五燈會元卷第五
昔有一老宿。因僧問。魂兮歸去來。食我家園葚。如何是家園葚(玄覺代雲。是亦食不得。法燈雲。汙卻你口)。
昔一老宿有りて、僧の問うに因る:「魂の兮帰り去り来りて、我が家の園の葚を食う。如何なるか是れ家の園の葚。」(玄覚代わりて言った。「是れも食うを得ざれ。」法灯曰く、「汝の口を汚れ却けり。」)
昔有一老宿。曰。祖師九年面壁。為訪知音。若恁麼會得。吃鐵棒有日在。又一老宿曰。祖師九年面壁。何不慚惶。若恁麼會得。更買草鞋行腳三十年(瑯琊覺雲。既不然。且道祖師面壁意作麼生。良久雲。欲得不招無間業。莫謗如來正法輪)。
昔一老宿有りて言った。「祖师は九年壁に面したるは、知音を訪わんが為めなり。若しかくの如く会し得ば、鉄棒を喫するに日の有る在り。」又一老宿言った。「祖师は九年壁に面したるに、何、何ぞ慚惶せざる。若しかくの如く会し得ば、更に草鞋を買い行脚すること三十年せん。」(瑯琊覚曰く、「既に然らざれば、且く道え祖师の壁に面したる意は作麼生。」良久にして言った。「無間の業を招かざるを得んと欲せば、如来の正法の輪を謗る莫れ。」)
昔有一老宿。因僧問。師子捉兔亦全其力。捉象亦全其力。未審全箇甚麼力。老宿曰。不欺之力(法眼別雲。不會古人語)。
昔一老宿有りて、僧の問うに因る:「師子は兎を捉ふるも亦た其の力を全うし、象を捉ふるも亦た其の力を全うす。未だ審らかに箇の什麼の力を全うする。」老宿は言った。「欺かざるの力。」(法眼別して言った。「古人の語を会せず。」)
昔有一老宿。曰。這一片田地分付來多時也。我立地待汝搆去(法眼雲。山僧如今坐地。待汝搆去。還有道理也無。那箇親。那箇踈。試裁斷看)。
昔一老宿有りて言った。「這の一片の田地は分付して来ること時多し。我は地に立ちて汝の搆い去るを待つ。」(法眼曰く、「山僧は如今地に坐して、汝の搆い去るを待つ。還た道理有るや無きや。那个か親、那个か疏。試みに裁断して看よ。」)
昔有老宿。畜一童子。竝不知軌則。有一行腳僧到。乃教童子禮儀。晚間見老宿外歸。遂去問訊。老宿怪訝。遂問童子曰。阿誰教你。童曰。堂中某上座。老宿喚其僧來。問。上座傍家行腳。是甚麼心行。這童子養來二三年了。幸自可憐生。誰教上坐教壞伊。快束裝起去。黃昏雨淋淋地。被趂出(眼雲。古人恁麼顯露些子家風。甚怪。且道意在於何)。
昔老宿有りて、一童子を畜し、並びて軌則を知らず。一行脚の僧有りて到りて、乃ち童子に礼儀を教う。晩の間に老宿の外より帰るを見て、遂に去りて問訊す。老宿は怪しみ訝りて、遂に童子に問うて言った。「阿谁か汝に教えた。」童は言った。「堂の中の某の上座。」老宿は其の僧を喚びて来らしめ、問うた。「上座は家を傍れて行脚するは、是れ什麼の心行ぞ。這の童子は養い来ること二三年なり、幸いに自ら憐れむべき生なり。誰か上坐に伊を教え壊らしめた。疾く装を束ねて起きて去れ。」黄昏雨は淋淋たる地に、趁い出された。(眼曰く、「古人はかくの如く些子の家風を顕露す、甚だ怪し。且く道え意は何に在るか。」)
昔有僧到曹溪。時守衣缽僧提起衣曰。此是大庾嶺頭提不起底。僧曰。為甚麼在上座手裡。僧無對(雲門雲。彼此不了。又云。將謂是師子兒)。
昔僧有りて曹渓に到る。時に衣鉢を守る僧は衣を提起して言った。「此れ是れ大庾嶺の頭に提げ起たれざる底。」僧は言った。「何を為めて上座の手の裏に在る。」僧は対無し。(雲門曰く、「彼此は了わず。」又曰く、「将に謂う是れ師子の兒。」)
昔有僧因看法華經至諸法從本來。常自寂滅相。忽疑不決。行住坐臥。每自體究。都無所得。忽春月聞鶯聲。頓然開悟。遂續前偈曰。諸法從本來。常自寂滅相。春至百花開。黃鶯啼柳上。
