第五十首 唐(大暑)
唐:陰氣茲來,陽氣茲往,物且蕩蕩。
「唐」は空蕩・荒廃の義にして、第五十首と為り、大暑に値り、冬至後第二百二十日半より第二百二十五日に至るを主る。陰気は此の如く来り、陽気は此の如く去り、万物は是に於て一片蕩蕩然の空闊なり。唐は即ち空なり:空にして能く己を虚くして物を待つは是好、空にして一も守る所無きは是壊なり。
初一:唐於內,勿作厲。測曰:唐於內,無執守也。次二:唐處冥,利用東征。測曰:唐冥之利,利明道也。次三:唐素不貞,亡彼瓏玲。測曰:亡彼瓏玲,非爾所也。
初一:内里空空蕩蕩、軽挙妄動して禍を招く勿れ。測辞に曰く:内に唐なるは、心中に執守無きなり。次二:空虚にして自ら幽暗に処り、東方に向かい進発するに利あり。測辞に曰く:唐冥の利は、利は道路を明朗ならしむるに在り;己を虚くしてぞ物を受く能く、東は日出の方なり。次三:空疏にして素来正を守らず、那塊の玲瓏の美玉までも丟す。測辞に曰く:那塊の玲瓏玉を丟すは、那は本より爾の有すべき物に非ざるなり。
次四:唐無適,道義之闢。測曰:唐無適,惟義予也。次五:奔鹿懷鼷,得不訾。測曰:奔鹿懷鼷,不足功也。次六:唐不獨足,代天班祿。測曰:唐不獨足,無私容也。
次四:虚懐にして専主を預設せず、只だ道義を以て法則と為す。測辞に曰く:唐に適無きは、唯義に合するのみ給与するなり;《論語》に君子は「適する無き也、莫する無き也、義之与比なり」と説く、正しく此の意なり。次五:奔鹿を追趕す、懐裏に揣むは而も一只の小鼷鼠なり、所得は一提に値せず。測辞に曰く:鹿を奔して鼷を懐くは、何の功労と算すに足らず。次六:空闊にして而も只顧自己一人の飽足せず、上天に代わりて俸禄を頒布下去す。測辞に曰く:唐は独り足らざるは、心裏に私を容下せざるなり。
次七:弋彼三飛,明明於徵,終日不歸。測曰:弋彼三飛,適無所從也。次八:唐收祿,社鬼輟哭,或得其沐。測曰:唐收祿,復亡也。次九:明珠彈于飛肉,其得不復。測曰:明珠彈肉,費不當也。
次七:系繩の箭を用いて那の三只の飛鳥を射る、明明白白として一路追逐し、整天回らず。測辞に曰く:彼の三飛を弋るは、去りて而も一定の帰着無きなり。次八:空手にして俸禄を收取す、社廟の裏の鬼神は皆哭声を止住す、或いは還た一点の余沢に沾得せん。測辞に曰く:唐は禄を収むるは、得て又失うなり。次九:明珠を拿して飛鳥の肉を弾射す、得るは失うに抵らず。測辞に曰く:明珠にて肉を弾ずは、耗費の相称せざるなり;《荘子》は随侯の珠を以て千仞の雀を弾ずる人を譏る、正しく此の喩なり。
第五十一首 常(大暑・立秋)
常:陰以知臣,陽以知闢,君臣之道,萬世不易。
「常」は恒常の義にして、第五十一首と為り、大暑の末に当たり立秋に交り、冬至後第二百二十五日より第二百二十九日半に至るを主る。陰は用いて臣道を知らしめ、陽は用いて君道を知らしむ、君臣の間の名分は万世改らず。此の首は《周易》の《恒》に相当し、日月を以て君臣に比す:日の行は常有りて差忒せず、月は盈亏有りて定無く、各々其の本分有り。
初一:戴神墨,履良式,以一耦萬,終不稷。測曰:戴神墨,體一形也。次二:內常微女,貞厲。測曰:內常微女,不正也。次三:日常其得,三歲不食。測曰:日常其德,君道也。
