第三十首 毅(穀雨)
毅:陽氣方良,毅然敢行,物信其志。
「毅」は剛毅果敢の義にして、第三十首と為り、穀雨に値り、冬至後第一百三十日半より第一百三十五日に至るを主る。陽気は正しく良好の時に当たり、毅然として行動するを敢えてす、万物は皆自己の志向を伸展す。毅は心腹と棟梁との上に毅するを要す;言語形貌の上に毅すれば、便ち只是虚張声勢なり。
初一:懷威滿虛。測曰:懷威滿虛,道德亡也。次二:毅於心腹,貞。測曰:毅於心腹,內堅剛也。次三:戴威滿頭,君子不足,小人有餘。測曰:戴威滿頭,小人所長也。
初一:心裏に威勢を揣満す、其実は一肚子の空虚なり。測辞に曰く:威を懐きて虚に満つるは、道徳は已に無くなるなり。次二:剛毅は心腹の内に在り、正を得。測辞に曰く:心腹に毅するは、内里堅強剛定なるなり。次三:威厳を頭上に顶いて満臉に擺し尽くす、此れは君子に於ては還た足らずと嫌い、小人に於ては已に綽綽として余有り。測辞に曰く:威を頭に満戴するは、正しく小人の擅長する那一套なり。
次四:君子說器,其言柔且毅。測曰:君子說器,言有方也。次五:不田而轂,毅於楝祿。測曰:不田而轂,食不當也。次六:毅於棟柱,利安大主。測曰:國任強也。
次四:君子は器物制度を談論す、彼の話は柔和にして又堅定なり。測辞に曰く:君子は器を説くは、言語に法度有るなり;柔中に毅を帯ぶ、ぞ剛の正用なり。次五:田に下りて耕作せずして車子に坐り、還た棟梁の如き高禄の上に剛強を逞くす。測辞に曰く:田せずして轂するは、享用の正当ならざるなり。次六:剛毅は棟梁支柱の如く、君主を安定するに利あり。測辞に曰く:此れは国家の強固の倚仗を有するなり。
次七:觥羊之毅,鳴不類。測曰:觥羊之毅,言不法也。次八:毅於禍貞,君子攸名。測曰:毅於禍貞,不可幽蔀也。上九:豕希毅其牙,發以張弧。測曰:豕希毅其牙,吏所獵也。
次七:大角公羊の如き剛猛、叫ぶこと腔調を成さず。測辞に曰く:觥羊の毅は、説く話の法度に合せざるなり;徒らに蛮劲有りて条理無し。次八:身は禍患の中に処るも仍お毅然として正を守り、君子は此に由りて名を得。測辞に曰く:禍に於て貞に毅する、此の如き人は遮蔽し住る能わざるなり。上九:野猪は獠牙を磨きて又硬く又利なり、人は便ち弓弩を張開して之に対付す。測辞に曰く:豕は其の牙を毅にするは、正しく官吏の猟取せんと要する対象なり;一味に其の鋒利を逞くすは、恰好囲猟を招来す。
第三十一首 装(穀雨・立夏)
裝:陽氣雖大用事,微陰據下,裝而欲去。
「装」は整装・行装の義にして、第三十一首と為り、穀雨の末に当たり立夏に交り、冬至後第一百三十五日より第一百三十九日半に至るを主る。陽気は大権を握有するに雖も、微弱の陰気は已に下面に盤踞し、行装を收拾して離去せんと打算す。此の首は行止を講ず:該走る時に装束停当たるは是れ明にして、走るべからざるに慌張出走するは是れ乱なり。
初一:幽裝,莫見之行。測曰:幽裝莫見,心己外也。次二:哥鳥鵝慘於冰,翼彼南風,內懷其乘。測曰:哥鳥鵝之慘,懷憂無快也。次三:往其志,或承之喜。測曰:往其志,遇所快也。
