の僧教意を知りて、故に將て来たりて趙州に問うて道う。初めて生まるるの孩子、還た六識を具するや無きや。初生の孩儿、六識を具するも眼能く見え耳能く聞くと雖も、然れども未だ曽て六塵を分別せず。好悪長短、是非得失。他此の様の時総て知らず。道を学ぶの人嬰孩の如くならんことを復せんと要す。栄辱功名、逆情順境、都て彼を動かすことを得ず。眼色を見るも盲と等しく、耳声を聞くも聾と等しい。痴の如く兀に似て、其の心動かず。須弥山の如し。此の箇是れ衲僧の家、真実に力を得るの処。古人説く。衲被頭を蒙いで万事休す。此の時山僧都て会せず。もし能く此の如くならば、方に少分相応する有らん。此の如しと雖も、怎奈せん一点も亦た彼を瞒す可からざるを。山旧に依りて是れ山水旧に依りて是れ水。造作無し。縁慮無し。日月の太虚に運るが如く未だ曽て暫く止まらず。亦た道わず我許多の名相有りと。天の普く蓋うが如く、地の普く擎ぐるに似たり。心無きの故を為りて、所以に万物を長養す。亦た道わず我許多の功行有りと。天地心無きを為れば、所以に長久なり。もし心有らば則ち限斉有らん。道を得るの人も亦た復た是の如し。無功用の中に於いて功用を施す。一切の情に違い境に順うも、皆な慈心を以て摂受す。ここに到れば、古人尚お自ら呵責して道う。了了了の時了すべき無し。玄玄玄の処直に須く呵すべし。又た道う。事事通ず兮物物明らかなり。達する者之を聞きて暗き中に驚く。又た説く。聖に入り凡を超えて声を作さず。臥竜長く碧潭の清きを怖る。人生もし長く此の如くなるを得ば、大地那ぞ能く一名を留めん。然れども此の様と雖も、更に須く窠窟を跳び出でて始めて得ん。豈に見ざらんや。教の中に道う。第八不動地の菩薩、無功用の智を以て、一微塵の中に於いて、大法輪を轉ず。一切の時の中に於いて、行住坐臥、得失に拘らず。運に任して薩婆若の海に流入す。衲僧の家、ここに到れば、亦た執著すべからず。但だ時に随い自在に、茶に遇えば茶を喫い飯に遇えば飯を喫う。此の箇の向上の事は箇の定の字を著くるも得ず。箇の不定の字を著くるも得ず。石室の善道和尚衆に示して説く。爾小児の胎を出づるの時を見ざるか。何曽か道えし我教を看るを会すと。
當恁麼時。亦不知有佛性義。無佛性義。及至長大。便學種種知解出來。便道我能我解。不知是客塵煩惱。十六觀行中。嬰兒行為最。哆哆啝啝時。喻學道之人離分別取捨心。故讚歎嬰兒。可況喻取之。若謂嬰兒是道。今時人錯會。南泉雲。我十八上。解作活計。趙州道。我十八上解破家散宅。又道。我在南方二十年。除粥飯二時。是雜用心處。曹山問僧。菩薩定中。聞香象渡河。歷歷地。出什麼經。僧雲。涅槃經。山雲。定前聞定後聞。僧雲。和尚流也。山雲。灘下接取。又楞嚴經云。湛入合湛入識邊際。又楞伽經云。相生執礙。想生妄想。流注生則逐妄流轉。若到無功用地。猶在流注相中。須是出得第三流注生相。方始快活自在。所以溈山問仰山雲。寂子如何。仰山雲。和尚問他見解。問他行解。若問他行解。某甲不知。若是見解。如一瓶水注一鉼水。若得如此。皆可以為一方之師。趙州雲。急水上打毬子。早是轉轆轆地。更向急水上打時。眨眼便過。譬如楞嚴經云。如急流水。望為恬靜。古人云。譬如駛流水。水流無定止。各各不相知。諸法亦如是。趙州答處。意渾類此。其僧又問投子。急水上打毬子。意旨如何。子云。念念不停流。自然與他問處恰好。古人行履綿密。答得只似一箇。更不消計較。爾才問他。早知爾落處了也。孩子六識。雖然無功用。爭奈念念不停。如密水流。投子恁麼答。可謂深辨來風。雪竇頌雲駛(音史疾也)。
