震の林(震卦六十四林)
恆 范公陶朱,巧賈貨資。東之營丘,易字子皮。抱珠載金,多得利歸。
兌の恒。范蠡は功を成し身を退き、陶朱公と号し、経商して貨を積むに巧みであった。彼は東の斉地営丘に遷り、姓名を改めて自ら鴟夷子皮と称した。珠玉を抱き黄金を満載して、豊かに利を獲て帰った。事は《史記・貨殖列伝》に見える。この林は財において大吉で、善く賈きて富を致し、名を隠し遠く徙して利を得ることを主とする。占者は低調に経営し異地に財を取るに宜しい。
遯 三羖五牂,相隨俱行。迷入空澤,經涉虎廬。循谷直北,經涉六駁。為所傷賊,死於牙腹。
兌の遯。三匹の雄羊と五匹の牝羊が伴を結んで同行し、迷って空っぽの水沢に入り、また虎の巢穴を経渉した。山谷に沿い直ちに北へ進み、再び伝説の虎豹を食う六駁の猛獣に遇い、ついに咬まれ傷つけられ、それらの歯牙と腹の中に身を葬った。この林は大凶で、伴を結んで遠行して誤って険地に入ることを主とする。占者は切に盲従して路に上るを忌み、特に北行と山に入るを忌む。
大壯 雄鵠延頸,欲飛入關。雨師灑道,□我袍裘。車重難前,侍者稽首。
兌の大壮。雄の鴻鵠は首を延ばし、翼を振って関中に飛び入らんとする。雨師が前に道を洒掃するも、雨水は我の袍と皮裘を濡らした。車は載せすぎて重く、前に進み難く、随侍の人はただ首を稽いて命を請うしかない。この林は志向は高遠なれど行装が累重で進程が阻まれることを主とする。占者は負を減らし装を軽くして初めて前行し得、負担が多過ぎれば寸步も移り難い。
晉 中年蒙慶,今歲受福,必有所得。
兌の晋。中年に至り慶幸の事を蒙り、まさに今年福沢を受け、必ず得る所がある。この林は時が来り運が転じ、当年に効を見ることを主とし、明白暢快の吉占である。占者の謀る事は遠く待つ需なく、年内に便ち実恵が手に至る。積極的に進取し、当下の時機を把捉するに宜しい。
明夷 祿如周公,建國洛東,父子俱封。(革之明夷)
兌の明夷。俸禄が豊かで周公のごとく、洛邑の東に封国を建て営み、父子の二代が皆諸侯に封ぜられた。周公は魯に封ぜられ子の伯禽が国に就く。事は《史記・魯周公世家》に見える。この林は明夷の名に居るも、功名厚禄を主とし、後人に蔭が及ぶ。占者は官禄の進益を望め、かつ福沢が子孫に延び、勤勉して功を建つに宜しい。
家人 安床厚褥,不得久宿。棄我嘉燕,困於東國。投杼之憂,不成禍災。(家人之睽,艮之篩)
兌の家人。安らかな床を鋪き厚い褥を墊けるも、久しく宿ることができない。我の美好な宴楽を抛下して、東方の異国に困り留まる。曽母が杼を投げたような、讒言に驚擾される憂惧はあるも、終に真の災禍を醸すには至らない。この林は居処が安からず羈旅して外にあり、かつ人の議論に遭うことを主とする。然れど虚驚のみ、占者は心を寛くして自ら守れば恙なしを保てる。
睽 蓄積有餘,糞土不居,利有所得。
兌の睽。儲蓄し積累するに頗る盈余あり、糞土さえ徒らに擱置せず、様様皆用場に派し、これによって利の得る所有り。この林は倹勤して財を生み、物をその用に尽くすことを主とし、乖睽の時に処りながら家計は匱えず。占者は精を打ち細を算し、廃を化して宝と為すに宜しく、細微の処に経営すれば、求める利は自ずから手に至る。
蹇 心願所喜,乃今逢時。我得利福,不離兵革。(既濟之復)
兌の蹇。心に願い喜ぶ所の事が、今まさに好い時に逢う。我は利益と福気を得たも、ただ終始兵戈戦事を脱しない。この林は願望が遂げられて処境いまだ寧ならず、福の中に険を帯びることを主とする。占者の求める所は成るも、紛争の中に在って経営しなければならず、安に居て危を思うに宜しく、得意に因りて備を弛めてはならない。
