景徳伝燈録巻第二十三
第十一世
鼓山が言った。「この事を知らんと欲せば一口の劍のごとし。」僧が問うた。「学人は是れ死屍、どういうのが劍か。」鼓山が言った。「この死屍を拽き出だし著けよ。」僧は諾に應じ、便ち僧堂に歸りて結束して去った。鼓山は晩間に去りしを聞きて、乃ち言った。「好く拄杖を與えよ。」(東禅の齊が言う、「この僧もし鼓山を肯んぜざれば何の過か有らん。もし肯んぜば何ぞ便ち發り去るを得ん。また鼓山の拄杖は彼に賞するか彼に罰するか。眼を具する上座は試しに商量して看よ。」)
杭州永明寺延壽禪師法嗣二人杭州富陽子蒙禪師
庵主有りて僧の來るを見て、火筒を竪てて言った。「会するか。」言った。「会せず。」庵主が言った。「三十年用い盡さざる底。」僧は却って問うた。「三十年前は個の何を用いたか。」(歸宗の柔が代わりて言う、「また知るを要す。」)
杭州朝明院津禪師(已上二人無機緣語句不錄)
招慶和尚が鉢囊を拈じて僧に問うた。「お前は直きに幾錢と道うか。」(歸宗の柔が代わりて言う、「人に留めて價を增さしむ。」)
蘇州長壽院朋彥大師法嗣一人長壽第二世法齊禪師
雲門和尚が手を木師子の口に入れて言った。「我を咬殺せり、相い救え。」(歸宗の柔が代わりて言う、「和尚は手を出だすこと太だ殺し。」)
杭州普門寺希辯禪師法嗣二人高麗國慧洪禪師
座主有りて彌陀の名號を念ずる次。小師が和尚を喚ぶ。及んで回顧すれば、小師は對せず。かくのごとく数四なり。和尚は叱って言った。「三度四度喚びて何の事か有る。」小師が言った。「和尚は几年彼を喚べば則ち得、某甲は才かに喚べば便ち業を發す。」(法燈が代わりて言う、「咄叱。」)
越州上林胡智禪師(已上二人無機緣語句不錄)
鷂子が鴿子を趁い、飛んで佛殿の欄干の上に向かいて顫えた。人あって僧に問うた。「一切の衆生は佛影の中に常安常樂す。鴿子は佛を見てなぜ顫えるか。」(法燈が代わりて言う、「佛を怕る。」)
行思禪師第九世下
悟空禅師が忠座主に問うた。「何の経を講ずるか。」言った。「『法華経』。」悟空が言った。「もし『法華経』を説く処有らば、我は寶塔を現じて当に証明と為すべし。大德が講ずるは何人が証明するか。」(法燈が代わりて言う、「和尚の証明に謝す。」)
金陵清涼文益禪師法嗣
僧が老宿に問うた。「魂かな歸去來す、我が家園の葚を食え。どういうのが家園の葚か。」(玄覺が代わりて言う、「是れまた食うを得ず。」法燈は別に言う、「お前の口を污し却れり。」)
蘇州薦福院紹明禪師。州將錢仁奉請住持。乃問。如何是和尚家風。師曰。一切處看取。
官人が僧に問うた。「何と名づくか。」言った。「無揀。」官人が言った。「忽然として一碗の沙を將て上座に與えばまたどうか。」言った。「官人の供養に謝す。」(法眼は別に言う、「これはなお是れ揀ぶ底。」)
澤州古賢院謹禪師。師勘僧雲。如來堅密身一功塵中現。如何是堅密身。僧竪指。師雲。現即現爾怎生會。僧無語。師侍立次見淨慧問一僧雲。自離此間什麼處去來。曰入嶺來。淨慧曰。不易。曰虛涉他如許多山水。淨慧曰。如許多山水也不惡。其僧無語。師於此言下大悟。僧問。如何是佛。師曰。築著汝鼻孔。
廣南に僧有りて庵に住す。国主が獵に出づ。人が庵主に報じて、大王が來りて起つを請うと言う。言った。「唯だ大王の來るのみならず、佛の來るもまた起たず。」王が問うた。「佛は豈に是れお前の師に非ざらんや。」言った。「是なり。」王が言った。「師を見てなぜ起たざるか。」(法眼が代わりて言う、「未だ恩に酬ゆるに足らず。」)
