天功第一
天道は運行變化して、萬物をしてあるいは消退しあるいは生長せしむ。必ず大地の承載の力と相合して、萬物は始めて眞に生成を得。天は尊貴にして地は卑…
綜合類典籍
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天道變化,消長萬匯,契地之力,乃有成爾。天貴而地賤,天動而地靜,貴者運機而賤者效力。上有其動,而下行其地矣。是以知天之施地匪專也,知地之應天有常也。生機動則應之以生,氣機動則應之以氣。機正則泰,機亂則否。萬物列形而否泰交著,見之於地焉,豈止地之為乎?蓋天道內而地道外者也。
天道は運行變化して、萬物をしてあるいは消退しあるいは生長せしむ。必ず大地の承載の力と相合して、萬物は始めて眞に生成を得。天は尊貴にして地は卑下、天は運動して地は靜止す。尊貴の方は樞機を掌握し、卑下の方は實力を出す。上に發動あれば、下は大地の上にそれを落實す。これより知るべし、上天の大地に施加するは一途に専守せず、大地の上天に回應するは恒常の規律あり。生長の樞機一動すれば、大地は生長を以て回應し、氣化の樞機一動すれば、大地は氣候を以て回應す。樞機端正なればすなわち「泰」にして上下交通し、樞機紊亂すればすなわち「否」にして上下阻隔す。萬物各々形態を呈し、通と塞とが交替して顯現するは、皆大地上に表われ、豈にただ大地自ら造成するのみならんや。其實は天道が內に主導し、地道が外に承受するのみなり。
王者,天也;將,地也。將者,天也;士卒,地也。我,天也;敵,地也。由此觀其所動,故負勝可知矣。王之於將也,閫外之寄,擇賢授柄,舉無所疑。將必內應其正,外務其順。應以正則師律嚴,務以順則臣節貞。舉而禦敵,詎有輿尸之患乎?君恃智以自用,倨禮而傲下,授柄匪人,任人不信,將不正應,內包猶豫之惑,外喪馭眾之威矣。舉而禦敵,寧免失律之凶乎?師之成敗見之於將焉,豈將之為乎?
君王は天に譬え、主將は地に譬う。主將は全軍に對してまた天にして、士卒は地なり。我方は天にして、敵方は地なり。この層層の對應關係より雙方の動靜を觀察すれば、勝負は預め知るべし。君王の主將に對するは、國門以外の軍事全權を托付し、賢能の人を選んで兵權を授與し、一たび任命すれば則ち猜疑せず。主將は則ち必ず內心に君王の端正に回應し、外には行事の理に順うを務むべし。端正を以て相回應すれば、軍中の紀律嚴明なり。理に順って事を辦すれば、人臣の節操堅貞なり。かかる軍隊を帶びて敵人を抵禦すれば、何處にかまた《周易・師卦》の謂う所の「輿尸」——大敗の後車を以て尸體を載せて歸る——の禍患あらんや。反って、君主が聰明を自恃みて獨斷專行し、禮數を輕慢して臣下を傲視し、兵權を合適ならざる人に授與し、人を用いてまた彼を信任せざれば、主將もまた端正の心を以て相回應すること能わず、內心は猶豫不決の迷惑を裹み、外にはまた部衆を統御する威信を喪失せん。かかる軍隊を帶びて敵人を抵禦すれば、何ぞ「失律」——軍紀敗壞の招致する凶險——を免れんや。一支の軍隊の成敗は主將の身に表わる。豈に單に主將一人の造成するのみならんや。
將之為任也,智敵萬人,茍無萬人之用,與愚者同矣;勇冠三軍,茍無三軍之用,與懦者同矣。善為將者正而能變,剛而能恤,仁而能斷,勇而能詳,以策馭吏士,未有不振拔勛業,以戡禍亂者也。反是,則吏士外無攻,內多離散之勢。勇怯見之吏士焉,豈吏士之為乎?
主將この職任は、智謀たとえ萬人に匹敵するに足るも、假如萬人の效用を發揮し出さざれば、愚昧の人と同じ。勇武たとえ三軍に冠絕するも、假如三軍の效用を發揮し出さざれば、怯懦の人と同じ。善く主將を爲す人は、端正にして能く權變に通じ、剛強にして能く下情を體恤し、仁厚にして能く機に當って斷を立て、勇猛にして能く思慮周詳なり。謀略を以て軍吏士卒を駕馭すれば、かかる人は功業を建立し禍亂を平定せざるなし。これと相反せば、軍吏士卒は外に攻取の力なく、內に多く離心渙散の勢あり。將士の勇敢あるいは怯懦は軍吏士卒の身に表わる。豈に單に軍吏士卒の造成するのみならんや。
我之於敵也,夫功拔戰勝,使敵不敢抗衡者,豈敵怯乎?由我威令整,進退肅,賞罰明也。覆兵殺將,弱國削地者,豈敵強威乎?由我不嚴師律故也。夫如是,亦自上而及下,自內而迨外,其猶天地之用乎。故天必藉地力,然後運四氣,正生殺也;貴必藉賤力,然後能立元功而建王業也。
更に我方と敵方の關係を説くに、能く敵城を攻拔し臨陣して勝を取り、敵人をして我と抗衡するを敢てせしめざるは、豈に敵人の天生怯懦ならんや。我方の威令整肅・進退嚴明・賞罰公開するが故なり。反って、全軍覆沒し主將殺され、國勢削弱して土地割かるるは、豈に敵人の特別強大にして威勢あらんや。我方の能く軍紀を嚴明にせざるの緣故なり。この如くにして、仍ほ上より下へ・內より外へ作用するは、これ正に天地の相輔相成する道理に同じからずや。ゆえに上天は必ず大地の力に憑藉し、然る後乃ち四時の氣を運行し、萬物の生長と肅殺とを端正し得べし。尊貴の者も必ず卑下の者の效力に憑藉し、然る後乃ち首功を建立し王業を成就し得べし。
地利第二
地之形,險易殊也;地之氣,寒熱異也。用形與氣,在知逆順焉。昧此道者,不能得地利必矣。善用地者則不然,險而易之,易而險之也。夫居險用險必內潰,居易用易必內蹶。當有形之用,逆之者善矣。何謂險而易之?曰:簡以夷其政,要以節其動,用以緩其約,不以疏慢為失也。何謂易而險之?曰:進止戒嚴,內外無怠,用其謹慎,不以暴急為務也。如是者,乃險易之用也。
大地の形勢は、險峻と平易の分別あり。大地の氣候は、寒冷と炎熱の差異あり。地形と地氣とを運用するに、關鍵は何が逆・何が順かを懂得するに在り。この道理を明白にせざる人は、必ず地利を得ず。善く地を用うる人は然らず。險地に處してかえって平易の法を用い、平地に處してかえって險峻の法を用う。何となれば、身が險地に在ってなお一味に急迫の法を用いれば、內部必ず潰散し、身が平地に在ってなお一味に松緩の法を用いれば、內部必ず顛仆すればなり。有形の地勢に對付するは、「逆」の用法を採るが高明なり。何をか「險にしてこれを易くす」と謂う。すなわち政令簡明にして平和を求め、要領を抓住して行動を節制し、處置從容にして約束を放寬するも、決してこれに因って疏忽怠慢と爲り差錯を出すことなし。何をか「易にしてこれを險にす」と謂う。すなわち行進と駐止と皆戒備森嚴にして、內外懈るを敢てせず、一切の做法皆謹慎を力めて求むるも、また急躁暴烈を以て正事と爲さず。この兩條を做到すれば、すなわち險地と易地各々の正確の用法なり。
以方位觀之,則寒熱之氣異也。當有氣之用,順之者善矣。南方之氣熱,北方之氣寒也。其氣異則水土之性必相戾,逆諸人而使之飲其地脈,食其土毛,蒙其風氣,瘴癘之疾、凍澀之戾加焉。以我之不便,犯順方之人,不有患乎?天不能以氣順人,君能以人順氣,可也。