解 目不可合,憂來搔足。怵惕危懼,去其邦族。(萃之睽、明夷)
兌の解。目が合せられず、憂愁が襲い来ればただ双足を搔くのみ。心中に戒惧し安からず、ついに自分の邦国・宗族を離れた。この林は憂思して寐り難く、危惧が交迫して流亡し郷を去るに至ることを主とする。占者の眼前に解し難き憂いあり、あるいは故土を離れざるを得ず。早めに遷避の打算を作るに宜しく、恋棧して進退の拠り所を失ってはならない。
損 福德之士,歡悅日喜。夷吾相桓,三歸為臣。賞流子孫。
兌の損。福徳の士は、日々歓悦して意に称う。管夷吾は斉の桓公を輔けて覇業を成し、位は人臣に極まり三帰の台を享有し、賞賜はなお流沢して子孫に及んだ。事は《史記・管晏列伝》に見える。この林は徳厚くして位を得、栄寵が優渥であることを主とし、占者は明主に遇い重賞を受けるを望め、かつ福蔭は後代に及ぶ。
益 憂姬附耳,心聽悅喜,利後搏取。
兌の益。もとより憂愁の姫妾が耳に附いて低語し、心に聴くに歓喜に転じ、これによってこの後は手を放して利益を争取できる。この林は憂を転じて喜びと為し、内助によって機を得ることを主とする。占者はまず一段の愁悶があり、人の一言の点撥を経て便ち豁然と開朗し、随いて進取すれば獲る所有り。
夬 叔迎兄弟,遇巷在陽。君子季姬,並坐鼓簧。(咸之震)
兌の夬。叔父が門を出て兄弟を迎え、陽向の巷口で相遇う。あの君子と季姫は肩を並べて坐り、ともに笙簧を吹奏する。《詩経》は多く簧を鼓するをもって賓主の燕楽を写す。この林は親族が相聚まり、賓主が歓を尽くすことを主とし、歓会の和楽・婚姻の諧美の吉あり。占者は親友と多く往来するに宜しく、喜事が期せられる。
姤 徙巢去家,南遇白鳥。東西受福,與喜相得。
兌の姤。巣を徙し家を去り、南へ行き白鳥に遇う。東へ行き西へ往くも皆福沢を受け、至る所で喜慶と相逢う。この林は遷移して吉を得、遇合に縁あることを主とし、占者の搬家・改業・遠行は皆宜しく、動は静に比して佳く、到る所に自ずから貴人の接応あり。
萃 舜登大禹,石夷之野。徵詣王庭,拜治水土。(乾之中孚,師之小畜)
兌の萃。虞舜は石夷の原野で大禹を挙用し、彼を召して王庭に至らせ、水土を治める重任を拜授した。《尚書・舜典》に舜が禹に命じて「水土を平らぐ」と載せ、後に禹は終に大功を成した。この林は明主が才を識り賢能が命を受けることを主とし、占者がもし真才あれば、上位者に拔擢され重用されるを望め、仕を求め職を求める大吉の林である。
升 江河淮海,天之都市。商人受福,國家富有。
兌の升。長江・黄河・淮水・大海は、上天の設けた通都大邑と集市である。行商の人は水運に因りて福を蒙り、国家もこれによって富庶にして充盈する。この林は水路が通達し貨殖が興旺することを主とし、占者は舟楫・商賈の利を藉るに宜しく、往来して貿易すれば皆吉。財を求め広く進む上占である。
困 隱隱煩煩,火燒山根。下潤我鄰,獨不蒙恩。(賁之蹇)
兌の困。隠隠煩煩と、火が山の麓まで焼き付く。雨露はただ我の隣人を潤し、独り我が家だけが恩沢を蒙らない。この林は禍は己が身に近く福は他人に帰することを主とし、彼を厚くし此を薄くし、独りその困を受ける嘆がある。占者の眼下は利を分かつ均からず、援手を得難し。自ずから出路を求めるに宜しく、他人の分惠を指望してはならない。
井 闇昧不明,耳聾不聰。陷入深淵,滅頂憂凶。(巽之小畜)
兌の井。眼前は昏暗してはっきり見えず、耳が聾して聡くない。一歩踏み誤れば深淵に跌き、水が頂を没して憂患が凶を成す。この林は耳目が蔽塞して誤って険境を蹈むことを主とし、《巽》の《小畜》と辞が同じ。占者はまず明察を求めるべきで、水に渉り険に渉り深に渉る事は一概に回避し、慎行すれば大禍を免れ得る。