宣州興福院可勳禪師。建州建陽人也。姓朱氏。自淨慧印心遂開法住持。僧問。如何是興福主。師曰。闍梨不識。曰莫只遮便是麼。師曰。縱未歇狂頭亦何失。問如何是道。師曰。勤而行之。問何雲法空。師曰。不空。師有偈示眾曰。
僧が趙州和尚に辞した。趙州は謂うて言った。「佛有る処には住するを得ず、佛無き処には急ぎ走り過ぐべし。三千里の外に人に逢うも挙ぐる莫れ。」(法眼が代わりて言う、「そうなればすなわち去らず。」)
秋江煙島晴鷗鷺行行立
泗州の塔前に一の僧礼拝す。人あって問うた。「上座は日日礼拝してまだ大聖を見るか。」(法眼が代わりて言う、「お前は礼拝を是れ何の義と道うか。」)
不念觀世音爭知普門入
僧が圓通和尚に問うた。「一塵才かに起これば、大地全く収む。まだ禅床を見るか。」圓通が言った。「何を塵と喚ぶか。」また法燈に問うて言う。「何を禅床と喚ぶか。」(東禅の齊が言う、「この二尊宿の語は、彼の問う処を明らめ、彼の問う処を明らめず。もし彼の問う処を明らめば、まだ尽善を得るか未だ。試しに斷じて看よ。忽然として彼に向かって道わば、お前は我に指示せよ。さらに答語を要するもまたどう会せん。さらに答えて一轉子と道うな。」)
洪州上藍院守訥禪師。上堂謂眾曰。盡令提綱無人掃地。叢林兄弟相共證明。晚進之流有疑請問。有僧問。願開甘露門。當觀第一義。不落有無中。請師垂指示。師曰。大眾證明。曰恁麼即屈去也。師曰。閑言語。問如何是佛。師曰。更問阿誰。
玄覺和尚が鳩子の叫ぶを聞きて、僧に問うた。「何の声か。」(底本の「僧」は「增」に作る、当に「僧」たるべし。)僧が言った。「鳩子。」師が言った。「無間の業を招かざらんと欲せば、如来の正法輪を謗るな。」(東禅の齊が言う、「上座が是れ鳩子の声と道えば便ち謗法と成る。どの処か是れ謗する処。もし是れに非ずと道わばまだ得るか。上座さあ道え、玄覺の意はどうか。」)
撫州覆船和尚。僧問。如何是佛。師曰。不識。問如何是祖師西來意。師曰。莫謗祖師。
保福の僧が地蔵に到る。地蔵和尚が問うた。「彼の中の佛法はいかに。」言った。「保福は時に衆に示して道う、お前の眼を塞ぎ却りて、お前に覷り見えざらしむ。お前の耳を塞ぎ却りて、お前に聴き聞えざらしむ。お前の意を坐し却りて、お前に分別するを得ざらしむ。」地蔵が言った。「吾はお前に問う。お前の眼を塞がざれば、個の何を見るか。お前の耳を塞がざれば、個の何を聞くか。お前の意を坐せざれば、どう分別せん。」(東禅の齊が言う、「あの僧は聞き了りて忽然として惺れ去り、さらに他游せず。上座は如今まだ得るか。もし会せざれば每日に個の何を見るか。」)
杭州奉先寺法明普照禪師法瓌。僧問。釋迦出世天雨四華地搖六動。未審和尚今日有何祥瑞。師曰。大眾盡見。曰法王法如是也。師曰。人王見在。問淨慧寶印和尚親傳。今日一會當付何人。師曰。誰人無分。曰恁麼即雷音普震無邊剎也。師曰。也須善聽。
福州洪塘橋の上に僧有りて列坐す。官人が問うた。「この中にまだ佛有るか。」(法眼が代わりて言う、「お前は是れ何の人ぞ。」)
廬山化城寺慧朗禪師。江南相宋齊丘請開堂。師升座曰。今日令公請山僧為眾。莫非承佛付囑不忘佛恩。眾中有問話者出來。為令公結緣。僧問曰。令公親降大眾雲臻。從上宗乘請師舉唱。師曰。莫是孤負令公麼。問師常苦口為什麼學人己事不明。師曰。闍梨什麼處不明。曰不明處請師決斷。師曰。適來向汝道什麼。曰恁麼即全因今日去也。師曰。退後禮三拜。
人が僧に問うた。「無為無事の人はなぜ却って金鎖の難有るか。」(五雲が代わりて言う、「ただ無為無事の為。」)