方位より看れば、各地の寒熱の氣も亦た相同じからず。無形の地氣に對付するは、「順」の用法を採るが高明なり。南方の氣は炎熱、北方の氣は寒冷なり。氣候同じからざれば、水土の性質必ず互相抵觸す。若しこの點に違背し、硬して士卒をして異地の水を喝し、異地の土壤の生ずる穀物草木を食い、異地の風土を承受せしめば、瘴氣疫病と凍傷僵痹の病害とが隨って身に加わらん。我方の適應せざる條件を以て、もとより當地の水土に適應する人を進犯せんとすれば、能く禍患を出さざらんや。上天は氣候をして人に遷就せしめず、君主は卻って人をして氣候に適應せしめ得。これ乃ち可行の辦法なり。
是故利不可以專一。北人之馬,南人之航也,各有便焉。反是,不可措手足矣。行師者不能擇而用之,斯亦更北南之所便也。冀其成功,遠矣。是知地之所利者,可兼而有乎。善用兵者,擇利而從之,善矣。
ゆえに地利は一端に偏執すべからず。北方人は馬を用うるに擅み、南方人は船を用うるに擅み、各々便利あり。若し顛倒せば、則ち手足に措く所なし。兵を帶ぶる人若し地に因りて相應の辦法を選擇し能わざれば、則ち南方と北方各々の長處を對調して用うるに等しく、これを指望して成功せんとすれば、則ち差ること太だ遠し。これより知るべし、地形の提供する種種の便利は、兼收して並び用うる可きなり。善く兵を用うる人は、自己に有利の條件を選擇してそれに順應す。これ乃ち高明なり。
人用第三
今之世取人也,每務其多學而舍其偏技,非良術也。兵家所利,隨其長短而用之也。是以善撫恤者勿頻鬥,慮其勞疲而無勇也;善保守者勿使進攻,慮其遲緩而不猛也;多方者勿使與於決事,慮其猶豫也;多勇者勿與謀敵,慮其過輕也。
當今の世の人才を選用するに、總じて博學多能の人を看重して、ただ一技の長ある人を舍棄す。これは好辦法に非ず。兵家の看重する所は、各人の長處短處に依照して分別して任用を加うるに在り。ゆえに、善く部下を撫恤する人は彼をして連續して苦戰せしむるなかれ。怕るるは彼の體恤が頭を過ぎ、士卒勞累疲憊して勇氣を提起せざるなり。善く據守する人は彼を派して進攻せしむるなかれ。怕るるは彼の持重遲緩にして勇猛足らざるなり。辦法多すぎる人は彼をして大事の決斷に參與せしむるなかれ。怕るるは彼の反覆權衡・猶豫不決なり。勇氣人に過ぐる人は彼と同じく敵情を謀劃するなかれ。怕るるは彼の輕率に失するなり。
精悍者使鬥;果敢者使攻也;沉毅而性執者,使其據阻險;見小而貪財者,不可使守儲蓄;智而善斷者,可擇其言;輕健者使誘敵;剛愎者使當鋒;利口喋喋者使行問;善鼠竊狗偷者使盜號探敵;惡言多罵者使之揚毀訾詈;奇材異識者使預談論;深識大度者使安眾;崛強多力者使斬闢榛莽;善隨地形結構者使度樹營柵;怯懦者使輦運器用;老弱者使備炊汲;諳山川、擇高下水泉之利者,使察地形;妖言詐辭、善張皇鬼神之心、推引天命者,使揚聲惑眾以動敵心;善擇地勢平易險阻,知往來細大之蹊路者,使通糧儲;奇辭偉辯、能架虛矜大者,使奮振威德;耳目聰明、探察敵人情者,使伺候奸偽;敏才健筆者,使主箋檄。
精明強悍の人は派して搏殺せしめ、果斷勇敢の人は派して進攻せしめ、沈著剛毅にして性情執著の人は、彼を派して險要を據守せしめ、眼光短淺にしてまた財を貪る人は、彼をして軍需儲備を看管せしむる可からず。智謀ありてまた善く決斷する人は、彼の建議を採納すべし。輕捷矯健の人は派して敵を誘い、剛愎固執の人は派して前鋒に擋らせ、口齒伶俐にして說き止まざる人は派して出使して問對せしめ、善く雞を偸み狗を摸す人は派して敵軍の口令を竊取し敵情を刺探せしめ、口を出して人を傷り罵るを好む人は派して陣前に叫罵詆毀せしめ、才識奇特の人は彼をして議事に參與せしめ、見識深遠・氣度寬宏の人は彼をして部衆を安撫せしめ、倔强にして力大なる人は派して叢林荒草を砍伐開闢せしめ、善く地形に依りて營を立つる人は派して勘量し營寨柵欄を樹立せしめ、膽小怯懦の人は派して車輛を以て器械物資を搬運せしめ、年老體弱の人は派して火を燒き水を汲ませ、山川に熟悉し高低水泉の利を挑選するを會する人は、彼を派して地形を勘察せしめ、妖言詭辭を編造し鬼神の説を渲染し天命に附會するを善くする人は、彼を派して聲勢を張揚し人心を蠱惑して以て敵軍の軍心を動搖せしめ、善く地勢の平險を分辨し大小道路の往來を熟知する人は、彼を派して糧道を打通せしめ、言辭奇特・能言善辯・能く虛張聲勢して誇大其詞する人は、彼を派して我軍の威德を張揚せしめ、耳目聰敏にして敵方の內情を探察し得る人は、彼を派して敵方の奸細と僞裝とを偵伺せしめ、才思敏捷にして下筆快捷の人は、彼をして書信檄文を主管せしめよ。
明七曜休咎者,為曆數之士;善占風雲吉凶者,為候氣之士;曉六壬遁甲者,為選日時之士;諳蓍龜者,為卜筮之士。是四人者,雖推驗體測陰陽,各不可使相亂,貴其專一也。醫藥之人,二十人已上,以兵數增之。獸醫亦如醫人之數。大將軍權通材者,與之參議可否。故我大眾之內有善有惡,無棄人焉。人無所棄,斯不怨則動有功矣。
日月と五星(合わせて「七曜」と稱す)の吉凶に通曉する人は、歷數を推算する術士に充て、善く風雲の吉凶を占測する人は、氣を望む術士に充て、「六壬」「遁甲」のこの兩種の術數を懂得する人は、日期時辰を選擇する術士に充て、蓍草と龜甲の占法に熟悉する人は、卜筮の術士に充てよ。この四類の人は同じく推演驗證し陰陽を體察するも、各人の職分は互相混雜すべからず、各々一門に専らなるを貴ぶとす。軍中の醫藥人員は、二十人以上を配備し、部隊人數の多少に按じて相應に增加す。獸醫の員額もまた醫生に比照す。主將の軍中の通達多能にして事に隨って權變し得べき人才に對しては、彼らと同じく各項擧措の可行與否を商議すべし。ゆえに我方大軍の內、人に優劣あるも、抛棄すべきは一箇もなし。人人皆用處あれば、則ち怨恨を心に生ぜず、一旦行動すれば便能に實效を收むべし。
三才應變第四
《易》曰:見機而作,不俟終日。故用兵之術,知變為大。軍雖氣銳時勝〈一作遇天時〉,而行列散潰,旌旗紊亂,金鼓不節,擊之可也。或曰:彼得天時,詎可破乎?許洞曰:天之所祐,正也。怙天時而戾軍政,與天違也。天人相違,不凶何俟?故兵利以順應順也。順而逆應之,必凶之兆也。
《周易・繫辭下》に曰く、「機を見て作し、終日を俟たず」と——苗头を察覺すれば立刻行動し、一天の過ぐるを等つ要なし。ゆえに用兵の關鍵は、應變を懂得するを以て最も要緊とす。敵軍雖士氣銳盛にしてまた天時を占むるも(此の句は一本に「天時に遇う」と作る)、ただ行列散亂し旌旗紊亂し金を鳴らし鼓を撃つも節度に合わざれば、便ち出撃すべし。人ありて問う、對方が天時を占めたれば、豈に還って彼を打敗ることを得んや、と。許洞答えて曰く、上天の保佑する所は「正」なり。天時を倚仗して軍政を敗壞せば、すなわち天意に違背す。天意と人事と相違背せば、凶險に遭わずして何を等たんや。ゆえに用兵の利は、順を以て順に應ずるに在り。本來順應すべきを偏に相反の做法を用いて對待すれば、則ち凶險の先兆なり。
