咸の林(咸卦六十四林)
恆:孟巳乙丑,哀呼尼父。明德訖終,亂虐滋起。
家人の卦は恒の卦に変わる... 恒の卦に変わる。彼の年巳月乙丑の日に至りて、世人哀恸悲呼して孔夫子の去世せしを哭す。魯哀公孔子を誄して「尼父」と称す、《左伝・哀公十六年》に見る。光明の徳教従是に終わり、昏乱暴虐の事随いて滋生す。主とする所は哲人其の萎ゆ、世道下衰の象、大凶である、喪亡と時局の敗壊を主とす。
遯:華燈百枝,消暗衰微。精光訖盡,奄如灰糜。
睽の卦が遯の卦に変わる。華美の燈樹上百枝の燈火は、漸漸暗淡衰微して下去す。光華耗盡の後、忽然として一堆の灰燼余燼の如し。主とする所は盛極まりて衰え、光尽きて滅するの象、大凶である、眼下顕赫と雖も、須らく速衰の変を防ぐべし。
大壯:鷹飛雉退,兔伏不起。狐張狼鳴,野雞驚駭。
睽の卦が大壮の卦に変わる。蒼鷹一たび飛べば、野雉便ち退避し、兎子地に伏して敢えて身を起さず。狐狸牙を張り豺狼嗥叫して、野鶏嚇して四散驚駭せり。主とする所は強弱を凌ぎ、弱者驚懼するの象、凶である、勢人の如かず、宜しく形を蔵し跡を匿して以て自ら保つべし。
晉:斗身戰天,門有何患。室家俱在,不失其歡。
睽の卦が晋の卦に変わる。身を挺して天と搏ち、一身の胆気、門戸の内に何の禍患かあらん。家人妻小倶に斉斉整整として、歓楽和睦を失わず。主とする所は気壮にして畏れず、家宅安寧の象、吉である、外争有ると雖も、内損を受けず。
明夷:東家殺牛,汙臰腥臊。神背西顧,命絕衰周。亳社災燒,宋人夷誅。
睽の卦が明夷の卦に変わる。東辺の人家牛を殺して祭祀し、血污腥臊の気天に衝つ。神靈頭を掉して只だ西を看るのみ、衰微の周室氣數此れに就きて断絶せり。殷人の立てし亳社火に焚燒せられ、宋国の人因って誅戮に遭えり。亳社の災は《春秋》の哀公四年に見る。主とする所は祭礼の如からず、神怒りて国亡ぶるの象、大凶である。
家人:陰陽辨舒,二姓相合。婚姻孔云,生我利福。
睽の卦が家人の卦に変わる。陰陽各々其の分を得て舒展調暢し、两姓因って結合して親を成す。婚姻の事傳えられて衆口美を称し、此れにより種種の利益福沢を生出す。主とする所は陰陽和合、婚姻大吉の象、嫁娶、合伙倶に宜し。
蹇:東入海口,循流北走。一高一下,五色無主。十日六夜,死於水涘。
睽の卦が蹇の卦に変わる。東に向かい駛りて海口に入り、水流に順い北に漂行す。船身忽ち高く忽ち低く、眼前五色迷乱にして心神主なく。漂うこと十天六夜にして、終に水辺に死せり。主とする所は水を渉り遠行し、途を迷いて命を喪うの象、大凶である、切に水路遠征を忌むべし。
解:孤竹之墟,失婦無夫。傷於蒺藜,不見其妻。東郭棠姜,武子以亡。
睽の卦が解の卦に変わる。孤竹国の廃墟の上、女子偶を失い男子妻なし。蒺藜に刺傷せられて、再び己が妻子を見る能わず。崔武子の東郭偃の姉棠姜を娶りて、終に此の婚事に因りて家破れ身を亡ぼせしが如し。崔杼の棠姜を娶るの事は《左伝・襄公二十五年》に見る。主とする所は色戒の凶、妻室の故に因りて禍を招き、婚配尤も須らく審慎すべし。
損:天門東墟,盡既為災。跡□喑聾,秦伯受殃。
睽の卦が損の卦に変わる。天門の方位と東辺の廃墟は、一倂に化して災殃の地と為れり。蹤跡湮没、口痺れ耳聾えて、秦国の君此れによって禍殃を蒙受せり。原文此処に闕字有り、「□」を以て疑を存して臆補せず。主とする所は耳目閉塞、上位殃に遭うの象、凶である、宜しく言路を通じ、国門を謹守すべし。