杭州慧日永明寺通辯禪師道鴻(第三世住)僧問。遠離天台境。來登慧日峰。久聞師子吼。今日請師通。師曰。聞麼。曰恁麼即昔時崇壽今日永明也。師曰。幸自靈利何須亂道。師謂眾曰。大道廓然古今常爾。真心周遍如量之智皎然。萬象森羅鹹真實相。該天括地亙古亙今。大眾還會麼。還辨白得麼。問國王嘉命公貴臨筵。未審今日當為何事。師曰。驗取。曰此意如何。師曰。什麼處去來。曰恁麼即猶成造次也。師曰。休亂道。問諸佛出世放百寶光明。師登寶座有何祥瑞。師曰。可驗。曰法王法如是。師曰。也是虛言。
老宿が僧に問うた。「どの処より來るか。」言った。「牛頭山にて祖師を礼拝して來れり。」老宿が言った。「まだ祖師を見るか。」(歸宗の柔が代わりて言う、「大いに信ずるに似たらず。」)
高麗靈鑒禪師。僧問。如何是清淨伽藍。師曰。牛欄是。問如何是佛。師曰。拽出癲漢著。
僧有りて童子と経を上げ了りて、経を持して函の內に著けしむ。童子が言った。「某甲の念ずる底はどこに向かって著けるか。」(法燈が代わりて言う、「お前は何の経を念ずるか。」)
荊門上泉和尚。僧問。二龍爭珠誰是得者。師曰。我得。問遠遠投師如何一接。師接杖視之。其僧禮拜。師便喝。問尺璧無瑕時如何。師曰。我不重。曰不重後如何。師曰。火裡螂蟉飛上天。
一の僧が『道徳経』に注す。人が問うて言った。「久しく大德の『道徳経』に注すと響く。」僧が言った。「敢えず。」言った。「明皇に何如。」(法燈が代わりて言う、「是れ弟子。」)
廬山大林寺僧遁禪師初住圓通。有僧舉。僧問玄沙和尚。向上宗乘此間如何言論。玄沙雲。少人聽。今問師。不知玄沙意旨如何。師曰。待汝移卻石耳峰我即向汝道(歸宗柔別雲。且低聲)。
雲門和尚が僧に問うた。「どの処より來るか。」言った。「江西より來れり。」雲門が言った。「江西の一遂の老宿は呓語して住まれるか未だ。」僧は對する無し。(五雲が代わりて言う、「興はなお未だ已まず。」)
池州仁王院緣勝禪師。僧問。農家擊壤時如何。師曰。僧家自有本分事。曰不問僧家本分事。農家擊壤時如何。師曰。話頭何在。
後に僧有りて法眼に問うた。「和尚は知らず、雲門の意はどうか。」法眼が言った。「大小の雲門はこの僧に勘破されたり。」(五雲が言う、「どの処か是れ雲門を勘破する処。会せんと要するか。法眼もまた後の僧に勘破されたり。」)
廬山歸宗寺義柔禪師(第十三世住)師初上堂升座。維那白槌曰。法筵龍象眾當觀第一義。師曰。若是第一義且作麼生觀。恁麼道落在什麼處。為是觀。為復不許人觀。先德上座共相證明。後學初心莫喚作返問語倒靠語。有疑請問。僧問。諸佛出世說法度人感天動地。和尚出世有何祥瑞。師曰。人天大眾前寱。語作麼。問諸官己集大眾側聆。如何是出世一言之事。師曰。大眾證明。問香煙起處師登座。未審宗乘事若何。師曰。教乘也恁麼會。問優曇華拆人皆覩達本無心事若何。師曰。謾語。曰恁麼即南能別有深深旨。不是心心人不知。師曰。事須飽叢林。問昔日餘峰今日歸宗。未審是一是二。師曰。謝汝證明。問智藏一箭直射歸宗。歸宗一箭當射何人。師曰。莫謗我智藏。問此日知軍親證法。師從何處答深恩。師曰。教我道什麼即得。師又曰。一問一答也無了期。佛法也不是恁麼道理。大眾此日之事故非本心。實謂只箇住山寧有意。向來成佛亦無心。蓋緣是知軍請命寺眾誠心。既到遮裡。且說箇什麼即得。還相悉麼。此若不及古人便道。相逢欲相喚脈脈不能語。作麼生會。若會堪報不報之恩。足助無為之化。若也不會。莫道長老開堂只舉古人語。此之盛事天高海深。況喻不及。更不敢讚祝皇風迴向清列。何以故。古人猶道吾禱久矣。豈況當今聖明者哉。久立珍重。僧問。如何是空王廟。師曰。莫少神。曰如何是廟中人。師曰。適來不謾道。問靈龜未兆時如何。師曰。是吉是兇。問未達其源乞師方便。師曰。達也。曰達後如何。師曰。終不恁麼問。問久發大乘心中忘此意。如何是此意。師曰。又道中忘。