或曰:軍乘天時,跨有地利,將吏驕怠,謀劃不精,軍陣散亂,如之何?洞曰:可擊也。彼獲天地之利,如何擊之?曰:人者,天地之心也,茍心不正,雖有其表,將焉用乎?或曰:軍違天時、逆地利,大將深謀沉毅,部伍清肅,進退有節,如之何?許洞曰:未可擊也。曰:不獲天地之利,奚謂未可乎?曰:正則可以率天地之用,草寇可為王矣。
人ありて問う、敵軍すでに天時を占め、また兼ねて地利あり、ただ將吏驕傲懈怠し、謀劃精ならず、軍陣散亂す。如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、攻撃すべし、と。また問う、彼らすでに天地の利を得たれば、何ぞ攻撃し得るや、と。答えて曰く、人は天地の心なり。若し人心正しからざれば、たとえ外表上に天時地利を占め盡すも、また何の用あらんや、と。反ってまた問う、敵軍天時に違背し、また地利を占めず、しかも主將深謀遠慮・沈著剛毅にして、部伍清整肅然・進退節度あれば、如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、なお攻撃すべからず、と。また問う、彼ら天地の利を得ず、何を以て攻撃すべからずと説くや、と。答えて曰く、ただ立身端正なれば、便能に天地の力を駕馭して己の用と爲し、草莽起兵の人ですら王業を成就し得。いはんやかかる整肅の師をや、と。
或曰:彼如是也,我之動將之如何?許洞曰:先以人,次以地,次以天,然後攻之,必克敵也。曰:先後如之何?曰:利為主。何謂主?曰:動為客,靜為主。觀敵之動何如,乃應之〈夫書言動者,不必戰陣時,敵人先動為客也。但密構敵人所為之事謂之動,則我以機應之必勝焉〉。先勝而後舉,神明之道也。
人ありて問う、敵人すでにこの種の情形なれば、我方は如何に行動すべきや、と。許洞答えて曰く、まず「人」の上より着手し、その次は「地」、更にその次は「天」、然る後再び進攻せば、必ず敵人に勝利し得べし、と。また問う、この先後の次序は如何に講じるや、と。答えて曰く、有利與否を以て主導と爲す、と。何をか「主」と謂う、と。答えて曰く、先に動く一方は客、靜かに守る一方は主なり。敵人の如何に動くかを看て、然る後それに隨って應對す(原注:書中の謂う所の「動」は、必ずしも兩軍對陣の時敵人先動して初めて客と算作するに非ず。ただ暗中に計を設けて敵人を誘使して擧動あらしめば、すなわち「動」と謂い、我方相機に應對すれば必ず勝を取る)、と。先に必勝の勢を造成して然る後乃ち兵を出す。これすなわち神妙高明の用兵の道なり。
三才隨用第五
天著吉凶,以陰陽辯也;地布險易,以山川章也;人包勇怯,以戰陣見也。茍〈一作有〉欲陰陽之順,險易之利,勇怯之用,在於閑暇可得而擇也。當彼我相逢,各出不意,忽然交合,曷能擇所利而用哉?
上天は吉凶を顯示し、陰陽の變化に靠って分辨す。大地は險易を布列し、山川の形貌に靠って彰顯す。人は勇敢と怯懦とを包藏し、戰陣の上に到りて初めて看出すを得。若し陰陽に順應し、險易の利を取得し、勇怯各々の用處を發揮せんと欲せば(「茍」の字は一本に「有」と作る)、ただ從容閑暇の時に在りてのみ條件ありて挑選安排し得べし。敵我相逢うに及び、彼此皆意料に出でず、突然遭遇して交手すれば、何處にか還って好條件を挑んで更に使用するを容れんや。
或曰:兩師不期逼於險地,天地震晦,雨雪交積,山川不辯,當此之際,何以禦之?許洞曰:大將止眾堅陣,嚴肅號令,雖敵來攻,勿與交戰。俟天變少罷,觀弱強之勢,而後進退之。曰:我既安矣,彼自驚撓,則如之何?曰:以積兵乘之。
人ありて問う、兩軍不期して遇い、また險惡の地に逼られ、雷震風急・天昏地暗、雨雪交加堆積して、山川皆辨認し清らかならず。かかる時、何を以て抵禦せんや、と。許洞答えて曰く、主將は當に部衆を約束し陣形を堅守し、號令を嚴肅にし、たとえ敵人來攻するも、彼と交戰するなかれ、と。天候變化の稍く平息するを等ち、雙方強弱の勢を看清み、然る後再び進あるいは退を決定す、と。また問う、我方すでに安穩なれど、敵人卻って自ら驚慌騷亂す。あれは如何にすべきや、と。答えて曰く、蓄養待發・銳氣を養足したる兵力を以て勢に乘じて彼を攻撃せよ、と。
又曰:倉卒之際,大將以何術即能堅行陣、嚴號令,使士卒不自驚亂?許洞曰:善用兵者,有動必備。預擇輕勇者二十四人,八方各三騎,相去一里,晝以旗,夜以鼓〈過山川委曲,叢林茂密,晝亦鳴鼓,恐不見旗〉。第一騎見賊晝舉旗,第二騎亦如之,第三騎馳告。夜用鼓,如晝法〈恐敵聞鼓聲急馳告〉。
また問う、倉促の間、主將は何の辦法を以て能く马上に行陣を穩住し號令を嚴明にし、士卒をして自相驚亂せざらしめんや、と。許洞答えて曰く、善く兵を用うる人は、一行動あれば必ず先に準備あり。預め輕捷勇敢の士卒二十四人を挑選し、八箇の方向に各々三名の騎手を派し、彼此一里を相距り、白日は旗號を以て傳遞し、夜間は鼓聲を以て傳遞す(原注:山川曲折・叢林茂密の地方を經過する時は、白日もまた鼓を撃つ。怕るるは旗を見得ざるなり)。第一騎が敵人を發見すれば、白日すなわち旗を擧げ、第二騎照樣に旗を擧げ、第三騎は飛馬回報す。夜裏は改めて鼓を用い、辦法は白日と同じ(原注:敵人に鼓聲を聽かるるを怕れ、則ち直接飛馬急報す)、と。若し煙霧彌漫堵塞し風雷震動して人を驚かし、旗見えず鼓もまた聽えざれば、急いで飛馬回報せよ。これを「八卦探騎」と謂う——八箇の方位に按じて布置したる偵察騎兵なり。これに因りて敵人に遇上するも事先に備あり。一旦天候地勢に變故發生せば、輕裝部隊を帶びて敵人を突撃し、大陣は輕擧妄動すべからず(原注:凡そ大軍の出動は、常に別に輕騎數千人を分出して部隊を編成し游動兵力に充つ。統領の將領は驍勇の人を挑選するを要す)、先に敵人の動靜を觀察して然る後兵を擧ぐ。ゆえに我軍は能く始終整肅を保持す。以上皆天時變化に順應する做法なり。
煙霧蓊塞,風雷震驚,旗之不見,鼓之不聞,亟馳告。斯謂八卦探騎者也。是以值賊而能備焉。茍天地有變,則引輕兵突之。大陣不可妄動〈凡大兵出,常以輕騎數千人別分部隊為遊兵,其將擇驍勇〉,觀彼動靜而後舉焉,故我常用其整也。此皆隨天之變也。
もし煙霧が瀰漫して堵塞し、風雷が震動して人を驚かし、旗は見えず鼓も聞えざれば、急いで飛馬回報せよ。これを「八卦探騎」と謂う——八つの方位に按じて布置した偵察騎兵なり。これにより敵に遇うても事先に備えあり。一旦天候地勢に變故が生ずれば、軽装部隊を率いて敵を突撃し、大陣は軽擧妄動すべからず——先に敵の動靜を觀察して然る後兵を擧ぐ。故に我が軍は始終整肅を保ち得。以上皆天時の變化に順應する法なり。