益:賴生光水,受福之祉。雖遭亂,潰獨不危殆。
睽の卦が益の卦に変わる。此の生機勃勃の粼粼たる水沢に依託して、福沢の庇佑を承受す。即ち乱世潰敗に遭遇するも、独り自身危殆に陷入せず。主とする所は乱の中に全うを得るの象、吉である、世擾攘と雖も、徳に憑り勢に依れば虞なきを保つ可し。
夬:折舌閉目,不見稚叔。三足孤烏,遠其無失。
睽の卦が夬の卦に変わる。舌を咬断し眼を閉じて、再び年幼の叔弟を見る能わず。彼の三足の孤烏高飛遠去して、遠く躲開すれば反って一物も失わず。三足烏は日中の神鳥、《淮南子・精神訓》に見る。主とする所は黙を緘み遠く避ければ則ち禍を免るるの象、言わず視ざらず、遠く走高く飛べば、方に虞なきを保つ。
姤:七人同室,兄弟合食。和樂相好,各得所欲。
睽の卦が姤の卦に変わる。七個の人同じく一屋に住み、兄弟們一處に圍坐して飯を吃す。和睦歓楽、彼此友愛して、人人皆な心に称い意に如し。主とする所は家人聚合、和順して所を得るの象、大吉である、合伙して事を共にし、親族相処するも倶に宜し。
萃:繼體守藩,縱慾廢賢。君臣淫佚,夏氏失身。側室之門,福祿來存。
睽の卦が萃の卦に変わる。君位を繼承し封疆を守る人は、情欲を放縱して賢才を廢棄す。君臣一同に淫楽放蕩して、陳国の夏姫此れによって身を失い辱を受けり。陳靈公と孔寧、儀行父の夏姫に通ずるは、《左伝・宣公九年》に事見る。倒れに彼の旁支側室の家は、福禄反って安存せり。主とする所は嫡系徳を敗りて旁支福を得るの象、位尊き者は宜しく淫佚を戒むべし。
升:老狐屈尾,東西為鬼。病我長女,哭涕詘指。或西或東,大革易誘。
睽の卦が升の卦に変わる。老狐狸尾巴を夾みて、東に一頭西に一頭として祟を為し鬼を為す。我が家の長女を害して病を染めしめ、泪水漣漣として哭り、指を屈指て日子を数えり。妖物忽ち西に忽ち東にして、大いに変幻を加え、最も人を誘いて当に上らしめ易し。主とする所は邪祟侵擾の象、凶である、家中宜しく疾病を防ぎ、事を行いて誘惑を軽信すべからず。
困:大樹之子,百條共母。當夏六月,枝葉茂盛。鸞鳳以庇,召伯避暑。穉穉卭甚,各得其所。
睽の卦が困の卦に変わる。大樹の生ずる所の枝條は、成百條同じく一本に出づ。夏季六月に到りて、枝葉格外に繁茂し、鸞鳥鳳凰樹下に於いて庇蔭を得、召伯も亦た此に在りて涼を納め暑を避く。《詩経・召南・甘棠》は召伯の甘棠の下に訟を聽くを詠ず。樹幼嫩と雖も長勢極めて盛んにして、衆物各々其の安んずる所を得たり。主とする所は蔭庇広く被り、各々其の位に安んずるの象、大吉である。
井:井堙木刊,國多暴殘。秦王失所,壞我大壇。
睽の卦が井の卦に変わる。水井填塞せられ、樹木砍伐して尽き、国中暴虐殘害の事頻りに起る。秦王此れによって立足の地を失い、我らの大祭壇を連ねても毁壞せられり。「井堙木刊」は《左伝・哀公元年》に出る、其の資生の具を毁るを言う。主とする所は根本毁るるを被り、国破れ祀絶ゆるの象、大凶である。
革:駕黃買蒼,與利相迎。心獲所守,不累弟兄。
睽の卦が革の卦に変わる。黄馬を駕して門を出で、青騘の良駒を買い回り、一路上迎面する皆な利益なり。心の裏本分を守住して所有を得、兄弟を連累するに至らず。主とする所は経営して利を得て後患なきの象、吉である、交易買売成る可く、且つ親情を傷めず。