昔僧有りて法華経を看るに因りて「諸の法は本より従りて、常に自ら寂滅の相」に至りて、忽ち疑い決せず。行住坐臥に、毎に自ら体究すれども、都得る所無し。忽ち春の月に鶯の声を聞きて、頓然として悟り開けり。遂に前の偈を続けて言った。「諸の法は本より従りて、常に自ら寂滅の相。春至りて百花開けり、黄鶯は柳の上に啼く。」
昔有老宿問一座主。疏鈔解義。廣略如何。主曰。鈔解疏。疏解經。宿曰。經解甚麼。主無對。
昔老宿有りて一座主に問うた。「疏の鈔は義を解す、広略如何。」主は言った。「鈔は疏を解し、疏は経を解す。」宿は言った。「経は什麼を解する。」主は対無し。
昔高麗國。來錢塘刻觀音聖像。及舁上船。竟不能動。因請入明州開元寺供養。後有設問。無剎不現身。聖像為甚不去高麗國(長慶稜雲。現身雖普。覩相生偏。法眼別雲。識得觀音未)。
昔高麗国より来りて銭塘に観音の聖像を刻りて、及び舁して船に上げんとするも、竟に能く動かず。因りて明州開元寺に入れて供養すを請う。後に問を設くる者有り:「刹無しして身を現ぜずと。聖像は何を為めて高麗国に去らざる。」(長慶棱曰く、「身を現ずるは普なりと雖も、相を睹るは偏を生ず。」法眼別して言った。「観音を識り得た未だや。」)
泗州塔前。一僧禮拜。有人問。上座日日禮拜。還見大聖麼(法眼代雲。汝道禮拜是甚麼義)。
泗州塔の前に、一僧礼拜す。人問うた。「上座は日日礼拜するに、還た大聖を見るか。」(法眼代わりて言った。「汝道え礼拜は是れ什麼の義ぞ。」)
泗州塔頭侍者。及時鎻門。有人問。既是三界大師。為甚麼被弟子鎻。侍者無對(法眼代雲。弟子鎻。大師鎻。法燈代雲。還我鎻匙來。又老宿代雲。吉州鎻。虔州鎻)。
泗州塔の頭の侍者は、時に及びて門を鎖す。人問うた。「既に是れ三界の大師、何を為めて弟子に鎖せられた。」侍者は対無し。(法眼代わりて言った。「弟子は鎖し、大師は鎖す。」法灯代わりて言った。「我に鎖の匙を還せ。」又老宿代わりて言った。「吉州は鎖し、虔州は鎖す。」)
聖僧像被屋漏滴。有人問僧。既是聖僧。為甚麼有漏。僧無對(韶國師代雲。無漏不是聖僧)。
聖僧の像は屋漏れ滴らる。人僧に問うた。「既に是れ聖僧、何を為めて漏有る。」僧は対無し。(韶国師代わりて言った。「漏無きは是れ聖僧に非ず。」)
有人問。僧點甚麼燈。僧曰。長明燈。曰。甚麼時點。曰。去年點。曰。長明何在。僧無語。(長慶稜代雲。若不如此。知公不受人謾。法眼別雲。利動君子)。
人問うた。「僧は什麼の灯を点ずる。」僧は言った。「長明の灯。」曰く、「什麼の時に点ぜし。」曰く、「去年に点せり。」曰く、「長明は何に在る。」僧は語無し。(長慶棱代わりて言った。「若し此の如くならざれば、公の人に谩けられざるを知らん。」法眼別して言った。「君子を利動す。」)
有座主念彌陀名號次。小師喚和尚。及回顧。小師不對。如是數四。和尚叱曰。三度四度喚。有甚麼事。小師曰。和尚幾年喚他即得。某甲才喚便發業(法燈代雲。咄叱)。
座主有りて弥陀の名号を念ずる次。小師は和尚を喚ぶ。及び顧み回らせば、小師は対せず。是の如く数四たり。和尚は叱りて言った。「三度四度も喚びて、什麼の事か有る。」小師は言った。「和尚は幾年も他を喚びて即ち得。某甲は才に喚びて便ち業を発す。」(法灯代わりて言った。「咄叱。」)
有僧與童子上經了。令持經著函內。童子曰。某甲念底。著向那裡(法燈代雲。汝念甚麼經)。
僧有りて童子と与に経を上げ了えて、経を持して函の内に着けしむ。童子は言った。「某甲の念じたる底は、向いて那の裏に着けん。」(法灯代わりて言った。「汝は什麼の経を念ずる。」)