或曰:與敵卒然相遇,或平原廣澤,或山谷深峭,或坡嶝穹隆,或坳汙沮洳,或草木蒙密,俱是危地,當其用之如何?許洞曰:回渠迂澗,可以沖車突馳也;深峽隘口,可以少擊眾也;長林豐草,可以為伏也;原野漫衍,可以騎兵相屬也;草木隱障,可以步士接戰;長郊往來,可進可退,可以長戟當敵;逾水跨遠,高下相乘,不可得親近,可以長弩當敵;崖壁相隱,狹徑斗回,可以劍盾當敵;葦蕭蘆荻,枝葉朦朧,可以戈梃當敵。此皆隨地之性也。
人ありて問う、敵人と突然相遇し、あるいは平原大澤に在り、あるいは深峻の山谷に在り、あるいは高低起伏の坡崗に在り、あるいは低窪積水の泥濘地に在り、あるいは草木叢密の處に在り、これら皆危險地形なり。如何に兵力を使用すべきや、と。許洞答えて曰く、迂回の溝渠澗道には、衝車突馳して衝擊すべし。深峽隘口には、少を以て衆を擊つべし。茂林豐草には、伏兵を設置すべし。原野遼闊平衍には、騎兵を以て一片に連ねて馳突すべし。草木遮蔽の處には、步卒を以て接戰すべし。長郊曠野に往來自如・可進可退には、長戟を以て敵を迎うべし。水面を隔てて遠く相望・高低相臨して靠近する能わざるには、長弩を以て敵を迎うべし。崖壁互相遮蔽し小路狹窄曲折には、劍と盾とを以て敵を迎うべし。蘆葦荻草叢生し枝葉朦朧には、戈と木棍とを以て敵を迎うべし。以上皆地形性質に順應する做法なり。
或曰:寨柵之間,三軍已憩,寇敵乘間沖突攻擊,當此之時如之何?許洞曰:使勇者據其前,怯者匿其後。忽遽之時,怯者強驅而前進焉,必挫鋒折銳,不若隱之也。曰:當此之時,何暇別勇怯之用乎?曰:不然。善用兵者,防亂於未亂,備急於未急。結營既定,預擇強勇者衛外,怯弱者附之,所以慮晦夜之急也。此皆隨人之性也。如是,順天、地、人預備之道者也。故易之卦以豫者預也,取預備之象為難之用也。故曰:重門擊柝,以待暴客,蓋取諸豫。用兵者可不審於此乎?
人ありて問う、營寨柵欄の內、三軍すでに休息し、敵寇空隙に乘じて衝入して攻打す。この時如何にすべきや、と。許洞答えて曰く、勇敢の人をして前面に守らしめ、怯懦の人を後面に藏せしめよ、と。倉慌の際、若し硬して怯懦の人を前面に驅趕せば、必ず全軍の鋒銳を挫傷す。彼らを隱蔽するに如かず、と。また問う、あの種の時候に到れば、何處にか還って誰が勇・誰が怯を分辨し、再び用途を分派する工夫あらんや、と。答えて曰く、然らず。善く兵を用うる人は、未だ亂れざるに亂を防ぎ、未だ危急ならざるに急を備う。營寨一たび扎定すれば、預め強壯勇敢の人を挑選して外圍を守衛せしめ、怯弱の人をして裏面に依附せしむ。爲す所は正に夜間の突發變故を防備するなり。以上皆人の性情に順應する做法なり。こうすれば、すなわち天・地・人の三者に順って預め準備する道理なり。ゆえに《周易》の「豫」卦、豫はすなわち預の意思、取る所は正に預め防備し以て患難に應付する卦象なり。《周易・繫辭下》に曰く、「門を重ね柝を擊ちて、以て暴客を待つは、蓋し豫に取る」と——層層の門戶を設置し梆を敲きて夜を巡り、以て強暴の來客を防備す。この制度は正に豫卦に取法す。兵を用うる人は、能くこの上に仔細に體察せざらんや。
辯將第六
國家行師授律,生殺之柄,大將所主。將者,國之腹心,三軍之司命也。可不慎於選乎?茍欲命將,預以精誠辯其可否者有四:一曰貌,二曰言語,三曰舉動,四曰行事。其一曰貌。凡眉上雙骨橫起而隆巘者,語言而不純者,目反仰視者,方坐內多虛驚者,行而瞠乎必照後者,目睛多白而有赤焰、瞻視不端者,此六者人有其一,斯人常蘊不臣之心,不可使之也。
國家が兵を出して作戰し軍法を頒授するに、生殺の大權は主將に掌握せらる。主將は國家の腹心にして、全軍性命の主宰なり。選任するに何ぞ慎重ならざらんや。若し主將を任命せんとせば、當に預め精細誠篤の眼光を以て彼の職に稱するや否やを分辨すべし。辦法に四條あり。第一は相貌を看、第二は言語を聽、第三は擧動を察、第四は行事を考す。第一條は相貌を看る。凡そ眉毛の上方に兩條の骨橫起して高峰の如く聳える人、說話吞吐含混にして純正ならざる人、眼睛が上翻して天を看る人、端坐する時心中に常に端なく驚悸する人、走路に眼を瞪らして必ず回頭して背後を察看する人、眼白多くして赤色の火氣を帶び目光斜視して正ならざる人——この六種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、この種の人は心中に常に臣服せんと肯ぜざるの念頭を藏す。任用すべからず。
豐下銳上,神氣安詳者,重德而善安眾人也;目黑多白少,點睛深而神氣與形相副者,機度沉厚,不可以詐動人也;目睛熒朗,五嶽相照,燕頷虎頤者,心機疾速、勇而有斷人也;龜背虎臆點睛深而朗徹者,為事沉毅而有謀,不可以名利誘人也;眉目瞻視詳諦而神骨聳峭者,雄壯有智慮人也。是五者人有其一,可使之也。至若神氣重濁,骨相不正,頭薄而淺,頸大腹細,目睛昏瞢,點睛近上,視顧不正,此皆志氣淺劣、智識庸鄙人也。
下巴豐滿にして頭頂收斂し、神氣安詳なる人は、德行厚重にして善く衆人を安撫する人なり。眼珠黑多白少にして、瞳仁深邃にして神采と形貌と相稱する人は、心機沈穩厚重にして、詐術に打動せられざる人なり。眼睛明亮にして光あり、額・頦・鼻と兩顴のこの「五岳」が互相映照し、燕子の如き下頷・老虎の如き腮頰を長ずる人は、心思敏捷にして勇敢にして決斷ある人なり。背は龜の如く隆れ胸は虎の如く闊く、瞳仁深邃にして清澈透亮の人は、事を辦するに沈著剛毅にして謀略あり、名利に引誘せられざる人なり。眉眼顧盼審慎周詳にして神骨挺拔峻峭の人は、雄壯にして智謀ある人なり。この五種の相貌、一人ただその中の一樣を占めれば、便ち任用すべし。神氣重濁・骨相不正に至っては、頭頂薄く淺く、脖子粗く腹部細く、兩眼昏暗にして神なく、瞳仁偏りて上方に靠り、顧盼の時目光正ならざるは——皆志氣淺薄低劣・見識庸俗鄙陋の人なり。
其二曰言語。人有言肆而目駭視者,心懷異圖也;言枝蔓而不徑者,心有隱也;矜大人善唯恐不至者,黨人也;言錯綜而無所歸者,心躁競也;方言而他視者,心不誠也;言卑而色下者,心有所屈也;方言頻四顧者,其辭妄也;言人之短而視不定者,誣罔人也;言多以私事為憂者,顧妻子之人也;言大而理不精者,其學虛也;色悅而徐徐順人意者,佞媚人也;矜己善而斥人不善者,崛強人也;言欲發而卻縮者,含蓄人也;言無公私必及利者,貪人也;色卑而言多諂者,志下劣人也;事曲而言直,氣悖而言順,鄙而言大,事不詳而強能,理矯而強正,此皆奸詐人也。是十有六者人有其一,不可使也。