鼎:倉盈庾億,宜稼黍稷。年豐歲熟,民得安息。
睽の卦が鼎の卦に変わる。粮仓盈満、露囤の穀物億計に至る多し、最も黍稷を種植するに宜し。年成豊美、五谷成熟して、百姓安居休養を得たり。主とする所は歳稔り家足るの象、大吉である、農事、蓄積、安居倶に宜し。
震:人生馬淵,壽考且神。飛騰上天,舍宿軒轅。居常樂安。
睽の卦が震の卦に変わる。人馬淵のごとき神異の地より降生し、長寿にして神に通ず。能く飛騰して天に上り、軒轅星宿の次に宿る。軒轅は黄帝の号、亦た星名、《史記・天官書》に見る。日常起居安楽して憂なし。主とする所は異気を禀受し、福寿康寧の象、大吉である。
艮:思願所之,今乃逢時。洗我故憂,拜我歡來。
睽の卦が艮の卦に変わる。心中の思い願う往かんとする所は、如今終に好い時機に趕え付けり。従前の憂愁を洗去して、歓喜の事連々として訪れて門に上る。主とする所は夙願償いを得るの象、大吉である、久しく盼し事此の時成る可し。
漸:魁罡所當,初為敗殃。君子留連,困於水漿。求金東山,利在茂鄉。賈市有息,子載母行。
睽の卦が漸の卦に変わる。魁罡の凶星の臨む所の方位に当たりて、起初免れ難く敗落して殃に遭い、君子滞留して行くこと難く、連れて飲食湯水も亦た愁う。但だ只だ東山に往きて財貨を求取すれば、利益は即ち草木繁茂の郷に在り。経商買売して息を得る可有り、兒子母親を載せて一同に路に上る。主とする所は先に困えりて後に通ずるの象、初め阻まるると雖も、改めて東に行けば則ち利を獲て帰る。
歸妹:鉛刀攻玉,無不鑽鑿。龍體具舉,魯般為輔。三聖翼事,所求必喜。
睽の卦が帰妹の卦に変わる。軟鈍の鉛刀を以て玉を琢れば、本より鑽ち動かす能わざりしが、如今却って刃に迎えて入らざるなし。竜形の器物整体に成り型し、還た巧匠魯班の旁より相助する有り、三位の聖人其の事を輔翼して、求むる所心に称わざるなし。魯般は即ち公輸般、古の巧匠。主とする所は賢助を得て拙工も亦た成るの象、大吉である。
豐:喜來如云,舉家歡忻。眾才君子,駕福盈門。
睽の卦が豊の卦に変わる。喜事雲の如く紛紛として湧来り、全家人歓欣鼓舞す。衆多の才徳有る君子車を駕して福を載せ、門庭を都な擠満せり。主とする所は福慶門に盈ち、人才輻輳の象、大吉である。
旅:響像無形,骨體不成。微行衰索,消滅無名。
睽の卦が旅の卦に変わる。只だ回響と虚影有るのみにして実形なく、骨骼軀体も亦た個の樣子を長成せず。行跡隠微、気象衰敗蕭索にして、終に湮滅して名声を留めず。主とする所は虚にして実ならず、終に消亡に帰するの象、大凶である、謀る所根基なく、成立すること難し。
巽:積水不溫,北陸苦寒。露宿多風,君子傷心。
睽の卦が巽の卦に変わる。積存の水始終回暖を見ず、北方の大地苦寒人を逼る。露天に夜を過ごすも又た風多く、君子之が為に傷心難過す。主とする所は処境厳寒困頓の象、凶である、北行に宜しからず、露処すれば疾病を招き易し。
兌:黃馬綠車,駕之大都。贊達才能,使我無憂。(贊當作薦)
睽の卦が兌の卦に変わる。黄馬と青緑装飾の車子を駕して、直に大都会に奔り往く。人我が才能を推挙引薦して、我をして従是憂慮なからしむ。主とする所は人の挙薦を得、顕達して憂なきの象、大吉である、名を求め進を求むるに正に其の時に逢う。夾注に「贊」は当に「薦」と作るべしと称す、即ち薦挙の義。