革 鳥鳴喈喈,天火將下。燔我館舍,災及妃后。(中孚)
兌の革。群鳥が喈喈と驚き鳴きやまず、天火がまさに降りかかろうとしている。我が館舎を焼き払い、災いは妃后にまで及ぶ。鳥の噪きは火災の先兆とされ、古人は異変とみなした。この林は火において大凶で、宅舎の焚燬と内眷の被累を主とする。占う者は火の気を厳しく慎み、家の女眷はとりわけ留意し、警があれば速やかに避けるのがよい。
鼎 十雉百雛,常與母俱。抱虎搏雞,誰敢難者。
兌の鼎。十羽の雌雉が百羽の雛を連れ、常に母鳥に従って離れない。それらに守られていれば、虎を抱いて鶏と闘うようなもので、誰があえて難をしかけようか。この林は群聚して主があり、勢い衆く力強く、万事に強い援護があることを主とする。占う者の倚る勢いは甚だ厚く、行うに阻む者なく、勢いに乗じて為すがよい。
震 營城洛邑,周公所作。世建三十,年曆八百。福佑盤結,堅固不落。(井之升)
兌の震。洛邑の城郭を営建したのは周公の手筆である。それより周室は三十代伝わり、年代は八百載に及んだ。福祐が根を張りつるを結んで一体となり、堅固にして堕ちない。事は《尚書・洛誥》に見える。この林は大吉で、基業が深く固く、綿々と久遠を主とする。占う者の立つ根本は極めて牢として、長くその利を享くべく、久長の計を謀るがよい。
艮 三人俱行,別離將食。一身五心,反覆迷惑。
兌の艮。三人が道を同じくして行き、食時に至って各自離れる。一人が五つの心を生じて反復し、迷惑して定まらない。この林は同伴が心を離れ、自ら猶疑して、謀事が主意の定まらぬために散ずることを主とする。占う者はまず己の志を定め、然る後に人と事を共にすべきで、さもなくば人心は渙散し終に成すところなし。
漸 三虎搏狼,力不相當。如鷹格雉,一擊破亡。
兌の漸。三匹の虎が一頭の狼を囲んで搏み、双方の力は懸隔する。鷹が野雉を撃つように、一撃してこれを破り殺す。この林は強弱が分明にして勝敗が立ちどころに判ずるを主とする。占う者が強勢の一方に居れば速やかな勝利が期すべし。弱勢に処すればその鋒を避くべし。切に卵をもって石に当たってはならない。
歸妹 養虎畜狼,還自賊傷。年歲息長,疾君拜禱。雖危不凶。
兌の帰妹。虎を豢養し豺狼を蓄え留めれば、終に反ってそれに咬傷される。年歳が漸々増すとはいえ、君上に疾あれば祭祀を設けて祈るべく、幸いに危境に処すといえども終に大凶とはならない。この林は患を養いて自ら傷き、なお救済すべきを主とする。占う者の縦容する人事はすでに隠憂と成れり。早く裁抑すべし。縦え驚険あるとも、誠をもって補救すればなお安きに転ずべし。
豐 後時失利,不得所欲。
兌の豐。時機に後れて落ち、それゆえ利益を失い、欲するものを得ること能わず。この林は遅疑して事を誤り、時点を逸し、豊盛の名あれども豊盛の実なきを主とする。占う者は機に当たり断ずればこそ獲ること有らん。一味に観望して待てば、好処は他に先んじて取られてゆく。
旅 雉兔之東,以野為場。見鷹奔走,死於谷口。
兌の旅。野雉と野兎が東の方に活動し、原野を以てその遊猟の場と為す。鷹隼を一見すれば慌てて奔逃し、終に山谷の口にて死す。この林は依託するところなくして強敵に擒にされるを主とし、羈旅して外にあるはとりわけ危殆なり。占う者は門を出でて安地を択ぶべく、空曠にして援なき処に久しく留まることなかれ。警に遇えば速かに退くべし。
巽 秋蛇見穴,不失其節。夫人姜氏,自齊復入。