第二條は言語を聽く。說話放肆にして眼神驚懼亂瞟する人は、心裏別に圖謀あり。說話枝蔓纏繞して直説せんと肯ぜざる人は、心裏隱瞞する所有り。一味に別人の好處を誇大して誇るに足らざるを唯恐る人は、黨を結び私を營る人なり。話說くこと錯雜にして歸着なき人は、心思浮躁好勝なり。正に話を說いて眼睛卻って別處を看向る人は、心裏誠ならず。言語卑下・臉色もまた低順の人は、心裏委屈する所有り。正に話を說いてまた頻頻に四下を張望する人は、說く所皆妄語なり。別人の短處を議論して眼神游移不定の人は、人を誣陷する人なり。言談の中に總じて私家の事を以て憂と爲す人は、妻兒を牽挂する人なり。口氣很大にして道理精ならざる人は、學問は空なり。滿臉笑意を帶び、慢慢として別人の心意に順って話を說く人は、諂媚討好の人なり。自己の長處を誇耀して別人の不好を指斥する人は、倔强自負の人なり。話嘴邊に到ってまた縮回去る人は、心思含蓄の人なり。話說くこと公事私事を論ぜず總じて利益に牽扯する人は、財を貪る人なり。神色卑屈にして言語多く阿諛の人は、志向低劣の人なり。事情もとより理虧なるを偏に自己在理と說き、語氣悖逆なるを偏に自己恭順と說き、見識鄙陋なるを偏に大話を說き、事情未だ弄清楚せざるを偏に能を逞ばし、道理立たざるを偏に硬して自己端正と說く——これら皆奸詐の人なり。以上十六種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、則ち任用すべからず。
言大而意精至者,有識度人也;言希而出必中者,志節人也;言動而必及國家者,忠孝人也;言奮而不迂者,壯直人也;辭寡而意懇者,公正人也;言多及軍吏之私者,善拊恤人也;言及陣敵喜動色者,好勇人也;言及細微而能剖析是非者,有智人也;言迂闊而卒近於理者,識深見遠人也;言少而事詳者,大度人也;語氣和而神色相稱者,善納眾人也;言徐徐而事備者,性緩而有德人也;言速而事當,性急而不暴,有識人也。是十三者人有其一,皆可使之也。
話說くこと宏大にして意思精到の人は、見識あり度量ある人なり。話甚だ少なくして卻って一たび口を開けばすなわち要害に說中する人は、志節ある人なり。一たび口を開けば必ず國家大事に關涉する人は、忠孝の人なり。言語奮發にして迂腐ならざる人は、剛健正直の人なり。言辭簡省にして心意懇切の人は、公正の人なり。話裏多く軍吏の私下の疾苦を談ずる人は、善く部下を撫恤する人なり。臨陣對敵に說到れば喜色を形に表す人は、勇を好む人なり。細微の事に談到るも能く是非を剖析する人は、智慧ある人なり。話聽き迂遠なるも、最後に卻って總じて情理の上に落到する人は、識見深遠の人なり。話少なくして事を辦するに周詳の人は、氣度宏大の人なり。語氣平和にして神色之と相稱する人は、善く衆人を容納する人なり。話說くこと慢條斯理にして事情辦得周備の人は、性情舒緩にして德ある人なり。話說くこと快くして事を辦するに得當、性情急躁なるも粗暴ならざる人は、見識ある人なり。以上十三種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆任用すべし。
其三曰舉動。行有狼顧者,行與坐忽如驚恐者,非時言語而手足紛拿者,方食而不覺棄匙箸者,方坐而首偏口目輒斜動者,行而唯恐有人逐者,欲坐而頻四顧如有所駭者,方言勃氣上騰神色自得者,待下多卑恭而不實者,觀事覺已如不知而目它視者,是十者有其一,此皆心不誠實,多蓄異圖人也,不可使之也。行欲如大輅,足動而身不搖也;坐欲如山嶽,形神俱定也;臥欲如覆舟,神氣安詳也。此皆智度深沉、大節崇德人也。是三者人有其一,可使之也。
第三條は擧動を察す。走路狼の如く頻頻に回頭する人、行き坐りて忽然驚を受けたるが如き人、時宜に合わず口を開いて話を說き手脚還って亂抓亂動する人、正に飯を喫して不知不覺匙筷を丟掉する人、端坐して頭就ち偏斜し嘴と眼と動輒歪斜亂動する人、走路の時總じて人ありて後面に追趕するを怕る人、將に坐せんとして頻頻に四顧して驚を受けたるが如き人、正に話を說いて怒氣勃然として上衝し神色また自鳴得意の人、下屬に對待するに過分に謙卑恭順にして實在ならざる人、事情看るに明明すでに明白なるを卻って知らずと裝い眼睛別處を看向る人——以上十種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆心地誠實ならず多く異圖を藏する人なり。任用すべからず。走路は大車の行進の如く、脚は動いて身は搖晃せざるべし。坐は山岳の如く、形體と精神と皆安定すべし。睡臥は翻扣せる船の如く安穩にして、神氣安詳なるべし。これら皆智慮深沉・節操崇高にして德を以て重と爲す人なり。以上三種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、便ち任用すべし。
其四曰行事。有人行事先己後人者,好私人也;事繁多而用事不當者,無智人也;作事不急於用者,無益人也;作事有首無尾者,偽人也;先急而後慢者,卒眾庸人也;事不求詳而輒為者,粗疏人也;巧妙而無裨急用者,浮艷人也;所措舍魯鈍而不適用者,愚人也;利害章章而不能析之者,無識人也;臨事而懼者,懦弱人也;進退不決者,無斷人也;記一而忘二者,神昧人也;事虛而構架廣大,以善為惡、以惡為善者,奸人也;善候人之顏色,隨所欲而言者,佞人也。是十四者人有其一,不可使之也。
第四條は行事を考す。事を辦するに先ず自己を顧り後に別人を顧る人は、偏私の人なり。事情千頭萬緖にして處置失當の人は、智謀なき人なり。爲す所皆眼下の急用に非ざる人は、事に補なき人なり。事を做すに頭あり尾なき人は、虛僞の人なり。起初急切にして後來懈怠する人は、終に平庸の輩なり。事情弄清を求めずして動手する人は、粗疏の人なり。做り精巧なるも急需に補なき人は、浮華の人なり。一取一舍皆笨拙にして實用に切らざる人は、愚蠢の人なり。利害明擺するも分折し清らかならざる人は、見識なき人なり。事に遇えば就ち害怕する人は、懦弱の人なり。進退主意を拿定せざる人は、決斷なき人なり。一件を記えば就ち另一件を忘るる人は、心神昏昧の人なり。事情もとより虛妄に屬するを卻って極大に鋪排し、好きを壞しと說き壞しを好しと說く人は、奸邪の人なり。善く別人の臉色を察看し人家の心意に順って話を說く人は、諂佞の人なり。以上十四種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、則ち任用すべからず。
有事簡而用當者,有喜怒之事不露於色者,臨大事而神氣自若者,此謂神有餘人也。有微而不棄,大而不煩者;凶事不懼,美事不喜者;事有眾惑而獨斷之者;事有眾危而獨安之者;事有難動而獨動之者;事有難安而能安之者,此謂志有餘人也。是十者人有其一,皆可使之也。是以知貌也者,神之聚也;言語也者,神之發也;舉動也者,神之用也;行事也者,神之本也。察其神,則盡其為人之道也大矣。況國之命將,可不審於此乎?