渙:從風放火,芝艾俱死。三害集聚,叔子中傷。
睽の卦が渙の卦に変わる。風勢に順い火を放ちて荒を焼けば、霊芝と艾草一同に燒死し、好きも悪きも玉石倶に焚かる。三種の禍害一處に聚まりて、叔子此れによって中傷を受けり。主とする所は良莠を辨えず、殃無辜に及ぶの象、大凶である、株連の禍免れ難し、宜しく是非の地を遠避すべし。
節:一身三手,無益於輔。兩足共節,不能克敏。
睽の卦が節の卦に変わる。一個の人に三隻の手長じたり、多く出たるも亦た手伝うに及ばず。两隻の脚共用する一個の関節にして、路を走るに快き能わず。主とする所は形制乖錯、多くして用なきの象、凶である、人手衆しと雖も力を得ず、事必ず遅滞せん。
中孚:南向陋室,風雨併入。埃塵積溼,王母盲痺。偏枯心疾,亂我家次。
睽の卦が中孚の卦に変わる。南に朝かれたる一間の破屋は、風雨一斉に灌り入る。塵土積もりて又た厚く又た潮く、家中の老母此れによって両目失明、肢体麻痺して、半身不遂と心疾を患い、家中の次序を全く攪乱せしめり。主とする所は居処宜を失い、親長疾を染むるの象、大凶である、宜しく居所を修葺し、長者の病患を謹防すべし。
小過:采薇出車,魚麗思初。上下促急,君子懷憂。
睽の卦が小過の卦に変わる。《采薇》の歌を唱えて車を駕して出征し、《魚麗》の樂を聽きて当初を追思す。上上下下皆な催逼すること緊くして、君子心中憂愁を満懐せり。《采薇》《出車》《魚麗》は皆な《詩経・小雅》の征戍宴饗の篇。主とする所は征役煩促の象、凶である、公事逼迫するも、宜しく従容として之に應じ、強争すべからず。
既濟:先易後否,告我利市。騷蘇自苦,思再故止。(一作改正)
睽の卦が既済の卦に変わる。起初順遂にして後来閉塞す、人我に此処交易して利有りと告ぐ。結果奔波擾攘、自ら苦を尋ねて吃し、再三考慮の後還はた停下して為さず。主とする所は先に順い後に阻まるの象、利を貪りて再往すれば必ず其の困を受く、時に及んで手を收むるを宜と為す。夾注に一本に「改正」と作ると称す。
未濟:生宜地乳,上皇大喜。隆我祉福,貴壽無極。
睽の卦が未済の卦に変わる。土地滋養乳汁の如く豊厚の地方に生長せば、上天の皇帝之が為に大喜なり。隆厚の福祉を降下して、我をして富貴長寿にして窮盡なからしむ。主とする所は天地の養いを得、福寿倶に全きの象、大吉である。
蹇の林(蹇卦六十四林)
蹇:同濟共輿,中道別去。喪我元夫,獨與孤苦。
蹇の卦が自ら変じても蹇の卦のままである。本より是れ同船共車して一路相伴するも、半途に走りて却って道を分かちて別れたり。我が良人を喪失して、只だ己が独自孤苦余るのみ。主とする所は中道分離の象、大凶である、同行者散じ、主として偶を喪い伴を失うの厄。
乾:叔肸居冤,祁子自邑。乘遽解患,羊舌免脫。賴得生全。
蹇の卦が乾の卦に変わる。羊舌肸不白の冤を蒙受して囚わるるも、年邁の祁奚封邑より趕來り、驛車に乗りて飛馳して至り、彼の為に禍患を解开して、叔向終に罪を免れ脱身し、彼に靠着して始めて性命を保全し得たり。祁奚の叔向を救うは《左伝・襄公二十一年》に事見る。主とする所は難に遭いて貴人の力救を得るの象、吉である、獄訟解く可く、凶中に救有り。
坤:兔聚東郭,眾犬俱獵。圍缺不成,無所能獲。