(圜悟が続けていう:)此の様の時に当たりては、亦た仏性の義有るを知らず。仏性の義無し。及び至りて長大すれば、便ち種種の知解を学び出で来たりて、便ち道う我能く我解すると。是れ客塵の煩悩を知らず。十六の観行の中、嬰児の行を最と為す。哆哆啝啝の時、道を学ぶの人分別取舎の心を離るるに喩う。故に嬰児を讃嘆す。況喩して之を取るべし。もし嬰児是れ道と謂わば、今時の人錯りて会せん。南泉説く。我十八の上、活計を作るを解す。趙州説く。我十八の上家を破り宅を散ずるを解す。又た道う。我南方に在りて二十年。粥飯の二時を除く。是れ雑に心を用いるの処。曹山僧に問う。菩薩定の中、香象の河を渡るを聞く。歴々として地なり。什麼の経よりか出づる。僧説く。『涅槃経』。山説く。定の前に聞くか定の後に聞くか。僧説く。和尚流なり。山説く。灘の下に接ぎ取れ。又た『楞厳経』に説く。湛入湛に合し識の辺際に入る。又た『楞伽経』に説く。相生執碍。想生妄想。流注生は則ち妄に逐いて流轉す。もし無功用の地に到るも、猶お流注相の中に在り。須く是れ第三の流注生相を出で得て、方に始めて快活自在なり。所以に潙山仰山に問うて説く。寂子如何。仰山説く。和尚彼の見解を問うか、彼の行解を問うか。もし彼の行解を問わば、某甲知らず。もし是れ見解ならば、一瓶の水一瓶の水に注ぐが如し。もし此の如くなるを得ば、皆な以て一方の師と為すべし。趙州説く。急水の上に毬子を打つ。早くも是れ轉轆轆として地なり。更に急水の上に向かい打つ時、眼を眨めば便ち過ぐ。譬えば『楞厳経』に説くが如し。急く流るるの水の如く、望めば恬静と為す。古人説く。譬えば駛く流るるの水、水流定めて止まること無し。各各相い知らず。諸法も亦た是の如し。趙州の答うるの処、意渾く此に類す。其の僧又た投子に問う。急水の上に毬子を打つ。意旨如何。子説く。念念流れて停まらず。自然に彼の問うの処と恰好なり。古人行履綿密なり。答え得て只だ一箇に似たり。更に計較を消せず。爾纔かに彼に問えば、早くも爾の落処を知りて了れり。孩子の六識、無功用と雖も、怎奈せん念念停まらず、密なる水流の如し。投子此の様に答う。謂うべし来たるの風を深く辨ずるを。雪竇頌して説く。駛(音は史、疾きなり)。
六識無功伸一問(有眼如盲。有耳如聾。明鏡當臺。明珠在掌。一句道盡)
六識功無くして一問を伸ぶ(眼有るも盲の如し。耳有るも聾の如し。明鏡台に当たり、明珠掌中に在り。一句道い尽くす)
作家曾共辨來端(何必。也要辨箇緇素。唯證乃知)茫茫急水打毬子(始終一貫。過也。道什麼)
作家曽て共に来たるの端を辨ず(何ぞ必ずしも。も箇の緇素を辨ぜんと要す。唯だ証して乃ち知る)茫茫たる急水毬子を打つ(終始一貫。過ぎたり。什麼を道う)
落處不停誰解看(看即瞎過也。灘下接取)
落処停まらず誰か看るを解せん(看れば即ち瞎過ぎたり。灘の下に接ぎ取れ)
六識無功伸一問。古人學道。養到這裡。謂之無功之功。與嬰兒一般。雖有眼耳鼻舌身意。而不能分別六塵。蓋無功用也。既到這般田地。便乃降龍伏虎。坐脫立亡。如今人但將目前萬境。一時歇卻。何必八地以上。方乃如是。雖然無功用處。依舊山是山水是水。雪竇前面頌雲。活中有眼還同死。藥忌何須鑒作家。蓋為趙州投子是作家。故云。作家曾共辨來端。茫茫急水打毬子。投子道。念念不停流。諸人還知落處麼。雪竇末後教人自著眼看。是故云。落處不停誰解看。此是雪竇活句。且道落在什麼處。
