第二十首 進(驚蟄)
進:陽引而進,物出溱溱,開明而前。
「進」は前進の義にして、第二十首と為り、驚蟄に値り、冬至後第八十五日半より第九十日に至るを主る。陽気は万物を牽引して前に向かい、万物は涌涌然として地面を冒出し、開朗光明に推進す。此の首は進の分寸を講ず:進は正当の憑借を有するを要し、亦可行の路経を有するを要す。
初一:冥進否,作退母。測曰:冥進否,邪作退也。次二:進以中刑,大人獨見。測曰:進以中刑,刑不可外也。次三:狂章章,不得中行。測曰:狂章章,進不中也。
初一:暗中に於て钻営して前進す、行う可からず、反って後退の根由と成る。測辞に曰く:暗くして進みて正ならざるは、走るは邪路にして、出でれば便ち退なり。次二:適中の法度に依りて前進す、只だ大人のみ此の如き見識有り。測辞に曰く:中刑を以て進むは、刑法は常度の外に施す可からざるなり。次三:狂躁にして張揚、中正の路に走上る能わず。測辞に曰く:狂として章章たるは、進みて中道に合せざるなり。
次四:日飛懸陰,萬物融融。測曰:日飛懸陰,君道隆也。次五:進以欋疏,或杖之扶。測曰:進以欋疏,制於宗也。次六:進以高明,受址無疆。測曰:進以高明,其道迂也。
次四:太陽は高く飛び、陰翳を懸開し、万物は一片融和なり。測辞に曰く:日は飛び陰を懸ぐは、君主の道の興隆するなり。次五:耙歯の如き疏具を拄きて前進す、還た人の拐杖を扶くるに靠らざる可からず。測辞に曰く:欋疏を以て進むは、宗族尊長に受制するなり;行動は自主する能わず、進むに吃力なり。次六:高遠明達に凭りて前進す、承受する基址は広大無辺なり。測辞に曰く:高明を以て進むは、此の路は走るに迂遠なり;志向愈高ければ、路程も亦愈長し。
次七:進非其以,聽咎窒耳。測曰:進非其以,毀滋章也。次八:進於淵,君子用船。測曰:進淵用船,以道行也。上九:逆馮山川,三歲不還。測曰:逆馮山川,終不可長也。
次七:不正当の憑借に靠りて身を進め、人の指責するを聴けば便ち耳朵を堵上す。測辞に曰く:其の以る所に非ざるに進むは、毀謗は愈々昭彰するなり。次八:深淵の裏に往かんと要するに、君子は便ち船を用う。測辞に曰く:淵に進みて船を用うるは、正当の方法に依りて事を行うなり;難処は敢えて進むか否かに在らず、合用の器具有るか否かに在り。上九:水勢に逆らいて徒歩にて山川を強渡す、三年も帰り来たる能わず。測辞に曰く:逆らいて山川に馮ぐは、終に長久する能わざるなり;《論語》は「暴虎馮河」を譏る、正しく此の一類なり。
第二十一首 釈(驚蟄・春分)
釋:陽氣和震,圜煦釋物,咸稅其枯,而解其甲。
「釈」は消釈・解散の義にして、第二十一首と為り、驚蟄の末に当たり春分に交り、冬至後第九十日より第九十四日半に至るを主る。陽気は和暖にして震動し、周遍として万物を煦育し、之を皆枯槁の外殻を脱去し堅硬の甲皮を解开せしむ。此の首は兼ねて《周易》の《解》《震》の両義を取る:震動は手段にして、消解は結果なり。
初一:動而無名,酋。測曰:動而無名,不可得名也。次二:動於向景。測曰:動於向景,不足觀聽也。次三:風動雷興,從其高崇。測曰:風動雷興,動有為也。