一僧注道德經。人問曰。久嚮大德注道德經。僧曰。不敢。曰。何如明皇(法燈代雲。是弟子)。
一僧は道徳経に注す。人問うて言った。「久しく大徳の道徳経に注するを向う。」僧は言った。「敢えてせず。」曰く、「何ぞ明皇に如かん。」(法灯代わりて言った。「是れ弟子なり。」)
有僧入冥見地藏菩薩。藏問。你平生修何業。僧曰。念法華經。曰。止止不須說。我法妙難思。為是說。是不說。僧無對(歸宗柔代雲。此回歸去。敢為流通)。
僧有りて冥に入りて地蔵菩薩に見ゆ。蔵は問うた。「汝は平生に何の業を修せし。」僧は言った。「法華経を念ず。」曰く、「止め止め須らく説く莫れ、我が法は妙にして思議し難し。是れ説くを為すか、是れ説かざるか。」僧は対無し。(帰宗柔代わりて言った。「此の回帰り去りて、敢えて流通を為さん。」)
鹽官會下有一主事僧。忽見一鬼使來追。僧告曰。某甲身為主事。未暇修行。乞容七日得否。使曰。待為白王。若許即七日後來。不然。須臾便至。言訖不見。至七日後。復來。覓其僧。了不可得。後有人舉問一僧。若被覓著時。如何抵擬他(洞山代雲。被他覓得也)。
塩官の会の下に一主事の僧有りて、忽ち一鬼の使の来りて追うを見た。僧は告げて言った。「某甲は身主事を為して、未だ修行に暇あらず。七日を容れて得る否やを乞う。」使は言った。「王の為に白さんを待て。若し許さば即ち七日の後に来らん。不らざれば、須臾に便ち至らん。」言い訖りて見えず。七日の後に至りて、復た来りて、其の僧を覓むれども、了えて得る可からず。後に人の挙げて一僧に問う者有り:「若し覓め著けられたる時は、如何にして他を抵拟せん。」(洞山代わりて言った。「他に覓め得られたる哉。」)
台州六通院僧欲渡船。有人問。既是六通。為甚麼假船。僧無對(天台韶國師代雲。不欲驚眾)。
台州六通院の僧は船を渡らんと欲す。人問うた。「既に是れ六通、何を為めて船を仮る。」僧は対無し。(天台韶国師代わりて言った。「衆を驚かさんと欲せず。」)
洪州太守宋令公。一日大寧寺僧陳乞請第二座開堂。公曰。何不請第一座。眾無語(法眼代雲。不勞如此)。
洪州太守宋令公は、ある日大寧寺の僧の陳乞して第二座の堂を開くを請うに、公は言った。「何ぞ第一座を請わざる。」衆は語無し。(法眼代わりて言った。「此の如くを労せず。」)
江南相馮延巳與數僧遊鍾山。至一人泉。問。一人泉許多人爭得足。一僧對曰。不教欠少。延巳不肯。乃別曰。誰人欠少(法眼別雲。誰是不足者)。
江南の相馮延巳は数僧と与に鍾山に游び、一人泉に至る。問うた。「一人泉は許多の人は争い得るに足るや。」一僧対して言った。「欠少せしめず。」延巳は肯んぜず、乃ち別して言った。「誰人か欠少する。」(法眼別して言った。「誰か是れ足らざる者。」)
官人問。僧名甚麼。曰。無揀。官人曰。忽然將一椀沙與上座。又作麼生。曰。謝官人供養。(法眼別雲。此猶是揀底)。
官人問うた。「僧の名は什麼ぞ。」曰く、「無揀。」官人は言った。「忽然として一椀の沙を将て上座に与えば、又作麼生。」曰く、「官人の供養を謝す。」(法眼別して言った。「此は猶お是れ揀む底。」)
廣南有僧住庵。國主出獵。左右報庵主。大王來。請起。主曰。非但大王來。佛來亦不起。王問。佛豈不是汝師。主曰。是。王曰。見師為甚麼不起(法眼代雲。未足酬恩)。
広南に僧有りて庵に住す。国主は猟に出づるに、左右は庵主に報ず:「大王来たる、起たんことを請う。」主は言った。「非但だ大王の来たる、佛の来たるも亦た起たず。」王は問うた。「佛は豈に是れ汝の師に非ずや。」主は言った。「是。」王は言った。「師を見るに何を為めて起たざる。」(法眼代わりて言った。「未だ恩を酬うるに足らず。」)