事を辦するに簡明にして處置得當の人、可喜可怒の事に遇上して色に形わざる人、大事に面臨して神氣自若の人、これを「神有餘」の人と謂う。事情細微なるも輕易に舍棄せず、事情重大なるも煩擾を覺えざる人。凶險の事に遇うて畏懼せず、順遂の事に遇うて輕喜せざる人。衆人皆迷惑するも彼は獨り決斷し得る人。衆人皆危險と覺ゆるも彼は獨り局面を安定し得る人。事情別人推動せざるも彼は推動し得る人。局面別人安定せざるも彼は安定し得る人——これを「志有餘」の人と謂う。以上十種の表現、一人ただその中の一樣を占めれば、皆任用すべし。これより知るべし、相貌は精神の凝聚、言語は精神の發露、擧動は精神の運用、行事は精神の根本なり。能く一人の精神を考察すれば、人を識るの道理もまた相當に透徹に窮究せり。いはんや國家の主將を任命するに、何ぞこの上に仔細に審察せざらんや。
論將第七
《萬機論》曰:雖有百萬之師,恃吞敵在將者,恃將也。夫舉國之利器以授之,茍非其人,是輕天下。將何以為?謂小大者各有四焉。八者皆無,何足以謂之將乎?其大者:一曰天將,二曰地將,三曰人將,四曰神將;其小者:一曰威將,二曰強將,三曰猛將,四曰良將。
三國魏人蔣濟《萬機論》に曰く、たとえ百萬の大軍あるも、敵人を吞滅し得るを指望する關鍵は仍ほ主將に在り。ゆえに倚仗する所は主將なりと説く、と。全國最も鋒利の武器を一人に交う。若し托する所其人に非ざれば、則ち天下を輕視するなり。主將を爲すは何に憑るや。説くべし、大きな方面に四種あり、小さな方面にもまた四種あり。この八樣一樣も具備せざれば、何ぞ主將と稱するに配せんや。大なる四種は、一を天將と謂い、二を地將と謂い、三を人將と謂い、四を神將と謂う。小なる四種は、一を威將と謂い、二を強將と謂い、三を猛將と謂い、四を良將と謂う。
凡興師舉眾列營結陣,視旌旗之動,審金鼓之聲,揆日度時,以決吉凶;隨五行運轉,應神位出人,以變用兵,敵人不測其所來,以神用兵,我師不知其所為;動有度,靜有方,勝負在乎先見,持天地鬼神之心以安士眾:此之謂天將者也。
凡そ兵を興し衆を動かし營を立て陣を布くに、能く旌旗の飄動の方向を看、金鼓聲音の節奏を辨し、日辰時刻を推算し、據って吉凶を判定し、五行の運轉に順い神煞方位の出沒に配合して人馬を調遣し、變化を以て兵を用いて敵人をして彼の何處より來るかを料到せしめず、神妙を以て兵を用いて自己の部隊ですら彼の何を爲さんとするかを摸透せず、一動に法度あり一靜に方略あり、勝負全て事先に看清むに靠り、能く天地鬼神の心を秉持して以て士衆を安定す——これを天將と謂う。
所至之境,詳察地理〈一作利〉,山澤遠近、廣狹險易、林藪之厚薄、溪澗之深淺,若視諸掌;戰陣之時,前後無阻,左右無滯,步騎使其往來,戈戟葉其所用,指揮進退皆順其情,人馬無逼塞之困,攻守獲儲蓄之利,振野得水草之饒,使人馬無饑渴之色,陷死地而能生,攻亡地而能存,逆地而順用之,順地而逆用之,不擇險易皆能安而後動,動而決勝者:此之謂地將者也。
凡そ到る所の處、皆能く地理を詳細に勘察す(「理」は一本に「利」と作る)。山嶺水澤の遠近・地面の寬窄險易・林木草莽の疏密・溪流澗水の深淺、皆自己の手掌を看るが如く清楚なり。臨陣作戰の時、前後に阻礙なく、左右に滯塞なく、步兵騎兵往來自如にして、戈戟等の長兵器皆用うるに合宜し、指揮進退皆實情に順應し、人馬擠迫壅塞の苦を受けず、攻守皆儲備充足の利を占め得、曠野に駐紮するも水草豐饒の地を取得し得、人と馬とをして饑渴の色を見せず。死地に陷入るも能く生を求め、絕地に攻入るも能く保全し、不利の地形に遇うて能く反って勢に順って利用し、有利の地形に遇うても能く反って奇を出して制勝し、險要なるも平易なるも論ぜず先ず安定して然る後行動し、一動すれば便能に決勝す——これを地將と謂う。
又若廉於財,節於色,疏於酒,持身以禮〈一作公〉,奉上以忠,憂樂與士卒同,獲敵之貨賂而不蓄,得敵之婦女而不留,納謀而能容,疑而能斷,勇而不陵物,仁而不喪法,匿〈一作原〉其小罪,決其大過;犯令者不諱其親,有功者不忌其仇,老者扶之,弱者撫〈一作恤〉之,懼〈一作驚〉者寧之,憂者樂之,訟者決之,濫者詳之,賊者平之,強者抑之,懦者隱之,勇者使之,橫者殺之,服者原之,失者扶之,亡者逐之,來者爵之,暴者挫之,智者暱〈一作眙〉之,讒者遠之;得我城不攻,得地不專;敵淺以待變,敵詭以順會,逆勢則觀,順勢則攻,此之謂人將者也。
更にあの種の財物に廉潔・女色に節制・飲酒に疏遠にして、禮法を以て自身を約束し(「禮」は一本に「公」と作る)、忠誠を以て君上に事え、士卒と同憂同樂し、敵方の財貨賄賂を繳獲して私藏せず、敵方の婦女を俘得して留下せず、能く謀議を採納して人を容るるの量あり、疑難に遇うて能く決斷し、勇敢なるも他人を欺凌せず、仁厚なるも法度を廢棄せず、部下の小過を寬掩し(「匿」は一本に「原」と作る、皆寬宥の意思)、彼らの大錯を嚴處し、令に違う人はたとえ自己の親屬なるも回護せず、功ある人はたとえ自己の仇家なるも忌恨せず、年老のは彼を扶助し、體弱のは彼を撫恤し(「撫」は一本に「恤」と作る)、驚懼の(「懼」は一本に「驚」と作る)は彼を安定し、憂愁のは彼を開解し、爭訟あるは彼の爲に判斷し、行事過分のは彼の爲に查明し、亂を作すは彼を平定し、強橫のは彼を壓制し、怯懦のは彼を隱蔽し、勇敢のは彼を派して上陣せしめ、蠻橫のは彼を處死し、歸服のは彼を寬赦し、過失あるは彼を扶持し、逃亡のは彼を追捕し、來歸のは彼に爵位を授け、凶暴のは彼を挫折し、明智のは彼を親近し(「昵」は一本に「眙」と作る)、讒言を進むるは彼を疏遠し、城池を收回して更に窮めて攻掠せず、土地を取得して私有に據らず、敵人根基淺薄なればその內部の變を生ずるを等待し、敵人詭詐なればその勢に順って之と周旋し、形勢不利なれば兵を按じて觀望し、形勢有利なれば兵を發して進攻す——これを人將と謂う。
又若以天為表,以地為裡,以人為用,舉三將而兼之,此之謂神將者也。行師之時,無失天時,無失地利,無失其人,無有勇怯,聞敵而即行,心無疑慮;犯令者罪無大小,必繩以刑,敵聞之即畏〈一作降〉,當之即破,此之謂強將者也。