兌の巽。秋の蛇は時を按じて洞穴に帰り、蟄蔵の時節に背かない。《春秋》の記すところ、夫人姜氏が斉より重ねて魯に返るがごとし。この林は時に依りて返り、去りて復た帰るを主とする。占う者の去りし人事に回還の機あり。出行の者は帰来を望み得べく、失物旧業もまた復得の望みあり。
渙 鳥鳴巢端,一呼三顛。搖動東西,危嵬不安。
兌の渙。鳥が巢の頂に鳴けば、一鳴きして巢は三たび晃れた。東に搖れ西に擺れ、高危険峻にして少しも安穩ならず。この林は居るところ固からず根基動揺し、巢の危枝に在るがごときを主とし、些かの風吹あれば即ち傾覆の虞あり。占う者は速かに安穩の地に遷るべく、高危の位に久しく処るべからず。
節 命夭不遂,死多為祟。妻子啼喑,早失其雄。
兌の節。寿命短促にして志愿遂げず、死者の怨気は多く作祟の患と化す。妻子が哭いて声嘶力竭し、早く一家の主を失う。この林は大凶にして夭折喪亡、家が頂梁を失うを主とする。占う者は格別に身体を珍摂し険事を回避すべく、疾に遇えば速かに良医を求むべし。拖延すべからず。
中孚 茆屋結席,祟我文德。三辰□旗,家受其福。
兌の中孚。茅で搭した屋と編結の席は、簡樸なれども我が文徳を成全す。旗には日月星の三辰の象を畫し、《左伝・桓公二年》にいわゆる「三辰旂旗、其の明を昭らかにす」なり。家門は此に因りて福沢を承く。この林は陋に居りて志は明く、文徳を以て福を受くるを主とする。占う者は貧に安んじ身を修むるに宜しく、声名自ずから顕れん。
小過 羅網一張,鳥無一翔。征伐困極,飢窮不食。
兌の小過。羅網を一張すれば鳥は一羽も飛び出す能わず。兵を用い征伐して極めて困窘に至り、飢餓窮乏にして食うべき糧なし。この林は羅網に陥り進退俱に窮することを主とし、凡そ出行・征戦・謀動の事はみな囲困せらる。占う者は兵を按じて動かざるに宜しく、先ず眼前の衣食の急を解くべし。妄動すればただ自ら羅網に投ずるのみ。
既濟 天成地安,積石為山。潤給萬里,人賴其歡。
兌の既済。上天の化育は已成り、大地は安定して揺がず、衆石を累積して高山を堆成す。水沢は潤して万里の遠きに供給し、人人はそれに仰頼して歓欣す。この林は大吉にして功業成就し、恩沢が広く被るを主とし、漸を積みて大器を成すの象なり。占う者の積める功はすでに収成の時に至れり。広く恵沢を施して衆心を固むるに宜し。
未濟 銅人鐵柱,暴露勞苦。終月卒歲,無有休止。
兌の未済。銅に鋳たる人像と鉄に鋳たる立柱は、風に吹き日に晒されて露天に立ち、終日労苦を受く。月を整え年を整えて、一刻の停歇もなし。この林は労役窮まりなく身己に由らず、堅忍なれども休息を得ざるを主とする。占う者の任ずる事は繁重にして卸し難し。力を量りて分担するに宜しく、切に血肉の躯を以て銅鉄の用に当つべからず。
渙之林(渙卦六十四林)
渙 望幸不到,文章未就。三子逐兔,犬踦不得。(未濟之兌,謙之既濟)
渙の渙。君王の臨幸を望むも終に来らず、錦繍の文章もまた成り書かれず。三人が同じく野兎を追い、猟犬はまた足を跛めて、終に捕獲する能わず。この林は期望が落空し才具が施展を得ざるを主とし、凡そ名を求め、干謁し、競逐する事は皆功が一簣に欠く。占う者はまずその内を修めその缺失を補うべく、急いで售を求むべからず。
乾 焱風阻越,車馳竭竭。棄名追亡,失其和節。憂心惙惙。(需之小過)
渙の乾。狂風が拦阻して逾越し難く、車馬は奔馳して力竭き声嘶く。名分を抛きて逃亡の人を追捕すれば、それに因りて従容の節度を失い、心に憂愁已まず。「憂心惙惙」は《詩経・召南・草虫》に出づ。この林は奔波労頓して事は願いに違うを主とする。占う者は行事過急なれば分寸を失う。轡を緩め徐行し、本分を守るに宜し。
坤 蛇得澤草,不憂危殆。