初一:暗地裏に行装を收拾し、彼の行動を見る人無し。測辞に曰く:幽装して見る莫きは、心思は早已に外頭に在るなり。次二:鴚鵝は氷の上に於て凄惨の苦を受く、只だ那の南来の風を借りて翅膀を張る能しのみ、心裏に一份の可乘の機を存す。測辞に曰く:鴚鵝の惨は、憂愁を懐きて一刻の痛快も無きなり。底本「哥鳥」は偏旁を拆开して写したる「鴚」の字なり、今は原樣に照りて存録す。次三:径直に彼の志向を実現しに往けば、随后に便ち喜慶の相接する有り。測辞に曰く:其の志に往くは、称心の事に遇上せるなり。
次四:軍鳥雞朝飛足卒於北,嚶嚶相和不輟食。測曰:軍鳥雞朝飛,何足賴也。次五:鴻裝於淄,飲食頤頤。測曰:鴻裝於淄,大將得志也。次六:經六衢,周九路,不限其行,賈。測曰:經六衢,商旅事一也。
次四:野鶏は清晨に飛起し、北辺に於て跌落し来る、一路は嘤嘤として相和するも、仍お啄食を停下するを肯んぜず。測辞に曰く:野鶏朝に飛ぶ、此れ何の倚頼すべき有らんや;行装未だ整わずして急ぎて起飛すれば、落地すれば便ち狼狽と成る。底本「軍鳥」「足卒」は皆偏旁を拆开して写したる字なり、今は原樣に照りて存録す。次五:鴻雁は整装して淄水の辺に停り、従容として飲食し、頤養自得なり。測辞に曰く:鴻は淄に装すは、大将の其の志を遂げるを得るなり;遠く行かんとするは先ず気力を養足するを要す。次六:六条の通衢を経過し、九条の大路を周行し、自己の行程に限を設けず、経商する可し。測辞に曰く:六衢を経るは、商旅の事は貴ぶは一心に行に在るなり。
次七:裝無離,利徵咎。測曰:裝無離,禍且至也。次八:季仲播軌,泣於道,用送厥往。測曰:季仲播軌,送其死也。上九:裝於昏。測曰:裝於昏,尚可避也。
次七:行装を收拾停当するも而も離去するを肯んぜず、只だ責咎を招来するに利あり。測辞に曰く:装して離れざるは、禍事は就中来たらんとするなり;該走るに走らざれば、反って禍端と成る。次八:兄弟たちは車轍を路上に撒布し、道旁に於て哭泣して、彼の為に送行す。測辞に曰く:季仲は軌を播くは、送るは其実は彼の死なり。上九:黄昏の時に到りてぞ行装を收拾す。測辞に曰く:昏に装すは、還た躲開するに及ぶ;已に最後の関頭に到ると雖も、夜色に趁て走れば仍お一線の生路有り。
第三十二首 衆(立夏)
眾:陽氣信高懷齊,萬物宜明,嫭大眾多。
「衆」は衆多・師衆の義にして、第三十二首と為り、立夏に値り、冬至後第一百三十九日半より第一百四十四日に至るを主る。陽気は高処に伸展し、齊一を懐抱し、万物は当に顕明なるべく、壮美にして繁多なり。此の首は《周易》の《師》に相当し、通篇兵を借りて衆を講ず:衆を得るは徳に在りて威に在らず、兵を用うるは貴ぶは刀刃に血を沾さしめざるに在り。
初一:冥兵始,火入耳,農輟谷,尸將班于田。測曰:冥兵之始,始則不臧也。次二:兵無刃,師無陳,麟或嬪之,溫。測曰:兵無刃,德服無方也。次三:軍或累車,丈人摧孥,內蹈之瑕。測曰:軍或累車,廟戰內傷也。
初一:暗中に兵を動かすの開端、警訊は火の如くに耳朵の裏に焼進し、農夫は庄稼を丟下し、尸首は将に田野の上に陳列せんとす。測辞に曰く:暗中に兵を起すは、一開頭に便ち好事に非ず。次二:兵器は刃を開かず、軍隊は陣を列せず、麒麟までも来りて帰附す、温和なり。測辞に曰く:兵は刃無きは、徳を以て人を服せしめて一方に拘らざるなり;戦わずして人の兵を屈する、ぞ上策なり。次三:軍中は一輛輛の車は堆曇壅塞し、長者は自己の妻児を摧折し、内部は先ず裂痕を踩出す。測辞に曰く:軍或いは車を累ぐは、廟堂上の謀算は先ず自家を傷うるなり。