六識功無くして一問を伸ぶ。古人道を学んで、ここに養い到れば、之を功無きの功と叫ぶ。嬰児と一般なり。眼耳鼻舌身意有りと雖も、六塵を分別すること能わず。蓋し功用無きなり。既に此の般の田地に到れば、便ち乃ち竜を降し虎を伏せ、坐して脱し立して亡ぶ。如今人但だ目前の万境を將て、一時に歇却せば、何ぞ必ずしも八地已上、方に乃ち是の如くならん。無功の用の処と雖も、旧に依りて山是れ山水是れ水。雪竇前面頌して説く。活の中に眼有るも還た死に同じ。薬の忌み何ぞ須んや作家を鑑みん。蓋し趙州投子是れ作家なるが為。故に説く。作家曽て共に来たるの端を辨ず。茫茫たる急水毬子を打つ。投子説く。念念流れて停まらず。諸人還た落処を知るか。雪竇末後人を教えて自ら眼を著けて看せしむ。是の故に説く。落処停まらず誰か看るを解せん。此れ是れ雪竇の活句。且く道え什麼の処にか落つる。
仏果圜悟禅師碧巌録 巻第八(終)
佛果圜悟禅師碧巌録 巻第九
垂示雲。攙旗奪鼓。千聖莫窮。坐斷誵訛。萬機不到。不是神通妙用。亦非本體如然。且道。憑箇什麼。得恁麼奇特。
垂示す。旗を奮い鼓を奪っても、千聖といえども窮め尽くせない。淆訛を坐断すれば、万機も及ばない。神通妙用というのでもなく、本体がそのまま然るというのでもない。さあ言ってみよ、何に凭って、かくも奇特なのか。
【八一】舉。僧問藥山。平田淺草麈鹿成群。如何射得麈中麈(把髻投衙。擎頭帶角出來。腦後拔箭)山雲。看箭(就身打劫。下坡不走。快便難逢。著)僧放身便倒(灼然不同。一死更不再活。弄精魂漢)山雲。侍者拕出這死漢(據令而行。不勞再勘。前箭猶輕。後箭深)僧便走(棺木裡瞠眼。死中得活。猶有氣息在)山雲。弄泥團漢有什麼限(可惜許放過。據令而行。雪上加霜)雪竇拈雲。三步雖活五步須死(一手擡一手搦。直饒走百步。也須喪身失命。復雲。看箭。且道。雪竇意落在什麼處。若是同死同生。藥山直得目瞪口呿。一向似無孔鎚。堪作何用)麈(音主)瞪(直耕切。怒目直視也)呿(袪遮立伽二切。張口貌)。
【八一】挙す。僧が薬山に問う。平田浅草に麈鹿が群れをなす。いかにして麈中の麈を射るべきか(髻を把って衙に投ず。頭を擎げ角を帯びて出て来た。脳後から箭を拔く)。山はいう、箭を見よ(身に就いて打劫する。下坡は走らない。快便は遭い難い。著)。僧は身を放ってすぐ倒れる(灼然として異なる。一死すれば再び活さない。精魂を弄ぶ漢)。山はいう、侍者、この死んだ漢を拖り出せ(令に拠って行ず。再び勘える労を取らない。前の箭はなお軽く、後の箭は深い)。僧はすぐ走る(棺木の中で眼を瞠く。死の中に活を得た。なお気息が在る)。山はいう、泥団を弄ぶ漢に何の限りかあらん(惜しいことに放り過ごした。令に拠って行ず。雪の上に霜を加える)。雪竇が拈じていう、三步は活すとも五步は須らく死すべし(一手は抬げ一手は搦める。たとえ百步走るとも、須らく身を喪い命を失うべし。復たいう、箭を見よ。さあ言え、雪竇の意はどこに落ちるのか。もし同死同生ならば、薬山は直ちに目瞪口呿を得べく、一向に孔なき鎚のごときで、何の用に堪えん)。麈(音は主)瞪(直耕切。怒目にして直視するなり)呿(祛遮・立伽の二切。口を張るさま)。