初一:動けるも而も名聲を求めず、反って能く成有り。測辞に曰く:動きて名無きは、本より名を取らんと打算せざるなり;無名の動は、做起して反って成り得るなり。次二:只だ日影に向かう処に於て動き動くのみ。測辞に曰く:景に向かいて動くは、看るに値せず聴くに値せず;専ら人に見せる動作は皆虚なり。次三:風は一動し、雷は跟いて興起し、皆那の高大崇隆の勢に順従す。測辞に曰く:風動き雷興るは、動けば便ち作為する所有る要なり。
次四:動之丘陵,失澤朋。測曰:動之丘陵,失下危也。次五:和釋之脂,四國之夷。測曰:和釋之脂,民說無疆也。次六:震於庭,喪其和貞。測曰:震於庭,和正俱亡也。
次四:丘陵高処に動き去り、水沢の裏の同伴を丟下す。測辞に曰く:丘陵に之くは、下面の支持を失掉して危険に陥入するなり。次五:調和融化の油脂の如くに衆人を潤沢す、四方邦国は此に因りて平安なり。測辞に曰く:和釈の脂は、百姓の喜悦無辺なり;解凍の世は寛和を以て要と為す。次六:自家庭院の裏に於て大いに雷霆を発す、和順と貞正とを喪失す。測辞に曰く:庭に震うは、和と正と一斉に失掉するなり。
次七:震震不侮,濯漱其訽。測曰:震震不侮,解恥無方也。次八:震於利,顛仆死。測曰:震於利,與死行也。上九:今獄後谷,終說桎梏。測曰:今獄後谷,於彼釋殃也。
次七:四方を威震して而も人を欺侮せず、還た別人の自己に加えたる辱罵を洗滌干浄し得。測辞に曰く:震震として侮らざるは、耻辱を化解するに固定の成法無く、全て自己の度量を看るなり。次八:利益の為に暴起震動し、跌倒して命を斃す。測辞に曰く:利に震うは、死亡と同行するなり。上九:眼下は獄牢に身陷るも、後来却って山谷の安に入り、終に脚鐐手銬を卸下す。測辞に曰く:今は獄にして後は谷なりとは、灾殃の彼処に於て消釈を得るなり;釈首は此に至りて、苦尽きて解す。
第二十二首 格(春分)
格:陽乞內壯,能格乎群陰,攘而卻之。
「格」は格拒・抵御の義にして、第二十二首と為り、春分に値り、冬至後第九十四日半より第九十九日に至るを主る。陽気は内里に於て壮盛し、能く衆陰を格拒し、之を排斥退去せしむ。拒む所の者悪なれば則ち正を為し、拒む所の者善なれば則ち邪を為す;格は其の宜を得れば是れ護衛にして、格は其の宜を失えば是れ自傷なり。底本「陽乞」の「乞」は当に「気」の字の訛なるべし、今は照録して改めず。
初一:格內善,失貞類。測曰:格內善,中不宵也。次二:格內惡,幽貞。測曰:格內惡,幽貞妙也。次三:裳格鞶鉤,渝。測曰:裳格鞶鉤,無以制也。
初一:内心の善念を門外に拒げば、便ち正道の同類を失掉す。測辞に曰く:内善を格るは、心裏の不肖不明なるなり。次二:内心の悪念を門外に拒ぐ、暗中に於て正を得。測辞に曰く:内悪を格る、此の種の幽隠の処に於て正を守る功夫は最も精妙なり。次三:柔軟の下裳は大帯上の鉤環を格拒しに往けば、変る。測辞に曰く:裳は鞶鉤を格るは、柔軟の物は堅硬の物を制住し得ざるなり。
次四:畢格禽,鳥之貞。測曰:畢格禽,正法位也。次五:膠漆釋,弓不射,角不離。測曰:膠漆釋,信不結也。次六:息金消石,往小來奕。測曰:息金消石,美日大也。
次四:長柄の畢網を用いて飛禽を攔截す、此れは鳥に対付する正法なり。測辞に曰く:畢は禽を格るは、法度を正当の位置の上に擺到せるなり。次五:膠と漆と皆化開し、弓は射出す能わず、角も亦黏り牢めず。測辞に曰く:膠漆釈すは、信義の結得住ざるなり;上下の間は黏合の物を失い、何も格拒し得ず。次六:金属は熔蝕せられ、石頭は消磨せられ、去るは小なり、来るは大なり。測辞に曰く:金を息し石を消すは、美好の一天天として壮大するなり;慢工の堅を消すは、正しく格拒の上策なり。
