山岡營壘篇
山有岡巒,地有形勢。斷其形,則氣勢滅。故秦築長城,鑿其山岡之氣,而咸陽邱墟;隋䟽汴河,斷乎土地之脈,而江都荊棘。成周卜遷伊洛,得瀍澗之利,而王年八百;吳、晉奄宅建業,得江山之勢,而延期數葉。
山に岡巒の起伏有りて、地に形勢の走向有り。一旦山形を斬断せば、気勢もまた之に随いて消散す。故に秦朝は長城を修築して、山岡の地気を鑿断して、結果咸陽は廃墟に淪落し、隋朝は汴河を開通して、土地の脈絡を切断して、結果江都は荊棘を長満たしき。反して、周朝は卜居して伊水・洛水の一帯に遷都して、瀍水と澗水との形勝の利を占めて、是に於て国祚は綿延して八百年にして、孫呉と東晋とは建業を據有して都と為して、江山の勢を得て、もまた此に因りて好几代を延續せり。
夫建都邑、築城壘,必擇形勢。雖成敗在人,不在於城地,然地形山勢,足以為人之助也。故曰:趙之地坦然平,吳楚之地東南傾,秦韓之地龍虎形,幽魏之地無邱陵。夫趙無陂險、山岡、溝澗,故曰坦然平。吳楚之有江海、波潮,故曰東南傾。秦韓被山帶河、岡巒重複,故曰龍虎形。秦得龍虎之形,而東吞趙魏,南併荊楚。
凡そ都城を営建し城壘を修築するは、必ず好き形勢を択擇するを須とす。雖も成敗は人に取决して、城池土地に取决せずと説くも、但是地形山勢は以て人に助力を与うるに足る。故に此の様の説法有り――趙国の地勢は坦蕩平曠にして、呉楚の地勢は東南に向かって傾斜し、秦韓の地勢は龍虎の形を呈して、幽州と魏地との一帯は丘陵無し。趙国は陂陀険阻・山岡溝澗無ければ、故に其を坦蕩平曠と説き、呉楚は江海の波濤潮汐有れば、故に其を東南に向かって傾斜と説き、秦韓は高山に背負い大河に環繞して、岡巒重重疊疊たれば、故に其を是れ龍虎の形と説く。秦国は正に是れ龍虎の形を占めて、始めて能く東に向かって趙・魏を吞併し、南に向かって荊楚を兼併せり。
夫建都邑、列營壘,非地勢不王,非山岡不固。營壘之法:欲北據連山,南憑高岡,左右襟帶,地水東流,乾上伏下,過子艮、寅卯,重岡入巽。
都城を営建し営壘を布列するは、好き地勢無ければ則ち王業を成す能わず、山岡の依托無ければ則ち守りて固牢ならず。営を安んじ壘を立つの法則は――北面は要に連綿の山脈に背靠して、南面は要に高聳の土岡に凭借して、左右は衣襟帯子の一様に環抱して護衛して、地上の水流は東に向かい、地脈は西北の乾方より起伏して下りて、正北の子位・東北の艮位および寅・卯の地を経過して、重重の山岡は一路に東南の巽方に伸入す。
又曰:戌連申酉,坤未高;前有迎山,抱且朝;或驚或躍,或蟠龍;藏車隱馬,若飛鴻;支條散脈,如蛇走;氣車森聳,似雞籠;四維皆起,四仲平;㢲水迤邐,出自庚;天門倚伏,歴壬癸;直出地戶,東南傾;南有汙池,為朱雀;北有堆阜,為元武;東有叢林,為青龍;西有大道,為白虎。
又説く――西北の戌位は申・酉を連ねて、西南の坤位と未位とは地勢高聳して、前方に迎面而來の山有りて、環抱して而且に朝拱し、山形は或は受驚のごとく、或は騰躍のごとく、或は盤曲の龍のごとくして、車を蔵るを得て馬を掩るを得て、遠く望むは飛行の鴻雁に似て、支脈は条条に散開して、長蛇の游走に似て、気脈は森然として聳立して、鶏籠の一般に層疊して、四隅の位は皆隆起して、四正の位は則ち平坦にして、東南の巽方の水は蜿蜒曲折して、西方の庚位より流出し、西北の天門の一帯の地勢は起伏隱伏して、壬・癸の两位を経過して、直に東南の地戸に通じて、整体は東南に向かって傾斜す。南面に低洼の水池有りて、朱雀を作し、北面に堆起の土阜有りて、玄武を作し、東面に叢林有りて、青龍を作し、西面に大道有りて、白虎を作す。
四獸旣具,八卦乃列,乃立表測影,以定子午之位。興土工,先本戊上;起版築,從中步至門。夫草木不生,不可居;鳥獸不集,不可居;燋石沙礫,不可居;河水逆流,不可居。朱雀無頭,元武折足,白虎銜尸,青龍悲哭,強居之者,兵敗將死。
四獣の形勢は皆斉備すれば、八卦の方位は始めて排定し好く、是に於て標杆を立起して日影を測量して、以て正南正北の子午の方位を確定す。土を動かし施工するは、要に先ず戊土の位より手を起し、版築を開始して牆垣を築くは、要に中央より営門に到るまで丈量す。几種の地方は住む能わざるの有り――草木の生ぜざるの地方は、住むべからず、鳥獣の來りて聚集せざるの地方は、住むべからず、遍地の焦石沙礫の地方は、住むべからず、河水の倒流するの地方は、住むべからず。此の外、南面の朱雀の位に山頭無く、北面の玄武の位に山脚断折し、西面の白虎の位は屍を銜むに似て、東面の青龍の位は形は悲泣のごとき――凡そ硬に此の種の地方に駐扎せんとするは、必定に兵敗れ将亡せん。
山形岡隴
山若蟠龍,玉案數重,宛轉邪曲,首尾相從;山若鳳皇,翅翼開張,群隊千萬,帶隴扶岡,前有印綬,後有囘翔;山若飛龍,首尾遠同,或驚或躍,乍橫乍縱,臺傾池潤,舞鶴翔鴻;山若臥狗,頭拳尾就,腹內乳見,項連山首;山若麒麟,乍立乍蹲,群從千萬,朝者數人;山若長蛇,或曲或邪,後岡前谷,隱馬藏車:凡此,皆營壘之形勢也。
山形は盤踞の龍に似て、前面は玉案に似たる平台重重疊疊にして、山勢宛転斜曲して、首尾相互に跟随し、山形は鳳凰に似て、双翅は張開して、随行の小山は成千上万にして、一路に土隴を帯び山岡を扶けて、前方に印綬のごとき方正の小丘有りて、後方に回旋飛翔の勢有り、山形は飛龍に似て、首尾遙々として相應して、忽ち驚起し忽ち騰躍し、一會兒は横列し一會兒は縦伸して、台地は傾斜して池水は潤沢にして、舞鶴翔鴻のごとく、山形は臥せる狗に似て、頭は蜷曲し尾は収攏して、腹部は乳状の小丘を現出して、頸項は山頭を連ね、山形は麒麟に似て、忽ち立ち忽ち蹲して、随従の群山は成千上万にして、正面に朝拱するは卻って寥寥の数座のみ、山形は長蛇に似て、或は弯く或は斜にして、後面は是れ岡にして前面は是れ谷にして、馬を蔵め下るを得て車を掩い住むを得たり。以上の此らは、皆是れ営を安んじ壘を立つの時に辨认する要きの形勢なり。