次四:虎虓振廞,豹勝其私,否。測曰:虎虓振廞,如鷹之楊也。次五:躆戰喈喈,若熊若螭。測曰:躆戰喈喈,恃力作王也。次六:大兵雷霆,震其耳,維用詘腹。測曰:大兵雷霆,威震無疆也。
次四:老虎は咆哮して威勢を抖擻す、豹子は而も只顧其の一己の私を逞くす、行う可からず。測辞に曰く:虎は虓りて廞を振るは、鷹隼の飛揚するが如き声勢の逼人なり;徒らに声勢有りて各々私心を懐けば、終究事を成す能わず。次五:踞守して戦い、喊声陣陣、熊の如く・螭の如く凶猛なり。測辞に曰く:躆戦喈喈とは、武力を倚仗して王を称さんと欲するなり。次六:大軍の声威は雷霆の如く耳を震わし、只だ人を屈身斂服せしむる能し。測辞に曰く:大兵雷霆とは、威勢の震動して無辺無際に及ぶなり。
次七:旌旗絓羅,乾銊蛾蛾,師孕唁之哭且目買。測曰:旌旗絓羅,大恨民也。次八:兵衰衰,見其病,不見輿尸。測曰:兵衰衰,不血刃也。上九:測曰:也。
次七:旌旗は掛結して羅網の如く、干戈斧鉞は森然として林の如く、軍中に懐孕の婦人は来りて吊唁し、一辺哭いて一辺大眼睛を睜きて望着す。測辞に曰く:旌旗絓羅とは、大いに百姓に怨を結ぶなり。底本「目買」は偏旁を拆开して写したる一つの字なり、今は原樣に照りて存録す。次八:軍力は一天天として衰弱し下り、只だ其の病有るを見るも、而も尸を載せて帰るを見ず。測辞に曰く:兵の衰衰たるは、刀刃に血を沾さしめざるなり;衰うると雖も而も覆亡に至らず、還た保全を算す。上九:底本此の賛の賛辞と測辞とは全部脱落し、只だ「上九」「測曰」「也」の幾字を剩すのみ、今は照録して補わず、亦別本に拠りて臆補せず。
第三十三首 密(立夏)
密:陽乞親天,萬物丸蘭,咸密無間。
「密」は親密・周密の義にして、第三十三首と為り、立夏に値り、冬至後第一百四十四日より第一百四十八日半に至るを主る。陽気は天に親近し、万物は団団円円、皆緊密にして空隙無し。密は両面有り:親は其の人を得れば則ち堅固なり、親は其の人に非ざれば則ち其の熏染を受く。底本「陽乞」の「乞」は当に「気」の字の訛なるべし、今は照録す。
初一:窺之無間,大幽之門。測曰:窺之無間,密無方也。次二:不密不比,我心即次。測曰:不密不比,違厥鄉也。次三:密於親,利以作人。測曰:密於親,為利臧也。
初一:窺探せんと想うも而も一絲の縫隙を尋得せず、那れは大幽の処に通ずる門なり。測辞に曰く:之を窺うも間無きは、周密にして一定の方所の尋ね可き無きなり。次二:既に親密ならず亦親附せず、我が心は便ち只好く半路の上に停る。測辞に曰く:密ならず比ならずは、自己の該帰る郷里に背離するなり。次三:親族と相親密す、人材を成就するに利あり。測辞に曰く:親に密するは、図る所の利処の正当なるなり。
次四:密於腥臊,三日不覺,殽。測曰:密於腥臊,小惡通也。次五:密密不罅,嬪於天。測曰:密密不罅,並天功也。次六:大惡之比,或益之恤。測曰:大惡之比,匹異同也。
次四:腥臊の物と親密相処すれば、三天下来は自己も亦聞出せず、混雑難分なり。測辞に曰く:腥臊に密するは、小なる悪習の通行無阻なり;久しく鮑魚の肆に居りて其の臭を覚えざるは、正しく此の道理なり。次五:細密周至にして一条の裂縫無ければ、天と相配し得。測辞に曰く:密密として罅無きは、天の功業と並列するなり。次六:大悪の人と親附すれば、反って還た彼に替りて憂恤を增添せん。測辞に曰く:大悪の比は、同類ならざるを硬に同類に配成するなり。