這公案。洞下謂之借事問。亦謂之辨主問。用明當機。鹿與麈尋常易射。唯有麈中麈。是鹿中之王。最是難射。此麈鹿常於崖石上利其角。如鋒鋩頴利。以身護惜群鹿。虎亦不能近傍。這僧亦似惺惺。引來問藥山。用明第一機。山雲。看箭。作家宗師。不妨奇特。如擊石火。似閃電光。豈不見。三平初參石鞏。鞏才見來。便作彎弓勢雲。看箭。三平撥開胸雲。此是殺人箭活人箭。鞏彈弓弦三下。三平便禮拜。鞏雲。三十年。一張弓兩隻箭。今日只射得半箇聖人。便拗折弓箭。三平後舉似大顛。顛雲。既是活人箭。為什麼向弓弦上辨。三平無語。顛雲。三十年後。要人舉此話。也難得。法燈有頌雲。古有石鞏師。架弓矢而坐。如是三十年。知音無一箇。三平中的來。父子相投和。子細返思量。元伊是射垛。石鞏作略。與藥山一般。三平頂門具眼。向一句下便中的。一似藥山道看箭。其僧便作麈放身倒。這僧也似作家。只是有頭無尾。既做圈繢要陷藥山。爭奈藥山是作家。一向逼將去。山雲。侍者拕出這死漢。如展陣向前相似。其僧便走也好。是則是。爭奈不脫灑。粘腳粘手。所以藥山雲。弄泥團漢有什麼限。藥山當時。若無後語。千古之下遭人檢點。山雲。看箭。這僧便倒。且道。是會是不會。若道是會。藥山因什麼。卻恁麼道。弄泥團漢。這箇最惡。正似僧問德山。學人仗鏌鎁劍。擬取師頭時如何。山引頸近前雲。㘞。僧雲。師頭落也。德山低頭歸方丈。又巖頭問僧。什麼處來。僧雲。西京來。巖頭雲。黃巢過後。曾收得劍麼。僧雲。收得。巖頭引頸。近前雲。㘞。僧雲。師頭落也。巖頭呵呵大笑。這般公案。都是陷虎之機。正類此。恰是藥山不管他。只為識得破。只管逼將去。雪竇雲。這僧三步雖活。五步須死。這僧雖甚解看箭。便放身倒。山雲。侍者拕出這死漢。僧便走。雪竇道。只恐三步外不活。
この公案は、洞下では借事問といい、また辨主問ともいう。当機を明らかにするために用いる。鹿と麈は尋常は射やすい。ただ麈中の麈のみ、鹿中の王であって、最も射難い。この麈鹿は常に崖石の上でその角を利らせ、鋒鋩のごとく鋭く、身をもって群鹿を護り惜しむので、虎も近傍することができない。この僧もまた惺々としているようだ。引き出して薬山に問うたのは、第一の機を明らかにするためである。山はいう、箭を見よ。作家の宗師は、妨げなく奇特である。石を撃って出る火のごとく、電光に似たり。見ないか。三平が初めて石鞏を參じた時、鞏は来るのを見るや、すぐ弯弓の勢いを作していう、箭を見よ、と。三平は胸を撥き開けていう、これは人を殺す箭か、人を活かす箭か。鞏は弓弦を三度弾いた。三平はすぐ礼拝した。鞏はいう、三十年、一張の弓に二隻の箭。今日ようやく半箇の聖人を射得た、と。すぐ弓箭を拗折してしまった。三平は後にこれを大顛に挙して似せた。顛はいう、活人の箭である以上、なぜ弓弦の上に辨ずるのか。三平は語なし。顛はいう、三十年後、この話を挙する人を得るも、また得難い、と。法燈に頌があっていう、古に石鞏師あり、弓矢を架して坐す。かくのごとく三十年、知音は一個もなし。三平は的の中に来り、父子相投じ和す。子細に返りて思量すれば、もとよりそれ射垛なり、と。石鞏の作略は薬山と一般である。三平は頂門に眼を具え、一句の下にすぐ的に中った。ちょうど薬山が「箭を見よ」と道い、その僧がすぐ麈を作して身を放って倒れたがごとき。この僧もまた作家に似ている。ただ頭あって尾なし。すでに圈繪を作して薬山を陥れようとするも、いかんせん薬山は作家であって、一向に逼り将り去る。山はいう、侍者、この死んだ漢を拖り出せ。陣を展べて前に向かうに似たり。その僧がすぐ走るのもまたよい。是なりとはいえ、いかんせん脱洒せず、脚に粘り手に粘る。だから薬山はいう、泥団を弄ぶ漢に何の限りかあらん、と。薬山は当時、もし後の語がなければ、千古の下に人の檢點を遭ったであろう。山が「箭を見よ」といい、この僧がすぐ倒れた。