初一:頭頂は神明の墨繩を戴き、脚は良好の法式を踩み、一個の准則を以て万事に応対す、終に跌倒せざらん。測辞に曰く:神墨を戴くは、此の「一」を自身の形体の上に体現するなり。次二:内室の中に常道を婦人の私の上に降低す、守ると雖も危し。測辞に曰く:内常して女に微るは、正道に合せざるなり。次三:太陽は恒常として其の所得を施予す、三年も一餐を進めずとも照様に運行す。測辞に曰く:日は其の徳を常にする、此れは君主の道なり。賛辞は「其得」と作り而も測辞は「其徳」と作す、底本の用字は一ならず、今は各々原樣に依りて保留す。
次四:月不常,或失之行。測曰:月不常,臣失行也。次五:其從其橫,天地之常。測曰:其從其橫,君臣常也。次六:得七而九,懦撓其剛,不克其常。測曰:得七而九,棄盛乘衰也。
次四:月は盈亏常無く、或る時は便ち正常の運行を失掉す。測辞に曰く:月は常ならずは、臣下の行止を失えるなり。次五:縦有り横有り、此れは天地の常道なり。測辞に曰く:一縦一横とは、正しく君と臣と各々其の常に安んずるなり。次六:七を得て却って硬に九に凑成せんと要す、怯懦を用いて自己の剛強を撓折す、其の常道を守住し得ず。測辞に曰く:七を得て九とするは、興盛を丟開して往きて衰敗に乗ずるなり;七は少陽方に壮、九は老陽将に変せんとす、多を貪れば反って衰に転ず。
次七:滔滔往來,有常衰如,克承貞。測曰:滔滔往來,以正承非也。次八:常疾不疾,咎成不詰。測曰:常疾不疾,不能自治也。次九:疾其疾,巫醫不失。測曰:疾其疾,能自醫也。
次七:滔滔として断たず往来す、常道の中已に衰象を現す、能く承接し得住れば仍お正を得。測辞に曰く:滔滔往来とは、正道を以て那些の正ならざるを承接するなり。次八:常と為し以て慣れたる病痛は病と当作せず、過咎已に成るも亦追究しに往かず。測辞に曰く:常疾は疾とせずは、能く自我整治せざるなり。次九:自己の病を病と成して治すれば、巫者と医者とは便ち皆誤診せざらん。測辞に曰く:其の疾を疾とするは、能く自己が自己を医治するなり;病を知れば則ち常道復す可し、此の首は便ち此を以て収束す。
第五十二首 度(立秋)
度:陰氣日躁,陽氣日舍,躁躁舍舍各得其度。
「度」は法度・限度の義にして、第五十二首と為り、立秋に値り、冬至後第二百二十九日半より第二百三十四日に至るを主る。陰気は一天天として躁動し、陽気は一天天として止息し、一躁一舍、各々皆其の限度有り。此の首は《周易》の《節》に相当す:小処に分寸を失えば、大処は便ち傾覆せんとす。
初一:中度獨失。測曰:中度獨失,不能有成也。次二:澤不舍,冥中度。測曰:澤不舍,乃能有正也。次三:小度差差,大攋之階。測曰:小度差差,大度傾也。
初一:偏偏として中道の分寸の上に準を失う。測辞に曰く:中度独り失うは、事を成す能わざるなり;別処再好なるも、中を失えば便ち成無し。次二:潤沢の施は停歇するを肯んぜず、暗中に於て仍お中度に合す。測辞に曰く:沢は舎てざるは、正に此に因りてぞ正を得る能し;施して竭さざるは、ぞ節度有るの施なり。次三:小なる分寸は一点点として参差す、便ち大崩壞の階梯なり。測辞に曰く:小度差差とは、大なる法度も亦傾覆せんと要するなり。
次四:乾楨利於城。測曰:乾楨之利,利經營也。次五:乾不乾,攋於營。測曰:乾不乾,不能有寧也。次六:大度檢檢,於天示象,垂其範。測曰:大度檢檢,垂象貞也。