次七:格其珍類,龜縞厲。測曰:格其珍類,無以自匡也。次八:格彼鞶堅,君子得時,小人鬄憂。測曰:格彼鞶堅,誼不得行也。上九:郭其目,鱎其角,不庳其體,濮。測曰:郭目鱎角,還自傷也。
次七:自己の珍貴の同類までも門外に拒げば、寶龜と白縞と皆招危の物と成る。測辞に曰く:其の珍類を格るは、再び能く自己を匡正する無きなり。次八:那の堅固の大帯を格拒しに往けば、君子は時に逢いて尚可なれど、小人は只だ剪除と憂患とに落得するのみ。測辞に曰く:彼の鞶堅を格るは、道義の行き通らざるなり;力は敵せずして強抗すれば、義も亦伸張するに由無し。上九:眼睛を城郭の如く大に瞪し、角を高高に翘起に矯め、身体は一点も低下するを肯んぜず、終に地に撲倒す。測辞に曰く:郭目鱎角とは、反って自己を傷うるなり。
第二十三首 夷(春分)
夷:陽氣傷,鬄陰無救瘣,物則平易。
「夷」は兼ねて平と傷との両義有り、第二十三首と為り、春分に値り、冬至後第九十九日より第一百零三日半に至るを主る。陽気は損傷を受け、陰気を剪除するも其の病痛を救治するに由無く、是に於て万物は平易に趨す。削平と創傷とは本是一事の両面にして、此の首は正しく此の両義の間に於て往复す。
初一:載幽貳,執夷內。測曰:載幽執夷,易其內也。次二:陰夷,冒於天罔。測曰:陰夷冒罔,疏不失也。次三:柔,嬰兒於號,三日不嗄。測曰:嬰兒於號,中心和也。
初一:幽暗の二心を懐くも、而も内里に於て平易を執守す。測辞に曰く:幽を載せて夷を執るは、内心を平順に整治するなり;心先ず平かにして、外面ぞ平かに下り得。次二:陰気は削平せらる、是れ它の上天の羅網を触犯せるなり。測辞に曰く:陰夷して罔を冒すは、天網は疏なりと雖も漏掉せざるなり;《老子》の謂う所の「天網恢恢、疎而不失」は正しく此の意なり。次三:柔和なり。嬰児は整天啼哭しても、三天も嘶啞せざるなり。測辞に曰く:嬰児の号于るは、心裏一団和気なり;《老子》は赤子の終日号して嗄れざるを称す、取るは就中和の至なり。
次四:夷其牙,或飲之徒。測曰:夷其牙,食不足嘉也。次五:中夷,無不利。測曰:中夷之利,其道多也。次六:夷於廬,其宅丘虛。測曰:夷乾廬,厥得亡也。
次四:牙歯を磨平せば、只だ湯を喝する人と為す能しのみ。測辞に曰く:其の牙を夷にする、此の如き飲食は称美に値せず;利器を自ら去れば、所得は便ち有限なり。次五:中位の上に於て平を取れば、不利無し。測辞に曰く:中夷の利は、此の路は行き通ずる処多きなり。次六:房舎を夷平せば、住処は荒丘廃墟と変成す。測辞に曰く:廬舎を夷平すれば、原有の所得も亦喪失す。底本測辞「夷干廬」の「干」は当に「于」の字の訛なるべし、今は照録す。
次七:乾柔乾弱,離木艾金,夷。測曰:乾柔,柔勝強也。次八:夷其角,厲。測曰:夷其角,以威傷也。上九:夷其耇,利敬病年,貞。測曰:夷耇之貞,懸事向也。