さあ言え、これは会するか、会せぬか。もし会するというなら、薬山はなんのゆえに、かくのごとく「泥団を弄ぶ漢」と道うのか。これが最も惡い。まさに僧が德山に問うたに似る、学人が鎁鋣の劍を仗りて師の頭を取らんと擬する時はいかん。山は頸を引いて近づけていう、㘞。僧はいう、師の頭落ちたり。德山は低頭して方丈に歸る。また巖頭が僧に問う、什麼の処より来る。僧はいう、西京より来る。巖頭はいう、黃巢過ぎた後、曾て劍を収得したか。僧はいう、収得した。巖頭は頸を引き、近づいていう、㘞。僧はいう、師の頭落ちたり。巖頭は呵呵と大笑した。かくのごとき公案は皆、虎を陥れるの機であって、まさにこれに類する。まさに薬山は彼を管せず、ただ識り破るがために、ただ逼り将り去るのみ。雪竇はいう、この僧は三步は活すとも五步は須らく死すべし。この僧は甚だ箭を見るを解すとも、すぐ身を放って倒れ、山が「侍者、この死んだ漢を拖り出せ」というと僧はすぐ走る。雪竇はいう、ただ恐らくは三步の外では活せぬことを、と。
當時若跳出五步外。天下人便不奈他何。作家相見。須是賓主始終互換。無有間斷。方有自由自在分。這僧當時既不能始終。所以遭雪竇檢點。後面亦自用他語。頌雲。
(圜悟が続けていう)当時もし五步の外に跳出したならば、天下の人も彼を如何ともし得なかったであろう。作家の相見るは、須らく賓主が始終互換し、間断あることなく、方に自由自在の分あるべし。この僧は当時すでに始終なること能わず、ゆえに雪竇の檢點を遭う。後面もまた自ら他の語を用う。頌していう。
麈中麈(高著眼看。擎頭戴角去也)君看取(何似生第二頭走。要射便射。看作什麼)
麈中の麈(高く眼を著けて看よ。頭を擎げ角を戴いて去った)君は看取せよ(何ぞ生まれて第二の頭が走るに似ん。射んと要せばすぐ射よ。看て何を作す)
下一箭(中也。須知藥山好手)走三步(活鱍鱍地。只得三步。死了多時)五步若活(作什麼。跳百步。忽有箇死中得活時如何)
一箭を下す(中てり。須らく知るべし薬山の好手を)三步走る(活鱍鱍たる地。ただ三步を得るのみ。死して多時なり)五步若し活せん(何を作す。百步を跳ぶ。忽ち死中に活を得る時あるは如何)
成群趁虎(二俱並照。須與他倒退始得。天下衲僧放他出頭。也只在草窠裡)
群を成して虎を趁る(二倶に竝び照らす。須らく他と倒れ退いて始めて得べし。天下の衲僧が彼を出頭せしむるも、ただ草窠の裏に在るのみ)
正眼從來付獵人(爭奈藥山未肯承當這話。藥山則故是雪竇又作麼生。也不幹藥山事。也不幹雪竇事。也不幹山僧事。也不幹上座事)
正眼は從來獵人に付す(いかんせん薬山は未だこの話を承當すること肯んぜず。薬山は則ち故あれど、雪竇はまた作麼生。薬山の事に干らず、雪竇の事に干らず、山僧の事に干らず、上座の事に干らず)
雪竇高聲雲。看箭(一狀領過。也須與他倒退始得。打雲。已塞卻爾咽喉了也)
雪竇が高聲にいう、箭を見よ(一状を領過す。須らく他と倒れ退いて始めて得べし。打っていう、已に爾の咽喉を塞ぎ却たり)
麈中麈。君看取。衲僧家須是具麈中麈底眼。有麈中麈底頭角。有機關有作略。任是插翼猛虎戴角大蟲。也只得全身遠害。這僧當時放身便倒自道。我是麈。下一箭。走三步。山雲。看箭。僧便倒。山雲。侍者拕出這死漢。這僧便走也甚好。爭奈只走得三步。五步若活。成群趁虎。雪竇道。只恐五步須死。當時若跳得出五步外活時。便能成群去趁虎。其麈中麈。角利如鎗。虎見亦畏之而走。麈為鹿中王。常引群鹿。趁虎入別山。雪竇後面頌藥山亦有當機出身處。正眼從來付獵人。藥山如能射獵人。其僧如麈。雪竇是時因上堂。舉此語束為一團話。高聲道一句雲。看箭。坐者立者。一時起不得。