次四:牆を筑くの干と楨とを立起す、城を筑くに利あり。測辞に曰く:干楨の利は、利は経営建置に在り;牆を筑くは先ず版干を立つ、正しく度有るの開端なり。次五:該骨幹と為すべきは其の骨幹を成さざれば、営造は便ち垮掉せんとす。測辞に曰く:干の干ならざるは、安寧し下来る能わざるなり。次六:大なる法度は整飭有序、天上に於て象を顕示して成し、其の規範を垂下す。測辞に曰く:大度検検とは、天象を垂示して正を得るなり;聖人は象を観て度を制す、取るは就中此のなり。
次七:不度規之,鬼即訾之。測曰:不度規之,明察笑也。次八:石赤不奪,節士之必。測曰:石赤不奪,可與有要也。次九:積差之貸,十年不復。測曰:積差之貸,不得造也。
次七:自己は法度に合せざるに而も往きて別人を規正す、鬼までも彼を譏議せん。測辞に曰く:度ならずして之を規るは、明察の人の看て只だ笑いを発するのみ。次八:丹砂の石は本色は奪去す可からず、此れは節操有る士の必ず守る所なり。測辞に曰く:石は赤にして奪われざるは、此の如き人は彼と盟約を訂立し得。次九:积累下来の差錯は一筆の債の如く、十年も還清し得ず。測辞に曰く:差を積むの貸は、再び造り起る能わざるなり;毫厘の差は積ること久しければ、便ち修復するに由無し。
第五十三首 永(立秋)
永:陰以武取,陽以文與,道可長久。
「永」は長久の義にして、第五十三首と為り、立秋に値り、冬至後第二百三十四日より第二百三十八日半に至るを主る。陰は威武を以て之を取り、陽は文徳を以て之を予う、一取一予、其の道ぞ長久し得るなり。此の首は久を講ず:久は合軌に於て在り、合軌せざるの長久は、只是把禍患を拖長するのみ。
初一:不替不爽,長子之常。測曰:不替不爽,永宗道也。次二:內懷替爽,永矢貞祥。測曰:內懷替爽,安可久也。次三:永其道,未得無咎。測曰:永其道,誠可保也。
初一:廃弛せず、差失せず、此れは長子の応守の常道なり。測辞に曰く:替えず爽らざるは、宗族の道を長久ならしむるなり。次二:心裏已に廃弛差失の念頭を懐くも、嘴上は而も長く貞祥を守らんと発誓す。測辞に曰く:内に替爽を懐くは、怎麼長久し得了せんや。次三:長久に彼の道を守住す、還た全く過失無しと談ずるに及ばざるに雖も。測辞に曰く:其の道を永くするは、実実在在として保住し得;能く守住すれば便ち足る、全備責備を求むる必須無し。
次四:子序不序,先賓永失主。測曰:子序不序,非永方也。次五:三綱得於中極,天永厥福。測曰:三綱之永,其道長也。次六:大永於福,反虛庭,入於酋冥。測曰:大永於福,福反亡也。
次四:児子は該次序に按ずべきに而も次序に按ぜず、反って賓客を前に居らしむれば、便ち永遠に主位を失掉す。測辞に曰く:子の序の序ならざるは、久を求むるの方に非ざるなり。次五:君臣・父子・夫婦の此の三綱は皆中正の極に帰す、上天は便ち彼の福を長久ならしむ。測辞に曰く:三綱の永は、此の路は走ること長きなり。次六:一味に福の長久を求め、回頭して却って只だ空庭を見、幽暗の尽頭に落ち入る。測辞に曰く:福に於て大永なるは、福は反って無くなるなり;久を求むること太だ過ぐれば、久は便ち先ず亡ぶ。