次七:軀干柔軟・軀干柔弱なるも、而も能く木頭を劈開し金属を割断す、平定せり。測辞に曰く:干の柔なるは、柔の能く強に勝るなり;《老子》は柔弱の剛強に勝るを講ず、此の賛は即ち其の一例なり。次八:角を削平す、危険なり。測辞に曰く:其の角を夷にするは、威勢太だ盛んなるに因りて傷を受くるなり。上九:老人への礼遇を削減し、只だ恭敬して彼の衰病の晚年を照料するに宜し、正を守るなり。測辞に曰く:耇を夷にするの貞は、事情の方向を懸定するなり;尊老の礼を傷うこと既に成れば、唯敬を以て相い補うのみ。
第二十四首 楽(春分・清明)
樂:陽氣出奧,舒疊得以和淖,物咸喜樂。
「楽」は喜楽の義にして、第二十四首と為り、春分の末に当たり清明に交り、冬至後第一百零三日半より第一百零八日に至るを主る。陽気は深奥の処より出でて、舒展重叠して和潤と変り、万物は皆歡喜快楽す。楽は其の正を得れば則ち衆人同楽し、楽は其の分を過ぎれば則ち楽極まりて悲を生ず、此の首は両頭皆講じ到る。
初一:獨樂款款,及不遠。測曰:獨樂款款,淫其內也。次二:樂不可支,辰於天。測曰:樂不可支,以時歲也。次三:不宴不雅,嘄呱啞咋,號啕倚戶。測曰:不宴不雅,禮樂廢也。
初一:独自一人款款として楽しみ、影響の及ぶ所は遠からず。測辞に曰く:独楽款款とは、享楽を自己一身に耽溺するなり。次二:快楽して支撑し住る能わず、那の時辰は上天の定むる所なり。測辞に曰く:楽は支う可からざるは、一年の時令に順いて来るなり;時に応ずるの楽にしてぞ正楽なり。次三:既に安閑ならず亦雅正ならず、尖叫呱噪・嗓子を哑して乱嚷し、門辺に靠りて号啕大哭す。測辞に曰く:宴ならず雅ならずとは、礼と楽と皆荒廃するなり。
次四:拂其繫,絕其纗,佚厥心。測曰:拂繫絕纗也。次五:鐘鼓喈喈,管絃嚌嚌,或承之衰。測曰:鐘鼓喈喈,樂後悲也。次六:大樂無間,民神禽鳥之般。測曰:大樂無間,無不懷也。
次四:繋縛を拂開し、繩結を割断し、彼の心を放縱す。測辞に曰く:系を拂い纗を絶つ――底本此の条の測辞は此の一句を仅存し、下に脱文有り、今は照録して補わず。次五:鐘鼓は和鳴鏘鏘、管弦は齊奏啾啾、接着して便ち衰敗を承受せん。測辞に曰く:鐘鼓喈喈とは、歡楽過後に必ず悲哀有るなり。次六:大なる和楽は間隔無く、百姓・神明・飛禽走獣は一同に盤桓娯楽す。測辞に曰く:大楽無間とは、帰心せざる人無きなり;六は福の隆に居り、楽は万物と同楽するの地步に到る。
次七:人嘻完暿,天之要期。測曰:人嘻鬼嘻,稱樂畢也。次八:嘻嘻自懼,亡後愆虞。測曰:嘻嘻自懼,終自保也。上九:極樂之機,不移日而悲。測曰:極樂之機,信可悔也。
次七:人は嬉笑し、天地も亦一片歡騰なり、此れは上天の約定する期限なり。測辞に曰く:人は嬉笑し、鬼も亦嬉笑す、称心の歡楽は此に到りて止む。賛辞は「完暿」と作り而も測辞は「鬼嘻」と作す、底本の用字は一ならず、今は各々原樣に依りて保留す。次八:嬉笑の中に仍お戒懼を存し、憂患過去之後は再び慮る可き差失無し。測辞に曰く:嘻嘻として自ら懼るは、終に自己を保全するなり;楽しみて懼を知るは、正しく楽を保つの法なり。上九:歡楽の極点に到る那の関口は、一天を用うるに及ばずして悲哀に転成す。測辞に曰く:極楽の機は、実に後悔すべきなり。
第二十五首 争(清明)
爭:陰氣泛施,不偏不頗,物輿爭訟,各遵其儀。
「争」は争訟の義にして、第二十五首と為り、清明に値り、冬至後第一百零八日より第一百一十二日半に至るを主る。陰気は普遍に施布し、偏袒せず亦傾側せず、万物は是に於て相与に争訟し、各自自己の那一套の儀法を援引す。此の首は《周易》の《訟》に相当す:争わざるを上と為し、争いて度有るを中と為し、争いて生死を顧みざるを下と為す。