蹇の卦が坤の卦に変わる。兎子東城外に聚集し、一群の猟犬一同に追捕す。然るに包圍圈缺口有りて合攏せず、結果一物の獲もなし。主とする所は衆力斉わず、功垂成に敗るるの象、凶である、事を謀るは須らく周密なるべし、稍やかに疏漏あれば則ち前功尽く棄つ。
屯:作室山根,人以為安。一夕崩顛,敗我壺餐。
蹇の卦が屯の卦に変わる。山脚の下に房子を蓋えば、人人皆な以て穏当安全と為す。不料一夜の間に山石崩塌して、壺の中の飲食を連ねても砸翻せられり。主とする所は地を擇ぶこと当ならず、隠患猝發するの象、大凶である、安処の中に已に危機を伏せたり、宜しく地勢を察して遷避すべし。
蒙:疾風塵起,亂我崩始。強大並小,先否後喜。
蹇の卦が蒙の卦に変わる。疾風驟起し塵土飛揚して、一開始に便ち我を攪りて潰乱不堪ならしめり。強大の者弱小の者を吞并して、事先是れ閉塞不通、後来始めて歓喜に轉ず。主とする所は先に乱れ後に定まるの象、初時挫を受くるは免れ難く、堅忍到底すれば則ち終に吉を得。
需:潔齋沐浴,思明居德。哀公怯弱,風氏復北。
蹇の卦が需の卦に変わる。身を潔くし齋戒して、沐浴して衣を更え、一心に光明を思慕して徳行を安守す。只だ魯哀公性情怯懦軟弱にして、風姓の成風一族又た重新に北に帰れり。主とする所は己徳を修むると雖も上位者堪えずの象、自守すれば過なきを保つ可し、人に倚りて事を成さんとすれば則ち難し。
訟:土瘠瘦薄,培塿無柏,使我不樂。
蹇の卦が訟の卦に変わる。土地貧瘠瘦薄にして、小土丘の上に連れて一株の柏樹も長起らず、我をして心中不快ならしむ。「培塿無松柏」は小処に大材生ぜざるを喻う、語《左伝・襄公二十四年》の意に見る。主とする所は地薄くして材を生ぜざるの象、凶である、処する所の境作為有ること難し、宜しく別に沃土を求むべし。
師:褰衣涉河,澗流波多。賴遇舟子,濟脫無他。
蹇の卦が師の卦に変わる。衣裳を提起して水を趟りて河を過ぐるも、澗中の水流湍急、波浪重重なり。幸好撑船の艄公に遇い、安然として渡過して別の禍事なし。主とする所は険に遇いて人の相助を得るの象、吉である、難を渉るの際必ず救う者有り、終に脱身する能し。
比:送我季女,瑩於蕩道。齊子旦夕,留連久處。
蹇の卦が比の卦に変わる。我が家の小女を送りて出嫁せしむれば、光彩照人として寛闊の大道の上を行く。彼の斉国より來りし女子早晚相伴して、留恋して去らず、久久として同じく処れり。「斉子」は《詩経・斉風・載驅》に出る、本より文姜を詠ず。主とする所は婚嫁偶を得、相守りて長久なるの象、吉である。
小畜:三孫六子,安無所苦。中藏廢殆,亡我所使。
蹇の卦が小畜の卦に変わる。三個の孫兒、六個の兒子、一家安穏にして何の苦楚もなし。只だ中間に積存せる家底漸漸荒廢衰敗して、使嗚すべき人手を連ねてもなし。主とする所は人丁旺しと雖も家業中落するの象、外表安泰なれど、内裏空虚なり、宜しく早く振作を圖るべし。
履:揚風偃草,塵埃俱起。清濁溷散,忠直隱處。
蹇の卦が履の卦に変わる。大風刮り過ぐれば、草木尽く伏し、塵埃一斉に揚起す。清濁混雑して分かち難く、忠誠正直の士只だ隠居して出でざるを得ず。「君子之徳風、小人之徳草」は《論語・顔淵》に出る、此処反って其の意を用う。主とする所は世道混濁、賢者退蔵の象、凶である、宜しく晦を韜して自ら守り、強いて出づべからず。
泰:歷險登危,道遠勞疲。去家自歸,困涉大波。