福州洪塘橋上有僧列坐。官人問。此中還有佛麼。僧無對(法眼代雲。汝是甚麼人)。
福州洪塘の橋の上に僧有りて坐を列ぬ。官人問うた。「此の中に還た佛有るか。」僧は対無し。(法眼代わりて言った。「汝は是れ什麼の人ぞ。」)
昔有官人入鎮州天王院。覩神像。因問院主曰。此是甚麼功德。曰。護國天王。曰。秖護此國。徧護餘國。曰。在秦為秦。在楚為楚。曰。臘月二十九日打破鎮州城。天王向甚處去。主無對。
昔官人有りて鎮州天王院に入りて、神の像を睹て、因りて院主に問うて言った。「此れ是れ什麼の功徳ぞ。」曰く、「護国の天王。」曰く、「只だ此の国を護るか、遍く余国を護るか。」曰く、「秦に在りては秦と為し、楚に在りては楚と為す。」曰く、「臘月の二十九日に鎮州の城を打ち破らば、天王は甚の処に向いて去る。」主は対無し。
昔有官人作無鬼論。中夜揮毫次。忽見一鬼出雲。汝道無我。聻(五祖演雲。老僧當時若見。但以手作鵓鴆觜。向伊道。谷呱呱)。
昔官人有りて鬼無しの論を作す。中夜に毫を揮う次に、忽ち一鬼の出でて言うを見た。「汝は道う我無しと、呢。」(五祖演曰く、「老僧は当時若し見さば、但だ手を以って鵓鴣の嘴を作して、伊に向いて道わん、谷の呱呱と。」)
昔有道流。在佛殿前背佛而坐。僧曰。道士莫背佛。道流曰。大德本教中道。佛身充滿於法界。向甚麼處坐得。僧無對(法眼代雲。識得汝)。
昔道の流有りて、佛殿の前に在りて佛を背けて坐す。僧は言った。「道士は佛を背くる莫れ。」道の流は言った。「大徳の本教の中に道う、佛の身は法界に充満すと。什麼の処に向いて坐し得ん。」僧は対無し。(法眼代わりて言った。「汝を識り得たり。」)
有一行者。隨法師入佛殿。行者向佛而唾。師曰。行者少去就。何以唾佛。者曰。將無佛處來與某甲唾。師無對(溈山雲。仁者卻不仁者。不仁者卻仁者。仰山代法師雲。但唾行者。又云。行者若有語。即向伊道。還我無行者處來)。
一行者有りて、法師に随いて佛殿に入る。行者は佛に向いて唾す。師は言った。「行者は去就少なし、何を以って佛に唾する。」者は言った。「佛無き処を将て某甲と与に唾せしめよ。」師は対無し。(潙山曰く、「仁者は卻て不仁者、不仁者は卻て仁者。」仰山は法師に代わりて言った。「但だ行者に唾せ。」又曰く、「行者若し語有らば、即ち伊に向いて道え、我に行者無き処を還して来れと。」)
死魚浮於水上。有人問僧。魚豈不是以水為命。僧曰。是。曰。為甚麼卻向水中死。僧無對。(杭州天龍機和尚代雲。是伊為甚麼不去岸上死)。
死魚は水の上に浮かぶ。人僧に問うた。「魚は豈に是れ水を以って命と為すに非ずや。」僧は言った。「是。」曰く、「何を為めて卻て水の中に向いて死する。」僧は対無し。(杭州天竜機和尚代わりて言った。「是れ伊は何を為めて岸の上に去りて死せざる。」)
鷂子趂鴿子。飛向佛殿欄幹上顫。有人問僧。一切眾生。在佛影中常安常樂。鴿子見佛為甚麼卻顫。僧無對(法燈代雲。怕佛)。
鷂子は鴿子を趁いて、飛びて佛殿の欄干の上に向いて顫う。人僧に問うた。「一切の衆生は、佛の影の中に在りて常に安く常に楽し。鴿子は佛を見て何を為めて卻て顫う。」僧は対無し。(法灯代わりて言った。「佛を怕れり。」)
昔有一僧去覆船。路逢一賣鹽翁。僧問。覆船路向甚麼處去。翁良久。僧再問。翁曰。你患聾那。僧曰。你向我道甚麼。翁曰。向你道覆船路。僧曰。翁莫會禪麼。翁曰。莫道會禪。佛法也會盡。僧曰。你試說看。翁挑起鹽籃。僧曰。難。翁曰。你喚這箇作甚麼。僧曰。鹽。翁曰。有甚麼交涉。僧曰。你喚作甚麼。曰。不可更向你道是鹽。