初一:爭不爭,隱冥。測曰:爭不爭,道之素也。次二:嚇河臞。測曰:嚇河之臞,何可個也。次三:爭射齦齦。測曰:爭射齦齦,君讓鄰也。
初一:争うは争わざるの処に在りて、幽暗中に隠没す。測辞に曰く:不争に争る、此れは道の本色なり;人と争わざるは、正しく最高の争なり。次二:黄河に対して大声に恫嚇す、自己は而も枯痩不堪なり。測辞に曰く:河を嚇かすの臞は、此の分量を凭て怎麼当得起せんや。次三:射箭を比賽して争うこと面紅耳赤・齦齦として相持す。測辞に曰く:射に争いて齦齦たるは、国君も亦隣国に向かい相譲するなり;射礼は本より揖譲を以て主と為し、争うも亦礼を須とす。
次四:爭利,不酋貞。測曰:小利不絕,正道乃昏也。次五:爭於逵,利於無方。測曰:爭乾逵,爭處中也。次六:臂膊脛如,股腳瞋如,維身之疾。測曰:臂膊脛如,臣大隆也。
次四:一味に利益を争奪し、正道の帰宿に到らず。測辞に曰く:小利の上に糾纏して断たざれば、正道は便ち昏暗するなり。次五:四通八達の大路の上に於て公開に争う、利は一方に拘らざるに在り。測辞に曰く:逵に争うは、争いて能く中正の位置の上に立つなり。次六:手臂胳膊は粗壮、大腿小腿は瞋鼓す、此れは身体の毛病なり。測辞に曰く:臂膊脛如とは、臣下の勢力の隆盛太だ過ぐるなり;四肢は軀干に強過ぎるは、正しく尾大して掉さざるなり。
次七:爭於及矛革由,用亨於王前行。測曰:乾矛之爭,衛君躬也。次八:狼盈口,矢在其後。測曰:狼盈口,不顧害也。上九:兩虎相牙,知掣者全。測曰:兩虎相牙,知所掣也。
次七:干戈矛戟・皮革兵具の為に争い、之を君王面前に於て列陣前行に用う。測辞に曰く:干矛の争は、為に君王の身を護衛するが為なり;争いて兵器の上に到れば、唯公の為のみ立得住る。次八:狼は嘴を満満に塞げるも、箭は已に其の背後に射到る。測辞に曰く:狼の口に盈つるは、只顧吞噬して眼前の禍害を管せざるなり。上九:両只の老虎は互相撕咬し、抽身牽制を懂得する那一只是保全を得。測辞に曰く:両虎の相牙するは、貴ぶは何時手を収むべきかを知るに在り。
第二十六首 務(清明)
務:陰氣勉務,物咸若其心而摠其事。
「務」は勉力従事の義にして、第二十六首と為り、清明に値り、冬至後第一百一十二日半より第一百一十七日に至るを主る。陰気は勉力して事を用い、万物は皆自己の心意に順いて自己の那一份の事を総攬す。此の首は力を用うるを講ず:力は人に益有る処に用うるを要し、地方を用い錯れば、勤しければ愈々糟し。
初一:始務無方,小人亦用罔。測曰:始務旡方,非小人所理也。次二:新鮮自求,珍潔精其芳,君子攸行。測曰:新鮮自求,光於已也。次三:不拘不掣,其心腐且敗。測曰:不拘不掣,其體不全也。
初一:一事を做し始むるや便ち方向を漫無し、小人も亦此の弁法を用いて只だ一无所有に落得す。測辞に曰く:務を始むるも方無きは、此れは小人の料理し得るに非ざるなり。測辞中の「旡」は「无」の古字にして、底本此の如し、今は照録す。次二:新鮮潔浄を以て己に自求す、潔白を珍重して其の芬芳を精純す、此れは君子の行う所の路なり。測辞に曰く:新鮮にして自ら求むるは、光輝の自己身上に落るるなり。次三:既に約束を加えず、亦牽引を加えず、彼の心は便ち腐壊敗爛す。測辞に曰く:拘せず掣せざるは、形体までも保全し得ざるなり。