麈中の麈、君は看取せよ。衲僧の家は須らく麈中の麈の眼を具え、麈中の麈の頭角を有し、機関有り作略有るべし。たとえ翼を插した猛虎、角を戴いた大虫であっても、ただ全身して害を遠ざくるを得るのみ。この僧は当時身を放ってすぐ倒れて自らいう、我は麈なり、と。一箭を下し、三步走る。山が「箭を見よ」といい僧はすぐ倒れ、山が「侍者、この死んだ漢を拖り出せ」といい、この僧がすぐ走るのも甚だよい。いかんせんただ三步を走るのみ。五步若し活せば、群を成して虎を趁らん。雪竇はいう、ただ恐らくは五步は須らく死すべし、と。当時もし五步の外に跳び出でて活せば、すなわち能く群を成して虎を趁り、それ麈中の麈は角の利なること槍のごとく、虎も見てはこれを畏れて走る。麈は鹿中の王であって、常に群鹿を引き、虎を趁って別山に入る。雪竇は後面にまた薬山にも当機出身の処あるを頌ず。正眼は從來獵人に付す。薬山は能く射る獵人のごとく、その僧は麈のごとし。雪竇はこの時上堂に因り、この語を挙して一団の話に束ね、高聲に一句を道っていう、箭を見よ、と。坐する者立つ者、一時に起ち得ず。
垂示雲。竿頭絲線具眼方知。格外之機作家方辨。且道作麼生是竿頭絲線格外之機。試舉看。
垂示す。竿頭の絲線は眼を具えて方に知り、格外の機は作家に方に辨ず。さあ言え、どうなるが竿頭の絲線、格外の機か。試しに挙げて看よ。
【八二】舉。僧問大龍。色身敗壞。如何是堅固法身(話作兩橛。分開也好)龍雲。山花開似錦。㵎水湛如藍(無孔笛子撞著氈拍板。渾崙擘不破。人從陳州來。卻往許州去)。
【八二】挙す。僧が大龍に問う。色身は敗壞す。いかなるか堅固なる法身(話は两橛を作す。分け開くもまたよし)。龍はいう、山花は開きて錦に似たり、澗水は湛えて藍のごとし(孔なき笛子に氈拍板が撞着す。囫圇として擘き破れず。人は陳州より来り、卻って許州に往く)。
此事若向言語上覓。一如掉棒打月。且得沒交涉。古人分明道。欲得親切。莫將問來問。何故問在答處。答在問處。這僧擔一簷莽鹵。換一簷鶻突。致箇問端。敗缺不少。若不是大龍。爭得蓋天蓋地。他恁麼問。大龍恁麼答。一合相。更不移易一絲毫頭。一似見兔放鷹。看孔著楔。三乘十二分教。還有這箇時節麼。也不妨奇特。只是言語無味。杜塞人口。是故道。一片白雲橫谷口。幾多歸鳥夜迷巢。有者道。只是信口答將去。若恁麼會。盡是滅胡種族漢。殊不知。古人一機一境。敲枷打鎖。一句一言。渾金璞玉。若是衲僧眼腦。有時把住。有時放行。照用同時。人境俱奪。雙放雙收。臨時通變。若無大用大機。爭解恁麼籠天罩地。大似明鏡當臺。胡來胡現漢來漢現。此公案與花藥欄話一般。然意卻不同。這僧問處不明。大龍答處恰好。不見僧問雲門。樹凋葉落時如何。門雲。體露金風。此謂之箭鋒相拄。這僧問大龍。色身敗壞。如何是堅固法身。大龍雲。山花開似錦。㵎水湛如藍。一如君向西秦我之東魯。他既恁麼行。我卻不恁麼行。與他雲門一倍相返。那箇恁麼行卻易見。這箇卻不恁麼行卻難見。大龍不妨三寸甚密。雪竇頌雲。