井を開くに因りて沙に泉眼を塞がれ却られたり。法眼が僧に問うた。「泉眼通ぜざるは沙に塞がる。道眼通ぜざるは何の物にか碍うか。」僧は對する無し。(師は自ら代わりて言う、「眼に碍う。」)
前襄州清谿洪進禪師法嗣
景德伝燈録巻第二十七
相州天平山從漪禪師。有僧問。如何得出三界。師曰。將三界來與汝出。僧問。如何是和尚家風。師曰。顯露地。問如何是佛。師曰。不指天地。曰為什麼不指天地。師曰。唯我獨尊。問如何是天平。師曰。八凹九凸。問洞深杳杳清谿水飲者如何不升墜。師曰。更夢見什麼。問大眾雲集合譚何事。師曰。香煙起處森羅見。
景德伝燈録巻第二十八
廬山圓通院緣德禪師錢塘人也。姓黃氏。初出家於臨安朗瞻院落髮。依年往天台山受具。始習禪那於天龍順德大師。尋往江表問道。值洪進山主印心。時江南國主於廬山建院請師開法。師上堂示眾曰。諸上座明取道眼好。是行腳僧本分事。道眼若未明有什麼用處。只是移盤吃飯。道眼若明有何障礙。若未明得強說多端。也無用處無事也好尋究。僧問。如何是四不遷。師曰。地水火風問如何是古佛心。師曰。水鳥樹林。曰學人不會。師曰。會取學人。問久負勿絃琴請師彈一曲。師曰。負來得多少時也。曰未審作何音調。師曰。話墮也珍重。問如何是佛法大意。師雲。過去燈明佛本光瑞如此。問如何是學人自己。師雲。特地申問是什麼意。問如何是大梅主。師雲。闍梨今日離什麼處。
諸方の廣語一十二人、録に見ゆ
前昇州清涼休復禪師法嗣
南陽慧忠国師の語
昇州奉先寺淨照禪師慧同。魏府人也。姓張氏。幼歲出家禮饒州北禪院惟直禪師披削。年滿受具於撫州希操律師於清涼得法。僧問。唯一堅密身一切塵中現。又云。佛身充滿於法界。普現一切群生前。於此二途請師說。師曰。唯一堅密身一切塵中現。僧問。如何是古佛心。師曰。汝疑阿那箇不是。問如何是常在底人。師曰。更問阿誰。
洛京荷澤神会大師の語
前撫州龍濟山紹修禪師法嗣
江西大寂道一禅師の語
河東廣原和尚。僧問。如何是佛法大意。師示偈曰。
澧州藥山惟儼和尚の語
剎剎現形儀塵塵具覺知
越州大珠慧海和尚の語
性源常鼓浪不悟未曾移
汾州大達無業国師の語
前衡嶽南臺守安禪師法嗣
池州南泉普願和尚の語
襄州鷲嶺善美禪師(第三世住)僧問。如何是鷲嶺境。師曰。峴山對碧玉江水往南流。曰如何是境中人。師曰。有什麼事。問百川異流還歸大海。未審大海有幾滴。師曰。汝還到海也未。曰到海後如何。師曰。明日來向汝道。
龍牙の山裏の龍。形は世間の色に非ず。世上の龍を畫く人。巧巧として描き得ず。唯だ龍を識る人有りて。一見すれば便ち心息まる。
前漳州隆壽院無逸禪師法嗣
唯だ門前の樹を念ず。能く鳥の泊り飛ぶを容る。來る者は心無くして喚ぶ。身を騰げて歸るを慕わず。もし人の心樹に似たれば。道と相い違えず。
隆壽法騫禪師泉州晉江縣人也。姓施氏。母廖氏始娠頓惡葷腥。及長捨於本州開元寺菩提院出家納戒。詣漳州參逸和尚得旨。刺史陳洪銛請開堂住持(隆壽第三世住)上堂謂眾曰。今日隆壽。出世三世諸佛森羅萬象同時出世同時轉法輪。諸人還見麼。僧問。如何是隆壽境。師曰。無汝插足處。曰如何是境中人。師曰。未識境在。有僧到參。至明日入方丈請師心要。師曰。昨日相逢序起居。今朝相見事還如。如何卻覓呈心要。心要如何特地疎。
一たび心無きを得れば便ち道情。六門は休歇して形を労せず。緣有るは余の朋友に非ず。双眉を用いずして却って弟兄。