次七:老木生蒔,永以纏其所無。測曰:老木生蒔,永厥體也。次八:永不軌,凶亡流於後。測曰:永不軌,其命劑也。次九:永終馴首。測曰:永終馴首,長愷悌也。
次七:老樹の上に新栽の枝條を生じ、長久にそれを本来無き物に纏続し上去す。測辞に曰く:老木は蒔を生ずは、其の形体を延長するなり。次八:長久に法軌を守らざれば、凶険喪亡は便ち後代に禍を流す。測辞に曰く:永にして軌ならざるは、彼の命数は已に割定せられり。次九:長久は最後に到るも仍お能く柔順にして本初に回到す。測辞に曰く:終に永くして首を馴すは、和楽平易の徳を長保するなり;此の首は馴順を以て結を作す、正しく久の久と為る所以を見る。
第五十四首 昆(立秋)
昆:陰將離之,陽尚昆之,昆道尚同。
「昆」は斉同の義にして、第五十四首と為り、立秋に値り、冬至後第二百三十八日半より第二百四十三日に至るを主る。陰気は将に万物を分離せしめんとし、陽気は還たそれらを同一せしめんと想う、昆道の崇尚する所は正しく此の「同」なり。此の首は《周易》の《同人》に近く:同は公道の上に同在るを要し、一味に同を求めて黒白を辨せざれば、便ち混と成る。
初一:昆於黑,不知白。測曰:昆於黑,不可謂人也。次二:白黑菲菲,三禽一角同尾。測曰:三禽一角,無害心也。次三:昆於白,失不黑,無際一尾三角。測曰:昆白不黑,不相親也。
初一:只だ黒と混同し、世上に還た白有るを知らず。測辞に曰く:黒に昆るは、此れは人と称するに配せず;黒白分かたざれば、同は便ち同流合汚と成る。次二:白と黒とは紛然として並列し、三只の禽鳥は共に一只の角・同一条の尾なり。測辞に曰く:三禽一角とは、彼此に加害の心無きなり;形は異なれども心は相同じき、ぞ真の同なり。次三:只だ白と混同し、白に非ざるを一概に排斥す、彼此に交接無く、一条の尾上に而も三只の角を顶く。測辞に曰く:白に昆して黒ならずは、能く相親し得ざるなり;只だ一色を認むれば、同は便ち排他に変る。
次四:鳥託巢於菆,人寄命於公。測曰:鳥託巢,公無貧也。次五:谷矢疏數,眾犛毀玉。測曰:谷矢疏數,奚足旬也。次六:昆於井市,文車同軌。測曰:昆於井市,同一倫也。
次四:鳥は叢生の好木の上に巢を托し、人は身家性命を公道の上に寄托す。測辞に曰く:鳥の能く巢を托するは、公道の処は窘乏せざるに因るなり。次五:好箭と壊箭と疏密一ならずして混じて射る、衆多の牦毛の如き細なる瑕疵は一塊の玉を毀掉し得。測辞に曰く:谷矢疏数は、何処に用上げて十天に足らんや;雑にして別無ければ、同は便ち乱と成る。次六:市井の間に於て衆人と同処す、車軌の寛窄と紋飾とは一致に帰す。測辞に曰く:井市に昆るは、一個の倫次の上に同在るなり;《中庸》の説く所の「車は軌を同じくし、書は文を同じくす」は、正しく此の種の同なり。
次七:蓋偏不覆,晏雨不救。測曰:蓋偏不覆,德不均也。次八:昆於危難,乃覆之安。測曰:危難之安,素施仁也。次九:昆於死,棄寇遺。測曰:昆於死,棄厥身也。
次七:車蓋は一辺に偏し、遮い周全ならず、天晴下雨皆人を救う能わず。測辞に曰く:蓋偏して覆わざるは、恩徳の施すこと均ならざるなり;同にして偏有れば、便ち同ならざるに等し。次八:危難の中に於て人と患を同じくすれば、反って能く危難を翻転して安寧と為す。測辞に曰く:危難の能く安に転ずる所以は、平素より仁徳を施行すればなり。次九:同すること人と一起去死するに到る、自己を寇仇に丟棄す。測辞に曰く:死に昆るは、自身を拋棄するなり;同の極処に到りて止まるを知らざれば、命までも賠進せん。