昔一僧有りて覆船に去るに、路に塩を売る翁に逢う。僧は問うた。「覆船の路は什麼の処に向いて去る。」翁は良久とした。僧は再び問うた。翁は言った。「汝は聾を患う那。」僧は言った。「汝は我に向いて什麼を道う。」翁は言った。「汝に向いて覆船の路を道う。」僧は言った。「翁は禅を会するや否や。」翁は言った。「道う莫れ禅を会すと、佛法も亦た会し尽くせり。」僧は言った。「汝試みに説きて看よ。」翁は塩の籃を挑げ起した。僧は言った。「難し。」翁は言った。「汝は這箇を喚びて什麼と作す。」僧は言った。「塩。」翁は言った。「什麼の渉ること有る。」僧は言った。「汝は喚びて什麼と作す。」曰く、「可ならず更に汝に向いて是れ塩と道わん。」
昔有婆子供養一庵主。經二十年。常令一二八女子送飯給侍。一日。令女子抱定。曰。正恁麼時如何。主曰。枯木倚寒巖。三冬無暖氣。女子舉似婆。婆曰。我二十年祗供養得箇俗漢。遂遣出。燒卻庵。
昔婆子有りて一庵主を供養す、二十年を経て、常に一二八の女子に飯を送らしめて侍を給す。ある日、女子に抱き定めしめて、言った。「正にかくの如くなる時如何。」主は言った。「枯木は寒巌に倚りて、三冬は暖気無し。」女子は挙げて婆に似す。婆は言った。「我は二十年只だ箇の俗漢を供養し得たり。」遂に遣り出して、庵を焼き却けり。
昔有一僧參米胡。路逢一婆住庵。僧問。婆有眷屬否。曰。有。僧曰。在甚麼處。曰。山河大地。若草若木。皆是我眷屬。僧曰。婆莫作師姑來否。曰。汝見我是甚麼。僧曰。俗人。婆曰。汝不可是僧。僧曰。婆莫混濫佛法好。婆曰。我不混濫佛法。僧曰。汝恁麼。豈不是混濫佛法。婆曰。你是男子。我是女人。豈曾混濫。
昔一僧有りて米胡に参ずるに、路に庵に住する婆に逢う。僧は問うた。「婆は眷属有るか否や。」曰く、「有り。」僧は言った。「什麼の処に在る。」曰く、「山河大地、若くは草若くは木は、皆是れ我が眷属なり。」僧は言った。「婆は師姑を作して来るや否や。」曰く、「汝は我を見て是れ什麼ぞ。」僧は言った。「俗人。」婆は言った。「汝は可ならず僧。」僧は言った。「婆は佛法を混滥するを好まざれ。」婆は言った。「我は佛法を混滥せず。」僧は言った。「汝かくの如くは、豈に是れ佛法を混滥するに非ずや。」婆は言った。「汝は是れ男子、我は是れ女人。豈に曾て混滥せしや。」
龐行婆。入鹿門寺設齋。維那請意旨。婆拈梳子插向髻後曰。迴向了也。便出去。
龐行婆は鹿門寺に入りて齋を設く。維那是意旨を請う。婆は梳子を拈じて髻の後に向いて挿して言った。「回向し了えり。」便ち出でて去った。
溫州陳道婆。甞徧扣諸方名宿。後於長老山淨和尚語下發明。有偈曰。高坡平頂上。盡是採樵翁。人人盡懷刀斧意。不見山花映水紅。
温州の陳道婆は、嘗て遍く諸方の名宿を叩く。後に長老山浄和尚の語の下に於て発明す。偈有りて曰く、「高き坡の平頂の上は、尽く是れ樵を采る翁。人々は尽く刀斧の意を懐きて、山の花の水を映ずる紅を見ず。」
昔有施主婦人入院。行眾僧隨年錢。僧曰。聖僧前著一分。婦人曰。聖僧年多少。僧無對(法眼代雲。心期滿處即知)。年秖供養得箇俗漢。遂遣出。燒卻庵。
昔施主の婦人有りて院に入りて、衆僧に年に随う銭を行す。僧は言った。「聖僧の前に一分を着けよ。」婦人は言った。「聖僧は年多少ぞ。」僧は対無し。(法眼代わりて言った。「心の期の満つる処に即ち知らん。」)年は只だ箇の俗漢を供養し得て、遂に遣り出して、庵を焼き却けり。