次四:見矢自升,利羽之朋,蓋戴事載。測曰:矢及蓋,道然也。次五:蜘蛛之務,不如蠶之緰。測曰:蜘蛛之務,無益於人也。次六:華實芳若,用則臧若。測曰:華芳用臧,利當年也。
次四:箭の自ら升上去するを見る、那れは羽毛の此一伙に得力するなり;車蓋の頂起して物を承載し得るも、亦同一个の道理なり。測辞に曰く:箭の射得及する所以・蓋の承得住る所以は、道理本より此の如し;事を成すは皆輔助の物に靠るを要す。次五:蜘蛛は力を尽して網を結ぶも、蚕の吐出す細絲に比せず。測辞に曰く:蜘蛛の務は、人に対して益処無きなり;一样に絲を吐くも、有益無益は判然両途なり。次六:花と果と皆芬芳にして、之を用うれば便ち美好なり。測辞に曰く:華芳にして用い臧きは、利は当年に在るなり;勉力して実効有るを、始めて真の務と叫ぶ。
次七:喪其芳,無攸往。測曰:喪其芳也,德以衰也。次八:中黃免於禍,貞。測曰:黃中免禍,和之正也。上九:務成自敗,雨成自隊。測曰:務成自敗,非厥命也。
次七:自己の芬芳を喪失せば、便ち往く可き処無し。測辞に曰く:其の芳を喪うは、徳行の此に由りて衰敗するなり。次八:中央の黄色を守住して禍患を免る、正を得。測辞に曰く:黄中にして禍を免るる、此れは中和の徳の正用なり。上九:勉力して成を求めて反って自ら敗壊を取る、好比として雨の積ること太だ満つれば自己便ち墜落せんとするが如し。測辞に曰く:務は成りて自ら敗るる、此れは命裏の注定に非ず、自己の力を用うること頭を過せるに因るなり。
第二十七首 事(清明)
事:陽氣大勖昭職,物則信信各致其力。
「事」は任事・職事の義にして、第二十七首と為り、清明に値り、冬至後第一百一十七日より第一百二十一日半に至るを主る。陽気は大いに勉励して各自の職分を昭示し、万物は是に於て誠誠懇懇、各々其の力量を尽す。此の首は職守を講ず:位と事とは相称するを要し、男女長幼は各々其の分有り、分を越えて為さば便ち乱なり。
初一:事無事,至無不事。測曰:事無事,以道行也。次二:事在樞,不咎不訁奏,喪其哲符。測曰:不諮不訁奏,其知亡也。次三:時往時來,間不容犛。測曰:時時來,不知趣也。
初一:事を為して事無きが如くにし、到頭来は一事とて成さざる無し。測辞に曰く:事に事なきは、道に依りて往きて行い、張羅に靠らざるなり。次二:事情の関鍵は皆枢紐の上に在り、既に咨詢せず亦商議せず、便ち明智の憑信を喪失す。測辞に曰く:咨せず商せざれば、彼の智慧は便ち無くなる。賛辞は「不咎」と作り而も測辞は「不咨」と作す、「診」は又底本の偏旁を拆开して写したる一つの字なり、今は皆原樣に照りて存録す。次三:時機は一来一去、中間は一根の牦毛の空隙をも容下せず。測辞に曰く:時機は再三到来するも趨赴するを知らず。底本此の条の測辞は一つの「往」の字を脱す、今は補わず。
次四:男女事,不代之字。測曰:男女事,非厥務也。次五:事其事,王假之食。測曰:事其事,職所任也。次六:任大自事,方來不救。測曰:任大自事,奚可堪也。