第五十五首 減(立秋・処暑)
減:陰氣息,陽氣消,陰盛陽衰,萬物以微。
「減」は減損の義にして、第五十五首と為り、立秋の末に当たり処暑に交り、冬至後第二百四十三日より第二百四十七日半に至るを主る。陰気は滋長し、陽気は消退し、陰盛陽衰、万物は此に由りて微に転ず。此の首は《周易》の《損》に相当す:減は私欲の上に在るは是れ善、減は賢徳の上に在るは是れ悪、減は疾患の上に在るは是れ明なり。
初一:善減不減,冥。測曰:善減不減,常自沖也。次二:心減自中,以形於身。測曰:心減形身,困諸中也。次三:減其儀,利用光於階。測曰:減其儀,欲自禁也。
初一:真に自ら減ずるを会する人は彼の減ずるを看出せず、幽隠無跡なり。測辞に曰く:善く減じて減ぜずは、心裏に常に虚にして盈たざるを保持するなり。次二:心裏より先ず減じ起り、再び一直に形体の上に体現す。測辞に曰く:心を減じ形身するは、節制の功夫を内心に拘束するなり。次三:自己の儀節排場を減省す、反って朝階の上に於て光彩を顕出するに利あり。測辞に曰く:其の儀を減ずるは、自我約束せんと欲するなり。
次四:減於艾,貶其位。測曰:減於艾,無以蒞眾。次五:減黃貞,下承於上,寧。測曰:減黃貞,臣道丁也。次六:幽闡積,不減不施,石。測曰:幽闡不施,澤不平也。
次四:連年高徳有る長者までも裁減せんと要すれば、便ち自己の位子を貶損す。測辞に曰く:艾に於て減ずる、此の如くしては衆人に臨御する法無し。次五:中央の黄を減損して正を守れば、下に在る者は上に在る者を承奉し、安寧なり。測辞に曰く:黄を減じて貞なるは、臣道の其の時に正当するなり。次六:暗中に一味に阐揚积聚し、既に減損せず亦施予せず、硬きこと石頭の如し。測辞に曰く:幽く阐して施さざるは、恩沢の施すこと均平ならざるなり。
次七:減其疾,損其恤,厲不至。測曰:減其疾,不至危也。次八:瀏漣漣,減於生根。測曰:瀏漣之減,生根毀也。次九:減終,利用登於西山,臨於大川。測曰:減終之登,誠可為也。
次七:彼の病を減去し、彼の憂を損掉せば、危険は便ち来らざらん。測辞に曰く:其の疾を減ずるは、危境に陥入せざるに至るなり;其の該損を損ずるは、正しく損道の正用なり。次八:水流は澌澌淙淙として停まず、一直に生命の根にまで減損す。測辞に曰く:瀏漣の減は、生根までも毀了するなり;該減ずるを減じ了えて還た減ずれば、便ち本を傷うるものと成る。次九:減損は尽頭に到れば、西山に登上り大川に面临するに利あり。測辞に曰く:終に減じて登るは、実実在在として作為する所有り得;減じて尽処に到れば、便ち進む可き時に転成す。
第五十六首 唫(処暑)
唫:陰不之化,陽不之施,萬物各唫。唫遇禍,唫遇禍。
「唫」は「噤」に同じ、口を閉じて言わず・閉塞通ぜざるの義にして、第五十六首と為り、処暑に値り、冬至後第二百四十七日半より第二百五十二日に至るを主る。陰気は化育しに往かず、陽気は施予しに往かず、万物は各自閉塞す;閉塞すれば便ち禍に遇う。底本首辞末尾の「唫遇禍」三字は一次重出す、当に伝写の衍文なるべし、今は照録して刪らず。