蹇の卦が泰の卦に変わる。険阻を翻越し危処を攀登して、路途遥遠にして疲憊不堪なり。家を離れて又た自ら回りて趕り、困頓して大浪を渡過す。主とする所は奔波労頓、往返徒労の象、凶である、遠行利あらず、宜しく安居して動を少なくすべし。
否:六藝之門,仁義俱存。鎡基逢時,堯舜為君。傷寒執溫,下至黃泉。
蹇の卦が否の卦に変わる。六藝の学の門庭に進みて、仁と義両樣倶に備えり。縦い鋤頭のごとき好い農具有るも、好い時節に趕え付くに如かず、況んや上に唐堯虞舜のごとき聖君有るをや。「雖有鎡基、不如待時」は《孟子・公孫丑上》に出る。只だ身傷寒を染めて又た強いて温補を要して、反って一路黄泉まで病み至れり。主とする所は時に遇うと雖も善く調攝宜を失せしの象、外境吉なりと雖も、須らく疾病用藥の誤を防ぐべし。
同人:被服文衣,遊觀酒池。上堂見觴,喜為吾兄。使我憂亡。
蹇の卦が同人の卦に変わる。身は華美の文繍衣裳を穿き、酒池の畔に游賞す。堂に登りて杯を挙げて暢飲し、歓喜して兄長と相會して、憂愁一掃して空し。主とする所は聚會歓宴、憂解け愁消ゆるの象、吉である、親族と相聚まれば愁懐を釋す可し。
大有:生時不利,天命災至。制於斧瘢,當夜勤苦。
蹇の卦が大有の卦に変わる。出生の時辰便ち吉利ならず、天命注定して災禍降臨す。刀斧の留下せし傷疤に受制して、整夜整夜辛苦して労作す。主とする所は禀賦佳ならず、労苦して制を受くるの象、凶である、宜しく安分にして成を守り、非分を強求すべからず。
謙:天門開闢,牢戶寥廓。桎梏解脫,拘囚縱釋。
蹇の卦が謙の卦に変わる。天門大きく開き、牢獄の門も亦た豁然として空曠なり。手錬脚鐐一倂に解开して、拘押せられし囚徒統統に釈放を獲たり。主とする所は枷鎖尽く解け、否極まりて泰來るの象、大吉である、訟獄脱する可く、困厄自ら解けん。
豫:川淵難遊,水為我憂。多言少實,命鹿為駒。道德開基,君子逢時,利以中疑。
蹇の卦が豫の卦に変わる。江河深淵泅渡し難く、大水成りて我が憂患と為れり。周圍の人話多くして実ならず、硬く鹿を把て馬駒と説成し、鹿を指して馬と為し是非を顛倒す。所幸道徳に憑りて根基を立定し、君子适に其の時に逢い、最も宜しく中に居りて疑難を排解すべし。主とする所は水厄口舌の中にして徳を以て自ら処れば則ち吉、人と争辯せず、正を守りて時を待つ。
隨:鄉歲逢時,與生為期。枝葉盛茂,君子無憂。
蹇の卦が随の卦に変わる。豊年に向かいて好い時運に趕え付き、生長の機と相約して同期す。枝葉長じて繁盛茂密にして、君子此れによって憂慮なし。主とする所は時に順いて長ず、生機勃発の象、大吉である、諸事順遂し、家業日に盛えん。
蠱:六鷁退飛,為衰毀祥。陳師合戰,左股夷傷。遂崩不起,霸功不成。
蹇の卦が蠱の卦に変わる。六隻の鷁鳥風に吹かれて倒退して宋都を飛び過ぐるは、此れ衰敗毀傷の凶兆なり。後に宋襄公兵を陳べて楚と交戦し、大腿射傷せられて、終に床に臥して起たず、覇を称るの功業泡影と化せり。六鷁退飛は《春秋》の僖公十六年に見る、泓の戦は《左伝・僖公二十二年》に見る。主とする所は凶兆先に見え、事を挙げば必ず敗るるの象、大凶である、兵を用い強を争うに宜しからず。
臨:雷君出裝,隱隱西行。霖雨不止,流為河江。南國憂凶。