次四:男子は女子の事を做りに往くも、終に彼女に替りて生養する能わず。測辞に曰く:男女互いに其の事を易うるは、彼の分内の為すべきに非ざるなり。次五:各々其の分内の事を做れば、君王は便ち彼に俸禄を賜う。測辞に曰く:其の事を事とするは、職分の任ずべき所なり;五は福の中に居り、正しく其の位を得。次六:担子は太だ大にして事事皆親自に做せんと要すれば、四方より来る事は便ち皆顧及し過来ず。測辞に曰く:大を任じて自ら事とするは、怎麼承担し得了せんや;大位に居る人は分授を知らざれば、必ず疲敝に至る。
次七:丈人扶孤,豎子提壼。測曰:丈人扶孤,小子知方也。次八:女男事,十年不誨。測曰:女男事,終家不亨也。上九:到耳順止,事貞。測曰:到耳順止,逆聞順行也。
次七:老成の長者は孤弱を扶助し、年少の僮僕は酒壺を提げて旁に侍奉す。測辞に曰く:丈人は孤を扶くは、小輩の此に由りて事を為すの方向を懂得するなり;上に率いる所有れば、下に法る所有らん。次八:女子は男子の事を做りに往く、十年も教え過来ず。測辞に曰く:女男互いに其の事を易うるは、一家は終に亨通する能わず。上九:刺耳の話を聴いて能く順受して而る後に止息す、事を為して正を得。測辞に曰く:耳に到りて順にして止むは、逆耳の言を聴入れて、事情は便ち順いて做り下るなり;此の首は能く諫を納るるを以て収束す、正しく任事の要を見る。
第二十八首 更(清明・穀雨)
更:陽氣既飛,變勢易形,物改其靈。
「更」は変更・改易の義にして、第二十八首と為り、清明の末に当たり穀雨に交り、冬至後第一百二十一日半より第一百二十六日に至るを主る。陽気は已に飛揚起り、形勢は変り、形体も亦改り、万物は自己の神気を換う。此の首は《周易》の《革》に相当す:当に変ずべきに変ずるは是れ善にして、変ずべからざるに変ずるは是れ妄にして、当に変ずべきに変変ぜざるは是れ病なり。
初一:冥化否貞,若性。測曰:冥化否貞,少更方也。次二:時七時九,軫轉其道。測曰:時七時九,不失當也。次三:化白於泥,淄。測曰:化白於泥,變不明也。
初一:幽暗中に於て変化して正を守らず、那副の様子は倒れて天性本より此の如くに似る。測辞に曰く:冥化して貞ならざるは、正路に変ること少なきなり。次二:時に七を用い、時に九を用いて轉動して自己の路数を調整す。測辞に曰く:時に七時に九は、其の当を失わざるなり;七は少陽の数、九は老陽の数、此処は借りて屈伸有度を指す。次三:白き物を泥の裏に放ち入れて変えば、便ち黒に変る。測辞に曰く:白を泥に化するは、変じて不明不白なるなり。
次四:更之小得,用無不利。測曰:更之小得,民所望也。次五:童牛角馬,不今不古。測曰:童牛角馬,變天常也。次六:入水載車,出水載杭,宜於於之更。測曰:車杭出入,其道更也。
次四:一点点を改動して所得有れば、之を用うに往きて利ならざる無し。測辞に曰く:更の小得は、正しく百姓の盼望する所なり;小改して実恵を見るは、大動干戈に勝れり。次五:牛に角を去らしめ馬に角を安上すれば、既に今制に合せず亦古法に合せず。測辞に曰く:童牛角馬は、天の常道を改変するなり。次六:水に入る時は船を以て車を載せ、水より出づる時は車を以て船を載す、此の如き更換にしてぞ合宜なり。測辞に曰く:車と船とは出入に随いて更換す、正しく変通の道なり。底本「宜于于之更」は一つの「于」の字を重出す、今は照録す。
次七:更不更,以作病。測曰:更不更,不能自臧也。次八:駟馬跙跙,能更其御。測曰:駟馬跙跙,更御乃良也。上九:不終其德,三歲見代。測曰:不終之儀,不可久長也。