次七:密有口,小鰓。大君在,無後。測曰:密口小鰓,賴君逹也。次八:琢齒依齦,三歲無君。測曰:琢齒依齦,君自撥也。上九:測曰:也。
次七:親密の中に人の多嘴する有り、小に驚懼す;只だ大君の還た在るに依りて、便ち後患無し。測辞に曰く:密口小鰓とは、君主の通達明察に靠りてぞ無事を得るなり。次八:牙歯は相鑿して而も只だ牙齦に靠りて勉强連らる、三年も君主無し。測辞に曰く:歯を琢りて齦に依るは、君主の自ら根基を抜掉するなり;上下相残すれば、密は便ち潰に変る。上九:底本此の賛の賛辞と測辞とは全部脱落し、只だ「上九」「測曰」「也」の幾字を剩すのみ、今は照録して補わず。
第三十四首 親(立夏・小満)
親:陽方仁愛,全真敦篤,物咸親睦。
「親」は親愛・親睦の義にして、第三十四首と為り、立夏の末に当たり小満に交り、冬至後第一百四十八日半より第一百五十三日に至るを主る。陽気は正しく其の仁愛を行い、本真を保全して敦厚篤実、万物は皆相親し相睦す。此の首は人倫の親を講ず:親は其の人を得れば則ち内里堅固なり、親は其の類に非ざれば則ち名分先ず乱る。
初一:親非其膚,其志齦齬。測曰:親非其膚,中心閒也。次二:孚其內,其志資戚。測曰:孚其內,人莫間也。次三:螟蛉不屬,蜾裸取之,不迓漁侮。測曰:螟蛉不屬,失其體也。
初一:親近する所は並に自己の骨肉肌膚に非ず、両下裏の心志は抵牾合せず。測辞に曰く:其の膚に非ざるに親するは、心中本より隔閡有ればなり。次二:誠信を以て自己の内裏の人に対待すれば、心志は便ち此の份の親情に凭りて相依す。測辞に曰く:其の内に孚するは、外人の插ち進みて離間する能わざるなり。次三:螟蛉の幼虫は本より蜾蠃に属せず、蜾蠃は而も之を抱き去りて親子と当作し、亦那些の漁猟の如き欺侮を迎拒せず。測辞に曰く:螟蛉属せざるは、親属の名分を弄錯せるなり。《詩経・小雅》に「螟蛉に子有り、蜾蠃之を負く」と説く、此の賛は正に反って其意を用う。
次四:賓親於禮,飲食几几。測曰:賓親於禮,賓主偕也。次五:厚不厚,比人將走。測曰:厚不厚,失類無方也。次六:厚厚,君子秉斗。測曰:厚厚君子,得人無疆也。
次四:賓客は礼を以て相親し、飲食の間の挙止は安詳有度なり。測辞に曰く:賓は礼に親するは、賓と主と一齊に得体なり。次五:本当に厚待すべきに而も厚待するを肯んぜず、彼に親附する人は便ち走り去らんとす。測辞に曰く:厚ならずは、自己の同類を失掉して依帰すべき処無きなり。次六:厚に厚を加えれば、君子は便ち斗柄を手持するが一般に衆人を統摂す。測辞に曰く:厚厚君子とは、人の心を得ること広大無辺なり。
次七:高亢其絲,庳於從事。測曰:位高事庳,德不能也。次八:肺附乾餱,其干己良,君子攸弜。測曰:肺附之行,不我材也。上九:童親不貞。測曰:童親不貞,還自荄也。
次七:弦絲を極高に繃げるも、事を做起すに却って低下無能なり。測辞に曰く:位は高くして事を弁ずるは低きは、徳行の担得起ざるなり。次八:至親の人は只だ些の乾糧を拿して相待す、那の乾糧は本身還た算して好なるも、君子は却って寧ろ推辞して受けず。測辞に曰く:至親此の如く行事するは、我を人材と看てなさざるなり。上九:孩童の如くに胡乱に相親して正を守らず。測辞に曰く:童親して貞ならざるは、反って自己の根を傷うるなり。