蹇の卦が臨の卦に変わる。雷神装を整えて出行し、隆隆の声西に滚り往く。綿綿たる大雨下个に停まず、積りて江河横流を成し、南方の国此れによって憂患凶险に陷入せり。主とする所は水潦災を成すの象、凶である、宜しく雨患を防ぎ、南行利あらず。
觀:牙孽生齒,陽倡於外。左手執鑰,公言錫爵。
蹇の卦が観の卦に変わる。新芽萌発して齒牙の初生するが如く、陽気外に在りて率先して倡導す。左手籥管を拿りて起舞すれば、公侯口を開きて便ち爵位を賜下せり。「左手執籥」は《詩経・邶風・簡兮》に出る、舞師の容を為す。主とする所は生機初めて動き、身を進めて禄を受くるの象、吉である、名を求め禄を求むるに正に其の時に当たる。
噬嗑:火起土門,不為我殘。跳脫東西,獨得生完。不利出鄰,病疾憂患。
蹇の卦が噬嗑の卦に変わる。大火土門一帯に於いて燒起するも、却って我を傷めず。東に躲め西に閃きて火場を跳出して、独り性命を保全せり。只だ門を出でて隣里に往くに宜しからず、彼処に疾病憂患之を待ちて在り。主とする所は災に逢いて免を得るも外出に宜しからざるの象、家を守れば則ち安んじ、門を出でれば則ち病を招く。
賁:舉事無成,不利出征。言不可用,眾不能平。
蹇の卦が賁の卦に変わる。事を办起するも一物も成らず、尤も兵を出して征伐するに利あらず。進むるの言採納せられず、衆人の心も亦た安撫し下る能わず。主とする所は事を謀りて遂わず、衆心服せざるの象、凶である、宜しく兵を按じて動かず、先ず内を安んじて後に外を圖るべし。
剝:老狼白驢,長尾大胡。前顛卻躓,進退遇祟。
蹇の卦が剥の卦に変わる。老狼と白驢同行して、一は長尾巴を拖き、一は頷下に大きな肉髯を垂る。前に往けば頷肉を踩みて栽倒し、後に退けば又た尾巴に绊住し、進退倶に鬼祟の作梗に遇う。「狼跋其胡、載疐其尾」は《詩経・豳風・狼跋》に出る。主とする所は進退両難の象、凶である、宜しく静守して以て時を待つべし。
復:日入道極,勞者休息。班馬還師,復我燕室。
蹇の卦が復の卦に変わる。太陽山に落ちて、一天の路頭に走り尽き、労作の人歇息を得たり。戦馬班師して朝に回り、我も亦た安適の居室に帰れり。主とする所は功成りて身退き、家に帰りて安を得るの象、吉である、遠行する者帰る可く、労苦する者息む可し。
旡妄:山林麓藪,非人所處。鳥獸無禮,使我心苦。
蹇の卦が旡妄の卦に変わる。深山密林、山脚草沢は、本より人の安身すべき地方に非ず。彼処は鳥獣横行して礼数を講ぜず、我が心中をして愁苦ならしめり。主とする所は居処当を失し、情理に通ぜざる者と相処するの象、凶である、在る所其の地に非ず、宜しく遷改を謀るべし。
大畜:蓄利積福,日新其德。高氏飲食,憂不為患。
蹇の卦が大畜の卦に変わる。利益を積蓄し福沢を累積して、徳行一日に一日新たなり。高門大族飲食豊足にして、縦い小さき憂有るも禍患を構成せず。「苟日新、日日新、又日新」は《大学》の引く所の湯の盤銘に出る。主とする所は徳を積みて豊を致すの象、大吉である。
頤:張羅百目,鳥不得北。縮頸掛翼,困於窘國。君子治德,獲譽受福。
蹇の卦が頤の卦に変わる。百目の大網を張開せば、飛鳥連れて北に往くことも能わず。脖子を縮め翅膀を挂けられて、窘迫の国に困えり。唯だ君子心を専らにして徳行を修治せば、始めて声譽を獲得し福沢を承受する能し。主とする所は困に処りて徳を以て自ら拔するの象、外境窘しと雖も、徳を修むる者は終に吉なり。