更にあの種の天を以て外表と爲し地を以て內裏と爲し人を以て運用と爲し、上面の三種の將才を一身に兼ねる、これを神將と謂う。行軍の時、天時を失わず、地利を失わず、人和を失わず、部下勇敢怯懦を論ぜず一律に驅使して動かし得、敵情を聽くや立刻出動し、心裏疑慮なし。軍令を違犯する人は罪過の大小を論ぜず、必ず法を以て之を繩し、敵人一たび彼を聽説すれば就ち畏懼し(「畏」は一本に「降」と作る)、一たび交鋒すれば就ち擊破せらる——これを強將と謂う。
師無多少,敵無強弱,三軍順令,若臂使指;往復萬變,出其敵不意,舉動如神,匹馬單劍,摧鋒先人,使敵人失措懼而遠盾,此之謂猛將者也。夫能以威為表,以猛為裡,以強居中,兼三將而有之,此之謂良將者也。
自己の部隊多少を論ぜず、對面の敵人強弱を論ぜず、三軍皆號令に順從し、手臂の手指を指揮するが如く靈便なり。往來變化萬端、敵人の意料に出で、擧動神明の如し。單人匹馬・一柄の長劍を以て最も前面に衝りて敵軍の鋒銳を摧折し、敵人をして手足に措く所なく畏懼して遠く退避せしむ——これを猛將と謂う。能く威嚴を以て外表と爲し勇猛を以て內裏と爲し剛強を以て中に居りて主持し、威・猛・強の三者を兼備する、これを良將と謂う。
國之任將也,得天將,可以當違天之敵;得地將,可以當逆地之敵;得人將,可以當悖人之敵;得神將,可以當天下之敵,舉無遺算矣。威將可附天將〈上能順天,下壯威武,所宜附也〉,強將可附地將〈上明地利,下知進退,所宜附也〉,猛將可附人將〈上明人心利害,下以精敢禦敵,所宜附也〉,良將可保四方。曰:雖有敏捷之用,然皆不可以獨用焉。如是者,將之體也。
國家の將領を任用するに、天將を得れば、天時に違背する敵人に對付し得べし。地將を得れば、地利に背離する敵人に對付し得べし。人將を得れば、人心に悖逆する敵人に對付し得べし。神將を得れば、天下いかなる敵人にも對付し得、用兵便ち失算の處なし。威將は天將に配屬すべし(原注:上は能く天時に順應し、下は能く威武を壯盛にす。ゆえに配屬に適宜なり)、強將は地將に配屬すべし(原注:上は能く地利を明察し、下は能く進退を懂得す。ゆえに配屬に適宜なり)、猛將は人將に配屬すべし(原注:上は能く人心利害を明白にし、下は能く精銳果敢を以て敵人を抵禦す。ゆえに配屬に適宜なり)、良將は則ち四方を保守し得べし。説くべし、これら幾種の人は各々敏捷可用の處あるも、皆單獨の任用に宜しからず。この如く配搭して、初めて將を爲るの整體の格局なり。
出將第八
王者既審定大臣之可否以將之,於是居正殿召之,曰:“今某地不臣,願煩將軍應之,社稷安危,亦在將軍。”乃使大史氏擇吉日,授之斧鉞。王入大廟,西面而立,王操鉞持其首,授之柄,曰:“從是以上至天者,將軍制之。”復操其柄,授之以刃,曰:“從是以下至地者,將軍制之。”
君王すでにある大臣の主將を擔當し得るか否かを審定し、於是乎正殿に彼を召見して曰く、「如今某地朝廷に服せず、將軍に前去應付するの煩勞を煩わす。國家社稷の安危は、亦た將軍の身に繫る」と。隨いて太史官に命じて吉日を挑選せしめ、斧鉞を彼に授與す。君王は太廟に進入し、西に面向いて站立し、鉞の上端を握住して、鉞柄を主將に交えて曰く、「ここより上は天に至るまで、皆將軍の裁斷に由る」と。また反って鉞柄を握住し、刃ある一端を主將に交えて曰く、「ここより下は地に至るまで、皆將軍の裁斷に由る」と。
將既受命,拜而報曰:“臣聞國不可以從外理,軍不可以從中禦,二心不可以共濟,疑心不可以應敵。臣既受命,專斧鉞之威,臣不敢生還。”乃辭而行,鑿凶門而出。是以將之行也,不問妻子,示其忠於國;君之命將,不敢輕其禮,示其崇於用。將之於外也,君命有所不受,唯逐便利國家是務。其於己也潔,其於人也至。
主將任命を接受したる後、禮を行いて答復して曰く、「臣聞く、國政は外面より治理する能わず、軍事は朝廷中樞より遙控する能わず。心に二意を懷けば難關を共渡する能わず、心に疑慮を存すれば敵人を應付する能わず。臣すでに命を受け、獨り斧鉞生殺の威を專らにすれば、更に生きて歸るを敢てせず」と。於是乎辭別して啓程し、凶事を象徵する北向の門を鑿開して出征す。ゆえに主將の出發する時、妻子兒女を過問せざるは、彼の國家に對する忠誠を表示す。君主の主將を任命するに禮數を簡慢にせんと敢てせざるは、彼のこの任用に對する尊崇を表示す。主將外に在り、君主の命令はあるいは接受せざるを得るあり、ただ國家に利あるを追求するを以て要務と爲す。彼の自己に對するは潔身自好を要求し、別人に對するは則ち心力を盡くす。
是故將拒諫則英雄散,策不從則謀者去;善惡等則賢愚混,賞罰亂則綱紀散;多喜則不威,多怒則人心離,多言則機洩,多好則智惑;寬則眾懈,暴則眾怨;將專權則下歸咎,將自善則下無功,將納讒則正人離,將好賂則士卒盜,將內顧則士卒淫。
これに因りて、主將が進諫を拒絕すれば、英雄豪傑散去す。計策採納せられざれば、謀を出す人離開す。好壞を一樣に對待すれば、賢能と愚劣と混淆す。賞罰混亂すれば、綱紀渙散す。喜悅多すぎれば威嚴なく、憤怒多すぎれば人心離散し、話多く說けば機密外泄し、嗜好多すぎれば心智惑わさる。一味に衆人を寬縱すれば就ち懈怠し、一味に衆人を暴虐すれば就ち怨恨す。主將權柄を獨攬すれば、部下は過錯を皆彼に推す。主將ただ自己の表現を顧れば、部下は立つべき功なし。主將讒言を聽信すれば、正直の人去る。主將賄賂を貪圖すれば、士卒は偸搶に往く。主將家室を顧念すれば、士卒は淫亂放縱す。
貶聲揮色,所以自潔;避嫌遠疑,所以自持;沉機遠慮,所以不失;委時順變,所以逮功;恕物篤行,所以歸愛;暱善斥讒,所以來遠;先度後作,所以應卒;先信後言,所以伏下;信賞必罰,所以正人;明今鑒古,所以照眾;卑色貴人,所以保終;去私循公,所以存國。其神欲正,其形欲端,動欲如風〈取其順健也〉,止欲如山,鬥欲如雷電,機欲如鬼神,思欲如照影,令欲如雪霜〈取其必殺也〉。茍有此者,可以當國之大命矣。