第三十五首 斂(小満)
斂:陽氣大滿於外,微陰小斂於內。
「斂」は収斂・聚斂の義にして、第三十五首と為り、小満に値り、冬至後第一百五十三日より第一百五十七日半に至るを主る。陽気は外面に於て充盈飽満し、微弱の陰気は已に裏面に於て悄悄として収斂す。此の首は兼ねて両種の斂を説く:自身を収束するの斂は以て富に致す可し、横征暴斂の斂は必ず顛覆に致る。
初一:小斂不貨,利用安人正國。測曰:小斂不貨,其道富也。次二:墨斂韱韱,我匪貞。測曰:墨斂韱韱,非所以無也。次三:見小勿用,以我扶疏。測曰:見小勿用,俟我大也。
初一:小小として収斂して而も財貨を以て目的と為さず、人心を安定し邦国を端正するに利あり。測辞に曰く:小斂して貨ならざる、此の路ぞ真の富足に通向するなり。次二:暗地裏に一星一点として搜刮す、我が此の如く做るは正道に合せず。測辞に曰く:墨斂韱韱とは、応有の做法に非ざるなり。次三:小利を見て動用しに往かず、好く我が枝葉の舒展开来を得しむ。測辞に曰く:小を見て用い勿きは、我の長大するを等つなり。
次四:斂利小刑,小進大退。測曰:斂利小刑,其政退也。次五:畜盤而衍,繭純于田。測曰:畜盤繭純,不奪時也。次六:閔而綿而,作大元而,小人不戒。測曰:閔綿之戒,不識微也。
次四:財利を搜斂して小なる刑罰を濫用す、小処は一歩進み、大処は一大截退く。測辞に曰く:利を斂め刑を小にするは、政事の倒退するに在り。次五:畜養积聚して余有り、蚕繭は純白、皆田桑の利より出づ。測辞に曰く:畜盤して繭純なるは、農時を侵奪せざるなり;時を以て之を取れば、百姓は便ち其の取を覚えず。次六:憂閔の心は綿綿として絶えず、此に由りて大善の元を做成す、小人は而も警戒を知らず。測辞に曰く:閔綿の戒は、細微処の苗头を看出せざるなり。
次七:夫牽於車,妻為剝荼,利於王姑,不利公家,病。測曰:牽車剝荼,斂之資也。次八:大斂大顛。測曰:大斂之顛,所斂非也。上九:斂於時,利圉極菑。測曰:斂於時,奚可幾也。
次七:丈夫は拉去されて車役に服し、妻子は派去されて苦菜を采剥す、只だ自家の婆母に利あり、公室に利無く、病害と成る。測辞に曰く:車を牽き荼を剥くは、皆聚斂の本銭なり;力役と実物と両頭に取れば、民力は便ち竭す。次八:大肆に聚斂す、大いに跟頭を栽ぐ。測辞に曰く:大斂の顛は、斂する所の門路の対らざるなり。上九:合適の時候に於て収斂す、極処に到るの灾禍を抵御するに利あり。測辞に曰く:時に斂する、此の如き時機は何処に常常指望し得る在らんや。
第三十六首 強(小満)
強:陽氣純剛乾乾,萬物莫不強梁。
「強」は「疆」に通じ、剛強の義にして、第三十六首と為り、小満に値り、冬至後第一百五十七日半より第一百六十二日に至るを主る。陽気は純は剛健にして、健行息まず、万物は強横有力ならざる無し。此の首は強を講ず:君子は徳を以て強と為し、小人は力を以て強と為す;能く自己を克制する強、ぞ真の強なり。
初一:強中否貞,無攸用。測曰:強中否貞,不可與謀也。次二:鳳鳥于飛,修其羽,君子於辰,終莫之圉。測曰:鳳鳥于飛,君子得時也。次三:柱不中,梁不隆,大廈微。測曰:柱不中,不能正基也。