初一:唫不予,丈夫婦處。測曰:貌不交,唫不予,人所違也。次二:唫於血,資乾骨。測曰:唫於血,臞自肥也。次三:貌不交,口唭凝,唫無辭。測曰:貌不交,人道微也。
初一:口を閉じて而も何も与えるを肯んぜず、堂堂の丈夫は却って婦人の如く家裏に窩る。測辞に曰く:口を閉じて予せざるは、衆人皆彼に背離せんとするなり。此の条の測辞は底本次三の「貌不交」三字を窜入す、今は照録して刪らず。次二:閉塞して血を出すに至り、只だ枯干の骨頭を剩して倚る可し。測辞に曰く:血に唫するは、痩瘠の人は還た自ら以て肥壮と為すなり。次三:容色の上は人と交接せず、嘴巴は唭唭として凝住し、口を閉じて一辞を出さず。測辞に曰く:貌は交らずは、人と人と相処の道の衰微するなり。
次四:唫其谷,不振不俗,累老及族。測曰:唫其谷,不得相希也。次五:不中不督,腐蠹之嗇。測曰:不中不督,其唫非也。次六:泉原洋洋,唫於丘園。測曰:泉園之唫,不可譏也。
次四:自己の糧穀を緊緊に閉住し、既に賑済せず亦俗に随わず、老人に連累し以て整箇の宗族に至る。測辞に曰く:其の穀を唫するは、彼此再び指望し上がる能わざるなり。次五:既に中に居らず亦理に合せず、是那種の腐朽生蠹の吝嗇なり。測辞に曰く:中ならず督ならずは、此の如き閉塞は対らず。次六:泉源は汪洋満溢す、而も只だ自家の丘園の内に閉守す。測辞に曰く:泉園の唫は、倒れて議すべからざるなり;守有りて外溢せざるは、那は隠者の閉なり。
次七:唫於體,黃肉毀。測曰:唫於體,骨肉傷也。次八:唫遇禍,禱以牛,解。測曰:唫遇禍,大費當也。次九:唫不雨,孚乾脯。測曰:唫不雨,何可望也。
次七:自己の身上に閉塞し、中間の肌肉は皆壊死せり。測辞に曰く:体に唫するは、骨と肉と皆傷を受けたるなり。次八:閉塞して禍患に遭遇す、牛牲を用いて祷告し、化解を得。測辞に曰く:唫して禍に遇う、此の一大筆の破費は花るに値当なり。次九:陰雲は閉塞して而も雨下り来らず、只だ一片の干肉の如き枯槁に落得す。測辞に曰く:唫して雨らざるは、還た何を指望し得んや。
第五十七首 守(処暑)
守:陰守戶,陽守門,物莫相干。
「守」は守持の義にして、第五十七首と為り、処暑に値り、冬至後第二百五十二日より第二百五十六日半に至るを主る。陰は内戸を守り、陽は外門を守り、万物は彼此相犯せず。守は該守るを守住するを要す:正を守り中を守るは是れ善守にして、一份の貧陋を守って変通するを肯んぜざるは便ち死守なり。
初一:閉朋牖,守元有。測曰:閉朋牖,善持有也。次二:迷自守,不如一之有。測曰:迷自守,沖無所以也。次三:無喪無得,往來默默。測曰:無喪無得,守厥故也。
初一:外に向かい通気する窓牖を関上し、原有の物を守住す。測辞に曰く:朋牖を閉づるは、善く已有を保持するなり。次二:迷迷糊糊として死守す、還た実実在在として一物を守住するに如かず。測辞に曰く:迷として自守すは、空虚にして憑拠無きなり。次三:既に失去無く亦得到無く、来来去去として黙黙無声なり。測辞に曰く:喪無く得無きは、原來の様子を守るなり。
次四:象艮有守。測曰:象艮之守,廉無個也。次五:守中以和,要侯貞。測曰:守中以和,侯之素也。次六:車案軔,圭璧塵。測曰:車案軔,不接鄰也。