この事をもし言語の上に求めんとすれば、一に棒を掉って月を打つがごとく、いささかも交涉なきを得るのみ。古人は分明にいう、親切を得んと欲せば、問を將て問に来す莫れ、と。何のゆえに、問は答の処に在り、答は問の処に在る。この僧は一担の莽鹵を担い、一担の鶻突に換え、個の問端を致して、敗缺すること少なからず。もし大龍ならざれば、怎んぞ蓋天蓋地を得ん。彼はかく問い、大龍はかく答う。一合相、更に一絲毫頭も移易せず。一に兎を見て鷹を放ち、孔を看て楔を著くるに似たり。三乘十二分教に、なおこの時節あらんか。妨げなく奇特なり。ただ言語味なく、人の口を杜塞す。これがゆえに道う、一片の白雲谷口を横たえ、幾多の歸鳥夜に巢を迷う、と。ある者はいう、ただ口に信じて答え將り去るのみ、と。もしこれのごとく会せば、尽く胡の種族を滅する漢なり。殊に知らず、古人の一機一境は枷を敲き鎖を打ち、一句一言は渾金璞玉なり。もし衲僧の眼腦ならば、或いは把住し或いは放行し、照用同時にして人境俱に奪い、雙放雙収、時に臨んで通變す。もし大用大機なくば、怎んぞかくのごとき籠天罩地を解せん。大に明鏡の臺に當たるに似て、胡来れば胡現れ漢来れば漢現る。この公案は花藥欄の話と一般なれど、然れど意は同じからず。この僧は問う処明らかならず、大龍は答うる処恰好なり。見ずや僧が雲門に問う、樹凋み葉落つる時如何。門はいう、體露して金風、と。これを箭鋒相い拄つという。この僧は大龍に問う、色身敗壞す、いかなるか堅固なる法身。大龍はいう、山花は開きて錦に似たり、澗水は湛えて藍のごとし。一に君は西秦に向かい我は東魯に之くに似たり。彼すでにかく行ず、我は卻ってかく行ぜず。彼の雲門と一倍相い返る。あれのかく行ずは卻って見やすく、これのかく行ぜざるは卻って見難し。大龍は妨げなく三寸甚だ密なり。雪竇が頌していう。
問曾不知(東西不辨。弄物不知名。買㡌相頭)答還不會(南北不分。換卻髑髏。江南江北)
問は曾て知らず(東西を辨ぜず。物を弄して名を知らず。帽を買いて頭に相す)答は還りて会せず(南北を分たず。髑髏を換え却す。江南江北)
月冷風高(何似生。今日正當這時節。天下人有眼不曾見。有耳不曾聞)
月冷え風高し(何ぞ生まれんや。今正にこの時節に當る。天下の人、眼有りて曾て見ず、耳有りて曾て聞かず)
古巖寒檜(不雨時更好。無孔笛子撞著氈拍板)堪笑路逢達道人(也須是親到這裡始得。還我拄杖子來。成群作隊恁麼來)
古巖の寒檜(雨ざる時は更によし。孔なき笛子に氈拍板が撞着す)笑うべし路に達道人に逢う(須らく是れ親しくここに到って始めて得べし。我の拄杖子を還せ。群を成し隊を作してかくのごとく来る)
不將語默對(向什麼處見大龍。將箇什麼對他好)
語默を將て對せず(什麼の処に向かって大龍を見ん。個の什麼を將て彼に對すればよきか)
手把白玉鞭(一至七拗折了也)驪珠盡擊碎(留與後人看。可惜許)
手に白玉の鞭を把る(一より七まで拗折したり)驪珠盡く擊碎す(留めて後人に看せしめん。惜しいことなり)
不擊碎(放過一著。又恁麼去)增瑕纇(弄泥團作什麼。轉見郎當。過犯彌天)
擊碎せざれば(一著を放過す。又かくのごとく去る)瑕類を增す(泥団を弄して何を作す。轉じて郎當を見る。過犯天に彌る)
國有憲章(識法者懼。朝打三千暮打八百)三千條罪(只道得一半在。八萬四千無量劫來墮無間業。也未還得一半在)
國に憲章あり(法を識る者は懼る。朝に三千を打ち暮に八百を打つ)三千條の罪(ただ一半を道い得て在り。八萬四千無量劫より來り無間業に墮つるも、未だ一半を還し得ず在り)