初一:内里に於て強を逞くして正を守らず、用う可き処無し。測辞に曰く:強中否貞は、此の種の人は彼と事情を商量する能わず。次二:鳳鳥は翅を展げて飛翔し、其の羽毛を整飭す;君子は好時辰に逢えば、終に彼を攔得住る人無し。測辞に曰く:鳳鳥の飛于るは、君子の時勢を得たるなり。次三:柱子は中に居らず、梁架は隆起せず、大屋子は便ち危険なり。測辞に曰く:柱は中ならずは、根基を端正せざるなり。
次四:爰聰爰明,左右壃壃。測曰:爰聰爰明,庶士方來也。次五:君子強梁以德,小人強梁以力。測曰:小人強梁,得位益憂也。次六:克我強梁,於天無疆。測曰:克我強梁,大美無基也。
次四:既に聴き明白す、又見ること清楚、左右輔弼は強健有力なり。測辞に曰く:爰聡爰明とは、衆多の賢士の正しく紛紛として前来するなり。次五:君子は徳行を以て強と為し、小人は気力を以て強と為す。測辞に曰く:小人の強を逞くするは、位子を得て反って更に憂患を添うるなり。次六:我が自身の強横を克制すれば、便ち天と一般に広大無際なり。測辞に曰く:我が強梁を克すは、此の份の大美は根底を量出するに由無し;自らに勝つ者は強し、此の賛は正しく全首の骨幹なり。
次七:金剛肉柔,血流於田。測曰:金剛肉柔,法太傷也。次八:強其衰,勉其弱。測曰:強其衰,勉白強也。上九:太山撥,樑柱折,其人顛且蹶。測曰:山撥梁折,終以猛也。
次七:金属は剛硬にして血肉は柔軟、血は便ち田野の上に流到る。測辞に曰く:金は剛にして肉は柔とは、刑法の厳苛太だ過ぎて人を傷うるなり;至剛を以て至柔に加えれば、必定血を見る。次八:衰頽の中に於て勉力自強し、孱弱の中に於て勉力振作す。測辞に曰く:其の衰を強にするは、勉力して自己を強く起さんとするなり。底本測辞「勉白強」の「白」は当に「自」の字の訛なるべし、今は照録す。上九:泰山は掀翻せられ、梁柱は折断せられ、那人は跌倒して又顛僕す。測辞に曰く:山は撥れ梁は折るるは、終に剛猛太だ過ぐるに因るなり;強の極処に到れば便ち崩壞なり。
第三十七首 睟(小満)
睟:陽氣袀睟清明,物咸重光,保厥昭陽。
「睟」は純粋潤沢・光彩内蘊の義にして、第三十七首と為り、小満に値り、冬至後第一百六十二日より第一百六十六日半に至るを主る。陽気は純一にして潤沢清明、万物は皆光輝を重曇し、それらの昭明の陽気を保有す。《孟子・盡心》は君子は徳盛んにして「睟然として面に見ゆ」と説く、正しく此の睟なり:色沢は内より透出し、装い出だす能わず。
初一:睟於內,清無穢。測曰:睟於內,清無穢也。次二:冥駁冒睟,胹於中。測曰:冥駁冒睟,中自應也。次三:目上於天,耳下於淵,恭。測曰:目上耳下,聰察極也。
初一:潤沢は内里に在り、清澈にして汚穢無し。測辞に曰く:内に睟なるは、正に清澈にして汚穢無ければなり。次二:暗裏は駁雑にして而も外面に於て純粋を冒充す、裏頭は早已に爛熟発餿せり。測辞に曰く:冥駁して睟を冒すは、内心自ら相応の報応有らん;外貌は再び純に装うとも、内里は早就に応験せり。次三:眼睛は上に向かい天を望み、耳朵は下に向かい淵を聴く、恭敬なり。測辞に曰く:目は上に耳は下とは、聡明察識の極処に到るなり。
次四:小人慕睟,失祿貞。測曰:小人慕睟,道不得也。次五:睟於幽黃,元貞無方。測曰:睟於幽黃,正地則也。次六:大睟承愆,易。測曰:大睟承愆,小人不克也。