渙の坤。蛇が水沢辺の豊草を見出して蔵身する所を得れば、危険を憂うるに及ばず。この林はその処所を得て進退に拠るところあり、微弱の身と雖もまた安んじて自ら保つ能きを主とする。占う者はただ己に適う位置を見準すれば、縦え勢い単く力薄くとも、凶険に遭遇するに至らず。分に安んじ位を守るの平吉の林なり。
屯 兩犬爭鬥,股瘡無處。不成仇讎,行解卻去。
渙の屯。二匹の狗が撕咬して争闘し、腿上に咬まれて一塊の好肉なし。然れども未だ真の仇敵を結ばず、闘うこと一陣にして自ずから分かれて行く。この林は一時の争執にして怨を結ぶに至らず、皮肉の損あるといえども事後に化解し得べきを主とする。占う者の眼前の口角衝突は懐に挂るに足らず。一歩退譲すれば即ち自ら消散す。
蒙 因禍受福,喜盈其室,求事皆得。
渙の蒙。一場の禍事に因りて反って福気を得、喜慶が屋室に充満し、求むる事は様様に意の如し。この林は禍中に福を蔵し、敗に因りて成るを主とし、危を転じて安と為すの上吉の象なり。占う者の眼前の挫折は正しく転機の在るところなり。沮喪するに及ばず。勢いに順じて行えば即ち百事成るべし。
需 江有寶珠,海多大魚。亟行疾去,可以得財。(節之中孚)
渙の需。江中に宝珠を蔵し、海里に多くの大魚あり。急ぎ身を動かし速やかに前往せば、即ち財貨を得べし。この林は財は遠方に在り、速取に貴ぶを主とし、動けば即ち得る有るの占に属す。占う者は株を守り兎を待つべからず。機に当たり断じて外に出でて営謀すべし。遅くなれば宝は他人の得るところと為らん。
訟 三年生狗,以戌為母。荊夷上侵,伯姬出走。(坤之震,否之姤,需之訟,賁之復)
渙の訟。三年養いし狗は、地支の「戌」を以てその母と認む。南方の荊蠻が北に上りて侵擾し、伯姫は出奔逃亡するのみ。この林は外患と内乱と交わり作し、貴人が流離して所を失うを主とし、兵禍が人を逼りて迫って迁徙せしむるの凶あり。占う者は早く是非の地を避くべく、尤も南来の扰を防ぐべし。
師 安息康居,異國窮廬。非吾習俗,使伯憂惑。
渙の師。安息と康居は皆西域の遠国にして、あの窮荒の地の氈帳なり。風土人情は我が習俗に合わず、人の心を憂愁困惑せしむ。二国の名は《漢書・西域伝》に見ゆ。この林は遠く異域に適きて格格不入するを主とする。占う者は遠方に出行し或いは生地に調任せば、一時に適応し難し。多方に打点して、貿然として久居すべからず。
比 行觸天網,馬死車傷。身無聊賴,困窮乏糧。
渙の比。路に上りて即ち天羅地網に触犯し、馬匹は倒斃し車は損壊す。孤身として依るところなく、困頓窮乏にして糧食もまた断たれたり。この林は行において大凶にして、動けば即ち咎を得て進退拠り所を失うを主とする。占う者は兵を按じて動かざるべく、凡そ出行・遷転・興造の事は一概に推後せよ。静守すればこそ絶境を免れん。
小畜 裸裎逐狐,為人觀笑。牝雞司晨,主母亂門。(大有之咸)
渙の小畜。赤身露体にして狐狸を追えば、人に囲観取笑せらる。母鶏が公鶏に代わりて暁を報ずれば、女主人は門戸を攪乱す。《尚書・牧誓》は「牝鶏の晨、惟れ家の索なり」を以て亡家の兆と為す。この林は行止が体を失し陰陽倒置して、家中の内政修まらず外に譏議を遭うを主とする。占う者は名分を正しくし礼度を守ればこそ、能く笑柄を止めん。
履 為季求婦,家在東海。水長無船,不見所歡。(屯之蹇)
渙の履。小児子の為に妻室を求め娶らんとするに、女家は遠く東海の浜に在り。水路漫長にして渡船なく、終に心上人に見る能わず。この林は遠隔して通じ難く良縁が阻まるを主とし、凡そ議婚・求人・遠交の事は皆水土に隔たる。占う者は近きに就きて択取し、遠きを舎て近きを図るに宜し。さもなくば空しく往返を労す。