雪竇頌得。最有工夫。前來頌雲門話。卻雲。問既有宗。答亦攸同。這箇卻不恁麼。卻雲。問曾不知。答還不會。大龍答處傍瞥。直是奇特。分明是誰恁麼問。未問已前。早納敗缺了也。他答處俯能恰好。應機宜道。山花開似錦。㵎水湛如藍。爾諸人如今作麼生會大龍意。答處傍瞥。直是奇特。所以雪竇頌出。教人知道月冷風高。更撞著古巖寒檜。且道他意作麼生會。所以適來道。無孔笛子撞著氈拍板。只這四句頌了也。雪竇又怕人作道理。卻雲。堪笑路逢達道人。不將語默對。此事且不是見聞覺知。亦非思量分別。所以雲。的的無兼帶。獨運何依賴。路逢達道人。不將語默對。此是香巖頌雪竇引用也。不見僧問趙州。不將語默對。未審將什麼對。州雲。呈漆器。這箇便同適來話。不落爾情塵意想。一似什麼。手把白玉鞭驪珠盡擊碎。是故祖令當行十方坐斷。此是劍刃上事。須是有恁麼作略。若不恁麼。總辜負從上諸聖。到這裡要無些子事。自有好處。便是向上人行履處也。既不擊碎。必增瑕纇。便見漏逗。畢竟是作麼生得是。國有憲章三千條罪。五刑之屬三千。莫大於不孝。憲是法章是條。三千條罪。一時犯了也。何故如此。只為不以本分事接人。若是大龍必不恁麼也。
雪竇の頌し得るは、最も工夫有り。前來雲門の話を頌じては卻いう、問既に宗有り、答もまた攸同なり、と。これは卻ってかくあらず、卻っていう、問は曾て知らず、答は還りて会せず、と。大龍は答うる処傍瞥にして、直に是れ奇特なり。分明に是れ誰かかく問う。未だ問わざる已前、早く敗缺を納めたり。彼は答うる処俯能く恰好にして、機宜に應じて道う、山花は開きて錦に似たり、澗水は湛えて藍のごとし、と。你の諸人、如今いかにして大龍の意を会せん。答うる処傍瞥にして、直に是れ奇特なり。これがゆえに雪竇は頌じ出して、人をして月冷え風高しを知らしめ、更に古巖の寒檜に撞着す。さあ言え彼の意はいかに会するや。これがゆえに適來道う、孔なき笛子に氈拍板が撞着す、と。ただこの四句頌すのみ。雪竇は又人の道理を作すを怕れて、卻っていう、笑うべし路に達道人に逢う、語默を將て對せず、と。この事は且つ是れ見聞覺知にあらず、亦た思量分別に非ず。これがゆえにいう、的として兼帶なく、獨り運らして依頼あらんや、と。路に達道人に逢う、語默を將て對せず。これは香嚴の頌を雪竇が引用するなり。見ずや僧が趙州に問う、語默を將て對せずとは、未だ審らかならず何を將て對せん。州はいう、漆器を呈す、と。これはすなわち適來の話に同じく、你の情塵意想に落ちず。一に什麼に似たるか。手に白玉の鞭を把り驪珠盡く擊碎す。これがゆえに祖令當に行われ十方坐断す。これは劍刃の上の事、須らく是れかくのごとき作略有るべし。もしかくあらずんば、總じて從上の諸聖を辜負せん。ここに到っては些子の事無きを要す。自ら好處有り、便ち是れ向上の人の行履の処なり。既に擊碎せざれば、必ず瑕類を增し、便ち漏逗を見る。畢竟は是れいかにして得るべきか。國に憲章あり三千條の罪。五刑の屬三千、不孝より大なるは莫し。憲は法、章は條なり。三千條の罪、一時に犯す。何のゆえにかくのごとくなる。ただ本分の事を以て人に接せざるが為のみ。もし大龍ならば必ずかくあらざるなり。
【八三】舉。雲門示眾雲。古佛與露柱相交。是第幾機(三千里外沒交涉。七花八裂)自代雲(東家人死。西家人助哀。一合相不可得)南山起雲(乾坤莫覩。刀斫不入)北山下雨(點滴不施。半河南半河北)。
【八三】挙す。雲門が衆を示していう。古佛と露柱と相交わるは、是れ第幾の機か(三千里外に交涉なし。七花八裂)。自ら代わっていう(東家の人死ぬ、西家の人哀を助く。一合相は得べからず)南山に雲起る(乾坤睹る莫し。刀斫り入らず)北山に雨下る(点滴も施さず。半は河南半は河北)。