聲色を收斂するは、以て自身の清白を保持するに用い、嫌疑を避開するは、以て自我の把持するに用い、機謀を深藏し遠く籌劃するは、以て差錯を出さざるに用い、時に因りて宜を制し變化に順應するは、以て功效を取得するに用い、寬を以て物に待し篤實に力行するは、以て衆人の愛戴を收攏するに用い、良善に親近し讒佞を斥退するは、以て遠方の人を招徠するに用い、先に謀劃し後に動手するは、以て倉促の變に應付するに用い、先に信を取り後に發言するは、以て部下を服從せしむるに用い、賞あれば必ず兌現し罰あれば必ず執行するは、以て人心を端正するに用い、當今を明察し古事を借鑑するは、以て衆情を燭照するに用い、態度謙下にして他人を尊重するは、以て善終を保全するに用い、私心を去掉し公道を遵循するは、以て國家を保存するに用う。主將の精神は端正なるを要し、形貌は端莊なるを要し、行動は風の如く迅捷(原注:その順暢剛健の意思を取る)、駐止は山の如く穩固、搏鬥は雷電の如く迅猛、機謀は鬼神の如く測られず、思慮は影を照らすが如く明察、號令は霜雪の如く嚴酷(原注:その必ず肅殺するの意思を取る)なるを要す。これらを具備する人は、便ち國家の重大使命を擔當し得べし。
軍令第九
大將既受命,總專征之柄,犒師於野,畢而下令焉,不從令者必殺之。夫聞鼓不進,聞金不止,旗舉不起,旗低不伏,此謂悖軍。如是者斬之。呼名不應,召之〈一作引〉不到,往復愆期,動乖師律,此謂慢軍。如是者斬之。夜傳刁斗,怠而不振,更籌乖度,聲號不明,此謂懈軍。如是者斬之。多出怒言,怨其不賞,主將所用,崛強難治,此謂橫軍。如是者斬之。
主將すでに命を受け、總攬して征伐を專主する大權を握れば、就ち野外に於て三軍を犒賞し、禮畢りたる後軍令を頒下し、軍令に服從せざるは一律に處死す。鼓聲を聽いて前進せず、金を鳴らすを聽いて停止せず、旗子擧げられて站起せず、旗子放低られて伏下せず、これを「悖軍」と謂い、犯る者處斬す。點名に答應せず、召唤(「召」は一本に「引」と作る)に到らず、往返期限を延誤し、行動軍紀に違背す、これを「慢軍」と謂い、犯る者處斬す。夜裏刁斗を傳遞するに——軍中白日飯を做り夜裏敲擊して更を巡る銅器——卻って懈怠振作せず、更次籌碼錯亂して度を失し、口令號音含糊にして清らかならず、これを「懈軍」と謂い、犯る者處斬す。屢々憤怒の言を出し、賞賜を得ざるを抱怨し、主將差遣する所有れば就ち倔强にして管束し難し、これを「橫軍」と謂い、犯る者處斬す。
揚聲笑語,若無其上,禁約不止,此謂輕軍。如是者斬之。所學器械,弓弩絕弦,箭無羽鏇,劍戟澀鈍,旗纛雕敝,此謂欺軍。如是者斬之。妖言詭辭,撰造鬼神,托憑夢寐,以流言邪說恐惑吏士,此謂妖軍。如是者斬之。奸舌利嘴,鬥是攢非,攢怨吏士,令其不協,此謂謗軍。如是者斬之。所到之地,陵侮其民,逼其婦女,此謂奸軍。如是者斬之。竊人財貨,以為己利;奪人首級,以為己功,此謂盜軍。如是者斬之。
高聲に談笑し、目中に上司なく、禁止約束するも停止せざるは、これを「輕軍」と謂い、犯る者處斬す。領用する所の器械、弓弩は弦斷れ、箭上に翎羽と箭鏃となく、劍戟滯澀鈍口、旗幟大纛殘破不堪なるは、これを「欺軍」と謂い、犯る者處斬す。妖言詭辭を散布し、鬼神の事を編造し、夢中の見る所に假托し、流言邪説を以て軍吏士卒を恐嚇迷惑するは、これを「妖軍」と謂い、犯る者處斬す。奸巧の舌頭・鋒利の嘴、是非を搬弄し、軍吏士卒の怨氣を聚集して彼らを彼此不和ならしむるは、これを「謗軍」と謂い、犯る者處斬す。到る所の處當地の百姓を欺凌侮辱し、民間の婦女を逼迫するは、これを「奸軍」と謂い、犯る者處斬す。他人の財貨を竊偸して己有に據り、他人の斬獲したる首級を搶奪して自己の戰功を冒充するは、これを「盜軍」と謂い、犯る者處斬す。
將軍聚謀,逼帳屬垣,竊聽其事,此謂探軍。如是者斬之。或聞所謀及軍中號令,揚聲於外,使敵聞知,此謂背軍。如是者斬之。使用之時,結舌不應,低眉俯首而有難色,此謂狠〈一作恨〉軍。如是者斬之。出越行伍,爭先亂後,言語喧嘩,不馴禁令,此謂亂軍。如是者斬之。托傷詭病,以避艱難,扶傷舁死,因而遁遠,此謂詐軍。如是者斬之。
將軍衆を聚めて事を議する時、帳幕に緊挨し牆根に貼して機密を偸聽するは、これを「探軍」と謂い、犯る者處斬す。人ありて議する所の謀あるいは軍中號令を聽到して、就ち外面に張揚して敵方をして得知せしむるは、これを「背軍」と謂い、犯る者處斬す。差遣任用の時候に到りて、口を閉じて應えず、眉を低め首を俯せ面に難色あるは、これを「狠軍」と謂い(「狠」は一本に「恨」と作る)、犯る者處斬す。擅自に本隊行列を越出し、先を爭り後を奪りて後隊を擾亂し、言語喧譁にして禁令に服從せざるは、これを「亂軍」と謂い、犯る者處斬す。負傷に假托し病を詐稱して以て艱險を躲避し、傷員を攙扶し死者を抬運する機會に借着して勢に乘じて遠く逃るるは、これを「詐軍」と謂い、犯る者處斬す。
主掌財帛給賞之際,阿私所親,使吏士結怨,此謂黨軍。如是者斬之。觀寇不審,探寇不詳,到而言不到,不到而言到,多言而少,少言而多,此謂誤軍。如是者斬之。營壘之間,既非犒設,無故飲酒,此謂狂軍。如是者斬之。
財物布帛を主管し賞賜を發放するの時、親近の人を偏袒して、軍吏士卒を彼此結怨せしむるは、これを「黨軍」と謂い、犯る者處斬す。敵情を觀察して審慎ならず、敵情を偵探して周詳ならず、敵人すでに到るも到らずと報じ、到らずもすでに到れりと報じ、人多きを人少なしと報じ、人少なきを人多しと報ずるは、これを「誤軍」と謂い、犯る者處斬す。營壘の內に在りて、犒賞設宴の場合に非ず、故なく聚飮するは、これを「狂軍」と謂い、犯る者處斬す。
此令既立,吏士有犯之者,當斬斷之時,大將以問,諸將曰罪當斬,遂令吏士扶於外斬之。斬斷之後,使傳令告諸吏士曰:“某人犯某罪,適與諸將議當斬。已處斷訖,公等宜觀此以自戒。”是大將以禮行罰,使士卒無冤死,眾有畏心矣。故軍法者,將之大柄也,可不重乎!是以呂蒙涕泣而斬鄉人,穰苴立表而誅莊賈。此皆先尊法令,後收功名者也。
この套の軍令一たび確立すれば、軍吏士卒觸犯する有れば、行刑處斬する要する時候に到り、主將當衆發問し、諸將答えて罪に依り斬すべしと曰い、於是乎軍吏士卒に命じて彼を營外に押到して斬首せしむ。行刑の後、人を派して令を傳え全體軍吏士卒に通告して曰く、「某人某項の罪條に觸犯し、剛纔すでに諸將と議定して處斬すべし。現に處決完畢せり。諸位は當にこの件事を看着して自我警戒すべし」と。これすなわち主將の禮に依りて罰を行い、士卒をして冤を含みて死せざらしめ、衆人心中自然に畏懼を生出すなり。ゆえに軍法は主將の最大の權柄なり。何ぞ鄭重に對待せざらんや。これに因りて三國呉將呂蒙は眼淚を流しても犯軍令の同鄉を斬掉し、春秋齊將司馬穰苴は木を立てて表と爲し時刻を約定し、就ち遲到の監軍莊賈を正法せり。これら皆先に法令を尊崇し、然る後乃ち功名を收取する人なり。