次四:小人は此の種の純粋の気象を羨慕して摹仿しに往き、反って本より守正すべき禄位を失掉す。測辞に曰く:小人の睟を慕うは、路子の対らざるなり。次五:潤沢は幽深の黄の中に在り、大いに貞正を得て一方に拘らず。測辞に曰く:幽黄に睟なるは、地の法則を端正するなり;黄は中の色にして、中に睟なれば則ち正ならざる所無し。次六:大なる純粋の中に過失を承接す、変る。測辞に曰く:大睟して愆を承ぐは、小人は承受し住る能わざるなり;盛徳にして小疵を帯ぶれば、君子は之を改む、小人は却って此に由りて潰敗す。
次七:睟辰愆,君子補愆。測曰:睟辰愆,善補過也。次八:睟惡無善。測曰:睟惡無善,終不可佐也。上九:睟終永初,貞。測曰:睟終之貞,誠可嘉也。
次七:純美の時辰の裏に差錯を出せば、君子は便ち此の差錯を補起す。測辞に曰く:辰に睟して愆るは、過失を補救するに善きなり。次八:悪を光潤に粉飾するも、而も一分の善無し。測辞に曰く:悪を睟くして善無きは、此の如き人は終に輔佐する法無し。上九:純粋は最後に保持して、一如として当初の如し、正を得。測辞に曰く:終に睟なるの貞は、実に嘉許に値す;始終如一なるは、正しく睟の極致なり。
第三十八首 盛(小満・芒種)
盛:陽氣隆盛充塞,物窴然盡滿厥意。
「盛」は隆盛の義にして、第三十八首と為り、小満の末に当たり芒種に交り、冬至後第一百六十六日半より第一百七十一日に至るを主る。陽気は隆盛にして天地に充塞し、万物は填満飽足し、其の意を尽遂す。此の首は盛に処るの道を講ず:盛んにして能く謙なれば則ち慶有り、盛んにして自恃すれば則ち傾覆す。
初一:盛不墨,失冥德。測曰:盛不墨,中不自克也。次二:作不恃,克大有。測曰:作不恃,稱玄德也。次三:懷利滿匈,不利大公。測曰:懷利滿匈,營利門也。
初一:正しく盛んの時に沈黙自守する能わざれば、便ち那份の幽隠の徳を喪失す。測辞に曰く:盛にして墨ならざるは、心裏の自ら克制し得住ざるなり。次二:興作する所有れども其の功を自恃せず、能く大なる富有を成就す。測辞に曰く:作して恃まざる、此れぞ「玄徳」二字に配得上なり;《老子》に「生じて有せず、為して恃まず」と説く、正しく此の意なり。次三:満懐の私利は胸膛を填塞し、公家大局に対して利ならず。測辞に曰く:利を懐きて匈に満つるは、一心に営利の門路を経営するなり。
次四:小盛臣臣,大人之門。測曰:小盛臣臣,事仁賢也。次五:何福滿肩,提禍揮揮。測曰:何福提禍,小人之道也。次六:天賜之光,大開之疆,于謙有慶。測曰:天賜之光,謙大有也。
次四:小に興盛有りて恭謹して臣道を守れば、此れは就中大人の門下に走到る。測辞に曰く:小盛にして臣臣たるは、仁徳賢能の人を事奉するを懂得するなり。次五:肩上は満満の福を扛ぐも、手裏は却って禍を提げて四処に揮舞す。測辞に曰く:福を扛ぎ禍を提ぐる、此れは小人の路数なり;福来りて収斂を知らざれば、禍は便ち手辺に在り。次六:上天は彼に光輝を賜い、彼の為に大いに疆土を開拓す、能く謙を守れば便ち喜慶有り。測辞に曰く:天賜の光は、謙徳を以て大有を成就するなり。
次七:乘火寒泉至。測曰:乘火寒泉,禍不遠也。次八:挹於滿熒,幾後之傾。測曰:挹於滿,幾不免也。上九:極盛不救,禍降自天。測曰:極盛不救,天道反也。