泰 男女合室,二姓同食。婚姻孔云,宜我多孫。
渙の泰。男女は一家を結び、両氏が席を同じくして共に食う。婚姻の事は説きて極めて和洽にして、正しく我が家に多く子孫を添うるに宜し。「孔云」は甚だ融洽なるの意なり。この林は婚において大吉にして、嫁娶が和順にして家道が昌盛するを主とする。占う者は親を論じ家を成すに皆宜しく、兼ねて丁を添え口を進むるの喜あり。
否 天門帝室,黃帝所直。藩屏周衛,不可得入。常安長在,終無禍患。
渙の否。天門と上帝の宮室は、黄帝が自ら当値して守護し、四面の藩籬は周密に防衛して、外人入る由なし。因りて永く安穩にして長く存し、終始禍患なし。この林は守御が厳密にして内固く揺がざるを主とする。占う者が若し進取を求むれば門径通じ難く、若し自保を求むれば万に一失なし。守勢を取るに宜しくして強攻すべからず。
同人 □金觀市,欲置騮子。猾□竊發,盜我黃寶。
渙の同人。金銭を帯びて集市に至り察看し、一匹の赤身黒鬣の騮馬を買わんと欲す。不料、狡獪の徒が暗中に手を動かし、我が黄金珍宝を偷み去る。この林は交易の中に窃を遭い騙を受け、財去り物空しきを主とする。占う者は外に出でて大宗の財物を置弁するに、扒窃と掉包とを防ぐべし。銭財は白に露すべからず。身辺の奸猾の人を慎防すべし。
大有 三思俱行,欲歸故鄉。望邑入門,拜見家親。
渙の大有。思量を反覆したる後に同じく路に上り、一心に故郷に帰らんと欲す。遙かに城邑を望見し、家門に進み入り、家中の親長を拝見す。この林は帰途が順遂にして骨肉重ねて聚まるを主とし、游子の還郷の吉なり。占う者の盼む人は帰来を望み得べく、凡そ返郷・復職・旧地重遊の事は皆遂う。
謙 娶於姜女,駕迎新婦。少妻在門,夫子悅喜。
渙の謙。姜姓の女を娶りて、車馬を駕して新婦を迎えに往く。若き妻はすでに門前に至り、夫たる者は心に歓喜満つ。斉国の姜姓は多く美女あり。《詩経》は屡々「斉姜」を以てこれを称す。この林は婚配において大吉にして、佳偶成るを得て門庭に喜有りを主とする。占う者は婚を論ずれば必ず諧い、凡そ迎うる有り納るる有れば、皆心に称い意に如し。
豫 伯仲旅行,南求大牂。孟長痛足,倩季負囊。柳下之貞,不失我邦。
渙の豫。兄弟几人が伴を結びて遠行し、南に往きて肥壯の母羊を求む。老大は脚痛くして行き難く、便ち小弟を請うて行囊を代背せしむ。柳下恵の如き貞正の操守に憑りて、終に己が邦国を失わず。この林は兄弟が相扶け、正を以て自ら守り、小挫ありと雖も根本に傷なきを主とする。占う者は手足を倚重して正を持して行えば平安なり。
隨 潔身白齒,衰老復起。多孫眾子,宜利姑舅。
渙の随。身を修潔にして歯色新たなり、衰老の人は重ねて振作す。子孫衆多にして、公婆翁姑も皆利を得て養を受く。この林は老いて弥々健やかに、家門繁茂して、老を返り童に還り後嗣興旺するの吉を主とする。占う者の身体は復元を望み得べく、家中の長輩もまた安養を得べし。寿を延し丁を添うの好占なり。
蠱 獨宿深夜,嫫母畏晝。平王逐建,荊子憂懼。
渙の蠱。深夜に独り安寝し、貌醜き嫫母は白日を見るを怕る。楚平王は讒言を聴信して太子建を駆逐し、楚国の公子たちは因りて憂惧安んぜず。事は《左伝・昭公十九年》に見ゆ。この林は自ら慚じて形穢し、骨肉が相疑いて、父子が離間し身が嫌隙に処るの憂を主とする。占う者は是非を避けるべく、他人の家事の争に巻入ることなかれ。
臨 追亡逐北,呼還幼叔。至山而得,復歸其室。(未濟之大過,需之渙)