次四:《周易》艮卦の止に取法すれば、便ち守る所有らん。測辞に曰く:艮の守に象るは、清廉にして私党を樹立せざるなり;艮は止なり、其の該止る所に止まれば便ち守なり。次五:中道を守りて和を以て用と為す、能く諸侯を約結して正を得。測辞に曰く:中を守りて和を以てす、此れは諸侯の素來の本分なり。次六:車子は止輪の木楔に按住せられて動かず、圭璧も亦灰塵に蒙上せり。測辞に曰く:車は轫に案すは、隣国と往来せざるなり;関を閉じて自守すれば、礼器までも用上がらず。
次七:群陽不守,男子之貞。測曰:群陽不守,守貞信也。次八:臼無杵,其碓舉。天陰不雨,白日毀暑。測曰:臼無杵,其守貧也。次九:輿荼有守,辭於盧首,不殆。測曰:輿荼有守,故愈新也。
次七:衆陽は一処に困守せず、此れぞ男子の正道なり。測辞に曰く:群陽守らずとは、守るは貞正と信実なり;形跡を死守せざるにして、ぞ実質を守住し得。次八:石臼の裏に杵無く、碓頭は空空として挙ぐ;天は陰りて而も雨を下さず、白日の裏は暑気までも散尽せり。測辞に曰く:臼に杵無きは、一份の貧窘を守るなり。次九:満車の苦菜も亦守る人有り、領頭の人に向かい辞譲する一番すれば、便ち危殆に至らず。測辞に曰く:輿荼に守有るは、旧なるが故に反って一天天として更新す;尋常の物を守住し得れば、家業はぞ陳敗せざらん。
第五十八首 翕(処暑・白露)
翕:陰來逆變,陽往順化,物退降集。
「翕」は収斂・合攏の義にして、第五十八首と為り、処暑の末に当たり白露に交り、冬至後第二百五十六日半より第二百六十一日に至るを主る。陰気は到来して逆向に変動し、陽気は離去して順勢化生し、万物は退降聚集す。翕は即ち翅膀を收起するなり:收るに其の時を得れば便ち力を蓄え得、收りて網羅の裏に入れば便ち縛せらるるものと成る。
初一:狂沖於冥,翕其志,雖欲梢搖,天不之茲。測曰:狂沖於冥,天未輿也。次二:翕冥中,射貞。測曰:翕冥中,正予也。次三:翕食嘬嘬。測曰:翕食嘬嘬,利如舞也。
初一:狂躁に幽暗中に於て衝撞す、只好く志向を収斂し起る;縦ち枝梢を搖動して作為せんと想うとも、上天も亦彼に此の份の機縁を給わず。測辞に曰く:冥に狂冲するは、上天は還た曾て彼を許賛せざるなり。次二:幽暗の中に於て収斂す、指向する所は正道なり。測辞に曰く:冥中に翕するは、端端正正として給与するなり。次三:収攏し起りて一口一口として吃す、嘬嘬として声有り。測辞に曰く:食を翕して嘬嘬たる、那份の便利は節拍に合して起舞するが如く従容なり。
次四:翕其羽,利用舉。測曰:翕其羽,朋友助也。次五:翕其腹,辟穀。測曰:翕其腹,誹所以譽也。次六:黃心鴻翼,翕於天。測曰:黃心鴻翼,利得輔也。
次四:先ず其の羽翼を収攏し、飛挙するに利あり。測辞に曰く:其の羽を翕するは、朋友の前来相助するなり;先ず合攏してぞ起り来る能く。次五:其の肚腹を収縮し、辟谷して食せず。測辞に曰く:其の腹を翕するは、眼下は人に非議せられ、正しく日後に人に称誉せらるるの由来なり。次六:中正の黄心を懐き、鴻雁の如き大翼を長じ、収斂して而る後に天に合す。測辞に曰く:黄心鴻翼は、利は輔佐を得るに在り。
次七:翕繳惻惻。測曰:翕繳惻惻,被離害也。次八:揮其罦,絕其羂,殆。測曰:揮罦絕羂,危得遂也。次九:揮其角,維用抵族。測曰:揮其角,殄厥類也。