次七:該変ずるに変ぜず、此に因りて病を生出す。測辞に曰く:更ざるを更ずは、自己の自ら安頓し好不齧るなり。次八:四匹の馬は車を拖して走ること踉蹌して前せず、那の駕車の人を換えれば便ち好し。測辞に曰く:駟馬跙跙とは、御者を換えてこそ転好す;馬の跑動せざるは、多半是駕車の人の不行なり。上九:自己の徳行を守住して到底せざれば、三年之内に就中人に取代せらる。測辞に曰く:終を有する能わざるの儀範は、長久する能わざるなり。
第二十九首 断(穀雨)
斷:陽氣強內而剛外,動能有決斷。
「断」は決断の義にして、第二十九首と為り、穀雨に値り、冬至後第一百二十六日より第一百三十日半に至るを主る。陽気は内里強盛にして外表剛硬、一動すれば便ち決断する所有り。断は心に在るを上と為し、事に在るを中と為し、濫断妄断を下と為し、此の首は依次に此の三層を説尽す。
初一:斷心滅斧,冥其規矩。測曰:斷心滅斧,內自治也。次二:冥斷否,在塞耳。測曰:冥斷否,中心疑也。次三:決其聾鼻至□,利以治穢。測曰:決其聾鼻至□,利以有謀也。
初一:心の上より断ず、斧頭を用うるに及ばず、暗中自ら彼の規矩有り。測辞に曰く:心を断じ斧を滅すは、内里に於て自我整治するなり;真の果決は先ず念頭の上に断ず。次二:暗中に作出する決断は正ならず、毛病の出づるは耳朵を堵住せるに在り。測辞に曰く:冥断否は、心裏本より疑惑不定なればなり。次三:那の壅塞の聴覚と嗅覚とを疏通し、直到して……穢濁を清除するに利あり。測辞に曰く:聾鼻を疏通するは、謀画する所有るに利あり。此の賛と測辞とは底本各々一字を缺く、今は「□」を以て標出し、臆補を作さず。
次四:斷我否,食非其有,恥。測曰:斷我否,食可恥也。次五:大腹決,其骨脫,君子有斷,小人以活。測曰:大腹決脫,斷的有理也。次六:決不決,爾仇不闊,乃後有鉞。測曰:決不決,辜及其身也。
次四:該断ずべき我を断ぜず、吃るは又自己の該得に非ず、可恥なり。測辞に曰く:我を断ぜずは、此の如き飲食は可恥なり。次五:脹満の大肚子を剖開せば、骨頭は皆脱し出ず;君子は此に由りて決断有り、小人は反って此に因りて命を活く。測辞に曰く:大腹は決脱すは、断ること中肯有理なり;骨を刮り毒を療すは、狠なるに道理有り。次六:該決断するに而も決断せざれば、爾の仇敵は並に遠走せず、往後は便ち斧鉞の身に臨む有り。測辞に曰く:決せざるを決せずは、罪咎は終究自己の身上に落る。
次七:庚斷甲,我心孔碩,乃後有鑠。測曰:庚斷甲,誼斷仁也。次八:勇侏之傠,盜蒙決夬。測曰:盜蒙之決,妄斷也。上九:斧刃蛾蛾,利匠人之貞。測曰:蛾蛾之斧,利徵亂也。
次七:庚金を以て甲木を断ず、我が心地は十分宏大にして、後来自ずから熔鋳の功有らん。測辞に曰く:庚は甲を断ずは、義を以て仁を断ずるなり;庚は金に属して刑殺を主り、甲は木に属して生発を主る、心を狠げるを得てぞ義なり。次八:勇夫侏儒式の討伐、盗賊も亦臉を蒙いて彼の決断を行い来る。測辞に曰く:盗蒙の決は、胡乱の決断なり;同一个の「断」の字も、盗賊の手裏に落れば便ち禍と成る。上九:斧刃は磨きて雪亮として蛾眉の如く、工匠の正を守りて之を用うるに利あり。測辞に曰く:蛾蛾の斧は、禍乱を征討するに利あり;利器は之を拿るべき人の手上に交到するを要す。