渙の臨。逃亡を追い敗兵を追い、一路呼喚して年幼の叔弟を叫び回さんとす。山中に追い至りて終に彼を找着し、同じく家に帰り到る。この林は失して復た得、離れて復た合するを主とする。占う者の走失せる人或いは物に尋回の望みあり。凡そ追索・招還の事は成るべし。先憂後喜の占なり。
觀 鳥飛無翼,兔走折足。雖欲會同,未見其功。
渙の観。鳥は飛ばんと欲すれども翼なく、兎は走らんと欲すれどもまた脚を折断せり。縦え一心に会合して事を共にせんと欲すとも、成效を見る能わず。この林は条件備わらず、心有余りて力足らずを主とし、凡そ聚会・合伙・共謀の事は皆成就し難し。占う者は先ず本銭と能力とを具足するに宜し。さもなくば空しくその志有るのみにして労して功なし。
噬嗑 抱空握虛,鴞驚我雛,利出不成。(一作「來」。離之家人)
渙の噬嗑。懐に抱くは空にして手に握るは虚なり、何らの実物もなし。悪鳥の鴟鴞はまた来りて我が雛鳥を驚嚇し、利を得んと欲するも終に成らず。この林は一獲する無くして反って驚扰を受くるを主とする。占う者の図る事は落空し、なお外来の凶険が家小に衝撞するを提防すべし。家を守り幼を護りて、非分の想を作さざるに宜し。
賁 山作大池,陸地為海,各得其所。
渙の賁。高山は大池と化し、陸地は海洋と変る。看れば天地が翻覆するがごとく、其の実は水陸各自安んじて合宜の位置に頓く。この林は格局に巨变あると雖も万物各々その宜しきを得るを主とし、変じて正を得るの象なり。占う者の面临する環境は大いに改まらん。驚慌するに及ばず。改換の後に反って更に合適なる位置を見出ださん。
剝 為虎所齧,太山之陽。眾多從者,莫敢救藏。
渙の剝。泰山の南麓にて虎に咬傷せらる。随行の人衆多なれども、敢えて前に出でて救護し、敢えて人を蔵匿する者一もなし。この林は大凶にして強暴の害に遭いて衆叛れ援なきを主とする。占う者は猛悪の地と強横の人とを遠く避くべし。患難の際に随衆の力を指望すべからず。早く防身の計を作すに宜し。
復 逶迤四牡,思歸念母。王事靡盬,不得安處。(旅之漸)
渙の復。四匹の公馬が車を迤邐として行く。路上に家に帰るを思念し、母を挂記す。無奈、王家の差事は止境なく、終に安居を得ず。この四句はもと《詩経・小雅・四牡》に本づき、使臣が王事に労するを写す。この林は公務に身を羈され、帰るを思いながら得ざるを主とする。占う者は帰意あると雖も責任肩に在り。先ず公事を了すに宜しく、帰期自ずから有らん。
旡妄 獮猴所言,語無成全。誤我白馬,使口不至。(一作「使乾口來」)
渙の无妄。獼猴が口より出す言は、一句も周全にして信すべきものなし。それが我が白馬を耽誤し、来るべき口信は終始送り到らず。この林は軽薄の人に事を誤られ、消息断絶するを主とする。占う者の托する所は人にあらず。音信・約定は皆兌現し難し。凡そ人を遣わして話を伝え事を辦せしむるに、穏重なる者を択ぶべし。巧舌を信ずることなかれ。
大畜 飛不遠去,卑廝內侍,祿養未富。(豐之渙)
渙の大畜。能く飛ぶと雖も飛ぶこと遠からず、ただ低賤の雑役・宮中の近侍を做し、俸禄の供養は並びて豊厚ならず。この林は格局限り有りて才展を得ず、貴人に近いと雖も得る所微薄なるを主とする。占う者の眼下は位卑く禄薄し。本職を安守し実力を積蓄するに宜しく、一時に大なる進取を奢望するに及ばず。
頤 大尾細腰,重不可搖。陰權制國,平子逐昭。
渙の頤。尾巴大なりて腰身細弱にして、尾重くして搖り難し。正に尾大にして掉れざるの象なり。権柄が陰私の手に落ちて国政を挾制し、是に季平子は魯昭公を駆逐す。事は《左伝・昭公二十五年》に見ゆ。この林は末大にして本小、臣強く君弱きを主とする。占う者は属下の坐大と権柄の旁落とを防ぐべし。早く収束するに宜し。