次七:正しく烈火の勢頭に乗ずるに、冰冷の泉水は就中到る。測辞に曰く:火に乗りて泉寒きは、禍事の遠からざるなり。次八:満ちて溢れんと欲する器皿の裏より水を舀えば、眼見て便ち傾覆せんとす。測辞に曰く:満に於て挹ぐは、差不多として傾覆を免れ難し;《荀子》の記する満なれば則ち覆るの欹器は、正しく此の理なり。上九:盛の極点に到れば便ち挽救す可き無く、禍患は天上より降る。測辞に曰く:極盛救わざるは、天道の此に到りて反転するなり。
第三十九首 居(芒種)
居:陽方踞膚赫赫,為物城郭,萬物咸度。
「居」は居処・家居の義にして、第三十九首と為り、芒種に値り、冬至後第一百七十一日より第一百七十五日半に至るを主る。陽気は正しく地表に踞守し、赫赫然として万物の為に城郭を做成し、万物は皆其の中に於て安度す。此の首は《周易》の《家人》に相当し、通篇一家之内の秩序と器用とを講ず。
初一:匪譽匪咎,克守厥家。測曰:匪譽厞咎,其道常也。次二:家無壺,婦承之姑,或洗之塗。測曰:家無壺,無以相承也。次三:長幼序,子克父。測曰:子克父,乃能有興也。
初一:既に称誉無く、亦過咎無く、能く自己の家を守住す。測辞に曰く:誉なく咎なき、此れぞ家を持つの常道なり。底本本測辞「厞」は「匪」の字の訛なり、今は照録す。次二:家裏は盛水の壺一箇さえ無く、媳婦は只好く婆婆の活計を接過す、あるいは路上に到りて洗滌す。測辞に曰く:家に壺無きは、相承接すべき家什無きなり;器用備わらざれば、家事は便ち伝下り去る能わず。次三:長幼は次序有り、児子は父親の事業を承担起す能し。測辞に曰く:子は父に克つ、家道ぞ興り起り得るなり。
次四:見豕右堂,狗緊之迒。測曰:見豕在堂,其體不慶也。次五:舳艫調安,利富貞。測曰:舳艫安何,順其疆也。次六:外其井灶,三歲見背。測曰:外其井灶,三歲不享也。
次四:猪の堂屋の右辺に跑到するを見、狗は緊く其の足迹に跟随す。測辞に曰く:猪の堂に在るを見る、此の家の体統は慶賀に値せず。賛辞は「右堂」と作り而も測辞は「在堂」と作す、底本の用字は一ならず、今は各々原樣に依りて保留す。次五:船頭船尾は調度安穏にして、富足正を守るに利あり。測辞に曰く:舳艫安穏とは、其の界限に順いて行くなり。次六:水井と炉竈とを皆身外に撇いて管せず、三年之内に就中衆叛親離す。測辞に曰く:其の井竈を外にするは、三年も供養を得ず;飲食の本までも顧みざれば、家は還た怎麼居らんや。
次七:老父擐車,少女提壺,利考家。測曰:老父擐車,其體乃壯也。次八:反其幾,雙其朼,其家不旨。測曰:反幾雙朼,家用不臧也。上九:株生蘗,其種不絕。測曰:株生蘗,其類乃長也。
次七:年老の父は還た車輛を推挽し能くし、年少の女兒は水壺を提げて幇忙す、家業を成就するに利あり。測辞に曰く:老父車を擐ぐは、彼の身体は還た壮健なり;老少各々其の力を出せば、家は便ち立得住る。次八:几案を翻転し、匕匙を成雙に乱擺せば、此の家の飲食も亦滋味を成さず。測辞に曰く:几を反し朼を雙くするは、家中の器用の不妥当なるなり;礼数錯乱すれば、一家は便ち体統を成さず。上九:老樹の桩上に新芽を生ず、其の種類は断絶せざらん。測辞に曰く:株は蘗を生ずは、此の一族ぞ長久し得るなり;居家の道は、最後に伝下り得るか否かに落る。