次七:絲繩を系げたる箭に缴住せられて翅を収め展げ難し、凄惻已まず。測辞に曰く:缴に翕して惻惻たるは、羅網の害を遭うなり。次八:那張の覆車網を揮開し、那個の套索を挣断す、険なりと雖も脱す。測辞に曰く:罦を揮い羂を絶つは、危険の中に於て終に脱き身を得るなり。次九:其の角を揮動し、只だ自己の同族を抵触するに用う。測辞に曰く:其の角を揮うは、自己の族類を絶滅するなり;同様の一股の奮力も、外に向かえば脱険し得、内に向かえば便ち自戕と成る。
第五十九首 聚(白露)
聚:陰氣收聚,陽不禁御,粅相崇聚。
「聚」は聚集の義にして、第五十九首と為り、白露に値り、冬至後第二百六十一日より第二百六十五日半に至るを主る。陰気は収斂聚合し、陽気は禁阻を加えず、万物は互相崇聚す。此の首は《周易》の《萃》に相当し、多く宗廟祭祀に就きて言を立つ:人を聚めんには先ず心を聚むるを要し、心を聚めんには敬と信とに靠るを要す。底本「粅」は即ち「物」の字なり、今は照録す。
初一:鬼神以無靈。測曰:鬼神無靈,形不見也。次二:燕聚嘻嘻。測曰:燕聚嘻嘻,樂淫愆也。次三:宗其高年,群鬼之門。測曰:宗其高年,鬼待敬也。
初一:鬼神は此に因りて霊験を顕出せず。測辞に曰く:鬼神に霊無きは、それらは本より見る可き形跡無ければなり;聚の開端は幽に在りて顕に在らず。次二:安逸に聚まりて嬉笑取楽す。測辞に曰く:燕聚嘻嘻とは、逸楽の過度にして差失を生出するなり。次三:那些年高の長者を尊奉す、此れは衆鬼神に通往する門径なり。測辞に曰く:其の高年を宗るは、鬼神は人の敬意を有待するなり;老を敬するは即ち神を事る所以なり。
次四:牽羊示於叢社,執圭信其左股,野。測曰:牽羊於叢,不足榮也。次五:鼎血之蕕,九宗之好,乃後有孚。測曰:鼎血之蕕,信王命也。次六:畏其鬼,尊其體,狂作眯淫,亡。測曰:畏鬼之狂,過其正也。
次四:羊を牽きて叢林の裏の社壇の前に陳示し、圭璧を手執するも而も之を左腿の上に靠す、粗野なり。測辞に曰く:羊を叢に牽くは、何の栄耀と算すに足らず;礼器を執ること正ならざれば、聚めるも聚めて体統を出さず。次五:鼎中に血を歃して腥草の気を帯ぶ、此れは九族宗親の結好の礼にして、事後便ち憑る可き誠信有り。測辞に曰く:鼎血の蕕は、王命に取信するなり;血を歃して盟と為す、聚むる所は正しく一個の信の字なり。次六:鬼神を畏懼し、それらの形体を尊崇するも、而も狂乱に昏眯淫祀の事を做出す、喪亡なり。測辞に曰く:鬼を畏れて狂に至るは、正当の分寸を過ぐるなり。
次七:竦萃於丘冢。測曰:竦萃丘冢,禮不廢也。次八:鴟鳩在林,坺吠吠彼眾禽。測曰:鴟鳩在林,眾所吠也。次九:垂涕累鼻,聚家之匯。測曰:垂涕累鼻,時命絕也。
次七:粛然恭敬して墳丘墓塚の前に聚集す。測辞に曰く:竦として丘塚に萃るは、祭祀の礼の荒廃せざるなり。次八:鴟鴞と斑鳩とは林中に栖り、那些の衆鳥に向かい吠叫して休まず。測辞に曰く:鴟鳩の林に在るは、衆鳥に共に憎せらるるなり;聚るに同類を得ざれば、聚め起るは只是敵意のみ。次九:涕涙は長く流れ・鼻涕は串を成し、一家人は一処に聚攏す。測辞に曰く:涕を垂れ鼻を累ぐは、時運と寿命と皆尽頭に到るなり;聚りて最後に到れば、送終の聚と成る。
